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ミステリの祭典

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四季 春

作家 森博嗣
出版日2003年09月
平均点6.67点
書評数6人

No.6 5点 E-BANKER
(2021/03/21 10:15登録)
真賀田四季-森博嗣作品を語るうえで、欠かすことのできない登場人物。
その彼女を主人公とした四部作。その第一章となるのが、本作。題して「春」・・・
2003年の発表。

~天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアとなった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか?~

文庫版の121頁で、四季が言い放つ台詞。
『そうなの。冗談みたいな真似をしないといけないってこと。この世の手続って、大半が冗談だと思うわ。』
・・・成程。フィクションの中の登場人物とはいえ、わずか6歳の子供にこうまで断定されるとは。
でも、言われてみればそうかもしれないなぁー。
昨今の政治家たちの答弁や、日々繰り返される過剰接待を巡る野党からの追及なんて見てると、「冗談」という表現が最も適格かもしれないと思ってしまう。

いやいや、そんなことはどうでもよかった。
本題なのだが、うん? 本題って何だ? そもそもこの作品に本題、本筋なんてものが存在するとは思えない。
個人的には、読んでて森博嗣の頭の中が恐ろしくなってきた。
矢継ぎ早に出された作品の数々、時系列すら超えた登場人物たちとその背景。こんなにまで膨らみを持つ作品世界が頭の中で構築され、それを実際に表現できるなんて・・・
単純に作者の才能に、能力に敬服するばかりだ。
vシリーズの最終作「赤緑黒白」で、思いもよらなかった作品世界のつながりが見えてきた刹那。もはや、本作はトリックがどうとか、密室がどうとかいうレベルで断じてはいけないのかもしれない。

真賀田四季をめぐる物語は始まったばかり。そして、今後どのように「すべてがF」に繋がっていくのか・・・
(本作を一作ごとの登録にしていただいて誠にありがとうございます)

No.5 7点 Tetchy
(2021/02/14 00:47登録)
真賀田四季。
森氏のデビュー作から登場し、常に森ワールドにおいて絶対的な天才として語られる女性。
本書はそんな謎めいた彼女の生い立ちをその名前四季に擬えて春夏秋冬の4作で語ったシリーズの第1作目に当たる。そしてこのシリーズはS&MシリーズとVシリーズに隠されたミッシングリンクを解き明かす重要なシリーズだとも云われている。

従って真賀田四季がまだ子供の頃からの話が綴られている。

しかし真賀田四季の生い立ちを描いた作品でありながら、一応事件は起きる。新藤病院内で発生する密室殺人だ。

その事件は解決されないままで終わることが記されている。但し四季は犯人である浅埜にある日そのことを知っていると告げ、浅埜はその後アフリカへ渡る。
つまり彼女にとって、いや作者にとって殺人事件は単に四季の性格を彩る一エピソードとして書いたに過ぎないのだろう。

そしてVシリーズの各務亜樹良と瀬在丸紅子も登場する。

四季の頭脳はまさしくコンピュータのCPUそのものなのだ。従って彼女は周りから自分の考えていることを文字にしてノートに書き留めておく、もしくは声に出して録音しておくことを周囲に勧められるが、そんなことでは追いつかないとして一蹴する。
それはそうだろう。パソコンの演算画面で一気に数十行のプログラムが書き出される様はそのまま四季の頭の中を示しているのだから。

従ってコンピュータの発明によって四季はようやく自分の処理能力と同等の速さを誇る機械が得られたことに喜ぶ。
そういう意味では真賀田四季は恵まれた天才だったのかもしれない。遠い昔にもしかしたら真賀田四季と同じような頭脳を持った天才がいてコンピュータがないことで自分が解き明かしたい命題を1/10程度、いやもしくはそれ以下の成果しか挙げられてなかった偉人もいたかもしれないのだから。

真賀田四季という不世出の天才が登場したのは本書刊行までではS&Mシリーズの『すべてがFになる』と『有限と微小のパン』のみ。後はVシリーズの『赤緑黒白』にカメオ出演した程度だが、それは四季としてではなかった。正直たったこれだけの作品の出演では真賀田四季の天才性については断片的にしか描かれず、私の中ではさも天才であるかのように描かれているという認識でしかなかった。
しかしこの4部作で森氏が彼女の本当の天才性を描くことをテーマにしたことで彼女が真の天才であることが徐々に解ってきた。

そうはいっても3歳で辞書を読み、数カ月で英語とドイツ語を完全にマスタし、5歳で大学の学術書を読み耽り、6歳で物を作り出すといったエピソードで彼女が天才であると思ったわけではない。
そんなものは言葉であるからどうとでも書けるのだ。
例えば仏陀なんかは生まれてすぐに7歩歩いて右手で天を差し、左手で地を差して「天上天下唯我独尊」と叫んだと云われているから、こちらの方がよほど天才だ。
つまりこれもまた仏陀が天才であったと誇張するエピソードに過ぎなく、これもまた想像力を働かせばどうとでも強調できるのだ。

では真賀田四季が天才であると感じるのはやはり彼女の思考のミステリアスな部分とそれから想起させられる頭の回転の速さを見事に森氏が描いているからだ。
常に感情を乱さず、もう1人の人格を他者に会話させながら、書物を読み、そして相手もしたりするところやそれらの台詞が示す洞察力の深さなどが彼女を天才であると認識させる。
最も驚いたのは最後の方で実の兄真賀田其志雄が自殺しているのを見て、兄の代わりになる才能を明日中にリストアップしましょうと各務亜樹良に提案する冷静さだ。
事態を把握した時には既にその数時間先、いや数日も数週間も、数年先も思考は及んでいるのだ。
こういったことを書ける森氏の発想が凄いのである。

天才を書けるのは天才を真に知る者とすれば、森氏の周りにそのような天才がいるのか、もしくは森氏自身が天才なのか。これまでの森作品と今に至ってなお新作で森ファンを驚喜させるの壮大な構想力を考えるとやはり後者であると思わざるにはいられない。

最後、四季は外の空気の冷たさを感じ、まだ蕾も付けていない桜の木を見ながら春を思って物語が閉じられる。つまりそれは常に内側に興味と思考を向けていた四季が外に向けて感覚を開かせ、自分以外のものに思考を巡らせたのだ。

春は出逢いと別れの季節である。
真賀田四季は2人の其志雄と別れ、そして瀬在丸紅子と西之園萌絵と出逢った。いやそれ以外の人物ともまた。
続く季節は夏。夏はどんな季節であろうか。それを真賀田四季は気付かせてくれるに違いない。

No.4 6点 メルカトル
(2020/12/21 22:26登録)
  四季  <春>

天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアになった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか。圧倒的人気の四部作、第一弾。
『BOOK』データベースより。

何と言ってもこの作品は各読者の感性に合うかどうかで評価が変わってくるものと思われます。一応ストーリーらしきものはあるし、密室殺人事件も起こります。しかし、それらは二次的な副産物に過ぎず、あくまで本質は真賀田四季の天才ぶりを如何に我々凡人に理解させるかに重点を置いているものと思います。まあしかし天才にも様々なタイプがあるでしょう、四季の場合は人格を非人格として捉える、というか、極論すれば人間としてのあらゆる感情を取り除いて、残った知性のみに支えられた非人間性の極致ではないかと思うのです。だからと言って感情がない訳ではなく、表面的には非情な血も涙もない人間にしか見えませんが、勿論そんな事はありません。ですが、読み手には四季の人間性が伝わってきません。まるで精密機械のようで。

その代わりに「僕」の存在がある訳ですね、言ってみれば。あまりに天才的過ぎて副作用としての「僕」のありよう。それで中和しているのではないかと。
まあ私ごときがあれこれ書いても何も伝わらないし、瀬在丸紅子や西之園教授との邂逅を含めて楽しめばそれで十分じゃないでしょうかね。

No.3 5点 まさむね
(2016/09/29 20:21登録)
 幼少期の真賀田四季が描かれております。タイトルからして想像がつきますが、四季押しがスゴイ。こんな5歳児いるか?…等々、もはやSFと分類したいくらいで、個人的には結構引き気味でしたね。ミステリとしての味付けはあるけれども、S&Mシリーズ及びVシリーズの読者限定の作品と言ってもいいんじゃないかな。作者の作品世界への嗜好度によって、評価は大きく変わりそうです。

No.2 8点 なりね
(2004/01/15 23:38登録)
四季 〜春〜
結構良いです。いや真賀田博士好きとしては、待ってました!的作品。
今夏を少し読んだけどあっちの方が懐かしい人物が多くて面白そう。

No.1 9点 なな さんいち
(2003/10/27 20:48登録)
<四季 春>

この作品は、単独でも秀逸だが、前2シリーズのシンクロ面でも楽しめる。
夏・秋・冬。いかに季節が変わっていくか、とても楽しみなところ。

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