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ミステリの祭典

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ワトソン力

作家 大山誠一郎
出版日2020年09月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 6点 パメル
(2022/11/23 07:29登録)
和戸宋志は、捜査一課第二強行犯捜査第三係に所属しながら、同僚の推理に力を貸し、いまや第三係は検挙率十割に達するまでになった。
自らは推理しない主人公と突如として推理を開陳する関係者たちというおかしな様相は、いわゆるシットコムの面白さに満ちている。もちろん表層的な楽しさだけで終わるはずもなく、その場にいる全員が我先にと喋りだす推理は、結果的に多重解決の趣向に繋がる。ダイイングメッセージ、暗闇の中での殺人、毒殺ものから足跡のない雪密室などの真相解明場面では、多彩なトリックメーカーの才を存分に見せつける。探偵役がなぜ推理力に優れているのかという背景を描く必要がないため、現場に容疑者が揃い簡単なプロフィールがされた途端に事件が起き、間髪入れず推理が始まるという無駄のない構成。
白眉は「探偵台本」。解決場面のない脚本をもとにした出演者たちによる犯人当ては、誰もが花形である犯人になりたいので自分を犯人にしようと推理するさまが、逆説的な愉悦を生み出していく。
トリックや構図の反転、遊び心を十全に発揮した技巧に、連作の枠として機能するフーダニットなど魅力にあふれている作品集。

No.3 5点 HORNET
(2021/02/14 17:56登録)
警視庁捜査一課の刑事・和戸は、自分ではなく自分の周りにいる者の推理力を上げる「ワトソン力」という特殊な能力を持っている。なぜかプライベートでたびたび事件に遭遇する和戸だが、いつも周囲の人々(容疑者含む)の推理合戦となり、真相にたどり着く―
 という設定に立ったうえでの連作短編集。一風変わった設定だが、その「ワトソン力」という設定が特に謎や真相に関わってくることはなく、中身はいたって普通のロジカル謎解きである。謎解きのためのロジックありきのような犯人の行為は「推理クイズ」のようにも感じられるところもあるが、それは作者の特徴。荒唐無稽と感じないこともないが、推理クイズ気分で読めばよいかと思う。

No.2 6点 まさむね
(2021/01/19 21:13登録)
 周りにいる者の推理力を高める「ワトソン力」。人知れずこの能力を持つ、警視庁捜査一課の刑事が主人公。自分の推理力が高まる訳ではないことが、ちょっと切ないけれども、その「縁の下感」が何気にほほえましい。
 7つの短編と、全体に跨がる1短編で構成されています。各短編とも小粒ではあるのですが、ニヤリとさせられたネタもあったし、「ワトソン力」の効果による推理劇も結構楽しかったですね。気軽に読めるのも良かったかな。
 ちなみに、短編の執筆に当たっては、非常に使い勝手のよい設定だと思うのですが、続編はないのかな?逆にマンネリ化して難しいのかな?

No.1 5点 E-BANKER
(2020/11/18 15:35登録)
~目立った手柄もないのになぜか警視庁捜査第一課に所属する和戸栄志。行く先々で起きる難事件はいつも居合わせた人々が真相を解き明かす。それは和戸が謎に直面すると、そばにいる人間の推理力を飛躍的に向上させる特殊能力「ワトソン力」のお陰だった!~
ということで連作短編集。2020年発表。

①「赤い十字架」=いわゆるダイイングメッセージものだが、安易な解法なのはやむを得ないかな・・・十字架とアレを間違うかな?
②「暗黒室の殺人」=地面の陥没で停電なんて、最近の事件(調布のやつ)を思い出してしまった。まぁ死んだのは偶然というのはいいとしても、ちょっと強引かな。
③「求婚者と毒殺者」=これも・・・安易な解法なのは間違いない。こんなCCでやらなくても・・・
④「雪の日の魔術」=「雪」といえばいわゆる”雪密室”ということなのだが、これはちょっと現場が分かりにくい。「魔術」というのは明らかに言い過ぎ。
⑤「雲の上の死」=航空機の中で起こる殺人事件といえば、A.クリスティの某名作が思い浮かぶけど、これはかなりブッ飛んだ解法。というか普通やらないだろう、こんなこと。
⑥「探偵台本」=残された焼け跡の残るミステリー劇の台本をめぐり、役者たちが推理合戦を行う・・・どこかで見たようなプロットだな。軽くても面白さはある。
⑦「不運な犯人」=航空機ではなく今度は長距離バスが舞台。しかもバスジャックが起きた車中で起こる殺人事件。で、何が不運かということが鍵。

以上7編。
単なる短編集ではなく、和戸が①~⑦の事件関係者の誰かに監禁されてしまうという謎も加わる。(こちらは大したことはない添え物のようなものだが)
で、本作もいわゆる特殊設定もの。
よくもまぁ、こんな特殊設定考えるよなぁ・・・ でも割と面白くはあった。
短編の1つ1つは実に大したことはないのだが、読み物としては上手い具合にまとまってはある。(地上波のドラマでやりそうな感じ)
作者が器用なのは分かったので、次はもう少し骨太な本格長編を期待したいところ。
続編もあるかな・・・

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