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ミステリの祭典

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間宵の母

作家 歌野晶午
出版日2019年11月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 6点 パメル
(2022/12/28 08:01登録)
間宵紗江子の養父である夢之丞は、端正なルックスとやわらかな物腰、さらにお菓子作りやクレーンゲームが得意で、子供たちだけでなく母親や教師たちにも大人気。また、紗江子のクラスメイトを前に彼が披露する物語は現実のものとなり少女たちを楽しませる魔法使いだ。しかし彼は、紗江子の親友である詩穂の母親と時期を同じくして失踪してしまう。それを機に紗江子の母は精神の均衡を失ったような行動を繰り返し、詩穂の父は我が子を虐待するようになる。ここまでが四部構成の第一部に当たる部分。紗江子と詩穂は成長し、それぞれの人生を歩んでいくが、幼き頃の事件が常に影を落とすのである。
不倫、駆け落ちの定型を激しく歪める要素が散りばめられているのが大きな特徴で、話の序盤で読み手の気を引く養父の操る魔法はその最たるもので、その後も得体の知れない現象の数々が物語を怪しく彩っていく。ホラー展開で幻想めいた事象のなかに巧妙に伏線が埋め込まれた本格ミステリとしての謎解きの魅力もあるが、解明の先に見える世界は決して明るくない。一筋縄ではいかない、作者独特の後味の悪い世界観が強烈に刻印された、狂気が渦巻く物語を堪能できる。イヤミスが苦手な人にはお薦めできないが。

No.3 6点 まさむね
(2021/11/26 21:23登録)
 何の事前情報もなく手にしたのですが、いやはや、何とも言えない後味を残す作品でした。心が疲れている時に読まなくてよかった。
 連作短編の最終話における伏線回収(と言っていいのか?)は、ストーリー的に複雑な心境になりながらも、なるほどと思わせられた部分もありましたね。
 しかし、全体的には、作者が時折繰り出す、ブラック歌野色に染まっています。人を選ぶ作品ですね。

No.2 8点 虫暮部
(2020/03/06 10:45登録)
 いやぁびっくりした。思い返せば同じ作者の旧作に似たような構造のものがあるけれど、見せ方によってちゃんと違った読み味に仕上がっているので、私はその点肯定的だ。Dの使い方があまりにオールマイティに過ぎるか? まぁあくまで補助的な小道具だからね……。

No.1 5点 人並由真
(2020/01/11 12:43登録)
(ネタバレなし)
 小学生・西崎詩穗が三年生の時に転校してきた同学年の少女・間宵紗江子。いつしか二人は親友となった。紗江子の義父でイケメンの青年「ユメドノ」こと夢之丞は、お話を語る(ストーリーテリングの)話術で類い希なる魅力を発揮し、娘の級友たちの人気者である。だがその夢之丞がある日、失踪。詩穗の母の早苗と不倫の末に、駆け落ちしたようだった。詩穗の父・宣史は絶望するが、それ以上に狂乱したのは、紗江子の母・己代子だった。次第に常軌を逸していく己代子。そしてこの暗い影は、二人の少女の人生をも大きく歪ませていく。

 二つの家庭(とその血筋)の異常な軌跡が、四本の連作短編をまとめた形の長編で語られる。最初の章が事態の基盤となる事件。次が紗江子の大学時代の、三つ目がOL時代の、そして最後が……という構成。
 最終的にかなりぶっとんだ方向に行っちゃう作品で、終盤の奇想も面白いといえば面白いが、この30年以上の東西のエンターテインメントの中に似たようなネタのものもあった気もする。だから、あまり新鮮味はない。ジャンルとしてどこに着地するかは、ネタバレになるので言わないでおく。とりあえずカテゴライズ分類は、版元の謳い文句の通りにホラーで。
(「デビュー30周年、著者最恐のホラー・ミステリー!」だそうである。 )

 総体としては、不愉快で後味の悪い(広義の)イヤミス。ただいっきに読ませる力はあるので、最後まで読んでそのどぎつさ、破格さがある種の快感に変われば、楽しめるとは思う。評者はぎりぎり、何とかその域に達した……かな。

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