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ミステリの祭典

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魔の淵
賭博師 ローガン・キンケイド

作家 ヘイク・タルボット
出版日2001年04月
平均点6.83点
書評数6人

No.6 6点 人並由真
(2021/01/01 15:12登録)
(ネタバレなし)
 北アメリカのハドソン湾周辺の山林部。伐採場が減衰してきた材木業者フランク・オグデンは、自分の妻アイリーンが所有する山林に目をつける。だがそこはアイリーンの先夫グリモー・デザナが、あと20年は伐採しないことを条件に妻に遺贈した土地だった。オグデンは霊媒師でもあるアイリーンに頼んでデザナの霊を呼び出し、伐採の承認を得ようと考えて、雪の山荘で降霊会を開く。だが予想もしなかったことに、実体を持った死霊が出現!? さらに山荘の周辺では人間技とは思えない怪異が相次ぐ。やがて不可解な状況の中で殺人が。

 1944年のアメリカ作品。
 ポケミス版でようやくこのたび読了。
 ジジイの評者は、本作の高い評価が初めて日本に聞こえた80年代の初頭からミステリファンの末席にいたし、その直後に本作を分載連載した時期のミステリマガジンも購読していたが、HMM版で読むのはスルー。
 理由は以前にも書いたかもしれないが、実は当時80年代のミステリマガジンの翻訳分載(の一部?)は、のちの書籍刊行版の価値を残すために一部抄訳であり(たとえばウィリアム・H・ハラハンの『亡命詩人、雨に消ゆ』なんか、食通の主人公の食い道楽の描写という、大筋には関係ないが小説の旨みともいえる部分をミステリマガジン分載時にはカット)、読み手視点からすれば「なんだかなあ……」という思いを抱くような企画だったため。
 だからそのことに気づいてから、この『魔の淵』を含めてHMMの長編分載企画はほとんど読んでない。まあ商売人としてのハヤカワの思惑は分かるが、いまこれをやってバレたら、Twitterで炎上だろうな。さらには抄訳版でしか読んでない読者と、きちんと完訳で読んだファンとのミステリマニア格差も生じるだろうし。
(まあそういっても、当時のHMMの長編分載でいまだ本になってない一部の作品なんかは、結局はそのうちソコで読まなきゃならないんだけど)。

 でまあ、ポケミスは21世紀の初めに刊行。評者はそれからずっとあとにどっかのブックオフで消費税5%時代に105円で買っておいたのを、このたびようやっと読んだ。ゲラゲラ、長い道のり。

 で、ミステリとしての中味ですが、そんな肝要の部分にスナオに期待していたからこそ大晦日~元旦の第一冊めとして読んだワケだけど、うーん……。
 亡霊の出現、人間の手が届かないはずの場から移動される凶器の謎、数回におよぶ足跡の謎、と、インディアンのインディゴ(作中ではウィンディゴ)伝説を背景にした怪奇描写と不可能興味の波状攻撃は正にウハウハ(笑・嬉)だが、中盤3分の2まででほぼ高値止まりに盛り上がった分、個々の怪事についての解決のしょぼさがツライ。
 まあそりゃそうなるよな、というものが大半だが、単に合理的な(一応は)説明をつけられても、先立つワクワク感に見合うトキメキもサプライズもないし。

 解説で貫井先生がおっしゃる、作品全体のある種の独特な構築はちょっと面白いと思うけれど、このポケミスが出てその解説が書かれたのがほぼ20年前だもんね。その後、国内の新本格ジャンルとかなどで(この作品『魔の淵』を意識したのかどうかはしらないが)、さらにその着想の先を行ったものが出てしまっているような……。まあそれでも、<その構想>自体は、本作のひとつの普遍的な評価ポイントではありましょうが。
 
 たぶん「カーではなくロースン(ローソン)だよ」というのが、一番わかりやすい観測かな。ロースンの長編をまだ一つしか読んでない自分がそんなこと言うのも不遜だけど、感覚的になんかしっくり来る。

 ちなみに、これシリーズものだったのね。まあ探偵役のキャラはこの作品を読むかぎり、役割をこなすだけで魅力のない人物でしかなかったけれど。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2015/03/16 19:45登録)
怪奇現象、雪の足跡、密室等、カー氏の影響を受けたというより、対抗意識の方が強い作品と感じました。一つは、怪奇現象はすべてトリックであると言う人物を登場させ、物語全体の怪奇趣味を否定していることです。怪奇現象のトリックが面白いかどうかは別として、この人物の登場は好感度アップでした。もう一つは、物語の終り方ですが、「火刑法廷」をかなり意識しているのでは?ということです。本作品もかなりミステリーの常道を外した結末であると思います。プロットのアイデア(解説ではタルボット氏の発明と表現されています)は買いますが、全体(主人公)がややぼやけてしまった感じで、非常にもったいないと思いました。

No.4 7点 ボナンザ
(2014/11/21 17:20登録)
一発勝負のトリックではなく、小技を積み重ねて一つの魔術を構成する名作。
三つの棺に匹敵するかはともかく、必読の一冊であることに変わりはない。

No.3 7点 mini
(2012/01/19 09:56登録)
* 雪の季節だからね(^_^;) *

雪と言えば数年前に読んだこの作品を忘れてた
「魔の淵」は足跡とかみたいに雪が特別に謎に関わってくるわけじゃないが、雪が雰囲気の盛り上げに貢献している点では外す事は出来ない
当サイト以外の他サイトでの評判はあまり芳しくないようで、その理由は不可能犯罪系中心の読者が求める方向性とあまり合わないからだろうと思われる
しかし私は割と好きな作品なんである

当サイトで空さんも御指摘の様に密室が重要な要素ではないし、そもそも”雪の山荘テーマ”ですらない
いや、もちろん舞台は雪の山荘ではある
しかしその山荘に閉じ込められたサスペンスが主眼ではないのだ
外部とは雪原を歩いて行き来出来るし、実際に登場人物達はもう1箇所の小屋まで往復したりしている
こういう点がクローズドサークル・マニアには期待外れなんだろうけどね
”雪の山荘テーマ”と言うより屋外空間ものに近いので、この点に於いてクローズドサークル嫌いな私には合っているのだ

プロットがごちゃついてるのが難だが、そのごちゃごちゃした展開がまた持ち味でもある
「魔の淵」はトリックがどうのロジック云々ではなくて、ずばり言って雰囲気を愉しむ性格の話だと思う
例えばMr.マリックやセロの超魔術を見て、あれはどんな仕掛けなんだと推論を巡らせる事はよくあるだろう
しかし数人の助手が同舞台に存在する引田天功のイリュージョンを見て、いちいち仕掛けを見抜こうとするだろうか?
天功のイリュージョンは奇術ではあるがショーの一種でもあり、見て雰囲気を楽しめればそれでいいのだろう
「魔の淵」もそんな作品で、伏線の回収がどうだトリックがどうだとか重箱の隅を突くような読み方をしても意味のない作品という気がしてしまうのだよな

No.2 7点
(2011/08/04 21:27登録)
本作がカーの『三つの棺』に続いて第2位にランクされたという、ホックの『密室大集合』まえがきは読んでいないのですが、本書あとがきによると「不可能犯罪ものの長編のベスト」となっていて、「密室」とは限ってないんですよね。読んでいて確かにオカルト雰囲気たっぷりの不可能犯罪ものではあるのですが、これのどこが密室なんだと思っていたので、なるほどと納得。勝手に幻の密室傑作などと宣伝しないでもらいたいものです。
いや、途中で密室に閉じ込めたはずの人物の消失という謎も出てはくるのですが、これは窓の釘について矛盾がありますし、本作の最大の不可能興味は、なんといっても空中浮遊です。何度も、本当に人間が飛翔したとしか思えない現象が繰り返されます。
トリックが肩すかしだという意見も多いようですが、それはあまり気になりませんでした。それよりも、最終章での謎解きがもたついているのが不満です。事件の全体的構造は、あとがきにも書かれているとおりうまくできているので、推理さえもっと手際よく、伏線を先に揚げておいてその意味を劇的に解き明かすとか、説明の順番を工夫していれば、読後のすっきり感はかなり変わっていたのにと思います。

No.1 8点 あい
(2008/03/06 23:12登録)
面白かった。不可能犯罪のオンパレードで解決もまぁ納得が行った。トリックよりもアイディアが面白い ただ設定が複雑で読みにくいという点はマイナスポイントか...

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