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ミステリの祭典

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魔術王事件
二階堂蘭子シリーズ

作家 二階堂黎人
出版日2004年10月
平均点5.20点
書評数5人

No.5 7点 レッドキング
(2022/09/06 21:08登録)
二階堂蘭子シリーズ第七弾。 これも不可能トリックひとつにつき、3点満点加点法で・・  
    対面部屋消失トリックに、1点。
    楽屋密室トリックに、2.5点。
    石室トリックAに、2.5点(勉強になりました)
    石室トリックBに、-1点(この手の幾何学、ツマンねぇ)
    病院密室トリックに、3点満点(模範的やね)
    雪足跡ネタに、0点。
    少年消失トリック、3点満点だが・・せっかくのGood idea、効果が全く機能せず-2(>_<)で、1点。
    宝石すり替えトリックに、0点、で、合計、9点。
トリックが多彩・賑やかで実に楽しい。が、どれも効果が薄い。散らし過ぎなのかな。 ので、-2点、結局、7点。
不可能トリックは、ストーリーをその内にネジ入れてしまう程の、強烈な渦巻きであってほしく。特に、少年屍体の消失トリック、「妖魔の森の家」+「チェスタトン」の複合技でナイスなのに、話に活かせず、不思議効果0に近く、残念。

No.4 6点 nukkam
(2014/10/23 10:01登録)
(ネタバレなしです) 2004年発表の二階堂蘭子シリーズ第7作です。講談社文庫版で上下巻合わせて1100ページという大ボリュームの中に謎とスリルを目一杯詰め込んだような本格派推理小説です。物語の4分の3まではスリラー色が濃く、うんざりするほどの事件と犠牲者(名前も紹介されずに死んでいく者もいます)、そして江戸川乱歩もかくやと言わんばかりのグロテスク描写の数々。謎解き伏線も忍ばせてはあるのですが、圧倒された読者は推理に集中するのも難しいです。グロッキー気味となったところで蘭子による長大な謎解き説明があってようやく本格派の世界に戻れました。納骨堂や西洋館のトリックはトリックメーカーとしての健在ぶりをアピールしています。

No.3 5点 TON2
(2012/12/19 20:22登録)
講談社NOVELS
 昭和40年代なかばを舞台とする二階堂蘭子シリーズ。
 劇場型犯罪で、犯罪目的そのものよりも、世間への周知が優先しているのはないかと思いました。自分の手下であろうと恋人(?)であろうと、必要がなくなれば容赦なく殺します。
 乱歩の極彩色の世界と、ルパンの自意識過剰の世界を足して2で割ったような作品です。

No.2 3点 おっさん
(2012/04/08 14:11登録)
「一般の読者の皆さんは、この『魔術王事件』で、世紀の大殺人鬼≪魔術王≫と名探偵二階堂蘭子の、頭脳と頭脳の丁々発止の闘いを楽しんでください。
 マニアな読者の皆さんには、ディケンズの絶筆となった『エドウィン・ドルードの謎』の、驚くべき真相をプレゼントします」
    講談社ノベルス版(2004)カバー袖の、作者の言葉より

シリーズ犯人ラビリンスとの決着篇らしい『覇王の死 二階堂蘭子の帰還』の刊行を機に、『双面獣事件』と組をなす、長編3部作の皮切りたる(プロローグがわりの中編集としては『悪魔のラビリンス』もあり)本書を読み返してみました。

作者同様、少年時代に江戸川乱歩の(いわゆる“通俗長編”の)洗礼を受けた身としては・・・気持ちはわかるんですよねえ。
本格ミステリが論理による謎解きに特化していくと、どうしても小粒になり、小説として貧血気味になる。打開策として冒険・活劇を盛り込む器として、あの怪人対名探偵の世界観を利用したい、というのは。
進化した本格の技法であれをリメイクしてみたい、という意欲も、あるいは二階堂さんにあったかもしれない。
しかし、実際に出来上がったものは・・・おおどかさに欠け、チープでえげつない(映画でいえば、名匠ヒッチコックと、初期のブライアン・デ・パルマの対比)物量的大作という印象ですね。

初読時からしてそうだったのですが、雄大な構想(は島田荘司ばり)のわりに、読んでいて全然ワクワクドキドキしないのですよ。
名探偵をストーリーの展開部から外すことで解決を引き延ばす、かの『バスカヴィル家の犬』以来のテクニックも、この路線では裏目に出て、長さばかりが意識される結果になっています。

また、トリックのためのトリックを、例によって直列式につないでいくわけですが、今回は個々のパーツの底割れ感と、どうでもいいや感(どうせ手品ダネでしょ)が半端ではありません。
唯一、雪に閉ざされた廃屋から少年が消失するエピソード、そのアイデアがギラリと怪しく光っていますが・・・いくら蘭子に「――のやりたい放題でした」と言われても、根本のところに現実感がないからなあ。
根本のところ・・・つまり、犯人が○○○○○と入れ替わり、そのまま××の△△△として生活を始める、という設定がきつすぎます。
そしてそこに説得力がないと、そのうえにいくら手の込んだプロットを構築しても、すべては崩れ落ちてしまうのですよ。

さて。
エピローグで蘭子は、『エドウィン・ドルードの謎』の「画期的かつ絶対的な真相」を提示して見せます。
それが単なるオマケでなく、本篇のストーリーと連動している点は評価できます。
そしてまた、明かされる意外な犯人と異様な犯行動機のアイデア自体は、まことに興味深く、ホームズは女だった式の戯論としてなら、大いに楽しめます。
しかし残念ながら、「真相」としての説得力はゼロ。
伝聞証拠を排し、テクストのみを問題にする蘭子(作者)の姿勢は良しとしても、当のテクストの読解に、誤読ないし曲解があるのはいただけません。
蘭子(作者)は「物語の中に、一度も○○○の婚約者が出てこない」ことを問題にしていますが、そんなものが出てくる必要が無いことは、きちんと『エドウィン・ドルード』(の第十三章)を読んだ者には自明ではないでしょうか? “破局”の原因は、決して×××××に恋人が出来たせいではないのですから。
つまり、蘭子のいう、動機自体が成立しません。

もっとも。
『魔術王事件』の、事件発生年は、昭和四十五年。
実際に『エドウィン・ドルードの謎』が初訳されたのは、昭和五十二年(講談社『世界文学全集29』)。創元推理文庫への編入は昭和六十三年。
このことから考えられるのは――

①蘭子たちは、原書で未訳の『ドルード』を読み、残念ながら語学力の問題から、こぞって同書のストーリーを誤解してしまった。

②裏設定として、『ドルード』には公式記録にない私家版の翻訳があり(≪殺人芸術会≫のメンバーが訳した?)じつはその訳文がインチキで、蘭子たちはこぞって同書のストーリーを誤解してしまった。

いずれにしてもw 本篇のストーリーともども空中楼閣です。
『魔術王事件』という楼閣の“威容”(おおどかさに欠けチープでえげつなくはあってもw)、その幻に、どこかで心惹かれる自分がいるのは、否定しませんがね。酷評しながら、ここまでコメントしているあたりでお察しくださいw

No.1 5点 E-BANKER
(2009/08/15 22:42登録)
二階堂蘭子シリーズ。
怪作(?)「双面獣事件」と同時進行という設定で、日本の南北に分かれた両事件を股にかけて蘭子が大活躍?します。
~時は昭和40年代。所は北海道・函館。呪われた家宝として、名家宝生家に伝わる"炎の眼”"白い牙”"黒の心”。この妖美な宝石の略奪を目論み、宝生家の人間たちを執拗なまでに恐怖へと引き擦り込む、世紀の大犯罪者「魔術王」。密室殺人、死体消失、大量猟奇殺人。名探偵二階堂蘭子が、冷静沈着かつ
美的な推理で偽りの黄金仮面に隠された真犯人に挑む~
いやはや、まさに「乱歩&二十面相」作品へのオマージュ全開です。
「ロジックよりもトリック」と公言して憚らない作者ですから、現実性云々は脇にどけても、古きよき、おまけにザワザワした恐怖感を煽るようなグロい殺人事件のオンパレード・・・並みの読者では面食らってしまうこと請け合いです。
ただねぇ・・・これまでの蘭子シリーズはここまでヒドくなかったですし、曲がりなりにも読者に「アッと」いわせるプロット&ロジックがあったはず・・・
前作「恐怖のラビリンス」から続く、名探偵対怪人という構図は、フーダニットという本格ミステリー最大のプロットを犠牲にしているわけですから、作者の意図するところがちょっと理解できないですねぇ。(まぁ共犯者探しというフーダニットは味わえますが)
とにかく、蘭子シリーズがおかしくなった作品という位置づけで間違いなし。
(全10作と公言していた「蘭子シリーズ」ですが、果たして今後どのようなクロージングが用意されているのか? 期待と不安が半々。)

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