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ミステリの祭典

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裂けて海峡

作家 志水辰夫
出版日1983年01月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 6点 斎藤警部
(2024/07/19 21:54登録)
バカな奴・・ (-。-)y-゜゜゜ (;_;)/~~~

“街行く人がすべて友人に見えてくるのはきっとこんなときだ。”
 
風景描写にまで読ませるスリルと情緒があって良い。これは退屈しない。 鹿児島は大隅海峡にて消息を絶った(?)小型商船の船長は主人公の弟。 ささやかなる海運会社の社長である兄は、やくざ者との愚かなトラブルが元で、件の事故(?)が起きた頃には刑務所の中にいた。 出所後の主人公は遺族弔問の旅に出る。 昔馴染みだが訳ありの女がつきまとう。 もっと訳ありらしき厄介そうな男二人もつきまとう。 もっともっと厄介な事件が起きるのもすぐ先だ。

“死ぬことも許さない。わたしというおまえはもはやおまえでもない。”

しかしだな、渋いタイトルに男臭いストーリー展開の割には、主人公がなんともヒーローっぽくねえ・・・ 彼を中心にスットコでもっさり感ただようドタバタ(と言うかアタフタ)ユーモアが遍在し、微妙な間抜け味がクスクス笑いを誘う。 為すこと思うことが妙に大げさだったりセコかったり。。 アホっぽい楽天性、時に見上げた諦観、時に可笑しなこだわり。 年長者への暖かき共感、妙に余裕ある幸せ発見の技も見せる。 経験値が頼れるんだかどうなんだか。 終盤に至り、ユーモア材料の隠し球まで暴露してくれたのにはあきれたやら笑うやら。 にわかに安らいで、すぐまた絶体絶命って、いったい何度繰り返したら学ぶってんですか、こいつは。 不意にそのうち最後のチャンス/ピンチが来ても知らんぞ・・

「朝風呂に入ってビールというのも悪かないな」
「電話代をけちったんだよ。九時からは深夜料金で安くなるだろうが」

一旦仮想敵、警戒相手、ライヴァル、バカ友、メンター候補、いやいや惚れてまうやろ、そんな助演役の登場、最高ですね。
あれ? 話のど真ん中ちょい前でいきなりドドンと大ネタバラシ??  これはつまり、何かの狼煙が上がってまだまだこれからって事なのか。

“自分が殺せない敵は生かしておくことだ。本当に殺せる力がある者のために殺す機会を残しておいてやれ。”

スルメだのトマトだのハマチだの、いいねえ。 フランダースの犬みたいな台詞のシーンには笑ったな。 マー◯◯の有名箴言をヒネったようでヒネりそこなったヌルいおマヌケ台詞には公共の場で本気で鼻から噴き出した。 まあ無駄に(?)ユーモアまみれなのは少なからずサスペンスを殺ぎスリルを湿らせ、バランスを乱しているとは思う。しかしそんな内なる敵にも結局は斃されない、図太い面白さが本作にはある。 どれだけハッピーエンド寄りになるのか、ならないのか、予測が付かない展開も美点と言える。 思えば「切り捨て」が少数の人間で済んでいる事こそ、なんたる幸せか。

大いに心を引っ張ったのが、ラス前に大見得を切ったよな『追想独白』。 実際これこそが反転結末の重心だったと言えよう。

「それほどの覚悟ができるなら、もっと早くあきらめるべきだったのだ」

No.4 6点 zuso
(2022/08/29 22:39登録)
作者ならではの感傷や抒情といった面はもちろんのこと、日本の小説ではあまりお目にかからない上質なユーモアが作品に散りばめられており、キャラクター造型や見事な文章と相まって、痛快かつ感動的な物語を創り出している。

No.3 5点 クリスティ再読
(2020/10/11 22:21登録)
ヤクザとのトラブルで刑務所に入ったカタギの主人公が出所してみると、自分の海運会社の唯一の持ち船が大隅海峡で沈没し、弟と苦労を共にした仲間は絶望視されていた。鎮魂のために沈没地点の間近の内之浦町中浦に赴いた主人公は、そこで沈没事件が事故ではなくて、何者かに撃沈されたのではないか、という疑惑を抱く...落とし前を付けるために主人公を追ってきたヤクザと、掴んだ手掛かりの証人を消していく謎の組織の両方に追われる主人公の逃避行の末は?

というようなバイオレンスの話。ヤクザと謎の組織は両方ともプロで、アマチュアの主人公が追われるのだけど、この主人公、積極的に反撃するタイプ。暴力は、使う側は他人をダマらせるために行使するのだけども、中には逆上して反撃して、とんでもない結果を引き起こすことだってあるわけだ。「一人だけの軍隊(ランボー)」みたいな話といえば、そう。
主人公にしてみたら、ヤクザの理不尽な暴力も、国家の「安保上の云々」による暴力も同じことで、カタギが捨て身で反撃する気合と能力がある時には、暴力なんてそもそも逆効果でしかない、という逆説が露になってしまっているわけだ。秘密や弱みがある側の方が、実は弱いんである。暴力を使ってしまえば、「暴力を使った」ということ自体がマイナスにしかならないんだよ...というアカラサマで「小説にならない」興ざめな舞台裏を気づかせてしまう、というのは、やはり小説としては?と思わないわけでもない。
主人公とヒロインに、評者は全然共感できない...ドツボな方向をわざと選んでいるようにしか、見えないんだよね。状況判断が悪くて逃げ切れるときにも、余計なことして捕まりかけるわけだし。主人公とヒロインの会話も気取りすぎ。
だから、たいへん後味の悪い話。ロマンティシズムってそういうことじゃないと思うんだよ。

No.2 7点 kanamori
(2010/07/31 21:19登録)
主人公の「わたし」が、弟の海難事故の謎を追ううちに、ある謀略が判明し危難に巻き込まれるというストーリー。
れっきとした冒険小説なんですが、一人称記述で、遺族のもとを次々訪問していくプロットは、まさにハードボイルド小説。ウイットに富んだ会話、強い女性などシミタツ節が随所に読みとれます。
そして、あの最後の一文、キザ過ぎて鳥肌が・・・。

No.1 6点 Tetchy
(2008/01/03 18:18登録)
この作品からあのシミタツ節が出てきます。
最後の3行(だったよな?)、キザなんだけど、当時はメチャ惚れました!

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