皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
シーマスターさん |
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平均点: 5.94点 | 書評数: 278件 |
No.13 | 7点 | 無理- 奥田英朗 | 2012/06/22 22:39 |
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『最悪』『邪魔』以来の作者の「漢字二文字シリーズ」(と私が勝手に言っているだけ)の第三弾。
読み始めてまもなく「やはりコレも三交代物語か」と思わせられるが・・・・・ 読み止まらなさは相変わらずで、三年前の作品なのに例えば生活保護受給に関するエピソードなどは、つい先月書かれたのではないかと思えるほどの現実感に溢れている。 東野圭吾などの作品でも感じることがあるが、本当に凄い作家は後に読むと「予言書か?」と驚くようなストーリーを書くことがあるように思う。やはり社会を見通す眼力という点でも卓越した才覚を持ち合わせているのだろう。 しかし本作のラストは如何なものだろうか。前二作も(あまりよくは覚えていないが)「これだけグイグイ読ませて最後はソレかよ」と感じた気がするが、今回は複数の話の纏め方があまりにも安易というか、「え~い、面倒だ。これで全部おしまいっ」と片づけられてしまった印象すら受けてしまった。 まぁこの人は結末がどうのとか、オチがどうのとかいう話を書く作家ではないことは解かるが、登場人物たちの「その後」はもう少し書いてほしかった。 |
No.12 | 6点 | 家日和- 奥田英朗 | 2011/04/16 21:38 |
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アラフォー(流行語になったのは2009年でしたっけ)の男女6人(34歳が1人いたかな?)に訪れた「ちょっとした日常の変化」を描いた6つの物語。
・「サニーデイ」・・ネットオークションにはまっていく主婦。 ・「ここが青山」・・家事にはまっていく新主夫。 ・「家へおいでよ」・・部屋作りにはまっていく別居男。 ・「グレープフルーツ・モンスター」・・夢での快楽にはまってイク主婦。 ・「夫とカーテン」・・職を転々とする猪突猛進型の夫がベイエリアの新築マンション街を見込んでカーテン屋を始めるという。 ・「妻と玄米御飯」・・N木賞受賞を機に生活に余裕が出てきた作家の妻が裕福な主婦グループに仲間入りし「ロハス(健康と地球のためのライフスタイル)」にのめり込んでいくが、夫はあまり面白くない。 これって御自分がモデル?奥田さん。 奥田さんの今までの短編は(「ララピポ」を除いて)「起・承・転・結・爽」が水戸黄門にかなわぬまでもパターン化されていた印象だったが、本書の収録作は、最後の2話以外は、既作と異なり何とも表現しづらい読後感を残す話だった。それが斬新さを感じさせる。 |
No.11 | 6点 | ガール- 奥田英朗 | 2011/04/08 23:45 |
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30代のワーキング・ウーマン5人がそれぞれ主人公の、5つの「同世代の女性が多少なりとも身につまされるであろう」物語。
仕事と私生活、生き方に迷い悩む女性達のストーリーが、作者らしいズバ抜けたリーダビリティでユーモラスに描かれている。 ただ結末は全て安易で読後感も同じような話ばかりだが、まぁ、そういう短編集ということで。 解説の吉田伸子さん(何の人か知らないがファッションに詳しいらしい)が本作に登場する女性達のファッションとキャラクターの描写を大絶賛しているが、奥田サン、アンタは一体どんだけ女を観察しとるんや。 |
No.10 | 6点 | 真夜中のマーチ- 奥田英朗 | 2011/04/04 23:26 |
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前半は実に面白い。
好みの問題だろうが、設定、流れがキャッチーだし、「どうなっていくんだ?」とワクワクを催す「先の見えない感」がいい。 半ばで物語の方向が見えてくると、ややありがちな冒険活劇を予感させられてくる。 そして終盤の長―いドタバタは、よく計算されているし、捻りもあるし、決して三文ドタバタ劇ではないんだけど、こういうのはもう少し短い方が個人的には嬉しいなー なんか奥田さん、長編のドタバタ部になると持ち前の「読みやすさ」より「ドタバタの完成度」を追ってしまい、クドさやダラダラ感を醸し出してしまう・・・・と感じてしまうのは単に自分が流し読みタイプであるからなのだろう。 |
No.9 | 6点 | 東京物語- 奥田英朗 | 2011/03/28 22:00 |
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明らかに作者自身が主人公のモデルになっている自伝的連作短編集。
時は1978~89年。バブル経済の麓から絶頂へ登り詰めていくディケイドと言っていいだろうか。 この期間に当たる、主人公の上京から三十路目前までの「青春時代」の中の「ある一日」の物語が6編、その時々の時事ニュース、社会背景を彩りに添えた作品群になっている。 大体年代どおりに並んでいるが、本来なら3番目になる話をトップに置いたのは作者なりの自分自身へのこだわりによるものなのだろう。 何にせよ奥田英朗という人がかなりよく分かってくる一冊。 ドキドキハラハラとは無縁だが、読みやすさにおいても奥田作品の名に恥じない一冊。 |
No.8 | 6点 | ララピポ- 奥田英朗 | 2011/03/19 21:57 |
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【今回の大震災において一刻も早い被災者の方々の救済と被災地の復興を祈念申し上げます。】
私宅は本棚が倒れた程度の被害で済みましたが、これを機会に大幅に書籍を処分しようと思っています。 本作は、震災でできた妙な空き時間に読んだ一冊。 りんちゃみ先輩さんが仰るように、愚かしくも哀しい下劣な人間群像。 今まで読んだ奥田作品の中では最も低俗な連作短編集だった。 ・・・といいながら最も短時間に一気に読まされてしまったのだから作者には頭が上がらない。 このダメ人間達の落ちこぼれ話を反面として、結局、どう転んでも人間は人間なんだ、俗欲から逃れることはできないし、どん底にいようと災害にみまわれようと現況の中で一生懸命生きていくしかない・・・という的外れとも思えるメッセージを感じてしまったのは「今」だからだろうか。 タイトルの意味は最終話で分かります。そして「今」だからこそララピポを信じたい。 |
No.7 | 5点 | サウスバウンド- 奥田英朗 | 2011/03/08 23:14 |
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う~ん、奥田作品としては初めて「長さ」を感じてしまった。
小6男子の主人公の目線で語られる自分と破天荒な親父を中心としたライトタッチの(たぶん)社会派小説。 東京での前半は家庭問題と、親父とその仲間の反体制姿勢の問題と、不良中学生の問題がメインだと思うが、いずれも全く緊迫感が感じられず、凸凹凸凹話が進む感じ。 また、リアリティが持ち味の奥田さんにしてはチョットという点も・・・例えば、親父の暴行傷害が無罪放免になるか?息子も札付き後ろ楯付きの不良を相手にソレで済むか?(ていうかその不良がショボすぎ)・・・等々 八重山での後半もいろいろ起こるわけだが、ちょっと島の情景描写がダラダラ多すぎ。私自身、国内外問わず南国は大好きだし何度でも訪れたいとは思うが、その感覚的な思い入れや情感は残念ながら文章で堪能するのは難しい。最後の方のドタバタもシリアスには感じられず寧ろアクション映画型ステレオタイプの反逆一匹狼、という印象はどうにもならない。 それと伊良部シリーズなどでは見事にベールでくるみ抑えてきた教訓臭さが醸し出されてしまっている印象も少なからず受けてしまった。 やっぱり奥田さんは短編か、長編なら「最悪」「邪魔」のようなグイグイサスペンスがいいんじゃないかな、と。 |
No.6 | 6点 | 町長選挙- 奥田英朗 | 2011/03/08 23:05 |
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伊良部シリーズ第三弾。
4つの短編が収録されているが、本書の特徴は表題作以外の3編の主人公が(露骨に)現実の著名人をモデルにしているところ。そして各編に微妙な繋がりがある。またマユミが少し能動性を見せるところも今までとチョット違う。 ・【オーナー】・・・日本一の発行部数を誇る新聞社の代表取締役会長にして日本一の人気プロ野球球団のオーナーである田辺満雄、通称「ナベマン」の老境を襲う不安神経症。 ・【アンポンマン】・・・ITベンチャー企業「ライブファスト」を立ち上げ、破竹の勢いで事業拡大し「時代の寵児」ともてはやされる安保貴明32歳に取りついた「ひらがな失認症」。もちろん「あの事件」以前の作品。 ・【カリスマ稼業】・・・40代にして美貌と若さを誇る遅咲き女優、黒・・いや、白木カオルの必死のアンチエイジング、アンチカロリー。いろいろな実在芸能人モドキが出てきて笑える。 ・【町長選挙】・・・前半は大いに笑えたが、後半、らしくない伊良部がイマイチだし、ちょっと奥田さん、テーマを大きくしすぎて苦しかったか。 前作「空中ブランコ」に比べると、趣向を若干変えたとは言え「笑いと爽快な読後感」の質はややレベルダウンの印象。 ところで、先日初めてテレビ朝日で放映中の「Dr.伊良部一郎」を見たけど・・・・・・いやはや・・・これはないわ(まぁ、伊良部の容姿が原作と正反対なのは脚本家の故意だろうけど)・・・・・日曜の深夜、暇で暇でしょうがない人だけにおススメ。ていうかもうすぐ終わりかな? |
No.5 | 6点 | マドンナ- 奥田英朗 | 2011/02/16 19:45 |
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割といい企業で出世コースに乗り、都内に一戸建てと妻一人と子供二人を所有している40代の課長5人の5つの小さな物語。
仕事、人間関係、家庭、恋・・・・不惑の男たちが大いに戸惑うさまがユーモラスに描かれています。 何と言っても、この人の作品は決して薄っぺらな内容ではないのに殆どマンガを読むエネルギーで読めるのが嬉しい。 |
No.4 | 6点 | イン・ザ・プール- 奥田英朗 | 2011/02/09 20:47 |
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やっぱり面白いね、伊良部シリーズは。
一作目の本短編集より先に二作目の「空中ブランコ」を読んだけれど、そちらに比べると全体的にストーリーテリングのキメが若干粗いかな、と。(このエラそうなコメントが本当なら段々良くなっているのだからいいことだよね) 本書の中では、個人的には「コンパニオン」と「フレンズ」が読み止まらない面白さでしたね。 ところでこのシリーズ、テレビで放映中のようだが、以前から映像化するなら伊良部役は伊良部(そう、元プロ野球の)が最適だと思っていたんだけどな。(やるわけないけどね) |
No.3 | 7点 | 空中ブランコ- 奥田英朗 | 2010/09/12 23:11 |
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心因性疾患に悩むエグゼクティブ達と彼らの主治医・ドクター伊良部が紡ぎだすエキセントリックなヒューマンドラマ5作。
【空中ブランコ】 きれいに纏まりすぎる気がしないでもないが、こういう事って実は結構あるのかもしれない。 【ハリネズミ】 この人、ほんとヤクザの下層世界に詳しいよね。 【義父のヅラ】 実にバカバカしいが可笑しい。ドタバタコメディーで本当に笑ったのはいつ以来だろう。その他いろんな意味で面白かったですよ。 【ホットコーナー】 これも「いい話」だが、個人的に「負けた方が一月・・」に爆笑。 【女流作家】 作家が作家の悩みを書いているのだから、これはリアリティが高い実情話なのだろう。映画監督の話はいまいちピンと来なかったけどラストはジンと来ました。 シリアスとコントの混合構成で、クサさを醸し出さずに最後に清々しさを残す話を常ならぬリーダビリティでこれだけ連ねるだから大したものだと思う。 自分も少しだけ癒されました。 |
No.2 | 7点 | 最悪- 奥田英朗 | 2007/12/07 22:24 |
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近隣に住みながらも全く異なる世界に生きる無関係な3人(チンピラ、OL、鉄工自営)の物語が3交代で順次進み、やがて・・・という例のパターン。
3人はそれぞれジワジワと不幸の砂穴にはまっていく・・・が、 チンピラは自業自得の面が少なからずあるし、 女子行員の災難も(可哀相だが)さほど珍しい話でもない。 しかし町工場のオヤジは不運の女神に虐められているとしか言いようがない。元々情けないタイプなだけに、のめされていく様は哀れを通り越して喜劇的ですらあり、少々食傷気味にもなるが、そこまでヤラレるからこそ後の狂態も分からなくもないものになっている。(この辺が本作の真骨頂だと思う) 中盤から3人のストーリーが合流するまでは、登りつめて行きそうな展開なのだが、そこからはどうも締まりのない感じで、どこが話のピークなのかピンボケ気味のため盛り上がり感はイマイチ。 結局この話はドキドキサスペンスというより、普通の人が犯罪に巻き込まれたり、どん底に追い込まれたあげく異常行動に至ってしまう背景やプロセスを読者に自分事のようにリアルに実感させる、という点において秀逸な作品なのであろう・・・と個人的には感じた。 |
No.1 | 7点 | 邪魔- 奥田英朗 | 2007/12/04 23:58 |
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妻を亡くした刑事、普通の家庭の主婦、不良高校生・・・・三者それぞれの物語が刑事を中心に付きつ離れつしながら現実に翻弄される様を、彼らの体温が感じられるような生々しい筆致で描いたリアルフルなサスペンスであり、入れ込めやすい作品だと思う。
中でも平凡な主婦が運命の悪戯により少しずつ日常のレールを外れ、変貌していく様相は圧巻といえるだろう。 ラストは・・・全く未来がないような、そうでもないような不思議な余韻を残す。 |