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Tetchyさん
平均点: 6.74点 書評数: 1617件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.597 8点 キルショット- エルモア・レナード 2009/08/16 19:59
ごく普通の夫婦が悪党たちの強盗事件に巻き込まれて命を狙われる羽目になるという、レナードよりもクーンツが得意とする“巻き込まれ型サスペンス”小説だが、レナードが書くと斯くの如き面白い読み物になるのかと感嘆した。

登場人物のリアルさにはさらに磨きがかかり、悪党のアーマンドやリッチーの思考などは正に本物の悪党のそれに思え、巻き込まれるカールスン夫婦、特に夫の鉄骨工ウェインは鉄骨工でしかわからない事をなぜこれほどまでに書けるのかと不思議でならなかった。

特にここぞという時に決めるセリフが今回は更に冴え渡っており、バシバシ決まりまくって心地よかった。

最後のシーンで本当の主人公が解る。この結末はレナードが描いていた物なのだろうけど、読み手側としてはまたしてもレナードにすかされてしまったと感じてしまう。これは読者がどのキャラクターに感情移入するかで変わると思う。

No.596 9点 ホット・キッド- エルモア・レナード 2009/08/15 23:41
レナード節が冴え渡るレナードしか書けない男たちの物語、しかも自身の原点であるウェスタン小説である。
本作の主人公カール・ウェブスター、レナードの作品では今までにないヒーローである。
執行官補である彼は真っ当な正義漢ではなく、実は根っからのガンマンなのだというのが白眉。
その彼のライバルとなるのがジャック・ベルモント。親の手の付けられない悪童がそのまま大人になった男で、根っからのワルである。
しかしここからがレナードの味付けの妙で、このジャックはカールと渡り合うほどには器が大きくならない。ずっと歯牙にもかけられないのだ。

そして最後に迎える2人の対決シーンの結末も意外。ここにカタルシスが欲しかった。まあ、レナードらしいといえばレナードらしいが。

しかし西武開拓時代に腕を競い合った実在の銀行強盗ら悪漢達が躍動する物語は非常に楽しかった。
レナードはまだまだ枯れない!

No.595 9点 殺人にうってつけの日- ブライアン・フリーマントル 2009/08/12 19:59
相手に嵌められ、妻まで奪われて刑務所に入れられた男が出所を機に全てを取り戻すため、復讐を企む。今まで何度も使い古されたプロットであるが、そこはフリーマントル、普通の設定にしない。
なぜなら復讐者ジャック・メイスンこそ、元妻の安定した生活を脅かす悪の存在だからだ。彼はCIA勤務中はロシアに情報を流す売国奴であり、私生活では女を買うのは勿論の事、公然と浮気をし、妻に暴力を振るっていた最低の男なのだ。この通常ならば主人公の宿敵となるべく恐怖の存在を逆に主人公として設定したところにフリーマントルの作家としての一日の長がある。

本書に込められているメッセージとは結局復讐は何も生み出さないということだ。
最近のフリーマントルは英国人特有の皮肉溢れる結末が多く、本書もその例に洩れない。私は読後のカタルシス、特に爽快感を買う方なので、それ故、本書は面白いが、傑作とまでは賞賛できないという結論である。

またアメリカの証人保護プログラムに警鐘を鳴らしている。結局完璧な制度というのはないのだということを痛感させられる。
シンプルながら、色んな内容を包含した作品だし、逆に物語構成がシンプルなだけに彼の本を初めて読む人にはまさに“うってつけの”一冊ではないだろうか。

No.594 10点 ネームドロッパー- ブライアン・フリーマントル 2009/08/12 19:51
旅先での一人旅の女性とのアヴァンチュール。そんな珍しくもない、誰にでも起こりそうな情事が思いもよらぬ災厄をもたらす。そんなありきたりな設定に被害者を身分詐称を生業とする詐欺師に持ってきたところにフリーマントルのストーリーテラーとしての巧さがある。

そして本作ではフリーマントルの手による法廷ミステリの側面を持っているところも読み所だろう。
法廷シーンで繰り広げられる原告側、被告側双方がやり取りする揚げ足の取り合い、トラップの仕掛け合いはものすごくスリリングである。言葉の戦争だとも云えよう。
元々フリーマントル作品には上級官僚が自らの保身、自国の保身のために行う高度なディベートが常に盛り込まれており、すごく定評がある。このフリーマントルのディベート力が裁判という舞台に活かされるのは当然であった。逆に云えばなぜ今までフリーマントルが法廷物を書かなかったのかが不思議なくらいだ。

そして他人の名を借りて身分を偽り、それが偽造パスポートや偽造運転免許証、さらに社会保障番号を知ることで他人に成りすましていたジョーダンが本人であるハーヴェイ・ジョーダンとして訴えられることで、改めて借り物の人生を過ごしてきた自らについてアイデンティティの再認識が成される。だからこそのあの最後のセリフが活きるのであろう。

最近のフリーマントル作品は皮肉な結末が多かったが、本作では非常に胸の空く思いがした。こういう小説を読みたかったのだ。
近年のフリーマントル作品の中でもベストだとここに断言したい。

No.593 6点 キューバ・リブレ- エルモア・レナード 2009/08/11 23:14
レナードの手による歴史小説。スペイン支配下にある1900年直前のキューバを舞台となっている。時代的にはアメリカがスペインからの支配から脱却しようとしている反政府軍を支援し、キューバの独立戦争勃発の前後を描いている。

レナードの物語の特徴として先の読めない展開と各登場人物たちの軽妙洒脱な会話。悪人なのにどこか憎めない奴らといった際立ったキャラクター造形が挙げられるが、今回はいつもの作品と違い、なんとも大人しい感じがした。特に軽妙洒脱な会話と、憎めない悪人どもといった部分が成りを潜め、どこか単調な感じがした。
しかし先の読めない展開については健在。

それでもやはり物足りないのは敵役どもの結末。なんかカタルシスが感じられない。レナードの物語の交わし方は知っているんだけど、やっぱりスカッと感は欲しいわな。

No.592 7点 身元不明者89号- エルモア・レナード 2009/08/11 00:36
長い間、東京創元社が翻訳権を取得しながらも発行しなかったのだが、21世紀も7年を過ぎてようやく日の目を見ることとなった。小学館がレナード作品を上梓しだしたことが契機になったのか、定かではないが、とにかく喜ばしいことだ。

30年前に書かれた本書は、まず主人公となるライアンが令状送達人になった成り行きから、ライアンを取り巻く人間達を描き、そしてライアンが人生の転機となる出来事に遭遇するという至極真っ当な物語展開を繰り広げる。

今回は主人公のライアンよりもむしろ敵役のペレスの方が一枚も二枚も役者が上である。最後、1セントの利益も得られずにライアンから屈辱を与えられながら、ライアンに仕事の依頼をする図太さ。あれこそ本当の男だろう。
自分が何をすべきか解っている男なのだ。

私のレナード作品の評価は主人公を好きになれるかどうかにかかっているようだ。そういう意味ではちと物足りない作品であった。

No.591 7点 バンディッツ- エルモア・レナード 2009/08/09 19:55
題名の『バンディッツ』は“盗賊”の意味で、本作では主人公ジャックと元修道尼のルーシー、そしてかつて刑務所仲間だった元銀行強盗のカレンと元警官のロイたち一行を差す。
最初読んだ時はレナードにしてはストレートな設定だなぁと思った。ジャックが強盗団を結成すべく、ムショ仲間を仲間に引き入れ、大佐の金を強奪するという方向性が早くも見えたからだ。

しかしやはりレナードはレナードである。一筋縄では参りません。この強奪計画が判明した106ページから誰が423ページの結末を予想できるでしょう?
いやぁ、ものすごいね、こりゃ。人間という物は思ったとおりに動かないのさ、だからこそ人間なのさと嘯くレナードのしたり顔が目に浮かぶようだった。

しかし、この作品、レナードの先の読めない展開が悪い側に出たという印象は拭えない。
本作のプロットが判明する100ページ辺りまでの面白さから、「これは!」と期待するところがあったのだが、それ以降の展開が実にのらりくらりとしており、なかなか強奪計画の全容が見えてこない。実際最後の380ページ当たりになって始めてシミュレーションが行われるくらいだから、レナードはそこに重きを置いていないのだろう。でも逆にこれが私には不満で、まるで皮が美味しいのに中身がスカスカの饅頭を食べているかのような印象が残った。

No.590 7点 スティック- エルモア・レナード 2009/08/08 23:33
『スワッグ』でフランクと組んで武装強盗を働いたスティックのその後の物語。
いやあ、先の読めない感はさらに拍車がかかってますな。

最初はムショ上がりの冴えない男だったのが、死地から逃げ延びた事で逆に己自身を見つめなおし、自動車泥棒を行おうとしたところで、バリーと知り合い、運転手に落ち着き、そこで株投資の世界に興味を持ち始めたかと思うと、バリーの付き合う愛人、妻、そして投資アドヴァイザーのカイルの3人と寝てしまうのだ。更にはバリーと主従の関係が逆転し、そしてバリーが企画した新作映画への融資をだしにチャッキーを獲物にして一大詐欺を起こそうとするのだ。
こんな物語に最後きちんとオチがつくのだからものすごい。
こういう話を読むとレナードが作ったのではなく、あたかもそういう話が実際にあってそれをレナードが小説にしたとしか思えない、それほど「作っていない」感じがするのだ。
しかし、あえて苦言を呈するならば、やはり行き当たりばったりで書いているなあという気持ちは払拭できない。
以前とは違い、さすがに色々読んできている現在では終わりよければ全て良しという手には乗らないぞという捻くれた思いが強く残るのだ。
まあ、こういう小説は有りといえば有りだがね。

No.589 7点 ビー・クール- エルモア・レナード 2009/08/07 22:41
あの『ゲット・ショーティ』のクールな元高利貸しチリ・パーマーが帰ってきた!
前回高利貸しから見事映画プロデューサーに転身し、映画を製作してヒットさせたチリが今回扱うのはロックのインディーズレーベル。

しかし、あまりに映画化を意識した作りになっていることがいささかやり過ぎた点に感じる。
アメリカエンターテインメント界を題材として扱うチリ・パーマーシリーズは面白いことは面白いのだが、今回はちょっとあざとかった。

しかしこの時レナード御齢75歳。なのに内容が若い、若い!随所に現代アメリカン・ポップス(原書が出版された1999年当時の)を縦横無尽に語るのがすごい。なんとスパイス・ガールズを語り、しかも彼女らの歌の好みについても語るのだ。俺の周りにはこんな75歳いないぞ!!

No.588 8点 アウト・オブ・サイト- エルモア・レナード 2009/08/06 19:52
とにかく登場人物が洒落ている。
活きている。
どんどん引きずり込まれる。
フォーリーのクールさは映画版のジョージ・クルーニーぴったりだし、キャレンの凛々しさは確かにジェニファー・ロペスだなぁ。本作ではフォーリーは50前、キャレンはどうやら白人という設定みたいだがこのキャスティングは素晴らしいと改めて思った次第。

車のトランクの中に銀行強盗と女連邦官が一緒に閉じ込められるというワン・アイデアがこれほど面白く働くとは思わなかった。水と油の職業の者同士が恋に落ちるというパターンは山ほどあるが、これほど奇抜でしかも説得力のあるシチュエーションは初めて。
ここから織りなされるそれぞれの思いの道行きが大人のムードを醸し出しながらも初々しさを持ち、そして再び出会った時に爆発的な化学反応を起こす、このストーリー・テリングはやはり超一流。
ただ2人の恋の盛り上がり方に比べ、結末がドライで呆気なく幕引きになるのが残念。

No.587 9点 追われる男- エルモア・レナード 2009/08/05 23:21
舞台はイスラエルとレナード作品の中では異色。
しかし今回は題名が示すように、追われる男と追う輩の追跡劇。
本書もレナード初期の作品であり、今の作品と比べると構成はシンプル。それ故に今の作品には無い面白さを兼ね備えている。
特に今回は主人公デイヴィスがカッコイイ!
最後のセリフも見事決まった!

No.586 8点 ミスター・マジェスティック- エルモア・レナード 2009/08/04 22:39
この話、一言で云うならば
「おれのメロンの収穫を邪魔するんぢゃねぇ!!」
である。
レナード初期の作品は非常に物語り構成がシンプルで、最後の対決まで一気呵成に突き進む。
殺し屋とメロン農場主がどうして対決するのか、その成行きが現在のレナードの先の読めないストーリー展開の下地として既に見られるのが興味深い。
とにかくミスター・マジェスティックがカッコよく、こんな農場主は日本にはいません!

No.585 6点 スワッグ- エルモア・レナード 2009/08/03 22:56
“成功と幸福をつかむための十則”、武装強盗として成功するための10ヶ条を思いついたフランクと知り合った自動車泥棒スティックが強盗稼業に乗り出す物語。
ただ、物語はレナードのこと、予想外に展開し、ひねって歪んで展開する。
この武装強盗というアイデアは面白いものの、主人公フランクに感情移入できなかったのが瑕。

No.584 7点 ハートの4- エラリイ・クイーン 2009/08/02 20:26
第2期クイーンシリーズと云われているハリウッドシリーズの1冊である本作はきらびやかな映画産業を舞台にしているせいか、物語も華やかで今まで以上に登場人物たちの相関関係に筆が割かれ、読み応えがある。

この頃、実作者のクイーン自身、ハリウッドに招かれ、脚本家として働いていたが、そこで要求されるのは緻密なロジックよりも面白おかしい登場人物たちが織成す人間喜劇というドラマ性である。
その特徴が顕著に現れていると思われるのは本書の最後にポーラをクイーンが外に連れ出すシーンだ。王子とお姫様を匂わすキスシーンも交え、非常にドラマチックで映像的である。それまでの作品で人が人を裁くことに対し、苦悩していたクイーンが独りごちてシリアスに終わる閉じられ方から一転している。

しかし逆に云えば、語られる内容は華やかだが、核となる事件は非常に凡庸である。
使い古された遺産相続に起因する動機に、明白すぎる犯人。
久しぶりに犯人も解ってしまった(犯人が親族だったかどうかは見過ごしていたけれど)。

また題名が象徴するトランプのカードによる脅迫というのも今までにない演出だ。非常に映画向きの演出だといえる。

こういうのは個人的には好きなので歓迎したいが、クイーン=緻密なロジックというフィルターが邪魔をして、本作の評価を辛くしている。
謎とストーリー双方がよければ文句なしに満点なんだけど。

No.583 10点 ゲット・ショーティ- エルモア・レナード 2009/07/26 20:15
映画化もされ、ヒットしたレナードの傑作!
レナードの映画好きとレナード・タッチがマッチして、非常に小気味よい作品となっている。こんなに面白い本があるのかとずっと思いながら読んでいた。
そして今回も予想外に物語は進むが、この結末はもう物語の神様がレナードに下りてきたかのように散りばめられた布石がカチッと嵌る。
チリ・パーマーは数あるレナード作品で最も好きなキャラクターになり、作者もよほど気に入ったのであろう、続編『ビー・クール』も書かれている。
なお、題名の意味は「あのチビを手に入れろ」。
チビの正体はすぐ解るが、それも素人が遭遇する芸能界のあるギャップを表していて面白い。
映画版は別の結末で閉じられるが、それもまた秀逸。

No.582 4点 プロント- エルモア・レナード 2009/07/26 01:21
題名の意味はイタリア語で「もしもし」。そう、電話での応答挨拶だ。
本作はそういう意味でもイタリアを題材に扱っているのだが、なんか全体的に話が散漫に感じる。
レナードには珍しく、主人公のハリーがなかなか動かないキャラクターだったのだ。
厚さの割にはコストパフォーマンスの低い作品だ。

No.581 9点 スプリット・イメージ- エルモア・レナード 2009/07/24 22:41
レナードの作品に出てくる悪党というのは、ワルなんだがどこか憎めない人間くさいところがあるというのが定番だが、本作で出てくる富豪の男は今までにない、共感できない男であるのが特徴的だ。
自由気ままに暮せる金と、何もしなくても女が言寄ってくる容姿を備えた男。しかし渇望していたのは殺人への衝動。
当時サイコパス物が流行っていたが、これはレナード版サイコパス物。
最後の最後でギリギリに振り絞られた弓から矢が放たれる如く、怒濤の殺戮へ転じる展開は手に汗がにじんだ。
意外な人物が亡くなり、呆気に取られたが、幕切れは爽快感すら漂う。

No.580 8点 ムーンシャイン・ウォー- エルモア・レナード 2009/07/23 22:41
禁酒法統治下のアメリカを舞台にしたレナードの初期のウェスタン小説。
ムーンシャインはここでは酒税取締官に見つからないように密造者が月明かりの下で蒸留酒を作っていたことから、そのお酒を指し、密造者はムーンシャイナーと呼ぶ。なんとも詩的な表現ではないか。
そんなお酒に関する知識と密造者による蒸留酒のこだわりなどもふんだんに盛り込まれており、さらにはレナードには珍しく物語がシンプルで、題名どおり、一気に決闘へ雪崩れ込むのも小気味よい。
ラストも鮮やかで、逆にこの頃のレナードを取り戻してほしいなぁと思ったくらいだ。

No.579 6点 ザ・スイッチ- エルモア・レナード 2009/07/22 19:46
有閑マダムともいうべき奥さんが誘拐される事で、自分の中の“スイッチ”が入るという、実にレナードらしい作品。
レナードが上手いと思うのは男性作家なのに、女心の機微とか真理の綾とかを絶妙に描くところだ。
単に金持ちなだけ、何の過不足のない生活だけでは女性は繋ぎとめられないのだ。
「ストックホルム症候群」を扱った、とまでは行かないが、一般人が突然犯罪に巻き込まれて、非日常が破られ、自分の中の知らない自分が目覚めるなんてことを、こうも自然に描くとはなぁ。

しかしあの結末はなんなんだろう?最後の最後まで楽しんだのに、「へっ?」と思わず呟いてしまった。

No.578 3点 マイアミ欲望海岸- エルモア・レナード 2009/07/21 23:05
なんとも陳腐な邦題である。なんか別のジャンルの本と勘違いしそうだ。
これはまだレナード初期の作品で、先の読めない展開は健在なものの、どちらかといえば何も考えずに書いているような感じがしないでもない。
読者をいかに裏切るかがレナードの腕の見せ所なんだけど、これは途中で放棄したとしか思えないほど雑。
キャラクターもほとんど記憶に残らなかった。

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