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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1631件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.611 6点 死のひそむ家- ルース・レンデル 2009/09/06 00:22
よく出来た話だとは思う。
隣人たちの流言や噂によって作られた事実が実は全く正反対だった事などは神経衰弱で裏面のカードが一気に裏返させられたような鮮やかさを見せるのだが、文体自体が抑制が効き過ぎて情動を起こさせないのだ。結末も唐突な門切調で終わるような感じだ。
確かにあれ以上書く事は蛇足になるんだろうが、もっと他の締め括り方があったのではなかろうか?
スーザンの、デイヴィッドに対する対応の変わりようも気になるし…。う~ん。

No.610 7点 運命のチェスボード- ルース・レンデル 2009/09/04 23:36
今回の残念な点は2点。
まず登場人物表。これは明快にしすぎだろう。ある人物に関しては少なくともファーストネームだけでよかったのでは?
まあ御蔭で犯人判っちゃったけど。
2点目はタイトル。全然意味を成してないよ。原題『屠殺場に向かう狼』の方が最後に明かされる謎を髣髴させる点で断然勝っている。

No.609 8点 20世紀の幽霊たち- ジョー・ヒル 2009/09/04 00:07
スティーヴン・キングの息子であることが近年になって発覚した新進気鋭のホラー作家の短編集。

結論から云えば、玉石混淆の短編集で、総体的な出来映えとしてはやはり佳作と云えるだろう。実質的な収録作品数が17作品というのが多すぎて、逆に総体的な評価を下げているとも云える。

個人的に好きな短編を挙げると、「二十世紀の幽霊」、「ポップ・アート」、「蝗の歌をきくがよい」、「アブラハムの息子たち」、「末期の吐息」、「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」、「自発的入院」の7編。
次点として「うちよりここのほうが」、「黒電話」―但し最終章も含んだ―、「寡婦の朝食」、「おとうさんの仮面」の4編。
そうつまりこれら11編で本書が編まれたとするとこの作品の評価はもう1つ、いや2つは挙がるかもしれない。

確かに彼は“書ける”作者である事は認めよう。
ただ未完の大器だという感が強い。
この後、彼がどのような奇想を提供してくれるのか、非常に興味深いところだ。

No.608 7点 石の微笑- ルース・レンデル 2009/09/02 20:42
冒頭、登場人物表にも載っていない人物の失踪が案外しつこく語られていること自体に「?」マークが頭に浮かんでいたのだが、最終的にこれほど致命的に機能してくるとは。
久々に「あっ」となっちゃいました。
今回は珍しく男の狂気じゃなく、女の狂える愛。故にいつもなら狂気がしんしんと降り積もっていくのに、男が正気に戻りかけた途端、突然の大破局が訪れた。
そう、フローラよ、貴女は結局、幸運の女神だったのか?

No.607 6点 求婚する男- ルース・レンデル 2009/09/01 23:54
おいおい、どうしてこうなるの?
なぜこの作家はハッピーエンドがこうも嫌いなのだろうか?
たまには素直に物語を収束させてもいいんじゃないの?

しかし、レオノーラはひどい!最低の悪女だな。
ガイは、かつての俺を見てるようでとても痛ましかった。だからこそガイにはハッピーエンドを迎えて欲しかったのに。

しかし、冗長すぎるなぁ。
丹念に心の動きを積み重ねていこうとしているのは判るがくどくど意気地の無い愚痴に付き合わされるのにはまいったわ。

No.606 7点 死を誘う暗号- ルース・レンデル 2009/08/31 23:26
いやいや、ルース・レンデルがこんな小説を書くとは、ねぇ。

2つの物語のうち、一方は振られ男のうじうじした日常の根暗な生活が淡々と綴られるのはいつものレンデル調なのだが、もう一方はスパイごっこに興じる少年たちの、云わば青春物語だなんて!!
これがもう、おいらの少年心をくすぐるから、ジョンの話が鬱陶しくて、却ってそれが俺にとっては仇になった。
そして、2つの物語がハッピーエンドなのもまたレンデルらしくなく珍しい。

No.605 6点 引き攣る肉- ルース・レンデル 2009/08/31 06:54
う~ん、冒頭の逮捕劇を読んだ瞬間は、傑作の匂いを感じたんだが、最終的には今一つ突き抜けないという気持ちで一杯だ。
登場人物各々に魅力をさほど感じなかったのも事実。それに文体も三人称と一人称とが混在し、文豪らしくない。
あと、どうもこれはミステリではないような気がする。心を病んだ1人の青年の破滅を描いた普通小説のように読めたのだが。

No.604 5点 ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン 2009/08/30 01:38
ハリウッドシリーズ第3弾の本作は『ハートの4』でも精力的に導入されていた恋愛が事件に大いに絡んでいる。従ってまずは事件ありきでその後探偵による捜査が続く本格ミステリの趣向とは違い、2人の遺産相続人の一方に起こる殺人未遂事件の数々が同時進行的に語られ、物語の設定はサスペンスになっている。

今回のテーマは「成りすまし」だろうか。他人の人生に成りすます人物たちのドタバタ劇のような様相が伴う。まず腹膜炎を患って捜査に出られないエラリーに代わって相棒のボーがエラリーと名乗るところからそれは始まる。

《以下ネタバレ》

その後も各登場人物も実は○○だったというのが繰り返される。
遺産相続人の1人マーゴ・コールはアン・ブルーマーなる女性詐欺師であったし、事件の依頼に来たカドマス・コールはまた執事エドマンド・デ・カーロスが成りすました人物だった。そしてボーとケリーの結婚立会人である治安判事も実はエラリーが成りすました姿だった。

《ネタバレ終わり》

これはハリウッドを経験した作者クイーンが映画界で過ごした経験に基づいているに違いない。映画スターは色んな映画で色んな役に扮し、様々な人物に成りすまし、また架空の人生を繕う。そして映画スター自身も本名ではなく芸名を名乗り、第2の自分を演じているのだ。この「自分以外の誰かに成りすます」特異な職業にミステリとしてのインスピレーションを得たに違いない。

が、しかしながらそのためか逆に物語や謎の薄さを糊塗するが如き演出になってしまったように見えてしまう。数々の人物が実は違う誰かであったという演出は確かに面白いが、どうもそれをするだけの動機が薄いのだ。
そして何よりも犯人の動機が最も解りにくいのがこの作品の欠点とも云うべき点だ。

どうにも纏まりの悪さとご都合主義が目立つ作品だといわざるを得ないのが残念だ。

No.603 10点 野獣の街- エルモア・レナード 2009/08/24 00:11
血沸き肉躍るとは正にこのことを云うのだろう。
題名どおり、「野獣」たちが集い、戦う物語。脇役、端役に至るまで全てが生きている。
特に11章の警察署内でのやり取りは歴史に残る名シーンと云えるだろう。
いやあ、堪能したわ。

No.602 5点 グリッツ- エルモア・レナード 2009/08/23 01:50
レナードの傑作の1つとされている。
確かにいきなり主人公が撃たれる導入部は一気に物語に放り込まれ、怪我の静養中の主人公を襲う殺し屋の存在などハラハラする要素もあるが、なんせこの主人公がやたら女にモテるので、あまり感情移入できない。
それほどいい男に見えないだけどなぁ。
面白くなる予感はずっとあったんだけど、その予感だけで最後まで行ってしまった、そんな感じだ。

No.601 4点 絵に描いた悪魔- ルース・レンデル 2009/08/21 21:20
プロットはいい、というより水準レヴェルである。ただ、登場人物が今一つ抜き出てなかった。各々の描き分けられ方は確かに上手く成されているが、どうもステレオタイプに留まっている感がある。
やはり結局小説を生かすのはあくまでその中の登場人物であり、たった一人の個性的な人物が脇役であっても、そこにいれば、忘れ得ぬ一編となるのだ。

No.600 7点 ラブラバ- エルモア・レナード 2009/08/20 23:44
MWA賞受賞作という下馬評の割にはちょっと期待はずれ。
題名は主人公の名ジョー・ラブラバに由来する(しかしスゴイ名前だな。ジョン・ボン・ジョヴィとためを張る)。
このラブラバ、元シークレットサービスの捜査官で今は写真家というタフガイ。この男がマイアミで知り合った女性の保護に関わる事になるのだが、その女性がジーン・ショーというかつての銀幕スターでラブラバの憧れの人だったという、なかなか心憎い演出。

しかし、このタフガイと思われたラブラバの見せ場が意外に少なく、逆にジーンが物語をかっさらってしまったような感じだ。
だから題名と中身が一致しないなぁというのと、これで受賞?という懐疑が先に立ってしまった。
まあ、これもレナードらしいっちゃあ、レナードらしいけど。

No.599 7点 龍の契り- 服部真澄 2009/08/19 23:14
香港を軸にアジアに関与するあらゆる人物、組織が1997年の中国への変換に向けて脈動する。
本書の主人公である外交官沢木喬を皮切りにハリウッドオスカー女優アディール・カシマ、『ワシントン・ポスト』の敏腕雑誌編集員メイミ・タンに彼女の秘蔵っ子であるフリージャーナリストのダナ・サマートン。上海香港銀行の総帥包輝南(パオ・フェイナム)、同頭取エドワード・フレイザー、表向きは通信会社である中国側の諜報機関新華社、日本の某一流電気メーカーをモデルにしたハイパーソニック社長西条亮に10年前の火災事故から奇跡的に生還したコードネーム<チャーリー>と呼ばれるCIA諜報員。これら様々な職種の関係者が香港に集結し、野心のゲームに戯れる。

情報小説としても非常に密度の濃い物であり、さらに中国、イギリス、日本の三つ巴にそれぞれ個人的な利害が絡んで様々な人間が密約文書を奪い合う緻密な構成(正直なことを云えば登場人物表が欲しかった)、結末に向けて徐々に高まる緊張感など、とても新人とは思えない筆運びである事は認めるにやぶさかではない。
しかし哀しいかな、私はフリーマントルの読者であり、同じ国際謀略小説を発表している同作者と比べるとやはりフリーマントルに一日、いや数年の長があることを認めなければならない。なぜならフリーマントルにはそれらに加えて、ミステリマインド豊かなサプライズがあるからだ。この有無の差はやはり大きい。
片や作家生活数十年のベテランと比べるとはなんとも手厳しい評価ではないかと思うなかれ。これは私が服部氏にそれほど期待をかけていることの表れだと思って欲しい。それほどのクオリティがある作品であると宣言しよう。

No.598 8点 五万二千ドルの罠- エルモア・レナード 2009/08/17 23:16
初期のレナード作品は主題がはっきりしており、しかも展開がスピーディかつ荒々しさを備えている。
本書も非常にわかりやすいストーリーで非常に気持ちがいい。
特に当初浮気がバレて恐喝される冴えない中年男だった主人公が昔、戦争時にパイロットだった時の狼の牙を思い出して、逆に恐喝者たちを返り討ちにしようとするプロットは、よくある話だけれども非常に胸の空く展開だ。
この主人公ハリー・ミッチェルに私は「結婚したマーロウ」という感慨を抱いた。

しかしレナードの作品はハリーという名前の男が多いな・・・。

No.597 8点 キルショット- エルモア・レナード 2009/08/16 19:59
ごく普通の夫婦が悪党たちの強盗事件に巻き込まれて命を狙われる羽目になるという、レナードよりもクーンツが得意とする“巻き込まれ型サスペンス”小説だが、レナードが書くと斯くの如き面白い読み物になるのかと感嘆した。

登場人物のリアルさにはさらに磨きがかかり、悪党のアーマンドやリッチーの思考などは正に本物の悪党のそれに思え、巻き込まれるカールスン夫婦、特に夫の鉄骨工ウェインは鉄骨工でしかわからない事をなぜこれほどまでに書けるのかと不思議でならなかった。

特にここぞという時に決めるセリフが今回は更に冴え渡っており、バシバシ決まりまくって心地よかった。

最後のシーンで本当の主人公が解る。この結末はレナードが描いていた物なのだろうけど、読み手側としてはまたしてもレナードにすかされてしまったと感じてしまう。これは読者がどのキャラクターに感情移入するかで変わると思う。

No.596 9点 ホット・キッド- エルモア・レナード 2009/08/15 23:41
レナード節が冴え渡るレナードしか書けない男たちの物語、しかも自身の原点であるウェスタン小説である。
本作の主人公カール・ウェブスター、レナードの作品では今までにないヒーローである。
執行官補である彼は真っ当な正義漢ではなく、実は根っからのガンマンなのだというのが白眉。
その彼のライバルとなるのがジャック・ベルモント。親の手の付けられない悪童がそのまま大人になった男で、根っからのワルである。
しかしここからがレナードの味付けの妙で、このジャックはカールと渡り合うほどには器が大きくならない。ずっと歯牙にもかけられないのだ。

そして最後に迎える2人の対決シーンの結末も意外。ここにカタルシスが欲しかった。まあ、レナードらしいといえばレナードらしいが。

しかし西武開拓時代に腕を競い合った実在の銀行強盗ら悪漢達が躍動する物語は非常に楽しかった。
レナードはまだまだ枯れない!

No.595 9点 殺人にうってつけの日- ブライアン・フリーマントル 2009/08/12 19:59
相手に嵌められ、妻まで奪われて刑務所に入れられた男が出所を機に全てを取り戻すため、復讐を企む。今まで何度も使い古されたプロットであるが、そこはフリーマントル、普通の設定にしない。
なぜなら復讐者ジャック・メイスンこそ、元妻の安定した生活を脅かす悪の存在だからだ。彼はCIA勤務中はロシアに情報を流す売国奴であり、私生活では女を買うのは勿論の事、公然と浮気をし、妻に暴力を振るっていた最低の男なのだ。この通常ならば主人公の宿敵となるべく恐怖の存在を逆に主人公として設定したところにフリーマントルの作家としての一日の長がある。

本書に込められているメッセージとは結局復讐は何も生み出さないということだ。
最近のフリーマントルは英国人特有の皮肉溢れる結末が多く、本書もその例に洩れない。私は読後のカタルシス、特に爽快感を買う方なので、それ故、本書は面白いが、傑作とまでは賞賛できないという結論である。

またアメリカの証人保護プログラムに警鐘を鳴らしている。結局完璧な制度というのはないのだということを痛感させられる。
シンプルながら、色んな内容を包含した作品だし、逆に物語構成がシンプルなだけに彼の本を初めて読む人にはまさに“うってつけの”一冊ではないだろうか。

No.594 10点 ネームドロッパー- ブライアン・フリーマントル 2009/08/12 19:51
旅先での一人旅の女性とのアヴァンチュール。そんな珍しくもない、誰にでも起こりそうな情事が思いもよらぬ災厄をもたらす。そんなありきたりな設定に被害者を身分詐称を生業とする詐欺師に持ってきたところにフリーマントルのストーリーテラーとしての巧さがある。

そして本作ではフリーマントルの手による法廷ミステリの側面を持っているところも読み所だろう。
法廷シーンで繰り広げられる原告側、被告側双方がやり取りする揚げ足の取り合い、トラップの仕掛け合いはものすごくスリリングである。言葉の戦争だとも云えよう。
元々フリーマントル作品には上級官僚が自らの保身、自国の保身のために行う高度なディベートが常に盛り込まれており、すごく定評がある。このフリーマントルのディベート力が裁判という舞台に活かされるのは当然であった。逆に云えばなぜ今までフリーマントルが法廷物を書かなかったのかが不思議なくらいだ。

そして他人の名を借りて身分を偽り、それが偽造パスポートや偽造運転免許証、さらに社会保障番号を知ることで他人に成りすましていたジョーダンが本人であるハーヴェイ・ジョーダンとして訴えられることで、改めて借り物の人生を過ごしてきた自らについてアイデンティティの再認識が成される。だからこそのあの最後のセリフが活きるのであろう。

最近のフリーマントル作品は皮肉な結末が多かったが、本作では非常に胸の空く思いがした。こういう小説を読みたかったのだ。
近年のフリーマントル作品の中でもベストだとここに断言したい。

No.593 6点 キューバ・リブレ- エルモア・レナード 2009/08/11 23:14
レナードの手による歴史小説。スペイン支配下にある1900年直前のキューバを舞台となっている。時代的にはアメリカがスペインからの支配から脱却しようとしている反政府軍を支援し、キューバの独立戦争勃発の前後を描いている。

レナードの物語の特徴として先の読めない展開と各登場人物たちの軽妙洒脱な会話。悪人なのにどこか憎めない奴らといった際立ったキャラクター造形が挙げられるが、今回はいつもの作品と違い、なんとも大人しい感じがした。特に軽妙洒脱な会話と、憎めない悪人どもといった部分が成りを潜め、どこか単調な感じがした。
しかし先の読めない展開については健在。

それでもやはり物足りないのは敵役どもの結末。なんかカタルシスが感じられない。レナードの物語の交わし方は知っているんだけど、やっぱりスカッと感は欲しいわな。

No.592 7点 身元不明者89号- エルモア・レナード 2009/08/11 00:36
長い間、東京創元社が翻訳権を取得しながらも発行しなかったのだが、21世紀も7年を過ぎてようやく日の目を見ることとなった。小学館がレナード作品を上梓しだしたことが契機になったのか、定かではないが、とにかく喜ばしいことだ。

30年前に書かれた本書は、まず主人公となるライアンが令状送達人になった成り行きから、ライアンを取り巻く人間達を描き、そしてライアンが人生の転機となる出来事に遭遇するという至極真っ当な物語展開を繰り広げる。

今回は主人公のライアンよりもむしろ敵役のペレスの方が一枚も二枚も役者が上である。最後、1セントの利益も得られずにライアンから屈辱を与えられながら、ライアンに仕事の依頼をする図太さ。あれこそ本当の男だろう。
自分が何をすべきか解っている男なのだ。

私のレナード作品の評価は主人公を好きになれるかどうかにかかっているようだ。そういう意味ではちと物足りない作品であった。

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