海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

ROM大臣さん
平均点: 6.06点 書評数: 163件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.83 4点 復讐の天使- エリカ・ホルツァー 2022/10/05 17:05
頻発する犯罪に悩まされるアメリカ。犯罪と密接に結びつくミステリでは、こうした現実が作品に投影されることが多いが、そのような作品の中で、単なる道具立て以上の、よりメッセージ色が強い作品が登場するのも当然であり、本書もその一例といえる。
こうした試みは歓迎されるべきものであろうし、犯罪を防ぐために何をなさなければならないか、という作者の心の声も伝わってくる。だが小説として成立させるために、無理が生じ結果としてその力を失ってしまい、退屈な読み物になってしまったようだ。

No.82 6点 ナイト・マネジャー- ジョン・ル・カレ 2022/10/05 16:55
六か月前までカイロのホテル、ネフェルティのナイト・マネージャーだったジョナサン・パインは、チューリヒのホテルで憎むべき敵と遭遇した。その名は、リチャード・ローパー。闇の武器商人であり、ジョナサンが愛した女性、ソフィーを死に追いやる原因になった人物である。
個人的な憎悪を動機に、国際的武器商人に戦いを挑むジョナサン・パインと彼をスパイとして潜り込ませ、イギリス情報内部の武器商人と結託する権力者との必死の駆け引きを開始するレナード・バーの二人の戦いを柱にして描いている。
危険地帯へ送り出したジョナサンの情報が、バーたちの駆け引きの敗北によって漏洩し、ジョナサンは危機に陥る。男の誇りにかけてジョナサンを救出しようとするバーの姿が胸を打つ。

No.81 6点 雷鳴の館- ディーン・クーンツ 2022/10/05 16:46
囚われの乙女を襲う謎めいた怪異の数々というゴシップ・ロマンスの伝統的スタイルを踏まえながら、作者はヒロインを「まな板の上の鯉」的な極限状況にいきなり放り込み、不条理極まるシーンを次々と直面させることによって、ゴシック特有の冗長さを排し、緊迫感あふれるストーリーを展開している。
神も仏も畏れぬ結末のつけ方は、作者らしい。

No.80 5点 古代都市ローマの殺人- ジョン・マドックス・ロバーツ 2022/10/05 16:41
紀元前70年、有力な法律家ホルタルスが、保護を務める法務長官を父に持つ、若きローマ貴族のデキウスは、二六人会の委員としてローマ市内の警備の任に就いていた。その担当地区で、二つの殺人事件が相次いで発生した。
数々の圧力にもめげず、デキウスはついに修道院長に頼み込み、元老院の報告書の封印を解くことに成功するが、そこには思いがけない人物の名前が記されていた。
歴史ミステリの場合、ある程度史実に基づきながら、いかに独自の小説世界を構築していくかというのが、成否の分かれ目の一つとなるが、その点は十分成功しているといえる。

No.79 5点 処刑前夜- メアリー・W・ウォーカー 2022/10/05 16:27
事件解決から10年の歳月を経て、処刑を目前に再び動き出した事件の顛末を描いている。
少々強引すぎる点も見受けられるが、ヒロインの感じる焦燥感、別れた夫の再会や処刑制度への反感、ブロンクが獄中で書いた詩を挿入するなどして、骨太で読み応えのある作品に仕上がっている。
また、モーリーの亡くなった父親にまつわる事件について触れている個所がある。主人公が犯罪ライターという職業を選ぶきっかけとなり、警官である夫との出会いのきっかけともなったこの事件は、モリーという人間を形成する重要な要素であるだけに、もう少し詳しく描き、作品の重層化を図ってほしかった。

No.78 6点 決断- バリー・リード 2022/08/26 12:51
ギャルヴィン弁護士のオフィスに、駆け出しの弁護士ティナが訪ねてくる。薬の副作用で使用者に先天性欠損症のある子供が生まれている。責任をとらない製薬会社に訴訟を起こしたい。新米弁護士の力ではどうにもならないので、自分の代わりに訴訟を引き受けてほしいというのだ。
前半はティナの正義感による薬害訴訟と、あまり動きのない裁判手続きに終始するが、後半に入りこの裁判はイギリスに移り訴訟の可否を左右する関係者が、次々と不可解な死を遂げ、サスペンスが強まっていく。
好男子でその正義感に魅力あるギャルヴィン弁護士。そのラブ・ロマンスもとかく硬く難しくなりがちな法廷ドラマを和らげている。裁判の緊張感を保ちながら意外な結末が待っている。

No.77 4点 片目の説教師- テッド・サクリー・ジュニア 2022/08/26 12:43
あるパーティーでプレスコットは、バーローと喧嘩もどきの一幕を演じ、それ以降ポーカーにのめり込むようになった。ポーカーを通じて町の有力者たちの観察を始めたプレスコットを町から追い出そうとしているかのように、次々と事件が起こり始める。
ポーカーを通じての心理戦、謎めいたところのある主人公の過去、犯人のアクションなど様々な趣向が凝らされている点が興味を引くが、核となる謎に引っ張っていくほどの魅力がないためか、それらの趣向が空回りしている印象を与えてしまう。

No.76 7点 流れは、いつか海へと- ウォルター・モズリイ 2022/08/26 12:36
元刑事の私立探偵オリヴァーが、十数年前に刑事を辞めざるを得なくなった彼自身の冤罪の解明と、死刑宣告された黒人ジャーナリストの無実の証明に奔走する。
過去と現在を巧みに往復しながら、二つの事件を掘り下げて緊迫感を高め、予測できない着地点へと向かう。特にオリヴァーの相棒の時計職人で元犯罪者メルの肖像が出色。メルと共に行う戦慄と恐怖と昂奮の探索と闘争がたまらなく面白い。
決して一様ではない罪悪の認識と正義の捉え方もいいし、節々で示される人生・社会観念も新たな思索を促す。

No.75 6点 神の名のもとに- メアリー・W・ウォーカー 2022/08/26 12:29
テキサス州で活動している狂言的な宗教集団「ジェズリールの家」のメンバーが、スクールバスをハイジャックし、小学生とバスの運転手を人質にとった。教祖のサミュエル・モーディカイは、五十日後には世界が滅亡すると予言し、それ以来、人質たちの生死もわからぬまま、取り締まり側との間には、四十六日間の硬直状態が続いていた。
取材に対するモリーの姿勢、子供たち一人一人の様子、たわいもない冒険物語に秘められた重い戦争体験、関係者の暮らしぶりや考え方、そしてモリーが面倒を見なければならなくなった老犬のしぐさからも、作者はそれぞれの人生とともに、デミングという人物を多面的に浮かび上がらせている。言葉を噛みしめれば噛みしめるほど、デミングの内面がより深く見えてくる。

No.74 5点 過去を失くした女- トマス・H・クック 2022/08/26 12:20
有名デザイナーのイマリア・コヴァロの右腕として働いてきたハンナ・カールスバーグの死体が、顔をめった切りにされ、腕が切断され持ち去られた状態で発見された。カレンの友人イマリアは、ハンナの遺族探しをフランクに依頼する。
作者は一貫として、人の心に潜むミステリを追及している。本作でもフランクの目を通して、ハンナの人生を深く見据えている。真実を描くためには、妥協を許さない厳しい姿勢を感じるが、反対にフランクの眼差しは、あくまで優しく静かで透明である。それは強い信念から生まれた悟りに近いもののように思える。

No.73 5点 心の砕ける音- トマス・H・クック 2022/07/25 14:34
テーマはずばり「運命の女」。現実的な兄と、夢見がちな弟。弟はいつかこの世にたった一人だけ存在する運命の相手が目の前に現れると信じている。そんな兄弟の前に、ある日突然、謎めいた美女が出現する。弟はたちまちのうちに、彼女に恋心を抱くが、困ったことに彼女に惹かれたのは弟ばかりではなかった。
これだけで恋愛文学の永遠のテーマ、三角関係の理想的な解決法への立派なチャレンジになっている。といってもミステリなので、殺人事件が起きて犯人探しが始まってしまうわけだが、それでも兄弟愛を引き裂く恋愛の非情、切なさは、これっぽっちもかすれない。

No.72 6点 名探偵の密室- クリス・マクジョージ 2022/07/25 14:26
かつて少年時代に実際に殺人事件を解決し、今は探偵役としてリアリティ番組で司会を務めるモーガンは、気づくとホテルの一室で拘束されていた。その部屋には見知らぬ五人の男女と、一体の死体。三時間以内に殺人犯を見つけなければホテルを爆破する、というアナウンスが流れるというフーダニット兼脱出ゲームの作品。
物語の主眼は犯人探しよりも、なぜ主人公たちがクローズドサークルに集められたのかというホワイダニットのほうである。物語の中盤、主人公が信頼できない語り手と化し始めてからの気持ち悪さが、そのホワイダニットと結びつく時の驚きが本作の真骨頂でしょう。

No.71 5点 コールド・ファイア- ディーン・クーンツ 2022/07/25 14:18
いかにも作者らしいテーマや道具立てが詰め込まれた作品である。「命綱」という言葉が閃くや、不思議な啓示に導かれるまま、事故や犯罪の現場に駆け付け、死すべき運命にある人々を救うスーパーマンさながらの主人公。一歩間違えばギャグにしかならないような着想を大真面目に展開し、あっという間に読者を術中に取り込んでいく。
本作は、既に使用済みのテーマや道具立てを、全く意外な角度からひっくり返してみせるという荒業に挑んでいる。その手際の鮮やかさには敬意を表する。

No.70 6点 ブルー・ドレスの女- ウォルター・モズリイ 2022/07/25 14:12
物語は仕事を失い、何とか収入の道をと考えていたイージーが、ある日事件に巻き込まれ、抜き差しならない状況に追い詰められ、最後はそれを解決する、というもの。時は一九四八年で、まだ黒人が人間扱いされていなかった時代である。
主人公は謎の女に恋心を抱き、そして束の間の桃源郷を味わった後、想いははかなくついえ去るという一種のラブ・ストーリーである。ミステリの核としての「謎」はこれまでにも登場するパターンであり、どこかで予想がつくのであるが、主人公の一途な思いが陳腐化を危ういところで押し止めている。

No.69 5点 二日酔いのバラード - ウォーレン・マーフィー 2022/07/25 14:04
保険調査員トレースは、社長の頼みでニュージャージーに飛ぶ。療養所で死んだ男の保険金受取人の名義が、家族から療養所所長に変わっていた。家族が訴訟を起こしている。社長の友人もそこに入院しており、その家族が保険金について心配している。調査せよというのだ。
とにかく楽しい。トレースはアルコール中毒で、ニコチン中毒。女性に対する節操はゼロ。トレースの連発するジョークに思わず力が抜けることはあっても絶対に肩はこらない。アル中探偵の悲壮感はゼロで、同居人のチコとの関係や、自分自身の生活設計に関して時々落ち込むが、立ち直りは素晴らしく早い。仕事を嫌がる割には、聞き込みの才能があり、行動力もある。言動は反社会的、差別的、無秩序ながら、的確で風刺的ですらある。

No.68 7点 ブルー・ベル- アンドリュー・ヴァクス 2022/06/16 14:41
ベルは近親相姦で生まれた子供だが、バークと知り合い彼に自分と近い匂いを感じ取って親近感を抱く。やがてなくてはならない存在になった二人に悲劇的な別れが。
アウトローの世界に生きて死ぬと思い定め、バークにすべてを投げ打つ覚悟で愛を傾けるベルのキャラクターが出色。クライマックスは万感胸に迫り、落涙を禁じ得ない。

No.67 6点 恐怖の幻影- ウィリアム・カッツ 2022/06/16 14:35
原因不明の高熱と目の痛みに倒れた後、少女は幻影を見るようになった。それは自分の母親の身に降りかかる災難の光景で、その予言は次々に的中。「受難の超能力少女」物の定型を踏まえた前半部分には、取り立てて新味はないが、後半に物語は一種の法廷サスペンスとして緊迫感を増す。
親しい隣人たちが、得体のしれぬ存在に豹変する不条理な恐怖。相次ぐ危難に描かれているのが印象に残る。

No.66 4点 神の拳- フレデリック・フォーサイス 2022/06/16 14:28
潜入するSASの兵士と、後方で情報を分析する学者を主なストーリーの柱にして、湾岸戦争を舞台にイラクの核にまつわる秘話を描くという趣向。
湾岸戦争という出来事を、膨大なデータを駆使して重層的に描く手腕は感服するが、物語と中の人間ドラマは完全に膨大なデータの中に埋没してしまっている。物語の展開と人間関係がご都合主義的すぎて、読者の興を削ぐ結果となってしまっている。

No.65 6点 殺意の団欒- ジェームズ・アンダースン 2022/06/16 14:21
ストーリーは単純明快。相手を内心で嫌い合っていた夫婦が、家の売却問題を機に殺意を燃え上がらせるに至り、あの手この手で相手を亡き者にしようと企む。
もちろん簡単に成功するわけもなく、当人が間抜けだったり、不運に見舞われたりで計画は片っ端から頓挫するのだが、その様はユーモアやコメディと呼ぶよりギャグに近い。オチも気が利いている。

No.64 7点 インパーフェクト・スパイ- アマンダ・クロス 2022/06/16 14:16
フェミニズムや人種差別を扱ったミステリは、昨今アメリカのミステリ・シーンでは実に多い。作品がその主義主張のための単なる手段になってしまう傾向が無きにしも非ずで、やはりミステリとしての核の部分がしっかりしていないと、それなりの評価を下すことはできない。だが本書に関しては、そんな心配はご無用。
フェミニズムを中心にしながらも、それがプロットと有機的に結びつき、読後もひたすら爽快感が残る。数々の驚きやどんでん返しにも満ちており、何よりもジョン・ル・カレに対する作者の思い入れのほどが感じられるのが嬉しい。

キーワードから探す