皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ROM大臣さん |
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平均点: 6.07点 | 書評数: 149件 |
No.69 | 5点 | 二日酔いのバラード - ウォーレン・マーフィー | 2022/07/25 14:04 |
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保険調査員トレースは、社長の頼みでニュージャージーに飛ぶ。療養所で死んだ男の保険金受取人の名義が、家族から療養所所長に変わっていた。家族が訴訟を起こしている。社長の友人もそこに入院しており、その家族が保険金について心配している。調査せよというのだ。
とにかく楽しい。トレースはアルコール中毒で、ニコチン中毒。女性に対する節操はゼロ。トレースの連発するジョークに思わず力が抜けることはあっても絶対に肩はこらない。アル中探偵の悲壮感はゼロで、同居人のチコとの関係や、自分自身の生活設計に関して時々落ち込むが、立ち直りは素晴らしく早い。仕事を嫌がる割には、聞き込みの才能があり、行動力もある。言動は反社会的、差別的、無秩序ながら、的確で風刺的ですらある。 |
No.68 | 7点 | ブルー・ベル- アンドリュー・ヴァクス | 2022/06/16 14:41 |
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ベルは近親相姦で生まれた子供だが、バークと知り合い彼に自分と近い匂いを感じ取って親近感を抱く。やがてなくてはならない存在になった二人に悲劇的な別れが。
アウトローの世界に生きて死ぬと思い定め、バークにすべてを投げ打つ覚悟で愛を傾けるベルのキャラクターが出色。クライマックスは万感胸に迫り、落涙を禁じ得ない。 |
No.67 | 6点 | 恐怖の幻影- ウィリアム・カッツ | 2022/06/16 14:35 |
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原因不明の高熱と目の痛みに倒れた後、少女は幻影を見るようになった。それは自分の母親の身に降りかかる災難の光景で、その予言は次々に的中。「受難の超能力少女」物の定型を踏まえた前半部分には、取り立てて新味はないが、後半に物語は一種の法廷サスペンスとして緊迫感を増す。
親しい隣人たちが、得体のしれぬ存在に豹変する不条理な恐怖。相次ぐ危難に描かれているのが印象に残る。 |
No.66 | 4点 | 神の拳- フレデリック・フォーサイス | 2022/06/16 14:28 |
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潜入するSASの兵士と、後方で情報を分析する学者を主なストーリーの柱にして、湾岸戦争を舞台にイラクの核にまつわる秘話を描くという趣向。
湾岸戦争という出来事を、膨大なデータを駆使して重層的に描く手腕は感服するが、物語と中の人間ドラマは完全に膨大なデータの中に埋没してしまっている。物語の展開と人間関係がご都合主義的すぎて、読者の興を削ぐ結果となってしまっている。 |
No.65 | 6点 | 殺意の団欒- ジェームズ・アンダースン | 2022/06/16 14:21 |
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ストーリーは単純明快。相手を内心で嫌い合っていた夫婦が、家の売却問題を機に殺意を燃え上がらせるに至り、あの手この手で相手を亡き者にしようと企む。
もちろん簡単に成功するわけもなく、当人が間抜けだったり、不運に見舞われたりで計画は片っ端から頓挫するのだが、その様はユーモアやコメディと呼ぶよりギャグに近い。オチも気が利いている。 |
No.64 | 7点 | インパーフェクト・スパイ- アマンダ・クロス | 2022/06/16 14:16 |
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フェミニズムや人種差別を扱ったミステリは、昨今アメリカのミステリ・シーンでは実に多い。作品がその主義主張のための単なる手段になってしまう傾向が無きにしも非ずで、やはりミステリとしての核の部分がしっかりしていないと、それなりの評価を下すことはできない。だが本書に関しては、そんな心配はご無用。
フェミニズムを中心にしながらも、それがプロットと有機的に結びつき、読後もひたすら爽快感が残る。数々の驚きやどんでん返しにも満ちており、何よりもジョン・ル・カレに対する作者の思い入れのほどが感じられるのが嬉しい。 |
No.63 | 7点 | 11の物語- パトリシア・ハイスミス | 2022/03/24 15:51 |
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巻頭作の「かたつむりの観察者」は、密室劇の趣で、食用かたつむりの飼育観察に熱中するあまり、江戸川乱歩の「鏡地獄」ならぬ「かたつむり地獄」を現出させてしまう男の物語。
作者は、相当な動物好きらしく、他にも「すっぽん」や「からっぽの巣箱」など、動物が絡む話が散見される。特に「からっぽの巣箱」は集中第一と目される傑作で、得体のしれぬ小動物に悩まされる夫婦の不安と葛藤を見事に抉り出して不気味な余韻を残す。 その鮮鋭な筆致は、カフカの不条理掌編に比肩しうるといっても過言ではあるまい。現代人の孤独な内面を蝕む不安と狂気を鮮やかに描き出したハイレベルの短編集である。 |
No.62 | 7点 | サンタクロース殺人事件- ピエール・ヴェリー | 2022/03/24 15:38 |
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フランス東部の小さな町で、雪の降るクリスマス・イブにサンタクロースが殺される。さらに教会で聖ニコラの宝物が盗まれ、謎の人物ド・サンタ・クロース伯爵が登場する。
謎を追求するにつれて、廃墟と化した修道院の地下室や迷路のような地下道の宝物が現れたりして、この名もない田舎町がお伽の国のような非現実性を帯びてくる。謎のありかも日常の現実を突き抜けた彼方にあるようになってゆく。 上質のユーモアと詩情に満ちたファンタスティックミステリ。 |
No.61 | 5点 | 封印された悪夢- フィリップ・マーゴリン | 2022/03/24 15:31 |
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本書は六部に分かれており、現在と過去が錯綜して描かれる。現時点で過去の事件関係者が犯罪に巻き込まれ、再審が始まるのである。処女作らしく、様々な要素が詰め込まれすぎており、未整理の箇所も多い。この事件の経過だけで五百ページを超すのは、途中でいささか退屈になる。
しかし、後半の詰めの部分になってくると、力量が発揮され緊迫感が出てくる。人物描写は類型的で平凡だが、プロットの面白さがこの作者の特徴であり、それが処女作にも出ている。 |
No.60 | 6点 | 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー | 2022/03/24 15:25 |
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一応密室の謎はあるものの、怪奇趣味や複雑極まりない謎といったものはない。だが、それにも増して目を引くのは、全編を支配する強烈なサスペンスである。迫りくる事件を予感させる嵐の鮮烈な描写から始まり、自分の婚約者が毒殺魔かもしれないという、名作「火刑法廷」におけるサスペンスに比肩する。
それにしても、カーはストーリーテリングのうまい作家である。レスリーに対する疑惑の積み重ね、二人の女性の間で揺れ動くディックの心の葛藤など、物語の導入部から興味をひきつけて離さない。 |
No.59 | 6点 | 死者の心臓- アーロン・エルキンズ | 2022/02/21 14:55 |
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スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーの活躍する長編ミステリ。これまでにも外国で事件に巻き込まれることのあったギデオンだが、今回はエジプトで犯罪に直面することになる。
人類学教授のギデオンがエジプトで活躍するという物語は読者にとって興味深いものであるに違いないが、これは別に奇をてらった設定というわけではない。真犯人の陰謀はエジプトでなければ成立しないものであり、舞台と物語は巧みに融合しているのだ。 さらにギデオン夫妻のエジプト観光も面白く描かれており、ラスト近くのアクションシーンもそれなりに評価できる。 |
No.58 | 7点 | 絞首人の一ダース- デイヴィッド・アリグザンダー | 2022/02/21 14:48 |
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収録作には、人間の性や道徳、善悪などといったテーマを真正面から捉えたものが多く、そこにわずかな捻りが加わり、一種奇妙な味わいが生まれている。「そして三日目に」や「デビュー戦」はその代表的な作品で、人生の辛辣な一面を鋭く切り取ったような苦い余韻がなんとも印象的。
「蛇どもがやってくる」や「雨がやむとき」は、いずれも登場人物の焦燥がエスカレートしていく過程のオフビートな面白さが味わえる。 |
No.57 | 6点 | 10ドルだって大金だ- ジャック・リッチー | 2022/02/21 14:43 |
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銀行で金庫の中の勘定が合わなかったことが思わぬ事態を招いてしまう表題作をはじめ、シチュエーション・コメディにも似た軽妙な語り口と、何とも言えない絶妙の捻りのある作品が十四作収録されている。
なかでも、貧乏吸血鬼カーデュラとともに、作者の二大キャラクターともいうべきヘンリー・ターンバックル部長刑事が登場する作品が五遍も入っているのが嬉しい。 主人公のお門違いの推理も愉快だが、その定石が必ずしも守られないという一種ひねくれた趣向もあり、先読みを許さない。読者を煙に巻くその手口は、見事としか言いようがない。 |
No.56 | 4点 | 依頼なき弁護- スティーヴ・マルティニ | 2022/02/21 14:34 |
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法廷ミステリは、設定や登場人物のキャラクターが限られてくるジャンルだけに、型にはまりやすいのも確か。そこへ取ってつけたような家庭問題やロマンスで味付けしても、読者を捕らえ続けるのは難しい。
そういう点で、本書はダメな典型だろう。読みやすくはあるが、その分淡白で緊張感に欠けている。結末も意外性はあるが強引。 |
No.55 | 6点 | 死の拙文- ジル・チャーチル | 2022/02/21 14:25 |
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いつも何かしら事件に巻き込まれ、持ち前の好奇心の強さから探偵役を買って出ることになる、未亡人にして主婦のジェーン・ジェフリイ。
身の回りで起こった殺人事件を主婦らしい日常生活に対する観察力と井戸端会議的な噂話を通じて解決していくというパターンも定着。プロット的にも及第点はつけられるだろう。文章も会話中心でテンポがよく、特にジェーンと隣人のジェフリイとのやり取りなど作者のウィットとユーモアのセンスが冴え渡り実に楽しい。 一定の軽さと品位とユーモアを保ちながら、大いなるマンネリズムへ道を究めてほしい。 |
No.54 | 5点 | 闇に問いかける男- トマス・H・クック | 2022/01/20 16:10 |
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幼女殺しの容疑者を勾留期限が切れるので、それまでに動かぬ証拠を突きつけたいというタイムリミット・サスペンスの体をとっている。
メインは謎の容疑者を巡るストーリーだが、それにいろいろな人の人生が絡んでくる。刑事たち自身の過去や、ゴミ集めの人の鬱屈とか。モジュラー型警察小説みたいな面もある。さまざまな人生の一夜が同時並行的に進行していって、最後には刑事たちの物語に一応の片がついたあと、エピローグ的なところで、いかにも作者らしい感動的なラストが。ただ事件の真犯人に直結する手掛かりが、出来すぎか。 |
No.53 | 7点 | 興奮- ディック・フランシス | 2022/01/20 15:57 |
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イギリス障害競馬場で奇妙な事件が起きていた。人気のない馬が意外な走りで優勝する事態が頻発していたのだ。不正が疑われたが、検査しても薬物の痕跡は何ひとつ浮ばない。いったいどんな手口なのか。
理不尽な悪意、身を切るような屈辱、仲間からの侮蔑。主人公は孤立無援の状況に追い込まれる。だが目的達成のためには耐えなければならない。彼は前に進み続ける。 圧倒的な苦難にさらされる裸の魂。伝統的冒険小説からすべての装飾を殺ぎ落とした後に残る対立構造。これが生み出す強烈なサスペンスとカタルシスは、ほかではなかなか味わえないのではないか。 |
No.52 | 9点 | 山猫の夏- 船戸与一 | 2022/01/20 15:44 |
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ブラジル東北部の憎しみの町エクルウを舞台に、山猫と呼ばれる日本人が、対立するビーステルフェルト家とアンドラーデ家の確執をかきまわすこの壮大な物語は作者の集大成といっていいだろう。対立する両家の長女と長男が駆け落ちし、その捜索を依頼されたのが山猫とサーハン・バブーフで、つまりこの作品は「ロミオとジュリエット」であり、日本人青年の成長物語である。
この小説が開放感と躍動感に満ちているのは、男たちが退屈な日常からはみ出し、自由に呼吸しているからで、力強さに溢れているのは、はみ出したことをだれもが自らの意思で選び取っているからである。そこにはダンディズムという言葉でこぼれ落ちてしまう根源的な汗の匂いと、決してふらつかない強固の意思の響きがある。 作者の凄さは、国境を越えたそういうはぐれた男たちの肖像を、気張らずに淡々と描いているところだろう。 |
No.51 | 8点 | リオノーラの肖像- ロバート・ゴダード | 2022/01/20 15:26 |
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プロットは簡単に要約できるものではないほど錯綜している。語り口も過去の探索物語を一人称で語るという制約から、リオノーラの回想の中に別人物の回想が織り込まれ、さらにまたその中に...という形で重層構造になっている。
この小説を支える中心は「嘘」である。それも真に人間的と呼べる嘘なのだ。そこには友情や親子愛といったさまざまな形の愛のために、どうしても嘘をつかねばならなかった人間がいる。エンディングは感動的でもある。 |
No.50 | 6点 | 警官の証言- ルーパート・ペニー | 2022/01/20 15:15 |
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一九三八年一月、パードンは友人の少佐の新しい屋敷で宝探しを手伝うため、しばらく滞在することになった。少佐が競り落とした古書に財宝のありかを示す暗号が書かれていて、そのために屋敷も購入したらしい。すぐに宝の一部と思われるルビーが見つかるが盗難にあい、さらに執事が何者かに殴られ負傷する事件が起きる。友人のパードンから事件解決の応援を頼まれたビール警部が屋敷を訪れたその時、少佐が死亡しているのが見つかった。
第一部では事件前までの人物や相互関係を服装なども手に取るようにわかるほど事細かに描写し、第二部では物的証拠や証言から犯行を実証していく。二人の語り手の観察眼が全く異なり、それが重大な伏線になる様相が面白い。 |