皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ROM大臣さん |
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平均点: 6.07点 | 書評数: 135件 |
No.75 | 6点 | 神の名のもとに- メアリー・W・ウォーカー | 2022/08/26 12:29 |
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テキサス州で活動している狂言的な宗教集団「ジェズリールの家」のメンバーが、スクールバスをハイジャックし、小学生とバスの運転手を人質にとった。教祖のサミュエル・モーディカイは、五十日後には世界が滅亡すると予言し、それ以来、人質たちの生死もわからぬまま、取り締まり側との間には、四十六日間の硬直状態が続いていた。
取材に対するモリーの姿勢、子供たち一人一人の様子、たわいもない冒険物語に秘められた重い戦争体験、関係者の暮らしぶりや考え方、そしてモリーが面倒を見なければならなくなった老犬のしぐさからも、作者はそれぞれの人生とともに、デミングという人物を多面的に浮かび上がらせている。言葉を噛みしめれば噛みしめるほど、デミングの内面がより深く見えてくる。 |
No.74 | 5点 | 過去を失くした女- トマス・H・クック | 2022/08/26 12:20 |
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有名デザイナーのイマリア・コヴァロの右腕として働いてきたハンナ・カールスバーグの死体が、顔をめった切りにされ、腕が切断され持ち去られた状態で発見された。カレンの友人イマリアは、ハンナの遺族探しをフランクに依頼する。
作者は一貫として、人の心に潜むミステリを追及している。本作でもフランクの目を通して、ハンナの人生を深く見据えている。真実を描くためには、妥協を許さない厳しい姿勢を感じるが、反対にフランクの眼差しは、あくまで優しく静かで透明である。それは強い信念から生まれた悟りに近いもののように思える。 |
No.73 | 5点 | 心の砕ける音- トマス・H・クック | 2022/07/25 14:34 |
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テーマはずばり「運命の女」。現実的な兄と、夢見がちな弟。弟はいつかこの世にたった一人だけ存在する運命の相手が目の前に現れると信じている。そんな兄弟の前に、ある日突然、謎めいた美女が出現する。弟はたちまちのうちに、彼女に恋心を抱くが、困ったことに彼女に惹かれたのは弟ばかりではなかった。
これだけで恋愛文学の永遠のテーマ、三角関係の理想的な解決法への立派なチャレンジになっている。といってもミステリなので、殺人事件が起きて犯人探しが始まってしまうわけだが、それでも兄弟愛を引き裂く恋愛の非情、切なさは、これっぽっちもかすれない。 |
No.72 | 6点 | 名探偵の密室- クリス・マクジョージ | 2022/07/25 14:26 |
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かつて少年時代に実際に殺人事件を解決し、今は探偵役としてリアリティ番組で司会を務めるモーガンは、気づくとホテルの一室で拘束されていた。その部屋には見知らぬ五人の男女と、一体の死体。三時間以内に殺人犯を見つけなければホテルを爆破する、というアナウンスが流れるというフーダニット兼脱出ゲームの作品。
物語の主眼は犯人探しよりも、なぜ主人公たちがクローズドサークルに集められたのかというホワイダニットのほうである。物語の中盤、主人公が信頼できない語り手と化し始めてからの気持ち悪さが、そのホワイダニットと結びつく時の驚きが本作の真骨頂でしょう。 |
No.71 | 5点 | コールド・ファイア- ディーン・クーンツ | 2022/07/25 14:18 |
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いかにも作者らしいテーマや道具立てが詰め込まれた作品である。「命綱」という言葉が閃くや、不思議な啓示に導かれるまま、事故や犯罪の現場に駆け付け、死すべき運命にある人々を救うスーパーマンさながらの主人公。一歩間違えばギャグにしかならないような着想を大真面目に展開し、あっという間に読者を術中に取り込んでいく。
本作は、既に使用済みのテーマや道具立てを、全く意外な角度からひっくり返してみせるという荒業に挑んでいる。その手際の鮮やかさには敬意を表する。 |
No.70 | 6点 | ブルー・ドレスの女- ウォルター・モズリイ | 2022/07/25 14:12 |
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物語は仕事を失い、何とか収入の道をと考えていたイージーが、ある日事件に巻き込まれ、抜き差しならない状況に追い詰められ、最後はそれを解決する、というもの。時は一九四八年で、まだ黒人が人間扱いされていなかった時代である。
主人公は謎の女に恋心を抱き、そして束の間の桃源郷を味わった後、想いははかなくついえ去るという一種のラブ・ストーリーである。ミステリの核としての「謎」はこれまでにも登場するパターンであり、どこかで予想がつくのであるが、主人公の一途な思いが陳腐化を危ういところで押し止めている。 |
No.69 | 5点 | 二日酔いのバラード - ウォーレン・マーフィー | 2022/07/25 14:04 |
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保険調査員トレースは、社長の頼みでニュージャージーに飛ぶ。療養所で死んだ男の保険金受取人の名義が、家族から療養所所長に変わっていた。家族が訴訟を起こしている。社長の友人もそこに入院しており、その家族が保険金について心配している。調査せよというのだ。
とにかく楽しい。トレースはアルコール中毒で、ニコチン中毒。女性に対する節操はゼロ。トレースの連発するジョークに思わず力が抜けることはあっても絶対に肩はこらない。アル中探偵の悲壮感はゼロで、同居人のチコとの関係や、自分自身の生活設計に関して時々落ち込むが、立ち直りは素晴らしく早い。仕事を嫌がる割には、聞き込みの才能があり、行動力もある。言動は反社会的、差別的、無秩序ながら、的確で風刺的ですらある。 |
No.68 | 7点 | ブルー・ベル- アンドリュー・ヴァクス | 2022/06/16 14:41 |
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ベルは近親相姦で生まれた子供だが、バークと知り合い彼に自分と近い匂いを感じ取って親近感を抱く。やがてなくてはならない存在になった二人に悲劇的な別れが。
アウトローの世界に生きて死ぬと思い定め、バークにすべてを投げ打つ覚悟で愛を傾けるベルのキャラクターが出色。クライマックスは万感胸に迫り、落涙を禁じ得ない。 |
No.67 | 6点 | 恐怖の幻影- ウィリアム・カッツ | 2022/06/16 14:35 |
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原因不明の高熱と目の痛みに倒れた後、少女は幻影を見るようになった。それは自分の母親の身に降りかかる災難の光景で、その予言は次々に的中。「受難の超能力少女」物の定型を踏まえた前半部分には、取り立てて新味はないが、後半に物語は一種の法廷サスペンスとして緊迫感を増す。
親しい隣人たちが、得体のしれぬ存在に豹変する不条理な恐怖。相次ぐ危難に描かれているのが印象に残る。 |
No.66 | 4点 | 神の拳- フレデリック・フォーサイス | 2022/06/16 14:28 |
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潜入するSASの兵士と、後方で情報を分析する学者を主なストーリーの柱にして、湾岸戦争を舞台にイラクの核にまつわる秘話を描くという趣向。
湾岸戦争という出来事を、膨大なデータを駆使して重層的に描く手腕は感服するが、物語と中の人間ドラマは完全に膨大なデータの中に埋没してしまっている。物語の展開と人間関係がご都合主義的すぎて、読者の興を削ぐ結果となってしまっている。 |
No.65 | 6点 | 殺意の団欒- ジェームズ・アンダースン | 2022/06/16 14:21 |
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ストーリーは単純明快。相手を内心で嫌い合っていた夫婦が、家の売却問題を機に殺意を燃え上がらせるに至り、あの手この手で相手を亡き者にしようと企む。
もちろん簡単に成功するわけもなく、当人が間抜けだったり、不運に見舞われたりで計画は片っ端から頓挫するのだが、その様はユーモアやコメディと呼ぶよりギャグに近い。オチも気が利いている。 |
No.64 | 7点 | インパーフェクト・スパイ- アマンダ・クロス | 2022/06/16 14:16 |
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フェミニズムや人種差別を扱ったミステリは、昨今アメリカのミステリ・シーンでは実に多い。作品がその主義主張のための単なる手段になってしまう傾向が無きにしも非ずで、やはりミステリとしての核の部分がしっかりしていないと、それなりの評価を下すことはできない。だが本書に関しては、そんな心配はご無用。
フェミニズムを中心にしながらも、それがプロットと有機的に結びつき、読後もひたすら爽快感が残る。数々の驚きやどんでん返しにも満ちており、何よりもジョン・ル・カレに対する作者の思い入れのほどが感じられるのが嬉しい。 |
No.63 | 7点 | 11の物語- パトリシア・ハイスミス | 2022/03/24 15:51 |
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巻頭作の「かたつむりの観察者」は、密室劇の趣で、食用かたつむりの飼育観察に熱中するあまり、江戸川乱歩の「鏡地獄」ならぬ「かたつむり地獄」を現出させてしまう男の物語。
作者は、相当な動物好きらしく、他にも「すっぽん」や「からっぽの巣箱」など、動物が絡む話が散見される。特に「からっぽの巣箱」は集中第一と目される傑作で、得体のしれぬ小動物に悩まされる夫婦の不安と葛藤を見事に抉り出して不気味な余韻を残す。 その鮮鋭な筆致は、カフカの不条理掌編に比肩しうるといっても過言ではあるまい。現代人の孤独な内面を蝕む不安と狂気を鮮やかに描き出したハイレベルの短編集である。 |
No.62 | 7点 | サンタクロース殺人事件- ピエール・ヴェリー | 2022/03/24 15:38 |
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フランス東部の小さな町で、雪の降るクリスマス・イブにサンタクロースが殺される。さらに教会で聖ニコラの宝物が盗まれ、謎の人物ド・サンタ・クロース伯爵が登場する。
謎を追求するにつれて、廃墟と化した修道院の地下室や迷路のような地下道の宝物が現れたりして、この名もない田舎町がお伽の国のような非現実性を帯びてくる。謎のありかも日常の現実を突き抜けた彼方にあるようになってゆく。 上質のユーモアと詩情に満ちたファンタスティックミステリ。 |
No.61 | 5点 | 封印された悪夢- フィリップ・マーゴリン | 2022/03/24 15:31 |
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本書は六部に分かれており、現在と過去が錯綜して描かれる。現時点で過去の事件関係者が犯罪に巻き込まれ、再審が始まるのである。処女作らしく、様々な要素が詰め込まれすぎており、未整理の箇所も多い。この事件の経過だけで五百ページを超すのは、途中でいささか退屈になる。
しかし、後半の詰めの部分になってくると、力量が発揮され緊迫感が出てくる。人物描写は類型的で平凡だが、プロットの面白さがこの作者の特徴であり、それが処女作にも出ている。 |
No.60 | 6点 | 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー | 2022/03/24 15:25 |
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一応密室の謎はあるものの、怪奇趣味や複雑極まりない謎といったものはない。だが、それにも増して目を引くのは、全編を支配する強烈なサスペンスである。迫りくる事件を予感させる嵐の鮮烈な描写から始まり、自分の婚約者が毒殺魔かもしれないという、名作「火刑法廷」におけるサスペンスに比肩する。
それにしても、カーはストーリーテリングのうまい作家である。レスリーに対する疑惑の積み重ね、二人の女性の間で揺れ動くディックの心の葛藤など、物語の導入部から興味をひきつけて離さない。 |
No.59 | 6点 | 死者の心臓- アーロン・エルキンズ | 2022/02/21 14:55 |
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スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーの活躍する長編ミステリ。これまでにも外国で事件に巻き込まれることのあったギデオンだが、今回はエジプトで犯罪に直面することになる。
人類学教授のギデオンがエジプトで活躍するという物語は読者にとって興味深いものであるに違いないが、これは別に奇をてらった設定というわけではない。真犯人の陰謀はエジプトでなければ成立しないものであり、舞台と物語は巧みに融合しているのだ。 さらにギデオン夫妻のエジプト観光も面白く描かれており、ラスト近くのアクションシーンもそれなりに評価できる。 |
No.58 | 7点 | 絞首人の一ダース- デイヴィッド・アリグザンダー | 2022/02/21 14:48 |
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収録作には、人間の性や道徳、善悪などといったテーマを真正面から捉えたものが多く、そこにわずかな捻りが加わり、一種奇妙な味わいが生まれている。「そして三日目に」や「デビュー戦」はその代表的な作品で、人生の辛辣な一面を鋭く切り取ったような苦い余韻がなんとも印象的。
「蛇どもがやってくる」や「雨がやむとき」は、いずれも登場人物の焦燥がエスカレートしていく過程のオフビートな面白さが味わえる。 |
No.57 | 6点 | 10ドルだって大金だ- ジャック・リッチー | 2022/02/21 14:43 |
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銀行で金庫の中の勘定が合わなかったことが思わぬ事態を招いてしまう表題作をはじめ、シチュエーション・コメディにも似た軽妙な語り口と、何とも言えない絶妙の捻りのある作品が十四作収録されている。
なかでも、貧乏吸血鬼カーデュラとともに、作者の二大キャラクターともいうべきヘンリー・ターンバックル部長刑事が登場する作品が五遍も入っているのが嬉しい。 主人公のお門違いの推理も愉快だが、その定石が必ずしも守られないという一種ひねくれた趣向もあり、先読みを許さない。読者を煙に巻くその手口は、見事としか言いようがない。 |
No.56 | 4点 | 依頼なき弁護- スティーヴ・マルティニ | 2022/02/21 14:34 |
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法廷ミステリは、設定や登場人物のキャラクターが限られてくるジャンルだけに、型にはまりやすいのも確か。そこへ取ってつけたような家庭問題やロマンスで味付けしても、読者を捕らえ続けるのは難しい。
そういう点で、本書はダメな典型だろう。読みやすくはあるが、その分淡白で緊張感に欠けている。結末も意外性はあるが強引。 |