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よんさん
平均点: 6.49点 書評数: 63件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.43 6点 江ノ島西浦写真館- 三上延 2023/06/12 13:46
物語は新年早々、桂木繭が江の島を訪れる場面から始まる。昨秋亡くなった祖母の遺品整理で、家は百年間営業を続けた写真館だった。
遺品の中には「未渡し写真」の缶があり、繭は青年・真鳥とともに一つ一つの写真に秘められた謎を明かしていく。やがてそれは、繭自身の過去へとつながることになる。
時代も場所も異なるのに同じ青年が移っている四枚の写真、繭が大学入試の時に撮られた写真、土産物屋の主人が探るキャビネットの謎、二人の男性が並ぶ記念写真の秘密など、四話形式であるけれど、どれも緩やかに、だが主題的には緊密に支えあう内容になっている。
謎自体が小粒だし、大胆な展開もないに等しい。それでも落ち着いた艶やかな叙情は美しく心地よい。

No.42 7点 闇に香る嘘- 下村敦史 2023/06/12 13:33
全盲の村上和久は、腎不全の孫娘に腎臓を与えようとするが、検査では不適合。そこで兄に移植を頼むが検査すら拒否する。中国残留孤児の兄が永住帰国した時、村上はすでに失明していた。もしかしたら兄は偽者なのか。
目が見えないことをサスペンス醸成とどんでん返しの有効な戦略として生かしている。日中間の戦争の記憶を巧みに物語に入れ、捻りをきかすのもいいし、腎臓移植問題を家庭内での愛憎を湧き起こすテーマに据えていて、興趣を盛り立てている。
人物が役割の域を出ていなくて、物語の厚みに欠ける部分もあるが、伏線の回収とツイストとどんでん返しなどが計算され尽くしている。

No.41 5点 レプリカたちの夜- 一條次郎 2023/06/12 13:20
とある工場でシロクマを目撃するところから始まる、風変わりな小説。
ここでは、シロクマをはじめ、多くの動物たちが絶滅している。シロクマが現れた工場は、絶滅してしまった動物たちをリアルに再現するレプリカ工場なのである。最初は、工業製品を扱う現場の描写とともにシロクマの謎に引き込まれていくのだが、シュールで不条理な展開が次々に畳みかけられ戸惑う。
奇妙な登場人物の言動に思わず笑ってしまうが、直後にひどくぞっとする。奇想天外な小説。

No.40 6点 彼女がエスパーだったころ- 宮内悠介 2023/06/12 13:11
サル学、超能力、脳科学、終末医療、信仰などを真面目に「疑似科学」視点で描いた短編集。
ミステリタッチを装いながら「人間」という迷宮に入り込む。本書の中心にある一編は傑作。「ありがとう」と、水に声をかけるとそれが伝わり、水が浄化される。その現象を利用して、海上型原発の事故に頭を悩ます日本を救おうとする科学者の企み。
本書全編を通じて浮き彫りになるのは、集団と個の境界の限界、「伝わる」ことの怖さ。どれも荒唐無稽な設定だが、今の日本の未来なら、ありうる話。作者の予知能力かもしれない。

No.39 7点 月の満ち欠け- 佐藤正午 2023/06/12 13:01
いくつもの人生を俯瞰して、語る時間と視点を変えてモザイク状に示し、物語に驚きと昂奮を与え、人生の真実の断面を垣間見せるという方向へ持っていく。
東京駅における二時間の現在に、数十年に及ぶ複数の人生の過去を並行させて、実に巧みに物語っていく。生まれ変わりをスピリチュアルな視点から捉えるのではなく、愛の可能性と不可能性といった佐藤正午的なロマネスクに織り上げていくのがなんとも心憎い。
また洗練されたストーリーテリング、緻密なプロット、生きることの奥深さをしみじみ味あわせる余韻など、作者の魅力が発揮されている。

No.38 6点 償い- 矢口敦子 2023/03/23 13:17
主人公は、ある残酷な出来事を機にすべてを捨てホームレスとなった元教師・日高。住処とした町で殺人が相次ぎ、探偵役を担った彼は、ふとしたことから、かつて自分が命を救った少年が犯人ではと疑いを始める。
絶望と罪悪感を背負い苦悩する日高と、不幸な人は死ねば不幸を感じずに済むという殺伐とした考えを持つ15歳の少年。他人の心を傷つけた者は、どう裁かれるべきか。無価値に思える自分の人生とどう対峙したらいいのか。そんな切実な心の叫びが強く響いてくる。
本作には、社会的弱者に対する温かいメッセージが込められている。もちろん主人公が探偵役として活躍する、謎解きの骨格もしっかりしている。

No.37 7点 IQ- ジョー・イデ 2023/03/23 13:04
主人公はその名の通り、高い知能を持つ黒人の青年。ご近所の悩み事を解決するうちに名が広まり、探偵となった。
物語は最愛の兄を奪った過去のひき逃げ事件と、現在の有名ラッパーの暗殺未遂事件が絡み合う。アイゼイアの佇まいがとても良い。スラングやヒップホップといった黒人コミュニティーを舞台に帰納的推理で事件の瑕瑾を見つけ出していく。ぐいぐいと引き込まれる作品。

No.36 5点 幻視- 米山公啓 2023/03/23 12:56
作者の医学知識を活かした疫病ホラー。コンサート会場でロック歌手が怪死したのを皮切りに、日本各地で突如出血死する事件が連続する。原因究明に奔走する医学者たちが突き止めた驚愕の真相とは。
根幹をなすアイデアはまずまずなのだが、ストーリー展開が平板で、せっかくの着想を活かしきれていない印象。終盤が、かなりサスペンスフルなだけに残念。

No.35 6点 三人目の幽霊- 大倉崇裕 2022/12/06 15:02
落語雑誌の新米編集者の緑と編集長のコンビで落語界の事件を解決する。
幽霊は不思議な現象として語られる対象となっているので、これに合理的な解決を与えると場合によっては、幽霊と思ったら実は枯れ尾花、のような興ざめになりかねない。だが本作のように江戸の文化を引き継いでいる落語の中で語られると、少々アクロバティックな推理展開は不思議な現象と相俟ってうまく噺として収まってくれる。
探偵役の編集長に対し、緑は自らが積極的に推理することは少ないのだが、幽霊をはじめとする事件が「お噺」とすれば、緑を介して読者がお噺を聞くという形式になるのも納得できる。

No.34 6点 凍りのくじら- 辻村深月 2022/12/06 14:50
主人公は高校生の芦沢理帆子。容姿にも頭脳にも恵まれた彼女は他人を冷めた目で見ている。だが、ひとりの青年との出会いによって硬直した心が少しずつほぐれていく。
物語の前半、理帆子の周囲を見下す姿勢が鼻につく人もいるかもしれない。でも読み進めると、それは未熟な十代が虚勢を張った姿だとよく分かる。しかしだからこそ、後半明らかになる魔法のような出来事が胸を打つ。辻村作品にはいつも深い闇と、そこに差し込む光が描かれる。本作は特にその光度が強い、「自分のことが書かれている」と思い、救いを感じたという若者が多いのもうなづける。

No.33 7点 硝子細工のマトリョーシカ- 黒田研二 2022/12/06 14:39
スタジオドラマを舞台にしたスタジオドラマという設定。
入れ子細工の構造は、題名にも堂々謳われている。それでも騙されてしまう。やりたかったネタが明確であり、またその先にある応用にしても、ネタに対して最上のものが選ばれている。文学的なテーマなどはない。狙いはミステリとしての技巧のみといった作品。

No.32 5点 空の王- 新野剛志 2022/11/21 13:49
日中戦争前夜の不穏な空気。謎の美女が絡む、一難去ってまた一難の連続。自身の抱えた大義に、あるいはロマンティシズムに駆られて命を賭ける男女。
飛行機を駆ることを愛する男の冒険として、危険な時代の物語としてワクワクさせる魅力でいっぱいの小説。ただし、物語が動き出すまでが長く、序盤は冗長に感じるかもしれない。

No.31 6点 神渡し- 犬飼六岐 2022/11/21 13:38
幼馴染みで同じかわら版売りをしている利吉が殺された事件を追う才助が、虐げられた女性を救っている浄泉尼の周囲で続発する不可解な事件に巻き込まれていく。
大奥に認められ、遊行僧から浄土宗の大僧正になった祐天上人の事跡を踏まえながら、法力が引き起こしたかに見える事件をロジカルに解いている。ラストには陰謀の意図が実際に起こったスキャンダルに繋がっていくだけに、歴史ミステリ的な広がりがある。

No.30 7点 雷神- 道尾秀介 2022/11/21 13:27
妻の死に関する辛い真相を、幸人は娘の夕見に隠し続けてきた。しかし「娘に真相を明かす」という脅迫電話がかかってきた。密かに苦悩する父に、娘は幸人が三十年前に離れた故郷へ行きたいと訴える。
小さな村で起きた過去の事件に空白を、記憶と記録を頼りに埋めていく。そこから浮かび上がる真相と、その衝撃。作者の技巧の冴えを堪能できる物語である。すべてが収束した後に訪れる最後の一撃も強烈。

No.29 5点 忘れな草- 赤川次郎 2022/10/31 13:37
謎めいた青年の出現によって、ヒロインの少女を取り巻く小市民的世界が無残に瓦解してゆくさまを、静かな筆致で描いた作品。
きほんてきには、いたってオーソドックスな怨霊譚なのだが、TVドラマ「高校教師」そこのけエピソードを交えることによって、手の内をしかと明かさぬまま、結末まで引っ張っていく手腕はさすがである。

No.28 6点 民宿雪国- 樋口毅宏 2022/10/31 13:29
トリッキーな仕掛けと血まみれのショッキングシーンが用意された第一・二章、某有名人らしき人物を登場させた第三章を丸ごと伏線に配し、嘘で固めた民宿の主であり画家であり、希代の殺人鬼である男の正体を白日の下に晒しつつ、この国が戦中戦後に行ってきた欺瞞の数々も浮かび上がらせる問題作。

No.27 5点 霊名イザヤ- 愛川晶 2022/10/31 13:21
幼稚園を舞台に中世キリスト教の異端の世界に踏み込んでいる。
童話作家でもある園長の不可解な過去と奇妙な発作、いわくありげな新任保母の言動、そして園長の娘の探偵行。
説明的なところが時折興を殺ぐが、オカルティックな出来事を次々と提示し、それが合理的に解決されるまでの物語で新境地を見せた一作。

No.26 6点 小暮写眞館- 宮部みゆき 2022/09/06 12:59
花岡英一の変わり者の両親が所得した念願のマイホームは、下町の寂れた商店街に建つ廃業した写真館だった。亡くなった店主の幽霊が出るという噂も流れるなか、この写真館で現像したという奇妙な写真が持ち込まれた。
ミステリや幽霊譚の味わいを加味しながら、英一の日常を描き、その過程で一家が抱える心の傷や、死者への哀悼の念などを、古びた写真館を介在させて鮮やかに浮かび上がらせている。

No.25 5点 硝子の葦- 桜木紫乃 2022/09/06 12:50
さまざまな人間関係が交錯しながら、それぞれの愛と憎しみの形が増幅し、カタストロフに至るまでを描いていく。
主人公の内面描写を極力排し、感情を抑制した静謐で味わい深い文体は、ハードボイルドにも合致するだろう。そして内容は桐野夏生の「OUT]を想起させる。

No.24 4点 時計を忘れて森へいこう- 光原百合 2022/09/06 12:41
十六歳の高校生、若杉翠を主人公にした連作。彼女が八ヶ岳の麓で自然解説指導員の深森護とともに、身近で起こった事件の謎解きを進めていく。
自然の風景に溶け込んでいる名探偵の姿は心地良いが、精神的に翠が幼すぎで、彼女が感じる疑問が謎解きのテーマとしては弱い。
一人の少女の成長物語として読んだほうがいいかもしれない。

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