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◇・・さん
平均点: 6.08点 書評数: 163件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.83 4点 シャーマンは歌う- ジェイムズ・D・ドス 2022/10/03 19:48
冬の近づいたある夜更け、南ユート族に属するシャーマンの老女は目に見えぬ小人の使者の声を聞いた。何か恐ろしい異変が起ころうとしているのだ。
科学技術に関する謎の設定とシャーマンに見られる神秘主義の融合が売りのようだが、その二つが有機的に結びついているとは言い難い。全体的な構成もぎこちなく、登場人物の描き方や結末の捻りといった点でも多くの不満が残る。

No.82 4点 チャイナ・ウォー13- ボブ・メイヤー 2022/10/03 19:42
様々な立場の人間が最善を尽くそうと努めながらも、実際には駒として利用されていただけというのは、軍事ものやスパイものの常道ではあるのだが、本書ではその最も単純な図式が用いられている。
事情を全く知らされずに現地へ飛ばされた兵士たちばかりではなく、その計画を練った人物もまた、さらに大きな力によって操られていたというだけのことだ。ラストシーンで語られる新聞記事にしても、ある意味では極めて類型的なオチといえるものである。ミステリ的な要素もなくはないが、ラストも付け足しのような印象が強く、これだけで謎解きと呼ぶのには明らかに無理がある。

No.81 7点 死の舞踏- ヘレン・マクロイ 2022/09/23 18:33
一九三〇年代のマンハッタンが舞台。雪の中から、高熱を発する死体が見つかる。謎の死体は誰か、なぜ寒い雪の中でも死体が熱を発していたのかと謎の設定が魅力的。
事件の鍵を握る若い女性は、自分が別の人間と間違えられていると訴える。彼女の精神が正常ならば、なぜこのような奇妙な状況に置かれているのか。都会に生きる者のアイデンティティ・クライシスを背景に、混迷を極めた物語は、カタルシスへと導かれる。

No.80 6点 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン 2022/09/23 18:28
短い中にも二転三転、プロットは目まぐるしくどんでん返しをし、万華鏡さながらの様相を呈する。
物語の主題は現代的だが、普遍的な人間性に裏打ちされている。神聖さと俗っぽそが混じった独特の手触りがある。

No.79 5点 赤い館の秘密- A・A・ミルン 2022/09/10 06:20
全編に漂う呑気さ、殺人事件が起き館の主人が失踪しているのに、全く緊張感のない面々。探偵役のアントニー・ギリンガムとワトソン役のビル・べヴリーの漫才のような掛け合い。ユーモラスな各登場人物の言動・行動。
プロットが雑でトリックに無理がある。本作はお伽噺として読むのがベスト。

No.78 9点 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー 2022/09/10 06:15
本書の魅力は、密室トリックの解明にあるというより、読者を錯覚させるカーの手腕の巧みさにあるといえる。それはまさに芸術と呼ぶにふさわしい情報提示の巧みさであり、また棺やトランシルヴァニアというガジェットの使い方の巧みさである。

No.77 5点 フェイスメーカー- ウィリアム・カッツ 2022/08/30 19:49
作者がも最も得意とする都会派ホラー・サスペンスに、医学的な猟奇趣味の薬味を利かせた意欲作。
完璧な美貌の創造に憑かれた医師と、彼の被造物たるヒロインとの対決という構図には、フランケンシュタイン幻想の遥かな反映が認められよう。
扱い方によっては相当にスプラッターするはずの素材をサラリと書いてしまうあたりが、作者の都会派たる所以でもあるわけだが、反面いささか迫力不足の感があることも否めない。

No.76 5点 ハルイン修道士の告白- エリス・ピーターズ 2022/08/30 19:41
このシリーズでは若者の恋愛が描かれることが多いが、本書では二つの恋愛がテーマになっている。一つは結ばれることのなかったハルインとバートレイドの恋愛、もう一つは、小貴族センレッド・ヴィヴァーズの妹ヘリセンディとセンレッドの息子ロースランの恋愛である。
作者の温かい目は、その双方に救いを与えており、そのことが殺伐した物語を爽やかにしている。

No.75 4点 ハッテラス・ブルー- デイヴィッド・ポイヤー 2022/08/30 19:37
作者は海軍兵学校出身者で、小説の舞台であるハッテラス岬に詳しい。海底の様子やダイビングのテクニック、水中爆破作業など、深い経験に裏付けされた描写には迫力がある。
物語は、一九四五年と現代のハッテラス岬が交互に描かれていく。登場人物と歴史的事実の結びつきが安易で、ご都合主義なところが見受けられ、終結は冒険小説特有のハッピーエンドで終わり残念。

No.74 6点 雨に祈りを- デニス・ルヘイン 2022/08/10 23:20
ストーカーに悩まされている女性の窮地を救うところから始まるが、簡単に解決したはずの事件が、実は終わっていなかったというところから、複雑な様相を呈していく。その裏側に潜む真実を捜し出すパトリックとアンジーの活躍を色彩感豊かに描いていく筆致の冴えは、さすが。人物造形も、巧みな構成も、特筆ものといっていい。特に幼馴染の殺人者ブッバの活躍が光っている。

No.73 5点 ミスティック・リバー- デニス・ルヘイン 2022/08/10 23:16
哀しみに彩られたクライム・ノベル。喜びは一瞬、哀しみはいつまでも居座るという言葉が出てくるが、まさにそんな哀しみを内に抱えて生きる男たちの悲痛な物語。
無理矢理人生を変えられ、もはや誰も信じられなくなった男たち。そんな彼らの姿に苦悩を深める家族たち。作者は祈りに満ちた眼差しで、傷つき、汚れ苦しむ者たちの心を慰撫していく。極めてエモーショナルな作品。

No.72 6点 切り裂かれたミンクコート事件- ジェームズ・アンダースン 2022/07/26 17:24
一九二〇年代から三〇年代にかけて英国で隆盛を極めたカントリーハウス・ミステリのパスティーシュになっているのが楽しい。あのイネスやアプルビイ警部やマーシュのアレン主任警部と並んでスコットランドヤードの三羽烏と称される名警視がロンドンから乗り込んでくるくだりは、ニヤリとさせられることしきり。遊び心満載の一冊。

No.71 6点 赤髯王の呪い- ポール・アルテ 2022/07/26 17:19
作者の実質的処女作。小屋の中から消えた少女という見事な密室トリックが盛り込まれている。舞台となるその地方で囁かれる恐ろしい呪いや、死んだはずの少女が起こす殺人という怪奇性も充分で少しも飽きさせない。
しかも、主題性や叙述性の部分で日本の新本格との共時性が深く、実に興味深い。

No.70 5点 草の根- スチュアート・ウッズ 2022/07/26 17:15
暴行殺人容疑者の裁判と上院議員選を控えたウィルの選挙行動と、奇怪な殺人者を追うキーン刑事の捜査活動が交互に進行する。
これがどう結びついてクライマックスを盛り上げるか。ややご都合主義的な点はあるが、南部ならではの特異性や差別思想が引き起こす事件を、よく書き込んだ土着ミステリである。

No.69 7点 女刑事の死- ロス・トーマス 2022/07/26 17:11
玄人好みとか職人芸、作家が敬愛する作家などと言われた、逆に言えば一般受けのしなかった作者。
妹の死の謎という題材ながら決して感傷に溺れない文章、複雑なストーリー、リアルで個性的な登場人物の描写と、彼らの冴えた会話、深い余韻。

No.68 7点 利腕- ディック・フランシス 2022/07/26 17:08
勝利を約束されたような人気の本命馬が、次々とレースに負けていく不可解な現象が起こっていた。ハレーは、ジョッキイ・クラブの不正疑惑と先妻の巻き込まれた詐欺事件を調べる傍ら、調査に着手する。
大がかりな謀略も派手なアクションも登場しない。にもかかわらず、最後まで惹きつけて離さないのは、いったん脅迫に負けて自尊心を失ったハレーが、いかにしてそれを取り戻すかが軸になっているからだろう。

No.67 8点 カラマーゾフの兄弟- フョードル・ドストエフスキー 2022/06/30 19:04
ここには愛と憎しみ、淫蕩と純潔、金銭欲と殺人、悪と恥辱、無神論と信仰、人間の低劣さと高潔さが詰まっており、その作品世界ははるか後に生きる私たちさえも射程に入れているのだ。
この小説には、生と死の根源的な問題を、ぐっと鷲摑みして読者を虜にしたら離さない力が備わっている。価値のよりどころが曖昧なまま、生活を送る者がこれ読めば、頭を殴られたような衝撃を覚えるに違いない。

No.66 6点 呪われた極北の島- イアン・キャメロン 2022/06/30 18:57
鯨の墓場を探しに行ったまま行方不明となった青年を探索する三人の男の物語。
前人未到の地を大ぞりで駆け抜けようとするが、食料が尽き飢餓に瀕し、猛吹雪に襲われ、不可解な雪崩が起き、謎の部族から襲撃を受けてと次から次へと襲ってくる脅威との闘いはまさに興奮の連続。

No.65 5点 ジョン・ランプリエールの辞書- ローレンス・ノーフォーク 2022/06/30 18:52
ロンドンの地下に潜む秘密組織、東インド会社をめぐる陰謀、空飛ぶ男、ユグノー弾圧、インドの殺し屋、自動人形などガジェットが満載。
とにかく壮大な、相当広い家じゃないと広げきれないような大風呂敷の特大バロック小説で、爆笑しながら読みました。

No.64 6点 みちのくの人形たち- 深沢七郎 2022/06/30 18:48
自己の意識内に置かれた事象たちは我々たちにとって安全で親しいが、その親しさの中から俄かに顔を出す「家中にあって家中にあらざるもの」、それが「不気味なもの」だ。
この小説は、一見親しく穏やかな日常世界を描きながら、ある瞬間、不意に読者を「不気味なもの」と出会わせ、その暗中で孤絶させる。
不気味さはその内容以上に、独特な語り口にある。文末「と言う」、「のだ」の多用や、語り手を殊更無学に見せるための故意に稚拙な文体。それら表現方法は深沢の真骨頂だが、彼の小説は一個人が外部に晒されることの衝撃を超え、日本という共同体さえ脅かす危険な他者性をはらんでいる。

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ひとこと
若い頃に海外の有名古典は、ほとんど読んだ。今現在は、斜め読みというかたちで、再読している。
歴史的価値は、多少考慮しながら採点したいと思いいます。
好きな作家
クリスティー
採点傾向
平均点: 6.08点   採点数: 163件
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