皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ことはさん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 293件 |
No.5 | 6点 | 青玉獅子香炉- 陳舜臣 | 2025/08/31 03:24 |
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やはり表題作「青玉獅子香炉」がよい。それ以外の作は、異国を舞台にして旅情がある作品が多いのは陳舜臣らしくてよいところだが、記憶に残る作品ではないかな。
「青玉獅子香炉」は、時間軸、舞台ともスケールが大きく、読み応えがあり、これはいい。 あと、「青玉獅子香炉」のラストが釈然としなかったので、AI(MicrosoftのCopilot)に聞いてみたら、実に的確な回答があった。なるほどねぇ。 なるほどとは思ったが、主人公は、他者からの評価より、香炉そのものを愛していたと思うので、ここは、再会の感激を描いてほしかったなぁ。 |
No.4 | 5点 | 枯草の根- 陳舜臣 | 2025/06/16 00:44 |
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これは再読。といっても、相変わらずまったく覚えていなかった。
1章で複数の人物の動向並列してが描かれ、どう絡んでいくのかと思わせる。その後もじっくりと人物を描き、事件が起こるのは、300ページ中の70ページというところで、中期クリスティーを思わせる構成だ。 「全体は手堅い作りで、プラス、なにか”ひき”がある」作品というところは、乱歩賞らしい。”ひき”はもちろん探偵役の陶展文。中国人という出自に特色があるが、落ち着いた、ちゃんとした大人といった感じで、最近のミステリのようなキャラ立ちはなく、地に足のついたキャラだ。 ミステリとしては、手がかりをきっちり配置し名探偵が解くというところが、ちゃんとしていて、読み心地がよい。まあ、わかりやすすぎる感が、しなくもない。 作者が書きたかった部分は、動機を語る終章のように感じたが、これはホームズの長編のようで、古典的すぎる。なかなか社会派の動機だが、他のシーンと雰囲気が違いすぎで、違和感を感じた。 |
No.3 | 7点 | 玉嶺よふたたび- 陳舜臣 | 2025/06/16 00:41 |
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これは好みだ。
ミステリ味は薄いのだが、話の作りは「のっぴきならない状況に追い詰められる男の話」なので、ジャンル分けはミステリとでいいと思う。まあ、でも、読みどころは、主人公と周辺の人物のドラマだろう。陳舜臣が得意とする、近過去の中国を舞台にした話で、異国情緒や伝承が物語を彩る。 特筆すべきはヒロインで、これは魅力的だ。ラストシーンでヒロインの気持ちに焦点があたる構成も見事だが、その中でも、最後の会話で交わされる「もし……ならば、どう表現したらいいでしょうか?」の回答は、ヒロイン像をくっきりと浮かび上がらせていて素晴らしい。 あと、今回、双葉文庫の日本推理作家協会賞受賞作全集で読んだが、解説の後半は、事前に読んでは駄目。ほぼラストまであらすじを書いてしまっている。事前に読まなくてよかった。 |
No.2 | 5点 | 孔雀の道- 陳舜臣 | 2025/06/16 00:39 |
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この最後に見えてくる全体の構図は、かなり好みだ。とくにヒロインの母の肖像は、印象深いものがある。少し登場人物の心理に無理がある感じはしたが、この構図のためならば、やむを得ないところだろう。
しかし、それ以外はあまりのれなかった。 要因は、物語当初から始まる「真相を探ろうとする昔の事件」があまり魅力的でないことと、主人公の男が事件に関わる動機が弱いので、読むモチベーションもあがらないところだと思う。 現代の事件も起きるので、読者の興味が分散されるし、それだけでなく、途中で登場人物たちも謎解きの意欲がなくなってしまうので、物語の方向性もみえなくなる。このあたりは、ミステリ的興趣は薄く、かなり普通小説よりという感じがした。 まあ、それでも、神戸、富山、長野、広島などを渡り歩くのは旅情があり、中でも、善光寺や原爆資料館のシーンは印象深い。双葉文庫の解説によると、昭和43年に新聞連載したとのことで、原爆資料館のシーンがよいのは、第二次世界大戦の記憶がまだ生々しいからなのだろう。 |
No.1 | 5点 | 方壺園- 陳舜臣 | 2025/04/05 20:58 |
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ちくま文庫版で読了。旧版の「方壺園」からの6作は、どれも不可能犯罪を絡めている。表題作はなかなか個性的な仕掛けで面白いが、他はそれほど魅力的な仕掛けではなかった。そもそも、不可能犯罪を扱っているが、不可能性に着目したストーリー展開ではない。
それより、読みどころは世界設定だろう。旧版の「方壺園」からの6作のうち、5作の舞台は現代でなく、4作は日本ですらない。異世界での異常な事件を読むのが、主な楽しみだ。ちくま文庫で追加収録された3作も、ミステリというより歴史秘話といった趣で、あわせて考えると、陳舜臣の楽しみは、異世界での異常な事件が主ということだろう。全体的に、謎と解決といったミステリ的興趣は薄いので、新本格のような作風が好きな人にはあわないとおもうが、ちょっと他にはない舞台設定もあるので、個性的な味わいがある。 |