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ことはさん
平均点: 6.28点 書評数: 254件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.9 7点 煉獄の時- 笠井潔 2024/05/26 12:38
いやあ、長かった。
長さを感じたのは、第二次世界大戦の前後の時代を描いた第2部が、なかなか読みづらかったから。今回、シリーズの他作とは少し違った読み心地だった。
シリーズの他作は、ミステリ部分以外に、哲学/思想談義ががっつり盛り込まれるのが定型だが、本作では、第二次世界大戦の前後の社会情勢やイデオロギー対立がどっぷり描かれていて、哲学/思想談義は、それをふまえて展開される。趣旨をひろいだすと「所有と剥奪の論理が極限に達した時代が近代で、それが大量死を現実化した。それに対して、消失が抵抗の原理となる」というところだが、難しすぎで納得感がうすく感じた。
それだけでなく、第2部の半分以上がその社会情勢やイデオロギー対立の描写で、まるで近代ヨーロッパ史の勉強のようだった。若い頃とは違って、そこも「へぇ、そうなんだ」と思いながら退屈しないでは読めたが、まだ私には積極的に面白いといえるものではなかった。
第1部の事件も地味だし、第2部まで読み終わった時点では、シリーズでは一番面白くないかもと感じた。
(第1部の事件の1つは「首のない死体」なのに、描写/演出が猟奇性をほとんど強調していなくて、事件発生時の時系列の確認にかなりの筆を費やしているから、地味に感じるんだよね)
第3部に入って、新事実がいくつも出てきてから解決編に入る。第1部で謎としてフックしていた「手紙の消失」、「船の出入りの不可能性」の真相は、強行突破的な単純なもので、ちょっとこれはどうなのと一旦は思ったが、解決編の見せ場はそこではなかった。1、2、3部のエピソードが次々ときっちりと積み上がって、大きな構図を描いていくのだ。「手紙の消失」、「船の出入りの不可能性」の真相も、その構図の中にかっちり収まっていく。いや、これは、京極堂シリーズのような構築感あり、非常にに読みごたえがある。
シリーズの上位にはいかないまでも、シリーズの期待値には十分に達した。
それにしても、「連載時は犯人も違った」とのことで、これ以外にないような構築感なのに、連載時はどうなっていたんだ?
あとは、ナディアの精神的問題について、あまり分量を割かれることなかったのが残念かな。それも、今回で回復という状況のようで、次作以降には着目されなさそうだしなあ。
ちょっと気づいたトピックとしては、日本人とユダヤ人の比較について、島田荘司も「ローズマリーのあまき香り」で触れていること。本書では「まったく違う」と書かれているのだが、島田はまったく違う切り口で「類似している」と書いていて、新本格前から活躍する同時代の2人の作家が、同時期に同じテーマを違う切り口で取り上げているのも、面白い符合だなと思った。

No.8 5点 群衆の悪魔- 笠井潔 2019/11/17 13:38
当時のパリを描くことが主で、ミステリはほぼ付け足しの感じがした。
かなり昔の記憶なので、いま読んでどう思うかは疑問だけど、再読するのは気合がいるなぁ。
それにしても、今まで投稿無しとは!?

No.7 5点 熾天使の夏- 笠井潔 2019/11/17 13:35
うん、ミステリではない。
矢吹駆ファンのための、キャラクター出自小説。
それも笠井潔なので、思想的出自。
ま、プロット的なものがなにもないのに読ませるのは流石。

No.6 7点 吸血鬼と精神分析- 笠井潔 2019/11/17 13:27
精神分析の薀蓄は楽しめた。
ニコライ・イリイチの登場など、シリーズの大きな流れとしても面白い。
ナディアの精神状態についても楽しめる。
でもミステリ部分はどうかなぁ。だんだんミステリの楽しみが減じている気がする。
以降の作品も、連載後、単行本化していないけど、いつになるのやら。読みたいんだけどなぁ。
それにしても、投稿が1件しかないって!? 

No.5 7点 オイディプス症候群- 笠井潔 2019/11/17 13:20
哲学者の密室を期待すると、思想部分とミステリ部分が乖離している気がする。
でもこの作品から、ナディアの心情にフォーカスしてきて、小説的な面白さを出そうとしているように思う。
シリーズでは、この時点では一番下と思う。6点と迷った7点。
雑誌連載時は、駆が島にわたっていないとのことで、いつか「初版版」なんてでないかなぁ。雑誌連載時のほうが面白いって意見もあるみたいだしね。

No.4 9点 哲学者の密室- 笠井潔 2019/11/17 13:16
思想対決とミステリ論ががっちり有機的に結びついていて、シリーズ最高傑作でしょう。「竜の密室」「ジークフリートの密室」なんて比喩でミステリ論を展開しつつ、それが作品内の事件にリンクしていくさまは、見事な構築性を感じさせる。
個々の事件のトリックがいまひとつなのが残念だけど、この作品のみの突出した個性を評価します。

No.3 7点 薔薇の女- 笠井潔 2019/11/17 13:07
ミステリ的には、矢吹シリーズ、初期3作では最も面白かった。ただ、思想対決という独特のカラーが薄れて、普通のミステリに近づいていると思う。作者もそれがわかっていて、シリーズが一旦中断したのだと思う。
そういえば、この作品を読んだのは「天使・黙示・薔薇」という合本で、京都旅行で目にして買ったのだっけ。旅行は今で言う聖地巡礼で、その作品は「占星術殺人事件」だった。アゾート殺人に似た本書を、そんな流れで買ったのも、奇妙な縁ですなぁ。

No.2 7点 サマー・アポカリプス- 笠井潔 2019/11/17 13:02
思想対決については、1作目より有機的に絡んでいて、なかなか読ませる。ミステリ部分は、犯行方法が迂遠にすぎる気がするが、許容範囲かな。安定感があるので、矢吹シリーズでは代表作になるのもわかる。

No.1 7点 バイバイ、エンジェル- 笠井潔 2019/11/17 12:58
「推理方法は現象学的還元」というガジェットが、まず魅力的。
翻訳調のかたい文章も作風にあっていて、ヴァン・ダインが好きだった自分としては好感。
ただ、思想対決は、1作目だけあって、まだミステリ部分とだいぶ乖離している気がする。それでも異様な熱量がある作品で、面白い。

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ことはさん
ひとこと
ホームズ生まれの、クイーン育ち。
短編はホームズ、長編は初期クイーンが、私のスタンダードです。
好きな作家
クイーン、島田荘司、法月綸太郎
採点傾向
平均点: 6.28点   採点数: 254件
採点の多い作家(TOP10)
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