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ことはさん
平均点: 6.28点 書評数: 254件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.6 5点 薔薇の輪- クリスチアナ・ブランド 2022/01/23 23:26
チャッキー警部登場作を、連続で読んでみた。
あいかわらず、ブランド特有の仮説の繰り出しはあるのだが、ひとつひとつの仮説の振り幅がちいさいのか、他作品ほど読みごたえがない。
しかし、他作品よりは、かなり読みやすかった。これは翻訳のおかげだろうか? それとも原文から書き込みが濃厚でないからか? 翻訳のおかげならば、他作品も新訳してほしいなぁ。
あと、構成(設定や全体のストーリー展開)をみてみると、もっとよくできたような気がするんだよな。(今もある程度あるが)コミカルな感じをもっと強くして、そのためにはメインの事件を深刻なものではなくして(日常の謎に近いような)……。例えば、スタウトのウルフもののトーンでこのプロットなら、すごく面白くなったような気がするんだけどな。

No.5 7点 猫とねずみ- クリスチアナ・ブランド 2022/01/23 23:26
いやいや、サスペンスということと、他の高評価の作品群ほど評価をきかないので、それほどでもないのだろうと思っていたが、どうしてどうして、ブランド特有の仮説の繰り出しは、この作でも健在。
執筆時期をみると、「ジェゼベルの死」と「疑惑の霧」の間で、ブランド最盛期にあたる。それを考えると当然なのかもしれない。
ストーリー展開はサスペンスにふっているので、仮説の検証/質疑には時間をさいていないが、繰り出される仮説のダイナミズムは、同時期の傑作群との比較に耐え得ると思う。
雰囲気はゴシック色が強く、前半は「レベッカ」が思い起こされた。登場人物のおかれた状況(あの人のあの状況は嫌!)や、登場人物の描写(終盤のあの人はサイコパス!)など、怖いシーンも多く、そこは、かなり楽しめた。
ブランド好きならば、読んで損はありませんよ。

No.4 7点 疑惑の霧- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:54
本作も、後半に仮説の構築を何度か繰り返す。そのなかのひとつのあるものを落とす説は、ゾクリとした。これはいい。
前半は、動機があることを示すために、いつにも増して愛憎劇に割かれているが、やはりキャラクターの立て方がいまひとつに見える。翻訳の問題なのかもしれないが、そうならば新訳してほしいなぁ。
フィニッシング・ストロークをよく言われるが、これは、最後に気の利いたオチをつけたといったもので、ここの期待値を高くしてもがっかりするだけだろう。
ブランドの最高傑作に推す気にはならないが、他ブランド作品を楽しめたなら、本作も十分楽しめるはず。

No.3 8点 自宅にて急逝- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:53
自分で勝手につくった「バークリー/ブランド/デクスター・スクール」と言葉があり、この作者たちの「仮説の構築を何度も繰り返すことを物語の面白さの中心にすえた作品群」をイメージしている。
上記作風の代表をブランド作の中で1作選ぶとすれば、それは本作になるだろう。
AさんがA’の仮説でBさんを犯人と指摘し、EさんがE’の仮説でFさんを犯人と指摘し……、と、都度「仮説の構築者」と「指摘された犯人」が違う説が繰り返される。しかも、そのひとつひとつが説得力があり、なかなか魅力的だ。
しかも、作の4分の1あたりから、それは始まる。残りの4分の3ほどが、すべて仮説の構築の繰り返しに費やされる。全体の構成を俯瞰すると、バークリーの「毒入りチョコレート事件」を彷彿とさせる。「毒入りチョコレート事件」の成功は、全体の構成を「趣向」として提示する”犯罪研究会”という設定にあると思うが、本作にも似たような”構成を提示する仕掛け”があれば、もっと評価されるのにと思う。
ただ残念なのは、最後に繰り出される真相が一番魅力的かというと、そうでもないところ。
けれど、謎解きミステリファン必読の作品と思う。

No.2 6点 緑は危険- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:51
ブランドの作では色々な仮説が繰り出される。後年の作では、それは「どうやったか」も含めた仮設のため、仮説毎におおきく事件の様相が変わっていた。本作でも後半に色々な仮説が繰り出されるが、動機に関しての仮説の構築が主のため、後年の作ほどのダイナミックさは感じられない。
また、(やはりこれは視点の問題が大きいと思うのだが)キャラクターの立て方がいまひとつに見えるので、愛憎劇の部分はそれほど楽しめなかった。
中盤の手術のシーンや、最終場面のコックリルの行動が引き起こす結果など、面白いシーンもあるが、この後の傑作群へステップアップする前段階の作品と感じた。

No.1 8点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2021/08/09 12:50
まずは欠点から書いてみよう。(これはブランド作品全般に当てはまるのだが)読みづらい。
読みづらさの原因は、第一に、三人称他視点にあると思う。日本の小説では三人称他視点はあまりなく、あっても章ごとに視点を変えるなどして、読者は常に誰かの視点に寄り添っているのが普通だ。ところがブランドは「Aはxxと思った。Bはxxと思った」とつづけて書く。
(セイヤーズの「死体をどうぞ」の解説で法月綸太郎が「サタイア」について書いていて、「喜劇性の濃い風刺文学、イギリス小説の”伝統”を形成する」とあり、風刺文学との視点ならば、三人称他視点も違和感がないのかもしれない。こうなると、これはもう国民性/文化の差異で、しょうがないのかもしれない)
あと、登場人物の心理がわからない。色々な仮説が繰り出されるが、その仮説をふまえた心理的背景まで説明されないので、表面的に流れ去ってしまうところがある。また、状況説明の段取りも不十分、もしくは下手だと思う。本作でもアリバイの状況提示は断片的に会話で行われるだけだ。
それなのに”本作は面白い”というところがすごい。(まあ、面白がれるのは、謎解きミステリを好きな人だけだと思うが)
途中に繰り出される仮設がひとつひとつ魅力的だし、演出も冴えた部分がおおい。中盤、箱を開けるときの演出はゾクゾクした。
そして、最後に繰り出される真相……。これはいい。
多くの仮設が提出される作品ではよくあることだが、最終的な解決が最も魅力的ではないことが、よくある。しかし本作では、最終的な解決が圧倒的にいい。途中に繰り出される仮設もいいのに、それを上回っていい。いやいや、これはもう、ブランドの最高傑作であると思う。

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ことはさん
ひとこと
ホームズ生まれの、クイーン育ち。
短編はホームズ、長編は初期クイーンが、私のスタンダードです。
好きな作家
クイーン、島田荘司、法月綸太郎
採点傾向
平均点: 6.28点   採点数: 254件
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