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Akeruさん
平均点: 4.57点 書評数: 21件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.21 3点 さらば愛しき女よ- レイモンド・チャンドラー 2020/10/03 20:56
チャンドラー、ひいては「この時代のハードボイルドもの」の欠点が結晶化したような一作。
その欠点とは、「なぜ主人公がそういう行動を取ったのか」が一切読者に伝わらんという点。
ほとんどの展開が、よくわかんねえけど、なんか主人公はこういうことして、その結果女を抱いたor悪党にぶん殴られて気を失った、というもの。
この時代のハードボイルド小説はそういうケースが非常に多いというか、むしろそういう作品をハードボイルドと呼び習わすようになったのでは?という仮説まで立てたくなる。

まあ、ようはご都合主義なんですよ。そういったご都合主義にマッチョで精神的にもタフな私立探偵とか、それっぽいセリフ回しとかで燻製しただけの作品。

No.20 3点 黄色い部屋の謎- ガストン・ルルー 2020/09/27 13:44
乱歩とカーが絶賛したから褒めざるを得ないような雰囲気が出てるというだけの一作。現代的視点で見ればトリックは稚拙で、文章も悪が強く読みづらい。謎についても主人公が「たまたま知ってた」的な解決をする上に、切り口もよくない。「この種のトリックに先鞭をつけた」という、歴史的価値があるだけの一作。

No.19 4点 不条理な殺人- パット・マガー 2020/09/21 11:14
当時4歳だった親友の息子の目の前で事故が起きた。その息子が成長して劇作家になって、デビュー作が上演される。名うての大スターとして知られる主人公は無理を言ってそのデビュー作に参加させてもらい…、という本作。
本作のプロット(起承転結)は非常に弱い。もし並の作家がこのプロットで作品を仕上げたとしたら、おそらく半分くらいのページ数になってるのでは。
しかし、本作は「流石パット・マガー」と言いたくなる出来栄えで、弱いプロットにも関わらず引き延ばし感がない。登場人物も主要なのは4-5人ほどで、「あーこれ、どんなキャラだっけ?」的なところもなく、サラっと読める。
ただ、プロットが重視される「推理小説」としては出来はやはり悪い。ラストの一文が純文学めいた終わり方だが、純文学として見ても駄作だ。

No.18 4点 母性- 湊かなえ 2019/05/29 12:28
オチ弱し。
他の人の感想にも散見されるが、大団円的なオチに話を持っていったせいで、本来の書き味が削がれたのでは。
クズが成敗されんまま話が終わるのが原因とみる。

No.17 7点 ゴールド・コースト- ネルソン・デミル 2019/03/11 21:25
ネルソン・デミルを一言で表現するなら、「アメリカの浅田次郎」というのがそのものズバリである。
浅田次郎の作品もピンキリあるわけだが、初期のヤクザ系半グレキャラで売っていたころのそれに近い。
親父ギャグのような下ネタがひっきりなしに出てくる軽妙な文章、細緻な描写に裏書された登場人物それぞれのキャラクター、徐々に引き込まれるような話の筋。

上下揃って1000ページを超えているとは思えないほどすらすら読める。正直言って、トータルで見たときに何十年も語り継がれるほどエピックな作品ではないと思うが、浅田次郎がそうであるように、「大衆娯楽」のど真ん中を行った作品だと思える。

No.16 5点 アマンダの影- キャロル・オコンネル 2018/12/02 20:18
「Alpha」を「アルパ」と訳すようなやつがこの本を丸々訳してるらしい。
脱力。

No.15 9点 災厄の町- エラリイ・クイーン 2018/09/24 12:20
ややネタバレ。


作品の根幹を成す「日付の話」は、読んだ瞬間から見当がついていた。
しかし本当の傑作というのはさまざまな伏線、登場人物の心情や信念が絡み合って縺れ合い出来るものであって、本作はまさしくそれに恥じない内容になっている。
このタイプの好例が「アクロイド殺し」で、あの作品も「大ネタ」ばかり話題に挙げられるのだが、「アクロイド殺し」は「大ネタ」以外の伏線の回収の仕方が本当に見事であり、それこそが世代を超えて我々が作品の名を聞く主要因に成り得ていると思う。

本作、災厄の町もさまざまな作中人物の思惑、行動、信念が積もるようにして出来上がった作品であり、最後の最後にクイーンがそれを一刀両断して全てを解いてみせるところまでが完璧だ。後書きにも「作者のクイーン自身、この作品が最高傑作だと言っている」とあるが、その言葉に疑いを差し挟む余地はない。

この作品を読まずしてクイーンを語ることなかれ。

No.14 8点 シシリーは消えた- アントニイ・バークリー 2018/08/11 14:49
バークリーの中でも白眉の出来はないだろうか?
無能ではないものの迷走する主人公、残虐ではないが用意周到な犯罪、適度なラブロマンス、そして最後5ページでのどんでん返し…。
これこそが「バークリー節」だ!と叫んでも全く罪がないように思われる。
世間的にバークリーと言えば「毒入りチョコレート」の趣があるが、バークリーをほぼ読んだ自分に言わせてもらえば、実のところ「毒チョコ」は全くバークリーらしくはない。

この作品こそがバークリーだ!

No.13 7点 死のドレスを花婿に- ピエール・ルメートル 2018/07/24 19:29
この作者の作品の中でも、起承転結の出来なら随一だろう。
中盤やや中だるみがするので、そこは読み飛ばせば良い。 気分が悪くなるだけで得るものは少ない。
総じて、私見だが、この作品は「その女アレックス」は越えた。
だが訳がよくない。
原文を浚ったわけではないから、詳しいことは言及しない。ただ無生物主語構文と三人称視点の文章の繋ぎ目が不自然に思えるし、そもそも文章全体からいわゆる「文学み」が減じられているように見える。 勿論、個人の感想だ。
どうもカミーユヴェルーヴェンシリーズの訳者は三島由紀夫にかぶれたような文章を書いていた。 そこが好きだったのだが、こっちの訳者はそうではない。
残念だ。

No.12 7点 悲しみのイレーヌ- ピエール・ルメートル 2018/07/12 00:10
このシリーズは「悲しみのイレーヌ」→「その女アレックス」→「傷だらけのカミーユ」の三部作になっているが、実質のところ2部作に近い。
何が言いたいのかというと、「悲しみのイレーヌ」と「傷だらけのカミーユ」は姉妹作なのだが、「その女アレックス」は浮いてしまってる。
この中では図抜けて「その女アレックス」の評判が良いが、これは2作目であり、「じゃあ1作目の「悲しみのイレーヌ」から順番に読むか」などと思ってると罠にかかる。
つまり、1作目の「悲しみのイレーヌ」と3作目の「傷だらけのカミーユ」を読むための間隔を開けるべきではない。
連続して3作を短期間に読むのが理想的だが、それが出来ないのではれば「その女アレックス」を先頭、ないし最後に持ってくることを強く勧めておく。

また、この作者はとにかく表現が上手い。 文学的、と端的に評してもいいが、皆様の中には「文学的」と聞くと、表現を華美にしすぎた結果、むしろ滑った文章を思い起こす人もいるのではないだろうか。
だがしかし、この作者に関してはそれが一切ない。
絢爛豪華ではないのだが、的を外すことのない人物、心情描写には瞠目した。 またそこから同時に訳者の実力の高さも伺える。
半面、ストーリーに関しては手放しで褒めることはできない。 処女作の「悲しみのイレーヌ」に関してはほぼほぼ陳腐とけなしてもいいような内容で、「その女アレックス」はヒネリを効かせてサスペンス的なワクワクを加味した点までは認めるが、プロット自体に賛辞を贈る気にはならない。 そして「傷だらけのカミーユ」はそれら二つから更に一段階落ちる。
だが、いずれも「文章に目を通すこと自体が悦びになる」ような作品ばかりで、図らずも三部作全てを一気読みしてしまった。

ピエール・ルメートルは「この10年で最も着目するべき推理作家」の一団に入ることはほぼ間違いないように思われる。

No.11 5点 大いなる眠り- レイモンド・チャンドラー 2018/06/21 20:13
村上訳 ネタバレなし。


うーん、これ、クソ訳なのでは?
正直、村上春樹は好きでも嫌いでもないです。 読んだことないので。
ですけど訳者としてどうなんでしょうね。
「ブランデーをどのように飲むかね?」
「いかようにも」
とかあって、ずっこけました。
「どんな飲み方がすきかね?」
「なんでもいい」
くらいにならなかったんですかね。 他にも細かいところが目について目について…。
チャンドラーといえば清水俊二氏ですが、彼も訳者として超一流だとは到底思えません。 そもそも映画畑の人ですし。
けど、それでも清水訳のほうが数段上だろこりゃ。 本作は何故か清水訳が存在しません。 彼が訳してくれてれば。

双葉訳を借りてこよう。 これよりマシだといいんだけど。


追記:内容的にも目立っていいとも思えませんでした。 悪くもないんですが。
いわゆる「歴史的意義を考えれば傑作」という類。
現代視点からすればジョンダニングとか読んだほうが楽しい時間を過ごせるのでは、と思います。

No.10 1点 変身- 東野圭吾 2017/11/21 10:32
以下、ネタバレ有。

ある男が病室で目を覚ました。 ここ数日の記憶がない。
医者によれば拳銃で撃たれ脳を損傷し、移植手術を受けたらしい。
何故だかわからないけど、テレビで時折流れる強盗事件が妙に気になって仕方がない。 いったい何故だろう…?

これが開始から20ページほどで語られる概要で、あなたは薄々何が起こりつつあるのか気づいてしまってるのではないかという疑いを持つだろう。 残念ながら、あなたはこの作品の"オチ"まで見通してしまっている。 この作品はそれ以上でもそれ以下でもない。

私が書店の"映画化決定!"のPOPに惹かれ購入し、2時間後にはゴミ箱に捨てた唯一の作品。
これがミステリーならスティーブンキングの作品は全部ミステリーだ。
正直、東野圭吾自体あまり好きではないが、最低限これだけは言える。 東野圭吾作品の中でもこれは後回しにしろ、ってことだけは。

No.9 1点 少年検閲官- 北山猛邦 2017/11/16 13:00
いわゆる「バカミス」の類であって、まともな動機や展開を期待していると愕然とさせられることだろう。 少なくともクリスティや横溝正史の間に挟んで読んだりすると、破り捨てたくなること請け合いだ。
とにかく、「こういうトリック/動機を思いついたからそれに都合よくキャラクターに動いてもらおう」と強い意志を前面に押し出してくるのには恐れ入る。

最大の難点である犯人の動機は噴飯ものだが、ネタバレなので割愛する。
もう一つ大きな突っ込みどころとして、探偵役はタイトルままの「検閲官」で、主人公は単なる一般人の旅行者である。 ところが物語の途中で主人公は「検閲対象の品物」を所有してることが発覚するのだが、「検閲官」は何故か「いや、それは別にいいよ。 それよりキミにこの事件の真相を見てもらいたいんだ…」と言いながら謎解きに入る。
「検閲官」が「検閲対象品」を見逃す理由も説明されなければ、そもそも捜査に一切関係のない一般人の主人公に謎解きを語る理由もさっぱり説明されない。ご都合主義だけがそこにある。

まあ、その辺りを一切合切、流して読み進められる人だけが読めばよい。
異邦調で、ディストピアで、少年が主人公で… というキーワードが揃ってればもうすでに匂いだけでご飯三杯いけるんですよ! という人向けだ。
少なくとも私はバカミスというものに詳しくないが、とにかく、この作品には人間がいない。 心のない駒だけがそこにあり、登場人物の心理など考察するとただ損をする。

No.8 5点 殺人は広告する- ドロシー・L・セイヤーズ 2017/11/12 02:20
一言で感想を言い表すのなら、"しんどい本"である。


まず、褒めるべき点から。
セイヤーズ流の魅力的なキャラクターと豊富な引用の数々は本作においても健在である。 キャラクターは各々キャラクター固有の特徴や性格を持っており、作中で生き生きとしている。 誰かが誰かに恋したり、誰かが誰かと喧嘩したり、その喧嘩に加担して作中で対立図を作るようにギスギスしてみたり… とにかく、人間模様の表現がこの作家は非常に上手い。 読み進めるだけで実在の人間と対話してるかのような気分にさせられ、あたかも自分が作中空間でキャラクターの輪の一部に入っているかのごとくに錯覚してしまう。
また、この作品は主人公たるウィムジィが貴族の身分を隠し潜入調査する、という点で、これは少年心をくすぐられるというか、妙にワクワクするところがある。 実は高貴な身分なんだけどそれを隠そうとしてるのだが、結局ひょんなところから身分に気づく人も出てきて… というシチュエーションが好きな人は一定数いるのではないか? ライトノベル調である気もするが、その手の韜晦が好きな人にはシリーズの中でも随一だろう。
そして登場人物はみなコミカルで皮肉や洒落好きで、いわゆる"気の利いた"会話というものが大好物な人間には是非セイヤーズ物を全部食してみてはいかがでしょうか、と勧めたくなってくる。


さて、否定的な点だ。
否定的な点は大まかに二つで、(1)ボリュームが多すぎる (2)内容が憂鬱だ の2点に分けられる。 以下に詳細を書く。

(1)ボリュームが多すぎる
キャラクターは20人以上いて、犯人の可能性が大いにある人物だけでも10人はくだらない。 これらがそれぞれの自己主張を持って作中を東奔西走するので、横溢どころか氾濫しまっている。 例示すれば、「Aというキャラクターは飴が大好きで妻子持ちでD氏の派閥に属していて経理課でK氏のことが嫌いである」という設定を持ちながら動いているとする。 このキャラクター描写を20人ばかり続けられたところで誰が理解しながら物語を追い続けられるのか? という話である。 情報量で頭がパンパンにさせられ、あたかも地面に埋め込まれて食べ物を喉に流し込まれるフォアグラ用ガチョウの気分が味わえる。 そして、そのうち情報が混じり合ってキャラクターAとキャラクターBの区別がつかなくなってくる。 同作者「学寮祭の夜」もそういう気分にさせられたが、こちらのほうがよりひどい。


(2)内容が憂鬱だ
以下、多少ネタバレ有。
途中から殺人の話ではなく、薬物がらみの話になる。 ピーター卿は殺人の話を追っていたのに、背後に薬物の大量取引の絡みが… という筋書きになる。 それは別にいい。 問題点は、犯人に落ち度も悪意もあまりないという点だ。
要するに『探偵が犯人を指摘して「ババーン! 悪いやつはコイツです!」とやることで作中世界が幸せになる』というのが探偵小説の中のある種のスタイルとして存在していると思う。 勿論、それじゃなければヤだ!と言い張るつもりは毛頭ない。
ただ、この作品ではその周りの展開において納得できない点が多い。 以下拙いながら説明するので空気だけでも理解していただければ幸いである。
説明していけば、「薬物取引団体と、知らず知らずのうちに薬物取引の下働きをさせられてる悪人」がいる。 探偵は薬物取引の下働きを見つけるのだが、しょせん手足にすぎないのである程度泳がせる。 問題は、次に取引する地点を伝える伝達方法だ。
これが本作の綱領と言ってもいい。 何が言いたいのか? 今私は"薬物取引団体"というふわっとした"団体名"を伝えてるわけだが、本作でもこいつらは中身のない組織で、薬物を売り払ってなんやかんやで英国に多大な被害を齎してることことまではわかるのだが、こっちとしては"どうでもいい"くらいの感想でしかない。この謎の薬物取引団体が作中世界で薬物を売ろうが人を殺そうが、薬物で破綻した人間の描写は皆無と言っていいし、殺されてるのは売人という名の悪人なので、この組織に対して「うおーこいつらクソみたいな悪党だな! 是非とも主人公にはこの悪党らをとっちめてもらわなきゃ!」という気分には本当に一切ならない。 2017年現在、EUは中東系難民移民の犯罪でクソみたいな気分を味わってるとの声が強いが、私は日本にいて中東系難民に嫌悪感など感じないのと同様に、人間、自分の目の届かないところにいる悪党に別に何の恨みも感じないのである。 そして本作の黒幕は主人公からしても目の届かないところにいる悪党であるので、読んでいて何とかしてくれとも思わない。
が、主人公の目の届くところにいる"薬物団体の下働き"は悲惨な目に合う。 しかも、コイツ自身は特に悪党でもないし、状況から考えればまあ人間の動きとしては心情に妥当性を感じてしまう。
その上記二つの、真の悪党はどうでもよくて、その被害者ばかり悲惨な目を合ってる、といわんばかりの本作の内容にはどうにも疲れさせられた。 やりきれない、と言おうか。勿論やりきれない探偵小説で、さらに傑作であるものはいくらでもあるんだけれど、それはそれでもっと犯人の出生の悲壮さとかに重点を置かれていて、火サスめいた人間ドラマが… まぁ、これ以上は良そう。 ともかく、私の感想は以上である。

No.7 4点 毒を食らわば- ドロシー・L・セイヤーズ 2017/10/21 03:41
以下ネタバレ有(少し)。



今更このトリックについて文句をつけるのは見当違いではないだろうか。 勿論、ぱっと思いつくだけでも鮎哲のリラ荘(これは傑作だった)やテレビドラマTRICKなどが同様のトリックを使う作品として挙げられるが、比べるまでもなくセイヤーズのほうが先だ。 我々は後代に生きた人間なのだからその辺りを勘案し、「どこかで見たような」などという批評はさておき非難は控えるに限る。セイヤーズが初出かは知らぬ。

さて、内容に関してだがセイヤーズは聖書やテニスンやディケンズ、果てはルイスキャロルなどからの多彩な引用を楽しむための書物だと再確認させられる一冊だ。 トリックは後代の人間が散々濫用した結果、今更読んでどうこう言えるものはほぼ無いし、そもそもセイヤーズ自身、トリックに重きを置いてもない。
要するにピーター卿と使用人やパーカー警部が喋ってる文章が目に心地いいと思えれば読み続ければいいし、そうでなければセイヤーズからは離れればいい。本作はセイヤーズ品質保証のマークを授かるに足る一冊なのは間違いない。

しかし謎なのは… 何故ピーター卿はハリエットヴェインに恋をしたのだろうか? 喋ってからならまだしも、喋る前から謎の天啓を持って無実だと決めつけ、恋に落ち、喋ろうとする。これは読者を完全に突き放している。 しかも彼女は作中で"美人でもない"との批評も受けているわけだ。
わざわざ指摘するまでもないだろうが、この"身持ちの悪い""不器量な"ヒロイン、ハリエットヴェインは作者自身を投影しているという声が強い。 白馬の王子様願望を書面に託したのは別に良い。 良くないのは主人公がヒロインに恋するというのを納得させる展開の欠如である。 この本はそれを欠いたまま進み、欠いたまま終わる。
更にヒロインは被疑者である。 この被疑者を擁護する最大の理由が"主人公の天啓"なのだから、要するに超能力で謎を解いたのと大差がない。

この一冊がセイヤーズの中でも指折りに数えられるのは全く残念だと言わざるを得ない。 セイヤーズの水準には乗るが、白眉ではないというのが個人的な意見である。

No.6 3点 ルパンの消息- 横山秀夫 2017/09/22 14:40
まさしく「蛇足」という単語が相応しい一作。 以下、感想はややネタバレ。



途中で3億円事件の問題(と言っても3億円事件の犯人と目される人物が出てくる)のだが、そのくだりさえなければ65点級の作品にはなってたはずなのに。
要するに「そうせざるを得なかったという必然性の欠如」が目立つ結末になっていた。「なんでそういうことしちゃったの? 普通にしないよね、それ」って思わせてしまう推理小説は推理小説として端的に不適格だろう。 3億円事件のくだりを削除するだけでその必然性の問題は解決したはずなのに、まさに蛇足。
そしてそれがなかったとしても、特に感動するような傑作ではない。 佳作という程度だろう。
しかしこれだけの作品を処女作として書き上げる氏の実力には驚かされた。 上記の一点を除いて、読んでみて駄作だと感じることはまずないのではないか。

No.5 3点 マルタの鷹- ダシール・ハメット 2017/08/13 10:33
推理小説的に褒めるべき点は全くないように見受けられます。
どんでん返しの欠如が一つ、犯人の必然性(絶対にその犯人でなければならないという作中での指摘)の欠如が一つ。
この二大要素を欠いている以上、イマイチという評価以外は難しいですねえ。 犯罪に関しては完全に解決したとはとても見えませんし。 伏線回収無視しすぎでは?と。


推理小説的でない部分の話ですが、大別すればハードボイルド的側面と、恋愛的な側面があると思います。
私はそもそもハードボイルド的な小説が好きではないので前者についてはノーコメントです。 主人公は悪漢をぶん殴り、女性には子猫を扱うように接します。ハードボイルドってのはそれだけの記号です。 少なくとも作中では。
恋愛的な側面ですが、主人公が恋愛する相手の話なんですが、正味嘘八百どころか嘘八千もいいところの女で、
作中でも主人公に「おれの前で30分も正直でいたことがない」などと言われます。 こんな女に恋する理由が全く不明で…。 いや、恋ってそういうものではないのはわかりますけど、ヴィジュアルの良し悪しは紙面から出て来ませんしねえ。


結局総括をすれば、のちのハードボイルド全盛時代に先鞭をつけただけが存在意義のように見えてしまいます。 つまり(歴史的意義を考慮に入れれば)傑作とかその手の類です。
「彼が何故そうしたのか、そうせざるを得なかったのか、それをした人間がいるのならば彼以外にあり得ない」とか、そういう側面を気にされない方にオススメです。 本書ではその辺りがほぼ完全にオミットされますので。

まあ、読んだのが旧版の村上訳なので、このような評価に至った可能性は大いにあるのですが。

No.4 3点 「老いぼれ腰抜け」亭の純情- マーサ・グライムズ 2017/07/31 21:05
結末に納得できなかった方はおられるでしょうか。 私はあなたの味方です。
たとえマーサグライムズ本人があなたの味方でなかったとしても、私はあなたに同意します。

以下、重大なネタバレ有。



まず推理小説としての文法がおかしいといいますか、結局『犯人は絶対的にこの人以外にあり得ない』という指摘が不十分な気がします。
それもこれも終始動機を追いかけてるのにも関わらず、犯人の動機は突然出てきたような印象を受けるからです。
まあ、一読しかしてない自分には批判の資格はないのかもしれません。 が、一読でわからせないほうにも問題があるのでは。

閑話休題。 しかし一番の難点はオチでしょう。
かつて日本ミステリー界には「意味もなく子供を殺すべきではない」という論者がいらっしゃったようです。(佐野洋推理日記より)
正直、私はその議論に興味がなかったです。
意味のない殺人は子供に限らずNGだと思いますし、意味があるならば子供を殺すのでも構わないと思ってました。 この作品の前まで。
どうなんですか? このオチ。 メルローズもジュリーも「犯人はクソだからぶち殺されるべきじゃねえ?」と話してた後に子供がそれを成し遂げるってのは。
子供が殺人をすることの倫理観っていうよりも、その直前に「犯人はクソだね」←でも殺してないじゃん? っていう大人側の意思の薄弱さというか、正義を見逃してる感というか…。
ポアロがそうしたように、とか、ドルリーレーンがそうしたように、とかは言いません。
そうじゃなくて、この結末に至らないように作者に対して…「もっとこう… あるだろう!」と言いたい。

No.3 7点 「古き沈黙」亭のさても面妖- マーサ・グライムズ 2017/07/29 09:03
ジュリー警視シリーズの中ではこれが白眉なのではないかと思います。
華麗な伏線の回収、手に汗握る展開、感動の結末、見事に三拍子揃えて来たと言えます。
一応、シリーズ物なので前作全てを読むか、最低でも第一作だけ読んでおけば事前準備はオッケーでしょう。

No.2 3点 「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁- マーサ・グライムズ 2017/07/20 18:31
ネタバレ有





気持ちのいいくらい「シンデレラの罠」のパクリで、清々しい程です。
何故死体がトゥルーブラッド店に来たのかの合理的説明がないままですし、伏線回収もうーん。

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Akeruさん
ひとこと
低評価ばかりつけてるように見えますが、高評価だった本に関してはわざわざレビューしない方針をとってます。 あしからず。
好きな作家
採点傾向
平均点: 4.57点   採点数: 21件
採点の多い作家(TOP10)
マーサ・グライムズ(4)
レイモンド・チャンドラー(2)
ピエール・ルメートル(2)
ドロシー・L・セイヤーズ(2)