皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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猫サーカスさん |
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平均点: 6.19点 | 書評数: 419件 |
No.79 | 7点 | 潜入 モサド・エージェント- エフタ・ライチャー・アティル | 2018/02/08 19:14 |
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イスラエル諜報機関モサドの諜報員を描く物語。謎めいた言葉を残して失踪した元スパイのレイチェル。機密漏洩を恐れるモサドは彼女の行方を追う。かつての上司だったエフードは、彼女との記憶を振り返る・・・。回想と追跡を通じて描かれる、レイチェルの半生が記憶に残る。元イスラエル兵軍事情報将校という作者の経歴からの予想を覆す、味わい深い作品。 |
No.78 | 6点 | 凍てついた墓碑銘- ナンシー・ピカード | 2018/02/01 19:00 |
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17年前、米国カンザスの田舎町で吹雪の夜に身元不明の娘の死体が発見された。その夜、恋人のミッチと過ごしていたアビーにとって、それは運命を変える事件になった。翌朝、ミッチは理由も告げずに突然、町を出て音信不通になったからだ。だが、前触れもなく町に戻ってきたことで波紋が広がる。真相があぶりだされ、登場人物たちの秘められた過去が露になっていく過程が、狭い地域社会ならではの連帯感や義理人情とともにじっくりと緊密に描かれている。深みのある人間ドラマは読みごたえがある。カンザスならではの竜巻や猛吹雪の描写にも圧倒された。なによりも明るくまっすぐなアビーがいい。陰惨な事件にもかかわらず、彼女の存在はこの作品を温かなものにしている。 |
No.77 | 6点 | ハードラック- 薬丸岳 | 2018/02/01 18:59 |
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いわゆるネットカフェ難民だった若者が主人公の犯罪サスペンス。いったん社会からはじかれ転落すれば、這い上がるのが困難となる現実をはじめ、ネットを通じた匿名のつながり、どこか安易な犯行など、ここに描かれているのは、極めて現代的な犯罪の形なのかもしれない。主人公は信じた相手から裏切られるなど不運に見舞われるばかりか、殺人犯に仕立てられてしまう。スリリングな導入部が身に迫り、彼の運命の行方を追わずにはおれない。意外性に富んだ話運びの巧みさで、最後まで一気に読ませる。 |
No.76 | 6点 | お菓子の家- カーリン・イェルハルドセン | 2018/01/27 15:13 |
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スウェーデンの警察小説。老婦人が退院して自宅に戻ると、知らない男が殺されていた。ショーベリ警視が捜査に取り組むうち、第2、第3の殺人が起き、被害者の間の共通項が浮かび上がってくる。最初から殺人の動機は明らかにされており、その原因となった過去の出来事や犯人の心理をじっくり描きつつ、捜査と並行して警察の知らない真相の肉付けをしていく構成が巧みで、ラストのひねりも効いている。薬物中毒者の女性が残した双子を引き取り、5人の子育てをしているショーベリ警視の生活ぶりも興味深い。魅力的なシリーズの今後に期待したい。 |
No.75 | 6点 | QJKJQ- 佐藤究 | 2018/01/27 15:13 |
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猟奇殺人鬼の一家で育った女子高生の一人称で物語られる。部屋で兄が殺され、母親が姿を消し、父親に疑いの目を向けるが、一家にはさらなる秘密があるというもの。記憶が検証されて逆に混沌を深める内容で、しかもそこに現代社会を透視する鋭い批評性があり、豊かな文脈をもつ。趣向に富む濃密な純文学風ミステリ。 |
No.74 | 6点 | ST化合エピソード0警視庁科学特捜班- 今野敏 | 2018/01/22 17:33 |
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1990年の東京が舞台の警察小説。都内の公園で、イベントサークル主催者の男の死体が発見された。警視庁捜査一課の菊川は、板橋署の部長刑事である滝下と組んで捜査することになった。一時は派手なイベントを開き稼いでいた被害者も、今は借金を抱えていることが判明。エリート検事がその線から容疑者を特定しようとするが、菊川と滝下は地道に関係者のもとへ足を運び裏をとっていく。事件を早急に解決しようとシナリオを描く検事と、現場で働く刑事との対立を浮き彫りにしている本作は、現場に残された血液やDNAなどの科学捜査の重要性を巡る物語でもある。いまだに冤罪事件が絶えないが、その解決のカギを握っているのが多くの場合、科学捜査になることを改めて思い知らされる。刑事の心意気が強く感じ取れる警察小説。 |
No.73 | 7点 | ババ・ホ・テップ- ジョー・R・ランズデール | 2018/01/22 17:32 |
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老人養護施設を舞台にプレスリーとケネディだと思い込んでいる老人二人が、化け物相手に闘う奇想天外な表題作は、老人の妄想と現実が見事に混然一体となり楽しませてくれる。一番印象に残ったのは、「草刈り機を持つ男」。隣で草刈りをしていた男に、じわじわと生活に侵入される不気味さが、リアルなエピソードを重ねて巧妙に綴られていく。ラストも上手い。少年三人組の一人がワニに食われてしまう「ステッピン・アウト一九六八年の夏」は悲劇なのに笑える。負のスパイラルのシニカルな描き方が絶妙だ。ボクシング試合の日にハリケーンが襲う「審判の日」は、登場人物たちのセリフのやり取りが軽妙で、随所でニヤリとさせられる。どれを読んでも外れのない充実した短編集。 |
No.72 | 5点 | スマドロ- 悠木シュン | 2018/01/22 17:32 |
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第35回小説推理新人賞受賞作を第一章においた連作短編集。個人の秘密が下世話な部分まで語られているあたり、アクの強い独特の魅力がある。しかも、およそ無関係に見えた事実が別のエピソードとつながるばかりか、章を重ねるにつれ、より複雑に人間関係が絡み合っていく。まるでワイドショーの司会者が、パネルの隠された部分のシールをはがしていくように、込み入った相関図が明らかになる。語りの妙と斬新な構成の面白さが堪能できる異色作。 |
No.71 | 7点 | ゴールデン・パラシュート- デイヴィッド・ハンドラー | 2018/01/15 21:36 |
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コネティカット州ドーセットの美しい村を舞台に、映画評論家のミッチと女性警部補デズが活躍するシリーズ5作目。村の旧家のアンティークカーが盗まれ、前後して資源ごみ拾いのピートの遺体が発見された。一見、全く関連性のない二つの事件だが、捜査を進めていくうちにデズは事件の裏の陰謀を嗅ぎつける。かたやミッチも独自の推理によって真相に近づきつつあった。家と家との昔ながらの因縁にがんじがらめにされたどろどろとした人間関係が濃密に描かれ、そこから意外な真相が浮かび上がる仕掛けはお見事。ミッチとデズの恋愛関係も本シリーズの読みどころでしょう。ラストからして、次作は一波乱ありそうで期待が高まる。 |
No.70 | 6点 | 避雷針の夏- 櫛木理宇 | 2018/01/15 21:35 |
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主人公は要介護の母、うつ病を患う妻、そして高校生の娘と共に都会から北陸の田舎町へ越してきた。町のあちこちで陰湿な悪意がくすぶっており、よそものをいじめ、排除する村社会の姿のみならず、人々が抱える鬱屈した心理が肥大し、集団の交わりの中でおぞましい狂気へと育つ過程が見事に描かれている。これはなにも日本の地方の町ではなくとも、閉じられた封建的社会ならば、世界のどこで起きてもおかしくない出来事でしょう。夏祭りのクライマックスへ向かう展開は圧巻。 |
No.69 | 7点 | 新検察捜査- 中嶋博行 | 2018/01/08 15:07 |
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17歳の少年が殺人を起こし逮捕された。殺した女性の心臓を食べるというショッキングな犯罪で、少年は「ソウルガード」と呼ばれる。本作では、少年による猟奇殺人に加え、法廷での被告人射殺と、もっぱら派手で凶悪な犯罪が扱われている。さらに事件の背後に、国家規模の犯罪をもくろむ巨悪の存在があるという、極めて大胆な発想及び設定によるストーリー、さらにハリウッド映画並みの娯楽性が発揮されている。女性検事による地味な捜査模様を描くのに終わっておらず、エンターテインメントとしての面白さが十二分に詰まっている。 |
No.68 | 6点 | 沼地の記憶- トマス・H・クック | 2018/01/08 15:07 |
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語り手ジャックは、教師時代に起きたある事件を回想する形で、物語は進んでいく。やがて、なぜ過去を振り返るジャックの口調に悔恨と悲しみが滲んでいるのかを、知ることになる。この作品にも、クックお得意の父と息子の葛藤のモチーフが登場する。さらに、人間の善意と傲慢さについても深く考えさせられた。教え子エディに対するジャックの親身な指導は、どこから道をそれていったのか。あるいは、事件はただの不運だったのか。登場人物全員の思うようにならない人生が重く胸を打つ。 |
No.67 | 6点 | 魔術師の視線- 本多孝好 | 2018/01/04 18:59 |
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かつてインチキだとたたかれた「超能力少女」と彼女の周囲で起こる謎の陰謀をめぐるサスペンス。ビデオジャーナリスト楠瀬薫のもとへ、以前超能力少女とマスコミに登場した少女から「ストーカーにつきまとわれている」と助けを求められる。どこまで彼女の言葉を信じていいのか迷っている中、楠瀬の知り合いが怪死するなど、事件は思わぬ方向へ進んでいく。常に相手の視線の動きを追い、言動の裏を読もうとする心理描写と真実をめぐる攻防が全編に渡って展開されているとともに、ミステリとしての意外性も巧みに織り込まれている。その一方で、人物の描写が生々しく伝わってくるドラマの描き方も上手い。 |
No.66 | 7点 | 特捜部Q Pからのメッセージ- ユッシ・エーズラ・オールスン | 2018/01/04 18:59 |
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コペンハーゲンが舞台の警察シリーズ第三作。未解決事件専門の特捜部Qにスコットランドの海岸で7年前に見つかったボトルメールが送られてきた。カール警部補の二人の助手は、海水と歳月で損傷した手紙の解読にのめりこむうちに、文面からおぞましい疑惑が姿を現す。遠い過去の事件が現在にどう結び付くか、犯人像がじっくり描かれ、説得力もたっぷり。自宅で介護することにした半身不随の元同僚の様子や、カウンセラーのモーナとの恋など、カールの身辺の変化も読みどころ。とりわけ個性的すぎる助手たちとカールのちぐはぐなやり取りが笑いを誘い、いい味を出している。 |
No.65 | 6点 | ホテル・ピーベリー- 近藤史恵 | 2017/12/28 15:50 |
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ハワイが舞台の青春ミステリ。木崎は友人に勧められ、ハワイ島ヒロのホテルへ来た。居心地が良く、食事もおいしい小さな宿。オーナーは日本人夫婦で、宿泊客もみな日本からの旅行者だ。そこで、木崎は少しずつホテルの女主人・和美と親しくなっていく。だが、宿泊客をめぐり、不可解な出来事が続いていく。ここに描かれているのは観光客でにぎわう華やかなリゾート地というイメージとはいささか異なるハワイ。陰のある主人公をはじめ、訳ありな登場人物が多く、ホテル自体も謎めいている。心の奥の秘めた感情や官能が揺り動かされるような巧みな語りにより、サスペンスが盛り上がっていく。真相を知った驚きと苦く切ない青春の物語が混然として、読後いつまでも作品世界から離れられない。 |
No.64 | 5点 | 死神を葬れ- ジョシュ・バゼル | 2017/12/28 15:49 |
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研修医のピーターは時々ヤクをやりながら、過酷な病院勤務に耐えている。だが、入院してきた末期がんの患者は、なんと彼の正体を知っているマフィアだった。ピーターがマフィアと関わりを持った半生と、現在進行形の病院の出来事を交互に描写する語り口は、はつらつとしている。とりわけ病院部分は、冗談とも本気ともつかない長ったらしい医学的な注がついたり、奇病に苦しむ患者や異様な風体の滅茶苦茶な医師が登場したりする。独特のずれた波長さえ合えば楽しめる斬新な作品。 |
No.63 | 5点 | 迷宮捜査- 緒川怜 | 2017/12/23 21:45 |
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警察庁捜査一課の刑事が活躍するミステリで、いくつもの事件が錯綜し、一筋縄ではいかない話運びを見せている。殺人事件の捜査を主眼とした本格的な警察小説ながら、主人公とその妹をはじめ、さまざまな人物の過去が現在に絡んでくるなど、複雑な人間ドラマが展開していく。実際に起きた事件の要素を巧みにフィクションへ盛り込みつつ、強引とも思える大胆なプロットを構築し、けれん味と意外性に満ちたサスペンスに仕上げている。 |
No.62 | 7点 | 夜を希う- マイクル・コリータ | 2017/12/20 18:48 |
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LAタイムズ最優秀ミステリ賞受賞作。フランクは英雄とあがめていた父親が殺人に関わっていたことを知り、父を悪の道にひきこみ裏切った男にいつか復讐をしたいと願っていた。そんな時、絶好のチャンスが訪れるが、いくつかの偶然が重なり、復讐劇は思いがけない方向に転がりだす。フランクの屈折した心情が丹念に描かれ、青年の成長物語にもなっている上、ラストの迫力ある戦いのシーンも読み応えたっぷり。最後の最後に待っている衝撃の真相は、物語全体を見事に引き締め余韻を与えている。 |
No.61 | 7点 | ブラックボックス- 篠田節子 | 2017/12/20 18:48 |
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この作品は、食の最前線で起こる不気味な様相を描いた問題作。完全無欠なはずのシステムに、次々と想定外のトラブルが起こる。どれほど調べても明確な因果関係は不明。そればかりか個人の告発は握りつぶされ、マスコミは問題を単純化して、犯人捜しへと向かう。安全を重視するあまり、無菌状態を追及する社会は、感染症の流行を防ぐ一方で、人からタフな免疫力を奪うのだろうか。本作を読むと単に食の問題のみならず、現代日本のありとあらゆる脆弱さや過剰なアレルギー反応を連想する。さらに外国人労働者、職場のセクハラ、地方の人間関係などの問題がテーマと絡み、巧みに展開することでドラマの妙が生まれ、他人事と思えない不安が増幅する。描かれているのは単純な善悪で決められない、この世界の複雑で醜悪な現実そのもので考えさせられる。 |
No.60 | 8点 | シスターズ・ブラザーズ- パトリック・デウィット | 2017/12/16 14:38 |
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ゴールドラッシュに沸く1850年代の米国を舞台とする、殺し屋の兄弟が主人公のウエスタン小説。物語の前半は、ヤマ師を殺しにサンフランシスコに向かう兄弟の道中を、後半はヤマ師と出会ってからの冒険を、弟のイーライの視点から描いている。人を食ったような乾いたユーモアの漂う語り口に、最初から最後まで魅了されっぱなしだった。兄のチャーリーは冷血で悪賢く、平然と人の命を奪う。弟のイーライは兄よりもお人よしで、夜の女や貧弱な馬に思いやりを示したりもする。この二人が出会う人々が、唖然とするほどの奇妙奇天烈な連中ばかり。血なまぐさい場面もどっさり出てくるが、イーライのどこか達観したおっとりとした語り口のせいか、それほどおどろおどろしくは感じられない。欲にとりつかれた右往左往する人々の姿は、滑稽でいて物悲しく哀愁が漂う。かたや、イーライにとって「二度と味わえないであろう最高に幸福な一瞬」の美しさは心にしみる。忘れがたい強烈な印象を残す作品。 |