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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 407件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.167 5点 ゴーン・ガール- ギリアン・フリン 2019/07/02 19:54
嫌な気分になるミステリー(イヤミス)の全米ヒット作で印象は強烈。失業したニックは美貌の妻エイミーと故郷ミズリー州の田舎町に移り住んで2年。結婚5周年の日にエイミーが失踪し、妻殺害の容疑をかけられる。ニックの独白とエイミーの日記が交互に登場する物語から、結婚生活ではよくある行き違い、倦怠、失望がくっきり浮かび上がる。「本物の愛とは、ありのままの自分でいることを許してくれるものであるはずだ」と自分のいたらなさを正当化するダメ夫ニックに、舌打ちしたくなる人もいるかもしれない。しかし、途中からストーリーは意外な展開に。作者の用意したラストは痛烈な皮肉なのか、愛と人生の苦い真実なのか。読者一人一人が結婚の意味について、しばし思いを巡らすに違いない。

No.166 7点 無垢なる者たちの煉獄- カリーヌ・ジエベル 2019/06/17 19:43
極めて凄惨であると同時に、ぐいぐい読ませるサスペンス。強盗と殺人鬼という二つの「悪」が対決する物語。ラファエルと弟は、2人の仲間と共に宝飾店を襲撃。宝石を奪って警察の追跡を逃れたものの、弟は警官に撃たれて重傷を負ってしまった。4人が逃げ込んだのは、村のはずれにある屋敷。ラファエルは、1人で夫の帰りを待つ女性を脅して弟の看護をさせる。一行はこの屋敷をしばらく隠れ家にしようと考えるが、やがて夫が帰ってくる。その正体は少女を狙う連続殺人鬼だった。物語の大部分は屋敷の敷地内で展開する。閉ざされた空間での、限られた人物たちの緊張がじっくりと描かれる。陰惨な暴力描写に目を背けたくなるかもしれないが、単なる過激さが売りの作品ではない。過酷な極限状態に置かれた人々の心理と、その変化を丁寧に描き出している。特に連続殺人鬼の妻の人物造形は印象に残る。上下巻を一気に読ませる、戦慄に満ちた物語。

No.165 6点 沼の王の娘- カレン・ディオンヌ 2019/06/17 19:43
主要な登場人物はわずか2人。追う者と追われる者。誘拐や殺人などの罪で終身刑に服していた男が脱走したというニュースが、ヘレナの平穏な日常を変えてしまう。脱走した男は彼女の父で、彼が誘拐した女性との間に生まれた娘がヘレナだった。原野の暮らしに通じた父を捕まえられるのは、父から狩猟を学んだヘレナだけ。彼女と父との心理戦が始まる・・・。追う者と追われる者との死闘を描きつつ、合間にヘレナの回想が語られる。異様ではあるが、懐かしさとともに語られる、父との過ごした日々。愛と憎しみの入り交じったヘレナの複雑な思いと、大自然の中でのシンプルな追跡劇の組み合わせが心に残る。

No.164 7点 闇夜の底で踊れ- 増島拓哉 2019/06/03 19:40
第31回小説すばる新人賞受賞作。「小説すばる」にしては珍しいノワールで、しかも作者はなんと19歳。パチンコ依存症の無職の男が、風俗嬢に入れ込んで借金を作り、暴力団の抗争に、巻き込まれていく物語。というと、通俗的なタイトルと合わさって既視感に満ちた物語と思うかもしれないが、そうではない。確かに前半は新鮮味に乏しいけれど、抗争の構図が露わになってから会話もキャラクターもはじけて、素晴らしい語りになる。読者を脅かす仕掛けもいくつかあり、それが次々と明らかになっていく終盤は緊迫感に包まれ、それでいて実に小気味よく、殺人が繰り返されるのに不思議と心地よい(殺人の動機だけはやや古臭いが)。それはひとえに作者がもつユーモア感覚のおかげでしょう。黒川博行氏に迫る笑いに満ちた会話、作者が多大な影響を受けたという大沢在昌氏の優れた語りと人物像の創出が、陰惨な暴力劇を調子のよいピカレスクに仕立て上げた。才能あふれる出色の新人デビュー作。

No.163 6点 青雷の光る秋- アン・クリーヴス 2019/06/03 19:40
英国のシェットランド諸島を舞台にした4部作の完結編。ペレス警部は婚約者のフランを両親に紹介しようと、故郷のフェア島を訪れた。しかし、婚約パーティーの翌日、著名な野鳥監視員のアンジェラが殺害されているのが見つかる。嵐のせいで外部と遮断された島で、ペレスは一人で捜査を始める。このシリーズの魅力はなんといっても、登場人物の心理とその人間関係を緻密に描くことで、事件の動機を徐々に浮かび上がらせていくところ。今回はペレスのプライベートも物語の読みどころになっている。もうひとつの大きな魅力、島の荒々しい自然も堪能でき、衝撃のラストとともに強い印象を残す。

No.162 6点 ボランティアバスで行こう!- 友井羊 2019/05/15 19:00
題名にあるとおり、ボランティアを行う者たちが登場するミステリー。大地震の被災地へ赴き、がれき撤去などの活動するメンバーそれぞれの物語が章ごとに語られていく。東北の被災地に向けたボランティアバスツアーを企画したのは、就職活動中の大学生だった。参加したのは、会社員、定年退職した夫婦、女子高生など、様々な人たち。だが、やがて隠された秘密が明らかになったり、思わぬ事件に遭遇したりする。全6章とエピローグで構成された本作は、家族や教え子との関係にまつわるハートウォーミングな話のつまった連作集というだけにとどまらず、巧妙な仕掛けがほどこされている。なにしろ、ある事件の逃亡犯までがバスに乗り込んでくる。そればかりか読者はエピローグで、あっと驚くでしょう。

No.161 6点 暗殺者の正義- マーク・グリーニー 2019/05/15 19:00
暗殺者ジェントリーは、ロシア・マフィアからスーダン大統領の暗殺を依頼された。しかしCIA時代の上官から、それを裏切る提案をされる。しかも成功したら、二度と命を狙うことはないとの約束で。もはや絶体絶命と思われる窮地から、意表を突く知略で脱出するジェントリーの姿は痛快そのもの。ただの殺人マシンではなく、「正当とされる殺し」にこだわる一人の人間として描いているのも魅力的。一気読み保証付きのアクション満載の冒険小説。

No.160 7点 カナリアはさえずる- ドゥエイン・スウィアジンスキー 2019/05/03 18:44
覚えにくい名前の作家だが、過去の作品のインパクトは強烈だった。邦訳された「メアリー―ケイト」「解雇手当」の2作は、いずれも予測不能の奇異な展開が印象深い怪作。そんな作者の10年ぶりの邦訳となるのがこの作品。奇抜なアイデアと意外な展開はそのままに、より地に足の着いた、読ませる小説に仕上がっている。サリーは大学に入ったばかりの優等生。だが、先輩のせいで麻薬取引に巻き込まれてしまった。彼女を捕まえた刑事によって、学内の情報提供者として麻薬捜査に協力することに。先輩を密告するわけにいかないサリーは、代わりに別の売人を探し始めた・・・。密売人や殺し屋がうごめく麻薬取引の世界に放り込まれた少女が、生命の危機を切り抜ける。自らの意外な可能性を見出したサリーは、悪党たちを相手に大活躍を繰り広げる。麻薬社会を描いた生々しい犯罪小説であると同時に、その核にあるのは、一人の少女が大きく成長する冒険の物語。飽きさせない語り口も巧妙で、最後まで一気に読ませる。

No.159 6点 父のひと粒、太陽のギフト- 大門剛明 2019/05/03 18:44
日本の食の根幹、農業をテーマに据えた長編作。小山大地、無職の30歳。親から仕送りを止められ、仕方なく新潟市内の会社でインターンとして働くことに決めた。ところが、ようやく厳しい労働に慣れ始めたときに、そこの会社の社長の死体が発見される。物語は、若き天才農業家の死をめぐる事件を軸に、農村が抱える深刻な問題に迫っている。それでも飄々とした語り口は読みやすく、さらに作者ならではの意表を突く逆転劇が仕組まれている。ミステリーとしての面白さにぬかりない秀作。

No.158 7点 スイート・マイホーム- 神津凛子 2019/04/17 20:18
小説現代長編新人賞受賞作で、選考委員「全員戦慄」(カバーの惹句)。しかも珍しくミステリー、それも嫌な気分や後味で勝負するイヤミス全開。スポーツインストラクターの賢二と妻のひとみは赤ん坊のために「まほうの家」を建てる。1台のエアコンで家中を暖められるシステムで寒がりのひとみは喜ぶのだが、奇妙な現象が次々に起きて、いつしか殺人事件へと発展していく。前半はややホラータッチで進み、よくある怪異譚と思わせて、第2章で反転させて(さりげなく時間をさかのぼる手法がうまい)禍々しい存在を明らかにする。そして第3章では恐怖とおぞましさを一段とエスカレートさせ、伏せられた過去の秘密を前面に打ち出して凄まじい対決場面へと導いていく。「ここまでおぞましい作品に接したのは初めてだ」(選考委員・伊集院静)とあるほど、狂気と悪意は鋭くとがれて読者の価値観を根底から覆す。新人の出色のデビュー作といえるでしょう。

No.157 6点 ベスト・アメリカン・短編ミステリ2012- アンソロジー(海外編集者) 2019/04/17 20:18
20の短編はどれも粒よりの作品。ブロック「清算」は男性を巧みに誘う女の独白が、徐々に狂気の世界に踏み込む。マクファデン「ダイヤモンド小路」は青春の回想録だが胸をしめつける甘く切ない叙述が素晴らしい。フィニー「人生の教訓」は主人公のキャラが立っていて印象的。デュボイズ「パトロール同乗」は意外性が読ませる犯罪小説。どれも短いので、細切れの時間でも読書の楽しみが味わえる。

No.156 7点 喪失- モー・ヘイダー 2019/04/01 18:35
東野圭吾「容疑者Xの献身」などを抑えて米エドガー賞最優秀小説賞を受賞した警察小説。スーパーの駐車場で車が強奪され、後部先に少女が乗っていた。目当ては車だから少女はすぐに降ろされるだろうというキャフェリー警部の予想は外れ、少女は帰らなかった。しかも、過去にも似た事件が発生していることが判明。そこへ第2の事件が起きる。幼い時に兄が小児性愛者の犠牲になるというトラウマを抱えるキャフェリーは、内向的で孤独な人間。珍しく心を動かされた女性警官フリーにも、ある出来事から不信の念を抱いている。そんなキャフェリーとフリーの執念にも似た捜査が綿密に描かれ、ぐいぐい物語に引き込まれる。被害者家族、とりわけ母親たちの絶望と悲嘆、娘を取り戻したいという強い思いにも心が揺さぶられた。手に汗握るラストまでサスペンスが途切れず、読み応えがある。

No.155 5点 テキサスレディオギャング(漫画)- 榎屋克優 2019/04/01 18:35
生きている中で、人の死と向き合う瞬間は必ず訪れる。私たちはその度に、生きることについて深く考えさせられる。その思いに光を当てた作品。学校内の序列、いわゆるスクールカーストのトップに君臨する鮫島は、いじめの延長でシバケンを死に追いやった。死の真相を知ったピーターはその無念を晴らそうと、シバケンが生前に録音して残していた物語の続きを作ろうとする。自分たちを西部劇のヒーローに見立て、悪党たちに決死の覚悟で抵抗する姿を描いたラジオドラマ。本作は報復劇のように読めるが、進むうちに話の軸が変わってくる。人間の無力さや、誰しも覚えのあるような自己保身、それでもどこかに眠る底力が生々しく描かれた作品である。無力さと底力を兼ね備えた人間の「本気」に胸が痛いほど熱くなる。

No.154 6点 刑事ファビアン・リスク 零下18度の棺- ステファン・アーンヘム 2019/03/20 19:05
スウェーデンとデンマークの両国にまたがる事件捜査を描くシリーズの3作目。スウェーデン警察が追う事件とデンマーク警察が追う事件とが、意外な形で交差する。刑事の家庭での問題、警察内部の問題も描かれ、物語の雰囲気は重い。しかし、緻密な伏線と意表を突いた展開で、一気に読ませる小説。作品同士のつながりも重要なシリーズなので、第1作の「顔のない男」から読んでほしい。

No.153 6点 クロコーチ(漫画)- 長崎尚志 2019/03/20 19:05
リチャード・ウー作コウノコウジ画の漫画になります。リチャード・ウーとは長崎尚志のペンネームになります。この作者はこの他にも東周斎雅楽・江戸川啓視というペンネームがあります。警部補の黒河内は、警察官の中でも悪名高い人物。政治家の弱みに付け込み、賄賂を徴収し、悠々自適の生活を送る「汚れデカ」。若き警察庁キャリアの清家は黒河内を内偵するよう、上司から命じられてペアを組むが、やがて衝動的な事実を知る。登場人物の多くに「裏の顔」があり、物語の展開はスリリング。「正義とは何か」と深く考えさせられる漫画であるが、同時に正義の定義が人それぞれ違ってくることに気付かされ、背筋が寒くなる。「確かな真実」「本当の正義」をどう捉えるかは、読者自身かもしれない。

No.152 7点 秘密- 川嶋澄乃 2019/03/07 19:30
テレビドラマ「ハートにS」でデビュー、シリーズ「怨み屋本舗」や「オーバー30」「ちはやふる」などを手掛けた気鋭の脚本家が初めて挑戦したエンタメ・ミステリー小説。20歳の遥は週刊誌の見習い記者。誕生前に父を病気で、14年前のクリスマスの夜に母を事故で失くし、7歳違いの兄、6歳上の姉と共に教会附属の養護施設で育ち、それぞれ独立した。現代社会の病理、ネット社会のあわいを背景に、人間の業、思惑を幾重にも織り込んで、周到な展開で「秘密」の在処へと導いていく。脚本家ならではの、簡潔な文体は小気味よいリズムを打って一気読みの醍醐味をもたらしてくれる。

No.151 6点 夏を殺す少女- アンドレアス・グルーバー 2019/03/07 19:29
女性弁護士エヴェリーンは、元小児科医がマンホールに落ちて死んだ案件を担当していたが、所属事務所で扱った別件に奇妙な共通点を発見。当時の担当者が不審死を遂げたことで、二つの事件を追い始める。一方、ドイツの警察のヴァルター刑事は精神科病院での少女の死を調べるうちに、同様の事件が続発していることに気づいた。挿入される少女の犯罪シーンが緊迫感を高め、ぐいぐいページをめくらせる。エヴェリーンとヴァルターが出会ってからは、一気呵成の展開。エヴェリーンの抱える闇は深いが、光を感じさせる終わり方もいい。

No.150 6点 不意撃ち- 辻原登 2019/02/24 15:15
日常の謎が主題であるが、狂気や破滅と紙一重の日常がある。風俗嬢ルミの過去を風俗店ドライバーが追う「渡鹿野」、数十年後に恨みをはらす犯罪者たちのニュースと中学時代の記憶が呼応する「いかなる因果にて」、定年後の元会社員のひそかな欲望が蠢きだす「月も隈なきは」など5編を収録している。5編を通しての主題は「運命の悪意による不意打ち」で、いついかなるときでも起こりうることを力強く問いかける。いずれの作品でも読者を日常から遠いところへと誘い込む。ひたすら精神の奥に潜むものを突き動かす暗い律動がある。一体物語はどこに運ばれていくのか、何を隠し持って突き進むのかが、不穏で怖くもあり、同時にあらがいきれない官能の戦ぎも覚えさせて、実に魅惑的。特に、実在した事件をコラージュしながら日本文学における黒髪を論じた名作「黒髪」のように、実際におきた有名な犯罪を次々に引用しながら個人的な体験の核心へと迫る。「いかなる因果にて」と、様々な文学的記憶を巧みにつないで不埒な淫蕩を軽やかな家族喜劇に転換する「月も隈なきは」が見事。

No.149 5点 探偵は教室にいない- 川澄浩平 2019/02/24 15:15
語り手の「わたし」は札幌市の中学校に通う少女、真史。机の中に入っていたラブレターの書き手は誰なのか、友人が合唱コンクールのピアノ伴奏をやめた理由は何なのか、別の友人の二股疑惑の真相とは何かなどを調査する。探偵役は真史と幼なじみの引きこもりの少年、鳥飼歩。甘いものが大好きで、シニカルで、時々もってまわった言い方をしながらも理路整然と謎を解いていく。いわゆる日常の謎系のミステリだが、北村薫氏と加納朋子氏という日常の謎系の作家2人を含む選考委員会が選んだだけあって論理はしっかりとしていて、地味な青春ミステリではあるが、丁寧な筆致と優しい抒情がいい。

No.148 6点 ハリー・クバート事件- ジョエル・ディケール 2019/02/05 20:01
米国のニューイングランドを舞台にしたスイス人作家の作品。33年前に行方不明になった少女ノラの白骨死体が発見され、大作家ハリー・クバートが殺害容疑で逮捕された。デビュー作がベストセラーになった27歳のマーカスは、恩師で友人でもあるハリーの無実を信じ、真相を突き止めるためハリーが住む田舎町に向かった。マーカスの現在進行形の調査と、過去の出来事を交互に描くことで真相を浮かび上がらせていく構成が読ませる。終盤はどんでん返しの連続で、ページをめくる手が止まらない。孤独な生活を送るハリーとマーカスの友情も読みどころ。ノラを一途に愛し続けたハリーの、人をどれほど愛しているかを知る唯一の方法はその人を失うことだ、との言葉が何よりも胸にしみる。まさに読み終えたときに、「登場人物たちにもう会えないかと思うと少しさびしさを感じる」魅力的な本。

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平均点: 6.19点   採点数: 407件
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