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ALFAさん
平均点: 6.67点 書評数: 190件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.23 7点 返事はいらない- 宮部みゆき 2023/08/23 08:36
日常の謎から殺人事件まで6話からなる短編集。いずれも社会派風味。
この社会派風味の頃合いがちょうどいい。
カードローンをモチーフにした「裏切らないで」は、欲望の虚像都市「東京」の罠に嵌まった女性を主人公にした秀作。シンプルなミステリーだが、声高に社会派を振りかざした有名長編より味わい深い。逆トリックによるドライなエンディングは清張を思わせる

お気に入りは表題作「返事はいらない」と読後感のいい「ドルシネアにようこそ」。

No.22 7点 桜ほうさら- 宮部みゆき 2023/08/22 10:35
タイトルのイメージ通りほんのり優しいサイドストーリーを読み進めていくうちに、やがてダークな真相が明らかになってエンディングへ。とても読みごたえがある。

犯人(敵役)の人物造形や意外性は申し分ないのだが、唯一残念なのはその行動というか話への出し入れが何だかギクシャクしていること。真相開示がスムースでドラマチックな構成になっていたら、時代ミステリーの代表作になっていただろう。

No.21 6点 青瓜不動 三島屋変調百物語九之続- 宮部みゆき 2023/08/12 08:40
今回の四話はいずれもお伽噺風のホラーファンタジー。
お気に入りは「針雨の里」。
人ならぬもののコミュニティと人里との交流や、産物の流通までストリーに組み込んだ、いわば社会派ホラーファンタジー。妙なリアリティがあって面白い。
タイトルが微妙な伏線にもなっていて、謎解きの味わいもある。

それにしても聞き手の小旦那富次郎もこれで4集目となる。先代のおちかは第5集でバトンタッチしたのだからそろそろ富次郎も同じパターンで続けるのは難しいのでは?
どうする宮部❗

No.20 6点 よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続- 宮部みゆき 2023/08/09 10:06
百物語が初期の緻密なホラーから次第におとぎ話風ホラーファンタジーへと変わってきている。そのため、作中リアルの三島屋を舞台とする人情話と百物語との繋がりが悪くなってしまった。

今回は三島屋の富次郎、伊一郎やおちかの話が盛りだくさんで、その点はシリーズファンとしては楽しめるのだが・・・

No.19 6点 黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続- 宮部みゆき 2023/08/06 15:10
聞き手がおちかから三島屋の次男富次郎にバトンタッチ。

お気に入りは第三話「同行二人」。ひねりのないストレートな人情ホラーだがロジックが通っている上に、語り手にも怪異にも妙に共感できる。
表題作は「そして誰もいなくなり」そうな閉ざされた屋敷もの。とても面白い趣向だが、いかんせん長すぎる。330ページでほとんど長編。この半分でいい。

まだ聞き手としては頼りない富次郎だが、周辺エピソードも盛りだくさんでシリーズ物の楽しさが味わえる。

No.18 5点 魂手形 三島屋変調百物語七之続- 宮部みゆき 2023/08/03 07:54
宮部みゆき安定の百物語。シリーズファンなら安心して楽しめる。
ただ、三十四話までくるとどうしても同工異曲は免れない。
構成の変化や、聞き手である富次郎の周辺エピソードで盛り上げたいところだが、おちかほど屈託を抱えていないため深みがでない。

第二話、父親そっくりに見えていた三兄弟が、実はそれぞれ似ても似つかない顔だったというのは、ホラーのロジックとして面白い。

No.17 6点 堪忍箱- 宮部みゆき 2022/04/19 08:28
8編からなるノンシリーズ短編集。茂七親分は出てこない。
ミステリー風味やホラー風味のものもあるが基本は素の人情噺。
筆は滑らかで読みやすいが切れ味はさほどでも・・・

中では「敵持ち」がミステリー的解決を伴っていて面白い。
エンディングも味がある。

No.16 5点 おまえさん- 宮部みゆき 2022/04/12 09:58
作家の個性は失敗作にもよくあらわれる。宮部みゆきは筆がよく走る。湧いて出るような表現は心に刺さる名文にもなるが、時にはあふれかえって過剰になる。この作品ではすべてが過剰である。

過剰その1.   
長い!ひたすら長い!シリーズ第一作「ぼんくら」が上下合わせて600ページ余り。一方この「おまえさん」はなんと上下合わせて1200ページ。しかも前作のような連作短編+長編ではなく、まんま長編。
とくに、弓之介によるエルキュール・ポワロばりの謎解きシーンや終盤の捕り物場面が冗長で興をそぐ。ここはキリっと引き締まった緊迫感が欲しいのに。
過剰その2.  
作者は男の顔の美醜にフェティッシュな興味でもあるのだろうか。言及があまりにも過剰で辟易する。弓之介の美しさに関しては「ひいきの引き倒し」レベル。一方、若手の同心間島信之輔の醜さについてはイジりすぎ。生真面目なキャラはさわやかなのだから無骨な青年くらいでいいではないか。
過剰その3.  
キャラが増えすぎた。間島信之輔と傷の太刀筋を見抜いた本宮源右衛門はいいとしても、弓之介の兄淳三郎は中途半端。キャラは魅力的だが行動は大店の三男坊としては不自然。

さて、ストーリーだが、一見関連のない三人が同じ太刀筋で殺される。調べてみるとそのうち二人には過去に関連が・・・
ミステリーとしてはなかなか魅力的なプロットだが途中であまりにも都合のいい告白が飛び出して・・・ 

とはいうものの人情噺としては十分に楽しめる。なんといってもキャラは立っているし筆は滑らかだ。

スピンオフでいいから、代替わりした美形同心井筒弓之介の活躍を書いてくれないかな。くれぐれも短編で。


No.15 6点 日暮らし- 宮部みゆき 2022/04/06 08:36
短編四作と長編「日暮らし」+ エピローグの構成。
「ぼんくら」の続編で、登場人物も話もつながっているので順に読むほうがいい。

短編はミステリー風味の人情噺として楽しめる。
表題作「日暮らし」は「ぼんくら」のメインテーマである湊屋の因縁話の続編。重要人物が殺されて湊屋の深い闇が明らかになるかと思いきや、意外な犯人というよりは唐突な犯人で肩透かし。
捕物シーンもドラマチックにはならずお祭り騒ぎのようで興をそぐ。

ミステリーではなく起伏のある人情噺として読む分には楽しい。筆は滑らかだし人物のキャラは立っている。
弓之助は出来すぎだが、あざといほどのお利口ぶりがかえって井筒平四郎の大人の知恵の深さを引き立てている。
今回印象に残るキャラは、無口な同心佐伯錠之介と機微をわきまえながらも情に厚いお徳
反対にがっかりキャラは湊屋総右衛門。闇を抱えたラスボスかと思いきや、勿体つけても所詮は身から出たサビに振り回される色好みオヤジだった。

No.14 6点 きたきた捕物帖- 宮部みゆき 2022/04/04 22:20
宮部みゆき最新の時代物ミステリー4編。
定評の「初ものがたり」などに比べるとミステリー風味も文章も軽く薄味である。

薄味その1.主人公がまだ若くプロの十手持ちではないため、社会のダークサイドに切り込むにはどうしても迫力不足。そのため謎解きもいささか締まりのないものになる。

薄味その2.宮部の人気作には心に刺さる言い回しがいくつかあるものだが、この作品には見当たらない。文章は読みやすくなめらかではあるが。
例えば「・・・こうした封印話は、こっちがいくら蓋をしようと思っても、蓋のほうから開きたがることがある。蓋は蓋の身で、長く口をつぐんできたことに疲れているのだろう。」( ばんば憑き「お文の影」)。古い秘密が漏れてしまうたとえとして見事な表現で、これだけでも作品を読んだ価値がある。
一冊の中で二、三か所はこれくらいの表現にめぐり合いたいものだ。

シリーズ化されるようなので、北一の成長とともに迫力が増すことを期待する。
なお、帯の「謎の稲荷寿司屋の正体が明らかに⁉」は誇大広告。すでに推測していること以上のものはない。



No.13 9点 ぼんくら- 宮部みゆき 2022/03/29 16:16
ミステリーの読書歴は長いが自分の好みを認識したのはわりあい最近のこと。
それまであまり手を付けなかった「本格、新本格」の有名作を読んでほとんど楽しめなかったことに我ながら驚いた。ロジックやトリックは精緻でも文章は平板、キャラ造形は浅くてげんなりさせられるものが多かった。
逆に言うと起伏のあるストーリーを練達の文体と深い人物造形で読めれば、別に犯罪なんか起こらなくてもいいなーと思ってしまうのだ。

ネタバレします。



この作品はまさにそれ。周辺部分で殺人は起きるが、大仕掛けの謎そのものは結果的に犯罪には結びつかない。
短編と見せかけて、次第にそれらが関連し謎が深まっていく構成は見事。
よくこなれた文体も楽しい。ときに興が乗って書きすぎるのはこの作家の癖だが。
人物の造形もいい。大人たちは心の綾がしみじみとするし、子供たちはかわいい。弓之助とおでこの異能ぶりは結構シュールなのだが妙になじんでしまう。

そうはいってもせっかくこれだけの謎を仕掛けたんだから、その根底にダークな犯罪が存在してほしかったとは思う。湊屋総右衛門はもっと心に深い闇を抱えた人物でもいい。

他の作品でも見かけたが、作者は夕暮れを「彼誰時(かわたれどき)」としているが今は明け方に限るのでは? 江戸の話だからいいか・・・

No.12 7点 本所深川ふしぎ草紙- 宮部みゆき 2022/03/23 10:49
七話通して回向院の茂七親分が登場する、ミステリー風味の人情噺。
一話一話の密度はとても高いがミステリー要素は薄いのでこの評点。

お気に入りは第一話「片葉の芦」。しっかりとしたミステリーの骨格で、「情け」の本質を問う味わい深い話。ただしフードロスのくだりはどうも抵抗がある。まして江戸時代ならなおさらだろう。

同じく茂七親分の出る次作短編集「初ものがたり」と合わせて読むと楽しい。

No.11 7点 初ものがたり- 宮部みゆき 2022/03/23 09:59
六話すべて回向院の茂七親分が活躍する連作短編集。
茂七とその手下の権三や糸吉のキャラが立っている。
時にワトソン役を演じる謎の屋台の親父もなかなかの存在感。最後まで素性が分からないのもいい。

いずれも人情噺の絡むショートミステリーだが、合わせて味わうべきは、新年の藪入りから翌年のしだれ桜まで巡る季節の風物やおいしそうな食べ物の描写だろう。

No.10 8点 幻色江戸ごよみ- 宮部みゆき 2022/03/15 12:58
表題通り、季節を感じさせる12話からなるノンシリーズ短編集。
ホラーありサスペンスあり、それぞれ30ページほどの短い尺の中に読み応えのある宮部ワールドが構成されている。全体にやや辛口なのがいい。

中でもお気に入りは「だるま猫」と「神無月」。前者は捻りのないのがいっそ痛快なほどストレートなホラー。
後者は犯罪者とそれを追う者がカットバック(交互)で叙述されるサスペンス。緻密な描写がじわじわと緊張感を盛り上げる。あえて落とさないエンディングも実に粋。

No.9 7点 あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続- 宮部みゆき 2022/03/15 09:01
シリーズ第5巻。収められた5話のほとんどが100ページを超える中編なのでボリュームたっぷり。
今回はおちかを取り巻く人間模様が重要になる。第4話の二つの話をきっかけに、おちかは結婚を決意する。似合いの相手だが、もっと前振りがあってもよかった。
百物語の聞き手を引き継ぐ富次郎は粋で優しい男だが、おちかほどの屈託は抱えていないため少し頼りない。おそらく回を重ねるうちに深みを増すのだろう。

それにしても、おちかを想いながら死んだ松太郎をどこかで魂鎮めしておく必要があったのでは?きっと重厚な一話になったはずなのに残念。事始の「家鳴り」だけではいささか中途半端。

第5話「金目の猫」は三島屋の長男伊一郎が弟を相手に語るシンプルな怪異譚。聞き手富次郎の予行演習にもなっている。伊一郎の長男らしいキリっとしたキャラが秀逸。

No.8 8点 三鬼 三島屋変調百物語四之続- 宮部みゆき 2022/03/09 07:57
それぞれが100ページを優に超える中編四話。怖い話、悲しい話の中に愉快な話も取り混ぜて、読み応えは十分。
第四話「おくらさま」ではおちかの身辺にもいろいろ変化があって、そろそろ「黒白の間」を卒業する気配も漂う。

お気に入りは「食客ひだる神」。いつも腹を空かせている「ひだる神」に憑かれてしまった総菜屋の話。この神様、食いしん坊なだけではなくなかなかグルメで、総菜の出来を豆粒で評価してくれる(ミシュランか!!)。おかげで弁当は大ヒット。店は大繁盛だが、やがてたたりが・・・
そのたたり、ロジックが通っているような通っていないような・・・そもそも憑神に重量なんてあるのかな。

それにしても、江戸前の豪華な弁当のおいしそうなこと。作者が楽しみながら書いていることがよくわかる。
ホラーを読んでよだれが出るとは思わなかった。
どこかで発売してくれないかな。宮部みゆき監修「季節の百物語弁当」

No.7 7点 ばんば憑き- 宮部みゆき 2022/03/08 08:05
表題作を含め六編からなるホラー時代物短編集(角川文庫「お文の影」は同内容)。辛口で引き締まった「あやし」や構成美の「三島屋変調百物語」とは一味違うユルさがある。
登場人物、特に子供のキャラが立っていて楽しい。「あんじゅう」と同じキャラも登場するが話のつながりはないので読んでいなくても大丈夫。
お気に入りは第六話「野槌の墓」。よろず頼みごとを引き受ける無役の御家人が主人公。
七歳の娘からいきなり「父さまは、よく化ける猫はお嫌いですか」と問われて面食らう冒頭からして可笑しい。このオープニングは数多い宮部作品の中でもまさに絶品。女の姿で頼みごとを持ち込んだ「よく化ける猫」とのやり取りも妙に脱力していて笑えるし、その「お礼」も心に滲みる。
収まりのいいホラー人情噺。


No.6 7点 あんじゅう 三島屋変調百物語事続- 宮部みゆき 2022/03/02 10:47
連作の第二巻。四編からなる怪異譚の後に三島屋おちかの身辺に起きる事件を描いて登場人物のリアリティを増している。
お気に入りは「逃げ水」。日照りの憑神「お旱(ひでり)さん」に憑かれてしまった少年の話。身の回りの水を涸らしてしまうので嫌われた少年が、それなら水に不自由しない船頭になろうと決心するのが可笑しい。怖くない怪異譚。

表題作「あんじゅう」はあたたかく切ないお話。ただ、きっかけとなる直太朗の身の上話とのつながりが悪く冗長。あんじゅうの話だけにしたほうがまとまりがよかったと思うが・・・

No.5 7点 おそろし 三島屋変調百物語事始- 宮部みゆき 2022/03/02 10:13
連作の「三島屋変調百物語」の第一巻。
お気に入りは第一話「曼殊沙華」。殺人犯を身内に持ってしまった男の複雑な心を描いてホラーというより現代の心理小説の趣がある。緻密で物静かな書き出しは長く続く連作のプロローグにふさわしい。
客を招いて一人一話の怪異譚を聞くことが、語る側と聞く側のセラピー(癒し)にもなることが早くも暗示されている。

第二話「凶宅」と第五話「家鳴り」は続きもの。壮大なエンディングは大交響曲のコーダ(終結部)のようなしつこさで笑える。楽しめる話だが第一話の緻密さとは異質。

No.4 8点 泣き童子 三島屋変調百物語参之続- 宮部みゆき 2022/02/23 09:30
宮部みゆき、安定の時代物ホラー。
三島屋おちかが客を招いて一人一話の怪異譚を聞くというシリーズもの。
「語って語り捨て。聞いて聞き捨て。」が決まりなので語る者も癒され、聞くおちかの人生観も深まるという趣向。
おちかをめぐる人間模様も楽しめる。

今回は、おちかが怪談語りの寄り合いに招かれて聞く四話を含めて計九話。
お気に入りは「まぐる笛」と「節気顔」。
前者は村に祟りをなす怪異を退治するというよくある話だが、重厚にして壮大。
後者は精緻なロジックがこの世のルールと奇妙にねじれた、現代ホラーらしい構造で面白い。

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ALFAさん
ひとこと
物理的な合理性、心理的な整合性、生き生きとした情景描写などがバランスした作品が好きです。
好きな作家
アガサ クリスティー、クリスティアナ ブランド、連城三紀彦、G.K.チェスタトン
採点傾向
平均点: 6.67点   採点数: 190件
採点の多い作家(TOP10)
宮部みゆき(23)
アガサ・クリスティー(21)
松本清張(15)
連城三紀彦(14)
三津田信三(14)
青山文平(7)
横溝正史(7)
夕木春央(5)
G・K・チェスタトン(5)
夢枕獏(4)