皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ALFAさん |
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平均点: 6.66点 | 書評数: 218件 |
No.7 | 6点 | 幻坂- 有栖川有栖 | 2025/08/08 08:18 |
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「天王寺七坂」をテーマにしたホラー七編+歴史物二編。
お気に入りは、哀しくも希望の見えるホラーファンタジー「真言坂」。冒頭の英文フレーズ がエンディングの一言に対応する構成は見事。 もう一編は「天神坂」。恋に破れて死んだ女が、不思議な割烹で美味しい料理と酒に癒されて成仏する話。それにしては真田十勇士がいつまでも常連客なのはなぜ?味音痴なのか! 実在した今はなき料理屋の蘊蓄も楽しい。こちらは心霊探偵濱地健三郎物。 多くは薄味でオドロオドロしい怪異は出てこない。 |
No.6 | 6点 | 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 | 2025/08/06 06:29 |
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学生アリスシリーズの第一短編集。
京都の英都大学を舞台に、新入生アリスとEMC(推理小説研究会)の出会いから、一年後のマリアの入部までを背景にした9編。多くは日常の謎系。 なかでは「四分間では短すぎる」が気に入った。このサークルらしいロジックの展開が愉快。作中で「点と線」がネタバレ気味に扱われているから未読の人(いないか!)は要注意。 全体にミステリー濃度は薄いがシリーズキャラたちと付き合うつもりで読めば楽しい。 とはいっても切れ味鋭い本格短編をもう少し読みたかったなあ。 |
No.5 | 5点 | 日本扇の謎- 有栖川有栖 | 2025/08/02 06:45 |
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海岸で記憶喪失の青年が発見される・・・なかなか魅力的な導入部。文体はなめらかだしキャラ造形もいい。
そして惨劇が、とここまでは本格ミステリーの醍醐味たっぷり。 しかし終盤、指摘される犯人に意外性はなく動機は平凡でがっかり。 もとよりこの作家に衝撃の犯人、斬新なトリック、大どんでん返しなどは期待していない。有栖川氏の真骨頂は鋭利な刃のようなロジックにある。 ところがここではその切れ味も今一つ。 犯人の哀しみを深く掘り下げていればまた別の味わいがあったかもしれないが・・・ というわけで物語性豊かな王道ミステリーのはずが、薄味過ぎるエンディングとなって残念。 |
No.4 | 7点 | 女王国の城- 有栖川有栖 | 2025/07/30 09:55 |
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読みごたえのある大作。しかし・・・
映画でも小説でも尺の長さは「質」に関わってくる。プロットに対応する長さであることは名作の必須条件なのだ。 「孤島パズル」では明快な動機やシンプルなプロットがコンパクトにまとめられていたし、「双頭の悪魔」の複雑な仕掛けはあの長さを必要とした。 ところがこの「女王国の城」ではプロットに対して尺があまりに長い。無礼かつ乱暴な言い方をすれば初めの1/3に後半の1/3を継ぎ足しても十分成立する。 作者の文体はよく言えば知的でケレン味がない。語り口で読ませるタイプではないから、長い情景描写やサイドストーリーで読者を楽しませるには不向き。 UFO や地球外生命体の話も蘊蓄というより資料的だし、カフカの引用も浮いたようになる。せっかくのバイクアクションも冗長。(冒頭のキメ台詞は好き) 時間軸を取り込んだトリックや犯人指摘のロジックは前2作にも増して魅力的なだけに残念。 |
No.3 | 8点 | 孤島パズル- 有栖川有栖 | 2025/07/26 09:35 |
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デビュー第二作にして代表作の一つ。もはや古典となった王道の孤島物。
冒頭から110ページまでは異変は起こらない。この間、読み手は物語を楽しみながら登場人物の関係性やキャラクターを頭にいれることができる。ケレン味のない文体がいい。 そして嵐の夜、第一の事件が起こる。それも王道の密室で。あとはクローズドサークルの掟どおり疑心暗鬼の沼に・・・ 暗合解きはいささかヌルいがタイヤ跡からのロジック展開は見事。この作品のハイライトだろう。 ベースとなるビターな青春物語が作品に奥行きを与えている。 キリッと引き締まった本格ミステリーの名作。動機が明快な分、大作「双頭の悪魔」より好み。 (以下、微妙なネタバレかも) ある重要人物二人の行動とキャラ造形が乖離しているのは残念。歪んだ自我や卑しい欲望が存分に描かれていたら名作中の名作になっただろう。クリスティなら・・・と思ってしまう。 沖に浮かぶボートの描写で某有名作品を想起して感覚的な伏線になった。ロジカルではないから無論作者の意図ではないだろうが。 |
No.2 | 8点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2023/07/08 14:30 |
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冒頭からクリスティの「春にして君を離れ」を思わせるマリアの内省的な叙述が続く。200ページあたりまで異変は起こらず冗長にも感じられる。しかしこれは読者を熟成させるのに必要な長さなのだろう。
やがて事態は動き始める。川の向こうとこちらでそれぞれに。 テンポは速からず遅からず、あちらこちらに張り巡らされている伏線を探りながら読み進めることとなる。 精緻なロジックを堪能できる新本格の大作。 しかし残念ながら・・・ 以下ネタバレ 唯一にして最大の問題はXを仲介者とするxx殺人であること。両犯人ともにXが仲介者ではなく当の契約相手であると信じている。しかしこれはXの属性を考えるとまずあり得ない。 動機(Xにとっての)の脆弱さも減点要素。 |
No.1 | 5点 | スイス時計の謎- 有栖川有栖 | 2022/02/02 08:39 |
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表題作のみ7点。
ロジックが美しい。しかもそれが、三十路半ばに差し掛かったかつてのエリート高校生たちの成功と蹉跌、抜き差しならない犯行の動機、こちらも抜き差しならない被害者の事情といった濃いドラマの上に展開されるから、読みごたえは十分。 犯人が火村と同程度にロジカルでなければならないことや、果たしてこのあと起訴から公判まで持っていけるのか、など突っ込みどころはあるが・・・ なお犯人指摘の場面での、同級生同士の会話はややチープ。エリート同士なら火の出るような言葉のバトルが欲しかった。 他の三作は格段に落ちる。初めから読んでいったので、途中どうしようかとも思ったが、表題作まで行きついてよかった。 |