皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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青い車さん |
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平均点: 6.93点 | 書評数: 483件 |
No.32 | 8点 | カナダ金貨の謎- 有栖川有栖 | 2019/09/23 09:13 |
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短編2作+中編3作で構成された火村シリーズ久々の中短編集。それぞれ異なるアプローチの見せ場があり、なかなかのお気に入りです。以下、各話の感想。
①『船長が死んだ夜』 衒いのない直球のフーダニット。燃やされたポスターの手掛かりから、明快なロジックで犯人を突き止める推理が気持ちいい快作です。 ②『エア・キャット』 殺人事件が話題に登りますが、それ自体より火村の猫好き特性が見どころのファンサービス的な一編です。 ③『カナダ金貨の謎』 犯人の一人称の章に引き付けられます。消えた金貨と他の些細な証拠を繋げ、謎を解く手際も見事です。 ④『あるトリックの蹉跌』 以前に少し触れられた、火村とアリスの出会いを詳しく読むことができたのが満足です。作中のアリスの小説はいかにも習作という感じがします。 ⑤『トロッコの行方』 有名な思考実験を冒頭にもってきたことが上手いです。トロッコ問題の話題が無ければ、最後の皮肉を含んだ幕切れが活きなかったでしょう。 |
No.31 | 7点 | インド倶楽部の謎- 有栖川有栖 | 2018/11/23 18:53 |
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「前世」をキーワードに毛色の違う展開を見せる異色作かと思いきや、相変わらず論理への執着も忘れない安定の火村シリーズです。今回は登場人物の意外な過去を掘り出すと同時に、動機と機会に焦点を当てた推理が冴えます。思えば犯人の最大の条件は最初から書かれていた訳で、さりげなく伏線も周到な力作となっています。 |
No.30 | 7点 | マジックミラー- 有栖川有栖 | 2017/02/13 18:34 |
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なんとなく予測しやすい犯人ですが、意外な犯人よりも有栖川作品では珍しいハウダニット、それもどちらかと言えば派手になりにくいアリバイ・トリックで魅せる作品です。実現可能かどうかはともかくとして、あまり類を見ない方法による工作は種明かしされた瞬間の快感にたまらないものがありました。
もうひとつの見どころは密室講義ならぬアリバイ講義のトリック分類と解説で、実に興味深く読めました。まあ、「あの作品にアリバイってそんなに重要だったっけ?」と作品名のネタバレを見ても思い出せなかったものもありましたが。 |
No.29 | 8点 | 狩人の悪夢- 有栖川有栖 | 2017/02/03 19:21 |
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『鍵の掛かった男』以来の長篇は、火村英生という人物のクールさが光る力作でした。
有栖川有栖は難しい道を自分で選んだ作家です。この2017年において、逃げも隠れもせず真っ向から古風なスタイルのパズラーを書く労力は並大抵ではないでしょうし、火村を論理だけを武器にした名探偵として活躍させるのもまた難しいはずです。しかし、それでもなお作者自身が好きな作品をずっと書き続けています。事実、今回もそのスタイルはまったくブレず、純粋な論理のみで犯人を落としています。死体の手首が切り取られていた謎の解明、二段構えの犯人の思惑の看破、そして詰めの消去法推理、すべてが冴えわたっています。 総じて、今回も「いつもの有栖川有栖」を崩さないクオリティで、今年書く予定という国名シリーズ新作にも期待が高まります。ファンとしてはこの作風を限界まで貫いて欲しいものです。あと、余談ですが、最後の最後のプチ・サプライズも嬉しかったですね。 |
No.28 | 7点 | 怪しい店- 有栖川有栖 | 2017/01/20 12:13 |
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2014年に刊行された、火村英生シリーズ短篇集。やはり安定した手堅い話が揃ってます。大きく外れた作品がないので、作者に興味を持った人が手軽に読むのに最適な一冊ではないでしょうか。
以下、各話の感想です。 ①『古物の魔』 相変わらずホワイの捻り方が上手。あくまで短編向きのネタだけど面白い。 ②『燈火堂の奇禍』 殺人以外の事件を扱って目先を変えた作品。過去の作品の登場人物名が出てくるのもサービスもあり。 ③『ショーウィンドウを砕く』 推理の内容は小ぢんまりしているが、犯人の心理は倒叙形式にマッチしていて読応えがある。 ④『潮騒理髪店』 切なさを残す読後感が良くて「おいしい箸休め」的な一編。 ⑤『怪しい店』 作者にしては珍しい意外な犯人を引っ張り出す終盤と、それをアンフェアに陥らせない書き方が印象的。 |
No.27 | 7点 | 長い廊下がある家- 有栖川有栖 | 2016/07/10 22:05 |
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以下、各話の感想です。
①『長い廊下がある家』 不可解な謎と論理的な推理がしっかり両立しています。特殊な構造の建物ではまず疑われるカラクリによるトリックを否定し、少々古典的ながらもうまくこちらの盲点を突いてくる真相がうまいです。 ②『雪と金婚式』 こちらも個人的にツボでした。第三者の何の関係もない行為が予想外に事件を狂わせる、というあまり見たことがない話。心温まる結末もいいです。 ③『天空の眼』 作者としてはかなりの異色作。この時代ならではのツールを本格ミステリーに組み込んでくる発想が面白いです。悪く言ってしまえばヘンテコなトリックが奇妙な後味を残します。 ④『ロジカル・デスゲーム』 数学の世界ではわりと知られたネタだと後で知りました。しかし、この短篇で見るべきなのは火村の生き残るための決死の戦略にあると思います。 全体的によくまとまった好篇が揃っています。個人的ベストは地味ですが②かもしれません。 |
No.26 | 6点 | 乱鴉の島- 有栖川有栖 | 2016/07/10 21:34 |
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それまで専ら江神二郎が担当していたクローズド・サークルの事件に、火村英生が挑みます。とは言っても、この21世紀に何の捻りもない孤島連続殺人を作者が描くはずもなく、ミステリアスな雰囲気をまとった老詩人とオタクなカリスマ社長を同時に登場させるところには工夫が凝らされています。そして、まさかあの医学ネタが絡んでくるとは!と大袈裟でなくのけぞりました。
しかし、謎解きに関しては若干の物足りなさも感じます。〇〇〇〇症を消去法に用いるなど、ロジックへのこだわりは相変わらず伝わってきましたが、この長さにしては明らかに軽量級です。いや、これだけ脇道に逸れがちな要素をたくさん含んでいては、これが精一杯かもしれませんが。 |
No.25 | 6点 | 妃は船を沈める- 有栖川有栖 | 2016/04/26 20:35 |
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短めの長篇というより中篇ふたつというべき編成なので、謎解きのヴォリューム感はあまりありません。しかしそのふたつの謎解きはいずれもなかなかの水準に達していると思います。
『猿の左手』はトリックは新しくないものの扱い方が非常にうまいです。そして、それ以上に『残酷な揺り籠』の謎解きにはロジックへの並々ならぬ拘りが感じられます。怪奇小説について論理性を突き詰めた考察を披露するのも面白いです。 褒めてばかりいますが、妃沙子のキャラクターの描き方がもうひとつなのが難点で、小説としては6点が妥当だと思います。 |
No.24 | 4点 | 海のある奈良に死す- 有栖川有栖 | 2016/04/26 20:24 |
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作者のファンですが、こればかりは容認できないかなあ。特に例のトリックは大問題だと思います。同じようなネタは刑事コロンボでもありました。でも、コロンボの場合は冒頭からトリックを明らかにし、それを解く過程を見せるというフォーマットであるからこそさほど違和感を覚えないのであって、このようなストレートな本格として書かれた小説だと最後いきなり突飛な解答が飛び出す構造になってしまい、読者は置いてけぼりを食らってしまいます。
小説としても不出来な部類で、クリスティーの名作をもじったタイトルはそそられるのに展開は起伏に乏しく、「海のある奈良」である福井などを描いた旅情ミステリーにもなりきれていません。有栖川さんは当たれば大きい作家なのですが、この出来はとても残念。 |
No.23 | 7点 | 絶叫城殺人事件- 有栖川有栖 | 2016/04/03 16:16 |
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以下、各話の感想です。
①『黒鳥亭殺人事件』 誰が犯人か神経を尖らせて読んだのですが、なるほど、騙されました。意表を突く真相もいいですが、アリスが子供と遊ぶときのやりとりも面白いです。 ②『壺中庵殺人事件』 他殺であることはあっさり警察に見抜かれた殺人事件。ポイントは密室トリックの一点ですが、特殊な部屋の構造を利用したトリックには素直に感心。短めにまとまっているのも好ましいです。 ③『月宮殿殺人事件』 ある豆知識ひとつを基に組み上げられた話。アイディアは乏しいはずなのにちゃんとミステリーとして成立しています。しかし、ミステリー作家は色んなことを創作に活かしてきますね。 ④『雪華楼殺人事件』 そうそう起こらない偶然により成立した不可解な状況。受け付けない人もいそうですが、記憶を失った少女の謎も絡めたストーリーには引きつけられます。 ⑤『紅雨荘殺人事件』 トリックはわりとシンプル。しかし、相変わらず「なぜそんなことをしたのか」の設定の上手さは冴えています。証拠の提示もフェア。難点は犯人の心情に入り込めなかったところでしょうか。 ⑥『絶叫城殺人事件』 シリアル・キラーものですが、蓋を開けると作者らしいトリックの本格パズラーとなっています。そして、何と言っても連続殺人の動機の不条理さがインパクト大です。 個人的ベストは②か⑤ですが、他の作品も水準以上と思います。特に③のような作品も嫌いじゃないです。さまざまなパターンのトリックが楽しめるお得な一冊。不満があるとすれば、①などはタイトルの雰囲気と内容がマッチしてないところでしょうか。 |
No.22 | 5点 | 高原のフーダニット- 有栖川有栖 | 2016/04/03 15:40 |
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以下、各話の感想です。
①『オノコロ島ラプソディ』 冒頭で語られる「叙述トリックについて」が真相にリンクしていますが、純然たる叙述トリックではない奇妙なひねりが加わった作品。どこか亜愛一郎シリーズを思い出させるロジックです。 ②『ミステリ夢十夜』 本格的な短篇にはできないもののユニークな奇想を大放出したようなショート・ショート集という印象。個人的には、第八夜のアンチ・ミステリーを思わせる館の設定が記憶に残りました。 ③『高原のフーダニット』 田舎の牧歌的な雰囲気を活かしきれていないのがやや不満です。また、火村の推理は「こうすれば可能」の域を出ず、他の方法の存在を完全に消去していません。大きな粗はないもののパワー不足に感じました。 ③が蠱惑的なタイトルの割には小粒なのが残念。残るふたつはなかなか楽しいものの、メインディッシュではなくあくまでおいしい前菜というべきヴォリューム感です。必読レベルの作品がないため採点は少し厳しめです。 |
No.21 | 9点 | 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 | 2016/03/15 19:20 |
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以下、各話の感想です。
①『瑠璃荘事件』 講義ノートの盗難とはかなり小規模な事件ですが、骨格は案外しっかりしたミステリーと言えます。トイレの電球が鍵になるアリバイ崩しで、江神部長の推理が冴えています。 ②『ハードロック・ラバーズ・オンリー』 分量は短いですが、伏線と真相の驚きがちゃんと両立した佳作です。 ③『やけた線路の上の死体』 本短篇集で唯一殺人事件を扱っています。トリックは似たようなものがいくつかあるそうですが、サークルの四人がああでもない、こうでもないと推理をひねり出す様子が楽しいです。 ④『桜川のオフィーリア』 『女王国の城』でも少し出てきた石黒操の登場作品です。人間の機微が繊細に描かれており、本来は僕の嗜好ではないはずなのに面白く読めました。 ⑤『四分間では短すぎる』 まさに『九マイル~』の発展形。論理の奔放な飛躍の連続が魅力的です。オチも別に不満ではありません。そもそも、少ないヒントから完全に精密な答を出すのは無理な話で、ディスカッションの過程を見るべきだと思います。 ⑥『開かずの間の怪』 タネが割れてしまえば何でもない感じです。他の作品同様、主要メンバーの掛け合いは実に愉快なので、読んで損はなし。 ⑦『二十世紀的誘拐』 人質は一枚の絵、身代金は千円という奇妙な誘拐事件。盗難のトリックはシンプルながら効果的です。実は動機の方がポイントになる作品と思います。 ⑧『除夜を歩く』 モチの書いた小説はかなり拙くて、正直退屈なのは否めません。しかし、それを俎上に載せたミステリー論的なパートは一読の価値ありです。 ⑨『蕩尽に関する一考察』 アリスが二年生になり、マリアが入部してから最初の事件。古書店主人の奇妙な行動が思わぬ意味を持っていたことが判明したときは驚くと同時に感心しました。事件を食い止めることができた、という救いのある結末もいい読後感を残します。 ミステリー的に小粒な作品も見られますが、推理研メンバーの一年を読むことができる感慨も手伝ってかなり高評価。特に⑤と⑨がお気に入りです。 |
No.20 | 7点 | 菩提樹荘の殺人- 有栖川有栖 | 2016/03/15 18:37 |
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以下、各話の感想です。
①『アポロンのナイフ』 変則的な犯人・ホワイの意外さに驚かされる異色作。少年犯罪がテーマとなっているのも、有栖川さんがやっていそうでやっていなかった切り口で新鮮です。 ②『雛人形を笑え』 ミステリーとしては小粒でやや物足りない印象。お笑い界で這い上がろうともがく若者を追う方に話が逸れ気味なのも気になります(ただし、そこもけっこう面白く読めはします)。 ③『探偵、青の時代』 火村の大学生時代のささやかな活躍を描く、ファンには嬉しい一篇。彼の微笑ましい一面が見られるオチもいいですね。 ④『菩提樹荘の殺人』 被害者の状態は『スペイン岬の謎』を想起させます。シンプルで明快なロジックも往年のエラリー・クイーン的。古風な素材をアンチ・エイジングという現代的な話題に乗せているのも面白いです。 総じてなかなかの中篇・短篇がそろっています。コンセプトの「若さ」がいろんな角度から描かれておりお得感があります。ただ、一番面白かった表題作にしても長篇にするにはボリューム不足な謎解きで、中篇がちょうどよい分量です。少し前に、何かのコメントで有栖川さん自身が「最近、短篇にちょうどよいネタをよく思いつく」というように書かれているのを読みました。やはりファンからしたら長篇をもっと読みたいのが正直なところ。2016年には長篇二作(うちひとつは国名シリーズとのこと)出すのが目標らしいので期待したいです。 |
No.19 | 6点 | 火村英生に捧げる犯罪- 有栖川有栖 | 2016/03/02 15:05 |
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短篇四作プラス掌篇四作という珍しい収録の本。掌篇はどれも短いならではのキレがあるものばかりで、かなり楽しめます。特に『殺風景な部屋』はシンプルながらも印象に残るダイイング・メッセージの解明でお気に入り。次いで『偽りのペア』がユーモラスなオチで好きです。
しかし、残る四つの短篇は個人的にあまりヒットしませんでした。別に水準を大きく下回るものはないのですが、ワクワクさせる表題に期待値が上がりすぎてしまったのかもしれません。強いてベストを挙げるとしたらやはり表題作『火村英生に捧げる犯罪』でしょうか。変な期待値を持たず、軽い気持ちで読めば十分面白い本ではあります。 以下、ショート・ショートを除いた各話の感想です。 ①『長い影』 トリック、ロジック、犯行経緯といった要素はしっかり押さえているのですが、期待を上回る新鮮さやエネルギッシュさがないのが残念。 ②『あるいは四風荘事件』 亡くなった警察小説の大家が残した本格推理小説のアイディアを読み解く話。これにも「もっと面白くできるだろう」という欲が残ります。推理作家らしいメタ的な視点で謎を解こうとするアリスの姿は面白いです。 ③『火村英生に捧げる犯罪』 タイトルからすごい名犯人が出てくるのかと思ったら、他に例を見ないほどの小物っぷり。このことを指摘する人は多かったようで、文庫版あとがきでは作者の通じなかった意図が知れます。犯人の隠された思惑がユニーク。 ④『雷雨の庭で』 犯人からはトリックを仕掛けず、アクシデントのような殺人により成立した現場の状況。今ひとつ面白みを欠いた真相です。 |
No.18 | 8点 | 朱色の研究- 有栖川有栖 | 2016/03/02 14:14 |
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幽霊マンションでの殺人に遭遇する火村とアリス。この導入部がまずいいです。そのトリックを見破ったと思ったら、今度は過去の岬で起きた殺人が課題となる。ふたつの事件が優れたプロットで流れるように繋がる様が読み応え満点です。
マンションでのトリックは若干危なっかしいように思えますが、その扱いはあくまでジャブのようなものなので、さして不満にはなりません。着想のユニークさを見るべきでしょう。ふたつ目の岬でのトリック解明がメインとなりますが、詳しくは書けないものの法学部出身の作者らしい知識を取り入れていてよくできています。伏線の張り方は弱いですが、意外なものが重要な鍵となる驚きが味わえます。 犯人の動機は評価が分かれるようです。しかし、けっこう丹念に描かれているので僕は許せます。総じてドラマとしてもパズラーとしてもなかなか充実した読後感。ただ、捕捉になりますがTVドラマ版の方は二週に亘ってやった割にはストーリーが割愛され、人物の掘り下げ方が不十分、説明不足なところが目立つといった、不満の多い出来でした。 |
No.17 | 10点 | 女王国の城- 有栖川有栖 | 2016/02/25 18:02 |
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現時点での有栖川有栖の最高傑作と思っています。
マリアがいなくなった前作に対し、本作は江神部長が失踪するという掴みが魅力です。宗教組織を向こうに回して繰り広げるストーリーは自然の脅威によって閉ざされた空間を舞台にしたこれまでと違い、シリーズ4作中もっともユニークだと思います。パズラーとしての純度は『双頭の悪魔』の方が上ですが、本作はエンタメ小説と本格ミステリーの最大公約数を実現していると言えるのではないでしょうか(特に見どころなのが織田先輩の大アクション)。また、人類協会をただの得体のしれない怪しい集団で片付けず、最後に協会の裏に隠された事情を見せて驚かせてくれるところなどさすがです。 クライマックスの江神部長の推理も冴えています。銃声の処理など細かいところをカヴァーする推理もさることながら、何と言っても凶器の謎、過去に小屋で起きた事件から思わぬ犯人の特性を導き出す推理が抜群です。舞台と親和性の高い謎解きからは、地味な物証からじわじわ推理を組み立てていた『月光ゲーム』からは比べようもないほどの発展を見せています。総合的に見ても、あらゆる点で神経が行き渡った傑作であると思います。シリーズ最後となる第五作の期待がどうしても高まってしまう完成度です。 |
No.16 | 8点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2016/02/25 17:02 |
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「すごく面白かった」ことはおぼえているものの、恥ずかしながら細部の記憶が曖昧だったので、パラパラ読み返してみました。すると、記憶していた以上に作り込まれた傑作であることに気付きました。
分断された夏森村と木更村で別々に起こる殺人を、アリスとマリアの二人が交代で綴る構成の面白さがまずいいです。また、三つの挑戦状を盛り込んだ贅沢さが何と言っても魅力的で、この大長篇を薄まった感じは微塵もなく高密度なものにしています。第一の挑戦の鍾乳洞での殺害トリック、第二の挑戦での手紙のトリック、そして第三の挑戦ですべてを集約させるダイナミックさは最高です。『ギリシャ棺の謎』を思わせる多重推理は、本格ミステリー好きにとってはたまらないでしょう。あと、読み返してみて気付いたのは、夏森村でのアリスと望月・織田の先輩コンビのディスカッションの楽しさです。特に望月先輩が張り切って推理に挑むクイーン・マニアらしさには、親しみを覚えました。 江神部長の「悲劇を止める」ために推理をするキャラクターも相変わらずでほっとするものがあり、紛れもない傑作です。ただし、あくまで好みの問題ですが『孤島パズル』での精緻をきわめた推理を超えた推理は見られなかったので、差別化のため8点とします。 |
No.15 | 6点 | ダリの繭- 有栖川有栖 | 2016/02/24 23:28 |
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このサイトでは思いのほか低評価ですね。よくまとまった佳作だと思うのですが。堂条社長の髭、フロート・カプセルをトリックに絡めているのもなかなか面白いところ。ただし、問題だと思うのはヒロイン格である鷺尾優子がここまで男を翻弄するほど魅力的に描かれてないところです。これは、先日ドラマ版を観たときにさらに違和感を覚えました。結局のところ見た目がいいだけでは? |
No.14 | 6点 | 46番目の密室- 有栖川有栖 | 2016/02/24 23:07 |
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まだ本格推理小説に免疫がない時期に読んだ初めての密室殺人ものだったということもあり、僕は素直に感心しました。まあ、確かに慣れた人からしたらトリックは他愛のないものかも。しかし、個人的には真壁聖一の最後の大トリックや、あとがきにあった「輝くような密室トリックは『不在』ならぬ『未在』だと夢見たかった」の言葉などから見られる、作者のミステリーへのロマンに敬意を表したいです。それに、トリックそのものは大したことないかもしれませんが、犯人が白いものづくめのイタズラをした隠された意図などはよくできています。 |
No.13 | 8点 | 白い兎が逃げる- 有栖川有栖 | 2016/02/24 22:28 |
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以下、各話の感想。
①『不在の証明』 双子の絡んだアリバイ崩しと思いきや実は単純なところに真相が転がっていた、という話。手堅いつくりです。 ②『地下室の処刑』 ホワイダニットが肝となる短篇です。この毒殺の動機はちょっと強引な気もしますが、意表を突いていて十分楽しめます。 ③『比類のない神々しいような瞬間』 これはかなりお気に入り。ふたつのダイイング・メッセージが用意されており、ひとつは予備知識が必要ですが、もうひとつの被害者が意図しない形で証拠となったメッセージの着想が秀逸です。 ④『白い兎が逃げる』 一見ストレートな鉄道・飛行機もの。しかし、直前まで女性をつけていたストーカー男が殺害されるという要素が加わることで、ガチガチの本格に仕上がっています。トリックの発想もなかなか良く、(僕はしませんでしたが)当時の時刻表があれば眺めながら読むのも面白いかも。 総じて自分の好みと合致する本格ものばかりで、しかもそれぞれが違ったタイプの味わいです。作家アリスシリーズでは上位に位置する一冊だと思います。しかし②で登場したシャングリラ十字軍ですが、こういったカルト集団はシリーズに不要であるばかりか邪魔ではないかという気がします。 |