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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.12 7点 友達以上探偵未満- 麻耶雄嵩 2019/01/28 20:47
 他の麻耶短編集と比べてチャレンジ性のある試みやアクの強さは控えめです。強いていえば女子高生コンビというキャッチーな設定が工夫といえますが、それでも大人しく刺激に欠けるのは否めません。とはいえ、三つのどの短編でも随所で人を喰ったひねりや入り組んだロジックが散りばめられているのは作者らしくて見事です。

No.11 5点 あいにくの雨で- 麻耶雄嵩 2017/01/01 18:15
 もっと前に読んだなら満足できたのでしょうが、麻耶雄嵩作品に慣れた今の基準でいうと決定的なインパクトに欠けて、物足りなさが残りました。エキセントリックな学園と生徒が出てくる事を除けばごく普通の密室もので、連続殺人の動機も想定内。麻耶さんにはもっと複雑怪奇でひねくれたプロットをどうしても求めてしまいます。

No.10 6点 木製の王子- 麻耶雄嵩 2016/11/14 18:16
 如月烏有が出てくる最後の作品と聞いていましたが、彼の出番はわりと少なく、精々近況報告ぐらいの役割です。動機の異様さで全体を支えるダイナミックさはいかにも麻耶さんらしいところです。細かすぎる分刻みのアリバイは追いかけるのを断念してしまうほど凝りすぎなうえに現実的には無理が目立ちますが、そこも異常な論理で補強しているのは評価すべきポイントだと思います。種を明かされればこれだけ詳細な図と説明が必要だったか、疑問にも感じますが。

No.9 8点 メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 2016/10/26 17:11
 『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』をベストに挙げる人も多いですが、僕はあまり感心しませんでした。そんなのアリかよ、という気持ちが、ぶっ飛んでるけど面白い、に勝ってしまいました。むしろメルカトルが私立探偵もののパターンを壊して見せたり、限りなくアンフェア寄りの犯人当て小説を書いてみたり、といった他の作品の方が捻りとして好きです。
 あと、あまり話題にならない『シベリア急行西へ』を個人的に推します。ストレートな論理展開が好みで、かつそれを麻耶雄嵩が書いた、ということに貴重さを感じるからです。メルの強烈なキャラを楽しみたい人には物足りないでしょうが、作者には単発でいいのでこういうのをもっと書いてほしいです。

No.8 8点 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 2016/06/12 15:02
 以下、各話の感想です。
①『白きを見れば』 愛香のダミー推理から、それを崩した上で貴族探偵の使用人たちが正しい推理をする、この連作の基本的な流れを示したストレートなフーダニット。コートのボタン、停電、シャッターに付いた埃などの手がかりからなるシンプルな推理はなかなかの出来です。
②『色に出でにけり』 キーアイテムである手帳によって犯人を暗示しているのがよくできています。アリバイトリックを解く手際の鮮やかさも良く、①と同様に佳作だと思います。
③『むべ山風を』 シンクのティーカップ、断水、ゴミの分別、上座と下座といったミステリーではあまり見慣れないものを消去法推理の材料にしているのが実にユニークです。極限まで物語が削ぎ落とされ、容疑者の大半が直接出てこないので好みは分かれそうです。
④『幣もとりあへず』 登場人物と作者からの二重のトリックが絡むことで、ほぼ100パーセントの読者が騙されるであろう、もっとも作者のクセの強さが表れた作品になっています。難点は、愛香の推理が面白みに欠け、多重解決の醍醐味が薄いところです。
⑤『なほあまりある』 ①から④すべてが伏線として機能しているという収束性はまさに圧巻。オチも決まっています。

 前作では徹頭徹尾イヤミな奴だった貴族探偵にも、読んでいくうちに愛着が出てきました。愛香がどこにいっても必ず登場するところは完全に漫画的な展開ですが、そこも作者らしい所。このシリーズがこれからどのように終結するのか注目していきたいです。

No.7 7点 貴族探偵- 麻耶雄嵩 2016/02/13 22:52
自らは情報収集はおろか推理すらせず、すべて使用人任せの名探偵という人を喰った設定が目を引きます。しかし、内容はしっかりヴァラエティに富んだ麻耶雄嵩流のパズラーが集まっており、作者のファンなら間違いなく面白く読めるでしょう。逆に破天荒なトリックに慣れてない人は許せないであろう作品も一部あります。
以下、各話の感想です。
①『ウィーンの森の物語』 あるハプニングにより横滑りする犯人の行動を読み解く手際はなかなかです。ちゃっかり糸に関してフェアなヒントを提示しているのも抜け目がありません。
②『トリッチ・トラッチ・ポルカ』 アリバイ・トリックはさらりと書かれていますが、よく考えるとかなりぶっ飛んでいます。
③『こうもり』 本短篇集のなかでもっとも世評が高い作品です。何と言ってもアンフェアに見えてまったく嘘を書かず、ぬけぬけと成立させた叙述に尽きます。最初に推理を読んだとき、一瞬何が起こったのかわからなくなりました。
④『加速度円舞曲』 ロジックで攻めまくる、地味ながらも純度の高いパズラー。車の位置という些細なことから次々に推理を紡ぎ出していくステップが気持ちいいです。
⑤『春の声』 ロジカルな推理を突き詰めた結果、到底信じられないような真相が導き出される、いかにも作者らしい力作かつ怪作です。

No.6 9点 さよなら神様- 麻耶雄嵩 2016/02/10 19:38
図書館で借りて読了しました。例によってぶっとんだ設定をただ思いつきで終わらせない作者の力量はさすが。麻耶さんの手にかかると小さな町で殺人事件起こりすぎだろ、であるとか、子供たちが大人びすぎだろ、というような突っ込みは野暮とおもわせられ、そこも凄いところです。
エピソードの構成もいいです。第一話はミステリーとしては小粒なものの神様の託宣→それに合わせた推理をひねり出す、というこの連作のフォーマットを示しています。続く第二話第三話では、推理の意外性が増したことに加え居心地の悪い奇妙な読後感が味わえます。そして第四話第五話でこの世界だからこそ成立する異形のミステリーに変貌。極めつけは最終話のハッピーエンドなようで悪意の塊のような締めです。
色々書きましたが、インパクト絶大な作品集であり、本ミス2015のベスト1になったのも素直に頷けます。それにしても、はじめは拒絶していたのに何冊か読むうちに麻耶作品がクセになっている自分がいます。恐ろしい…。

No.5 8点 名探偵 木更津悠也- 麻耶雄嵩 2016/02/03 22:15
各話の感想です。
①『白幽霊』 ベーシックなフーダニット作品。推理が若干食い足りない感じですが、そつなくまとまっている印象です。
②『禁区』 これは面白い。推理のキレが抜群です。本格ミステリーの世界ではありえないあの存在を推理の核としているあたり一筋縄ではいかない作品でもあります。
③『交換殺人』 交換殺人といえば法月さんが得意とするテーマですが、本作は新たな可能性を切り拓いた作品といえます。
④『時間外返却』 意外な犯人が目を引きますが、しっかりロジカルな推理も両立させた良作です。

全体として表面的な派手さは控えめですが、木更津と香月の関係や独特の不謹慎さがアクセントとなっていて、麻耶さんらしさはちゃんとあります。それでいて論理性もしっかりした作品ばかりで、作者がまっとうなパズラーを書かせても優秀であることを示した短篇集だと思います。

No.4 7点 メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 2016/02/03 21:28
本格ミステリーらしい極めて論理的な推理を展開しているのに、それらをすべてぶち壊すとんでもない趣向が炸裂しまくる空前絶後の短篇集です。単品で見るとめちゃくちゃなだけに思えますが、これだけ怪作ばかり集まると逆に称賛したくなります。個人的ベストは『答えのない絵本』です。
以下、各話の感想です。
①『死人を起こす』 意表を突いた名推理の楽しめる好篇かと思いきや、ラストのメルカトルの暴挙が凄まじいです。この短篇集らしい幕開け。
②『九州旅行』 美袋のマンションでたまたま殺人が起きていたという設定がご都合主義だという感想をよそで見かけましたが、麻耶さんがやるとなぜか許せてしまえます。しかし、この作品もラストがとんでもないです。
③『収束』 プロローグの謎が魅力的で、身長に関するメルの推理も実に冴えています。ストレートな傑作となる素質のある作品ですが、これは解決できてないですよね…。
④『答えのない絵本』 消去法によるフィルタリングで気持ち良く犯人が絞られていくのが快感です。ロジックの極北を見せられるような作品で、自殺説、事故説、全員犯人説など他の可能性をすべて排除した結果に辿り着いた答が前代未聞。一番の問題作でもあります。
⑤『密室荘』 メルと美袋しかいない状況下で死体が出現…。ショートショートといっていいほどの短さで、端的にこの短篇集の方向性を集約したような締めです。

No.3 6点 - 麻耶雄嵩 2016/01/28 23:30
『夏と冬の奏鳴曲』で災難に遭った如月烏有のその後を描いた作品で、前作を読んだ人なら要チェックです。しかし、本作では彼はなんと放火魔になってしまいます。精神の不安定さが伝わってくるような語り口で、悲劇的で救いのないオチかと思いきや最後の最後に思いもよらない結末を見せ、続篇を読まないではいられなくなります。ミステリー的には、〇りトリックに説得力が乏しいのがやや残念です。

No.2 5点 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 2016/01/28 23:15
これでもかと謎を大放出した結果、そのほとんどがぶっ飛んだ解決をしているか、投げっぱなしになっているかという前代未聞な超の付く問題作。頭の中が?で埋め尽くされる幕切れでした。メルカトル鮎が突然登場して意味ありげなことを言うもののその意味も不明なままです。ネット上の考察を見ても完全に納得できるものはありませんでした。まあ、他の人が真似しようにも真似できない芸当ですし、まだ若くしてこれだけエッジの利いた作品を書いてしまう麻耶さんは天才ならぬ鬼才といったところでしょうか。

No.1 6点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件- 麻耶雄嵩 2016/01/24 21:40
破天荒にもほどがある密室トリックに唖然。このトリックを認めてしまったら、それはもうファンタジーと変わらないでしょう。でもそう言いつつ、なぜか結構楽しめてしまいました。過剰すぎる装飾は麻耶さん節炸裂といった感じ。何よりもあの古典本格の名作シリーズを読んだ上で本作を読むことができたのは幸せでした。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
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