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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.13 8点 奇面館の殺人- 綾辻行人 2016/11/09 15:09
 2012年にもなってなお綾辻さんがこれだけ直球の推理小説を書いたことに驚きました。しかも叙述トリックにはほとんど頼らずに。当初の予定よりずっと枚数が増えたということもあって事件が一件のみにしては長いと言えば長いですが、捜査のパートがひたすら懐かしい本格の雰囲気に満ちています。そして、大団円に向けての怒涛のロジックには凄まじい熱量を感じました。絶対にさらなるどんでん返しがあるはず、と身構えていたのにまったくそれがなかったのはちょっと拍子抜けでしたが、本作はそれが丁度いいといえば丁度よくもあります。

No.12 4点 どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 2016/11/09 14:59
 手厳しい意見ですが、あまりに遊びが過ぎて、かつワンパターンな作品集だと思います。反則スレスレの技を奔放に使って「読者の誰が犯人だろうか」と考えて読む楽しみを奪っているように思えてなりません。しかも、それが何発も続くので些かくどくも感じます。いちばん推理小説の王道に近いのは『伊園家の崩壊』ですが、パロディに毒が強すぎて完全に引いてしまいました。総じて綾辻さんの本来の実力には遠く及ばない出来です。

No.11 8点 鳴風荘事件- 綾辻行人 2016/10/06 00:25
 愚直なまでに直球なパズラーに徹しています。叙述トリックを得意としている作者ですが、本来好きなのはこういうのなんだなと伝わってくるようです。縦横に張り巡らした手がかりに加え、章と章の間にも読者にヒントが与えられているのも憎く、「さあ、推理してみろ」と真正面から挑戦をしているような作者の稚気を感じます。クライマックスの畳み掛けも読み応え抜群で、前作以上に熱量を感じました。
 双子や、その弟の奥さんといったキャラクターも好きなのですが、この二作で打ち止めになってしまったのは、人気なかったのでしょうか?綾辻さんにはこの作品や近年の『奇面館の殺人』のようなやつをもっと書いてもらいたいのですが。

No.10 5点 びっくり館の殺人- 綾辻行人 2016/03/01 22:36
ミステリーランドのテーマ、「大人も子供も楽しめる」は書く側からしたらかなりの難物なようで、綾辻さんもこれは苦労したのではないでしょうか。正直、傑作とは言い難い出来です。
問題なのは、子供を意識した読みやすい文体とストーリーなようでいて、事件の真相や恐怖を残す幕引は刺激が強すぎるところです。結果として、子供向けとしても大人向けとしても中途半端になってしまったように思えます。トリック自体はなかなか悪くないので、もうひとつかふたつアイディアを足して、大人向けの正統的な館シリーズの一作として書いた方が収まりが良かったのでは?

No.9 9点 Another- 綾辻行人 2016/02/26 21:16
トリックだけ取り出せば別に新しくはありません。しかし、ストーリーがとにかく秀逸で、文庫版で上下二冊の長さを一気に読んでしまう面白さです。作者がベテランになったことで得た技術が為せる業でしょう。また、ホラー小説としても楽しめます。恐いのは確かなのですが、あまり過剰にグロ描写に走らないのがいいところで、スプラッタ系が苦手という方にもお勧めしていいと思います。榊原恒一と見崎鳴を中心としたボーイ・ミーツ・ガールの青春小説としても読めるかもしれません。

No.8 7点 殺人方程式- 綾辻行人 2016/02/16 22:10
Amazonのカスタマー・レビューを覗くと、トリックが陳腐と上から目線で批判している人がいましたが、それは完全に的外れでしょう。確かにトリックは特に真新しいものではありません。しかし、本作の命がハウではなくホワイであることは少しでもちゃんと読めば明らかです。そして死体の運搬理由は少なくとも僕は体験したことのないもので驚かされました。良作だと思います。ただ、図解に無理に方程式を入れる必要はなかった気も。物理的に説得力を持たせるという狙いでしょうか?

No.7 6点 暗黒館の殺人- 綾辻行人 2016/02/16 21:52
暗黒館の描写はいいです。読んでいる間は最高に楽しかったのは確か。ただし、肝心の推理が2000枚超の大作にしてはかなり物足りないです。トリックに利用されたあの道具は現代の本格ミステリーで用いるには古臭い上、明らかに軽量級です。それに江南君や島田潔が大活躍するのかと思いきや壮大な外伝に過ぎなかったとは、ガッカリじゃなかったといったら嘘になります。また、気になる人物がその後どうなったかわからず、放置しっぱなしだったのもいただけません。しかし、最後明かされるあの人物の正体は、館シリーズ随一のサプライズで、そんな不満を多少払拭してくれました。

No.6 7点 黒猫館の殺人- 綾辻行人 2016/02/16 21:32
世間の評価はそれ程ではないのであまり期待せずに読みましたが、予想外に快作と感じました。メイン・トリックはこれまででもっとも大胆と言えるのでは。そして、その叙述がかなり力技であるものの殺害トリックを解くのに必要不可欠であるところに感心しました。鮎田老人の正体が想像つきやすい、伏線が文章で浮き気味、などの弱点を差し引いても素直に面白かったと言えます。そして何よりもインパクト大だったのが、犯人の異常な信念が生み出した殺害動機です。復讐や怨恨などのエモーショナルなものでも、いわゆるサイコパス的なものとも違う、その異質さにはおぞましさを覚えました。

No.5 10点 時計館の殺人- 綾辻行人 2016/02/07 23:54
大トリック一発勝負の大作にして、質的にもまさに力作です。タイトルからして時間が鍵となるトリックであることは明白ですが、この発想は殆どの読者の予想を上回るものでしょう。また、その本来ならかなり無理のある奇想のディテールを、数々の伏線によって支え説得力を持たせているのもさすがで、特にレコードとインスタント麺の手がかりのさりげなさに感心しました。他にも綿密に練り上げられたプロット、劇的な結末など見るべきものは多く、間違いなく館シリーズのトップです。

No.4 6点 人形館の殺人- 綾辻行人 2016/02/07 21:53
滅多に犯人を当てられない僕でも薄々感づいてしまったので、かなりの人が犯人が誰かについては見当がついたのではないでしょうか。ただ、異色作かつ問題作であることは認めつつ、僕は擁護したい派です。そもそも、この作品の肝はフーダニットなどではなく、飛龍想一という男の哀しきドラマにあるのです。苦悩に苛まれる彼の姿、そして結末の痛ましさにのめり込んだ僕にとっては、他の館シリーズに肩を並べてもけして遜色ない重要作です。ミステリーとしては反則気味なので4点クラスですが、プロットのクオリティを加味したら6点はつけていいと思います。

No.3 9点 迷路館の殺人- 綾辻行人 2016/01/31 09:41
あとがきで作者も述べている通り、とことん人工的なミステリー。館の構造からして現実にはありえません。しかしいくつものトリックや、どんでん返しに次ぐどんでん返しを比較的コンパクトにまとめているところは非常に僕好みです。推理小説の老大家の遺産をめぐる競作、その作品通りに次々とおこる殺人というストーリーもケレン味満点で、馬鹿らしく思う人もいそうですがこの過剰な読者サービスがまた魅力でもあります。若き日の作者の気合いが伝わってくるようです。読んでいる間の楽しさは『十角館』以上で、ミステリーにはまり始めたころ読んだ思い出もあり、高く評価します。

No.2 7点 水車館の殺人- 綾辻行人 2016/01/27 22:40
トリックはかなり易しめな親切設計。犯人もおおよそ見当がつく人が多そうです。とはいえ物語の構築はしっかりしていて、十角館ほどではないにしても手堅く面白い作品に仕上がっています。何よりラストシーンが印象的です。改訂版についている有栖川有栖さんのふたつの解説も興味深く、同年代作家どうしの思い入れを感じます。難を挙げるとしたら、舞台が「水車」館である必然性が弱かったところでしょうか。

No.1 8点 十角館の殺人- 綾辻行人 2016/01/23 15:54
はじめて読んだ本格推理小説として思い出深い作品です。日常的に本を読む習慣があまりなかった僕をミステリーの世界に引き込んでくれた綾辻さんは、個人的に別格の存在と思っています。これを読んだことがポウやアガサやクイーンやダインやカーを読み始めるきっかけだったんだよなあ。そして「トリックってこんなタイプのものがあったのか!」と例の一行を読んで驚愕したものです。ただし、本来なら10点付けるのですがその他の更に好きな作品と差別化するために8点とします。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
採点の多い作家(TOP10)
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク(46)
アガサ・クリスティー(39)
エラリイ・クイーン(33)
有栖川有栖(32)
法月綸太郎(22)
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