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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.12 8点 スイス時計の謎- 有栖川有栖 2016/02/20 21:18
以下、各話の感想です。
①『あるYの悲劇』 他の人の評価はあまり芳しくないものの、僕はかなり好きです。ある誤認と特殊な形式のダイイング・メッセージとが相まって、意外な解決を見せてくれます。
②『女彫刻家の首』 首切りの理由が弱いことも不満ですが、それ以上に首をすげ替える必然性がぼやけたままなのがスッキリしません。これはやや落ちる出来かも。
③『シャイロックの密室』 専門知識がないのでこのトリックの実現性はわかりませんが、発想はなかなか悪くないです。しかし、タイトルにシャイロックと付けるメリットが見当たらないのは難です。
④『スイス時計の謎』 まず、現場の状況から容疑者を五人に絞り込み、そこからさらに腕時計というアイテムひとつから唯一無二の犯人を特定する、二段構えの推理が冴えわたっています。国名シリーズにあやかったタイトルに恥じない、まさにクイーン的な傑作。

何と言っても④の素晴らしさに尽きます。ワン・アイディアの短篇もいいですが、やっぱり有栖川さんが本領を発揮するのはこれくらいのヴォリュームの作品だと思います。あとはちょっと見劣りしますが、①もお気に入りです。

No.11 7点 マレー鉄道の謎- 有栖川有栖 2016/02/19 22:47
異国情緒漂うストーリーがいいですね。そこを舞台に火村とアリスが活躍するだけでファンとしては嬉しくなります。内容は密室トリック一本勝負なのにそれなりのヴォリュームを面白く読ませてくれるのは、やはりプロットの完成度の高さが故でしょう。ダイナミックな目張り密室の種明かしも面白く、間違いなく作者の代表作に数えていいと思います。

No.10 4点 ペルシャ猫の謎- 有栖川有栖 2016/02/19 22:27
以下、各話の感想です。
①『切り裂きジャックを待ちながら』 トリックらしいトリックはなく、動機もとって付けたような印象です。お世辞にも成功したとは言い難い出来だと思います。
②『わらう月』 トリックの着想自体はいいのですが、作者の短篇に悪い意味でありがちなストーリーの膨らみのなさが気になる作品です。
③『暗号を撒く男』 軽い推理クイズ的な謎を扱った作品。短いのであまり気にはなりませんが、薄味な印象。朝井小夜子とアリスの掛け合いを楽しむべきですかね。
④『赤い帽子』 警察の機関誌に載ったということもあってか、本格ミステリーというより警察小説に近いかも。ただし、そう捉えても森下刑事が活躍する以外にあまり特筆すべき点がありません。
⑤『悲劇的』 これは火村英生という男のキャラクターを示した掌篇として見るべき。個人的にこういうおまけが読めるのは嫌いではないのですが、不要という人も多いのはしょうがないところです。
⑥『ペルシャ猫の謎』 ミステリーのタブーを犯してしまった問題作で、優等生的な印象の有栖川さんらしからぬ作品です。トリックは麻耶雄嵩さんがメルカトル鮎に解かせているかのよう。
⑦『猫と雨と助教授と』 おまけで読めるボーナストラック。⑤と同様蛇足と捉える人もいるかもしれません。

全体的に不満が多い短篇集です。これまでは一冊に最低ひとつは秀作が収録されていたのですが、今回はどれも面白みを欠いています。本格ミステリーとはいえないようなものもあって頂けません。ファンとしては心苦しいですが採点は辛くなってしまいます。

No.9 5点 英国庭園の謎- 有栖川有栖 2016/02/19 21:52
以下、各話の感想です。
①『雨天決行』 文筆業特有の知識をトリックに使ったのがユニークです。ただ、ワンアイディアに頼っていて深みに欠けるのも確か。
②『竜胆紅一の疑惑』 疑心暗鬼になった売れっ子作家の被害妄想、だったはずが意外な結末を見せてくれます。奇妙な動機の新たなヴァリエーションです。
③『三つの日付』 この短篇集のベストと思います。予期せぬ複数の錯誤によって成立したアリバイ・トリックのキレは抜群。もしもう一つか二つ捻りがあったならばもっと面白くなったかもしれません。
④『完璧な遺書』 発想は悪くないものの、説得力が弱い解決です。最後の犯人の独白のように火村がいじって捏造した、と逆襲されるのでは?
⑤『ジャバウォッキー』 言葉遊びを多用した謎解きはなかなか面白いです。ただし、これもやや小粒なのは否めません。
⑥『英国庭園の謎』 魅力的なタイトルの表題作なのですが、一番不満な出来かもしれません。現代のミステリーで暗号ものをやるには、よっぽど捻ったものにするか、プラスアルファの見せどころが必要と思います。これは100頁持たせるにはあまりに物足りないです。

キレのある短篇も見られますが、表題作の不満が強く高評価は付けにくいです。個人的ベストは③。それに②か⑤が続く感じです。

No.8 6点 ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 2016/02/12 11:20
以下、各話の感想です。

①『ブラジル蝶の謎』 天井に飾られた蝶の標本という鮮烈な謎に対し、その理由にあまり面白みがなく、尻すぼみ気味なのが惜しいです。その不満を除けば、被害者の特性に目を付けた火村の推理は論理的であり、悪くありません。
②『妄想日記』 こちらも奇妙な謎に期待値が上がりすぎてしまった感が。しかし、容疑者がほとんど絞り込まれているがために犯人当ての楽しみはないですが、真相にはそれなりに驚くと同時に納得もできたのでまずまずの出来と思います。
③『彼女か彼か』 トリックはありがちで意外性に乏しいものの、冒頭と末尾の蘭ちゃんの語りはユーモラスでなかなか楽しめました。有栖川さんってたまにこういうギャグを放り込んでいる気がします。関西人の血でしょうか?
④『鍵』 これは他の人の感想はわかりませんが、僕はかなり好きです。本来軸となるはずの殺人事件が完全に二の次になり、「何の鍵か」が中心となる異色作。スパッとオチが決まっています。ただ、こんなにたくさん登場人物を出す必要はなかったのでは?
⑤『人喰いの滝』 トリックの実行性にはちょっと疑問が残りますね。奇想であることは確かですが。アリスの思いつきの説を火村がツッコむという掛け合いは面白く、ふたりの共同作業で犯人を落とすのも見られる貴重な作品でもあります。
⑥『蝶々がはばたく』 人工的な密室かと思いきや思いもよらない現象によって密室状況が成立してしまった、という真相が不思議な味を醸し出しています。締めくくり方も作者らしくて好感が持てます。

『ロシア紅茶』よりアヴェレージは高いですが、突出した傑作がないのも確か。点数はちょっと厳しく6点とします。

No.7 7点 スウェーデン館の謎- 有栖川有栖 2016/02/06 23:39
ありそうでなかったアイディアを用いた雪の密室ものの秀作です。些細な物証をヒントにトリックを紐解く火村の推理の飛躍はシリーズ屈指だと思います。足跡トリックものでは発見者=犯人という図式がどうしても抜け出せない型なのですが、本作は十分意外性のある解決を見せてくれています。舞台となる雪山の情景や哀しくも悪くない読後感もまたいいです。

No.6 5点 ロシア紅茶の謎- 有栖川有栖 2016/02/06 23:21
以下、各話の感想です。
①『動物園の暗号』 意外性はあるものの読者には推理できないタイプの暗号です。僕はまあまあ楽しめましたが、認めない人がいるのもわかります。
②『屋根裏の散歩者』 この暗号は遊び心があってけっこう好きです。馬鹿馬鹿しくもユニークなダイイングメッセージもいいです。
③『赤い稲妻』 どこか既視感のあるトリックですし、行き当たりばったりで証拠を残しまくったずさんな犯行というのも張り合いがありません。
④『ルーンの導き』 このトリックも今ひとつと思います。ふつうの人にはわからない上に①のような面白みも欠いています。
⑤『ロシア紅茶の謎』 本作品集のなかでもっともキレのあるトリックが冴えています。ただ、証拠がハッタリだったというのは本格推理として不満です。
⑥『八角形の罠』 面白いアイディアではあるものの少し凝りすぎな気も。とはいえ、このシナリオを使った催しはなかなか楽しそうですね。

やはり有栖川さんは短篇より長篇で持ち味を発揮するな、と思わせる作品集。暗号ものも嫌いではないのですが、推理の深みがなく明らかに軽量級です。やはりベストはユニークな毒殺トリックの⑤でしょうか。


No.5 7点 モロッコ水晶の謎- 有栖川有栖 2016/02/05 19:30
このサイトでは評価厳しめですね。僕はどれも安定の面白さで、トータルで見ても水準以上と思うのですが。中篇三作だけでなく、遊び心のあるショートショートが挟まれているのもいい構成です。ただ、やはりがっつりとした長篇を楽しみたいという欲求は解消しきれない、という気持ちも拭えません。
以下、各話の感想です。

①『助教授の身代金』 先日ドラマ版も放送されていました。従来の誘拐ものとは似て非なる二転三転する展開が面白く、登場人物はけして多くないのに意外性もちゃんとあり、快作といっていいと思います。
②『ABCキラー』 もともとはアンソロジー用に書かれた作品。元ネタ作品では大きな鍵になっていた動機がおざなりに処理されているところが気になるものの、サイコキラーものの新たな解として十分楽しめます。
③『推理合戦』 箸休め的な作品ですが、綺麗にオチが決まっていて痛快です。
④『モロッコ水晶の謎』 表題作であるこの作品をどう見るかがこの作品集の評価の大きなポイントでしょう。それまで味わったことのなかったトリックで、拍子抜けと感じる人もいそうですが僕はいい意味で衝撃を受けました。

No.4 9点 鍵の掛かった男- 有栖川有栖 2016/01/31 18:12
 以前から有栖川作品は叙情的な文章が同期の作家たちより頭ひとつ上手いと思っていたのですが、本作ではそれが顕著に表れています。被害者や犯人を含めた登場人物全員に温かい目が向けられており、ラスト一行の締め方には心を動かされました。最初の方はあまりパズラー的な趣は強くなく、てっきり後期クイーン的な作品かと思っていましたが、火村が本格的に事件に介入してからは、いつも通りに推理がしっかり楽しめます。シリーズでも高ランクに位置する力作です。

No.3 8点 暗い宿- 有栖川有栖 2016/01/29 16:50
 突出した傑作こそないですが、作者の技巧を感じる粒ぞろいの短篇集です。以下、各編について一言ずつ。
①『暗い宿』 ありそうでなかったネタを、人間の心理と絡めて上手く処理しているなかなかの佳作。
②『ホテル・ラフレシア』 作中の推理劇の答はまあまあの面白さですが、旅先の華やかな雰囲気が魅力的で、程よく苦い余韻も好きです。
③『異形の客』 火村が犯人に放つ糾弾の言葉が印象的で個人的ベスト。
④『201号室の災厄』 人を喰ったような異色作で、短い作品ならではのキレがあります。

No.2 9点 孤島パズル- 有栖川有栖 2016/01/27 23:08
前作から大きく飛躍を見せた力作で、自転車という移動手段に関してのロジックは切れ味抜群です。一方青春小説的な要素も色濃くなり、純粋に読み物としてパワーアップしている印象。マリアがペイシェンス・サムを「女装したエラリー・クイーン」呼ばわりするところや、江神部長の「密室トリックより密室が好き」という言葉など、登場人物のミステリー談義もまた楽しいです。動機の線から辿ると犯人の見当が容易についてしまうところが惜しいですが、登場人物を魅力的に書き分けるスキルも確実に上がっており作者の本領が十二分に発揮されています。

No.1 7点 月光ゲーム- 有栖川有栖 2016/01/23 18:33
閉鎖空間を舞台にした割りには地味な造りですが、デビュー作にして随所にパズラーを書くセンスの片鱗が見て取れる良作だと思います。さり気ないながらも堂々とした伏線の張り方は実に見事です。ダイイング・メッセージも程よくひねりが利いていて僕は高く買います。それにしても綾辻さんによるインパクト大の十角館ならわかりますが、沢山あったであろう応募作のなかで比較的派手さに欠ける本作を発掘した鮎川哲也氏の眼力はさすがといえます。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
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