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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.13 8点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2016/02/02 23:17
 クイーンのパズラー作りのセンスが行き渡った名作。大きな謎が全体を支えているのは前作『チャイナ』と同じですが、本作はよりロジカルでスマートに処理できている印象です。被害者が多数の女性を弄んでおり動機からは容易に犯人が絞れず、登場人物全員が怪しく思えるところがフーダニット興味を高めている点もうまいです。正々堂々としたヒントの提示にも好感が持て、犯人はもとより犯行経緯まで当てられるようにできています。与えられた条件からその他のあらゆる別解を丁寧に潰し犯人を導き出すエラリーの推理は快感です。
 犯人の隠蔽方法は今やパターン化しているものですが、『スペイン岬』はそのお手本としてもいいのではないでしょうか。

No.12 7点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2016/02/02 22:11
 世評は必ずしもそうではありませんが、案外上質な一作だと思います。犯人の大がかりな細工は過剰気味ですが、あべこべだらけの部屋という謎は実に魅力的ですし、クイーンっぽくない、どちらかと言えばカー的なトリックもユニークで面白いです。それでいて、なぜこんなトリックを用いたのかに関する論理展開は紛れもなくクイーン流であり、トリックをただ思いついたから使ってみた、というような印象は受けません。『ギリシャ棺』『エジプト十字架』で推理の頂点を極めた作者が新境地を開拓した異色の快作と支持したいです。

No.11 7点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2016/02/02 21:37
 ここまでダイイング・メッセージを謎解きの中心とした長編は少ないでしょう。特筆すべきなのは、二種類のメッセージの真相がストレートなものとは大きく異なるところです。テーマそのものの弱点を突いたようであり、その構図は当時としては新鮮なものであったのではないかと思います。本作はさらにクローズド・サークルというシチュエーションという工夫も見られます。メッセージ絡みにのみ焦点を絞った推理はダイナミックさに欠け、犯人特定のロジックが唐突で浮いてしまっているのは大きな難点です。とはいえ、そこも含め異色の作品として独特の輝きを放っているのも確かで、ファンが多いのも頷けます。

No.10 6点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2016/01/31 23:48
 他の国名シリーズと比べたら一枚落ちる、というのが定説の作品。確かにロデオ・スターがショーの最中で銃殺される、という演出の割には少し冴えない印象です。一番の問題は、これまでは成功していたロジックの緻密さと大胆さの両立が綺麗に決まらなかったところでしょう。細かい推理はそつがないものの、肝となるメイントリックに苦しいところが目立つのは論理性をモットーとするクイーンらしくないマイナスポイントです。個人的に凶器の隠し場所のトリックは面白いと思うのですが、作者にしてはもうひとつの出来という評価は免れないと思います。

No.9 9点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2016/01/30 23:43
 本格ミステリではおなじみのベタなトリックを80年以上前の作品とは思えないほど秀逸に応用しており、ロジックが身上のクイーンらしく首無し殺人を必然性のあるものにしています。ヨードチンキの瓶、海泡石のパイプ、チェッカー駒と印象的な手掛かりがいくつも配置されているのもツボです。さらに、アメリカじゅうを股にかけたエラリーの活躍は他の作品にはない魅力で、クライマックスのスピード感において他とは段違いのエンタメ要素を備えた傑作。

No.8 10点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2016/01/30 23:19
 完璧な推理機械だったエラリーの失敗を描き、仮説を立てては崩すを繰り返す試みが面白い所です。探偵の推理を先回りするというミステリのタブーに踏み込んだような犯人をいかに追い詰めるかが見もので、その限界を突破したような懐中時計やタイプライターの推理が冴えます。ダ・ヴィンチの幻の作品をめぐる背景もユニークで、500頁を優に超える大著に見合う内容の濃さです。

No.7 9点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2016/01/29 23:05
 タイトル通り一足の靴から複数の推理を紡ぎ出し、多彩な物証で推理を構築していった『フランス白粉』と好対照をなしています。特に人間の心理に着目した推論が見事で、冒頭で病院の管理の厳重さをさり気なく描いているところなどさすがです。メイン・トリックが盲点を突いており面白いだけでなく、第二の殺人では堂々と大きなヒントを提示しており、読者に対してフェアでもあります。さらには動機は何か、なぜ二回とも同じ手口で殺したのかなど、極力すべてに合理的説明を付与している傑作。

No.6 8点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2016/01/29 20:48
 大型百貨店を舞台に麻薬組織が絡んだ事件に挑むこの『フランス白粉』は『ローマ帽子』の見事な発展形という印象。溢れかえる細かい物証から推理を繋げていく過程は地味ながらミステリ・マニアには堪らないものがあります。「読者への挑戦」の後の解決編にも凄みがあります。ただ一つ、ひたすら手堅い造りだったはずなのに詰めの証拠が完全なハッタリで、冷静に見れば決め手にはなり得ないものなのが惜しいです。

No.5 6点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2016/01/29 20:23
 (長文すぎたレビューを反省し、これからいくつかを修正し再投稿します。)
 記念すべきクイーンのデビュー作。まだまだロジックの精度と大胆さ共に発展途上ですが、劇場公演中の毒殺事件という舞台設定が現代的で好みです。引っかかるのは犯人の意外性についてで、当時ならともかくスレた現在の読者には寧ろ真っ先に疑われてしまう人物に思えます。犯行の流れまでは推理できなくとも勘で犯人だけ当てて詰まらないと言ってしまう人もいるのではないでしょうか。とはいえ、贅肉を削いで謎解きの興味だけで長編を持たせているのはやはり大きな美点です。

No.4 7点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2016/01/29 18:05
XYZはすべてこのラストのためにあったんですね。この手の結末は本作が初体験で、鮮烈な印象だったのを覚えています。ただ、ミステリーらしい事件がなかなか起こらず掴みどころのないストーリーが真ん中あたりまで続くので、最高に面白かったか、というとちょっと疑問。厳しめの7点とします。

No.3 8点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2016/01/28 20:39
先の二作の評価が高いあまり、まるで凡作であるかのような扱いを受けてしまう不遇な作品。確かに中盤での利き腕の推理はこじつけめいていて厳密さに欠けるという弱さがありますが、論理的な解決を信条とするクイーンの技は随所に見受けられます。犯人も前二作ほどではないにせよなかなか意外で、それまで精彩を欠いていたレーン氏もクライマックスでは怒涛のロジックを見せてくれます。新キャラクター、ペイシェンスの冒険も魅力的です。あくまで他の代表作と比べたら、というだけであって単体で見ると十分に魅力的なパズラーに仕上がっていると思います。
余談ですが、本作のプロットはまず国名シリーズ用のものとして作り始めたそうで、邦題では『ドイツ監獄の謎』となるはずだったという説があるそうです。つまり原題では『The German Prison Mystery』といったところでしょうか?

No.2 10点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2016/01/27 19:50
 『X』で推理の美しさを極めたクイーンが、論理性と怪奇性をミックスしたことでひとつのピークを刻んだ名作。毒入りの梨、床に落ちたパウダー、凶器のマンドリン、そしてバニラの匂いと、奇妙なことづくめの事件の手掛かりはどれも秀逸で、推理により恐怖が増幅するという特異な構造の小説です。犯人の設定は今ではさほど意外ではないようですが、その動機の異常さと事件の構図には類例が見当たりません。『X』と『Y』どちらも傑作ですが、この二作が同じ年に書かれたというのはまさに偉業と言って差し支えないでしょう。

No.1 10点 Xの悲劇- エラリイ・クイーン 2016/01/20 20:59
 一言で言ってパズラーのひとつの理想形である小説だと思います。第一、第二、第三すべての殺人に鮮やかな推理が用意されており、犯人が判明するさいの劇的な演出、タイトルの意味が明らかになる幕切れと見どころが満載で、純粋な謎解き興味だけで読ませるのは驚異的です。『Y』と並びクイーンに心酔するに至った思い出深い作品。
 余談ですが、第一の事件のロジックはあの推理漫画の短篇でも応用されていました(絶対に原作者は本作が念頭にあったはず)。それだけシンプルかつ魅力的な推理なのだと思います。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
採点の多い作家(TOP10)
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク(46)
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