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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.143 6点 カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2016/02/28 21:05
 エジプト博物館で資産家が死亡。スリッパやネクタイ・ピンなどから、彼を殺害したのは出資を拒まれたブリス博士かと思われたが、ヴァンスはあまりのあからさまさからその説に疑問を抱く。しかも博士は阿片入りのコーヒーを飲まされ前後不覚に陥っていた。果たして真犯人は誰か?
 魅力的な導入部は素晴らしいです。名探偵ファイロ・ヴァンスが今回活躍するのは博物館。この舞台もユニークです。ミステリーとしての肝は犯人の設定の意外さですが、これは同じパターンの有名作品をすでに読んでいたのでさほど驚きではありませんでした。エジプト絡みの装飾が若干ゴテゴテしている印象で、すっきりスマートに処理できていた元ネタと比べると雑多で却って野暮ったくなっている気もします。とはいえ、その装飾過多がヴァン・ダインらしくもあり、クライマックスの展開に至るまで飽きずに読むことができます。

No.142 8点 犬神家の一族- 横溝正史 2016/02/28 20:40
東西ミステリーベスト100で、旧版では100位圏外だったものの、新版ではプロットの良さを再評価され39位に浮上しています。
遺産をめぐる血縁者どうしの争い、不気味なゴムマスクの男、残虐な見立て殺人など横溝正史らしいお膳立てが勢ぞろいです。格調高い雰囲気もほとばしり、まさに映像化向けの作品だと思います。『獄門島』同様、事件の構図もユニークです。ただし、ご都合主義的な部分が強いため緊密さでは一枚劣ります。
とはいえ、シンプルなトリックを物語に溶け込ませる手腕は相変わらず冴えており、その点は名作の名に恥じません。

No.141 8点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2016/02/27 23:31
偽の手がかりを散りばめ短篇で多重推理を実現した『アフリカ旅商人の冒険』。チェスタトンとポウのオマージュ的な謎の設定が魅力の『首つりアクロバットの冒険』と『一ペニイ黒切手の冒険』。小噺的な遊び心があふれる『ひげのある女の冒険』。シンプルなトリックが効果的に機能した『三人のびっこの男の冒険』。銃弾をめぐる推理が面白いストレートな逸品『見えない恋人の冒険』。シンプルでキレのあるロジックが冴えわたる『チークのたばこ入れの冒険』。オカルト趣味なようでいて異色の解決を見せてくれる『双頭の犬の冒険』。ダイイング・メッセージに先鋭的なアレンジを加えた『ガラスの丸天井付き時計の冒険』。もっとも不可思議な謎を突き詰めた結果おぞましい真相が現れる『七匹の黒猫の冒険』。
エラリー・クイーンの持ち味、論理的解決が短い中にも詰まった好篇がそろっています。特に『ガラスの丸天井付き時計の冒険』がお気に入り。長篇『シャム双子』と同様ダイイング・メッセージをひねりにひねった作品ですが、意外なところが犯人の落とし穴となった皮肉さがたまりません。

No.140 7点 ハートの4- エラリイ・クイーン 2016/02/27 21:42
 不思議とあまり話題にはのぼらないものの、意外や意外かなり楽しめました。はじめはいつになくチャラチャラしたエラリーに戸惑いましたが、華やかな雰囲気に彩られたプロットには新鮮な楽しさがあります。二つの俳優親子同士のロマンスや、それぞれの親がハネムーンの飛行機の中で毒殺されるという派手な演出には釘付けになり、読む目を休めることができません。ハリウッドものの特色は『悪魔の報酬』よりさらにディープになり、クイーンの苦心の跡が見て取れます。
 犯行方法についての罠を看破すれば、機会から自ずと犯人がわかってしまう弱さはあるものの、動機の問題も絡むことで先を見えにくくしており、本格ミステリとしてもなかなか上質です。クイーン・ファンの人にはもちろん、お堅いパズラーは苦手という人にも読んで損はないとお勧めしたいです。

No.139 6点 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン 2016/02/26 21:48
殺害トリック、犯人特定のロジックはともにクイーンの安定を感じます。新味に欠けるとも言えますが。とはいえ、国名シリーズの諸作よりサプライズが劣るのはあくまで比較したらの話で、パズルとしては一定の水準を超えた出来です。男女間のロマンスを積極的に取り入れ、物語に華を加えようという作者の試みは評価に値すると思います。現に最初期の頃と比べリーダビリティは格段に上がっており、読み物としてはさらに高ランクなものと言っていいのではないでしょうか。

No.138 9点 Another- 綾辻行人 2016/02/26 21:16
トリックだけ取り出せば別に新しくはありません。しかし、ストーリーがとにかく秀逸で、文庫版で上下二冊の長さを一気に読んでしまう面白さです。作者がベテランになったことで得た技術が為せる業でしょう。また、ホラー小説としても楽しめます。恐いのは確かなのですが、あまり過剰にグロ描写に走らないのがいいところで、スプラッタ系が苦手という方にもお勧めしていいと思います。榊原恒一と見崎鳴を中心としたボーイ・ミーツ・ガールの青春小説としても読めるかもしれません。

No.137 6点 歌う死体- リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク 2016/02/26 20:53
構成の緊密さが冴えたエピソードで、映像化されてもけしておかしくなかったと思います。テープレコーダーのトリックと他殺であることを見抜く推理は大したものではありませんが、被害者の飼い猫からいくつもの手がかりをつかむコロンボ警部の名推理は大きな見どころです。また、敏腕女性キャスターである犯人のシルヴィアがコロンボをテレビ出演に誘うくだりなどは他の作品にはない新鮮さがあります。僕は刑事コロンボの女性犯人ものは対決感が乏しいものが多いのが不満だったのですが、シルヴィアはコロンボと丁々発止の対決を見せてくれます。実に魅力的な犯人です。フェアな伏線に基づいた詰めに至るまでよく練られた秀作といっていいでしょう。

No.136 6点 密室の鍵貸します- 東川篤哉 2016/02/26 19:02
『謎解きはディナーのあとで』の、ゆるいユーモアと本格ミステリーを混ぜ合わせた独自の作風で人気を博した東川篤哉氏のデビュー作です。ギャグのほうはすべっているという人もいるそうですが、僕は心の中でにやにやしながら読みました。シリアスを気取って高尚ぶるよりよっぽどいいと思います。油断ならないのは、トリックの伏線がそんなギャグに見事に包み込まれているところです。特に流平の観た駄作映画が重要なファクターだったところには素直に感心させられました。不満は事件そのものが長篇小説を支えるにはやや小粒なところでしょうか。

No.135 9点 キングを探せ- 法月綸太郎 2016/02/25 23:25
 「スタイリッシュな本格」に限りなく近づいた作品ではないでしょうか。キレのいいコンパクトな長さで、トランプのカードを駆使した騙しのテクニックにも作家としての成熟が感じられます。無機質なパズルのように見えて夢の島をはじめとした犯人たちの視点の章を挿入し、作品に深みを与えている工夫も評価できるポイント。派手な見せ場でなく、あくまで仕掛けの上手さに拘ったのが作者らしい渋い作品です。

No.134 10点 法月綸太郎の功績- 法月綸太郎 2016/02/25 23:04
 中段のサスペンスを捨て論理展開の面白さのみでストーリーを支えた印象の話が多いです。特に『縊心伝心』が秀作。高水準な短編集であり、初めての法月作品としてもピッタリです。
以下、各話の感想です。
①『イコールYの悲劇』 捻ったダイイング・メッセージもので、ボールペンの骨っぽいロジックがいかにも作者らしいです。
②『中国蝸牛の謎』 トリックのためのトリックではありますが、あれをカタツムリに見立てたという発想が面白いです。
③『都市伝説パズル』 ほぼ綸太郎と法月警視とのディスカッションのみで構成された作品。血文字の謎をスマートに利用し、その他の別解を丁寧に潰していく緻密さも兼ね備えています。
④『ABCD包囲網』 見え見えの虚偽の自首を繰り返す男に、読者は先の展開が容易に読めません。クリスティーの元ネタを上手くアレンジしています。
⑤『縊心伝心』 ③と同様にディスカッションが中心となっています。現場のありふれた証拠から、「なぜ打撲により死んだ被害者を首吊りに偽装したのか」をはじめとする様々な違和感が解けるのが快感です。

No.133 10点 女王国の城- 有栖川有栖 2016/02/25 18:02
現時点での有栖川有栖の最高傑作と思っています。
マリアがいなくなった前作に対し、本作は江神部長が失踪するという掴みが魅力です。宗教組織を向こうに回して繰り広げるストーリーは自然の脅威によって閉ざされた空間を舞台にしたこれまでと違い、シリーズ4作中もっともユニークだと思います。パズラーとしての純度は『双頭の悪魔』の方が上ですが、本作はエンタメ小説と本格ミステリーの最大公約数を実現していると言えるのではないでしょうか(特に見どころなのが織田先輩の大アクション)。また、人類協会をただの得体のしれない怪しい集団で片付けず、最後に協会の裏に隠された事情を見せて驚かせてくれるところなどさすがです。
クライマックスの江神部長の推理も冴えています。銃声の処理など細かいところをカヴァーする推理もさることながら、何と言っても凶器の謎、過去に小屋で起きた事件から思わぬ犯人の特性を導き出す推理が抜群です。舞台と親和性の高い謎解きからは、地味な物証からじわじわ推理を組み立てていた『月光ゲーム』からは比べようもないほどの発展を見せています。総合的に見ても、あらゆる点で神経が行き渡った傑作であると思います。シリーズ最後となる第五作の期待がどうしても高まってしまう完成度です。

No.132 8点 双頭の悪魔- 有栖川有栖 2016/02/25 17:02
「すごく面白かった」ことはおぼえているものの、恥ずかしながら細部の記憶が曖昧だったので、パラパラ読み返してみました。すると、記憶していた以上に作り込まれた傑作であることに気付きました。
分断された夏森村と木更村で別々に起こる殺人を、アリスとマリアの二人が交代で綴る構成の面白さがまずいいです。また、三つの挑戦状を盛り込んだ贅沢さが何と言っても魅力的で、この大長篇を薄まった感じは微塵もなく高密度なものにしています。第一の挑戦の鍾乳洞での殺害トリック、第二の挑戦での手紙のトリック、そして第三の挑戦ですべてを集約させるダイナミックさは最高です。『ギリシャ棺の謎』を思わせる多重推理は、本格ミステリー好きにとってはたまらないでしょう。あと、読み返してみて気付いたのは、夏森村でのアリスと望月・織田の先輩コンビのディスカッションの楽しさです。特に望月先輩が張り切って推理に挑むクイーン・マニアらしさには、親しみを覚えました。
江神部長の「悲劇を止める」ために推理をするキャラクターも相変わらずでほっとするものがあり、紛れもない傑作です。ただし、あくまで好みの問題ですが『孤島パズル』での精緻をきわめた推理を超えた推理は見られなかったので、差別化のため8点とします。

No.131 7点 Rommy- 歌野晶午 2016/02/25 15:06
これは面白い。ストーリーにぐいぐい引き込まれ、ほとんど一気読みでした。トリックの根幹はすでに知っている類のものでしたが、歌手Rommyという人物のドラマに密接に関係しています。既存のトリックも料理の仕方でこんなにも輝くことが驚きです。また、登場人物にも血が通っている印象の人間が多く、どこか冷めた雰囲気の『長い家の殺人』と違い妙な熱量を感じる作品でした。

No.130 5点 長い家の殺人- 歌野晶午 2016/02/25 14:55
『葉桜の季節~』が高く評価された歌野晶午さんのデビュー作。新本格勢の中には綾辻、麻耶といったインパクトの強い作品でデビューを飾った人と、有栖川、法月といった地味な作品でデビューした人の両方がありますが、歌野さんは後者だと感じます。
トリックは大がかりなだけに却ってわかり易く、かつ緻密さが伴っていないのが残念。この危なっかしい工作が二度連続で成功するとはちょっと思えません。あと、何より全体に漂うドライな雰囲気も好みでないです。若者ばかり出てくるわりに殺人動機がダーティ過ぎるところ、探偵・信濃譲二のエキセントリックに過ぎるキャラクターもマイナスポイントです。
しかし、有栖川さんが鮎川哲也氏に発掘された同様、この作者が本作のプロットから島田荘司氏に才能を見出されたという経緯には驚きました。後の作者の大活躍を予見していたとしたら凄まじい眼力です。

No.129 6点 ダリの繭- 有栖川有栖 2016/02/24 23:28
このサイトでは思いのほか低評価ですね。よくまとまった佳作だと思うのですが。堂条社長の髭、フロート・カプセルをトリックに絡めているのもなかなか面白いところ。ただし、問題だと思うのはヒロイン格である鷺尾優子がここまで男を翻弄するほど魅力的に描かれてないところです。これは、先日ドラマ版を観たときにさらに違和感を覚えました。結局のところ見た目がいいだけでは?

No.128 6点 46番目の密室- 有栖川有栖 2016/02/24 23:07
まだ本格推理小説に免疫がない時期に読んだ初めての密室殺人ものだったということもあり、僕は素直に感心しました。まあ、確かに慣れた人からしたらトリックは他愛のないものかも。しかし、個人的には真壁聖一の最後の大トリックや、あとがきにあった「輝くような密室トリックは『不在』ならぬ『未在』だと夢見たかった」の言葉などから見られる、作者のミステリーへのロマンに敬意を表したいです。それに、トリックそのものは大したことないかもしれませんが、犯人が白いものづくめのイタズラをした隠された意図などはよくできています。

No.127 8点 白い兎が逃げる- 有栖川有栖 2016/02/24 22:28
以下、各話の感想。
①『不在の証明』 双子の絡んだアリバイ崩しと思いきや実は単純なところに真相が転がっていた、という話。手堅いつくりです。
②『地下室の処刑』 ホワイダニットが肝となる短篇です。この毒殺の動機はちょっと強引な気もしますが、意表を突いていて十分楽しめます。
③『比類のない神々しいような瞬間』 これはかなりお気に入り。ふたつのダイイング・メッセージが用意されており、ひとつは予備知識が必要ですが、もうひとつの被害者が意図しない形で証拠となったメッセージの着想が秀逸です。
④『白い兎が逃げる』 一見ストレートな鉄道・飛行機もの。しかし、直前まで女性をつけていたストーカー男が殺害されるという要素が加わることで、ガチガチの本格に仕上がっています。トリックの発想もなかなか良く、(僕はしませんでしたが)当時の時刻表があれば眺めながら読むのも面白いかも。

総じて自分の好みと合致する本格ものばかりで、しかもそれぞれが違ったタイプの味わいです。作家アリスシリーズでは上位に位置する一冊だと思います。しかし②で登場したシャングリラ十字軍ですが、こういったカルト集団はシリーズに不要であるばかりか邪魔ではないかという気がします。

No.126 6点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2016/02/22 23:38
キレのあるトリックがコンパクトな長さにすっきりまとまった作品。ふたりの被害者の爪など、さり気ないヒントの提示もまずまずの面白さです。ミス・マープルはあまり積極的に事件に介入しない探偵というイメージがありますが、今回は比較的出番が多く、冴えた推理を見せてくれます。全体的にそつがない出来ではありますが特筆すべき点もあまりないのでクリスティーの標準は超えていない印象ですかね。

No.125 8点 ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/22 23:13
本格ファンにはあまり好まれないかもしれませんが、ユニークかつ感動的な事件の構図の妙が素晴らしい隠れた名作です。目立たないながらもしっかり散りばめられた手がかりの配置も見事。何より特筆すべきなのが他に類を見ないダイイング・メッセージであり、それがまた感動を誘います。はやみねかおる氏の解説にもある通り、ポアロの推理が見られるのもいいです。登場させなければよかった、と作者はコメントしたそうですが、名探偵というガジェットが大好物な僕としては彼が出てくるだけで嬉しくなります。

No.124 9点 杉の柩- アガサ・クリスティー 2016/02/22 22:57
今回ポアロが登場するのは長い第一章が終わってからで、主役となるのは恋敵を殺した罪がふりかかったエリノア・カーライルです。彼女はやってないに違いないと思う一方で、状況的には彼女がやったとしか思えないことから、読者はハラハラさせられっぱなしで読むことになります。毒殺トリックはアガサ女史の薬物の知識が活きたものではあるものの一般の人にはわからないものですし、動機もわかり辛い上に地味で印象に残りません。しかし、本作は作者一流のストーリー・テリングを堪能すべきでしょう。これほどヒロインに感情移入した作品は他にありません。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
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