皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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パメルさん |
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平均点: 6.13点 | 書評数: 622件 |
No.18 | 7点 | 暗闇の囁き- 綾辻行人 | 2024/03/15 18:26 |
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森の奥の洋館に住む不思議で謎めいた美しい兄弟。その兄弟のまわりで、美しくも悲しい残酷な物語が展開される。
思い出せそうで出せない遠い記憶が事件の重要な鍵となっている。子供の頃に誰もが経験したであろう空想の遊び。そんな遊びが純真な子供の将来を狂わせてしまう悲劇。忘れた頃に、過去に蒔いた不幸の種が花開いてしまう皮肉。 前作「緋色の囁き」よりは、謎解き要素がありサスペンス色も強まっている。手掛かりや伏線もしっかりしていて、フーダニットやホワイダニットを読者が推理することが可能となっており、個人的には前作よりも好み。 とはいえ、「囁き」シリーズは謎解きよりも心理的恐怖を煽る独特な描写と、丁寧に構築された世界観の中で儚くも美しく描き出される登場人物たちの心理の移り変わりを味わうのが醍醐味でしょう。記憶へのこだわりや、無自覚であるが故の狂気、脆さが恐怖を増大させる特徴的な心理描写に、謎解き小説の魅力が絶妙なバランスで混ざり合っており読み応えがあった。 |
No.17 | 5点 | フリークス- 綾辻行人 | 2023/11/14 06:52 |
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サイコホラーと本格ミステリへの愛を感じる、精神病院に入院する患者が描かれる3編からなる中編集。
「夢悪の手 三一三号室の患者」精神病院に入院した母親を見舞う青年・神崎忠の視点で描かれる。ラストのひっくり返し方は作者らしく闇への愛を感じられる。己のアイデンティティを崩壊させる作品。 「四〇九号室の患者」芹沢園子は、何かの事故で大怪我を負い入院していた。しかし、これは医師らが説明した話で、彼女は自分が芹沢園子だと確信を持てなかった。二転三転する展開や、そこに至る伏線の張り方は見事。サイコとアイデンティティテーマの相性の良さが分かる。 「フリークス 五六四号室の患者」小説家の私は、精神科医の桑山から、とある小説を渡される。精神病院患者が殺人事件を扱ったものを書いた小説。作中作の容疑者全員フリークであるという、文字通りの異形のフーダニットでグロテスクな描写が多い作品。「どんどん橋、落ちた」の収録の幾編かを彷彿させるような構造。 |
No.16 | 6点 | 緋色の囁き- 綾辻行人 | 2023/02/20 07:40 |
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伯母である宗像千代が校長を務める全寮制の高校「聖真女学園」に転校してきた和泉冴子。冴子は、一様にふるまうクラスメイトたちを異様に感じる。この寮で同室となった少女が、「私は魔女なの」という謎の言葉を残して、火刑に処されたかのような焼死体となって発見される。冴子は、彼女の死の真相を突き止めようとするが、殺人は続き周りからは犯人扱いをされてしまう。
冴子には意識が空白になる時間があり、本人がやっていないという確証が持てない。彼女は生理期間中に幻聴に苛まれ、たびたび記憶にない行動をとってしまう自分を恐れている。この不安感と恐怖が強く印象に残る。古い建物と体罰ありの厳しい学校生活、偏った価値観のクラスメイトたち。抑圧された学校生活が、どんよりとした暗い雰囲気で漂い、ホラー映画を観ているような恐怖感覚であふれている。 押さえつけるような教育指導、集団心理、誰もが持つ狂気。思春期の少女特有の不安定な危うさのきめ細やかな心理描写が秀逸。魔女や連続殺人など、一貫して倒錯的な雰囲気を醸し、サスペンスホラーとしてはもちろんだが、特に終盤の畳みかける意外な展開と、真犯人の意外性も充分で本格ミステリとしても楽しめる。 |
No.15 | 5点 | 眼球綺譚- 綾辻行人 | 2021/08/24 08:24 |
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ホラー風味の怪奇幻想小説が楽しめる7編からなる短編集。
全編を通して、由伊という女性が登場する。それもどのストーリーでも重要な役回りをしている。ただ、同一人物ではなさそうだし、あとがきでも作者本人が、「普通に読めば彼女らが同一人物だとはとうてい考えられないはずである」と述べている。その点も何か意味ありげで不気味さを感じる。 「再生」大学の助教授の「私」は、病院の待合室で出会った教え子・咲谷由伊と結婚。由伊は彼女の持つ不思議な再生能力を語る。 「呼子池の怪魚」「私」は呼子池で釣った奇妙な魚を家で飼うことに。ある日、魚の形に変化が。 「特別料理」ゲテモノ食いの「私」は、咲谷と名乗る男にその筋でも有名な店を紹介される。 「バースデー・プレゼント」今年のクリスマスは由伊の20歳の誕生日。大学で所属している文芸サークルのパーティー兼忘年会に向かう由伊だが、昨晩の夢が気になって。 「鉄橋」2組の大学生のカップルが電車で避暑地へ。女神川鉄橋に差し掛かろうとする頃、小島秀武が怪談を始める。 「人形」作家の「私」は、久々に実家に帰り、河原を散歩していた時、奇妙なのっぺらぼうの人形を拾う。 「眼球奇譚」「読んでください。夜中に、一人で」という言葉と共に届いた一冊の冊子。まだ眠くなかった「私」はそれを読み始める。 怪奇的であったり、猟奇的であったり、幻想的であったり違ったタイプの怖さや薄気味悪さを感じることが出来る。特に「眼球奇譚」のインパクトは強烈で、グロテスクな描写に耐性のない人は読まない方が良いと断言できるほど気持ち悪い。 |
No.14 | 6点 | Another- 綾辻行人 | 2020/12/16 09:55 |
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地方都市にある中学校を舞台にしたホラー小説。榊原恒一は、家庭の都合で東京から夜見山市の中学校に転校する。しかし、新学期早々、病気で入院し、そこで謎めいた美少女見崎鳴と出会う。ゴールデンウィーク明けに学校に通い始めるが、三年三組のクラスメイトとその家族の不審な死が相次ぐ。
いきなり不可解な状況に巻き込まれた恒一が、三年三組の呪いにたどり着く前半から、クラスに居るはずの死者の正体が暴かれる後半まで、ミステリの面白さでぐいぐい引っ張っていく。特に死者の正体の隠し方は鮮やか。もちろん、そこから浮かび上がる理不尽な呪いも、すさまじい迫力を持って迫ってくる。 さらに榊原恒一と見崎鳴の関係性も見逃せない。それぞれの鬱屈をを抱えた二人はどちらも魅力的な若者。そんな二人が、ある特殊なな事情で身近になり、次第にお互いを理解していく。周囲に血なまぐさい、死の嵐が吹き荒れているだけに、二人の強まっていく関係が一服の清涼剤になっている。ここも読みどころといえるでしょう。 設定自体がご都合主義ではあるが、ホラー的な演出でより本格ミステリ的な謎が威力を発揮されているし、ファンタジーな世界を現実的な解決で上手くまとめ上げている点は好印象。文庫版で上下巻合わせて759ページという大作でありながら、リーダビリティが高いので分厚さを感じさせない。 |
No.13 | 5点 | 深泥丘奇談・続- 綾辻行人 | 2020/04/20 10:52 |
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10編の怪談をオムニバス形式で収める短編集。08年刊行「深泥丘奇談」同様に舞台は著者が生まれ育ち、現在も住む京都がモデルの架空の町。
各編それぞれ独立した物語で、主人公は作家を思わせる「長年の間、本格推理小説の創作を主な生業としてきた」人物。「紅叡山」の麓に妻と暮らし、時に散歩中に遭遇した怪奇現象を、時に過去のおぞましい記憶が呼び起こす恐怖を描く。 名も知れぬ神社の境内で誰もいないはずなのに「がらん」「がらん」と鈴の音が鳴る不気味な体験を描く「鈴」。外見はおおむね人間そっくりだが、異様な構造をしている怪しい生き物のバラバラ死体が発見される残酷な事件を描く「切断」...。 どれも作家の暮らす現象の世界をふと異形のものたちが入り込み、人間たちを翻弄する。日常に浸透してくる不穏な気配と怪談なのにどこか呑気な筆致が醸し出す滑稽味が同居する作品。 |
No.12 | 4点 | びっくり館の殺人- 綾辻行人 | 2019/08/02 10:26 |
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ジュブナイル作品で館シリーズ第7作。
子供向けという事もあり、文字はやたらと大きいし、行間は広いし、漢字にはすべて仮名がふってあり、逆に読みづらい。(笑)(単行本で読みました) 一人称による騙しのトリック、密室殺人、異常心理を扱ったホラーテイスト、謎解きの遊び心と作者らしさにあふれている。 ただ、この作品のメイントリックは「●●を●●と思わせる」ことですが、想像できてしまう方も多いのではないでしょうか。また、深刻な児童虐待の問題を扱っているので、子供向けとしては、とてもお薦めできない。 ラストに関しても、不気味な含みを持たせた感じで「今後どうなるのかは、読者の皆さん、それぞれ想像してみてください」的な終わり方で、賛否両論あると思うが、個人的には好みでは無い。 |
No.11 | 6点 | どんどん橋、落ちた- 綾辻行人 | 2018/02/16 00:59 |
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読者への挑戦を掲げた遊び心たっぷりの叙述トリック短編集。
アンフェアのように思わせておいて、地の文には虚偽の記述は無くフェアに徹している点は好印象。 ただし、「フェラーリは見ていた」は真相は完全に推理不可能だしオチも今一つ。 表題作では「十角館の殺人」でもおなじみの海外の有名作家が登場してくるし、「伊園家の崩壊」では、あの陽気な家族で有名な漫画がパロディ化されホラー色たっぷりで楽しませてくれる。 |
No.10 | 6点 | 鳴風荘事件- 綾辻行人 | 2017/10/08 01:05 |
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なぜ犯人は被害者の髪を切ったのか?そして持ち物を多数持ち去ったのか?と謎多き殺人事件を解決に導く伏線の回収が見事。
また明日香井兄弟と深雪の会話は前作同様可愛らしくて楽しい。 「殺人方程式」から6年経ってやっと発表された作品で、あとがきに構想に四苦八苦していたと書かれていた割には、ストーリー、トリックともに落ちる印象。 |
No.9 | 7点 | 殺人方程式- 綾辻行人 | 2017/08/17 13:15 |
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犯人は何のために死体の首と腕を切断したのかという謎の理由に必然性があり説得力もある
また大掛かりな物理的トリックも実現性に関し身体の部位の重さまで慎重に調べられ図で示しながら論理的に解説されている点が好印象 またなぜ死体を移動させなくてはならなかったのかのホワイダニットや意外性のある犯人の正体のフーダニットも十分に楽しめる 何といっても一番驚いたのはこのサイトでの平均点の低さです |
No.8 | 7点 | 奇面館の殺人- 綾辻行人 | 2017/05/08 13:56 |
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あるインタビューで作者はこの作品の着想のきっかけは楳図かずお氏のホラー漫画「笑い仮面」と答えていた
ただこの作品はホラー要素は無くどちらかと言えば初期の館シリーズに近いと思います 人の入れ替えはあったのか?そして妖しく揺らめく”もう一人の自分”の影など様々な想像を掻き立ててくれ惹きつけられる 探偵役は思いも寄らぬ仮説などあらゆる可能性を提示しそれらを一つづつ消し込んでいき真相に近づいていく推理の過程が楽しめる ハウダニットとしては中村青司設計ならではの館の秘密を堪能できるしフーダニット・ホワイダニットにしても最後の最後まで楽しませてくれる ただ皆さんが不満として指摘されている点は同感なところもあります |
No.7 | 6点 | 黒猫館の殺人- 綾辻行人 | 2017/02/22 13:22 |
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記憶喪失になった老人が「自分が何者かを調べてほしい」と冒頭から引き込まれる
読み進めていくうちに「おかしくないか?」と思う記述がいくつかあり違和感を覚えるがどういう事か解読出来ないでいた ただこれはトリックの伏線になっており真相は壮大なスケールで衝撃度も高い しかしこのメイントリック以外は今までの館シリーズに比べると館の雰囲気・登場人物の魅力度そして殺人事件の密室トリックも今一つといった感は否めない |
No.6 | 3点 | 人形館の殺人- 綾辻行人 | 2017/01/14 11:56 |
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主人公の周囲で怪事件が発生し悪戯もエスカレートしていく
そして過去に自分が犯した罪を思い出せと迫る脅迫状とサスペンス調に描かれ引き込まれる どうしてこんなに評価が低いのだろうと不思議に思いながら読み進めていった しかしこれは犯人は誰だろうと推理しながら読んできた自分が馬鹿を見たという典型的な例であった 犯人の真相を●●●●者で片付けられてこれで良しとするならばミステリの定義って何?と言いたくなります |
No.5 | 9点 | 時計館の殺人- 綾辻行人 | 2016/08/24 11:35 |
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ミステリに注ぎ込もうとする作者の美意識そして目指している世界観の構築が
高いレベルで描かれている作品 フーダニットとしてもホワイダニットとしても十分楽しめる メイントリックも壮大且つ独創的で素晴らしい |
No.4 | 6点 | 迷路館の殺人- 綾辻行人 | 2016/08/11 15:32 |
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作中作を組み込んだミステリ
多額な遺産をめぐり執筆合戦が繰り広げられる中殺人事件がおきる 周到な企みと徹底的な遊び心が溢れている 二重三重に仕掛けられたトリックは切れ味がある ただ最後の真相で名前でミスディレクションしている点は不満 あの人物を●かもしれないと思う人はまずいないでしょう |
No.3 | 7点 | 水車館の殺人- 綾辻行人 | 2016/08/01 14:53 |
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ゴムの仮面に白い布手袋・車椅子といういかにも怪しげな館の主人に
歳のかなり離れた幼妻そして不気味な執事 幻想的な雰囲気を漂わせながら物語は進んでいく 主人の特徴からあれがああなってこれがこうなってと考えていけば 真相を推理するのはさほど難しくはないと思う 最後に一成の遺作が発見されその片隅に描かれていたものは・・・ こういう終わり方好きです |
No.2 | 8点 | 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 | 2016/06/19 01:21 |
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吹雪の山荘と見立て殺人というどちらもミステリで多く使われた形式が使われている
洋館のアール・ヌーヴォー調の装飾や収蔵品など幻想的な要素に加え 謎めいた住人・奇怪な現象のような不気味な雰囲気で独特な世界観を持っている ストーリーのリアリティを保ちつつも現実と異なる意識下に刷り込ませてくるような 感覚が絶妙 偶然の要素が占める割合が多い事とラストで本格ミステリのルールを 微妙に逸脱していることで賛否両論あるようだが 個人的には相当楽しめた |
No.1 | 8点 | 十角館の殺人- 綾辻行人 | 2016/02/17 12:01 |
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叙述トリックとミスリードの応酬で真実は
張り巡らされた伏線に隠れている とにかく衝撃の一行 このただ一言で視界が開け明らかにされる真相は 強烈なインパクトがあった ただ犯人の動機に深みがあればと思った |