皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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クリスティ再読さん |
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平均点: 6.41点 | 書評数: 1327件 |
No.6 | 6点 | 地中の男- ロス・マクドナルド | 2018/04/21 23:23 |
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後期ロスマク、ということになるのだが、どうも「別れの顔」以降は進歩というよりも、今まで登場した要素が複雑化してバロックなほどに肥大化の途を辿っているような印象だ。
作中で「大人子ども」というような言い方をされているが、これは一時流行った「アダルト・チルドレン」といった方がわかりやすいのだろう。まあこの概念も意味があるのかないのか微妙なものと感じるのだが、殺人を目撃するなど深いトラウマを抱えたまま成長した「大人子ども」が4人も登場して、さすがに食傷する...「大人子ども」たちとその親たちの間を、アーチャーが往復するので「誰がどの...」と読んでいて混乱するんだよね。ふう。ちょっとした描写でキャラを性格付けするのが上手なチャンドラーと比較すべくもなくて、ロスマクってキャラ造形はそう上手と思えない(すまぬ)。ロスマクのキャラで印象に残るのはあくまでもプロットが割り当てた役割が印象的だ、ということの結果ではなかろうか。 まあそれでも二人の逃避行を軸に読者を引っ張る「読ませる力」みたいなものはあるけどねえ。袋小路な印象の方が強いかな。背景でずっと燃えている山火事があくまで雰囲気作りだけで、プロットに直接絡まないのも若干不満である。 |
No.5 | 8点 | ギャルトン事件- ロス・マクドナルド | 2018/04/02 18:13 |
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本作とか「運命」とか、ロスマクの転回点として重要作になるのだけど、なぜかポケミスでしか出なくて文庫にならなかったんだよね。「さむけ」とか「ウィチャリー家」とかがミステリ文庫の初期の目玉の扱いだったのと、なんでこんなに差のある扱いなんだろうか....というわけで、ちょいと判官びいきの点をつけます。
文庫にならなかった理由は本当に不明。一応本作は70年代あたりだとロスマク代表作級の扱いを受けてた記憶がある。文庫になるならないで知名度に差が出ちゃった...としか言いようがない出来。巨額の財産を継承すべき20年前に失踪した息子を探せ、という依頼を受けたアーチャーが、その息子?の死体が発見された件、依頼をした弁護士の使用人殺し、そしてその息子の息子が見つかるが、その身元に疑念が...というあたりの謎を解いていくことになる。 本作の一番いいのは、その孫息子の身元疑惑とその解決なんだよね。これ意外に小説として難しい「謎」で、「ほんもの」だと周囲の事件と絡ませにくいし、「ニセモノ」だと小説としての捻りがないし...とこの隘路を小説としてかなり上手に処理できていること。パズラーじゃないので殺人が結構行き当たりばったりで、ワルい奴らが右往左往しているけども、かえってそのくらいの方がハードボイルドらしくてイイように感じるよ。「一瞬の敵」みたいな家族・血統の中だけの話になると、因果話みたいになって閉塞した感じになるから、このくらいのオープン感が評者は好きだな。 (あれ、今 amazon で何となく検索したら、ボッタクリな高額出品以外ひっかからないや...そんなに入手性が今悪いのかしら。もったいない) |
No.4 | 4点 | 別れの顔- ロス・マクドナルド | 2018/03/12 19:25 |
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さすがに本作マズイだろう...というのは、本作はその前作である「一瞬の敵」の書き直しみたいなもので、「一瞬の敵」をずっと地味にしたようなものである。本当に「一瞬の敵」が「ああだったこうだった」が読んでてカブる...アイデアが枯渇したのか?と疑うくらいの再利用ぶりである。
真相も「一瞬の敵」ほど派手なものではないが、サイコな真相になるので、ミステリとしてのフェア感はない。バタバタと終盤に真相が関係者の告白で解かれていくようなもので、謎解きの妙味は薄い。 それでもいいところはいくつかあって、最終盤に昔のホームムーヴィーを見るシーンがあるけど、これが結構ウルっとくる。あと、精神科医の妻とアーチャーの関係がなんとなく、いい。それからラストは「さむけ」みたいな結末を決めている。努力の跡もあるわけで、無下に否定するのも何か...とは思わなくもないが、やはりどうも釈然としない。まあ評者、アメリカ人の大好きなフロイトがらみのサイコ系は、興味本位なセンセーショナリズムとしか思えなくて、そもそも嫌いなんだよね。 だから本作はロスマクの退歩、といったのがトータルな印象。いい点はつけられない。 |
No.3 | 6点 | 象牙色の嘲笑- ロス・マクドナルド | 2018/02/12 09:13 |
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「ぼくはブロンドの女を信用したことがないんだぜ」いや、アーチャー、カッコの付け方が若いなぁ(苦笑)。なので本作は後期の疲れた中年男のアーチャーじゃなくて、まだ若さがあるアーチャーだ。アクションシーンだってこなしちゃうし、皆殺しで大不毛な結末も「ハードボイルドらしさ」がある。また凝った比喩もバランスよく入っていて、文章も悪かない。
けどねえ、ちょっとだけ引っ掛かるのだが、ロスマクって老女を描かせるとすごく凝るけども、それと比較すると若い美人はおざなり、という印象がある。そのせいか知らないが、本作のファム・ファタ―ルの造形があまり効果的に評者は感じなかった。逆算すると黒人看護婦のルーシーはムダに美人だ。なにか途中で構成を変更したように感じるのはヨミスギかなぁ。 というのも、前半の展開からすると、黒人問題をテーマにするような布石があるのにもかかわらず、真相は白人たちの間での殺し合いであって、発端を形作り印象的なルーシーはただの端役に過ぎない。ひょっとして、黒人問題をテーマにしようとして、編集者に止められたか? |
No.2 | 4点 | トラブルはわが影法師- ロス・マクドナルド | 2018/01/26 22:48 |
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ロスマクって大体半分くらいは事前にすでに読んでるんだが、非アーチャーものは初めて。そう期待して読んだわけでもないのだが..どっちかいえばとっ散らかった内容で、お安いスリラーである。戦時下の市井の描写はそれなりにリアルだが、スパイといってもそのリアリティは希薄。要するに戦時下に作られた防諜プロパガンダ映画くらいのノリのもの。
それでも舞台をホノルル~デトロイト~大陸横断鉄道~西海岸と動かしていく手つきで興味がつながる振り合い。結末がなんというかホントに空しいが、ただただ不毛、という感じで、積極的な意義を求めづらい。妙に凝った比喩を連発するのが、後年のロスマクに通じるけども、凝りすぎて意味不明になってカッコよくない。さすがの小笠原豊樹も手に余ってる。 少しアンブラーの「恐怖への旅」と似ている印象はあるが、アンブラーの政治センスをロスマクに求めるのはどうにも無理で、ロスマク修行期だね、というところか。あと、本作だと絶対にハードボイルドとは呼べないと思うがなぁ。 (思うんだが...「さらば愛しき人よ」を意識してない?) |
No.1 | 9点 | 一瞬の敵- ロス・マクドナルド | 2018/01/03 22:22 |
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クイーン・アンブラー・マッギヴァーンがほぼ終わりつつあるので、クイーンに代わる2018年度のメイン作家は...というと評者はロスマク、ということにしようと思う。それにボア&ナル、ル・カレを適宜加えて、シムノンは継続、というので今年の軸を作る予定だ。ロスマクなんて最初からその狙いで今まで1作もやらずに大事に取っておいたんだよ。
で本作だが、本サイトでのロスマクの作品の中、採点平均でトップじゃん。ただし採点数が少なすぎるの問題なんだが、採点平均に違わぬ名作です。要するにね「ツートップ」なんて言い方がとっても罪作りなわけで、そんな言い方聞いたら「さむけ」と「ウイチャリー家」以外読まなくなる副作用があるわけだよ。そういうの間違ってると思うので、平均点を上げる方向での採点とします。 まあ、本作よくできてるよ。ロスマク、意外に話の展開が地味なひとで、後で振り返ると作品の区別が付きづらいこともあるんだけど、本作はデイヴィ&サンディの逃避行から、デイヴィによる誘拐が話の軸になって、ただの人探し小説ではない「現在進行形の事件」としてうまく印象に残る結果になっている。それに過去の殺人2件、アーチャーが出くわす殺人2件が絡んで、ある家系の悲劇が浮かび上がる。でしかもクリスティを連想させるような大技も決めて見せるわけで、評者にいわせりゃ本作が代表作にならないのが不思議なくらいのものだ。 真相がわかったあとで振り返ると、父母の業・過去の姿・現在の姿が多重に重なり合った姿を登場人物たちが見せるのがなかなか凄いところ。この家系の業をデイヴィは一身に背負ってしまったわけなのだ...と大河ドラマ風の家族史をぎゅっと濃縮したような面白みがある。 |