皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.197 | 8点 | 容疑者Xの献身- 東野圭吾 | 2015/07/23 18:59 |
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悪魔的密室トリックと言えば「全F」。 さて、この作品の中核にあるのは悪魔的アリバイトリックと、報われぬ恋、。。なんて言っておきましょうか。 いえ「悪魔的」は言い過ぎですね、だけど犯人(さて誰の事?)の行ったアリバイ偽装工作の中心に、後々まで非難の絶えない悪魔的行為が陣取っているわけでね。。
直木賞作品と聞いて予想した程の文学的感動は無く、ミステリ興味に偏った感慨を得たのは意外でありました。 悪魔のアリバイ・トリック(いやXXトリック?)は全く見破れませんでしたが、「容疑者Xは何故投獄される事をよしとしたのか?」の、恋情以外の大きな理由、ある種のホヮイダニット、天才数学者ならではのその理由は読書中ずっと予感していた通りで、正解と知ってちょっと気持ち良かったぜ。 |
No.196 | 5点 | プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン | 2015/07/23 13:52 |
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(ネタバレ有り)
人物入れ替わりの絡んだ犯人当ての困難さはなかなかのもの。 殺人方法を偽装(!)した密室殺人トリックも物語の禍々しい雰囲気によく合って印象的だが、それにしては解決篇のHM卿が二言三言で済ませ過ぎでは? 犯人を暴くのと同じくらい、もっと勿体ぶって思わせ振りにこの名トリックを解説して欲しかった。 物語としては、若干すれ違いの不満有りかな。 邦題は「黒死荘」がいいね。 |
No.195 | 8点 | ユダの窓- カーター・ディクスン | 2015/07/23 13:33 |
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相当に若かりし頃、不埒な推理クイズか何かでトリック完全ネタバレだったんですが、そんなんお構いなしに最後までハイテンション読破してしまいました。 誰かに嵌められ窮地に落とされた若き主人公がHM卿に救われる迄のジェットコースター・ストーリーはその大半が裁判所の中!!
それにしても、この密室殺人のメイントリックこそ「心理的物理トリック」と呼ぶに相応しい代物ですよね、小説の題名付けも含めて。 ただ、どうもやる事がせせこましい(?)のと、やはり「被害者さんは、バカだったんですか?」と犯人さんに聞きたくなる例の大前提があるせいか、個人的にこの殺人方法にはさして賞賛を与えたくない。それでもなお歴史的密室トリックだと思う。 まトリック云々はともかく、物語自体とても良かったですよ。 構成美にもやられた。 |
No.194 | 7点 | 海の牙- 水上勉 | 2015/07/23 12:02 |
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昭和30年代ド真ん中、社会派推理小説全盛期の良作。
未だ原因が世に知らしめられる前(!)の水俣病に関する告発こそが前面に立ちますが、なお文芸としてもミステリとしても良質な硬派作品。たぁ言え気負いが強すぎるのか、アンバランスな点も数あるんだけどね。。そんな構成美の破綻も気にならないほど憤りのエネルギーに圧倒されます。 探偵役とワトソン役の遣り取りが意外とお茶目で、重苦しい物語の中でなかなかの息抜きとなっていたような記憶が。。 |
No.193 | 10点 | 不連続殺人事件- 坂口安吾 | 2015/07/21 21:20 |
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(ネタバレ的表現含む)
読了後、職場の友人に読ませたくて読ませたくて、老婆心で登場人物一覧表を作ってしまったものです。 犯人は誰か、(次に)殺されるのは誰か、に加えて事件を解決する探偵役になるのは誰か、の興味まで重なったフーxxxイットの三面鏡状態に、そして異様な人物描写の連続に目眩ましされた巧妙な叙述(犯人隠匿)トリックに最後まで騙され通し! 文学臭がきついわけじゃ無いが、流石に良い文芸小説に仕上がっている。そこもやはり大きな魅力。 兎に角、これほどずっしり重い『やられた』感を背負わされたミステリーは今のところ他に無いですかね。「葉桜」でさえここまでは。 私にとってはまず完璧な作品です。 因みに、海外の某作品より先に読みました。某作品の方は、ほとんど最後まで犯人像に気が付きませんでした。 が、ふとこちらの作品を思い出し、「もしや。。」と。 そちらも相当に好きな作品ですが、こちらの比ではありません。 「Friend族殺人事件」じゃないよ! |
No.192 | 7点 | 朱の絶筆- 鮎川哲也 | 2015/07/21 21:00 |
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「りら荘」と異なり、ハクい女(スケ)がいっぱい出て来ます(笑)。
(以下ネタバレ有り) 「片腕」がそこで活きるとは。。 「原稿」を焼いた理由がそれとは。。(ちょっぴり綾さんの殺人方程式思い出す) オルゴールがメロディのどこで止まったかまで気にしてなかったよ。。 犯人は瞬殺で分かった(いや、実は途中まで候補は二人いた)。 作者もそれは承知の上。 何故連続殺人を展開したか、それを星影はどこで見破ったか、そしてあの(どの?)アリバイトリック。。 このへん諸々を当てないと正解とは認められないわけです、「読者への挑戦」付きの本作。 まあでも、業界事情があったとは言え、どうせ改編するなら短篇のままで、より引き締まった筋肉で武装した入魂の一作に仕立て直して欲しかった。「達也」等に並ぶ鮎川屈指の名短篇になれたのではないか? 或いは、せっかく長篇化でけっこう長い第一部(各容疑者の事件前経緯を思わせぶりに描写)を新たに継ぎ足したのなら、事件の展開する第二部、名探偵登場の第三部にもう少し深い人間ドラマ(本格の流儀でもちろん結構)を刻み込んで欲しかったね。 「下着の紐」の件は、短篇オリジナルのサラッとオチで流した方がバランス良くて粋だと思う。 だけど長篇オリジナルのエンディング、「コーヒーを飲む様子を見られていた理由」に思いを馳せるシーンはちょっと優しくていい。長く印象に残る。 ふと思うのですが第一殺人のアリバイトリック、これの原稿の動きを「黒いトランク」並みに複雑にしてみたら、どうなりましょうかね。 |
No.191 | 7点 | 夜行列車(ミッドナイト・トレイン)殺人事件- 西村京太郎 | 2015/07/16 13:49 |
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タイトルが紛らわしい「寝台特急」とは似て非なる鉄道京太郎の初期作品。謎は強烈だが割と地味な場面に始まるかの作と異なり、いきなり国鉄(!)総裁に列車爆破脅迫状という派手な立ち回りでスタート。脅迫状の出し方がまた変わっててケレン味上等! 時を同じくして、脅迫とは無関係と見える、しかし謎多き殺人事件が発生。 さてその後は、、京太郎さんの筆に任せて安心、いや安心する隙も無いサスペンスで最後まで力走だ! |
No.190 | 7点 | 寝台特急(ブルートレイン)殺人事件- 西村京太郎 | 2015/07/16 13:41 |
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京太郎さん鉄道ミステリ第一号。 ちょっとホームズを思わせる冒頭の謎の畳み掛けがやはり光っています。 駅で撮影したフィルムが盗まれ(被写体はちょっと気になった若い女性!)、列車内で盗難に気付いた雑誌カメラマンは睡眠薬で眠らされ、気が付きゃ別の列車に! そういや最初乗った列車の食堂車で正体不明の男と知り合ったが、あいつはいったい誰だ? 翌日、盗まれたフィルムに映した若い女性と思われる屍体が見つかった、が。。 続く謎と事件の展開、捜査途上の描写は濃密。背後に、数年間の大物政治家名刺を利用した巨額詐欺事件が見え隠れ。果たして今回の殺人事件との連関は!? トラベル・ミステリーに食指の動かない人にこそ読んで欲しい、魅力満載の一冊です。 |
No.189 | 8点 | 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2015/07/15 13:06 |
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明瞭に「グリーン家」派の私でも、この作品の、読んでいて背筋が伸びるような、周囲の空気を冷却浄化してしまいそうな厳粛たる雰囲気には敬意を表さざるを得ません。
この小説の眞犯人は。。まるで登場シーンから「はい、私が犯人です」と言わんばかりに私には見えましたが、まさかの「異様な動機」までは気付かなかったな。。怖ろしい人もいたものだ。 ラスト怒涛の眞犯人追い詰めシーンは、凄かったです。 刻まれますね、記憶に。 昔の創元推理文庫のカバー(茶色い手、グリ-ン家の緑と対になっている)が美しくて、ちょっと不気味で、好きです。 |
No.188 | 7点 | カシノ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2015/07/15 11:51 |
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‘Je suis .. ’ ってヴァンスが気障なフランス語を喋ってるのかと思ったら .. ‘重水’だったか!
後半六作に属する中篇(のような長篇)ですが、これが存外面白くて得した気分w 上品ぶっちゃいるがB級サスペンスの良さがある。 事情あって「ケンネル」とぶっ続きで読んだんで、その余韻の勢いも多少手伝ったかも知らんが。。 いや、やっぱりサスペンスの持続が読ませるポイントだったと思う。終始ざわついた雰囲気もいい。短時間一気読みでした。 |
No.187 | 7点 | 殺人名簿- 島田一男 | 2015/07/14 13:14 |
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夏こそ島田一男、この短篇集も快調な飛ばしっぷり。
どんな内容だったか、こちとらウッスラ忘れちゃったけどさ、 ちょっと残酷な、キツめの話が多かったかな。 勿論、それがイイんだけどさ。 地獄河岸/拳銃と香水/刑吏/殺人名簿/奇妙な夫婦/魔女の檻 (春陽文庫) 表紙の女子(春陽文庫版)もなかなか魅力的だよ。 |
No.186 | 8点 | 沈黙の函- 鮎川哲也 | 2015/07/14 11:51 |
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ははん、こりゃ鮎さんが古いレコードや歌曲の薀蓄を世に向け語りたくて書いたな、と思って読んだものです。たまたま私もその方面は興味がありましたし、ロシア語を習った事があり文字の読み方は知っておりまして、ましてそこに殺人事件が絡むとなればこれはもう面白くない筈がありません。いや、鮎さんの文章と小粋なトリック等々あってこそですけどね。 小ぶりな作品ですが、悪くありません。 個人的に高得点です。 |
No.185 | 8点 | 遠い接近- 松本清張 | 2015/07/10 02:22 |
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(ネタバレ有り)
戦争、というより徴兵、というよりその両者内部に息づく不誠実な実態への憤り響き止まぬ、魂こもったサスペンスドラマ。 不当なきっかけで自分を戦地に送り、最終的には家族全滅のきっかけを作った張本人を終戦直後の日本で捜し出し復讐を遂げるまで、主人公は諦めません。 ただ、本当にその張本人に全ての罪を被せたものかと言うと、そいつは最初のドミノを倒しただけの役回りなんだからかなり違う気がするんですけど、罪に対応する罰を与える相手は実際のところそいつしかいないわけでね、主人公がそのへんの齟齬に気付いているのかどうか、葛藤の描写はありませんけれど、国家さえ超えた巨大人間社会の蠢きが一個人に偶然もたらした甚大過ぎる悲劇、やり場の無い怒りの空回りは絶望的に切ない、切な過ぎて無茶な個人的制裁を研ぎ澄ますのに歯止めの効かせようも無いなんて。。 終結部、主人公があっと言う間に当局から追い詰められる数ページの、じりじり喰い込んで来るスリルは清張さんの真骨頂、毎度のことながら目を瞠ります。 しかし、安川って悪役というか憎まれ役が妙に魅力的で困った(笑)。 が、こいつも最後はあっさり殺されちまうんだもんなぁ~ 「廣島なら、都会と違って爆撃も無いし安全じゃろ。」 「朝鮮は内地と違って戦争のセの地も無いわ。」 |
No.184 | 9点 | 獄門島- 横溝正史 | 2015/07/09 13:28 |
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相撲で言う心・技・体の充実を感じる作品です。
読んでみると、意外とあっさり爽やかな口当たりに驚かれる方も多いのでは。 それにしても、島の雰囲気が最高にいいですよね。。。 (住みたくはありませんけど) |
No.183 | 4点 | 交換殺人- フレドリック・ブラウン | 2015/07/09 13:03 |
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(ネタバレ気味)
見え見えでもいいからドンデン返しよ来てくれ! と願いつつ読んだんだが。。 ドタバタするばかりでカタルシスの無いラストでした。 ブラウン先生もこんな”落ちる”本書いてる時間あったらSF短篇かショートショートの名作を一篇でも多く、世に放り投げて欲しかった。。 とは言えご本人が好きだったんだろうなあ、こういうの書くの。 |
No.182 | 5点 | 3、1、2とノックせよ- フレドリック・ブラウン | 2015/07/09 12:54 |
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(最後の方ネタバレ)
『痴漢』と呼ばれる人物の押入り強姦殺人事件が連発する中、博打好きで女好きなクソ駄目オヤジが自業自得でがんじがらめの夜の街を彷徨うシーン中心の前半はちょっと退屈。 知恵遅れのヒーローかと思われた街の新聞売りが登場してから物語は活気を呈し、何人かの脇役達も(チョイ役達まで)男女共に存在感たっぷりの動きを見せる。このへんの描写は流石だね。 さて借金返済等々で進退窮まったクソ駄目オヤジは徐々にトチ狂った行動をとり始め、そうしているうち酒場で『痴漢』らしき人物に出くわすが。。 ハーフハッピーエンドとも見える皮肉なエンディングの余韻はともかく、『痴漢』の正体がまさか主要登場人物の誰でもなかっただなんて! そりゃ意外だよ肩透かしもいいとこ!! ま往年のそういう流儀の変質者(サイコ)スリラーって事なんですかね、でもこりゃミステリの流儀じゃないよな。やはりFブラウンさんは短篇の方が、それもSFの方が本領発揮出来るんじゃないでしょうか。(その割に長篇ミステリのラインナップがやたら目立つんですが) |
No.181 | 8点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2015/07/09 11:58 |
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略して「さよッシー」か。
(以下、途中からネタばれ気味) 音楽の美しさの描写に半端でない臨場感があり、楽器を扱う肉体感覚にもリアリティがある。 火傷やリハビリのくだりは本当に痛々しい。 物語の紡ぎ出しがスムーズだなぁ~~ と思って読んでたら、まさかの!! 火災事故で一人生き残りって設定あまりにベタ過ぎて逆に疑いもしなかったよ~ そしてあまりに堂々たる青春小説ぶり、音楽小説ぶりも大きなミスディレクションでしたね。 陳腐なトリックだけど見せ方が良かったね。 |
No.180 | 5点 | 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー | 2015/07/09 06:58 |
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題名に惹かれ、とてもとても若い頃手にしたもの。ごちゃごちゃドタバタしているばかりでしたが、、船上のざわざわした雰囲気は愉しめましたし、謎解きも驚きは特に無いものの雰囲気勝負でまずまず。 高い評価こそ付けられませんが、良い想い出の一作です。 |
No.179 | 3点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2015/07/09 06:51 |
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長いのは構わん、博物館という舞台装置も魅力だが、何しろ話が複雑すぎる上に詰まらんから読めないこと読めないこと! 頑張って結末に辿り着けば犯人は意外な人でも何でもないし、残念でしたお疲れ様! 構成の凝り様には新味があって、目次だけ眺めるには何やら愉しそうなんだけどね。。。 カーなのに、変に真面目に走っちゃった感が有る。 大きなこけおどしが欲しかった。 |
No.178 | 10点 | 樽- F・W・クロフツ | 2015/07/08 08:02 |
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とてもとても若い頃、玉砕承知で手に取りました。クロフツでは4冊目でした。
ところがですね、読み始めてみると豈図らんや、このさっぱり子供向きでなさそうな地道な捜査の物語が面白くて面白くて、予想外のスピードで読み切ってしまった次第! 捜査は地味でも犯罪そのものは派手(特にそれが樽の中から露見する冒頭シーン)で動きもダイナミックでスケール大きい、というのが助けになったのかな。 とても頭のいい樽の動かし方はクールなパズルの様でありながらそこには必ず海の匂い、鉄と油の匂い、微かながら屍体の匂い、、が生々しく付き纏うのが堪らない。やっぱり小説描写が上手いんだな。 名作中の名作と思いますよ。「黒いトランク」という忘れ形見も残したね。きっと再読するだろうなあ。 |