皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.877 | 8点 | 予告された殺人の記録- ガブリエル・ガルシア=マルケス | 2019/04/04 06:23 |
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まさかそこで終わる! 凄まじく勇敢で凄烈な、いろんな意味で武士道を感じる、ラスト数ページ!
実際に起きた”●●のための”予告殺人の背景と顛末が ”わたし”の調査により 色彩豊かに解き解される様を描いた中篇。事実に基づいたセミ・ドキュメンタリーだが、(出版に反対する関係者の多くが鬼籍に入るのを待ったため)長い長い時を経ての大胆な事実再構築となった結果、むしろディープなミステリ興味の薫るフィクションとして完成されている、そんな感じです。 即興で唄った、結婚のあやまちの唄。。。 他の書評サイトを見ると、とある ”さりげない台詞” にゾッとした、なる意見多し。さもありなん。 しかし 終わってみると “あの男女” の数十年後のエピソードこそ、眩しく残る海底の宝石だな。 こんな呆気ない長さの小説ながらその昔中途リタイアした (読書じたいほとんどしない時期だった)のを、リトライ再読しました。 |
No.876 | 7点 | とむらい機関車- 大阪圭吉 | 2019/03/27 06:38 |
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創元推理文庫の選集x2も今や古本プレミア付き。
とむらい機関車 8.3点 例の『動機』、明言せず暗示で締めるのが素晴らしい。しかもその暗示の手紙の立ち位置! 初読時((こっからネタバレになると思います))、その動機が”患部”切断のための実験かと妄想で思い込んだものです。実際そういうミスディレクションも少しばかりあったのか、無かったのか。 連城の某有名短篇とどちらを先に読んだのでしたか。 デパートの絞刑吏 6.6.点 鮮やかな物理トリックに薬味の心理トリック。導入の謎が地味だが解明ロジックの充実と結末の大胆な意外性は目を引く。しかしこの死に方はなかなか怖い。 カンカン虫殺人事件 7.3点 昔の港の殺人噺はいいなあ。推理小説より犯罪実話の体だが満足。勝新の「かんかん虫は唄う」とは雰囲気違う。私にとってこのストーリーは絶景。どうにも忘れ難き一篇。 白鯨号の殺人事件 7.0点 ひどく散文的な物理解決に導き出されたのは、冒険への郷愁を誘う大型真相と、残酷な詩情溢れるドラマチックなエンディング。ホームズを地道に仕立て直した様な構造の物語だが、この意外な大ラストシーンの訴求は忘れ難い。巻末解説を読んだ限りでは改稿「死の快走船」のほうが充実してそうだけど(ラストシーンの伏線となる絶妙な台詞追加とか)、本作の素っ気ない魅力もまあ悪かねえ。 気狂い機関車 5.3点 物理物理し過ぎる小型物理トリックで引き摺るショッぱさも、ビジュアルが映えるドラマ性強いカタストロフのお陰で和らいだか? 鐵道に纏わる風物は悪くないやね。あとまァ、なんツか唐突ながら意外な犯人てやツスか。 石塀幽霊 5.1点 小味ながら鮮やか、不思議興味を唆る光学系物理トリック(ピタゴラスイッチで紹介されそう)。 これはこれでドラマなど不要。しかしこのトリック核心、派手に応用出来たら相当に。。。。 あやつり裁判 6.4点 面白いかもな、その遊び。だがその犯罪行為まで手を伸ばすのは最悪よ、純粋に楽しみゃいいものを。結末は見え透いとるが展開の奇妙なサスペンスが良い。んで題名と店の名前はちょっとね。。 雪解 8.3点 こりゃあいいぜ。どうにも光り過ぎの某人物のナニが最後にこう活きるわけか。。考えオチってやつですよね。 本格だけでなく戦時系でもなく人間派サスペンスのこういうブツも大坂なおみ選手はキメられるんだなあ〜! 間違えた、圭吉っつぁんか、大阪か。 坑鬼 8.7点 ホヮイダニットの鬼(色んな意味で)。社会派で本格。導入の瞬間から文言濃いこと(途中すぐ普通になったが)、展開敏捷なこと! しかし犯人、よくもその限られた時間で。。。!! 初出がかの『改造』誌ってのが凄味を放ちますよね。 ラストシーンの恐怖は胸に沁み入る。。。。後から”より”じわじわ来る一篇です。 小説群のあとは短い随筆がいっぱい。東野「名探偵の掟」にも直結する推理小説愛・本格ミステリ愛が真摯に軽快にスプラッシュしまくりです。 「我もし自殺者なりせば」はエッセーなのにまるでブラッドベリの掌編。読んですぐ、これに影響されたであろう不気味に美しい空中風景の夢見ちゃいました。 「探偵小説突撃隊」の自由平等両立宣言も愛おしい。 言及される方の多い「お玉杓子の話」はアツいですねぇ~~ (9.0点)。 「幻影城の門番」も、今の自分よりずっと若輩の、しかしずっと大人であったであろう作者の筆と思うとなんともくすぐったい味がある。 随筆部分のみ、まとめて8.3点あげちゃいます。 |
No.875 | 8点 | 名探偵の掟- 東野圭吾 | 2019/03/23 08:34 |
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『電気グルーヴのメロン牧場』並みに、電車で読むと危険な本(ブッと噴き出しちゃうから)。メタパロディの領域掠める大パロディ大会の体だが、一作ごとそれなりにちゃんとした推理小説的ヒネリの落とし前を付けているのが素晴らしい!チェンジオヴペースの置き所も絶妙。王道を踏む事にこだわる著者ならではの新変化球アイデア素描(本作に登場するトリックそのものではない)の様相もあり興味津々(このへん文庫解説の方が詳説)。一作、一部で知られる某ディープ論理パズルを彷彿とさせる大笑い結末のブツがあり、その結末を剛腕センタリングでアシストするパロディ大車輪の噴出部分も含めて流石は俺の東野、魂は理系ミステリの鬼だぜと、膝を叩いたものでした。一番気を持たせるタイトルの某作、アンフェアの中にも、読み返せば、しっかりフェアであることの伏線(言い訳?)が張ってあるのにはシビレます。著者代表作の一つに数えられてしかるべきでしょう。氏の最高傑作と称する人がいても不思議ではありません(私は違うけど)。本当に、よくぞ書いてくれました、こういうの。珍妙な登場人物名でいちばんヤバかったのはアリバイ工作に勤しむ「蟻場耕作(ありば・こうさく)」かな。こりゃ噴き出しましたよ。 |
No.874 | 7点 | 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー | 2019/03/20 01:59 |
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名犯人、名探偵、名真相、名解決。。の全てが●●●!! トリックがどうとかの話じゃないとは思うけど、空さんもご指摘の、あの指紋の手掛かりの機微にはしびれましたわ。バンコランにさっぱス魅力を感ズないオイラだが、あのなんとか男爵は好きだ。HM卿の代わりと見做してしまいそうだった。爽やかなエンディングも良し。老眼でイソベル・ドオネイがイッペイ・シノヅカに見えちまった。
ところでクリスティ再読さんと同じく私も本作、世界大ロマン全集の旧訳(抄訳らしですな)で読みました、とは言え往時リアルタイムではなく近所の古本屋で見つけたカバー無し百円本ですが。巻末目録キャッチコピー最後の太字『家中で一生楽しめる大ロマン全集』にはクスッと笑いながらも時代の電気を感じてシビれます。 大ロマン全集に併録の「目に見えぬ短剣」「もう一人の絞刑吏」も折角なので久しぶりに再読してみました。やはり「絞刑吏」の締め方(絞首刑だけに)は味わい深い。(初読時知らなかった)浜尾四郎の短篇を彷彿とさせる。真相の尻すぼみ感が痛い「短剣」さえ怪奇ロマンの雰囲気で充実。流石です。 |
No.873 | 8点 | プラチナデータ- 東野圭吾 | 2019/03/19 00:43 |
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「……、 煙草とか数学とか」
この物語には二人のヒロインがいる。 いや、片方はヒロインになり損ねた。国民(最終的には地球人?)全てのDNAを一元管理して犯罪捜査と犯罪抑制に役立て、薔薇色の未来を築き上げる一助にせんとする巨大計画がある。だがそこでは”プラチナデータ”なる極秘のナニモノかに関する最後の仕上げが肝腎らしい。。。。そこへ来て、巨大計画の技術側キーパースンが、長期入院中の精神科病棟内で殺害されるという重大事件が勃発。 一方でずっと下世話な背景が覗える殺人事件も連発しており。。 主人公は二人(?)。それぞれの周辺人物を含めてぶつかり合うこと組み合うこと、実に玩味に堪える。 登場人物名に何気な鮎川哲也オマージュ?(地名繋げ)を感じるのが嬉しい。個人特定と多重人格、幻影に叙述欺瞞の疑い、、と機敏に平然と畳み掛けて来るのが熱い。物語要素としてシンプルな提示やら対比やら、さり気ない取捨選択やら端の見えないレベル違いか何んかやらがタイミング良く重なり合いテンポよく立体的変貌を続けてくれる。じっくり攻めるなあ、余裕あるなあ。我が妄想よ、突き抜けておしまいな。。 3分の2ほど行ったとこで、 オー、仮にアガサならこいつで決め打ちアーハー? ってなシビれるプレシャス容疑者(その地点までは露ほども疑わなかった)と面会させれたんだけどね、いつしかウォッチリストから消えてそれが誰だったかもわからんくなりましたよ。 某シーン、誰それ?!?! 。。。 と思わせるタイミング無双、と思えば既にもう、そこに加速のしたり顔。浅草橋。。単に幻覚と言うには見え見えの線で引っ張り過ぎだなと思ったら、、そういう事か。。。。 ってまだそこでも終わるわけないんだよな、、やられた ーーー そこで “ちらりと見た” だと!! しかもだな、その直後の地の文に息づく、妙に幸せめいた余韻。。。 え、何その、唐突な人称の、、迷い?! 惑わせ?!? 読者妄想を前提とする卓袱台ブーメラン丸返しをサリッと刻む一瞬の閃光を、無風地帯の俺は見せてもらった、そんな数行もあった。 ラストシークエンス、いくらなんでもホンヮヵし過ぎでね? と思いましたが最後の一文できっちり落とし前、泣かせてくれました。”米国側”意図の重さが全く無視されて終わったのはおかしいけれど、まあエエ、社会派ミステリじゃないんだし。何故某人物が犯人に?! という一つのメインテーマが有耶無耶の濁流に押しやられたのもヘンだが、まあエエ、社会派サスペンスじゃないし。ただね、あの奇蹟のミスタッチ解決シーンだけはちょっと都合良過ぎでリアリティを部分撃墜。にしても妙にブライト過ぎる終わり方がまさかの東野流ブラックジョークだったりしてな。文系に優しい理系ミステリ、最高だな。 ”モーグル”の命名由来が堂々明言されないのはちょっと残念。 先読みし易く興醒めとの評が多いのは納得。でもわたしは本作が放つ独特のワクワクヒューヒューにどっぷり浸りたいのです。 |
No.872 | 7点 | 不安な童話- 恩田陸 | 2019/03/08 18:12 |
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特殊設定と思われた要素の大半が最後にはドタつきながらもギリ合理解明される過去掘削サスペンス。。と思っていたら!! 悲劇の物陰から現れる大きなピースがごとりと嵌まって、無理筋押しの固さが解きほぐされる、ほんの数頁。 筆致が明る過ぎると読中感じていたけれど、それも巧妙なバランス取りの一翼だった。 “あの人”がこんなチョイ役で終わるわけないよな。。とさり気なく光らせておいての二重落としにやられる。 |
No.871 | 7点 | そして医師も死す- D・M・ディヴァイン | 2019/03/05 06:40 |
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文学的というより(エンタメ忖度を排除した)純文学風ラストシーンにシビレます。その凍るようでそのじつ氷を溶かさんとする意外性は充分ミステリ感覚だと思いますが、作品本来の本格ミステリ要素はこのラストの衝撃に小差で負けているかな。 踏み込んだ人物描写、心理描写がミステリ軸ではやや皮相なミスディレクション以外にあまり活きていないのも残念。しかし連続殺人&未遂事件の全体構造を見誤らせる手法はなかなか。特に、これネタバレになるかも知れませんが「殺人未遂事件」の存在が最高にヒネリ有る目くらましであり、同時に実は一つの●●●●ッ●●(読者は気づきにくい)でもあるんですよね。。大胆伏線というより大ヒントがそこかしこに実は散らかしてあったのも、顧みればなかなか凄い。貶してんだか褒めてんだかよく分からなくなって来ました。
完全ネタバレを書くと、主人公に対して最初に「アレ、事故じゃなくて殺しだったんじゃね?」と持ち掛けて来た人がず~っと嫌疑の対象外だったのが終盤突如。。。。実はまさかコイツこそ、と一定量の疑いを心のどこかにキープさせるからこその真相目くらまし、が本作のミソなんですかね。企画性は感じるけど、ちょっとこじんまり。でもじゅうぶん+αの合格点。 貶してんだか褒めてんだかよく分からなくなって来ました。 読んでる最中は面白いのに、読了直後は(純ミステリ要素は)地味な印象、でも後からじわじわ来ますね。大昔エルヴィス・コステロのファンになりかけの頃もそんな感じだった、かも。 |
No.870 | 8点 | この闇と光- 服部まゆみ | 2019/03/01 12:36 |
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「初めて笑ったわ!」 最高の結末! これほどまでに裏切らない、覚悟の決まったエンディングに巡り逢えたセレンディピティを呪わないでください神よ。 構成と内容に気を配ったであろう、皆川博子氏による、解説ならぬようでなっている文庫巻末。 “主人公”なる際どいワードを光らせて紡ぎ出すのは若死にした作者が如何に”真の贅沢”を、その愛した美しきものたちと共に味わい得ていたかの披歴と追想。 “ほんとうに愚かなのはどちらだろう?” なんて、ありきたりの惰性とは逆のベクトルで、そのタイミングで言われると、しみるねえ。 以上の私の文章で何も察さずにいてくれたら幸いです。 とても読みやすい小説でした。 |
No.869 | 5点 | ママは何でも知っている- ジェームズ・ヤッフェ | 2019/02/26 21:52 |
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伏線(というかヒント)露骨、さあ拾ってみよう! これが噂の、ブロンクスDD(ディナーテーブル・ディテクティヴ)。ママが三、四の質問に入る所、読者への挑戦ですね。近く遠くの親戚エピソードを引き合いに隠れた心理要素を表に引きずり出すくだりは、物語として引き込まれるルーティーンだ。
ママは何でも知っている ママは賭ける この二つはイマイチ。探偵サイドだけ妙に心温まる安直推理クイズ×2。 ママの春 勘づき易いとは言え奥行きある真相、なかなかの人情ファクター、そしてもう一つのストーリー。。これはいい。 ママが泣いた 俺も泣けるかと思ったら。。。情より智でグッと来た。でもそれだけじゃ詰まらんわな。「ときどき思うんだけど、この世で美しいのは子どもだけじゃないかって」こんな、配置の機微によっては20分以上も泣けそうな台詞を配しといてからに。。だがその涙目は判る。問題はそれがミステリの痛みと聯関してくれない歯痒さ。仮にミステリじゃないとしても、これじゃ切なさってやつが摩耗され過ぎじゃんか。連城だったらどう締めたろう。 ママは祈る 隠された人間ドラマがまあまあそれなりだけに、思慮と工夫に欠け過ぎの殺人背景と、風がどうしたの、唐突なだけに見え見え過ぎる手掛かりが ~αンだかなあ。 ママ、アリアを唱う いくらなんでも真相バレバレ過ぎだし殺人背景が浅過ぎ。だが雰囲気はとても良い。 ママと呪いのミンク・コート ビハインド人情ストーリーはなかなか良いが、犯罪真相がなんとも皮相。。てか罪犯すサイドのビハインドストーリーが浅過ぎてバランス悪い。逆社会派? なんかこういうパターン多いなあ。同じような感想ばかり書いてますよ私。 ママは憶えている 最後のこれだけちょっと長めだが、バランス崩さず薄まらず上手く纏めてる。過去のママのプライベート領域でも重大な殺人事件と、現在の無関係な殺人事件を人情豊かに並べてみせ解決。聞き違いネタはあまりにミエミエ。。。と思わせてちょっとした反転(ワザとやったな)。 どの作も似たコメントばかり出て来るので全体一括りにしようかとも思いましたが、この本の持つ、緩いんだけど許せちゃう温かさに免じそのままにしました。 読後しばらくして良さがじわじわ分かって来ます。 |
No.868 | 5点 | 聖アウスラ修道院の惨劇- 二階堂黎人 | 2019/02/23 10:38 |
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中盤、微妙な時間差モザイク進行が快い。終盤近くから急遽プチ社会派っぽくなるんだがそれは形だけ、雰囲気と中身は剛毅なる新本格で貫徹。この方向性が好きな人には相当ガツンと来る作品でありましょう。
ロックの年1969(昭和44)が舞台というだけでそれなりにセクシーな気分になりよるかと思ったらそんな事はなかった。本作の事件推移と世界ロックシーンの対照年表を誰か作っていないかな。新刊「鍵孔のない扉」が語り手の列車の旅のお伴に登場したのは萌えた。 「それでは、平面的に見て独立した浮島のような場所の通路は通れない」 嗚呼、この台詞の放って止まない隠喩! その直後の相槌が「そうなのか」と来る! 作者さん仰る ロジック<トリック<プロット ってのは私も同じだが、比率的に 7<8<9 くらいがいいな。やっぱロジックの逞しい裏打ちとトリックの強い幻惑が欲しい。 本作は 3<4<9 くらいかな? ロジックさんは最早ともかく、トリックさんがなかなか魅了してくれませんでした、残念。 でもプロット君の発信力と展開力でずいずい読ませるお話です。結果、堂々の合格点(5.4相当)。 「友情は再生するもの」 やて。 よう知っとったな、その通りや。 冒険らしきシーンでさっぱりハラハラドキドキ出来ないのはまあ仕方無いとして、これだけこってりした探偵小説&本格推理ギミックに同時彩色された物語でありながら、最後あれだけの大舞台に載せられた謎解きと大真相が、何故もっと用意周到な盤石の演出で花吹雪の中堂々披露されなかったのかと恨みが残ります。これも突き詰めれば前述のトリックの弱さ、これに依るものでしょうか。 換字式の方の暗号、最初から破りに行く気はサラサラ無かったけど、後知恵で「もし本気で当たれば、あ、そこの部分、ピンと来てたじゃん!」と思わせる、読者の気持ちに入り込んで来る良い暗号だった。 グロ描写に静かなるリアリティがあってちょっと気持ち悪くなるのもなかなかだ。 しかし吸血鬼のヨタ話にコロッと騙される警部さんって。。いったいどんな催眠術使ったんだい? |
No.867 | 6点 | ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー | 2019/02/20 23:12 |
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おお序文! 笑 乱歩さんの「心理試験」と非なるが似てるとこもある心理の探偵。動機の二重天蓋って構造か。。。。 筆に何の工夫も無ければ、第二の殺人の犯人、「君、そこで××したでしょ?」って秒速で勘付かれるところ、流石のアガサらしい有機的目くらましでなし崩しのクライマックスへ。 でも、単純幾何学模様の如く(ブリッジという舞台装置の力も借り)かっちりはまった物語構造がややかっちりし過ぎてパズル性プチ過多か。それでいて特に終盤あらわにされる人情/非人情模様とのくすぐったいアンバランスが惜しまれる。アガサの得意な企画勝負が小さくまとまり過ぎて圧倒まで至らなかったかな。いちばん意外だったのは、いつしかヒロインが換わってしまったこと、かも? ローダ役は水原希子で決まり! |
No.866 | 7点 | 寝台急行「銀河」殺人事件- 西村京太郎 | 2019/02/19 00:20 |
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常習の交通費チョロマカシで使った寝台急行にて、乗っている筈のない不倫相手の絞殺事件に遭遇した井崎は十津川の旧友。多方面に気まずい第一容疑者となった井崎が釈放されたのは「自分こそ犯人だ」と名乗る警察宛ての郵便が根拠。そこには真犯人しか知りえない情報と、持ちえない物的証拠があった。会社から冷や飯を喰わされ妻には見捨てられ欝々とする井崎の無実を信じ捜査と推理を続ける十津川の奮闘、を後目に目撃者や関係者が次々と殺害され、最後には。。
悪癖アンチクライマクスは今回ありません(その代わり結末に仄かな唐突感が、ま許せる範囲)。 何より本作の真犯隠匿技は、何気にちょっとクリスティ、ああ見えてモンキー。まさか犯人が××以外の人物とは。。そして最後のコロシの犯人も。。てっきり今度こそそいつだと思ったら。。まさか真犯ではあり得ないであろう容疑者(井崎)が何処までも更に怪しい 状況証拠やら上級解釈やらに苛まれ続けるこの、まるで臍の緒で繋がれたかの様な無間緊迫よ! なかなかに込み入った本格推理でありますな!! アリバイ工作は、詰めの一手(本作の場合そこはちっとも重要じゃない)のほんのオマケとして付いてます。 私立探偵の名前が藤沼。アナーキーの人を思い浮かべてしまいました。 それと、あるシーンで眠ってしまったあのお二人に、萌えました。 幕引きの手練れ感、半端ありません。 なお本作、測量ボーイさんが書評しておられる津村秀介「寝台急行銀河の殺意」とは別物です(作者が違うんだから当たり前ですが)。お間違えなきよう。 |
No.865 | 7点 | 郵便配達は二度ベルを鳴らす- ジェームス・ケイン | 2019/02/17 13:20 |
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この話は手が速いぜ兄弟。訳の古さもぶっ飛ぶ原文力にやられたよ。とにかくこりゃいいぜ間違いねえ! 性欲と食欲は飼いならせ、排便と睡眠のやつにはうまいこと従え、ってな。 訳が古いお蔭でズベ公だの旅がらすだの与太っぱちだの、イカした不良死語のオン・パレードにゃあサスガのオイラもタッチの差でシャッポを脱いだぜ?
そうそう、あのこだまのシーンはグッと来たね。即物描写でスリルを加速させるにゃ最高の自然舞台装置じゃねえか。 巧まざる死の際もどきでの名推理もなかなかだった。 そういや、リンダ&ボール・マッカートニーのバックスィートオヴマイカーを唄いたくなる、いいシーンがあったな。 |
No.864 | 7点 | 見えない女- 島田荘司 | 2019/02/16 18:16 |
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異国旅情の三篇。 割とファン向け。 インドネシアの恋唄 かの国の三十五年前だから最早歴史スケッチ。そういや本篇のキーパーソン早見優ちゃんも四十路記念ベストアルバム『不惑優』からもう十+α年か。。そんなアルバム出してないけど。 見えない女 こ、これぞ、心理的大物理バカトリック。。。。でも物語の情緒に呑み込まれちゃってるな。そこがまたいい。 一人で食事をする女 サスペンスフルな旅情と旅先の謎多き女スケッチから入り(このへん他二篇より濃密)、風景と歴史への陶酔をひと舐め大旋回した後、やっと謎の堆積へ戻り来る。。。 最後になって何気にまさかのバカ動機というかバカホヮットダニットに収斂したのは如何せん。。 ところがだ、最後の最後、あの涙のシーンですべてが危ういバランスの上の綺麗なセンティメンタル・ストーリーに収まった。拍手を。 ファンサービス風とは言えファンはファンでもしまそうのファン向けだけあって、それなりに意外で軽ショッキングな、異国ならではの背景を最後に露出する作品が並びます。 こんなラグジュアリーな箸休めも時に素晴らしかろう。 |
No.863 | 9点 | 夜よ鼠たちのために- 連城三紀彦 | 2019/02/14 06:31 |
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どれもこれも本当に、初恋の幻のように儚い分量の短編なのだが。。。。。。 全体通して、対称性へのこだわりがやはり目を引く。線対称でなく点対称を感じさせる構図の作品も目立つ。連城短篇にしては、純文学的薫りは薄い。けどそのぶん、彼の包み隠さぬミステリ魂の熱のこもった核が露出しているようでヒリヒリする感覚が味わえる。
二つの顔 7.3点 このエンディングは沁みるねええ、心理の移り変わる感じにちょっとしたSOW。純粋なミステリ要素は惜しくもその領域に及ばずだが充分に感心。しかし感心レベルでは満足しきれないのも連城クライテリア。 スーパーナチュラル⇒ホラー⇒サイコ⇒本格 と推移して最後やっと文学の味に落ち着きます。嫉妬対象の可能性って、こんなに深いんだ。。 しかし不可能犯罪と心理小説をよくぞここまで継ぎ目無く糾合させ尽したたもの。指紋のくだり、わざと露骨にして更なる捻りに繋げた、って事か? 過去からの声 7.8点 わかった、某主役候補とその○○○の葛藤大震災が滲み出て来ない恨みの秘密は。。でも露骨に行かない、この、空気のようなミスディレクション。そこが心理の罠、ってが。。。。 某現代人気作家のいい時の短篇を彷彿とさせます。とは言えこの作品だけは短篇に凝縮するよりむしろ”●●のある●●の●●”にもっと焦点当てた(それはミスディレクションでもある)社会派長篇で、見せ場たっぷりの結末どっかーんでやってくれても。。 誘拐の形の可能性って。。こんなに広いんだ。。。。 よし、俺も。。 化石の鍵 7.2点 “出だしの密度”最高記録への挑戦、俺は目撃したぜ。 構成も興味を引く中盤の大型展開を経て、、ところがこの結末の、都合良過ぎるブライトエンディングは。。(俺は認めん! 笑) でも、大味なイヤミス反転風にスッキリさせ切らずしっかりしこりを残してくれるのが良心だね。小さい心理トリックの置き場所、間違ってないぜ。 奇妙な依頼 8.8点 『美女』に入ってそうな、これぞ対称美が貫く一品。 一定のシビレる結末もどきからの、二重底の枠組み化けっぷりはブラウン神父のピカピカ上級応用だ。それにしても立体的で凄まじい真相力!! まるでいい意味で佐野洋のようにありふれた題名が最後に、ここまで化けるんだな、ハァ~。 古今ミステリのプロット方程式をこねくり回して脳内実験してるうちにスポッとはまるように出来上がったのかなあ、この物語構造は。 夫に妻の素行調査を依頼された探偵は、まるで真夏の夜のように何度も寝返り、裏切り、、 “依頼自体が謎”の可能性って、こんなに。。 小さな装身具が物語展開で表情を変える小道具遣いもニクい。 夜よ鼠たちのために 9.4点 なんやねん煦文学やんベイベどうですよ、コレ。 一ヶ月 ぅ、何年か。。 そして、取り返しのつかない、、その暴露進行は一向に加速に与せず。。 ゆったり行こうぜ、短篇だとてゆっくりじわじわといきたい。だけどあっという間に読めてしまう。。 解決篇よりはるか前の謎篇ですでに二プラスα重底の。。 恐喝のネタの可能性って、無限大だね! と勇気が湧いて来ますね。 医師たちはなぜ殺される。。。。 な、何故そっちの奴まで手を掛けるんだ。。。 アンタ、狂うとるんか。。 二重生活 10点超え ●●の自分にとってはチョィとツーンと来る話。なんか変な台詞言うな、と文脈さんにカマってみた直後、二つの大反転が堂々続いたのには参った! 王⇒長嶋か、憲剛⇒家長か。 更に、何なのよその倒錯被せ! 涙。。。。?? クリスチアナのジェミニーなんとかさえ何故か彷彿とさせる最高の。。。 要はフリーセックスだろ、なんてのは野暮ですよ。 その苗字んとこには点々がありゃよぐね? って思う箇所があったんだよな。 沈んだ。。。。。。。。 よくさ、叙述トリックってのは読者の偏見を炙り出して完膚なきまでに…って言うけど。。 x角関係の可能性って、本当に。。。。。 代役 8.7点 妙に鮎哲っぽい導入部。。。いやあ、こりゃストーリーの体積がでかい。ほぼ梗概だけで出来てね? 話の体脂肪率2%切った?? 小出しに拘った意外な物語要因の急展開披瀝は動体エネルギー奔出させるに飽くこと無し。 長さが気にならない文学的エピローグのあと更にまさかの炸裂か蠢きでもあったら、、もしそうだったら10点満点掠め取ってたな。。、でもじゅうぶん最高さ。 しかし、大胆な物語構成だ。が、ひょっとしてこれ、書きながら結末考えてったクチだったりしないか?(連城なら出来そうだ) ”或る子作り”に纏わる特殊な動機が、振り返れば全ての目眩ましの発端なわけか。。。。 x人y役の可能性って、本当に。。痛快ハードアクション的展開の趣もあり、昭和のうちに映画化されてたら素敵かな?、的な?? ベイ・シティに死す 10.0点 “私は今夜中に、決着をつけたいと言った” こんな ‘もう一発’! いやでも記憶に残るその小道具の属性が、まさかの。。。。。そのタイミング、その言葉、その情念。。。。いやお前じゃない、お前じゃないんだよ。。。。と読者の情を手向けた直後、嗚呼。。。。。。しかし、物語の締まりはそのせいで最高の水準まで跳ね上がった。 終結にむかってのたかだか数ページ、単位あたりの言葉の殺傷力がまぼろし級の君臨継続を貫徹した。チャラい題名と重厚過ぎる内容のギャップにゃあクラクラします。でもこの題名で少し損してるのかも。もしもっと渋いタイトル付けるなら。。。。 清張風”わざと予知させる”サスペンス研磨と、まさかの大反転、この二つを共存させる術はどこの洞窟の魔法だ。。しかし一口に反転と言っても本当に奥が深いんだなあ。。。。日本的HBと日本的本格の融合かも知らん。 罪なすり付けの可能性って、本当に。。。 トリックが凄過ぎて人間ドラマがちょっと押し切られたきらいは有るが、満足。 ひらかれた闇 8.1点 妙にぎこちなくユーモアミステリ風の導入を引き摺ってカラフル&キュートなアンバランスの迷宮へ。。。SJK(主人公)のリビドーがあわや溢れ出しそうな瞬間の描写は秀逸だったな。 巧すぎて、幼すぎて、何やら何ものかのパロディめいた佳きアンバランス。しかしなあ、そんなこんなでも自若げに、このくらいはキッチリ凝るんだよなあ連城は。 彼ならではのズキズキは無いが、キラキラは充分ある。そしてこの、タイトルの意味ねえ。。 そんな犯人がそんな動機を殊更に引き寄せる(!)のか、って違和感さえ霞んだ。ところでそのシング&ダンスは何なんだ(笑)。 どうにもこうにも筆力が光るね。お蔭で所々リアリティが火の車になってる舞台裏に気付かせない。それとなんか、ミステリとか騙し絵とかの骨格が圧倒的過ぎて男女がどうしたとかのイメージがさほど記憶に残りゃしねえピースが目立つな。 ハイベイビィ、アイムノット叙述トリック、アイムノット嫌ミス、アイムジャスタ.. 犯罪ファンタジー。。。。 |
No.862 | 6点 | 崩れた偽装- 鮎川哲也 | 2019/02/09 02:19 |
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呼びとめる女/囁く唇/あて逃げ/逆さの眼/扉を叩く/赤い靴下/パットはシャム猫の名/哀れな三塁手 (光文社文庫)
A級半~B級の倒叙短篇集。コンプリートを目指す熱狂的ファン、或いは列車の旅に何か軽い気持ちで読みたい人向け。序盤~中盤と面白いんだが終結部で尻すぼみ、というパターンがやはりこの手の鮎哲には多い。 しかし 「あて逃げ」の大胆過ぎるドタバタ心理劇は何度思い出しても笑ってしまうなア。 あと、プロ野球チーム"北海サーモンズ"… |
No.861 | 6点 | 完璧な犯罪- 鮎川哲也 | 2019/02/07 22:36 |
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小さな孔/或る誤算/錯誤/憎い風/わらべは見たり/自負のアリバイ/ライバル/夜の演出
(光文社文庫) 殺人者がへまをして、完璧とはほど遠い犯罪が暴露されまくる物語集。どいつもこいつも小道具使いの小味な倒叙短篇。音楽ネタがチョィチョイ出て来るのは良いぞ。 |
No.860 | 8点 | 半七捕物帳【続】- 岡本綺堂 | 2019/02/03 11:31 |
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お文の魂/石灯籠/勘平の死/湯屋の二階/お化け師匠/春の雪解/三河万歳/熊の死骸/張子の虎/弁天娘/冬の金魚/むらさき鯉/三つの声 (講談社 大衆文学館) 編者は縄田一男
講談社『大衆文学館』では後期作品を集めた’正’(北原亞以子編)のほうがより私の好み。半七第一作「お文の魂」を筆頭にアッサリ目の最初期作がずらり、残り半分ほども前期の作品が占める。 んな中でグッと来たのは「むらさき鯉」。こりゃ濃いわァ~。 物語の終わらせ方がちょィと独特な 「三つの声」で締めるのも趣があらあな。 他の、比較的サラリとした作品も充分に愉しめましたよ。 何といっても、言うだけ野暮ですが、文章が良いのさね。 |
No.859 | 8点 | 月長石- ウィルキー・コリンズ | 2019/01/31 15:00 |
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“道徳的均衡は回復し、ふたたび精神的雰囲気は、すみわたったような感じになりました。では、みなさま、また話をつづけましょう”
物語は調味も濃い根菜スープのようで導入から夢心地。吸引力の望遠スパイラルでどんな終結が襲おうと受け止めてやる。。。。って未来へのノスタルジア極まる感慨に心のリンパ液も過剰生成。これぞ圧巻の古典。流石に百五十年サヴァイヴァーは違う!そしてこんだけ長いとラストシーンへの予見と思慕もまた格別。悠然と流れ行く大河とその両岸の森林のようでありながら、初めから謎という魅力あふれる刺激物の爆発を匂わせ、嗚呼。。。。今度の帰郷は夜行で行こう。 “人生は一種の標的のようなもので、、、不幸がいつもそれを狙っていて、いつも命中する” 物語はほとんどすべて、インドから強奪された月長石(大きな黄色ダイヤモンドの通称)の英国での更なる盗難事件、に纏わる当人たちが当時を振り返る手記のリレーで構築されます。いっけん嫌味な奴かと思いきや、そのじつ皮肉屋なれど澄んだ心で素晴らしいユーモアを噴霧し続ける老執事ゲイブリエル・ペタレッジとその聖典『ロビンソン・クルーソー』(読みたくなった)。もののはずみとさじ加減によってはイヤミス傾斜にも流れそうな紙一重の芳醇ユーモアを持続させるクラック嬢とその清らなる教え。頼りの弁護士。患った医者。そして。。。。 単に視点が移るのみならず、先行手記への共感やら批評やらあったりして、果たして、事件にまつわる伏線や日常(?)の伏線がそこには巧妙に張り巡らされているのでありましょうか。パロディとユーモアの軸足や分量が語り手に依り推移するからこその長時間興味持続は妙手の選択です。手記群に描かれるは二人の青年と一人の娘、尊属たち、下僕たち、バラモンらしきインド人たち、そして 。。。。。。。。 “夜の出来事がすべてを決定するだろう” 物語の途上で探偵役(本当にそう?)が警察を退職してから再登場。さんざんの不在を託った後で満を持したそのタイミング。好きな薔薇の名前と、論争仲間の園丁も一緒。 「ぼくのような立場にいたら、それこそ一生涯ですよ。いますぐにも、自分の潔白を証明するために、なにかをしなかったら、ぼくという存在は自分にとって耐えがたいものになるだけです」 もし、あらすじだけ聞いて満足(何たるナンセンス!)したなら、大山鳴動鼠一匹の感を受けるかも知れませんな。はっはっはっ。。 しかしまあ、大英帝国らしく七つの海を股にかけた大河冒険小説というわけでは全然ないのですなあ、舞台もほとんど英国のごく一部だし、じっくり情緒を煮詰めた大時代な恋愛小説ですよね、そこに幾何かの冒険なる通奏低音(微かに聞こえ続ける)と、決して小さくはない謎とその解決が織り込まれている。解決(事実確認)法の大胆さには開拓地が草刈らない、いや開いた口が塞がらないですが! “人をさばいてはなりません! 信仰の友々よ、人をさばいてはなりません!” きっと同時代に膨大な量の、今読めば長いだけで詰まらない小説が浮かんでは消えて行ったんだろうなあ、コリンズ自身のも含めて(?)。。なんて当たり前の奇蹟にしみじみ思いを馳せました。 ところで重要な脇役のEJ氏、滝藤賢一を彷彿とさせて仕方ありません。舞台で演じてたりして? 「こんどの災難のもとは、みんな月長石なんですか ーー それとも、そうじゃないんですか?」 ミステリファンには二種類しかない。月長石を読んだやつと、そうでないやつだ。ってマイルスも確か言ってましたっけ? 私もようやく、前者の仲間入りしました。えへん。 |
No.858 | 4点 | 白の恐怖- 鮎川哲也 | 2018/12/30 11:45 |
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鮎川さん、テキトーにやっつけたな(笑)! こりゃ◯●社から「ウチみたいな弱小は手を抜かれる、プンプン!」と言われても仕方なし(作家本人は否定してるらしいですが?)。 短い話の割に、真犯人が割り出されるまでの”持たせ”の微妙な時間が露骨に長くて。。。このヘンなバランスでバレないわけには行かんでしょ、アレが。。 しかしこれ本気で仕立て直せば、、 容疑者(甥姪+α+β)もう少し増やしたりして、もっともっと物語を分厚く、叙述トリックもどき(?)をこんなショボイんじゃなくてもっともっともっと巧妙に埋め込んで、出来たらもう悪魔的な領域まで。。。。 未完の「白樺荘事件」(未読です)の存在が見果てぬ夢に誘っちゃって仕方が無いってなもんですわ。 だけどまあ、作品の出来は度外視で、鮎川ファンとして妙に惹かれる所はあります(測量ボ-イさんご覧になった”眼鏡をかけていない写真”も見てみたい!)。
さて、本作に於ける星影探偵はまるでチャーチルが好んだと言う究極のドライ・マティーニに於けるベルモットのような存在ですな! こりゃァ独特過ぎて椅子から転げ落ちるわ!! 光文社文庫の復刻新刊で読みました。 併録短篇「影法師」は氏の最初期ペンネーム群に引っ掛けた異国ロマンス追想譚、の最後にミステリ要素がポテッと乗っかる小品で鮎さんらしい満州、ロシア語、声楽の趣味推し。 おまけの昭和三十年代新聞・雑誌掲載エッセイがまたよろしおす。 メモリアル写真集(全て眼鏡してる)に、山前譲氏の穏やかな解説もありがたい。 |