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アイス・コーヒーさん
平均点: 6.50点 書評数: 162件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.11 6点 ダンガンロンパ霧切3- 北山猛邦 2014/11/30 14:47
北山氏が数週間星海社に「館詰め」してかきあげたというシリーズ一年ぶりの新刊。今度の「黒の挑戦」は十二の密室殺人がはっせいする「密室十二宮」。窮地に追い込まれた五月雨結と霧切響子の前に、トリプルゼロクラスの名探偵・御鏡霊が現れた…。

前作の「探偵オークション」に比べるとスケールは落ちているし、そもそもクローズドサークルではないのだが中心となる物理トリックは緻密で手抜かりはない。
ただ、「密室十二宮」というのだからクローズドサークルで十二重密室殺人でも起こるのかと思えばそうでもなく、実際に解決される密室は一件だけだったというのはやや肩すかしだった。
そういうわけでミステリとしては割と地味な内容だったが、「あの人」の登場とか「あの人」の死だとかストーリーとしては面白い点が多く、今後の展開に期待したい。御鏡霊も次回作では本領を発揮してくれるのだろうか…。

No.10 8点 オルゴーリェンヌ- 北山猛邦 2014/11/30 14:33
海面上昇によって本土とは切り離され、孤立した土地・海墟。オルゴール職人たちが住むカリヨン邸はその一つに聳え立っていた…。
書物が禁止され焼却することを義務付けられた世界で、ミステリを追い求める少年・クリスとミステリを排除する少年検閲官のエノたちが新たな事件に出会う待望の〈少年検閲官〉シリーズ第二作。

そろそろ出るんじゃないか、と云われ続けて七年間。ようやく「少年検閲官」の新刊が発売された。約380ページ、二段組みの大作になっていて、どうやら「ミステリ・フロンティア史上最厚」らしい。
冒頭の「月光の渚で君を」から北山節全開で感動した。流石に何年もの間熟成されただけはある。また今回は、前作に引き続き登場のクリス、エノの二人に加えてカリヨン邸から逃げ出したという白髪の少女・ユユが登場する。この三人がまた可愛らしく実によく描かれているのだ。
勿論物理トリックも荒ぶる。「書物が駆逐されていく」という世界観をいかしつつ、前作以上にとんでもないトリックが使われている。バカミス的ともいえるほどの豪快な技だが、実に鮮やか。相変わらず詰めが甘いのが難点となっているものの、致命的な問題はない。
「ミステリ」それ自体というシリーズ全体のテーマと、オルゴールというテーマを物語的にもトリック的にも見事に利用して独自の世界観を作り上げる手腕はさすがというべきか。
結末の切なさがまた魅力的。最初から最後まで北山作品の良さが横溢した一冊だった。今のところの最高傑作と言っても過言ではない。
しかし、次回作ではいよいよミステリ作家を目指すクリスと自分自身の役割に疑問を持つエノの正義がぶつかり合うのだろうか…。またしばらくクリスたちに会えないのは残念だが、読者は10年でも20年でも待つつもりです。

No.9 6点 『ギロチン城』殺人事件- 北山猛邦 2014/08/26 14:49
〈城〉シリーズ第四作の舞台となるのは、処刑道具をモチーフにした『ギロチン城』。城主の道桐久一郎は密室の中で首を切断され、現在ではその一族がひっそりと暮らしているらしい。自称探偵のナコと学生の頼科はあるメッセージを受け取って城へ向かうことになるが…。

儀式中に起きた首切り四重密室をはじめとする不可能犯罪の連鎖は実に本シリーズらしい展開で、当然物理トリックも健在。久一郎殺害の密室トリックに関してはある程度予測できたが、四重密室と首切りの理由に関しては流石に驚かされた。国内本格の某名作に似ていなくもないが、実に独創的かつ斬新な手法であることは間違いない。(ただし、いくつかの点で無理があるためバカミスに近い部分もある。これは物理トリックを肥大化させすぎた副作用の一つであり、是非とも次回作で解決していただきたい。)
また、フーダニットに仕掛けられた強烈な一撃も印象的だ。見事に世界観を回収したトリックであることは云うまでもなく、(少なくとも文庫版では)伏線もしっかりと張り巡らされている。「『アリス・ミラー城』殺人事件」のアレがパクリだとかアンフェアだとか散々罵った方にも認めていただけるのではないだろうか。
ただ、そのトリックに重きが置かれすぎたために肝心の物語としての魅力が損なわれているという点は残念だ。従来の〈城〉シリーズらしいラブストーリーなども描かれているが、やや消化不良気味。特にラストの怒涛の展開は駆け足過ぎたように思う。
さらに、文庫版解説で霧舎巧氏が「名前が数字でしかないキャラクターもしっかり描かれている」と述べているが、私にはそうとは思えない。はっきり云って三と四あたりの区別も良くわからなかったし、五に至ってはほとんど印象がない。ストーリーとしては〈城〉シリーズの中でも最悪だ。
明らかに進化は見られるものの、まだまだ改善の余地がある作品だった。中々困難なことだろうが、『石球城』でのさらなる進化を期待したい。

No.8 6点 猫柳十一弦の後悔- 北山猛邦 2014/08/25 17:16
大学の探偵助手学部の君橋と月々は、偶然にも知名度ゼロの猫柳ゼミに入れられてしまう。猫柳十一弦という大仰な名前のその探偵は、気弱な若い女性だった。彼らは名門雪ノ下ゼミとともに孤島研修に行くこととなるが…。

独特のキャラクター造形と、クローズドサークルの組み合わせでありながら、「城」シリーズとは違った雰囲気を持つ本作。「探偵助手学部」「孤島研修」といった舞台設定はさすがに強引だと思うが、トリックや内容はそれなりによく出来ている。
まず孤島研修開始まもなくに発生する第一の殺人から、過剰すぎるほどの死体装飾が行われている点が興味深い。見立ての真相やその理由なども今までにないもので確かに驚かされた。
また「犯罪を防止する」ことに焦点をあて、主人公である猫柳探偵の健気な奮闘と助手二人のサポートを描いていくあたりも本作の醍醐味の一つで、北山作品らしいキャラの魅力が引き立っている。
ただ、犯人の特定やその動機などはぎこちなく、素直に納得できない部分も多い。このあたりは中途半端な世界観の設定に問題があるように思える。(そういう意味では、元の設定がぶっ飛んでる「ダンガンロンパ霧切」の方が全体の調和が成り立っているといえるかもしれない。)
よく出来たところも、歪なところもあるが、今後も彼女を応援したいと思う。

No.7 6点 私たちが星座を盗んだ理由- 北山猛邦 2014/07/11 22:43
最後の一撃をテーマにしたノンシリーズ短編集。
印象に残ったのは表題作「私たちが星座を盗んだ理由」と、「妖精の学校」。どちらもダイナミックな仕掛けが施された傑作だ。天体や星座が好きな自分としては、表題作のトリックは何とも云えない感動があった。後者は伏線の凄まじさに驚愕。どちらも、ほのぼのとした平和な筋書きでありながら、スパイスを利かせてくるところが見事。
その他、器用なテクニックで読者を欺く「恋煩い」や、ありがちな構図でありながら少し哀しい「嘘つき紳士」、奇妙な余韻を残す「終の童話」など異色の力作が並ぶ。

「物理の北山」的物理トリックは見受けられないが、本作の童話的世紀末的世界観は北山氏にしか書けないものだ。

No.6 7点 少年検閲官- 北山猛邦 2014/04/01 16:07
書物が禁止された世界で、英国人少年クリスと「少年検閲官」エノが殺人犯『探偵』を追うシリーズ第一作。

北山猛邦独特の終末的世界観が存分に生かされた作品。非生産的で世界の終わりに向けてゆっくりと滅びていく世の中で、何のために生きるのか苦悩するクリスの描き方や、トリックと作品設定をコラボさせた終盤の演出は見事。
本格としてはさほど意外なトリックでも結末でもないが(その上バカミス)、ある工夫によって綺麗にまとめ、すがすがしい読後感を演出している。何より、読んでいて面白かった。「ミステリ」そのものをテーマにするところは、いささかご都合主義的でもあるが、そのメタ的な部分を肯定的にとらえることもできる。
いずれにせよ、北山作品の中でも指折りの名作であることは間違いなく、続編(出る出るといわれていながら7年が経過)に期待したい。果たしてこの世界観を何処まで広げられるか、今こそ作家の力が示される時だ。

No.5 6点 『クロック城』殺人事件- 北山猛邦 2014/02/09 14:06
過去、現在、未来を指し示す三つの大時計を有する「クロック城」で行われる不可能殺人と世界の終幕を描く。メフィスト賞受賞作。
世界の終わりという設定や、人面樹、壁に浮き出た顔などの毒々しい設定はそれなりの効果があったように思える。実に著者らしい世界観で、デビュー作においてもその個性が良く出ている。しかし、その設定がストーリーにつながらず、蛇足となっているのは残念。消化不良は命取りとなる。
そして本題の、不可能殺人。ノベルス版で袋とじにされたメイントリックは、「衝撃」とまではいかないがオリジナリティがあって良かった。また、首切りのホワイも傑作。ただ、ここまで来ると内容の複雑さにトリックが埋もれてしまうように思う。
また、結末にも疑問が残る。解決編以降はストーリーの展開が混沌として、明快な結末といえるかどうか微妙。北山作品の特徴でもあるがこの部分は好き嫌いが分かれるだろう。ただし、本格ミステリとしてはかなり気合が入っている。
ところで、通常時計の「4」の文字は「Ⅳ」ではなく「Ⅰ」を四つ並べた「IIII」ではないだろうか。

No.4 6点 ダンガンロンパ霧切2- 北山猛邦 2014/01/26 13:04
シリーズ第二巻。廃墟となったノーマンズ・ホテルに集められた霧切たちは、次なる黒の挑戦、「探偵オークション」に挑む。
ページ数も前作の二倍ほどになり、登場人物も増加、いよいよ本格的になってきた。本作は作中で描かれる「探偵オークション」とホテルで発生した殺人の二つが見どころ。さらには登場人物たちそれぞれの思惑もあり、かなり複雑化している。メイントリックではストレートな物理トリックが使われ、ファンとしても期待通りだった。
しかし、本来綿密にたてられているはずの犯行計画が思いのほか杜撰であり、結末も少し強引なものになっている。まさしくこれが三巻への伏線だと考えられるのだが、果たして今後、「探偵図書館」と「犯罪被害者救済委員会」はどうなるのだろうか。また、ストーリーの特性上、特殊ルールが膨大で面倒である。やはり、詳しい評価をするには三巻を待つほかない。

No.3 5点 ダンガンロンパ霧切1- 北山猛邦 2013/12/28 18:51
ゲーム「ダンガンロンパ」の登場人物・霧切響子の過去のストーリーであり、「物理の北山」が描く本格ミステリ。本書にはゲームのネタバレがあるので注意。

雪の降るシリウス天文台にて殺人が起こる吹雪の山荘もの。オリジナルキャラクターとして女子高生探偵の五月雨結が登場し、本格らしい作品になっている。原作ファンなら大概楽しめるはず。「探偵図書館」なんていかにも。
「ダンガンロンパ」の雰囲気と北山氏の世紀末的な作風が融合していいコラボになった。推理小説としては大それたトリックはなく、目立ったところはないが、「2」に期待。
ところで、自分は天文が好きなので真面目な天体観測の話が面白かった。でも大口径のイメージがわかないと微妙だろうな…

No.2 8点 『アリス・ミラー城』殺人事件- 北山猛邦 2013/12/25 14:36
『城』シリーズ三作目。ルイスキャロルの「アリス」とクリスティの「そして誰もいなくなった」を題材にした作品。

メイントリック(ネタバレはダメだけど、某名作と似てる)は好き嫌いが分かれるところ。「フェアかアンフェアか」の恒例の論争になりそうだが、そもそも読者にとっては架空の世界の証拠なんて何の意味も持たないのだから、ある程度の伏線がはってあるならこの論争は不毛。ただ、いわゆる「吹雪の山荘」の中でも特殊な類に入る作品だからこういう実験的な試みもありだと思う。演出は、もう少しこだわってほしかったが。
著者ならではの物理トリックは好調で、ダイナミックに仕掛けてきた。序盤で出てくる「物理トリック談義」も面白かったが、やはり、クライマックスの推理で「アンチ物理」的な内容が出てきたことは推理小説としての大きな飛躍だ。物理を追求してきた著者の、一つの結論ともいえるかもしれない。
しかし、物語としてはまだ描き足りないところがあるし、何よりこれはかなり上級者向けだ。(動機が論外なのもまた事実だが、じゃあ、もっとまともな理由を思い付くかといわれてもそうではないだろう。これがミステリの限界なのだろうか。)自分が探偵だったらもっと楽しく読めたかもしれない。
もちろんミステリの初心者も読んではいけない。まずはクリスティの「そして誰もいなくなった」、しばらくしたら変化球の「『アリス・ミラー城』殺人事件」を。

No.1 6点 『瑠璃城』殺人事件- 北山猛邦 2013/12/21 11:54
『城』シリーズ二作目。世界を股にかけて運命と生まれ変わりを描く本格ミステリ。
最初は多発する不可能犯罪に魅せられたのだが、少し考えればわかってしまうトリックだった。内容がストレートだったし、展開に意外性はない。ただ、ここまで物理トリックに情熱をささげる人は少ないからその点では凄い。バカミスっぽい点もあったが、一応の補足はあったので納得。
一方、生まれ変わりという特殊ルールは複雑で、フェアプレーぎりぎりのラインになっている。このネタならもう少し内容を膨らませても良かったかもしれない。
良かった点は、探偵のスノウウィをはじめとするキャラが個性的で、物語としての展開はよく出来ていること。特にクライマックスのあの展開は予想できなかったため、首切り死体が大量に登場した割に読後感がいい。

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アイス・コーヒーさん
ひとこと
本格ミステリが大好物ですが、国内海外ともにいろいろ読んでいます。拙い文ですが、参考にしていただけると幸いです。
採点は絶対評価なのであてにならないと思います。
好きな作家
クイーン、クリスティ、綾辻行人、泡坂妻夫、島田荘司、麻耶雄嵩、北山猛邦…
採点傾向
平均点: 6.50点   採点数: 162件
採点の多い作家(TOP10)
北山猛邦(11)
エラリイ・クイーン(9)
泡坂妻夫(8)
麻耶雄嵩(8)
綾辻行人(8)
七尾与史(7)
米澤穂信(6)
島田荘司(4)
東川篤哉(4)
殊能将之(4)