皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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アイス・コーヒーさん |
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平均点: 6.50点 | 書評数: 162件 |
No.8 | 7点 | さよなら神様- 麻耶雄嵩 | 2014/11/30 15:05 |
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「神様ゲーム」の続編となる連作短編集。久遠小学校に転校してきた神様、今度は文武両道イケメン超人として登場する。自ら「神」だと名乗りクラス中から熱狂的な人気を得る彼に、久遠小探偵団の桑町淳は殺人事件の犯人を訊ねる。
「犯人は○○だよ」の言葉から始まる本作は、途中までその特殊設定をいかした正統派本格ミステリとして描かれる。ただ、「神様ゲーム」があれだけの破壊力をもった問題作だったこともあって、少し大人しすぎるように感じてしまうのだ。 しかし、「バレンタイン昔語り」から一気に麻耶らしさを発揮し、読者の予想をはるかに超えた驚異の展開を繰り返してラストに至る。読後の衝撃は「神様ゲーム」にも勝るとも劣らないものだ。この極端なロジックやアンフェアぎりぎりの推理は麻耶雄嵩にしか書けないものだろう。 また、そのミステリとしての構図に「人間を翻弄する神と、その神をもあざとく利用する人間」という壮大な構図を盛り込んでいるあたりも天才的。主人公の淳は、前作の芳雄とは別の形で大人になるということか…。 ここまで破天荒だと、最早作中の小学生たちのリアリティなどどうでもよくなってくる。2014年の新刊でも一番に推したいクオリティだった。 |
No.7 | 8点 | 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 | 2014/10/06 11:19 |
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ぼく、黒沢芳雄は〈浜田探偵団〉の一員として連続猫殺しの犯人を追っていた。そんな時に出会ったのが鈴木太郎。自らが「神」だと主張する彼とぼくは神様ゲームを始めるが…。
全知全能、唯一無二の神様が登場して事件を解決する麻耶作品の中でもトップクラスの問題作。児童向けのレーベル、ミステリーランドから出版されながらもそのブラックすぎる内容から「子供に読ませたくない児童書」として悪名が高い。 本作では「人間社会の闇」の部分を白日に晒し、純粋な子供に見せつける試みが随所に見える。それ自体はかなり悪趣味な行為で、確かに子供に読ませたくない。 しかし、この本の内容が優れているのもまた事実だ。密室状況の現場やアリバイトリック、解決のロジックに至るまでかなり作りこまれているのは安定の麻耶クオリティ。さらに最初から最後まで(大人でも)驚かされっぱなしの奇抜な展開。凄すぎる。 大人が読んでもかなり衝撃的な内容だが、作中の芳雄や読者の小学生にとっては強烈過ぎる一冊だ。グロテスクな猫殺しの真相もさることながら、神様の天誅や、ロジックの導き出した意外な犯人、そしてあの結末…。 本作の肝は、これを読んだ大人が「子供に読ませたくない!」と感じることにあるのではないだろうか。いくら麻耶氏でも、この本を子供に読ませてトラウマを植え付けるような悪趣味な目的はないだろう。というか、そう願いたい。大人になったかつての子供たちに社会の残忍さを再認識させる一冊なのだとそう解釈しよう。 芳雄がその後どういう人生を送ったのか、気になるところだ。 |
No.6 | 9点 | 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 | 2014/08/08 10:13 |
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本格ミステリ界の異端児にして数々の問題作を世に送り出してきた著者の、最大の問題作にして最高傑作とも呼ばれる第二作。シリーズ探偵のメルカトル鮎、後の作品に登場する如月烏有たちが登場する孤島クローズド・サークルものだが…。
「翼ある闇」をはるかに凌駕するスケールと(色々と)驚愕の結末で賛否両論、空前絶後の問題作だ。700ページを超える分量を読まされてあの結末では確かに怒り出したくもなるだろう。 キュビズムに関する膨大な説明、謎に包まれた如月烏有と舞奈桐璃の過去、真宮和音と彼女を信仰する人々の狂気…そして雪の密室と連続殺人が重なる展開は前作に引き続き装飾過多だ。文章も長ったらしくて目障りではある。 しかし、古今東西の本格に対するオマージュも随所に見受けられ、麻耶氏が正統派の血を受けたうえでこの本を執筆していることも察することが出来るだろう。ペダンチズムも全く関係のないわけではなく、むしろ本編に深く関わってくる。 雪密室の真相は「翼ある闇」の首切りをですら可愛らしく見えるほどのとんでもないもので、最早まともな解決を期待する方が間違っているように思えてくる。これから読むという物好きな人物もその点に注意しなければいけない。 そして、メルカトルのもたらす「解決」とは…。もう一歩で見事に「本格ミステリ」らしい結末を迎えるというのに敢えて拒否していく天邪鬼な姿勢には、まさしく本作の主題が現れているように思う。背後から迫る底知れない狂気と本格ミステリの存在意義を、見事に掛け合わせた傑作と表現することもできる。一方でわけのわからない御託を並べて装飾しただけハリボテとも云えるだろう。 これまたネタバレになってしまうので深くは語れないが、本作の評価はそのハリボテの背後に何を感じるかで変わってくるだろう。何も感じなければ最低最悪の烙印が、何かを感じれば世紀の大傑作の賛辞が。 たとえ訳が分からなくとも、自分なりに本作のことを考えてほしい。その上で何も感じるところがなかったのなら、それはそれで一つの感想だろう。私的には後世に伝える価値のある名作だと思っている。 |
No.5 | 7点 | メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 | 2014/07/20 12:52 |
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メルカトルと美袋による連作短編集。どれも破壊的なトリックと結末が仕掛けられた異色作だ。
「メルカトルと美袋のための殺人」に比べると各々のストーリーの奇抜さは薄れるが、一方短編集としての完成度は高くなっている。中でも気に入ったのは「九州旅行」だが、ロジックの独創性としては「収束」も傑作。 読み終えてみると、つくづくメルが「真相を究明する名探偵」ではないことが分かる。作中で本人が語っている通り「不条理を不条理でなく」する「銘探偵」なのだ。(「答えのない絵本」では必ずしもそうとは云いきれないが。) 「死人を起こす」でも「答えのない絵本」でも、メルは自分の依頼に関して最前の解決を導いている。彼にとって真相を究明することが解決なのではなく、事態を収束させることが解決なのだ。そのためには手段を選ばないし、納得のいく結末も放棄する。 また、相変わらずロジックに重点が置かれているところも好感が持てる。内容が内容だけに気やすくおすすめ出来る本ではないが、メルカトル入門書としては悪くない。 |
No.4 | 8点 | 螢- 麻耶雄嵩 | 2014/05/11 13:12 |
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十年前に大量殺人が起こったとされる山奥の館「ファイアフライ館」。螢をイメージしたその館で、殺人事件が発生する。事件の裏には凶悪殺人犯のジョージが関わっていた。
麻耶雄嵩のノンシリーズ長編。中盤ではかなり地味な展開で、少し退屈していたが…、本作も麻耶雄嵩にしか書けないミステリだった。 全編を通して「館」シリーズのような印象を受ける。学生たちが集まった奇妙な館で殺人が起こる、典型的なパターンだ。従って、中盤までは既視感とわざとらしさで退屈に過ぎていく。 しかし、終盤に差し掛かると「意外な事実」が次々と判明し怒涛のクライマックスへ…。奇怪な幕切れも見どころである。 本格ミステリとしてはかなり複雑な部類に入る。読了後もよくおさらいをしないと、真相を理解することはできない。なぜなら、真相とトリック、物語が密接に関係しているからだ。「論理の為の物語」であり、「トリックの為の論理」であり、「物語の為の論理」になる円環構造はかなり特殊だ。 難点は、「難解であること」、「螢と本編の関係性が薄い事」、そして何より「中盤までが退屈なこと」。また、メルカトルのような超越的存在が登場しないというのも残念である。しかし、本作が傑作であることもまた事実だ。 (以下ネタバレ) 本作には二つの叙述トリックが使われている。一つは語り手の誤認に関するアレだが、これは比較的簡単に気付くことが出来る。麻耶氏は、このトリックによって長崎の人格崩壊を描写したかったのだろうか。 もう一つはいわゆる逆叙述。著者が著者だけに警戒はしていたが、それでも不意打ちだった。伏線はいくつかあるが、最大のものはイニシャルだろう。(登場人物のイニシャルがS・S=佐世保佐内、H・H=平戸久志となっている中で松浦のみがM・C=松浦千鶴となっていた事。松浦将之だとM・Mになる。)苗字の共通点(長崎か石川の地名)とこれには気づいていたが、まさか手がかりだったとは。 また、本書が加賀螢司の交響曲と同じ展開だったことも著者のこだわりある演出の一つだろう。 |
No.3 | 7点 | メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 | 2014/04/14 18:36 |
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悪徳銘探偵メルカトル鮎が、ワトソン役の美袋三条を引き連れてひたすら暴れる短編集。メルは自らを「長編に向かない探偵(天才すぎて長編のように推理を引っ張ることが出来ない)」と称しているが…。
メルが書いた犯人当て小説の顛末を描く「ノスタルジア」が群を抜いていたように思う。メルカトル的とでもいうべきか、メタミステリの色が濃く、尚且つ本格の論理を皮肉った問題作である。ラストの「これでもか」というほどのどんでん返しは、一見の価値がある。 それ以外にも灰汁が強い(ブラックな)ストーリーが多いが、一方で論理がよく出来ていることには感心させられた。「シベリア急行、西へ」などは、疑問点が残る結末ではあるが、直球勝負だといえる。 そして、本作最大のテーマはメルと美袋の特殊な関係だろう。『翼ある闇』で登場する、木更津×香月の奇妙なホームズとワトソンの前例はあるが、メルと美袋の関係も独特で異常だ。メルカトルに散々な目にあわされ、挙句の果て殺意まで抱くようになる美袋だが、結局はメルに頼らなくてはならなくなる。一方のメルは、全知を自称しその内面は全く謎に包まれている。彼らの関係は、一体どうなるのだろうか? 総合的に満足な作品だった。 |
No.2 | 6点 | 貴族探偵- 麻耶雄嵩 | 2014/03/27 15:49 |
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貴族探偵は捜査ばかりか、推理・犯人の指摘まで召使任せの奇抜すぎる「名探偵」。本人曰く、「あくまで召使は探偵の所有物だから問題ない」らしいが…。連作短編集第一作。
短編の内容は、相変わらず麻耶作品らしいもの。「ウィーンの森の物語」は単純なフーダニットだが、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」や「こうもり」のトリックはストレートだが独特。特に「こうもり」は読者の裏の裏をかくような話で、認めない人は断固認めないだろう。(これは「貴族探偵」全般に言える。) 「加速度円舞曲」は純粋なパズラーで意外性はなかったが(オチが読めたが)、論理の強固さに驚かされる。「春の声」は………「不可能を除外したときに残ったものが、たとえどんなに信じられないものでも真実」の言葉通り。ネタ自体は古典的なものだが、ある意味で麻耶作品を受け入れることが出来るかの指標になる作品。 そもそも、「推理どころか何もしない探偵」という設定自体がアンチミステリ的で賛否が分かれるだろう。しかし、(私個人の意見として)「貴族探偵」がなぜ「探偵」なのかといえば、ただ「貴族」だからではないだろうか。 |
No.1 | 8点 | 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件- 麻耶雄嵩 | 2013/11/20 17:43 |
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巨大な城で次々と殺されていく今鏡家の人々。名探偵の木更津は解決を試みるがうまくいかない。謎が謎を呼ぶ事件の中、もう一人の探偵・メルカトル鮎が現れ、事件は怒涛の推理劇となっていく。著者デビュー作。
明らかに好き嫌いが分かれる作品だ。まず、思いっきりミステリファンのために書かれた作品なので、初心者は手を出さないことをお勧めする。メインのトリックにも「は?」と、なってしまうしアンチミステリというものに馴染めないだろう。普通のミステリではない事を承知していただきたい。 本作はアンチミステリの部類に入ると同時に、新本格の影響を色濃く受けた作品だ。この点は文庫版解説に詳しい。推理に次ぐ推理、事件の連続、否定と死の繰り返しは「虚無への供物」を思い出させる。ページからは殺人者の悪意だけが伝わってきた。 ブラックユーモアが多く、殺人も残忍。密室トリックも肩すかしに近い。しかし、所詮本格ミステリは分からなかった読者の負け。どんな結末であってもそれはそこに存在するのだ。 個人的にはどこかこころ惹かれるものがあった。いくつかのシナリオに気にいらない点があるが… |