皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ボンボンさん |
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平均点: 6.51点 | 書評数: 185件 |
No.16 | 8点 | 希望荘- 宮部みゆき | 2019/02/24 22:59 |
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長編3作をかけた長い長い助走の時代を経て、ついに「私立探偵」杉村三郎の誕生である。
これまでのように偶然事件に巻き込まれてしまう一般人としてではなく、調査会社の下請けで調査員をしながら「探偵事務所」を開業し、探偵として、着手金5,000円で(ことによってはタダで)人探しなどを請け負うのだ。そこに至るまでの経緯も丁寧に物語られて、大河ドラマは続いていく。 今後は、事件ごとの中・短編になるようだ。 本作4編の調査依頼は次のとおり。 『聖域』:ご近所のアパートで亡くなったはずのおばあさんを街で見かけてしまった。これってどいうこと? 『希望荘』:老人介護施設に入居していたおじいさんが亡くなる前、「昔、人を殺した」と言っていた。真相が知りたい。 『砂男』:蕎麦屋夫婦の夫の方が突然の家出。妻は「夫は不倫をしていた」と言うが、どうも様子がおかしい。どうなってるの? 『二重身(ドッペルゲンガー)』:東日本大震災のその日、東北の方に出かけていたと思われる行方不明の商店主を探してほしい。 呑気な日常の謎だと思ったら大間違い。ご近所さんや知り合いの知り合いに持ち掛けられるちょっとした人探しや調査モノから、宮部みゆきワールドのとんでもなく複雑な人間ドラマが掘り出され、結構な大事件として解決していく面白さ。 特に表題作の「希望荘」は、杉村探偵の地道な聞き込みと観察力が活きて、見事な解答にたどり着く良作だ。 |
No.15 | 8点 | ペテロの葬列- 宮部みゆき | 2018/12/18 22:35 |
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衝撃的。このシリーズ、積ん読していた間にこんな大河な巨編になっていたとは知らなかった。
優しく生真面目な読み心地に反して、容赦ない人生活写のオンパレード、いや葬列。 「火車」や「理由」に連なるような堂々の社会派であり、心をつかんで放さない幾つもの謎とそれを追う熱い<私立探偵>の物語でもある。その上に、シリーズとしてのドラマも最高潮に盛り上がってしまうのだからとんでもない。 しかし、先に「誰か Somebody」と「名もなき毒」を読んでおかなければならないので、本作にたどり着くまでの道のりは長い。前2作ともかなり地味だし、続編が出ても何となく後回しにして今まで手が出なかった。あー、思い切って読んで本当によかった。 |
No.14 | 6点 | 東京下町殺人暮色- 宮部みゆき | 2018/11/27 22:38 |
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再読。
プロローグの印象が強く、その部分だけよく覚えていた。のどかさとグロテスクの対比が宮部さんらしい。映像的で鮮烈な掴みだ。 その他はすっかり忘れていたが、少年犯罪や戦争の記憶など、意外に深刻なテーマを扱ったものだった。 「そういう少年たちを育ててきたのは、我々の世代ですよ」と書かれてから、もう30年近く経つ。時代は巡り「そういう少年たち」が今まさに親の世代ですよ、宮部先生。感慨深いなあ。 「刑事の子」の別題で中高生に読んでもらうのに相応しい作品ではないだろうか。 |
No.13 | 5点 | とり残されて- 宮部みゆき | 2017/01/04 23:23 |
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霊や死者にまつわる短編7つだが、各話工夫されているので、純粋な幽霊話は一つ二つのみ。謎めいていて、意外な展開が待っている。一見、宮部みゆきの心和む人情モノかと思わせて、実は黒く辛い話ばかりだ。
最終話の『たった一人で』などは、相当ぶっ飛んでいて、少し演劇の台本じみた読み心地。一つ選ぶとすると『おたすけぶち』が眉間にしわが寄るような結末で面白かった。 現在の宮部みゆきに比べると、まだまだ若いというか、挑戦的な意気込みはあるが、時代風俗的に微妙に中途半端な古臭さを感じてしまう。それは仕方ないか。 <再読> 20数年前に読んだはず。しかし、表題作『とり残されて』の設定以外、ほとんど覚えていなかった・・・。 |
No.12 | 9点 | あやし~怪~- 宮部みゆき | 2016/11/27 23:32 |
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鬼になってしまった人、或いは何食わぬ顔で人の間にいるモノを垣間見る九つの噺。密やかに、早口の小声で語られるような雰囲気を持った時代物の短編集だ。
最後の2話に政五郎親分が登場するので、宮部さんの本所深川の世界では、回向院の茂七親分の次の世代、『ぼんくら』シリーズのあたりのお話になる。 同じ怪談奇談の短編(連作含め)でも、宮部さんの最近の作である『三島屋変調百物語』シリーズだと一話一話がかなり壮大な展開になるが、比べて、初期の『本所深川ふしぎ草子』から本作くらいまでは、小さく引き締まった作風。そのなかでも研ぎ澄まされた緊張感と怪異度では、本作が頂点ではないかと思う。 怖ろしいものが直撃してしまうと惨劇になるが、遠目にぽつりと視えたり、すれ違いざまに自分だけ気付いてしまったり、というのも相当怖い。そんなときは・・・・。 「やっぱり、知らん顔しておくのがいいんじゃねえかな」(最終話『蜆塚』より) ※再読 |
No.11 | 8点 | 泣き童子 三島屋変調百物語参之続- 宮部みゆき | 2016/09/23 16:20 |
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変調百物語のシリーズ3作目。バラエティに富んだ6話が収録されている。
様々な事情を抱えたお客が持ち込む怪異話を聞き取るおちかだが、その様子もすっかり堂に入って、もはやカウンセラーの域ではないか。 どの話も一級品で、6話の短編ではなく、しっかり6冊の本を読んだような感覚になる。 特に、『泣き童子』と『まぐる笛』の重厚さ、完成度の高さには感服した。どちらも結末の納め方が鮮やかで、すさまじい。 変わり種は『小雪舞う日の怪談語り』で、おちかが三島屋でお客を迎えるのではなく、よその怪談の会におよばれする趣向になっており、読んでいる方もよそ行き気分になれて楽しい。 『くりから御殿』は東日本大震災を受けての作品だろう。生き残った者が過ごした震災直後の日々の肌感覚がよみがえり、震えがきた。癒しきれる傷ではないけれど、それでもなお癒そうとする宮部さんの渾身の一作だと思う。 |
No.10 | 7点 | あんじゅう 三島屋変調百物語事続- 宮部みゆき | 2015/11/07 23:49 |
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4話ともずっしりと重い。一冊として読むのに少し疲れた。
人間の身勝手、心の中の”鬼”の部分を含めての世の中だ、そういうものも様々身に浴びて、人とかかわっていくことで一人前になっていくのだ、というテーマがよりはっきりし、本シリーズの世界観が落ち着いてきたようだ。 どの話もいいが、特に表題作の「あんじゅう」は、なかなか奇抜な思い切った設定。くろすけの手触り、リアルな質感がすごい。結構荒唐無稽なのに深く納得でき、上質な余韻を残す。 |
No.9 | 7点 | おそろし 三島屋変調百物語事始- 宮部みゆき | 2015/11/02 16:34 |
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久々に怖い思いをした。これを百物語の初めの五話と言ってしまうのか。一話一話が重大すぎるだろう。
悪人ではないはずの普通の人が、結果的にひどい悪事を働き、取り返しのつかない悲劇を生んでしまう。悪いことをした人の側から見た、ことの経緯、心情というのは、確かに理屈があって、それはそれで憐れなものだとは思う。しかし、作品の中でも問い返されているように、では、何の咎もない被害者の立場は? ということで、シリーズは続く。 ※「あんじゅう」を読み始めようとしたら、「おそろし」の記憶が曖昧になっていたので、まず再読。 |
No.8 | 8点 | ばんば憑き- 宮部みゆき | 2015/08/04 00:15 |
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全く趣の違う6話の江戸の「ホラー」短編集。
趣向は違っても、どの話にも子どもからせいぜい10代の若い人たちがポイントとなって登場する。それがせつなかったり、可愛かったり、健気だったり、愉快だったり。 「百鬼夜行抄」(今市子)もびっくりの妖怪や物の怪が思い切りよく出てくる話が多いが、一番怖いのが人間の心理劇だったりする。 どの話も何度も読み返したくなる味わいがある。 ※「ばんば憑き」を改題した角川文庫の「お文の影」を読んだ。 |
No.7 | 6点 | 小暮写眞館- 宮部みゆき | 2014/12/23 09:30 |
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恋の話だった。宮部みゆきが書くとこうなるのか。ホラーなミステリも、宮部さんが書くとこうなるんだ。理不尽に辛いことがあっても前向きに温かく。
今回のアイテムは、写真と電車と映画とマラソンと・・・ほかにも随分いろいろ詰まっていて楽しかった。 キャラクターでは、テンコが魅力的。この人の心情は、ほとんど説明されないけれど、読む側でいろいろ推察できて深い。 やはり文章が巧くてスルスル読めてしまうので、とても良い作品なのに、爆発的な高得点にならない、じんわり系。 |
No.6 | 7点 | ソロモンの偽証- 宮部みゆき | 2014/11/17 23:15 |
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こんな出来過ぎな中学生いるわけがない、大人でも無理、と判りながらも、はまってしまった。これだけ長いのに、読後も、その後どうなったのか、あの子はこの子はあの人はと、引きずらずにはいられない。いつまでもこの町の人々を見ていたい、終わってほしくない、中毒になる面白さ。
最初から最後まで引っ張る”真相”の魅力は当然のこと、数えきれないサイドストーリーの展開を操る宮部さんの力は、本当に果てしない。 人間万歳。 でも、宮部さんの作品は、”やさしい”ので、どうしても8点、9点、満点とはなりにくい。凄いのに満点にならないスゴさ。 |
No.5 | 6点 | 龍は眠る- 宮部みゆき | 2014/10/09 00:36 |
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再読。なのに、なんとすっかり内容を忘れ去っていたことに驚く。
後の”能力”ものの表現の巧みさが凄過ぎるので、それに比べると、本作は意外とリアルさに欠けていたかな。そこが眼目なのに残念。”移動”するやつは、このお話では、いらなかったのでは。 それでも、やっぱりスリリングな展開はさすがです。挿話もキャラも盛りだくさん。七恵さんが、いい。 |
No.4 | 6点 | 魔術はささやく- 宮部みゆき | 2014/10/02 22:25 |
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十数年ぶりの再読。
こんなにきれいにまとまった名作だったかと改めて驚きました。 どうも「鍵」の知識の印象ばかりが強く、そればかり頭に残っていたのですが、やはり読み直しても、私は、皆さんがおっしゃる”魔術”よりも、こっちのほうが都合良過ぎるように思います。 それでも、展開の分からないサスペンスぶりと、人間ドラマの読ませ方は流石です。数本のドラマが無理なく合流していて、最後の最後に、主人公の心を大きくゆすぶる話をまだ残しているのだから、宮部さん、並大抵の筆力ではありません。 |
No.3 | 9点 | ぼんくら- 宮部みゆき | 2012/11/25 11:24 |
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江戸の人たちが本当にそこに居るようだ。実際に饅頭を食べようと開いた口や、ゴロンと寝っころがった畳が擦れているのや、向こうの角を急いで駆けていく人が上げた砂煙なんかを目の前に見ているようなリアルさは相変わらず。
大勢の人の人生が大きく動くわりには、その核になる原因が、ちょっと小さいような、アンバランスな感じを受けるが、続編を読み進めれば、それは解消されていく。 大作、傑作、ではあるけれど、多彩な登場人物の軽妙な掛け合いで、ぽんぽん進んでいき、宮部みゆきらしく、無理なく、楽しく読める。 |
No.2 | 7点 | 名もなき毒- 宮部みゆき | 2012/01/29 22:52 |
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"毒"なので変に広がって、犯人とその恨みの対象と実際の被害者がずれていく。
犯人たちの心情が、どこまでも憐れで救われない。 理屈どおりに「こうだから、こうなった」という単純明快なことは一つもなく、地味だけれど恐ろしい、思うに任せない日常の現実が書かれている。 |
No.1 | 3点 | チヨ子- 宮部みゆき | 2011/12/26 19:08 |
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宮部みゆきを読んで、はじめて面白いと思えなかったので、逆にショックを受けた。も、もう一度読んでみたら違うかもしれない、と焦るほどに。特に「聖痕」が怖かった。 |