皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ボンボンさん |
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平均点: 6.51点 | 書評数: 185件 |
No.11 | 7点 | 親不孝通りラプソディー- 北森鴻 | 2019/12/02 00:18 |
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前作の「親不孝通りディテクティブ」でも断片的に匂わされていた、テッキとキュータの高校時代の事件。予想外に壮大なギャング小説(?)だったのでビックリだ。
今回は作者が得意とする連作短編ではなく、かなりページ数のある長編なので、前作より読み心地の切れは鈍るが、その分大ネタがてんこ盛りでストーリーに厚みはある。 舞台は1985年。懐かしの小道具や世相が話の展開によく活かされている。 皆、基本的に悪いことしかしないし、とにかくキュータの部分はほとんどお笑いなので、漫画のようにドキドキワクワクと読むのが良いだろう。こんな高校生あり得ないのだが、ぶっ飛び過ぎていて、もはや爽快。 解説の近藤史恵さんが「少しやんちゃで、人懐っこくて、お酒と冗談が大好きで」、他の作品に比べこの小説が、北森鴻さん本人の顔に最も近いというようなことを書いていたので、ジンときた。 |
No.10 | 7点 | 親不孝通りディテクティブ- 北森鴻 | 2019/11/18 12:24 |
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博多と言えば、屋台と裏社会(?) そこを舞台にした、テッキとキュータの何とも魅力的なコンビによる軽ーいハードボイルド、コミカルでダサかっこいい探偵ごっこだ。博多弁が全編の雰囲気を支配していて、読後も頭にこびりついて離れない。
後は読者のご想像にお任せ、といった感じの書き方が洒落ていて、テンポよくサクサクと読めるのだが、ストーリーそのものは、重く切ない。特に最終話の結末は、よかったなあ。 この作者の小説世界は、いつもどこかでつながっているので、親不孝通りの登場人物もまた、他の作品に登場するらしい。 もう続きが書かれることのない北森作品だから、少しずつ大事に読み進めたい。 |
No.9 | 6点 | 虚栄の肖像- 北森鴻 | 2017/11/05 18:14 |
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情念渦巻く暗い話で、あまり好みではないのだが、きちんとした大人の作品だと思う。絵画修復に関する驚くほど深い知識に裏打ちされた謎の仕掛けが物珍しく目を惹く。また、絵画や骨董の世界には、こういくこともあるのだろうなと思わせられるような裏社会に絡むサスペンスも見どころだろう。
シリーズ前作の『深淵のガランス』から続く物語は、まだまだこれから展開していく気配を感じさせるが、もう続きが望めないのが本当に残念。 愛川晶氏による文庫の解説に、作者の北森鴻さんが亡くなった時のエピソードがあり、涙なしには読めなかった。 |
No.8 | 8点 | 深淵のガランス- 北森鴻 | 2017/09/04 00:25 |
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なんとも魅力的な絵画修復の手業だが、その本来の仕事の枠を大きく逸脱して、深く謎めいた世界を見せてくれる。著者がきちんとした知識と美意識を持って書き込んでいるので、あり得ないのにリアルな人物や舞台をすんなり受け入れながら、物語に集中できる。かなりの上級編。金や情で蠢く人々の間を、阿修羅像を白くしたような複雑さを持ちながらも真っすぐに進んでいく探偵役・佐月の人物造詣が素晴らしい。 |
No.7 | 8点 | 香菜里屋を知っていますか- 北森鴻 | 2017/06/17 17:39 |
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『終幕の風景』のラストは、もう本当に堪らない。終わってしまった。
自分の生活の中に香菜里屋があったような、それを失ってしまったような感じ。解説の中島駆氏が「リアリティが魅力」とおっしゃるとおり、このシリーズ独特の感覚だ。 各話で描かれる人々の旅立ちは、確かな前進としての別れであるというのに、こんなに悲しいのは、やはり北森鴻氏がもういない、ということをいちいち思い出してしまうからだ。 しかし、そういったことを抜きにしても、本作はシリーズ中最高の出来だろう。絶好調だ。ミステリとしては特に、老バーマンの洒落た幕引きを描く『ラストマティーニ』が良かった。 |
No.6 | 6点 | 共犯マジック- 北森鴻 | 2017/06/10 16:26 |
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(ネタバレ気味)
蜘蛛の巣のような共犯関係がすごい。いや、それよりも、戦後昭和史の犯罪部門、全部自分がやりましたという勢いの大胆さがすごい。あまりにやり過ぎで、笑ってしまうほど。レディ・ジョーカー級の超大作な原材料で、文庫で約270ページしかない短編集を創るというのもまた個性的。復讐とか報いとか、八つ当たりみたいなのも含め、暗い感情しか出てこないので、読後に残るものが少ないかな。しかし、徹底して全ネタをつなげきった構成力には拍手を。 |
No.5 | 5点 | 螢坂- 北森鴻 | 2017/05/28 17:25 |
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この作者特有の凝り過ぎ、ひねり過ぎが目立つが、雰囲気作りが巧いので、しんみりと落ち着いて読める。しかし、『双貌』は、やり過ぎではないか。作中作と外枠のバランスが極端で、一読で構成がつかめないほど分かりにくい。どの話も面白いのだが、謎を持っている人たちの言動がやたら遠まわしで、普通そうはしないだろうということばかりするからしっくり共感できない。それでも、レギュラーメンバーがお馴染みのノリを見せてくれると安心してスラスラ読めてしまうのだが。
ああ、次でシリーズ完結だ。どんなふうに終わってしまうのか。今からもう寂しくなっている。 |
No.4 | 7点 | メイン・ディッシュ- 北森鴻 | 2017/05/06 10:13 |
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ずるいとか、それはおかしいとか、四の五の言わせない、自信に満ちて力強い連作の進行。構成がとにかく面白い。
これはやはり、迷探偵の役どころである劇作家・小杉隆一の破壊力によるところが大きい。彼の脳内には、材料も正解も既にあるのに、真の探偵ミケさんに整理してもらわないと、実は自分が判っているという自覚すらない、ってところが最高だ。混沌の中から、「見えた」という瞬間が来る感じ。ギャグマンガのノリそのものの人物だが、ジタバタ空回りしたり、顔に死相が出るほど苦しんだりしながらも、ぎりぎりでなんとか皆を魅了する作品を生み出していく姿は、作家という人たちの日々そのものなんだろうと思う。 と、ちょっと話が本作の本筋から逸れたが、とにかく連作短編ミステリの妙技にぐるぐる引っ張りまわされ、楽しい時間をいただいた。 |
No.3 | 5点 | 桜宵- 北森鴻 | 2017/03/04 22:13 |
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ビアバー香菜里屋の連作短編第2弾。前作よりスッキリとまとまった連作らしさが出て、世界観が落ち着いた印象だ。名探偵役のマスターの工藤が言うとおり「歪んでいる」人たちがちょっとあり得ないことをやらかすのだが、あくまでも「日常の謎」の中からはみ出すつもりはないらしい。通報しなくていいのか、と思わないでもないが、徹底的に一般人で通す態度がいっそいさぎよい。
この作品の重要ポイントである工藤の出す料理や酒類の素晴らしさは、それを賞味し、ほーっと緊張を解く客の五感のレポートにより表現される。時々、謎の究明に緊張して温かいうちに折角の料理をいただかない人がいると、そっちが気になってしまう。もったいない。 |
No.2 | 6点 | メビウス・レター- 北森鴻 | 2017/03/01 20:45 |
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評価の高い「メイン・ディッシュ」を読もうとして、間違って「メビウス・レター」を買い、そのことに気付かないまま読んでしまった。「メ」と「・」しか合っていない。
がしかし、それほど悪くなかった。なかなかに頑張った力作だろう。 それほど長い作品でもないのに、とにかくトリックがモリモリに盛り込まれている。登場人物達も、5チームぐらい編成されていて、その対戦がとても上手に組まれているので感心するのだが、ちょっと複雑すぎるか。 ただ、もっと削ぎ落とせば良くなるのかといえば、そうでもない。ここまで過密に作り込まれていると、もうどこも外せないし、成立しなくなるのかもしれない。 青春のもの悲しさに気を取られるが、よく考えると殺し合いがすごい。おかしな人、または悪い人がどんどん殺し合った結果、「わからない、なにもわからない」に至って終わる救いの無さ。反則じみた設定のオンパレードだが、それに酔ったようにマヒして読むのが正解かもしれない。素面で「なにこれ、あり得ない」と思ってしまうとひとつも楽しめない。 |
No.1 | 5点 | 花の下にて春死なむ- 北森鴻 | 2017/01/28 17:32 |
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哀愁漂う大人の、ささやかな人生を切り取る短編集。ビアバーのマスターが、カウンターの中で客の話を聞いて様々な謎を推理するのが基本だ。
謎のネタを提供する常連客達は、結構な事件に直面したり、実際に探索に出かけたりもするが、解決編は、ビアバーで交わされる会話の中で終始するので、別にコトの真相が確認されるわけではない。あくまでも、こんな解釈もあるのでは、と人生を見つめ直す感じ。 見事なまでにフワッとした中途半端さで、一般人の域を決して踏み越えないのだ。大がかりな殺人系を含む、謎解きをメインにした作品でありながら、そこがなんとも新鮮だった。 ひねり過ぎがあったり、短い話の中に詰め込んだ複数の筋を強引につなげたりと、ぎこちない部分もあるが、全体に渋い雰囲気で読ませるので気にはならない。 自分としては、あまり共感するような事件はなかったが、全編を通し、客がマスターの人柄に頼り、癒されていく様子に心和んだ。 ああ、そんなことより、とにもかくにも、今すぐ冷えたビールが飲みたいな。 |