皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1148件 |
No.1028 | 8点 | エレファントヘッド- 白井智之 | 2023/10/26 22:22 |
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精神科医の象山は家族を愛している。だが彼は知っていた。どんなに幸せな家族も、たった一つの小さな亀裂から崩壊してしまうことを――。やがて謎の薬を手に入れたことで、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。
謎もトリックも展開もすべてネタバレ禁止!前代未聞のストーリー、尋常ならざる伏線の数々。多重解決ミステリの極限! (「BOOK」データベースより) 冒頭では家族思いの父として描かれていた主人公・象山晴太が「ヤバいやつ」と分かるや否や、物語はどんどんとんでもない展開に。時間遡行というSF設定に立ったうえで、その特性を生かした独特のストーリー展開と仕組みに引き込まれてしまう。エログロが適度に(?)ちりばめられており、作者の味がよく出ている作品である。 薬剤「シスマ」による時間遡行と人生の分裂を基盤としたミステリの仕組みは、やや複雑ではあったが非常に巧みに仕組まれていて感じ入った。さらにはその仕組みを生かした物語のオチにはゾッとさせられるものがあった。 昨年「名探偵のいけにえ」でミステリ界の認知度を一気に上げた、奇才・白井智之の衰えない勢いを十分に感じられる一冊だった。 |
No.1027 | 8点 | ヴァンプドッグは叫ばない- 市川憂人 | 2023/10/26 22:00 |
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現金輸送車襲撃事件への捜査応援要請を受け、出動したマリアと漣だったが、現地は警察と軍が総出で市を包囲する異常なまでの厳戒体制が敷かれていた。その真の理由は、20年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』の脱走。現金輸送車の事件との関わりも分からず捜査が迷走する中、近辺で『ヴァンプドッグ』の手口と同様の殺人が次々と起きていく―
マリア&漣が難事件に挑む、大人気本格ミステリシリーズ第五弾。 「咬まれた者がヴァンパイアになる」という、ゾンビの連鎖に似たSF要素を組み込んだ、ある意味特殊設定のミステリ。その設定を存分に生かした謎解きの仕掛けは、作者の卓越した技量を感じる。 言うまでもなく、設定に立ったうえで推理はロジカルに組み立てられており、物語終盤の、スケープゴートとされた教授の逮捕から一気に真相へと踏み込む件は圧巻だった。 マリア&漣 両キャラクターのコントラストによる相乗効果は相変わらず小気味よく、物語のリーダビリティに大きく貢献している。 シリーズ中でも良作に位置づけられる作品であることは間違いない。 |
No.1026 | 5点 | レモンと殺人鬼- くわがきあゆ | 2023/10/09 18:31 |
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十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行なっていたのではないかという疑惑がかけられるなか、妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑いを晴らすべく行動を開始する。2023年第21回『このミステリーがすごい!』大賞文庫グランプリ受賞作。(「BOOK」データベースより)
読者の想定をひっくり返そうとする姿勢は分かるのだが、人物像(評価)がくるくるとひっくり返される展開は、ちょっと「どんでん返し」を狙いすぎではないかとも感じた。そう感じるのは恐らく、その「ひっくり返し方」に丁寧さが欠けていて、何だかチープな展開になってしまっているからではないかと思う。ストーリーテーリング自体は魅力的で、非常に楽しく読み進められたのだが、終末にかけての展開が「怒涛」というよりは「乱暴」に感じてしまった所があった。 |
No.1025 | 6点 | ナイフをひねれば- アンソニー・ホロヴィッツ | 2023/10/09 18:23 |
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探偵ホーソーンを主人公としたミステリを書くのに嫌気がさした作家・ホロヴィッツは、その関係解消を彼に告げる。ところがその直後、ホロヴィッツが脚本を手がけた戯曲の公演で、その批評を書いた劇評家が殺害され、ホロヴィッツが最有力容疑者として逮捕されてしまう。「私を救ってくれるのは、あいつしかいない―」窮地に立たされたホロヴィッツは、結局ホーソーンに助けを求め、独自に事件捜査を進めることに―
殺害に用いられたのはホロヴィッツの短剣、現場にはホロヴィッツの毛髪、など、状況は不利なことばかり。ホロヴィッツを慕ってるんだかそうでないのかイマイチ読めないホーソーンが、関係者に聞きまわって情報を集め、最後に真相をスパークするのだが、とにかくその聞き込み捜査の内容自体は地味で、長く読んでいっても何も進展していないように思える。真相開陳の段になって、実はそこここに真相を示す手がかりがあったことが分かるのだが、その仕込み方の腕は認めるいっぽうで、途中で読者が推理する余地がないなぁとも思う。(私の推理力が低いだけなのだが)。 シリーズものとして、ホロヴィッツ、ホーソーンの人間関係が進展していく面白さはあるし、ミステリとしても普通に面白いとは思う。逆に言えば、特段秀でた一作ということにもならないかな。 |
No.1024 | 7点 | 処刑台広場の女- マーティン・エドワーズ | 2023/10/09 18:07 |
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ある殺人事件の捜査で、警察の捜査の誤りを正し、真犯人を明らかにした高名判事の娘、レイチェル・サヴァナク。物語は、そのレイチェルがある男性に殺人の自白を書かせ、自殺を強要する場面で幕を開ける。物語の主人公、「名探偵」役であるはずのレイチェルの犯罪めいた行為。この女は、名探偵か、悪魔か。読者を最後まで惑わせる、ダイヤモンド・タガー賞受賞作品。
というような始まり方なので、何が本当で何が誤りなのか、分からない不安定な心地で読み進めることになるが、それが功を奏している。実質的な主人公的存在、記者・ジェイコブ・フリントの目線がちょうどその読者目線と重なる感じで、リーダビリティに寄与している。随所で挿入される「ジュリエット・ブレンターノの日記」による企みは、聡明なミステリファンならら物語中盤くらいでうすうす気づくとは思われるが、それを見越してもなかなか読み応えのある一作だった。 |
No.1023 | 5点 | 8つの完璧な殺人- ピーター・スワンソン | 2023/09/30 20:45 |
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ミステリー専門書店の店主マルコムのもとに、FBI捜査官が訪れる。マルコムは以前、“完璧な殺人”が登場する犯罪小説8作を選んで、ブログにリストを掲載していた。ミルン『赤い館の秘密』、クリスティ『ABC殺人事件』、ハイスミス『見知らぬ乗客』…。捜査官は、それら8つの作品の手口に似た殺人事件が続いているというが…。ミステリーを心から愛する著者が贈る傑作!
(「BOOK」データベースより) 海外古典の有名作品のネタバレ満載のようなので、未読かつ読む予定の方は要注意。作者の魅力はサスペンス的な臨場感ある展開だと思っているのだが、本作はその点では期待とは違ったかも。さらに登場人物の関係性が少し複雑で、何度か巻頭の登場人物リストを確かめながら読む感じだった。 前半の終わりくらいから、主人公の内実が明かされることによって物語の展開が変わってくるのだが、そこから興趣がぐっと増した。ただラストの真相開示はそれほどの衝撃はなく、どちらかというと作者のミステリ愛を充溢させることに主がある作品という感じがした。 |
No.1022 | 7点 | 鵼の碑- 京極夏彦 | 2023/09/18 22:01 |
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古書肆の仕事で栃木県・日光に逗留する中禅寺秋彦に同行してきた作家・関口。宿泊するホテルで懇意になった男性に「部屋付きのメイドが、殺人の記憶を打ち明けてきた」と相談され、困惑する。同じ頃、薔薇十字探偵社の主任探偵・増田は、失踪人探しを依頼され、日光へ赴く。さらに麻布署捜査一係刑事・木場は、20年前に起きた「消えた三つの他殺体」の謎を解いてこい、と上司から私的な密命を受けてやはり日光へ―
全く異なる3つの場で立ち上がった問題が日光の地で融合し、絡み合った糸が京極堂の「憑き物落とし」で解きほぐされる― 長編はなんと17年ぶりの刊行。前長編「邪魅の雫」の巻末にはこの「鵼の碑」というタイトルは既に示されており、「今昔百鬼拾遺 月」の帯に「近日刊行予定」となっていたけど…。いやー京極先生の時間の感覚は我々一般人の理解は及びませんね 笑 今回は、日光に逗留している京極堂、関口、+榎木津チーム、失踪した薬剤師の創作依頼を受けて日光に向かった益田チーム、20年前の不審な「死体消失」の謎解明を命じられた木場、の三者がそれぞれの謎を追っていく様子が代わる代わる描かれ、次第に一つになっていくという構成。 相変わらず雑学、哲学論、蘊蓄が多い。始まって250ページぐらいはほとんどそれだと言っていい。今回は江戸末期の神道、理化学研究所による放射能研究あたり。まぁおそらく本作を読む読者はシリーズ読者だと思われるので、「ならではの味」として楽しめるだろう。刑事・木場のパートが一番そうしたこととは無縁で、ミステリらしい展開の部分。 3つのパートの調査が進展していくにつれ、少しずつ読者にも重なりが見えてくるとともに、20年前の事件の真相も読めてくる(感じがしてくる)。もちろん真相はそんな単純なものではなく、よく織り込まれたストーリーではあった。 ただ本作は結果として、過去にあった出来事の真相解明の物語で、作中現在(昭和29年)では何も起きていない。リアルタイムで事件が進行していき、不可思議性がどんどん高まっていく過去作に比べると、興奮度はそれほどという感触だった。 蛇足だが、またもや帯に「次作予定」が…(「幽谷響の家」)。さすがに「近日」とは書いていなかったが… |
No.1021 | 6点 | 白い衝動- 呉勝浩 | 2023/09/18 20:53 |
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スクールカウンセラー・奥貫千早が、「人を殺したい」という衝動をもつ少年の真摯な相談を受け止め、苦悩しながらも必死で対峙していく物語。
単なる衝動の制御を論じるのではなく、「加害衝動をもつ人間を社会で包摂する」ことをめざす千早の理念と、「隔離」「排除」を是とする社会的風潮との葛藤が大きな作品テーマとして流れている。そういう社会的な読み物として魅力を感じられる作品である。 後半、学園祭で起きたヤギ殺しの事件からミステリ要素も大きくなってきて、その真相も謎解きの形できちんと作られているが、全体としては上に書いたような「罪を犯す性質を内包している人間と、社会はどう向き合うべきか」を問う物語の色が勝っている。 とはいえ、面白かった。 |
No.1020 | 6点 | 罪の境界- 薬丸岳 | 2023/09/10 20:08 |
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浜村明香里は、彼氏との約束がキャンセルになった誕生日の夜、渋谷のスクランブル交差点で斧をもった男に襲撃された。「このまま死ぬのか…」と思った時、一人の男性が止めに入り、犯人ともみ合うった末絶命した。息絶える直前に「約束は守った…伝えてほしい…」と言い残して。自分の命を救ってくれた男性は、誰とどんな約束をし、伝えてほしいと思ったのか。体にも心にも大きな傷を負い、絶望の淵にあった明香里だったが、命の恩人のために立ち上がる―
あまりに理不尽な災禍に遭い、もとの日常に戻れない被害者の苦悩、家族の苦悩がよく描かれている。本筋は明香里を助けて死んだ飯山晃弘の「約束」を辿ることだが、一方で犯人である小野寺圭一の生育歴を辿る方のストーリーも面白い。 ミステリ、謎解きとしては取り立てて目を引く仕掛けではないと思うが、物語として興味を持って読み進める力は確かにある一冊だった。 |
No.1019 | 7点 | 世界の望む静謐- 倉知淳 | 2023/09/03 18:28 |
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「あなたのことは、最初から疑っていました」──漫画家を殺してしまった編集者、悪徳芸能プロモーターを殺めた往年の歌謡スター、裏切った腹心の部下に鉄槌を下した人気タレント文化人、勤務先の事務員の口を封じた美大予備校の講師……罪を犯した者たちの前に現れる、死神めいた風貌の「乙姫警部」。あの名作「刑事コロンボ」を彷彿とさせる名物警部の人気シリーズ。
冒頭で犯行シーンが描かれたのち、刑事が表れて犯人を追い詰めるという、教科書のような倒叙もの。推理の手がかりとなる事象も、うまく描写に紛れ込ませられている。 「一等星かく輝けり」が個人的ベスト。悪徳プロモーターの性質に踊らされてしまった犯人、そこを突き詰めた乙姫警部の捜査と推理は、小気味よかった。 |
No.1018 | 7点 | お前の彼女は二階で茹で死に- 白井智之 | 2023/09/03 18:09 |
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昨年、「名探偵のいけにえ」でミステリファンに本格派としての実力を知らしめた作者だが、本作品のようなエログロ、汚物まみれの作風がもともとの路線。普通、シリーズ短編であれば、序盤から一緒に捜査している主人公の相棒などはずっとコンビのようにやっていくのに、何編目かであっさり殺され、その他の登場人物も惜しげもなく(?)次々殺されていく。さすが、突き抜けている。
ただ、グロい登場人物と特殊設定ではあるが、いつも「謎解き・推理」のロジックはしっかり立てられている。本作も例にもれず、ミミズ人間とかべとべと病とか、とにかくグロいが、各事件で犯人を絞り込む推理はいたって論理的。それが面白い。 最終編で、それまでの話を伏線としてまとめあげる様は作者らしかったが、ちょっと大味な仕掛けだったかもしれないなぁ。まぁそれを差し引いても、他に類を見ない「本格」(?)作品、この作家でこその作品というところがよい。 |
No.1017 | 7点 | 卒業生には向かない真実- ホリー・ジャクソン | 2023/08/27 20:53 |
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ここまでの評者の方々が(前作から)書いているように、基本的に本シリーズは「シリーズを読み続けている人」の前提で書かれている。1作目から読むことをオススメ。
3作目にして、ちょっと意外な方向に進んだな…主人公・ピップがどんどん遠いところに行ってしまったなぁ、というのが正直な感想。 「自由研究」で始まった素人探偵の頃のピップが懐かしい。物語としては面白かったが、それこそ通して本シリーズを読んでいる身としてはなんだか悲しく、切なくなる展開ばかりだった。 物語の後半、ピップがとんでもない「計画」に進み始めたところでは、「おいおい、冤罪のまま投獄されているビリー・カラスはどうなったんだよ!?」と思っていたけど、そちらはきちんと回収されていたのでまぁそれはよかった。 とりあえず本シリーズは終了ということなので、また毛色の違う他作で楽しませてくれると嬉しい。 |
No.1016 | 7点 | 十戒- 夕木春央 | 2023/08/27 20:44 |
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浪人中の里英は、父、そしてリゾート施設を開業するため集まった7人の関係者たちと共に、亡くなった伯父が所有していた枝内島を訪れた。ところが、狭い島に設えられた建物の中にはぎっしりと爆弾が。視察も早々に、翌朝島を発とうとしていた一行だったが、翌朝、不動産会社の社員の死体が発見された。さらにそこには、犯人が書いた十の戒律が書かれた紙片が。「殺人犯を見つけてはならない。見つけようとしなければ、お前たちは無事に帰れる」―それが、わたしたちに課された戒律だったーー
孤島、集められた数人の人間、限られた期間は出られない状況…手あかのついた設定ではあるが、令和の時代にこの手で来るからには発想・仕掛けがあるんでしょ?って気になるよね。そして今回の手は「犯人を捜そうとしなければ、全員無事に帰れる」という設定。なるほど。また目の付け所が面白い。 とはいえ、(犯人の欲求があるため)おおっぴらに推理はしないものの、主人公を中心とした近しい存在では「犯人捜し」が行われる。まぁそうしなきゃ物語が進まないからね。 1日、1日と犠牲者が増えていくという展開は、ベタではあるけどある意味「期待通り」。一つ一つの殺人で少しずつ残されていく「違和感」を手掛かりに真相に迫っていく筋道は普通に王道だったし、普通に面白かった。 ラストのどんでん返しは…まぁミステリ読みには予想の範疇。ただ前年の「方舟」からかなり期待値が上がる本作だろうけど、自分としては結構期待に応えてくれる出来だったと思う。 |
No.1015 | 8点 | 黄色い家- 川上未映子 | 2023/08/27 20:27 |
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総菜屋のパートで生計を立てる独身女性・伊藤花はある日、「吉川黄美子」という60歳の女性が起訴されたというニュースに出逢う。その女性は、17歳の夏、花が親もとを出て頼った女性だった。風水を信じ、「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める共同生活を送っていた―世界が注目する作家が挑む、圧巻のクライム・サスペンス。
冒頭の様相では、「黄美子」なる人物が少女たちを支配して異常な共同生活を強いていたかのような印象を受けるが、読み進めていくうちにその見方が誤っていたことに気付いていく。愛情はありながらも実質ネグレクトだった母親の元を離れた主人公・花が、生きていくために同類の少女を引き込んでいくうちに、次第に「支配する」側になっていく展開は非常に興味深い。とはいえ花に悪意があるわけではないところがこの物語の絶妙なところで、ラストにはミステリらしい落としどころも用意されている。 困窮する生活環境の中で生き抜こうとする女性の姿を描く作品は多くあるが、いくつ読んでも飽きることはないと感じる。 |
No.1014 | 8点 | 母の日に死んだ- ネレ・ノイハウス | 2023/08/14 21:36 |
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かつて孤児院から子どもを引き取り、里子として育てていたライフェンラート家の主が死んだ。老いによる自然死も考えられる状況だったが、その屋敷からは死後数日経過した遺体が複数発見された―!。しかも遺体はラップフィルムにくるまれ死蝋化、そのうちの一人は20年以上前に失踪した女性だったことが分かり、事件は一転、シリアルキラー案件に。おなじみオリヴァー&ピア コンビが、過去の事件を解きほぐしていく――
事件を追う主線と並行して進む「実の母親を突き止める少女のストーリー」が、いったいなんの伏線なのかなかなか分からなかったが、分かったときは衝撃だった(!)。こういう仕組み方が本当に巧みな作者だなぁと思った。 私はなぜか真犯人は冒頭で目途がついていて、ドンピシャだった。「プロローグ」の書き方がフェアを期するがゆえに、ミスリードを目論見ているであろう人物が始めから「ちがうでしょ」と分かってしまっていた。ただ自分としてはそれを看破して読めているので楽しかった。 シリーズを通して変遷していくピアやオリヴァーの人間関係(今回はエンゲル署長VSピア?)を見ていくのも本シリーズの楽しみの一つ。いろんな要素を総合して、十分に楽しめた。 |
No.1013 | 7点 | ハヤブサ消防団- 池井戸潤 | 2023/08/14 21:00 |
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ミステリ作家の三馬太郎は、東京での暮らしに倦み、亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移住した。移住早々、消防団に勧誘され、入団した太郎。だがやがてのどかな集落でひそかに進行していた連続放火事件、村人の不審死事件に直面する。この村にはいったい何があるのか───?
田舎に移住した都会人の当初のとまどいや、次第に溶け込んでいく過程がリアルに描かれていて、一物語として十分読み応えがある。一方で、村で進行する不審な出来事に高まる緊張感もうまく融合されていて、さすがの筆力と感じる。 「消防団」という、田舎文化の象徴であるようなことを題材として、令和の世になっても地方では根強く残る昭和的な風土を描きつつ、不穏な雰囲気と人間模様を非常に上手く描きあげていた一作だと思う。 面白かった! |
No.1012 | 5点 | ローズマリーのあまき香り- 島田荘司 | 2023/08/14 20:45 |
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1977年10月、世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。しかも殺されたのはニューヨークで行われていた講演の2幕と3幕の間、それなのに殺されたはずのクレスパンは最終幕まで舞台で踊っていたと、観客みんなが証言した。「クレスパンだからこそ、死後も最後まで踊り続けたのだ」―まことしやかな伝説と化しながら事件の真相が分からないまま時は過ぎ、20年後。世紀の謎は、名探偵・御手洗潔の手に委ねられた―
7年ぶりの御手洗シリーズ、そりゃとりあえず読む。謎の不可能度は高く、謎解きへの期待はかなり高まるが、一方で不要な挿話が多く、御手洗登場までも長い。つまり不必要に長い。 作風は同氏「摩天楼の怪人」を彷彿とさせる。ただ「この不可能にしか見えない状況がどんな『驚愕の』仕掛けによって解き明かされるのか?」という膨らむ期待に応えるものとしては、真相はイマイチだったかもしれない。 とはいえ、氏の代名詞ともいえる「御手洗シリーズ」の長編を書き続けていることにはうれしさを感じる。可能な限り続けてほしい。どのみち絶対読む。 |
No.1011 | 7点 | あなたへの挑戦状- 阿津川辰海 × 斜線堂有紀 | 2023/07/15 11:50 |
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巨大な水槽のある円柱型の建物「水槽城」で怪死事件が発生。犯行当時、水槽で現場は密室状態だった(阿津川辰海「水槽城の殺人」)。ホテルで起きた大学教授殺人事件。犯人は犯行後、死体の横で一晩眠っていた―(斜線堂有紀「ありふれた眠り」)
「紅蓮館の殺人」「透明人間は密室に潜む」の阿津川辰海と、「楽園とは探偵の不在なり」「廃遊園地の殺人」の斜線堂有紀が、互いに「あなたへの挑戦状」とお題を出して小説を書いて競い合う企画。 お互い舞台設定が先に与えられ、それをもとに物語を編み上げていくという過程になるのだが、特に阿津川の「水槽城の殺人」のほうはよく考えたなぁと思った。「ありふれた眠り」は、どちらかというと犯人が先に見えてしまっていて、兄妹関係のドラマ的要素の方が印象に残った。 何にせよ、今を時めく人気ミステリ作家による本格の競作。十分に堪能した。 |
No.1010 | 7点 | そこにいるのに- 似鳥鶏 | 2023/07/15 10:56 |
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写真を見るたび次第に近付いてくる、いるはずのない人の姿。帰り道にある2階の部屋で、毎日自分を見ている人影。いったん迷い込んだら二度と抜けられないY字路の迷路。まったく身に覚えのない、自分の不道徳な行為の動画アップロード…オールラウンダーなミステリ作家・似鳥鶏の、13のホラー短編集。
ちょっとした中編レベルからショートショートの部類まで、雑多なサイズで並べられた短編集だが、「クママリ」というキャラクターが要所要所で出てくることで同一座標の物語っぽくなっている。 一編目の「瑠璃色の交換日記」からなかなかよく、ホラーとしては「空間認識」「終わりの日記」が個人的に良かった。 物語としては「労働後の子供」が一番好き。 |
No.1009 | 8点 | 彼女はひとり闇の中- 天祢涼 | 2023/06/25 19:59 |
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10月のある朝、女子大生の守矢千弦は昨夜近くの小道で女性が刺殺されたことを知る。被害者はなんと、昨夜「相談したいことがある」とのみLINEを送ってきた幼なじみの朝倉玲奈だった。小学校時代、永遠の友情を誓いながら、同じ大学で再会してからは微妙な距離感があった玲奈。千弦は自身で真相をさぐろうと決意する。調査を始めると、親友の玲奈の知らなかった一面が次々と見えてきて―
犯行者の独白が序盤に入ってきて、読者は「倒叙ミステリ」だと理解して読み進めることになる。ところが… これはなかなかやられるなぁ。ミステリとしての真相(仕掛け)だけでなく、物語中の「善人」「悪者」の見方もひっくり返されて、気持ちよい騙され具合だった。 なんにせよ、この作者のストーリーテーリングは絶妙。どれを読んでも引き込まれる。チェック必須の作家です。 |