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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1071件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.971 8点 ダミー・プロット- 山沢晴雄 2022/12/31 17:41
 商社マンの風山秀樹の友人・小島逸夫の愛人が何者かに殺害された。無実を訴える小島に頼まれ、風山はアリバイの偽証工作を引き受ける。一方同じ夜、会社員の柴田初子は、有名デザイナーの岸浜涼子に、涼子の「替え玉」を務めてほしいという奇妙な依頼を受ける。面白半分に請け負った初子だったが、しばらくして、涼子の周辺で猟奇的な殺人事件が巻き起こる―
 錯綜する人間関係と複数の殺人事件。一見無関係に見えるそれぞれの事柄が、どんな真相に結びついていくのか―

 冒頭は場面や舞台が転々とする中複数の物事や事件が進行し、「いったいこれがどう絡まり合っていくのか?」という読者の期待を高める。ただの「いたずら」という動機で「替え玉遊び」を提案する岸浜涼子と、それを受け入れる初子の行動は現実離れしているとは思うが、ただそのことが事件の真相トリックにどう結びつくのかが簡単には分からないので陳腐な感じはしない。同様に、トリック重視で現実性を欠いている面はあると思うが、ある意味本格志向の作者の作風であると思うし、最終的にパズラーとして楽しめるので私としてはとても好きなタイプの作品。

No.970 5点 馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ- 辻真先 2022/12/31 17:29
 昭和三六年、中央放送協会(CHK)でプロデューサーとなった大杉日出夫の計らいで、ミュージカル仕立てのミステリドラマの脚本を手がけることになった駆け出しミステリ作家・風早勝利。四苦八苦しながら脚本を完成させ、ようやく迎えた本番。アクシデントを乗り切り、さあフィナーレという最中に主演女優が殺害された。現場は衆人環視下の生放送中のスタジオ。風早と那珂一兵が、不可能殺人の謎解きに挑む!戦前の名古屋を活写した『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』、年末ミステリランキングを席巻した『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』に続く、“昭和ミステリ”シリーズ第三弾。ミステリ作家デビュー作『仮題・中学殺人事件』から五〇周年&卒寿記念出版。(「BOOK」データベースより)

 昭和中期、テレビメディアの創成期を舞台としたミステリ。実在の芸能人の名前も数多く登場し、作者自身のノスタルジーを多分に反映した作品と思われる。当時のテレビドラマならではの「生放送」という特徴を取り上げ、その放送中に起きた不可能殺人という設定はまずます。ミステリ、謎解きとしてはまぁ普通作という印象で、トリックや仕掛けにそれほど目を見張るものはないという感想。

No.969 6点 雨と短銃- 伊吹亜門 2022/12/18 23:43
 幕末の京都。薩長協約をめざして奔走する坂本龍馬は、ようやく西郷吉之介を説き伏せた。しかしその大事な時に、一緒に京に来た長州藩士・小此木鶴羽が斬られ、下手人は逃げ場のない場所から煙のように消え失せる。竜馬は尾張藩公用人の鹿野師光に、下手人と思われる薩摩藩士の捜索を依頼する。依頼を受けた師光だったが、事件の裏に、薩長両藩のきな臭い思惑が見え隠れして―

 犯人が脱出不可能と思われる犯行現場から消え失せるといういわば消失トリックなのだが、その「トリック解明」はまぁ二の次(真相もそんなんじゃないし)。消失のトリックよりも、結局犯人と目されてている人物はきっと真犯人じゃないんだろうというフーダニット路線に傾いていく。し、最終的に明かされる真犯人はミステリ通なら多くは予想の範疇かも。ミステリという点では、前作「刀と傘」のほうがキレがあった印象。長尺よりも短編のほうが向いているかな。
 とはいえ「刀と傘」に連なる歴史ドラマ自体が面白い。世間的には圧倒的に好感をもって受け止められている坂本龍馬が、ちょっと違った色で描かれているのも興味深かった。

No.968 7点 先祖探偵- 新川帆立 2022/12/18 23:25
 「あなたの先祖を調査します」―邑楽風子は、母と生き別れてから20年以上、東京は谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている。様々な先祖の調査依頼が舞い込む中、マイペースで仕事をしている風子。いつか、自らの母を探したいと思いながら――

 先祖を専門的に捜査する探偵という、面白い設定で作られた連作短編集。高貴な先祖を期待する人だけでなく、実生活上必要に迫られて係累を探る人など、確かに目の付け所は面白い。連作短編の形で最後は風子自身の「親探し」に至るのだが、その真相にたどり着いた時には作者の企みに「ほぅ」と唸らされた。社会派的なテーマも含み、なかなか読ませる快作だった。

No.967 7点 さんず- 降田天 2022/12/12 22:28
 「死にきれないあなたのお手伝いをいたします」―毎日に嫌気が差し、この世から消えたいと思う者のもとに渡される謎のQRコードから検索すると、自殺幇助業者<さんず>の専用ホームページに。示されるのは、自死を見届ける「よりそいプラン」と、自死を物理的に手伝う「もろともプラン」の2つ。にっちもさっちもいかなくなったコンビニ店長、刑務所に収監されている男を思い続ける女、赴任先の学校で生徒に裏切られた女教師、自死を選んだ人たちの行く末はは?連作短編全5篇。
 
 <さんず>の通常(?)業務を描いた第1話、2話が中でも面白かった。自殺幇助業を題材にしながらも、その設定をうまく生かしたオーソドックスな謎解きがきちんと組み立てられているのが好ましい。(第一話は、仕掛け方が漫画「怨み屋本舗」みたいだった 笑)。あとはラストの第5話。なんだかんだでいい方向に向かっていくラストは、賛否が分かれるところかもしれないが、私は好ましかった。

No.966 8点 刀と傘 明治京洛推理帖- 伊吹亜門 2022/12/12 22:04
 幕末の京都を舞台とした、若き尾張藩士・鹿野師光と江藤新平の複雑な関係を主軸に編み込んだ歴史ミステリ。
 うーん…これは面白い。激動の時代に、立身出世を目論む思いと、「日本社会のために」という義の心とが相まみえて織りなす濃密な人間模様を下敷きに、見事に編みこまれたミステリに酔いしれる。
 最近、歴史ミステリがめっぽう面白い(米澤穂信「国牢城」、羽生飛鳥の平頼盛シリーズなど)。読みながら思わずwikiなどで歴史の復習をしてしまう。
 これは続編「雨と短銃」も必読だ。

No.965 7点 秘境駅のクローズド・サークル- 鵜林伸也 2022/12/12 21:51
 「足りないボールを見つけるまで帰るな!」今では絶対あり得ない(?)ような一昔前の高校野球部あるあるを題材にした「ボールがない」、オタクな香りも漂う大学の鉄道愛好サークルが鄙びた駅で遭遇した不可能殺人を描いた表題作など、謎解きを主眼とした短編集。
「ボールがない」…一昔前の「野球部あるある」をうまく題材とした快作。
「夢も死体も湧き出る温泉」…手掘り温泉が名物の鄙びた観光地で起きた不可能犯罪。
「宇宙倶楽部へようこそ」…結末としてはできすぎな感もあるが、読後感〇。
「ベッドの下でタップダンスを」…間男の悲劇。冒頭からして面白い。
「秘境駅のクローズド・サークル」…一番本格色が強い。短編で本格推理が楽しめる。
 それぞれリーダビリティが高く、非常に楽しんで読み進められる。粒ぞろいの短編集、オススメ。

No.964 8点 祝祭の子- 逸木裕 2022/11/30 23:46
 十数年前、新興宗教団体「褻」のトップ・石黒望は、子供たちに殺人技術を仕込み、多くの信者らを殺害させて行方をくらました。事件で生き残った子供は「生存者」と呼ばれ、年齢から司法で裁かれないことで世の標的となった。時が経ち、事件も風化しだしたころ、石黒望死亡のニュースが再び事件を思い起こさせ、「生存者」たちへのバッシングを呼び起こす。そんな中、「生存者」たちが何者かに命を狙われる事態が立て続けに起こる。誰が、何のために今頃復讐を始めたのか―。「生存者」の一人である夏目わかばは、十数年来再開した仲間たちとともに、自分たちをねらう「刺客」の正体をつきとめにかかる。

<ネタバレ>
 仲間たちの中に真犯人「刺客」が存在することは概ね予想できたし、それが誰なのかも予想通りだった。とはいえ、タイミングドンピシャで(偶然?)昨今の話題が題材となり、非常に興味深い物語だった。過激派が暗躍し、学生運動の全盛により激動的だった時代を端緒にしたストーリーは筆者お筆力もあって読み応え十分で、世に(本サイトでも)高評価なのがうなずける一冊だった。

No.963 5点 予感(ある日、どこかのだれかから電話が)- 清水杜氏彦 2022/11/30 23:32
 「配られたカードで人生が決まる」。人生をあきらめ、ホテルで住み込みの雑用係を務める少年、ノア。親しくしていた女性従業員が去ったあとに入ってきた女性ララは、秘密裏に公衆電話で誰かに電話をしている怪しげな様子があった。ある日ノアはその電話をたまたま聞いてしまう。その内容は、まるで相手を脅迫しているかのような電話だった―

 「入れ子構造ミステリ」を謳い文句に、新しい試みがなされているかのような宣伝文句の本作だが、ミステリに読み慣れている人たちからすればきっとそうでもない。ただ、ララがかけている電話の内実が明かされていく後段はそれなりに面白みがあり、読ませる内容だった。

No.962 8点 自由研究には向かない殺人- ホリー・ジャクソン 2022/11/21 22:48
 高校生のピップが自由研究のテーマに選んだのは、5年前に町で起きた少女の失踪事件の真相解明。事件は、少女のボーイフレンドが遺体で発見され、警察は彼が少女を殺害して自殺したと結論付けたが、ピップはそれを信じていない。犯人とされたボーイフレンドの弟に声をかけ、「自由研究」として事件の真相解明に乗り出す―

 素人探偵である主人公が、「取材」という形で調査を進め、少しずつ真相に肉薄していく過程は非常に読み応えがあり面白い。怪しいと感じる人物が二転三転していくさまも、主人公・ピップと読者の視点が同化し、入り浸って読んでしまうので煩わしくない。
 作品紹介では青春群像劇という色が強く出されているかもしれないが、ミステリとしてかなり上質、のめり込んで読んでしまう魅力十分な作品。
 これはシリーズ2作目も必読だ。

No.961 5点 灰かぶりの夕海- 市川憂人 2022/11/21 22:33
 2年前に恋人を失い、失意の中生きる大学生・千真(かずま)の前に現れたのは、失った恋人と「瓜二つ」で、名前も同じ「夕海」という少女だった。驚き戸惑いながらも、いきがかり上夕海と一緒に暮らすことになった千真だったが、そんな折、2人で殺人事件に遭遇する。死んでいたのは、千真が慕う恩師の亡き妻とこれまた「瓜二つ」な女性だった―いったいこの世界で、何が起きているのか?

 殺人犯を追うフーダニットと合わせて、それだけではない別の仕掛けが二重に仕組まれている手法は妙。ただ。今のこのコロナ禍という状況下での読者にこそ生きる仕掛けではあるが…。自分も結構騙されたが、一方で前半から一切「コロナ」という言葉が出されないことにも怪しさを感じていたので、「何かある」とは思っていた。
 ラストまでリーダビリティを保ち続ける力作ではあるが、物語の収束のさせ方はちょっとだけ陳腐な感じもした。

No.960 5点 時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2- 大山誠一郎 2022/11/21 22:12
 県警本部捜査一課の主人公は、アリバイ崩し「だけ」は優秀と買われている新米刑事。しかしその実は、美谷時計店の女性店主・美谷時乃に毎回「アリバイ崩し」を依頼している。今回も、難攻不落と思えるさまざまなアリバイを、「時を戻すことができました。――アリバイは、崩れました。」と瞬殺する時乃。人気作「アリバイ崩し承ります」の第2作。

 2件の殺人事件の両方の容疑者になることによって、片方の犯人となればもう片方の容疑が張れるという「二律背反のアリバイ」など、アイデアが面白い。警察の捜査をはじめから見込んで、こんな手の込んだトリックをするか?という常識はわきに置いておいて、人物像やドラマ性には重きを置かずただただパズラーとしての楽しみに特化した(と思っているが)、作者らしい連作短編集。

No.959 8点 ウサギ料理は殺しの味- P・シニアック 2022/11/06 21:10
 いやいやいやこれは…非常に面白かった!(笑ってしまうという要素も含めて)。
 バカミスの部類に入ってしまうような、ある意味荒唐無稽な組み立てのミステリではあり、評価は分かれるだろう。私は、この着想がまず面白いと思うほう。内容についての予備知識を持つことなく読んでいたので、まさかこういう方向にいくとは…と、最後に近づくほど興趣がのってきた。
 そりゃあ、現実的に考えれば、止める方法なんていくらでもあるだろうに…笑

 ミステリとは別に、食に関する描写もなかなか。一昔前の海外ミステリって、読んでると食欲やアルコール欲を刺激されるものが結構あるなぁ。

No.958 8点 方舟- 夕木春央 2022/11/06 21:01
 大学時代の友達と山奥の地下建築を訪れた柊一たちは、面白半分に廃墟となった怪しい地下建築に。予定外に時間がかかり、偶然出会った三人家族とともに地下建築で夜を越すことになった。ところが、突然の地震により脱出不可能になったうえ、下からは浸水が。そんな矢先に殺人が起こった。地下建築の仕組みから、だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。その一人には、殺人犯人がなるべきだ――

 令和の時代に、現実離れした設定のド直球クローズドサークル。いいじゃないですか!
 迫りくるタイムリミット、いかにもな「探偵役」、ほの暗い雰囲気の中で進む陰惨な連続殺人、そしてロジカルな推理。ここまでの評者の高評価もうなずける、本格ミステリ好きごのみの秀作。
 なんといっても最後の仕掛けが…秀逸。背筋がぞっとしました。

<ネタバレあり>
 ただ、地震によるアクシデントの後、本当に「一人が犠牲になるしかない」か?とは思った。だって、真犯人が隠していた真実からすると、ボンベを使って出られるわけだし、水没までの猶予が1週間ほどあるんだし。それに、この真犯人はこのあと、どう説明して世間に戻っていくんだ?とも。
 まぁ、そういうこというのは野暮ってもんですかね。

No.957 6点 リバー- 奥田英朗 2022/11/06 20:46
 群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで発見された女性の死体。その手口は、10年前の未解決連続殺人事件と酷似していた。かつて容疑をかけられながらも不起訴となった男、その取り調べをした元刑事。娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける父親。若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。10年分の苦悩と悔恨は、真実を暴き出せるのか──

 10年前に容疑がかけられた男、解離性同一性障害の県会議員の息子、そして10年前も町に来ていた期間工。3人の男に容疑がかけられ捜査が進められていく過程が緻密に描かれていく。その過程は読み応え十分で、600ページを超える厚みも気にはならない。
 話が進行していくにつれ、期間工の男の容疑が濃くなっていくのだが、描かれている人物像からは真犯人とは想像しがたい。うーん…どういう結末になるのか?とかなり期待を込めて読み進める。
 結果は…まぁ点数のとおりです。物語としては面白いが、ミステリとしてはそれほどでもってとこかな。

No.956 6点 彼は彼女の顔が見えない- アリス・フィーニー 2022/10/29 21:55
 夫婦関係が行き詰っていたアダムとアメリア夫婦に、くじで旅行が当たる。滞在先は人里離れた元教会。何とかこれを再出発の機にしたい2人だったが、外から2人を覗く顔、停電、そして猛吹雪と、まるでホラー映画のような展開に。誰かが2人を狙っているのか、それともパートナーが…?互いに疑心暗鬼になる夫婦に、静かに魔の手が忍び寄る―

 次々に起こる不可解な出来事と、ちらつく不審な人物の影。その不審人物も早々に表に登場するが、誰が真の犯人なのか油断がならない。アダムとアメリア2人それぞれの視点から交互に描かれる構成は「彼と彼女の衝撃の瞬間」と同じ。そこに結婚記念日ごとに書かれる妻から夫への手紙が挿入され、それらによって3人(アダム夫婦と不審人物)の背後関係が次第に見えてくる。
 アダムの相貌失認という設定がそれほど物語の核に絡んでいないと感じる。数十年前に会っていた人の顔が分からないのは、普通の人でもある気がするし。改装された、人里離れた古びた教会を舞台としたホラー映画のような絵図はなかなかスリリングで面白かった。

No.955 8点 彼と彼女の衝撃の瞬間- アリス・フィーニー 2022/10/20 21:15
 完全に作者の目論見にはまり、手玉に取られた一人です(笑)
 「彼(ジャック警部)」と「彼女(アナ)」の2人の視点から交互に描かれる物語の中で、2人ともそれぞれに秘密があり、「どっちかが最終的に真犯人なのか?」と思って読んでいたら、それ以外の登場人物もすべて腹に一物を抱えた人物ばかりで…。「信頼できるのは誰?」「結局、真犯人は?」という謎が最後まで引っ張られ、ページを繰る手が止まらなかった。
 誰も彼もが怪しく見える構成は、かえって「誰が真犯人でも意外ではない」ということにもなるため、「意外な犯人、どんでん返し」という印象はよい意味で消えてしまったが…

<ネタバレあり>
 唯一、キャサリン(キャット)の首吊り死体(のふり)で、「口の中にミサンガ」が入っていたことがあとの真相では説明がつかない気がするのだが。

No.954 5点 カインの傲慢- 中山七里 2022/10/20 20:34
 相変わらず読みやすく、テンポの良さで一気読み。
 「平成の切り裂きジャック」事件捜査に携わった犬養が、類似の連続殺人事件の捜査に。今回も臓器移植問題をテーマに、社会的なメッセージも含まれた内容になっている。
 しかし中山氏の作品に読み慣れてきたせいか、中盤くらいで「意外な犯人」のあてがつくようになってしまった。今回も見事思っていた通り。そもそもわずかな兆候から真相に迫る嗅覚を持っている犬養が、「どんでん返し」に関わる部分だけ手がかりをスルーしているのが見えてしまう。本作でいうなら、「送襟絞」という柔道技の犯人の手口が見えた時点で、警察関係者に目が向かないはずがないのに、一切そうした描写がなく(むしろ避けて)物語が続けらていることで、作者の目論見に感づいてしまった。
 それ以外のドラマ性が強いので面白く読めるが。

No.953 9点 揺籃の都 平家物語推理抄2- 羽生飛鳥 2022/10/16 22:01
 治承四年(一一八〇年)、平清盛は京から福原への遷都を強行。清盛の息子たちは都を京へ戻すよう説得するため清盛邸を訪れるが、その夜、清盛の寝所から平家を守護する刀が消え、「化鳥を目撃した」という物の怪騒ぎが起き、翌日には平家の悪夢を喧伝していた青侍が、ばらばらに切断された屍で発見された―清盛の異母弟・平頼盛は、甥たちから源頼朝との内通を疑われながらも、事件解決に乗り出す……!

 連作歴史ミステリ短編「蝶として死す」に続く平頼盛を主人公としたシリーズ、第2弾は長編。
 平安後期を舞台にしながら、「いにしえのエラリイ・クイーンか!」とさえ言いたくなるような、緻密なロジックによる本格的なミステリ。時代の文化に彩られた描写に伏線が巧みに組み込まれ、解決編でそれらが見事に回収されていく。絶対的君主・清盛の差配にすべての命運がかかる平家一族の面々の、それぞれの出世を目論んだ企みも絶妙に事件に絡み、こんなミステリを編み込める作者はすごいなぁと思ってしまう。
 めちゃめちゃ面白かった。

No.952 9点 キュレーターの殺人- M・W・クレイヴン 2022/10/10 18:28
 クリスマスのプレゼント交換の場に、教会の洗礼盤に、精肉店の商品陳列棚に、切断された「2本の指」が晒された―。猟奇的な犯行に、ポー刑事と、ITの天才・ティリーが立ち向かう。捜査を進めるうちに、ネット上の闇サイトで、与えられた悪事の「課題」をクリアしていくというコンテストを主宰している黒幕の存在が浮かび上がる―

 無差別殺人のように見え、捜査方向も見定めきれない混沌とした中で、わずかな手がかりを嗅覚鋭く追いかけ、一つ一つ事を明らかにしていくポー&ティリーの捜査過程は相変わらず見もの。特に、後半「キュレーター」の存在が分かってからの展開は怒涛。

<ネタバレあり>
 「ABCパターン」の範疇に入るたぐいだと思うが、その「AB(C)」にブラフのミッシング・リンクを仕込み、それが本筋のように捜査陣(と読者)を誘導する企みは成功していると思う。
 キュレーターを操っている「真の黒幕」とその動機が最後に明らかになるのだが、これはかなり予想を超えていて……ゾッとした。

 シリーズ第3作、十分期待に応えてくれた快作。
 それにしても、ポーとティリーの友情はいいなぁ。

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1071件
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今野敏(48)
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