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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1153件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.433 7点 逆風の街- 今野敏 2017/06/24 21:30
 「ハマの用心棒」こと、神奈川県警みなとみらい署・暴力犯係係長の諸橋と、相棒城島による「横浜みなとみらい署暴対班」シリーズ。
 悪徳金融業者の苛烈な取立てに心身ともに摩耗した被害者の救済、取立て業者の糾弾に乗り出した諸橋&城島コンビ。だが、捜査が真に迫るにつれ、警察内部からそれを止めるようなブレーキを感じる。その背景が分かってくるにつけ、悪辣な取立てに憤慨していた諸橋も、さまざまな思いに揺れるようになる。
 「社会の害悪、暴力団の排除」。その信念にブレはない諸橋だが、それはただたんに頑固一徹ということではなく、何が正しく、何が間違っているのか、不完全な人間らしい迷いや煩悶に悩まされることがある。そんな時に活路を開くのが相棒・城島の一言。そんな二人の関係が痛快で、このシリーズには惹かれてしまう。
 警察エンタメ的な要素が色濃い著者の作品だが、必ずミステリ(つまり謎の解明)の要素はあり、しかもそれが警察内部の機構を踏まえたうえでの独特な色で面白い。私は「隠蔽捜査」シリーズが大好物だが、それが好きな人はきっとこのシリーズも好きになるだろう。

No.432 6点 セイレーンの懺悔- 中山七里 2017/06/11 20:22
 今回の題材は、「マスコミの矜持」といったところか。
 主人公の朝倉多香美は、帝都テレビの看板番組「アフタヌーンJAPAN」の制作に携わるジャーナリスト。朝倉には、実の妹が学校でのイジメを苦に自殺したという過去があり、世の真実を暴きたいという使命感をもってジャーナリストになった。
 ある日葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。被害者・東良綾香は、暴行を受けたうえで顔を焼かれるといいう、無残な状態で死体となって発見された。義憤に駆られ、鼻息荒く取材に向かう朝倉の前に立ちはだかったのは、警察の宮藤刑事だった。「不幸を娯楽にし、拡大再生産するのがマスコミ」とマスコミを侮蔑する宮藤刑事。強い反発を感じながらも、思い当たる節がある朝倉は何も言い返すことができず、自身の仕事の意味、存在意義を自問自答し煩悶する。
 迷いや悩みを抱えながらも、先輩ジャーナリスト・里谷の教えを頼りに取材に邁進する朝倉。そんな中で、他社が嗅ぎつけていない人物たちにたどり着き、その密会の場をとらえることに成功する。特大スクープに小躍りし、事件の真相に迫ったという満足感に浸る朝倉だったが―

 多くの読者が同じ感想を持つかもしれないが、青臭い主人公以上に、清濁併せ飲みながら、それでも揺るがない信念をもって職をまっとうする先輩、里谷に一番惹かれる。「スクープをものにしたい」という、ある意味下世話ともいえるジャーナリストの本能を認め、とはいえそれが世間にどう映るのか、被害者たちにはどう思われるのか、開き直りではなく真摯に受け止め、そのうえで前を向いて邁進する姿にカッコよさを感じる。
 特ダネの誤報という形で真相が二転三転し、ミステリとしてもきちんと仕掛けが施されているが、それ以上にここまで述べたような社会的問題提起のほうに興味が惹かれるのは、評価の分かれるところかもしれない。 

No.431 5点 マル暴甘糟- 今野敏 2017/06/11 17:38
 甘糟達夫は、北綾瀬署刑事組織犯罪対策課に所属しているマル暴刑事。ヤクザと見分けがつかない強面ぞろいと相場が決まっているマル暴刑事の中で、真逆の弱弱しい風貌の甘糟は「何で自分が…」と疑問と不満を抱きながら職務にあたっているが、ヤクザ以上に恐ろしい先輩刑事・郡原の前ではそれも言えない。
 ある日多嘉原連合の構成員、東山源一が撲殺される事件が発生。手口や、防犯カメラに映っていた不審な車の様子からは、明らかにヤクザではない「半グレ」の仕業のように見える。弟分を殺された多嘉原連合のアキラはいきり立つが、単純な半グレの犯行という見方に違和感を覚える郡原、甘糟は、アキラをいさめながら、ある意味協力的に真犯人を探っていく・・・

 現場主義の所轄である主人公たちに、エリート然とした捜査一課が加わることになり、始めは反目し合うような雰囲気だが次第に通じ合い・・・という、著者の作品にはよくあるパターンが本作品でも踏襲されている。それでも、その描き方が作品個々で味があり、ワンパターンとは感じさせず、いつも気持ちがよい。
 肝心のミステリの方でも、マルBならではの仕来たりや組織構造が関わってくる仕掛けなので、一般のロジックとは違うが、だからこそ味があってよい。
 常に時代劇のような「勧善懲悪」感がある著者の作品だが、その爽快感が人気の秘密なのではないかと思う。

No.430 6点 臨床真理- 柚月裕子 2017/06/11 17:13
 題材とストーリー、筆致は非常に面白く、本作品を皮切りに活躍するであろう作家としての力量は十分に窺がえる。そういう意味では賞の獲得も自分としてはうなずける。
 ただ、デビュー作なのでまぁ致し方ないとは思うが、真犯人を推理させるうえでのミスリードの仕組み方が非常にベタで、それで逆に早々に見当がついてしまうところは確かにあった。その仕掛けのせいで、登場人物の人格が後半に反転するのだが、あまりにも極端に対極に振れるのにはやや苦笑した。
 ただまぁそんなところをつつくのも厭らしい感じがするので、素直に「楽しめた」にしておきたい。

No.429 5点 任侠病院- 今野敏 2017/06/01 23:23
 所帯は小さいが、地元との関係を大切にし、それなりに地域住民からも愛されてきた阿岐本組。これまでも、経営難に陥る出版社、学校の再建に手を出してきた組長・阿岐本が次に持ち込んできた話は「病院の再建」。「自分たちのような人間が、人道を重んじる病院に関わるなんてとんでもない」―代貸の日村誠司はなんとかなきものにしようとするが、そんな思惑とは無関係に話は進んでいく。しかし、乗り気でない中病院に関わっていく中で、そこで働く「医療のプロ」たちの矜持にいつしか惚れ込み、肩入れしていってしまう—

 絵に描いたような勧善懲悪(ヤクザである以上どちらも悪?)の展開は単純明快だが、むしろだからこそ気持ちいい。ミステリというよりエンタメ小説だと思うが、とはいえ再建する病院に入っている業者の黒幕や、住民の暴力団追放運動の裏側など、一応隠された真相を暴いていく体にはなっている。
 といってもそれは描かれているとおりであり、趣向を凝らした仕掛けがあるわけでもない。とにかくエンタメ小説と割り切って読めば、ひと時の娯楽になることは間違いない。

No.428 7点 検事の死命- 柚月裕子 2017/06/01 22:42
短編「心を掬う」「業をおろす」2編と、表題作である中編「検事の死命」の3本立て。平均的にクオリティが高い。ただ、「業をおろす」は前作にあたる「検事の本懐」を読んでからの方がよいと思う。

 表題作「検事の死命」は、電車内の痴漢容疑をめぐる法廷ものだが、万引き・恐喝で逮捕歴のある、痴漢をされた側の女子高生・玲奈と、社会的名声や立場がある容疑側・武本とが、人物的にはどちらも怪しく感じられるところに著者の設定の妙を感じる。佐方が女子高生側に立つ役割である以上、ある程度の結末は見えるのだが、その過程を十分に楽しめる。
 しかしながら、ある人物とある人物の接点についてあまりに軽い追及で進んでいってしまったのは、それによってほぼ最後の突破口が分かってしまった(笑)
 
 

No.427 7点 最後の証人- 柚月裕子 2017/06/01 21:41
 7点をつけておきながらなんだが、ミステリとしての仕掛けは本サイト利用者なら十分に予想の範疇。もちろん私も、被告が誰かがわかる前から、そもそもそれが仕掛けだと何となく予想はついた。
 しかしながらこの点数なのは、本作品が(というより柚月作品が)、魅力の幹となる部分は仕掛け以上に「法と正義を問う」部分と、「弁護士・佐方の哲学」にあるからだ。概ね行き着く先は予想できていながら、その過程に興味が魅かれ読み進めてしまう。そして、行き着いた先はまず読者の思いを満たしてくれる。
 
<以下ネタバレ注意>
 フィクションとはいえ、息子を失い、そのうえでこの結末を選んだ夫・高瀬光治の胸中はいかばかりか。その悲壮な決意と、そこへ向かう過程で際立つ夫婦(両親)の絆にやるせなさと切なさ、同時にある意味美しさを感じる。
 その決意と覚悟を無にするのが佐方なのだが、佐方は佐方の哲学をもって(おそらく)断腸の思いでその哲学を全うする。
 ストーリーがもつ「力」を感じる作品。

No.426 7点 衣更月家の一族- 深木章子 2017/05/21 19:17
 まぁよくこんな仕組みを考えたものだと感心する。著者の作品にはもともと最近ハマっていて、このサイトの書評を見て本作品を読んだので、バラバラに見える3つの事件がラストにつながることは知っていた。知らない方がよかったかな。
 一つ目の「廣田家の殺人」などは、単体で短編小説であっても十分に通用するクオリティ。それが最後にはさらにひっくり返されるのだから、二重、三重に仕組まれた物語構造、作者の手腕に脱帽する。
 宝くじ当選が発端となった「楠原家の殺人」などは、ああいう当選の仕方って現実に起こり得ることじゃないかな…なんて思ったりして、その話の組み立て方に作者の技量を感じる。
 ちょっと凝り過ぎて、最後はややこしい感じは否めなかったが、それ以上によく練られた構想にただただ感心する思いだった。

 「福山ばらのまち…」に応募したことがこの人の最大の上手さだった気がする。いかにも島田荘司好みの仕掛け方なので。

No.425 6点 ビブリア古書堂の事件手帖7- 三上延 2017/05/21 18:50
 シリーズが始まった当初は、次々に刊行されて結構次を楽しみにしていたのだが、間が空いているうちにだんだんとその熱は冷め・・・正直「読んできたから読んどかないとな」というのが本当のところだった。
 最後らしくガッツリ一冊一話の長編で、これまたオーラスらしく題材はこれまでで最高価値の稀覯本「シェイクスピアの未公表ファーストフォリオ」。とはいえ当然その辺の知識は全くないので、薀蓄を楽しみながらもあまりピンと来ずに読み進めていた。

<ややネタバレ>
 栞子と五浦、そして肝心の栞子と母・智恵子、それぞれの結末は・・・まぁとりあえずよい終わり方(五浦との関係は当たり前だけど予想通り)でホッとした。あれだけ忌み嫌っていた(はず)の母・智恵子との確執はいったい何だったのかというような自然解決(?)だったが、悪い読後感ではないのでとりあえずOK。
 物語の胆であるファースト・フォリオの真贋に関するトリックは、陳腐ではあったが、吉原の鼻を明かしたくだりは小気味よかった。
 ひとつ言うなら、最後だけに、これまでの登場人物をもう少し出してほしかったな。

No.424 5点 ゼロの迎撃- 安生正 2017/05/09 22:15
 史上まれにみる荒天に乗じて、免疫のない日本国にテロ部隊が襲い掛かる。現実の戦争に突如向き合うことになった日本のブレーンたちはその対処に慌てふためき、猶予を許さず極限の決断の迫られる中、情報部隊の真下三佐が決死の覚悟をもって事に当たる。息もつかせぬ怒涛の展開と疾走感、魂をぶつけあうような国防に命を懸けた男たちのやりとり…読みごたえは十分にあったし、楽しめた。
 しかし、あまりにも簡単に多くの命が散り、けれども主人公とその近親の者だけは幾度も危機を迎えながら生き残るという設定、政府高官や軍人たちの極限状態でのやりとりがあまりにも仰々しいこと(そんなにすらすらと決め台詞のような言葉が出るか?)、結局主人公の真下三佐一人がずば抜けた崇高な頭脳で、他はそれに追随するような扱いであることなど、少し前までよくあった「主人公一人勝ち」のハリウッドSF映画を観ているような感覚になり、何となく白けた気分にもなった。

 (国防の世界だからかもしれないが)上司を信頼するということはイコール「ためらわず命を懸ける」ということなのだろうか。真下は否定していたが、結局、寺沢陸曹長も高城三曹も迷わず散っていく姿が美として描かれている。最初の岐部三尉の態度が最も人間的で自然な反応だと感じるのだが、こちらも最後には覚悟を決めた姿が美化され、「良」として描かれると、どうしても反動で最初の姿は好ましくないものと位置付けられてしまい、なんだか釈然としない。

No.423 8点 オーブランの少女- 深緑野分 2017/05/09 21:23
 直前の、虫暮部さんの「この作者にとって、ミステリは目的ではなく手段」という書評がまさに言い得て妙、的を射てらっしゃると思った。
 古今東西様々な舞台設定で物語を編み上げる作者の筆力と見識は見事。無駄なく構成された展開も見事で、一冊で幅広く楽しめると感じる。そうした物語全体としての仕組みや構成が作品の味であり、ミステリはその骨組みの一部という感じが強い。
 私も「片思い」がイチ押し。ほろ甘い独特の乙女心が描かれていて、読み物として非常に面白かった。

No.422 6点 プロフェッション- 今野敏 2017/05/09 20:59
 4年の時を経て久々に出た「ST科学特捜班」シリーズの長編。
 今回の主役は主に文書鑑定・プロファイリング担当の青山と、法医学担当の赤城。ある大学研究室の准教授や学生が誘拐されるという事件が3件立て続けに起こった。ただ、誘拐と言っても皆翌日に解放されている、奇妙な誘拐事件。しかし被害者たちは一様に、誘拐・監禁された間に「呪いをかけられ、変なものを飲み込まされた」と言い、実際に皆が体調を悪くして入院する。非科学的な「呪い」は存在するのか。そして犯人は誰で、その目的は—…
 個性的で我が強いSTメンバーを、人の良いリーダー・百合根がなだめすかしながら、結果的にまとめ役を果たしながら捜査を進めていくというおなじみの体。犯人像や犯行手段について青山と赤城の意見が対立する場面などもありながら、お互いの役割の中でなすべきことをなす形で捜査は収斂されていく。
 もともとロジカルな謎解きに主眼を置いている作者ではないので、それよりもキャラの立ったメンバーたちの組織的な捜査過程を楽しむもの。犯行動機・犯人の真相は、これまた一風変わったネタものだが、青山のプロファイリングを生かした仕掛けということなのだろう。
 そう思うと、この特殊能力をもった5人のメンバーというSTの設定は、うまいこと考えられているなぁと思う。

No.421 5点 マル暴総監- 今野敏 2017/05/03 22:02
 「マル暴甘糟」シリーズ第2弾(ということを読んで知った。第1弾は未読)。
 甘糟は、上司に少しきつい言い方をされるだけで「ひゃあ、すみません」と言ってしまうような”史上最弱のマル暴刑事”。凄みを利かせる同僚たちの中で日々、肩身が狭そうに仕事をしている。そんな甘糟を主人公にした暴対もの。

 この作品はかなりエンタメ寄りで、警視総監が「暴れん坊将軍」よろしく白いスーツ姿で繁華街に表れ、マルBたちの悪事を成敗しているという現実離れした話。まぁでも殺人事件の捜査本部があり、犯人を捜査するストーリーにはなっているので一応ミステリ要素はあるが、メインは警視総監と甘糟、そして甘糟の相棒(上司)郡原を巻き込んだ警視総監隠しという感じ。
 さっと読めて痛快に笑える、そんな一冊。

No.420 8点 禁断- 今野敏 2017/05/03 21:47
 「ハマの用心棒」と呼ばれ、暴力団からも恐れられる みなとみらい署の暴対係長・諸橋を主人公としたシリーズの第2弾(第1弾は未読(笑))
 横浜・元町で大学生がヘロイン中毒死した。捜査に乗り出した諸橋と相棒・城島。最近横浜にヘロインの供給が急増していること、それに合わせるように関西のマルBがこぞって横浜に乗り込んできているということ、それらには田家川組が何らかの関わりを持っていそうなことなどがわかってくる。
 そんな中、2人のもとに宮本という新聞記者がやってきて、ヘロインの供給源は中国とほのめかすような話をした。するとその直後、新聞記者が本牧埠頭で殺害され、事件は一気に深刻な様相へと展開する。ヘロイン供給の黒幕は誰なのか、宮本殺害の犯人は誰なのか—横浜を舞台にした、暴力団との戦いが始まる。

 関西系暴力団の動き、街中で頻発する小競り合い、記者の殺害、ヘロイン供給ルートの解明など、さまざまな要素が作中で絡み合ってくるが、それらを一つに結んでいく捜査過程は読み応えがあり、ミステリとしても一定の完成度があると感じる。

 諸橋が自分のことを嫌い、疎んじているとばかり思っていた上司や同僚が、実は自分を認めていると気づく、といったような、今野氏らしい「職場の男たち」描写も全開で、とても痛快。
 かなりよかった。

No.419 7点 傷だらけのカミーユ- ピエール・ルメートル 2017/05/03 21:11
 相変わらずの疾走感で、読み応えがあったし読み易かった。ただ、周囲の理解を得ることもせずに(事情が事情だけに仕方がないが)単独で突っ走り、無茶をし続けるカミーユにはやきもきして、読んでいて何だか疲れる感じもあった。
 後半に明かされる真相も、特に「アレックス」を読んだ読者なら早い段階で気付くのではないかと思う。そういう仕掛けがあるので、ミステリとしても評価できる作品だが、それにしても悲しく切ない話だなあと思う。
 ただ、カミーユとアンヌの馴れ初めについて「そんなうまいことハマるか?」「そんな回りくどいことするか?」と感じたり、アンヌがこうなってしまったことの理由付けが、「それだけでここまで許されるか?」「そう思おうとしているカミーユの未練?」と感じたりして、座りが悪く感じる部分もあった。

 結局アンヌの本心はどうだったのだろう・・・?

No.418 6点 煽動者- ジェフリー・ディーヴァー 2017/04/23 21:40
 キネシクスを駆使して嘘を見破る尋問のスペシャリスト、キャサリン・ダンスを主人公としたシリーズの最新作。
 物語は、ある殺人事件の関係者(容疑者)の尋問にあたったダンスが「彼は無実」とその人物を解放したが、直後にそれが当の殺人犯だったことが判明し、捜査から外されるところから始まる。
 その結果回された担当は、コンサート会場の小火騒ぎから起きたパニックにより死者が出たという事件。しかしこれが、不運な事故ではなく実は故意に仕組まれたものだったことがわかり、捜査はにわかに深刻さを増す。続けて映画館でも「仕組まれたパニック」が起き、同一犯の悪質な事件であることが明らかになっていく。
 物語のメインはこちらの事件の捜査なのだが、冒頭の取り逃がした犯人の事件捜査も同時に進行し、さらには同僚マイケル・オニールが手掛けている農場主の失踪事件も間に入って来て・・・と複線の多い話で、いろんなところに話しが飛ぶのでちょっと読みづらい感じはあった。(この複線が「伏線」になるのかは・・・読んでみて)

 ミステリとしての破壊力は同シリーズの(ライムシリーズ含む)高評価のものに比べるとあまり。ただ個人的に、ダンスのシリーズはライムシリーズよりも「人間味」「人間臭さ」があって、謎や仕掛けの部分以外もなかなか面白い。未亡人として二人の子を育てる母としての悩み、恋愛事情など、どこか俗っぽい感じが読み易さを後押ししている。

 余談だが、このシリーズの作品を読む間隔が空くと、はじめいつもキャサリン・ダンスとアメリア・サックスがごっちゃになる(笑)

No.417 7点 防波堤- 今野敏 2017/04/23 20:57
 「ハマの用心棒」と呼ばれ、暴力団からも恐れられるみなとみらい署の暴対係長・諸橋を主人公としたシリーズ短編集。
 相棒は、諸橋の降格人事がなければ自身が係長になっていたはずの「係長補佐」城島。とはいえ「お前がいなけりゃ俺が係長になってたんだ」とニッと笑って諸橋に言えるほどの間柄。諸橋の足りない所や気付かない所を補う抜群の相性で、横浜の町に起きる事件や抗争を治めていく。
 起承転結のはっきりした一話一話で、非常に面白い。それぞれに楽しめるので、短編集というスタイルもよく合っていた。同シリーズの他のものも読みたくなる一冊。

No.416 7点 精鋭- 今野敏 2017/04/23 20:41
 警察小説であることは間違いないが、ミステリではなかった…ごめんなさい。
 大学時代ラグビーで鍛えた体育会系の新人警察官が、SATに入隊するまでを描いた物語。主人公には決して強い上昇志向や野望があるわけではなく、目の前にあることに一心に取り組む姿勢、そしてその中で自分の進むべき道を模索する姿がある。辛く苦しい訓練に、ある意味「なんとかなるだろう」ぐらいの勢いで取り組むうちに、精鋭部隊であるSATに入ることになっていく。
 相変わらずの端的な描写で、組織に生きる男の痛快な生き様を描いている。

No.415 7点 猫には推理がよく似合う- 深木章子 2017/04/08 17:21
 ここまでの方々のおっしゃるとおり・・・何を書いてもネタバレになる(笑)
 少なくとも、他の深木作品を読んでいる人は、期待していいですよ。

 しかし、還暦を過ぎてから作家になった方ですが・・・すごいですね!

No.414 5点 怪談のテープ起こし- 三津田信三 2017/04/08 17:17
 自殺者が最期に残した肉声のテープをおこす、という入りはかなり気持ち悪く、期待したのだが、全体としては小粒な怪異譚を集めた短編集という印象。
 現実にこの短編集を編集者と共に編む過程も描かれ、その中でおきた怪異も幕間として書くことで現実感をもたせているが、そうやって現実に寄せる分、怪異性はどうしても小粒になってしまう。
 「本当にあった」ということ自体を、ホラー感を醸し出す一番の効果としているのだとは思うが・・・・

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.32点   採点数: 1153件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(50)
有栖川有栖(45)
中山七里(41)
エラリイ・クイーン(37)
東野圭吾(35)
横溝正史(22)
米澤穂信(21)
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