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HORNETさん
平均点: 6.31点 書評数: 1077件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.397 7点 誰も僕を裁けない- 早坂吝 2016/12/14 22:44
 キワモノだった印象が強い本シリーズだったが、急にミステリ色が濃くなった印象。といっても、やはり正攻法からは離れているとは思うが…。
 「〇る」の〇をなぜ隠したのか、本格ファンならすぐにわかるのに。それが分かればトリックはおのずと分かるので、その点では目新しさはない。2つのストーリーが並行して描かれる構成と、その結び付き方は意外ではあったが、人によっては姑息と感じるかもしれない。まぁ私としては悪くはなかった。
 シリーズ読者として、心のどこかでらいちは絶対的存在であってほしいというのがきっとあって、その点でやや格落ちしてしまった感があるのはやや残念だった。小松凪のようなキャラに先を越されるのはちょっと…。
 一見ありきたりに見えるタイトルの真意には、なかなかやるな、と感じた。サクッと読める分量にしてはよかったので、この点数。

No.396 8点 去就- 今野敏 2016/12/10 16:28
 今回のテーマはストーカー。被害に遭っていたという女性が当のストーカーに呼び出され、ボーイフレンドを同伴してその場に行ったら、そのボーイフレンドが殺害され、ストーカーと被害女性はそのまま行方不明に。早速大森署内に指揮本部が設置され、伊丹と共にその指揮にあたることになった竜崎だったが、事件は当初のとらえとは違う様相を見せるようになってくる。

 徹底した合理主義で(しかも天然)、部下からも厚い信頼を寄せられている竜崎の強いリーダーシップ、痛快な組織での生き様がある意味主となる本シリーズだが、事件の真相を探るミステリとしても〇だった。たてこもりの一幕は、こちらもはじめから胡散臭いと思っていたが、事件の真犯人については意外だった。用いられた凶器の違和感、乗り捨てた車の停め方、携帯電話からの着信など、手がかりからの推察や、捜査員の感触を頼りにチームで真相にたどり着く過程は非常に読みごたえがあった。

 マスコミに反応して、世間への面子やアピール目的で対策を講じ、その煽りを現場の捜査員が被る・・・という、作中で述べられていたことに強く共感する。ある業界に対して持ち上がった批判的な世論に対して、「その答えを作るために」目に見える活動を打ち上げるという上層部の発想が、下々にどれだけ無駄な労苦を生んでいるか、どれだけ無駄な金を使っているか、本当に考えるべきだと思う。

No.395 5点 真贋- 今野敏 2016/12/10 16:01
 目黒区で起きた窃盗事件。盗品以外は一切物色の跡がない現場の様子から、萩尾&秋穂コンビはすぐに窃盗常習犯「ダケ松」の仕業と見破る。しばらく後に、身柄を確保されたダケ松。だが、その様子に不審を感じた萩尾は、ダケ松が何かを隠していると感じる。同じころ、管内のデパートで陶磁器展が催され、その警備にあたることになった。そこでは、国宝・曜変天目が展示されるという。ダケ松の事案にあたるうちに、両者の隠されたつながりが明らかになっていく…
 萩尾警部補&秋穂コンビのシリーズ2作目。前作「確証」が非常に良かったため、文庫になるのを待ちきれずに単行本で購入したが・・・あっという間に読めてしまった。リーダビリティが高いともいえるのだが、厚みがなかったとも・・・
 盗犯捜査のプロ・萩尾の鋭い洞察がこのシリーズの胆であり、魅力でもあるのだが、推理→確定までがあまりにも一足飛びのような気がしてしまった。(前作「確証」で萩尾の推理は間違いないと証明されたから、確証は要らなくなった?(笑))抑揚のない捜査過程をだらだら書いてほしいとは思わないが、特にダケ松がに弟子をかばっているという読みや、八ツ屋長治とのつながりなどは、トントン拍子すぎる感じがした。
 真作と贋作の入れ替わりトリックは、そう難なく看破することができた。

No.394 8点 恩讐の鎮魂曲- 中山七里 2016/12/04 23:09
 少年院時代の御子柴の恩師、稲見教官を弁護するという話で、期待を裏切らない面白さだった。
 少年時代に殺人を犯した御子柴の人格を矯正し、今の道に導いた一番の恩人、稲見元教官が、入所していた介護施設で介護員を殺害したという。「衝動的な感情で人を殺めるような人ではない」…今こそ恩に報いようと、稲見の弁護に駆け付ける御子柴だが、当の稲見は「刑を免れようなどと思わない。きちんと私を罰してほしい」と望む。弁護の最大の障壁は依頼人自身という異質な状況の中、介護施設で何が起こったのか、御子柴は真実を暴きにかかる―
 要介護老人と介護士の、感情的な諍いと思われていた事件には、誰もが驚く背景があった。その実情が法廷で明らかにされる場面での、裁判長、検事を含めた周囲の驚愕を想像しながら読むのは単純に楽しかった。被害者、入所者、稲見の隠された「つながり」は、あまりにも出来過ぎているという感はあるものの、それが本作品の核なのでまぁ自分はとやかくは言わない。
 ただ、シリーズ当初の酷薄で薄情なイメージが次第に薄れ、むしろ情に厚くすら見えてくる御子柴の変容は、好ましくも感じるが、一方で寂しい感じもするのは私だけか。

No.393 5点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2016/12/04 22:42
 国名シリーズの中でも小粒という世間の評価を耳にしていたため、読むのが後回しになっていて、ほとんど「シリーズ読破目的」で読んだ。そういう構えがいけなかったのだろう、読んでいてもイマイチ興が乗らず、えらく時間がかかってしまった。(古本で購入したのがかなり昔の版で、狭い行間でびっしり書いてある体裁だったのも手伝った)
 犯人の意外性はなかなかのもので、悪くはなかった。が、それを看破するための手がかりの文章中のちりばめかたが、よく言えば巧妙、悪く言えば意地悪な紛れ込ませ方、と感じた。事件現場や捜査中の言動の描写を、そこまで注意してくまなく読んではいられない性分なので、解決編を読みながら前の部分を何度も繰り直した。
 それに、時代のこともあるので一概にはわからないが、それにしても警察がきちんと捜査しているような案件で被害者の確認はこんなものなのだろうか?とも思った。一方で、銃弾の弾道痕の解析までする科学的な捜査がされているのに…。あまりにアンバランスな感じがどうしてもしてしまう。

No.392 7点 ヒポクラテスの憂鬱- 中山七里 2016/11/26 20:08
 法医学会の権威、光崎教授の研究室に属する、栂野真琴を主人公とした短編シリ―ズの第2弾。
 相変わらずの光崎教授の天才的な卓見と、誰に対しても歯に衣着せぬ物言いは痛快。今回は、全編を通して「コレクター」と名乗る、県警の掲示板に意味ありげな書き込みをする人物が登場する。各編でそれぞれに解決ある話を示しながら、一冊を通して「コレクター」に迫る、と構成で前作よりも味付けがされている。
 ただ、その分一作ずつの質は前回の方がよかったような気もする。県警が事故や自殺でさっさと片付けようとする事案の、真相の意外性とその手際は、個人的には1作目ほどではなかった。

No.391 5点 スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー 2016/11/26 19:51
 記憶の奥にかすかに残る殺人。魅入られるように決めた新居が、実は自分が幼いころに住んだ家で、それがきっかけでその記憶が蘇る。殺人は本当にあったのか、であれば犯人は誰なのか―。
 ミステリである以上、実際に殺人があったことは間違いない(まぁ、そうではなかったという解決もあり得ないことはないが、そんなことなくてよかった。これはネタバレにはならんでしょう)
 過去に起こったことを暴くスト―リ―なので、周囲に真犯人はおり、素知らぬ顔で主人公に付き合っている人間の中にそれがいるのかと思うと…というスリルはあった。
 ミステリとしては標準レベル、だと思う。翻訳ものとしては読み易いのは相変わらず。

No.390 5点 呪い殺しの村- 小島正樹 2016/10/09 21:40
 タイトルといい、表紙といい、閉鎖的な村という舞台といい、「呪殺」といい…横溝正史、三津田信三を思わせる本格志向の作家というのはよく伝わってくる。その雰囲気は好きだし、東京の殺人のシ-ンなどはちょっとぞっとしたし、読み物として面白く読め、メインのトリックはなかなか面白かった。
 しかしながら今一つ評価が伸び悩むのは、大仰な謎の提示の割には明かされるトリックが小粒というか、小手先な感じがするのと、トリックに必要な部分以外が「木の陰で目立たないようにやり過ごした」的な雑な感じがするからだ。ある意味同等に不可能だと思われる部分なのに、「なんとかした」みたいになってしまっているのが、一方では理詰めで追っているのに非常にアンバランスで、腑に落ちない。
 数多くの謎を入れ込み、ある程度のところまではそれらを結び付けているのだが、最後の詰めが雑な感じがして、ある意味「風呂敷を広げ過ぎて、収集しきれていない」感じがする。
 本格好きであれば好まれそうな作家なのだが、他作品でもたいてい5~6点あたりで軒並みとどまっているのは、そんなところに原因があるのではないかと思う。

No.389 9点 確証- 今野敏 2016/10/09 20:57
 捜査三課・盗犯担当のベテラン刑事、萩尾秀一と、相棒の新人・武田秋穂は、渋谷で起きた窃盗事件の捜査に乗り出す中、前日の同時刻に同じ渋谷で起きた強盗殺人事件との関連を疑う。しかし、強盗殺人事件を担当する捜査一課の菅井は、そんな萩尾たちをはなから見下し、自分たちの方針に従うよう高圧的な態度で要求する。盗犯捜査一筋、周りからも一目置かれるほどの実力者萩尾もただでは引かない。「窃盗事件は、前日の強盗殺人犯に対するメッセージだ」と考える萩尾たちの捜査は果たして…。
 相変わらずキャラ設定がうまく、いぶし銀の捜査官・萩尾、分かりやすいほどの憎まれ役・菅井の対立が面白い。もちろんそうしたエンタメ要素だけでなく、2つの事件とその背景にある盗犯者たちの人間関係、真相へと近づく捜査過程も面白い。
 読ませる作家、今野敏健在。そう思わせる快作だった。

No.388 7点 図書館の殺人- 青崎有吾 2016/09/24 21:03
 図書館が舞台ということで、必然的に本とかミステリとかいったことがチラチラ出てくるのがまず楽しい。山田風太郎の「人間臨終図巻」に早速興味がわき、それこそ行きつけの図書館で借りてしまった(笑:さすがに書庫からの取り出しでした)
 ロジカルな仕組みには定評のある作者だが、基本的に「風ケ丘」メンバ―のキャラクタ―、ウィットに富んだテンポのいい展開が、リ―ダビリティを大きく高めていて、その中で披露されるロジックだから心地よいと感じる。
 ただ、私としては意外にロジックに飛躍を感じる部分も結構ある。裏染天馬のあまりにもスマ-トで天才的な推理は、見ている分には気持ちがよいが、意外に他の選択肢を主観で切り捨てていたり、「それ以外は絶対ない、ってこともない」と思えたりすることもある。だから、天馬の不可思議な行動を、種明かしの前に看破できることはまずなく、結局「解答待ち」になってしまうのがちょっと悔しい。
 ただ前2作よりは確実に面白かった気がする。なぜなんだろう。「やっぱり1作目がよかったよね」とならないことは嬉しいことなので、今後の作品にも期待したい。

No.387 5点 螺旋の底- 深木章子 2016/09/24 20:44
 村の名士のもとに嫁いだ女性。その住処である古い館には、大戦のころ、いわれのない罪を着せて処刑された村人たちの遺体が隠されているという。
 現在は時を経て、平穏に見える村だが、夫も、妻も、何かしらの企みをもっているような不審な行動が続く。いったい村に何が起きているのか、妻のねらいは何なのか…。
 外国を舞台にした話にしては、展開に平易なところがなく、面白く読み続けることができた。ただ、最後の真相が、ちょっと・・・フェアじゃないとまでは言わないけど、「え-・・・そう来る―?」という感があったので・・・この点数。

No.386 8点 鬼畜の家- 深木章子 2016/09/24 20:31
 面白い。
 事故死した家族の保険金が降りるよう、調査を依頼された探偵。探偵の調査相手の話をつないでいく形の中で、次々に分かってくるのが「異常な」家族の物語。調査を進めるにつれ、事件や事故で依頼者以外の全ての家族を失った、ことの真相が明らかにされていく。
 真相が明らかにされるにつれて何度もひっくり返される前提。細かいことを挙げれば突っ込みどころはあるかもしれないが、気にせずにこの仕掛けを楽しんだほうがいい。
 深木氏の作品は、総じてクオリティが高い。好きな作家の一人になった。

No.385 2点 綺想宮殺人事件- 芦辺拓 2016/09/03 20:39
 まぁきっと私が頭が悪いのだろう。
 読後の正直な思いは「時間の無駄だった」。読み始めた以上は読了しなければという意地と、「それでも最後まで読めば何かしら面白さがあるのでは…」という期待感とで頑張ったが、結局報われなかった。今となっては事件の内容すらあまり頭に残っていない。
 クイーンがちりばめる薀蓄や、ファイロ・ヴァンスが披瀝する薀蓄はそれほど苦ではない私だけど、それでもこれは苦痛だった。後半は「早く読了して次の本を読みたい」それだけだった。
 ゴメンナサイ。

No.384 6点 憂いなき街- 佐々木譲 2016/09/03 20:27
 道警シリーズ第7弾。
 津久井は、当番明けの夜に立ち寄ったバー「ブラック・バード」でジャズピアニストの安西奈津美と出会う。彼女は「サッポロ・シティ・ジャズ」のバンドメンバーに参加するため札幌に来ていたのだが、そんな2人は惹かれ合う仲に。
 しかしそんな中、女性死体が見つかる殺人事件が起き、奈津美に嫌疑がかかる。奈津美の無実を信じて捜査を進める津久井だったが…
 道警シリーズもシリーズとして進み、登場人物に愛着もあるので、私としては無条件に楽しめる。今回もまた「津久井チーム」と、別の事件を追う「佐伯チーム」との「2本線で話は進められる。ただ、今回は明らかに物語の主は「津久井チーム」であり、2本の線が交わる感じはなかった。
 作者の北海道やジャズへの愛着が強く感じられ、何となくそれも好ましく感じるため、読後感もとてもよかった。

No.383 6点 犬の掟- 佐々木譲 2016/09/03 19:52
 所轄の違う2つの路線で話が進められていくのは、「道警シリーズ」で氏がよく使う手で、今回もそのパターン。慣れない人には読みづらいかもしれない(私は慣れているので大丈夫だった)
 余計な虚飾のないストーリー展開はやはり読み易い。かといって味気ないわけではなく、人間要素も描かれているのが氏のうまさ。何を読んでも平均以下ということはなく、安心して手がつけられる。
 真相は意外性は確かにあるが、一方で「もしや…」という怪しさもあった。ある意味フェア。後味は人によって悪い人もいるかもしれない。
 最後に、タイトルの趣旨がよく分からなかった。

No.382 6点 クララ殺し- 小林泰三 2016/08/27 13:38
 前回に引き続くパラレル・ワールドの設定で、地球と同時進行の別世界とを行き来する構成も前回と変わらず。カタカナ名の登場人物が多く出てきて、地球の世界との重なりを考えながら読まなければならないややこしさはあるが、蜥蜴のビルをはじめとしてそれぞれのキャラが立っていて、ユーモアも十分にあり、楽しんで読める。
 今回はポイントが「誰が誰なのか?」だけにとどまらず、新たな要素も入ってきているので、その点では二番煎じ止まりにはなっていないとは感じたが、そのことによって複雑さもやや増した感じもあった。
 最後の推理と真相には、それなりに満足した。

No.381 8点 ミステリー・アリーナ- 深水黎一郎 2016/06/26 17:56
 まず、本当にこういう番組があったらいいのに。絶対観る。(もちろん…アノ要素はナシでね)
 趣向、発想からして面白い。そして、「多重解決もの」という、この構成にした意味もよく分かる。司会者のキャラクターも面白く、エンタメ要素もアリ。とにかく、面白かった。(あまりにも伏線的な要素が多すぎて、後半はもういちいち覚えていなかったが…)

 ただ、こうした構成上仕方がないのかもしれないが、後半は「叙述トリック」に傾倒していってしまい、一行かそこらの仕掛けでうんぬんするのがちょっと億劫だったのと、前半で何度か司会者が意味ありげな言い間違いをしていたのは結局何だったのかわからずじまいだったことから(わかっていないの私だけ?)、-2点のこの点数にさせていただいた。

 強く印象に残る作品だったことは間違いない。

No.380 5点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2016/06/26 17:38
 考古学の発掘隊という特殊な、大仰な舞台設定だった割にはそのこともさして生かされておらず、クリスティ作品にしては平凡というのが正直な感想。その舞台設定の雰囲気で楽しめればよいのだが、それも中途半端だった感は否めない。
 登場人物も多い割に、語り手である看護師が限られた時間で接した断片的な人物像しかなく、結局被害者ルイーズとの人間関係も推理の楽しみにつながるほど濃く描かれていない。特に調査員メンバーなどは、誰が誰なのかを理解するのに必死で終わってしまった。
 犯人の意外性は確かにあった。そこはよかった。また、生涯を添い遂げる素敵な相手と再婚したという、クリスティ自身の人生において重要な意味のある作品だったということで、そういう点でもまぁ読んでよかった。

No.379 8点 ささやかで大きな嘘- リアーン・モリアーティ 2016/06/26 17:23
 海辺の公立幼稚園、ピリウィー公立幼稚園。昨今よく耳にする、保護者、ママ友たちのグループ化、パワーバランスの取り合いはここも例に漏れずといったところ。そんな中で、毎年恒例の「トリビアクイズ保護者懇親会」が行われる。テーマに沿った仮装で出席し、トリビアクイズ大会が催されるという懇親会なのだが、その会において悲劇は起きた―
 冒頭に問題の「トリビアクイズ保護者会」の混乱の様子が示されるが、「誰が死んだのか」は明示されず、次の章から「六か月前」に遡って物語が展開されていく。ジェーンの息子のいじめ疑惑は一向に晴れない。別れた夫とその妻の子どもが同じ幼稚園に通っているマデリーン、息子にいじめの嫌疑がかけられたジェーン、嫌疑をかけている側の高IQ児のママ、夫の暴力におびえる裕福な銀行家の妻セレスト・・・火種になりそうな出来事は盛りだくさん。いったい誰が殺され、誰が犯人なのか?
 被害者や犯人、事件の内容を予想することを別にしても、幼稚園保護者の諸事情を読んでいるだけでも十分面白い。どこにでもありそう(?かな?)な保護者同士の確執を描きながら、事件に結び付く内容がちりばめられている手法もなかなかよかった。また、話の性質からドロドロした救いようのない結末も考えていたのだが、意外に読後感の良い結末だったことも高評価に結び付いた。

No.378 7点 だれがコマドリを殺したのか?- イーデン・フィルポッツ 2016/05/08 11:42
 ここまでの方が多く書かれているように、事件発生まで作品の半分以上を要しているが、まったく苦にならなかった。男女の愛憎劇、人間模様が面白く描かれており、もともとはミステリ作家ではなかった著者の力量がいい意味で発揮されている。
 逆にミステリの仕掛けとしてはこの時代だからこそで、今では典型的な「〇〇ネタ」である。少しでもミステリに通じている読者ならば早々に気づいてしまうトリックであるが、それでも最後まで興が削がれることがなかったのは、人物造形のしっかりした「物語」となっているからだ。
 それにしても主人公ノートンは、純粋であり悪気はないのだが、結果的に周りに甘えた生き方に映り、周りの人たちの気高さや心の広さが逆に際立った。自分の幼さ、青臭さが招いた悲劇であるのに(しかも周りの人はさんざん忠告したのに)、なんだかなぁ…。もっと痛い目見てもいいのに。
 …なんて思いながら、とにかく「かなり楽しめた」

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.31点   採点数: 1077件
採点の多い作家(TOP10)
今野敏(49)
有栖川有栖(44)
中山七里(40)
東野圭吾(34)
エラリイ・クイーン(34)
米澤穂信(21)
アンソロジー(出版社編)(19)
島田荘司(18)
柚月裕子(17)
佐々木譲(16)