皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1153件 |
No.473 | 5点 | 朱色の研究- 有栖川有栖 | 2017/10/29 10:41 |
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他の方には高評価の傾向もあるようだが、私は、マンション殺人のトリックに込めた「犯人の意図」は、策を弄しすぎであり、不確定要素が多すぎであり、素直に受け入れられなかった。よく推理の過程で「わざわざそんなことをする必然がない」と、推理から除外する論理があるが、この真相をそう感じてしまった。一回りして自分を容疑の圏外に、という理屈は分かるのだが…やり過ぎな感じ。
またこれも読者によって評価が分かれる「犯人の動機」、私は理解できないほう。ミステリの中に叙情性をもたせる作者の作風は好きではあるのだが、背景として「後押し」するぐらいが適度だと思う。 過去の放火殺人と海岸の殺人事件、そして今回起こったマンション殺人と、三つの事件を結び付ける構成は鮮やかだった。一つのことが分かるにつれて、並行的にそれぞれの解明に結び付いていく仕組みはさすがだ。 |
No.472 | 6点 | 謎の館へようこそ 白- アンソロジー(出版社編) | 2017/10/21 21:03 |
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講談社・新本格30周年記念企画の第2弾。「館」をテーマとしているため、変化球の多かった「七人の名探偵」よりもこちらのほうが本格っぽさはあってよかった。
◇陽奇館(仮)の密室(東川篤哉) 赤川次郎の某有名作のパクリでは? ◇銀とクスノキ~青髭館殺人事件~(一肇) ・・・オチがちょっと・・・うーん・・・ ◇文化会館の殺人 ――Dのディスパリシオン(古野まほろ) 手がかりから真相を推理する、という正道ではあった。が、簡単だった。 ◇噤ヶ森の硝子屋敷(青崎有吾) 人里離れた、限られたメンバー内での殺人、という本格ファン好みの話。 ◇煙突館の実験的殺人(周木 律) 閉塞的な特殊施設に集められた人々。米澤穂信「インシテミル」的雰囲気。 ◇わたしのミステリーパレス(澤村伊智) こんな話よく考えるなぁ。読んでいくうちに全体像が見えてくる。 |
No.471 | 5点 | 合理的にあり得ない- 柚月裕子 | 2017/10/21 20:40 |
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もと弁護士の上水流涼子が運営する探偵エージェンシーに舞い込む「〇〇的にあり得ない」依頼。IQ140のアシスタント、貴山と共に痛快に解決していく、連作短編集。
見目麗しい美女と、天才アシスタントの二人三脚による勧善懲悪的ストーリー。ドラマ化とか向いてるかも。読み物として普通に面白かった。 |
No.470 | 8点 | 邪魔- 奥田英朗 | 2017/10/16 21:23 |
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「無理」「最悪」と並ぶ3作の中では一番ミステリっぽいかな。作品としても個人的にはいちばんよかった。
複数の人物の物語がそれぞれ描かれる中で、次第に一つに重なっていくという手法は他の2作と同じ。ただ今回は、放火という一つの事件を巡って容疑者家族、刑事、裏で暗躍するヤクザとかかわってしまった不良、という組合せなので、偶然ではなく必然的なもの。だから余計にミステリらしく感じたのかな。 後半は、刑事・九野と、放火容疑者の妻・及川恭子との物語が主になるが、特に、普通の主婦であった恭子の凋落ぶり、追い詰められて狂気に走っていく様の描き方は秀逸。目の前の困難から目を背けたいがゆえに市民団体の活動に没頭していくところなど、よく考えて仕組んであるなあと感心してしまう。 相変わらずの含みを残した終わり方だが、今回は素直にそれを受け入れられた。 |
No.469 | 7点 | 最悪- 奥田英朗 | 2017/10/16 21:04 |
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「無駄」を読んで著者の文章が気に入り、続いて読んだ。期待を裏切らない面白さ。読み進める手が止まらない退屈しない展開、さり気無い描写の巧みさで、早くも自分の中では「まず、ハズレはない作家」ぐらいに思えてきている。
複数の人物のストーリーが並行して描かれ、結末に向けて一つになっていくパターンはおなじみの(?)手法。前半は町工場の経営者、銀行勤めのOL、半グレの青年の三者の物語だが、それぞれに起伏があり、しかもリアルで面白い。ただ、それぞれの「敵」がまた憎らしく、何とかしようと思うほどに泥沼にはまっていく様は、感情移入して読んでいるとこっちもストレスが溜まってくる(笑) 三者のストーリーが一つになる後半はかなりドタバタ劇に近い無節操さ。なんとなく消化不良な終わり方のように感じてしまうところもあり、この点数。 |
No.468 | 6点 | 女王蜂- 横溝正史 | 2017/10/12 20:12 |
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謎が随所に散りばめられ、いろいろと仕組んであり、長編にも耐えうる内容だと思うのだが、本サイトの評価をはじめとした、他作品より一段劣る評価にも共感できてしまう…なんでなんだろう?
19年前の男の謎の死をはじめ、次々に起こる殺人と、絶世の美女、琴恵・智子母子を巡る愛憎劇。通俗小説の色が濃いという評価もあるが、人物の謎の言動、密室の謎など、自分はミステリとしてもよく練られていると感じたし、退屈しない展開で読み進められるのだが…なぜか「どっぷり」できないままにサクサク進んでしまった感じ。ホントになんでなのか、自分でもよくわからない。少なくとも読み易くてよかったとは言えるのだが。強いて言えば「不気味さ」「陰惨さ」が足りないのかな…? そんな感覚だから、高評価をつけている人がいるのも逆にうなずける。密室の真相にはちょっと拍子抜けする感もあったが、19年前の事件の真相などはうまいぐあいに考えられていると思った。 そんなこんなでこの得点だが、横溝ファンは少なくとも読んで損はない作品だと思う。 |
No.467 | 8点 | ずうのめ人形- 澤村伊智 | 2017/10/09 10:39 |
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人並由真さんによれば、「ホラーながらミステリとしても面白い」と評判ということらしい。その通りだと思った。前作「ぼぎわんが、来る」もよかったが、これもまたよかった。同じ登場人物が出ていてシリーズ化される様相なので、楽しみ。
「ずうのめ」という語感や、赤い糸で顔をぐるぐる巻きにされている日本人形など、「気味悪さ」の作り方が絶妙で、作者のセンスに脱帽してしまう。オカルト雑誌の出版社が舞台となり、都市伝説が書かれた原稿が人の手に渡っていくことで呪いが拡散していく、というスタイル自体はありがち(作中にも多用される「リング」同様)だが、主人公が原稿を読み進めていくのと、現実世界とが交互に描かれていく構成により、少しずつ謎が深まり、そして解明へと向かっていく様が上手く描かれている。 この都市伝説の出所はどこなのか?描かれている話は実話なのか?だとすると、出てくる「りぃ」と「ゆかり」は実在するのか?それらの謎に対しての仕掛けも施されていて、「ミステリとしても面白い」というのも確かにうなずける。 今後も楽しみなシリーズだ。 |
No.466 | 6点 | 慈雨- 柚月裕子 | 2017/10/09 10:09 |
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警察を退職した神場智則は、退職したら行こうと兼ねてから決めていた四国の霊場巡りに、妻と共に赴く。刑事として数々の事件捜査に携わってきた神場には、その事件に関わった被害者たちの弔いという思いがあったのだが、その中に一つ、心の重しとなっている事件があった。それは16年前に起きた幼女誘拐殺人事件。現場付近に残っていた乗用車の類似性と、DNA鑑定の結果から犯人は逮捕され、実刑を受けて現在収監中なのだが、当時のDNA鑑定の精度などを踏まえると、不安の残る捜査だった。
そんな折、宿泊先の宿で、似たような手口の幼女誘拐殺人のニュースを見る。16年前の事件は冤罪だったのではないか、その犯人が同じ愚行を繰り返したのではないか―。思わずかつての部下、緒方に連絡をした神場は、離れた地で事件の捜査を手伝うこととなる。 警察小説のパターンの一つとも言えるであろう、「過去の冤罪」モノ。既に「犯人」をとらえ、実刑に処している以上、警察としてはタブー中のタブー。しかも今回の場合、もし冤罪であったならば、同時期のDNA鑑定を証拠として解決を見た数々の事件にまで累を及ぼすことが考えられ、その破壊力は想像を絶する。 寝た子を起こしたくない組織と、人としての真実を全うし、ケジメをつけたい元刑事。現役の元同僚たちにとっては、神場に協力することは自殺行為にも等しい。だが、刑事としての矜持を同じくする「同志」たちとの熱い絆が、真相を暴いていく。 こういう組織に立ち向かうタイプの警察小説は、やや気恥ずかしくなるような「熱い」やりとりがなされるが、それが醍醐味でもあるので、刑事たちの同僚、師弟の強い絆、刑事の家族の潔さと強さを存分に楽しめる小説ではあった。 |
No.465 | 8点 | 無理- 奥田英朗 | 2017/10/08 08:23 |
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氏の作品を初めて読んだ。描き方が上手いなぁ。550ページほどの話だが、一気読みしてしまった。お気に入り作家になりそうな勢い。
市町村合併により3市が一つになった「ゆめの市」。とりたてて売りもない、自家用車がなければどこへも行けないほどの田舎町。学を積んだ若者は都会へ出ていき、学歴のない若者は渋々地元に就職し、日々を凌いでいる。大型チェーン店の進出により昔ながらの個人商店は軒並み潰れ、商店街はほとんどシャッターが下りている。時代の変化に対応することができず、どんどん錆びれていく町で、どうすることもできずにただ毎日の生活に汲々とする人々の姿を描く。 田舎町で何とか名を成し、成功したい半グレ者。生活保護受給者の相手をしながら、醜い市民と町の姿に嫌気が差している公務員。東京の大学へ進学し、町を出たいと夢見る女子高生。新興宗教を心の拠り所にし、日々口に糊する生活を送る中高年女性。それぞれの人生が、それぞれに展開されていくが、狭い田舎町の中で、少しずつそれらが交錯していく。 とても面白く読ませてもらったが、ラストのまとめ方はちょっと雑で、尻切れトンボの感があった。でも、過程の展開が十分に面白かったので、それなりに満足した。 |
No.464 | 3点 | 悪魔の百唇譜- 横溝正史 | 2017/10/08 07:56 |
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イマイチ。
トランクに詰められた死体、トランプのカードに刺し貫かれた凶器と、謎の提示は魅力的なのだが、前の皆さんの書評にもあるように、とりたてて印象に残らない凡庸な登場人物が多く出てきて、誰が誰だったか思い返しながら読み進めるのが苦痛だった。 推理も精緻さがなく、飛びが多い気がするし、犯人も「怪しんで当たってみたら、ビンゴだった」というような印象。推理の中に「いったんどこかに隠しておいて…」とか「おそらく〇〇から聞いて知っていたのだろう」というような、大雑把なあて推量が散見していて、何だか・・・。後半は「とりあえず読了だけはしよう」という思いで読んでいた。 |
No.463 | 6点 | ダリの繭- 有栖川有栖 | 2017/10/01 19:39 |
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ダリに憧れ、親から受け継いだ宝石商を一代で大手に伸し上げた敏腕社長が殺された。遺体は、孤独な社長が癒しに用いていたフロートカプセル―「繭」に浮かんでいるのが発見された。恋い焦がれ、求婚していた女性秘書、その秘書を巡っての恋敵であったデザイナー、遺産を相続する腹違いの次男、三男と、取り巻く人間模様からさまざまに浮かぶ容疑者―真相解明に火村英生が乗り出す。
癒しの道具「フロート・カプセル」が事件の鍵となるわけだが、それがちゃんと真相や、さらには動機に関連している物語の仕組みが上手いと感じた。仕掛けの割にはやや冗長な長さではあるが、著者の人物造形と描写の巧みさで飽きさせない内容になってはいる。 ただ、その人物造形がひっくり返された感じはあった。解決編のくだりでその説明になる新事象は提示されるのだが、後出し感もあり、ちょっと腑に落ちない思いは残った。どうせなら前半で「こういう人だ」という人物像を描かない方がフェアになったなのにな、と思う。 |
No.462 | 5点 | 7人の名探偵- アンソロジー(出版社編) | 2017/10/01 19:17 |
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作者陣を見ると垂涎の豪華な顔ぶれ。だが、出版社の意気込みに比して作者陣は「お遊び」であったり、「いつかやってみたかったネタの試し」であったりしたのかな。要は、新本格の記念企画なんだから、王道の直球フーダニットを楽しみにページを繰ったのだが…ほとんどが変化球だった。
1作目「水曜日と金曜日が嫌い」(麻耶雄嵩)。らしいといえばらしいのだが、最後にあんなひっくり返し方…わかるかい、そんなん、って感じ。 2作目「毒饅頭怖い」(山口雅也)3作目「プロジェクト:シャーロック」(我孫子武丸)6作目「天才少年の見た夢は」(歌野晶午)変化球というか色モノという印象で…3と6ってちょっとかぶってない?? 4作目「船長が死んだ夜」(有栖川有栖)5作目「あべこべの遺書」(法月綸太郎)やっと素直な(?)本格フーダニットという印象があったので、好感がもてた。それまで変化球続きというストレスの上で読んだので、実際は標準レベルかも。 ラスト「仮題・ぬえの密室」(綾辻行人)これはエッセイ(?)のようなものだった。実話?。ただ新本格ファンには読んでうれしい内容ではあった。 |
No.461 | 7点 | トリック・ゲーム- 事典・ガイド | 2017/09/28 20:01 |
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直前の、斉藤警部さんの書評を見て何かが記憶を刺激した。「点描の不気味な挿絵・・・?内外名作のネタバレ・・・?」
「・・・あぁ、昔読んだぞ、確かソレ!!」・・・ってな感じで思わずAmazonで購入してしまった。やっぱり、若き日に読んだヤツだった。 「謎解きだけ、手軽に楽しみたい」というときには最適。ただ、名作長編を限られたページで抜き出しているものも多いので、「ソレは背景があってこそでしょ」と感じるものもある(年を経て原作を読んだから言えること(笑))。実際、そういうものは「解答」の説明が長い。 基本的にはこういうのスキ。でもやっぱ、超有名作品のネタバレも平気でされてるから「これから内外名作を読むぞ!」という方は、ある程度読まれてからの方がいいかも。そうしたら、伏せられている「作品名当て」も楽しめますよ。 |
No.460 | 7点 | 暗い宿- 有栖川有栖 | 2017/09/24 14:37 |
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宿をテーマにした、火村&作家アリスシリーズの短編集。
廃業する民宿の下から掘り出された白骨(「暗い宿」)、石垣島のホテルで開催される犯人当てゲーム「ミステリー・ナイト」に集った人たち(「ホテル・ラフレシア」)、鄙びた旅館に表れた、顔全体を包帯で包み、サングラスをかけた不気味な男(「異形の客」)、豪華ホテルで突然災難に巻き込まれた火村(「201号室の災厄」)と、様々な趣向が凝らされたオイシイ作品集。 一番本格ミステリの色が濃いのはやはり「異形の客」か。ボリュームも本書では一番だが、それに見合う謎解きの面白さがあった。表題作「暗い宿」は、一種のジメジメ(?)した雰囲気がそれらしくてよかった。 全作品を通じて、「落としきる」一歩手前で話を終わらせており、余韻があってよいと思う人もいれば、すっきりしないと感じる人もいるかもしれない。ただ「ホテル・ラフレシア」の終わり方はちょっと悲しすぎた。 それにしても、(取材を兼ねているとはいっても)気ままに、時間に縛られない一人旅を堪能するアリスを見ていると羨ましい。きっと読んだ多くの人が、旅に出たくなる。 |
No.459 | 7点 | 殺人方程式- 綾辻行人 | 2017/09/24 14:10 |
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死体の切断理由、移動させられた理由など、猟奇的犯行と不可解な状況の「ホワイ」が納得のいく形、しかも丁寧な伏線の上で説明されていて、久しぶりにド直球の本格ミステリを楽しんだ。特に、死体移動の理由が秀逸な仕掛けに感じた。
トリックは、スケールは大がかりで手口は細かい。詳細な仕掛け等は分かりようもない感じがしたが、大体「どこからどこへ」ということが看破できればまぁ満足、かな。何気ない描写にきちんと伏線がちりばめられていて、さすがだなと思った。 犯人は分かったが、残っている最後の謎の真相にはちょっと面食らった。突発的で、脈絡のない偶然の犯行(?)という感じがして、あまりすっきりしなかった。探偵役が双子で、入れ替わって推理をすることも、特に必要な設定とは感じない。 というように、やや不要な装飾がある感はするが、「謎解き」の魅力は十分。これぞ新本格、という作品だった。 |
No.458 | 8点 | パレートの誤算- 柚月裕子 | 2017/09/24 13:41 |
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物語の題材は、「生活保護受給者」。市役所の福祉課に勤める牧野聡美は、ケースワーカーとして受給者の定期訪問をすることになる。心の底には、生活保護受給者に嫌悪を抱いているからだ。しかしそんな聡美に、頼れる上司の山川は、「やりがいのある仕事だよ」と励ましの言葉をかける。尊敬する上司の言葉に背中を押された聡美だったが、その直後に、その山川が訪問先のアパートで不審な死を遂げる―
生活保護、という昨今話題になているテーマを取り上げ、切り口としたのは素直に面白かった。ケースワーカーとして訪問する件では、受給者たちの横顔も描かれていて興味深い。「貧困ビジネス」と言われる、暴力団が受給者と結託してお金を得ようとする不正受給のことなども書かれ、制度の裏表がよくわかる。 終盤の真相に迫る急展開のくだりで真犯人はわかったが、明らかになった真相から、山川の不審な行動についての説明もきちんとつけられ(腕時計のこと以外は…)、納得のいくものだった。 かなり面白かった。 |
No.457 | 6点 | 怪しい店- 有栖川有栖 | 2017/09/18 19:36 |
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火村&作家アリスシリーズの短編集。相変わらず、短編というサイズに程よい適度な仕掛けのパズラーで、安心して読める。
「古物の魔」…骨董屋の店主の撲殺事件を解くフーダニット。最後、犯人を追い詰めていく火村の推理が心地よい。無難に面白い。 「燈火堂の奇禍」…アリスが立ち寄った先で前日に起こった強盗事件の真相を解く。ちょっと日常の謎テイストの、面白い仕掛け&真相。 「ショーウィンドウを砕く」…倒叙モノ。喫茶店のくだりで、ほぼ看破できる。(これはどういう意味で「店」に関係する作品とされているのか?そっちのほうが謎だった(笑)) 「潮騒理髪店」…火村が調査先で立ち寄った理髪店での、日常の謎。昭和の映画のようなシーンと、鄙びた村の雰囲気にほっこりする作品。 「怪しい店」…「みみや」と称して悩みある人の話を聞くことを生業としていた女性の殺害事件。本短編集ではもっとも本格的。 有栖川氏の短編集なので、基本水準が下がることはなく、安心して読めます。 |
No.456 | 5点 | わざわざゾンビを殺す人間なんていない- 小林泰三 | 2017/09/17 16:42 |
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人間が死後、活性化遺体=「ゾンビ」になるという現象がウイルスによって現実化し、蔓延しているという設定によるSFミステリ。
ある企業の、研究成果発表の場に、担当となっていた社員が現れない。すると別室から悲鳴が聞こえ、駆けつけてみると当の社員は「ゾンビ」になっていた―。ゾンビになったということは、直前にその社員は死んだということ。事故なのか?それとも事件=殺人なのか?図々しく警察の捜査に自ら首を突っ込む謎の探偵・八つ頭瑠璃が、身を賭して謎の解明に挑む―。 ・・・というように、虚構のSF世界を下敷きにしたフーダニット。真相・トリックがきちんと「ゾンビ世界」設定であるからこそ、になっているのはよかった。 ただ、昨今「これまでにない仕掛けのミステリを・・・」という意気込みからか、こうした特殊設定を生かしたネタの作品は多くて、Amazonその他で絶賛されているほど衝撃はなかったのが正直なところ。(ちょっと前に、白〇智〇の「お〇す〇人面〇」を読んでいたから、なんとなくダブったというのもある) ちょっとズレた会話を含むテンポの良い展開には好感がもてた。個人的には「ゾンビイーター」のリーダー格の女がかっこよかった。 描写はかなりグロいというか、気分悪くなるところもあるかも。 |
No.455 | 5点 | 真夜中の探偵- 有栖川有栖 | 2017/09/16 11:06 |
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北海道が「日ノ本共和国」となり日本と対立し、警察の締め付けの中、探偵行為が違法とされた世界設定での、空閑純(ソラ)シリーズ第2作。
探偵行為により投獄された父親を案じながら、失踪した母親の行方を追うソラは、依頼者と探偵との仲介役を務めていた男、押井照雅に会う。押井のもとで母親の最後の依頼について情報を得、母親捜索に向かおうと考えていたソラだったが、そんな折に押井邸に出入りしていた元探偵・砂家兵司が殺害される事件が起こる。 砂家は、水を満たした棺のような木箱に密封され、溺死させられていた。なんのためにそのような方法で殺害されたのか?犯人は誰なのか?探偵をめざすことを決意したソラは、推理を巡らせる―。 有栖川作品らしい、トリック解明に主を置いたオーソドックスなミステリ。トリックは看破できたが、犯人・動機は後出しの感があったので、分かりようがないかなぁ。でもまあ、中編レベルの長さで、サクサク読めるのでそれほど重厚な仕掛けでなくても満足できた。 |
No.454 | 4点 | 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 | 2017/09/16 10:47 |
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ある日突然、全人類の記憶が10分ともたなくなり、世界がパニックとなる。自分が誰であるか、などの基本的な情報は残っているが、10分おきに「あれ?今何してたんだっけ?」「ここはどこだ?」ということの繰り返しになる。そういう状況(短期記憶喪失)になったということの理解も毎回しなくてはいけないので、しばらく世界は麻痺するが、やがて少しずつ状況把握をし、対策が積み重ねられ、数年後には身体に挿し込む「外部記憶装置」が開発され、人々はそれに頼って生活するようになる。
しかし、この身体に挿し込む「外部記憶装置」は、ある肉体に挿し込めば「その人」なれてしまう。例えば肉体が死を迎えても、「外部記憶装置」が破壊されず残されれば、他の人の体で「再生」することもできる。結局、人格とは、「人」とは、記憶なのか?魂というものは存在するのか?そもそも生とは、死とは、現実とは何なのか?・・・そんな感じの一種の哲学的(?)な内容に話が及んでいく。 「大忘却」が起きてからのさまざまな場所でのエピソードが脈絡なく描かれる展開が続くので、正直ややこしい。いくつかのエピソードは、結局そのまま置き去りにされていると感じる(「あの話は何の意味があったの?」って感じで)何が描きたかったのかよくわからなかった。 |