皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.555 | 5点 | 泡坂妻夫引退公演- 泡坂妻夫 | 2019/05/20 10:35 |
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私は泡坂妻夫の現代ミステリのみ愛しているので、否応なしに氏の全ジャンルを縦断して読まされるこの本は有難迷惑なのである。ファンらしからぬことを言うなら"コスト・パフォーマンスの悪い本”。
ミステリ度低めな短編が多く話そのものにはあまり乗れなかった分、泡坂妻夫の文章の心地良さを再確認は出来たけれど、だからと言って今まで避けて来た時代物や職人物の本に手を伸ばそうと言う気にはならなかった。幾つかの現代ミステリの中では、『煙の殺意』あたりに収録されてもおかしくない「荼吉尼天」が収穫か。 |
No.554 | 5点 | 赤い館の秘密- A・A・ミルン | 2019/05/07 11:28 |
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好感の持てる筆致でテンポ良く進む、のだが何だか薄味でいまひとつ乗り切れなかった。しかし真相には膝を打った。館の部屋の配置はしっかりイメージして読むべきだったか……。 |
No.553 | 7点 | 指し手の顔- 首藤瓜於 | 2019/05/07 11:27 |
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もっと情報を整理して上手く刈り込む余地はあった気がする。しかし一方、ごちゃごちゃしたジャンク的な要素があってこそ作品世界の猥雑な空気感がこれだけ立ち上がるのだとも思う。まぁ読み易い文章なので、この長さもギリギリOKか。鈴木一郎って(表面上は)出来過ぎで意外と使いづらいキャラクターなのかも。 |
No.552 | 6点 | 大聖堂の殺人 ~The Books~- 周木律 | 2019/05/01 12:51 |
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何故この人達は殺される危険性を承知の上で従容と成り行きに従うのか? の答として、登場人物(百合子も含む)の “狂信” がそれなりに感じられて良かった。
しかし、ネタバレするが、トリックは不充分だ。温度が上下すれば水も影響を受けるわけで、大量の水蒸気が発生し体積の膨張により建物が壊れる? 注水口が凍りつく? といった問題が生じる筈だがそれについて言及されていない。 |
No.551 | 6点 | 鏡面堂の殺人~Theory of Relativity~- 周木律 | 2019/05/01 12:50 |
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森博嗣の某作と某作と某作を混ぜたようなトリックで、驚きつつもがっかり。一方で、館モノは展開がパターン化しがち、という点を差し引けば、シリーズ初期に比べると小説の書き方がなかなか上達したように思う。登場人物の行動原理が矢鱈と形而上的で共感しづらい点は、慣れると面白くなってきた。 |
No.550 | 3点 | 秘密機関- アガサ・クリスティー | 2019/05/01 12:49 |
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作品としてのポテンシャルが低いので本気で読むとアラが目立ってしまうような。トミーとタペンスは若気の至り全開で意外に軽佻浮薄なキャラクター。場当たり的に感じられるストーリー展開がメタ的に面白くはあった。 |
No.549 | 7点 | 余物語- 西尾維新 | 2019/04/23 13:56 |
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怪異アリの世界観に於けるそれなりにロジカルなミステリ2編。『少女不十分』にも通じる結構ヘヴィなネタを、しかし本格ホラーの文法ではなく軽妙なキャラクター小説にまとめている(勿体無い?)。斧乃木ちゃんの罵倒も3割増。チラチラ見えるだけの食飼命日子というキャラの使い方は、じらしプレイ? |
No.548 | 6点 | 刑事の墓場- 首藤瓜於 | 2019/04/19 11:34 |
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正統的警察小説はあまり肌に合わないが、こういう“落ちこぼれ系”は割とアリだ。
気になった点。CGによる写実的過ぎる似顔絵は、本来大雑把な人間の映像記憶に対して逆にイメージを限定してしまうので、犯罪捜査には有効ではない――という話も読んだことがあるのだが……? |
No.547 | 8点 | 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 | 2019/04/16 11:54 |
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正直、『屍人荘の殺人』は単発の打ち上げ花火だと思っていた。変な話を思い付いた人が偶然それなりの筆力も有していたという印象で、一作品としては面白かったものの、それが次回作の品質や作家としての存在意義を保証するとまでは評価出来なかったのだ。その点、作者に謝らなくては。超常現象アリの世界観によるロジックは見事。文章が無難、ではあるが、そういう部分で引っ張る読ませ方は意図していないのだろう。
ヒルコという名をついエビスと読んでしまうのが困ったところ。 |
No.546 | 3点 | 人形はなぜ殺される- 高木彬光 | 2019/04/09 13:15 |
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何か変だ。
ネタバレしつつ書くが、人形を使ったアリバイ工作をする必要なんてあったのか? アリバイ工作とは、その人を殺せば自分が疑われる前提で、でもアリバイがあるから無理ですよ、というものだろう。第一幕に於いて、この犯人はほとんど表舞台に出ていないのだから、そのポジションを維持したほうが得策なのに、わざわざ事件の渦中にしゃしゃり出て関係者リストに名を連ねる心情は如何に。 しかもその行為、最悪の場合は列車を転覆させるから犯人も命懸けだ。割に合うのか? そういう不自然さを補えるほどのドラマ性も無く、上手く肉付けし損ねた骨をそっと出された気分。 |
No.545 | 8点 | 脳男- 首藤瓜於 | 2019/04/03 11:38 |
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これは面白いキャラクター小説だ。難しそうなテーマを現代医学の視点でもっともらしく血肉化することに成功していると思う。医師も警部もちょっと鈍いんじゃないのと感じたところはあるが、読者に解説をする方便としてそういう会話は必要なのだろう。
どうしても宣伝文句では鈴木一郎の特性が売りになってしまうから、ネタバレの上で読む羽目になるのが痛し痒し。それだけならまだしも、ストーリー後半過ぎの事柄まで粗筋で明かすのはあんまりだ。 |
No.544 | 4点 | RPGスクール- 早坂吝 | 2019/04/02 11:25 |
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こういう軽めの作風でも上手下手というのは確かにあって、本書はあまり流れが頭に入って来なかった。それともRPGをやったことがないので反応すべきネタを素通りしちゃったのだろうか。とはいえ結末でいきなりミステリ化して繰り出されるロジックは悪くない。あのひとが殺されるのは結構意外な展開だから粗筋でバラさないほうがいいなぁ。ところで制服のまま空中浮遊させたら下から丸見えですよん。 |
No.543 | 7点 | ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 | 2019/04/01 11:07 |
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「妄想日記」。アレが結局ダミーだなんてがっかり。期待してたのにぃ。
「人喰いの滝」。随分と手間暇のかかりそうなトリック。何故死体を滝に喰わせなかったのか。行方不明扱いで済みそうな気がするけど。 国の名を冠した短編がひとつしか収められていないのに本そのものを〈国名シリーズ〉と銘打つのは誇大広告では? そもそも、どんなモノであれどこかの国で生まれてはいるわけで、タイトルの共通性だけでそう呼ぶのは恣意的というか、かなり実体の無いシリーズだと思う。特別に描写が克明だと言うことでもないし。 |
No.542 | 5点 | 千年図書館- 北山猛邦 | 2019/03/28 12:54 |
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“全てはラストで覆る”と予告されると意識的にも無意識的にもそういう読み方をしてしまうから、どんでん返しはもはやどんでん返しではなくなってしまうのである。ラストへ読み急がせるその手の謳い文句はそもそも如何なものかと思うのだが、のみならず本書に収録された作品群が必ずしもそのように結末に向けて収斂して行くタイプのものだとは思えない。表題作や「終末硝子」の世界設定、「今夜の月はしましま模様?」のキャラクター等、非常に魅力的で、読み終えたくない、少しでも長くその場に留まりたいと願ってしまった。かねがね各出版社にはそうやって結末を強調するような売り方は控えるよう要請しているのだが……。
最後の話のラスト、いまひとつ筋が通っていないと私も思います。 |
No.541 | 7点 | 毒よりもなお- 森晶麿 | 2019/03/26 12:20 |
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首絞めヒロのキャラクター設定も良いが、何よりも、語り手が周囲の心情を顧みず手前勝手に詮索して何の反省もしない様子について、傍迷惑な奴だな~と思いつつ共感出来ないまま読み進められる痛い書きっぷりが見事。
で、八合目までは文句無しだったのだが……結末で示される“意外な設定”は要らなかったんじゃないか。期待通りの形でしっかり締めれば充分なのに蛇足を付けちゃった感じ。 パクりだという意味ではないが、Y氏の某作と設定に共通点があり、雰囲気としても似通った印象を受けた。 |
No.540 | 6点 | だから殺せなかった- 一本木透 | 2019/03/25 11:06 |
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第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。
“血液型信仰”の強い日本で、大学生になるまでそのことに気付かない、また両親も息子がそれにずっと気付かないことを期待する、というのは違和感アリ。 解決編は、犯人がいらんことをしてそのせいで正体が露見した、という印象が強い。作者が話をまとめる為にミスをさせた、という感じ。犯人像としても、いまひとつピッタリ嵌った感じはしない(そのギャップが狙いかとも思うが、それでも尚)。 ひとつの大きな塊としては悪くないが、枝葉にもっと工夫の余地があったと思う。 |
No.539 | 6点 | 毒草師 七夕の雨闇- 高田崇史 | 2019/03/20 11:17 |
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①薀蓄アレコレ②特異な価値観で生きる登場人物の描写③事件の経過とその謎解き、の三要素にそれぞれ相応の頁を割く必要があるはずなんだけど、一冊分の長さはそれには足りない。で、①を優先して②は“そういう設定なんです!”で押し切り③はサラッと表層的に話を進める。と言うのがこの人の作品に共通の傾向だと思う。薀蓄が面白いからまぁ良いのだけれど、殺人事件が単なるオマケに感じられてしまう嫌いがある。
本作について言えば、“解毒斎”のメカニズムが未詳なので“なぜ彼が死んだのか”という謎が全然面白くならなかった、のが勿体無い。 |
No.538 | 8点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2019/03/18 10:58 |
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リアルタイムの読者は、本書が刊行された時、XYZ三部作かと思ったらまだあったんかい!? と突っ込んだのではないだろうか。
必要以上に謎めいた行動をするキャラクターが目に付いて、心情的には充分納得出来たとは言えない。しかし(トリックやロジックではなく)ストーリーと言う点では、四部作の中で一番面白い。 ところで何故ドルリー・レーンものの作者名はバーナビー・ロスからエラリー・クイーンに変わってしまったのだろう。複数のペンネームを持つ作家など珍しくないのに。どんな事情にせよ、野暮なことだなあと思う。 |
No.537 | 8点 | 混物語- 西尾維新 | 2019/03/08 12:07 |
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西尾維新の諸々のシリーズのヒロインと阿良々木暦が作品世界を越境して出会うと言う、ファンの為のお楽しみ企画だが、存外にミステリ度が高い。概ねはデフォルメされた世界観に準拠したバカミスだが、私の見たところ全15編中4編はちゃんとしたミステリにも転用可能。勿論メインはキャラクターの絡みなんだけどねっ! |
No.536 | 6点 | 因業探偵 リターンズ 新藤礼都の冒険- 小林泰三 | 2019/03/04 12:30 |
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謎解き要素はあまりないけど丁々発止の会話劇が楽しい。この作者の定番ネタが幾つも出て来るが、そういう時に“またか”と感じる作家と“待ってました”と感じる作家がいて、小林泰三は明らかに後者。得だね。 |