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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1971件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1851 4点 死体で遊ぶな大人たち- 倉知淳 2024/12/06 11:58
短編×4、どれも物足りない。論理が粗い。
 特に「三人の戸惑う犯人候補者たち」。真相が人海戦術ではつまらない。すると注目すべきはホワイだが、“話を聞かれた” だけのことをフォローする為に死体そのものを見せるのは本末転倒では?
 他にも――×××の性質が想像に基づくものでしかない。回りくどい偽装工作を施す心情的裏付けが強引。棒2本程度を隠すのってそんなに大変か?
 最後の名前の件には笑ったが、それだけではねぇ。

No.1850 7点 デッドソルジャーズ・ライヴ- 山田正紀 2024/11/29 12:54
 山田正紀はこういう感じの連作長編を幾つか物しており、既視感は正直あるのだが、本作は “死” の定義を揺るがすガジェットと、レプタイルの存在によるエロティックなテイストが読みどころ。今時なら強引に特殊設定不条理ミステリ(笑)と呼べなくもない。ボブ・ディランから荻野目洋子まで、サントラ盤でも作りそうな勢いで引用している。え、ファンなの?

No.1849 7点 シャーリー・ホームズとジョー・ワトソンの醜聞- 高殿円 2024/11/29 12:53
 風雲急を告げる三巻目。
 “記憶の欠落” に当人が気付く場面って、概してわざとらしいと言うか、パターン通りの描き方をされるケースが多いと私は思うのだけれど、本作はそこが上手い。語り手が自らの混乱を把握するまで、読者も混乱を余儀なくされる感じが。
 しかもテーマは愛だぜ。ピンからキリまで数々のアンサーはどれもそこそこ頷けるから困る。これ、ホームズ・パスティーシュであることを逆手に取ってヘヴィな方へズブズブ踏み込んで行くな。ワトソン役にあんな過去とかアリか。ガールズの御気楽ワールドだと思っていたのがだんだん壊れ物注意! に感じられて来た。不穏な次巻予告付き(なのかな?)。

No.1848 7点 太陽の汗- 神林長平 2024/11/29 12:53
 翻訳機は正しく機能しているのか、通信機の向こうにいるのは本当にその人なのか。機械を介したコミュニケーションの盲点。
 でも、ハンドル・ネームやアヴァターの使用者がいつの間にか入れ替わっていた、みたいなミステリは近年良くあるよね。1985年発表のSFが、40年を経てミステリに熟成されたか。
 流石に結末はSFで、この曖昧さは良いのか悪いのか。肘を切ったり殴られたり、肉体性を思索の合い間に挿む人間的なところが若いな~。

No.1847 7点 キッド・ピストルズの妄想- 山口雅也 2024/11/29 12:52
 “内省的な生活を続けてきた者にとって、人生の最高の歓びは、感情を共有できる同胞を見出すことです。”

 まさにまさに。作者自身が実作に留まらずミステリの伝道みたいな活動をしているのも、そういう思いからだろうか。
 「神なき塔」の〈狂気の論理〉は牽強付会だと感じるが、他の二編の気持は判る。

No.1846 7点 ミノタウロス現象- 潮谷験 2024/11/29 12:52
 ポリティカル・パニックSF但しやや軽量級。市長の奮闘記も怪物を巡る陰謀も、いい塩梅に端正かつエモーショナルで一気読み。しかしこれだけ大きな “話の本筋” があると、殺人の件はほんの付け足しみたい。

No.1845 5点 少女には向かない完全犯罪- 方丈貴恵 2024/11/24 11:12
 多重解決の最後の最後は “意外な真相” と言うよりも “話を逸らした” 感じ。真犯人の属性&動機がアレなら、主人公みたいな立場の者がもう一人存在したってことであって、それは割と誰でも良くない? “あの儀式を受け継げるのは、あの人の○○であるその人だけ” と限定するのは論理的ではないと思う。
 
 そしてそれ以上に、音葉の言動が色々と鼻に付いて読みづらかった。作品全体の評価を下げるレヴェルで。少年時代の御手洗潔や真門浩平『バイバイ、サンタクロース』は普通に読めたから、“分不相応な子供” と言う点ではなく個のキャラクターの問題なのだろう。

 “柄” とか “赫子” とか、ネタの為みたいなネーミングは(わざと目立つようにやってるにしても)如何なものか。
 否、これは “姓名が人生を支配している” と言う或る種の運命論の反映で、作品世界を一つの箱庭として鎖す手段なのかも知れない。

No.1844 7点 少女モモのながい逃亡- 清水杜氏彦 2024/11/24 11:12
 悪い意味では全然なく、ジョージ・オーウェル『一九八四年』のカジュアルなリライトと言う感じ。まぁこの系統の話は多かれ少なかれそう感じてしまうのかな。
 貧しく、汚く、夢も希望も無く、弱い者が更に弱い者を叩く。初出が小説推理ってことでミステリ的反転を期待するも、殺人事件も叙述トリックも無し。バタバタ死ぬから殺人は事件じゃないんだね。日本語かとも疑わせる “モモ” と言うネーミングだが、伏線ではなかった。結局かにばらなかったけど(期待してたのに)、しかし残酷物語はリーダビリティが高いものだなぁ。

No.1843 8点 少女マクベス- 降田天 2024/11/24 11:11
 健闘はしているが “天才” を描写するのは難しい、とまず思った。演出家の仕事って部外者には判りにくいし。了の才能そのものよりも、周囲の人の褒め言葉によって彼女を浮かび上がらせている。苦肉の策。ではあるが最後、わたしたちみんなが間違えた、了を神にしてしまった、と言うところに繫がって来るのかも。ところで彼女は眼鏡っ子の筈だが作中の描写が足りないのでは。
 4章冒頭は演劇論に託けてのフェア・プレイ宣言? その自信に相応しく、伏線はしっかり回収され、少女達の仮面を残酷に裏返す様が過不足無く描かれている。情熱と表裏一体のドロドロに目頭が熱くなった。
 エントリー脚本の提出手順は不正を招きかねない方式でちょっとわざとらしい。

 それにしてもネタ元としてシェイクスピアは不滅。基礎教養としてきちんと読んでおくべきか。

No.1842 5点 少女地獄- 夢野久作 2024/11/24 11:11
 語り口が孕む妙な違和感には惹かれるものがあるけれど、結末がコレでいいの? と困惑すること頻り。ドストエフスキーを頑張って読んだ時の感覚と似ている。ミステリの文脈ではなくグロテスクな純文学だと思った方が、ここに封じられたものを感じ取り易かったかも知れない。

No.1841 5点 少女外道- 皆川博子 2024/11/24 11:10
 この作者の表現としては、こういうものの方がコアに近いのかも知れない。私はエンタテインメントの読み方の癖が抜けずに、つい落としどころを求めてしまうな~。
 連作長編ではないけれど、収録作品が互いに反響し合ってとある世界を織り上げている。そのせいもあって、どの短編のどの部分が良い悪いと言った感慨は持ちづらい。ミステリ的に見ると視点・時系列の転換や叙述上の仕掛けが中途半端に思えるが、そういう “パターンに則らない自在さ” こそがこのささやかな箱を成立させているのである。

No.1840 8点 時空犯- 潮谷験 2024/11/13 12:38
 これは良いタイムリープだ。消去法のロジックとシンプルに結び付きつつ余計な混乱は招かず。連れ出された時空で脳が心地良く揉まれた。ナイス知性体。犯人探しがあるだけで “ミステリ” との認識になりがちだけど、私は概ねSF、それこそクラーク系として楽しんでいたなぁ。モグラの対義語はモゲラさん卓見です。

No.1839 7点 キッド・ピストルズの冒瀆- 山口雅也 2024/11/13 12:37
 本格ミステリと言うスタイルのパロディ? 装飾部分を除くと、どの話もミステリ的には割と普通のアイデアだと思う(組み合わせ方は上手い)。
 しかし、アイデアと装飾と、どちらがより “本質” かは一概に言えない。総合的に差別化は出来ているのでいいんじゃないの。
 バンドを描いた小説には “イヤイヤそういうもんじゃないでしょ” と感じることがとても多いけれど、「パンキー・レゲエ殺人」は結構スンナリ腑に落ちた。

No.1838 6点 仮面- 山田正紀 2024/11/13 12:36
 犯人と被害者、現実と回想、書き手と読み手。様々な境界線が融解融合する騙りに楽しく幻惑された。記号論的転換によるホワイダニットも、この世界観なら説得力充分イヤ寧ろ斯くあるべしと言う感じ。タマネギの件をダミーに使ってしまうとは贅沢な。
 ▲▼を用いたアレは戴けない。あまりにあからさまだし、テキストが長過ぎ。

No.1837 6点 ニャン氏の事件簿- 松尾由美 2024/11/13 12:34
 猫が人語を話さないからと言って、人語を解さないだろうとするのは根拠薄弱である。
 彼等はしばしば図々しいだとか何も考えていないようだとか言われるが、その誤解を正し本来の知性品性ある姿を世に知らしめるこのような書の存在はまことに喜ばしい。
 ミステリ部分は創作でも、それ以外は作者の鋭い観察眼および彼等との対話の賜物であろう。あなたにネコのお恵みを。

No.1836 5点 二人一組になってください- 木爾チレン 2024/11/13 12:34
 これは、デスゲームをやっておきながら、その妙味を放棄したような設定では。
 ルールに伴う、誰と誰が今回組んだから以後組めるのは誰々で~、みたいなチェックが物凄く面倒でややこしい。更に視点人物が一章ごとに変わるから一貫した戦略と言うものが読者視点では成立しない。
 故に番狂わせらしき展開があっても、そう来たか! えっそんな手アリ? と言った反応が出来ずに淡々と成り行きを見守るだけ。ゲーム自体には寄り添えず、単なる少女達のプロフィール集だった。
 終章はヤングアニマル掲載の某漫画を思い出したが、もしかしてこういうNEVER ENDINGは伝統的なパターンなのだろうか。

No.1835 8点 月の扉- 石持浅海 2024/11/08 12:38
 ハイジャックのストーリーと不可能犯罪の見事な融合。この作者は悪巧みする側を書く方が筆が冴えるんじゃない? 動機にも、それに伴う結末にも合点が行った。ただ、密室のトリックはイマイチ好みではない。

No.1834 7点 虚栄の都市- 山田正紀 2024/11/08 12:37
 「いったい、何なのだ……」

 この呟きに全てが凝縮されているようだ。流れ来て流れ行く、その一部分を切り取っただけのような、全然完結していないじゃないかと言う物語は、山田正紀の(特に初期)作品には割と見られる形態で、つまり本作、実はSFなんじゃないかなぁ(フレッド・セイバーヘーゲン『バーサーカー』シリーズみたいな)。
 冷酷にバタバタ死ぬ反面、小さなエピソードで人々に “顔” を与える手法が、ここでは取って付けた感じではなく効果を発揮していると思う。アクション系と政治的な題材も上手く並走して、意外と盛り沢山。

No.1833 6点 透明な一日- 北川歩実 2024/11/08 12:37
 記憶障害。ありがちだな~。でも読み進むとそれは本題ではなくピースの一つに過ぎないと判る。世界の反転は違う部分で起きるし、犯人のサイコパス的資質とはまぁ無関係。放火・殺人事件を軸に考えるなら、設置する障害物としては必要以上に大き過ぎる。それより犯人のキャラクターの方が深く掘り下げて書くに値すると思う。
 つまり総体的に見ると、面白いんだけど長過ぎるし、その長さの原因は複数のネタを無理に抱き合わせたことじゃないだろうか。でもバラしたらもう別の物語になっちゃうか。

No.1832 5点 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿- 市川憂人 2024/11/08 12:36
 主人公二人が作中作の手掛かりを吟味するやりとりが楽しい。凝った構成、密室、謎の作家に謎の組織、と構成要素を鑑みればもっと乗れそうなものだが、何故か実際にはそれほどでもなかった。主人公が無個性と言うかプリセットされたキャラクターをそのまま使った感じ。事後従犯グループの動機がファジィで素直には頷けない。
 By the way, this title is an important clue(?).

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虫暮部さん
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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