皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 2040件 |
No.1920 | 8点 | 感応グラン=ギニョル- 空木春宵 | 2025/03/05 14:21 |
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これはまた純度の高い文章。耽美だけでなく日常も的確に書けた上での夜の夢こそまこと。オリジナリティと言うよりは咀嚼力の高さで、とある嗜好に関する絶妙な良いとこ取りを成し遂げている(悪い意味ではない)。一見さんお断りみたいな顔して、意外にも3ページ頑張ったらその先はスルスル読めた。
“苦しみが束になって心を焼き切る” とか、“食べてしまいたい” とか、“肉体の変容” とか、使い回しが気にはなる。そりゃあ同じ命題を何度も繰り返す作家なんて珍しくないものの、短編集の編集をもう少し戦略的に考えても良いのでは。 |
No.1919 | 7点 | うそつき、うそつき- 清水杜氏彦 | 2025/03/05 14:21 |
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“嘘発見器に伴うコミュニケーションの変容” と言った世界設定は良く考えられている。失い続けて哀しめないことの哀しさよ。誰の話が嘘か真か、主人公はこんがらがったが私にも判らない。
終盤、“ピースが嵌まる” と言うよりは、流れるままに諸行無常エンディングへ着地したのは少々残念。ミステリ的な捻りを期待し過ぎた。 これらを纏めて牽引する文章と、その向こうに感じられる世界へのまなざしや距離感は、とても心地良い。第5回アガサ・クリスティー賞受賞作と言われれば成程、ハヤカワ文庫JAに似合いそうな作品である。 |
No.1918 | 7点 | 臨床法医学者・真壁天 秘密基地の首吊り死体- 高野結史 | 2025/03/05 14:20 |
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いや~、全然気付かなかった。三人称みたいな一人称記述がキャラクター設定とピッタリで、尚且つ作品成立上有効に機能しているあたり只者ではない。パズラーと言うよりは、児童虐待ネタの情緒的な雰囲気に流され気味なのがちょっと残念。しかしそれ故に反転の驚きが大きかったとは言えるので、それも有効な演出だろうか。 |
No.1917 | 5点 | 猫の耳に甘い唄を- 倉知淳 | 2025/03/05 14:19 |
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読む前に題名を見てアレみたいだな~と思ったら本当にそうだとは。因みにインスパイアされてるのは題名だけじゃないよ。話の内容と無関係な装画がグッド。
物語としてはまあまあだけど、加えられた仕掛けが面白さを増幅する方向へは働かなかった、と思う。“チラシ裏の怪文書” のエピソードは狙いがさっぱり判らない。 |
No.1916 | 4点 | 嗅覚異常- 北川歩実 | 2025/03/05 14:18 |
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イマイチ。もともと情緒豊かな書き手ではないけど、それにしても “必要なことだけでいいでしょ” とばかりに速足で駆け抜けてしまった。書き下ろしの中編と言う企画に対してアイデアのサイズを見誤ったか? |
No.1915 | 7点 | 花嫁は二度眠る- 泡坂妻夫 | 2025/02/28 12:39 |
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泡坂妻夫っぽい遊び心は影を潜め、なかなか上手く “普通のミステリ” に擬態してみせた。首吊りのトリックはナイス(タイミングを図るのは難しそうだが)。読み返すと伏線も色々細かく張られていて楽しい。
ただ、それよりも私が引き込まれたのは人物造形の妙。この人がこう思ってこう動く、それに反応してあの人がああ動く、と言う絡み合い方に非常に説得力を感じた。普通じゃない選択をする状況もしっかり設定されている、と思う。 ラスト・シーンについて。犯人は二人殺して、死刑を回避出来るのだろうか。情状酌量の余地があまり無い気がするんだよね。つまるところ動機は保身と金だし。そして、出席者の顔ぶれ。事情は伏せたんだろうけど、いずれ知れるでしょう。残酷だよ……。 |
No.1914 | 7点 | 蜘蛛の糸は必ず切れる- 諸星大二郎 | 2025/02/28 12:38 |
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怪奇小説第二弾。殺人事件が起きたり、記憶が曖昧だったり、叙述トリック(と言う程でもない)だったり、追う者追われる者だったりと、ミステリ的趣向……なのかと思わせておいて全然そうではない。黒々と墨でにゅるりと象ったような語りの密度は高く、中でも「船を待つ」の寂れた港の空気感とあやふやな結末が良かった。 |
No.1913 | 6点 | 北の椿は死を歌う- 皆川博子 | 2025/02/28 12:38 |
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椿姉妹を始め事態の原因となったアレコレが面白いのに、最後に駆け足で説明されるだけ。裏側に引っ込め過ぎではないか。斎原家を訪ねるあたりまでは表側から描くのも仕方ないが、後半は倒叙っぽくして殺しの過程や心理をしっかり書いて欲しかった。暴走して殺しのハードルが下がるあの人と、“ついて行けん” と見切ってしまうあの人と。だいたいそっちの方が作者の得意技じゃないか。
はっきり書かれてはいないが、万起子は “ずっと熱心に妹を探していた” と言うより、“ちょっとした偶然をきっかけに火が点いた” みたいに思える。その結果がアレでは非常に据わりが悪い。故に却って残酷なインパクトを感じた。 新婦失踪の真相はかなりの綱渡り。ただの失踪で良いのにリスクを冒して成りすましをする必要は無いよね。 |
No.1912 | 6点 | 人形は遠足で推理する- 我孫子武丸 | 2025/02/28 12:37 |
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激しく乱高下する語り手の気持の渦に巻き込まれて泣いた。
しかしミステリ的にはフェザー級。偶然を何処まで許容するかと言う問題で、バスにその人が乗っていた件は蛇足だと思う。 |
No.1911 | 5点 | 訃報は午後二時に届く- 夏樹静子 | 2025/02/28 12:36 |
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ツカミのエピソードの上手さに感心した。事件に巻き込まれる自然な流れで、更にオリジナリティもあると思う。
それだけに真相には失望。作中で言及されているように却ってアリバイが保証されかねないし、もっと確実な口実が何かしらあるだろうに。 “幻の女” 探しになるかと思ったがそっちへは進まず。決定的矛盾とまでは言わないが、事件関係者は皆多かれ少なかれテンパっていて不合理な行動を取っている。 最後に明かされるトリックも “そこまでやるか?” と言う印象。例えば “不慮の事故で落ちてしまったものを、これ幸いと利用した” みたいな、心情的にもう少し説得力のある設定に出来なかったものか。 |
No.1910 | 8点 | 撮ってはいけない家- 矢樹純 | 2025/02/19 12:31 |
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作者の筆力が十全に発揮されたホラー・ミステリ。新機軸に挑んだ為に想定外のポテンシャルが活性化したのか?
伏線はそれなりに拾った心算だったが、それを超えて張り巡らされた蜘蛛の糸に翻弄された。オカルティックなのに合理的な語り口が怖さを増幅する。解決編で怒涛の情報量に溺れかけたので、そのへんもう少し余裕を持って整理されていたら、とは思う。 |
No.1909 | 5点 | あらゆる薔薇のために- 潮谷験 | 2025/02/19 12:30 |
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メインの謎は “昏睡病の真実”。それに対して、殺人事件の謎は見劣りする。病気の問題に的を絞って、もっと詳細に書き込んだ上で完全にSFにした方が、真相で驚けたんじゃないだろうか。
最も魅力的な登場人物は、中盤に差し掛かってようやく前面に出て来るあのアスリートさん。せめて彼女が最初から活躍していれば……否、それはもう別の話になっちゃうか。 |
No.1908 | 5点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2025/02/19 12:30 |
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こんなに紙幅を費やすサイズの事件ではない。そもそもこの人、語り手三人を書き分けるなんて器用なことが出来る作家じゃないよね。コンセプト先行で頑張り過ぎたか、長く延びた割に効果は上がらなかった。
フェル博士の推理の筋道は “搦め手” って感じで邪道? だけど出入り口のトリックや台詞の手掛かりは面白い。せめて3分の2に収めれば疲れる前に読み終われただろうに。 |
No.1907 | 5点 | 東京ー神戸2時間50分 そして誰もいなくなる- 西村京太郎 | 2025/02/19 12:29 |
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変な話。やんちゃな権力者が無茶苦茶やって、しかし十津川警部も負けていない。最終ターゲットは勘で判ってしまったが、その手を使うなら、途中経過はもっと真面目にやったほうが良いだろう。
クイズ付き。イマイチ厳密でない問題文や解答が含まれる気はするが、それはともかく難しい。あんな知識全然持ち合わせが無いよ……。 |
No.1906 | 4点 | 君のクイズ- 小川哲 | 2025/02/19 12:28 |
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いやはやクイズを題材にしてここまで人生に切り込む内省的な小説が成立するなんて。
と言う点では高く評価したいのだが、具体的な事例、と言うか種明かしに関してはイマイチ辻褄が合わない気がするのだ。 十五問目(仏教において~)の段階でスコアは6-5、コレで勝負が決まる可能性もあった。そして良く見ると、この問題文は疑惑の十六問目(ビューティフル~)と条件が同じなのである。 “優勝がかかった問題で『ゼロ文字押し』をする” のが狙いなら、何故十五問目で実行しなかったのか。 因みに十一問目(モンスター~)も同様。要は作者の詰めが甘かったってことだよね。物語の本質に関わることではないが、よりによってそんな問題を採用するなんて……。 あまりに出来過ぎなポカなので、寧ろ “本庄絆は予知能力者で、全て踏まえた上でこの終わり方を演出した” と言う裏設定を作者が用意しているんじゃないか、と勘繰ってしまう。だって本庄が二問誤答したからこそ十六問目まで縺れ込んだのである。 |
No.1905 | 7点 | 大樹館の幻想- 乙一 | 2025/02/14 14:45 |
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いやしくも本格ミステリを謳いながら、こんなに舞台の構造が曖昧なのも珍しゅうございます。
常に靄がかかったように、ふわふわと無効化される境界条件。一つの館に “無数の部屋” が存在するパラドックス。発想もさることながら、それを成立させてしまう乙一先生の筆致は見事と言う他ございません。 しかしながら、犯行の骨格だけ抜き出せば、ツボを押さえているとは言え、良くある本格のプロットだと言わざるを得ないのではないでしょうか。 更に話が進むと存外に俗っぽい事情も顔を見せ、あまりと言えばあまりの落差に眩暈を覚えました。 それこそが狙いなのやも知れませんが、私は幻想のまま、天上界のまま押し通しても宜しかったかと思惟致します。ミステリの枠など突き抜けて戴きたかった! 御主人様の至高の世界の終焉には、もっと高尚で形而上的な動機を期待していたのでございます。 |
No.1904 | 7点 | 動くはずのない死体- 森川智喜 | 2025/02/14 14:44 |
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表題作は素晴らしい。物語としての展開も、明かされた仕掛けも面白い。こういうの大好き。
「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」。作中作を読み解く類の話も好きなんだけど、今回改めて気付いた、こういうのは普通のミステリ以上に一字一句にこだわって読まないと楽しみ切れない。おかげで消耗した。 「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」は何が狙いなのか良く判らなかった。たいしたことない “事件” で目を晦ませておいて(こちらもたいしたことない)叙述が本命、ってこと? |
No.1903 | 6点 | スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー | 2025/02/14 14:43 |
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てっきり “彼女自身が下手人だった” と言う真相かと思った。意図的な殺人かはともかく、子供の体重でも紐を伝わって首の一ヶ所にかかれば死ぬことはあり得る(そもそも死因は未確認だ)。記憶が曖昧なのはショックのせいだし、父の行動はそれを庇おうとした故である。調べが進むうちにそれに気付いた夫あたりが、調査を中止するにも遅過ぎてやむなく証人の口を封じた、と。
うーむ、そんな話、読んだ記憶があるような……その作者も本作を読んで私と同じことを思ったんじゃないかなぁ。 “猿の前肢” がどうもイメージ出来ない。画像検索して、結末で明かされる小道具を考慮すれば納得。“前肢” と言うか、腕は含まない手首から先、毛が生えていない掌の部分のことだよね。毛むくじゃらの腕をイメージしてたけどそこではない。作中の言い方でちゃんと通じてたんだろうか? |
No.1902 | 6点 | エンドロール- 潮谷験 | 2025/02/14 14:43 |
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“自殺討論会” までは素直に楽しめた。
しかしそれ以降、話が今一つ広がらず。社会への影響を視野に含めている一方、事件はクローズドな人間関係の範囲内に留まってしまった。かと言って単なる殺人事件としてはミステリ的にさほど面白いものではない。革命と言うよりは内ゲバの話か。 |
No.1901 | 4点 | メグレとマジェスティック・ホテルの地階- ジョルジュ・シムノン | 2025/02/14 14:42 |
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動機が腑に落ちないなぁ。彼女と彼を会わせたくなかったから。でも、会ったって不都合はまぁ無いのだ。
勿論、二人が話し合えば、脅迫の件と両者間の齟齬は明らかになる。しかし第一に、メグレが言う通り、犯人は巧妙に自分の存在を隠している。メグレが事の次第を把握出来たのは、警察にタレコミがあったからである。一般人の二人が真の脅迫者を見付けるのは困難だろう。 第二に、万一正体がバレたとしても、脅迫ネタを握っている犯人の立場が強いのは変わらない。何故、強請る側が強請られる側を殺すのか。 それに関連して:当時の銀行は、手紙一通で、入金はともかく小切手発行まで可能だったの? ザルじゃない? |