皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.1955 | 7点 | 無垢なる花たちのためのユートピア- 川野芽生 | 2025/04/25 12:44 |
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川野芽生は、たおやかな語り口で世界の糸を解きほぐす。
表題作が他に比べて少々取っ付きにくく感じたのは、前者が少年達の物語であるのに対して、「白昼夢通信」は少女達、「最果ての実り」は男と少女、「卒業の終わり」は女達と男達の物語だからさ――なんて言ったら表層的で通俗的な消費の仕方だろうか。 否、“性差” との苦闘はこの作者の根っこに位置する烙印だと思う。花は植物の生殖器なのである。気怠く甘い白昼夢も、一歩引いて見るとそれを見ていること自体が怖い。 |
No.1954 | 7点 | 世界でいちばん透きとおった物語2- 杉井光 | 2025/04/25 12:43 |
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まさか続編があろうとは。
作中作をいじる話は好き。完結編のアイデアが上手いし、未完にした事情もしっかり設定されていて隙が無い。 あと、コンビ作家のキャラクターが良い。(作家に限らず)共同作業者の関係性は、部外者がイメージするものとは多分かなり違うよね。と言う認識を踏まえての、吸引力の強いエピソードの数々。 “エスプリ” なんて口に出す機会が無いから、イントネーションの参考にならないよ。ネタ? |
No.1953 | 7点 | ぼぎわんが、来る- 澤村伊智 | 2025/04/25 12:42 |
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私は割とホラーを読むと手も無く怖がってしまう方で、特に第二章末の新幹線での情景には噴き出しつつ戦慄。
ミステリ的手法との掛け合わせも効果的だが、そのせいでクライマックスが早過ぎると言う副作用があるかも。現象の頂点は第二章にあって、その後に謎の解明をする流れなので、相対的に第三章が地味に思えた。 |
No.1952 | 6点 | 鬼神の檻- 西式豊 | 2025/04/25 12:42 |
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確かに楽しめたし、型に収めるのではなく枠を破って拡散して行くような作品の在り方にはワクワクしたんだけど、結果として盛り過ぎ。終盤、何処まで掘っても底が見えないのでイラッと来てしまった。
第二部プラス・アルファ(鬼が実在するホラー、しかし連続殺人はロジカルに解決)の辺りでで止めといた方が良かったのではないだろうか。 |
No.1951 | 5点 | イノセンス After The Long Goodbye- 山田正紀 | 2025/04/25 12:41 |
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押井守のアニメ映画『イノセンス』の前日譚、と言う企画作品。物語だけ追えば、公安九課 vs テロリストのアクション・ストーリー。ただ妙に重い。それがキャラクターの鬱屈によるものなら良いんだけど、どうもサイバーパンク的要素の解説過多が主因に思われる。
アニメなら見ているだけで判る(気になれる)事柄でも、小説では説明を省くと義体(サイボーグ)のキャラクターが人間離れした超人に見えてしまう。システム関連の設定も読者の楽しみのうちだし、元ネタ付きの作品なので気を遣って丁寧に書いたのかも知れない。 その結果、アクションのスピード感を担保する記述のせいでスピード感が失われているような奇妙な状態になってしまった。 エピローグにちょっとしたサプライズあり。しかし、作者はサプライズを意図したわけではない筈で、その件を事前にさりげなく教えてくれなかったのは寧ろ手落ちだと言える。と判断して書いちゃおう。“えっ、この人達は日本語で会話してたんだ!” |
No.1950 | 5点 | 掟上今日子の保険証- 西尾維新 | 2025/04/18 13:21 |
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普通のミステリなんてありませんよ――と今日子さんに言われそうだが、比較的普通のミステリに近付いた結果、シリーズらしさが失われてしまった。のみならず、軽さによって濃度を生み出すような西尾維新のあの文章が希薄化しつつあるのも気掛かり。
「不眠症」。盲点だったが、スジは通っている。 「船酔い」。ダークな真相にああやっぱり西尾維新だと胸を撫で下ろす。 「猫アレルギー」。この題を掲げておきながら、肝心の猫様が登場しないじゃないか。今日子さんがもふもふで窒息して身悶えるさまを期待させておいてこの仕打ち。強く抗議したい。 |
No.1949 | 5点 | 風水火那子の冒険- 山田正紀 | 2025/04/18 13:21 |
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それぞれ長さに応じた複数の謎を絡ませて、単なるアイデア・ストーリーでは終わらせまいとする気概は感じた。
悪くはないがしかし、あまり深みが感じられず。世界も人間も少し壊れていて、やや肩透かしなニュアンスは狙いなんだろうけど、その脱力感がここではプラスに働いていない。風水火那子のさりげない異物感みたいな雰囲気も効き目が弱い。 「極東メリー」の昔語りは切なくて良かった。 |
No.1948 | 7点 | 亜智一郎の恐慌- 泡坂妻夫 | 2025/04/18 13:20 |
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多少は時代物に慣れたのと知識が増えたのとで解像度が上がったか、味わい方が判って来た。サイコ・ホラー顔負けの “占い” は驚き。世にカルトの種は尽きまじ。
なまじ謎を扱うからその真相が肩透かしなところは否めないが、話の流れの持って行き方は同氏の現代ミステリ作品よりも余裕があって技巧的に感じられたりもする。草双紙談義でねんごろになる流れなど何度でも読み返したくなる。 |
No.1947 | 7点 | シュロック・ホームズの回想- ロバート・L・フィッシュ | 2025/04/18 13:20 |
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基本的に前巻と同じノリであって、感想も同様。但し、パターン化しているように見えても、シュロックの言動には結構ヴァリエーションが感じられる。最後まで飽きずに読めた。
諸々の言葉遊びについては、翻訳者の苦労が偲ばれるが、“わけのわからない言葉” を無理に日本語化するより原文をそのまま載せて欲しかった。 今になって気付いたが、シャーロックと違ってこちらのホームズの綴りは Homes なんだね。 つまり、文中に姓だけで記述されていても原文なら原典との区別がキチンと付いているわけで、訳文でこの点は如何ともしがたい。“姓をそのまま拝借して厚かましい” と思っていたけどそういうことか。 |
No.1946 | 6点 | キリオン・スレイの復活と死- 都筑道夫 | 2025/04/18 13:19 |
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フーダニットよりも、事件の奇妙な様相に関するホワイが核心に据えられていて、
「密室大安売り」=何故凶器が無かったのか。これは説得力があるし、密室の件ともまぁ繫がっていて上手い。 「情事公開同盟」と「二二が四、二死が恥」は、明確な理屈ではなくやや曖昧な動機付けが、良いんだけど、もう少し深みが出る書き方なら更に良かった。 一方で、「八階の次は一階」。自殺騒ぎは、操り犯にとっては(真の目的の為に)有意義だが、実は自殺志願者本人にとってはこれと言ったメリットが無い。殺人は自宅で発生したわけじゃないんだから、“夫が家出しました” で済む筈。つまり、彼女の混乱に乗じて操り犯が不合理な行動をさせているのである。それは作者が評論等で提唱する “論理的な謎解き小説” にはそぐわないのではないか。キリオンはどういう論理でこんな真相を推理出来たのか。 フーダニット色が強いのは「なるほど犯人はおれだ」。端正なパズラー然としたダミー推理に対して、実際には犯人の中途半端な行動がその様相の原因だったと言う真相。それは作者が評論等で以下同文。 |
No.1945 | 8点 | ナポレオンの剃刀の冒険- エラリイ・クイーン | 2025/04/11 11:54 |
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350編から厳選したと言う本書の成立過程を考慮しても尚、非常に粒揃いで驚いた。EQの下手な小説より面白い。早川書房や東京創元社ではないからって外典扱いは勿体無い。中でも「殺された蛾の冒険」の手掛かりが見事。
私はどうにか2問正解。間違った推理を開陳すると、 「悪を呼ぶ少年の冒険」……カナリヤが毒を落とした。そのように訓練した? 事故? 「ショート氏とロング氏の冒険」……ショート氏は家に戻った後に死亡。生きた人間には隠れられないどこかに遺体が隠してある。 「呪われた洞窟の冒険」……何らかの手法(または自然現象?)により泥が硬くなった。凍った? |
No.1944 | 7点 | わすれて、わすれて- 清水杜氏彦 | 2025/04/11 11:54 |
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『DEATH NOTE』ばりのガジェットが出て来るから、もっと大きな騙しがあるかと思ったが、本当にあくまで小道具に留めていて意外(肩透かし、とまでは言うまい)。
世の中舐めた美少女達が自業自得で足を掬われ、良い意味だけではない成長譚。でも、殺る時は殺らないと犠牲が増える、その意味でリリイが復讐現場でウダウダ言うのは覚悟が足りてない、と正直思った。勿論それは、前提として作品世界に引き込まれたからこそ反発もしたのであって、キャラクター設定が悪いと言うことではないよ。 |
No.1943 | 7点 | 貴方のために綴る18の物語- 岡崎琢磨 | 2025/04/11 11:51 |
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こ、これはズルいよ岡崎琢磨……それこそ作中人物の言う通り “おもしろいと言えばおもしろいし、たわいもないといえばたわいもない” と思いつつ読み進んだ先にあんな仕掛けがあったら泣いちゃうじゃないか。ツボを突かれた私の負けです。
ただまぁ、一連の作中作に “ノウハウを駆使してノルマをこなしている” ような印象を抱いたのは否めない。作者の設定上、大傑作を含めるわけにはいかなかったのである(?)。 充分及第点は付けられるが、“これが良い” と言う突出した作品は正直、見当たらなかった。“これがイヤ” なのは「いじめロボット」。理由は、メインの部分が登場人物の舌先三寸だから。 |
No.1942 | 6点 | バスカヴィル館の殺人- 高野結史 | 2025/04/11 11:51 |
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まさか続編があるなんて。
でも考えてみれば、“探偵遊戯” の設定のおかげで一般のミステリには無い方向軸の謎解きが成立するし、だからと言って他の作家があからさまにパクれるものではない。早い者勝ちの権利? 基本設定がシンプルなので、その裏をかく展開も判り易い。これも利点。 ただ本作、シリーズ確立の為の意義はともかく、単独作品として見ると決め手に欠ける。 ところで、ネーミングの元ネタとは。事件の真相より気になる。数々家=ホームズ? |
No.1941 | 5点 | 赤の女王の殺人- 麻根重次 | 2025/04/11 11:50 |
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ネタバレあり。
地味な話だな~。とは言え、ダミー推理にはつい “成程!” と納得、その反論にまたもや “成程!!”。この流れは上手かった。 アレッと思ったのが動機に関わる部分。Aと別れてBに行く心算が、想定外にAが死亡、だったらBも殺してしまおう、とはどういうことか。別離でも死亡でも “犯人が身軽になる” と言う結果は同じだろうに、何故その先のルートが分かれるのか。作中説明された “Bと結婚せずに金だけ得る” 方法は、Aの存在/不在とは無関係で実質的には別件の筈だが、“Aの死によってBの死も決まった” みたいな話になってない? 人死にが出たことで箍が外れちゃったのかな。 いや、人の気持だから色々考えられるし不合理でもまぁ駄目とは言わないが、そこは犯人の口から説明して欲しかった。 もう一点。Bは共犯者でもないのに犯人に言われるがままに身を隠した。不自然と言うか御都合主義的な動きだと思う。 “増殖する焼骨” って三回続けて言えない。 |
No.1940 | 8点 | 禁忌の子- 山口未桜 | 2025/04/04 11:59 |
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良く出来ているけど割とありがちなタイプの医療ミステリ、この後は作者の専門知識を生かした真相で “勉強になりました~” って〆るんでしょう?
と見切った心算でいたら、唐突にダークサイドに反転して驚いていたら、更なる攻勢で完全にノックダウン。構成の上手さが光った。その上に乗せるべきエモーションが借り物でない点も推進力になっている。このラスト、私は良いと思う。 大きな偶然が二つあるんだよね。主人公がそっくりさんの死体と遭遇したこと。そして、あの二人が同じ職場で出会ったこと。私は “キャラクターの配置に関する偶然” には厳しいから気になるなぁ。どちらも工夫次第でもっと自然に処理出来そうだし。 |
No.1939 | 7点 | 邪教の子- 澤村伊智 | 2025/04/04 11:59 |
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前半の伏線はまぁ色々読めたけど、これは作者にとっても捨て駒と言うか撒き餌と言うか、読者が見抜く前提だと思う。引き換えに最後の砦として守った力の謎。こちらにはすっかり引っ掛かった。
それとは別に、物語としても読ませる展開力が強く引き込まれた。ただ最後、“大地の民はそうじゃなきゃ駄目なの” と彼女が言う気持が良く判らない。あそこでもっともっともらしい思い込みが語られていれば完璧だったのに。 |
No.1938 | 6点 | 暗号の子- 宮内悠介 | 2025/04/04 11:59 |
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作者曰く “テクノロジーにまつわる話を集めたもの”。先端のテクノロジーには皆注目して、いずれ誰かが書くだろうから早い者勝ちである。解釈の誤謬が後に見付かるかも知れないし、それも含めやがて過去のものになる。結構リスキーな挑戦だと私は思っている。
一番心が動いたのは「ペイル・ブルー・ドット」で、やはり判り易さとチャレンジャーな子供には勝てないのか。もっとしっかり長編にすれば良いのに。と思ったが、その手のSF長編は既に色々あるんだよね。小川一水とか山本弘とか野尻抱介とか。明確な “SF” になるまで引っ張らずにサラッとぶった切る方が、ジャンル越境作家・宮内悠介の個性が出るのかも。 AIで執筆した掌編もあり。うーむ。一世紀前の文豪が書いた独り善がり強めの不人気作、って感じ。あとがきでプランを説明しているが、その狙いは戦略ミスではないだろうか。何故なら、AIでヘタウマは(あざと過ぎて)成立しないからである。 |
No.1937 | 7点 | マガイの子- 名梁和泉 | 2025/04/04 11:58 |
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この設定、特に新しくはないよね(スワンプマン?)。マガイってどっちの意味だろう? と思ったらダブル・ミーニングだった。
その上に斬新な解釈を付け加えるわけでもなく、ホラー的な曖昧さを適度に残しつつ、上手く伏線回収して何となく予想されるところに着地(悪い意味ではない)。 と言うか、反転もあるんだけど、それ以前にドカーンと行くところまで行っちゃってるので、もう驚く余力が残っていない。“終章” と名付けて消化試合感を出したのはミスではなかろうか。 意地悪く言えば、ワン・オヴ・ゼムになりがちな枠組みの中で、しかし最大限に健闘してはいる、と思う。 |
No.1936 | 6点 | マルチの子- 西尾潤 | 2025/04/04 11:58 |
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私は今までに二回、勧誘された経験あり。そういうことがあるとやはり相手と縁は切れてしまう。警戒と言うより “私のことをそんな話に乗る奴だと思ってたのか……” とがっかりしたっけ。
本作中の勧誘場面に出て来る自己啓発みたいな話とか “夢はありますか?” とか、その人達も言ってた言ってた。言葉が上滑りする感じがリアル。 と同時に、意外と普通な喜怒哀楽が描かれてもいて、彼等がすぐ隣にいてもおかしくないとも感じた。決して別世界の話ではない。注意喚起を迫るビジネス・クライム・サスペンス。おっと、マルチは合法だからそんな風に呼んだらクレームが来ちゃうね。 |