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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.568 8点 夫の骨- 矢樹純 2019/07/09 10:44
 短編集としての欠点は、作風が一貫し過ぎていること。“家族”が主題。事件を探偵が解くのではなく、情報を制限し“読者に対して”謎を演出する形式。手堅く普遍的な文体や人物設定(“嫌な感じ”の匙加減が絶妙)……ゆえに非一気読み推奨、一話ずつばらして賞味するが吉。
 収録作品はどれもレヴェルが高くて正直びっくりした。一編選ぶなら「柔らかな背」(人殺しの場面が愉快)。
 因みにかなり毛色は違うが漫画原作者としての仕事もなかなか面白い。

No.567 5点 中野のお父さんは謎を解くか- 北村薫 2019/06/24 11:01
 三択クイズの出来があまり良くない事が、凄く気になった。
 “『広辞苑』に載っている” は定義が曖昧。“夢野久作” の項を見ると『ドグラ・マグラ』に言及しているので、広義で “載っている” と言えなくもないのでは。厳密に “見出し語として採用されている” とすべき。
 “存在しないものはどれでしょう” は悪魔の証明であって、存在を自分が知らない、探しても見付からない、からと言って “存在しない” とは限らない。海賊版があるかもしれないし。翻訳の存在を確実に否定出来る立場の人っているのだろうか?

No.566 6点 こうして誰もいなくなった- 有栖川有栖 2019/06/24 10:58
 文章が良いので読まされてしまうが、それほど決定的な短編は見当たらない。
 結局、表題作が最も面白いが、作者がこういう形の本歌取りを試みた意図はいまひとつ判らなかった。それと犯人が何か変な行動をしているが、少々アンフェアでは。何故そこで被害者を制止する? 何故せっかくの好機にさっさと殺さずお喋りしている?

No.565 5点 事故係 生稲昇太の多感- 首藤瓜於 2019/06/24 10:56
 なにせ『脳男』の作者だからどんな大技を見せてくれるかと期待したら、そういうドカ~ンとした部分の全然無い地味な警察小説。何より主人公に殆ど共感出来なかったのは痛い。
 第四章に挿み込まれたレッカー業者のエピソードは良かった。

No.564 6点 怪物の木こり- 倉井眉介 2019/06/17 12:19
 第17回このミス大賞受賞作。
 漫画ならもっと楽しめたかも。ストーリーは面白いが文章がスカスカ。と感じるのは“小説は深みのある文章で書かれるべき”との固定観念に縛られているせいか。“あくまでも虚構性の強い世界だからこそ成立する物語”との選評には同意するが、それがネガティヴな要素だとは思わない。それはそうと、乾が名刑事には全然見えないのは大問題だ。

No.563 4点 不見の月- 菅浩江 2019/06/17 12:17
新人警備員が右往左往する連作集。どの話も“謎とその解明”が軸で、SFミステリという形態をかなり明確に意図しているようだ。しかし、アートにまつわる諸々の心情がやけに説明的に説明されており、どうにも硬い。菅浩江の作品はひととおり読んでいるが、もう少し繊細な筆致じゃなかったかなぁと首を傾げざるを得なかった。

No.562 5点 本と鍵の季節- 米澤穂信 2019/05/28 11:25
 高校生が推理合戦に興じる状況設定に苦心している印象で、素直に読めたのは最後の“宝探し”くらい。また、私の読み方が浅いのか、二人の資質の差異があまり感じられなかった。
 “人気がない図書室”の読み方はどっちだ? (とわざわざ書くのも大人気ないが……)

No.561 6点 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 2019/05/28 11:23
 綾辻行人の一連の館ものは、どれも割と(叙述)トリックのコンセプトが明確でしかもそれらが上手く分散している為、個々の存在感が際立ったシリーズになっていると思う。
 それに対して本書の要素“ホラー”は物足りない。構成上の必然は判るし、本格との絡め方もこれはこれで上手い。しかし意地悪く言えば“暗号クイズがオマケとして付いている”に過ぎない。単独で読むならともかく、綾辻行人作品リスト中の一冊として見ると“良作だが地味”との印象。

 西條八十の自鳴琴は“読者には知り得ない手掛かり”と言うことでS.S.V.D. へのオマージュと言うかジョーク?
 “ウォークマン”と言う語を解説無しで使っているがいつまで通じるだろうか?

No.560 5点 刀と傘 明治京洛推理帖- 伊吹亜門 2019/05/22 11:33
 第19回本格ミステリ大賞受賞作。
 舞台は明治維新前後の激動期。人々の行動原理も命の軽重も現代とは異なる時代設定を上手く謎に絡めている。ネタの見せ方を心得ている人だと思う。手堅い文章力で歴史小説としての読み応えも、多分あるのだろう。
 しかしそこが却って、ぶっ飛んだ部分の無さ、と言うことで私の嗜好とは食い違う原因にもなってしまった。

No.559 5点 泡坂妻夫引退公演- 泡坂妻夫 2019/05/20 10:35
 私は泡坂妻夫の現代ミステリのみ愛しているので、否応なしに氏の全ジャンルを縦断して読まされるこの本は有難迷惑なのである。ファンらしからぬことを言うなら"コスト・パフォーマンスの悪い本”。
 ミステリ度低めな短編が多く話そのものにはあまり乗れなかった分、泡坂妻夫の文章の心地良さを再確認は出来たけれど、だからと言って今まで避けて来た時代物や職人物の本に手を伸ばそうと言う気にはならなかった。幾つかの現代ミステリの中では、『煙の殺意』あたりに収録されてもおかしくない「荼吉尼天」が収穫か。

No.558 5点 赤い館の秘密- A・A・ミルン 2019/05/07 11:28
 好感の持てる筆致でテンポ良く進む、のだが何だか薄味でいまひとつ乗り切れなかった。しかし真相には膝を打った。館の部屋の配置はしっかりイメージして読むべきだったか……。

No.557 7点 指し手の顔- 首藤瓜於 2019/05/07 11:27
 もっと情報を整理して上手く刈り込む余地はあった気がする。しかし一方、ごちゃごちゃしたジャンク的な要素があってこそ作品世界の猥雑な空気感がこれだけ立ち上がるのだとも思う。まぁ読み易い文章なので、この長さもギリギリOKか。鈴木一郎って(表面上は)出来過ぎで意外と使いづらいキャラクターなのかも。

No.556 6点 大聖堂の殺人 ~The Books~- 周木律 2019/05/01 12:51
 何故この人達は殺される危険性を承知の上で従容と成り行きに従うのか? の答として、登場人物(百合子も含む)の“狂信”がそれなりに感じられて良かった。
 しかし、ネタバレするが、トリックは不充分だ。温度が上下すれば水も影響を受けるわけで、大量の水蒸気が発生し体積の膨張により建物が壊れる? 注水口が凍りつく? といった問題が生じる筈だがそれについて言及されていない。

No.555 6点 鏡面堂の殺人~Theory of Relativity~- 周木律 2019/05/01 12:50
 森博嗣の某作と某作と某作を混ぜたようなトリックで、驚きつつもがっかり。一方で、館モノは展開がパターン化しがち、という点を差し引けば、シリーズ初期に比べると小説の書き方がなかなか上達したように思う。登場人物の行動原理が矢鱈と形而上的で共感しづらい点は、慣れると面白くなってきた。

No.554 3点 秘密機関- アガサ・クリスティー 2019/05/01 12:49
 作品としてのポテンシャルが低いので本気で読むとアラが目立ってしまうような。トミーとタペンスは若気の至り全開で意外に軽佻浮薄なキャラクター。場当たり的に感じられるストーリー展開がメタ的に面白くはあった。

No.553 7点 余物語- 西尾維新 2019/04/23 13:56
 怪異アリの世界観に於けるそれなりにロジカルなミステリ2編。『少女不十分』にも通じる結構ヘヴィなネタを、しかし本格ホラーの文法ではなく軽妙なキャラクター小説にまとめている(勿体無い?)。斧乃木ちゃんの罵倒も3割増。チラチラ見えるだけの食飼命日子というキャラの使い方は、じらしプレイ?

No.552 6点 刑事の墓場- 首藤瓜於 2019/04/19 11:34
 正統的警察小説はあまり肌に合わないが、こういう“落ちこぼれ系”は割とアリだ。
 気になった点。CGによる写実的過ぎる似顔絵は、本来大雑把な人間の映像記憶に対して逆にイメージを限定してしまうので、犯罪捜査には有効ではない――という話も読んだことがあるのだが……?

No.551 8点 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 2019/04/16 11:54
 正直、『屍人荘の殺人』は単発の打ち上げ花火だと思っていた。変な話を思い付いた人が偶然それなりの筆力も有していたという印象で、一作品としては面白かったものの、それが次回作の品質や作家としての存在意義を保証するとまでは評価出来なかったのだ。その点、作者に謝らなくては。超常現象アリの世界観によるロジックは見事。文章が無難、ではあるが、そういう部分で引っ張る読ませ方は意図していないのだろう。
 ヒルコという名をついエビスと読んでしまうのが困ったところ。

No.550 3点 人形はなぜ殺される- 高木彬光 2019/04/09 13:15
 何か変だ。
 ネタバレしつつ書くが、人形を使ったアリバイ工作をする必要なんてあったのか? アリバイ工作とは、その人を殺せば自分が疑われる前提で、でもアリバイがあるから無理ですよ、というものだろう。第一幕に於いて、この犯人はほとんど表舞台に出ていないのだから、そのポジションを維持したほうが得策なのに、わざわざ事件の渦中にしゃしゃり出て関係者リストに名を連ねる心情は如何に。
 しかもその行為、最悪の場合は列車を転覆させるから犯人も命懸けだ。割に合うのか?
 そういう不自然さを補えるほどのドラマ性も無く、上手く肉付けし損ねた骨をそっと出された気分。

No.549 8点 脳男- 首藤瓜於 2019/04/03 11:38
 これは面白いキャラクター小説だ。難しそうなテーマを現代医学の視点でもっともらしく血肉化することに成功していると思う。医師も警部もちょっと鈍いんじゃないのと感じたところはあるが、読者に解説をする方便としてそういう会話は必要なのだろう。
 どうしても宣伝文句では鈴木一郎の特性が売りになってしまうから、ネタバレの上で読む羽目になるのが痛し痒し。それだけならまだしも、ストーリー後半過ぎの事柄まで粗筋で明かすのはあんまりだ。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
採点の多い作家(TOP10)
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