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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1706件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.506 5点 聖女の毒杯- 井上真偽 2018/10/01 11:05
 ここまでやられるとごちゃごちゃして疲れる。ダミーとして使うには勿体無いようなトリックもあるのだから、謎解きに対する奇矯なスタンスを看板にせずに、仮説を2~3個だけピックアップしてもっとスッキリした話に仕立てたほうが、題材を生かせたような気もする。とはいえ、色々と盛ってある設定やキャラクターが面白いのも確かで悩ましいところ。

No.505 6点 碆霊の如き祀るもの- 三津田信三 2018/09/25 11:55
 餓死の現場に於いて、排泄物に関する言及が無い。食べなくても出るんですよ。少なくとも絶食一日目には前日の分が腹の中にある。然るべき描写が為されていれば、被害者の状態ひいてはトリックを推測する手掛かりになったはず。私は、排泄の痕跡が無いのだから被害者は別の場所で死んで発見現場に運び込まれたのでは、とずっと考えていた。尾籠な話なので割愛、では済まないアンフェアな描写(の無さ)である。人間が排泄をしないパラレル・ワールドが舞台、と割り切って読むが吉?

No.504 6点 やぶにらみの時計- 都筑道夫 2018/09/14 12:51
 9割までは面白かったが、種明かしでがっかり。
 ネタバレしつつ書いてしまうが、どの道だまして最終目的を伏せたまま死地へ赴かせるなら、複数人のエキストラで芝居をするより、本人に直接“詳しい事情は言えないがしばらく誰それのふりをしてこのように行動してくれ”と頼む方が簡単かつ確実ではないのか。首謀者が妙に凝った手を使う心理的な裏打ちに欠けると思う。
 と書いていて気付いたが、その問題点を解消した“複数人が結託して、或る人に自分は他の誰かだと信じ込ませ、その上で自発的に過激な行動に走らせる”という話は、S氏のアレではないか。

No.503 7点 中途の家- エラリイ・クイーン 2018/09/10 11:08
 良い意味で読み易くて面白かった。
 しかし有罪判決が出るほど彼女は疑わしかっただろうか? ストーリー展開を優先した作者が検事や陪審員を少々馬鹿に設定した、と言う印象。また、厳しく見るなら、現場に遺留品を残すのはやはり無用心であって、“それを回収出来なかった理由”が欲しかった。

 因みに、カーター・ディクスン『プレーグ・コートの殺人』には、語り手の婚約者がアレを嗜むとの設定がある。

No.502 7点 さようなら、お母さん- 北里紗月 2018/09/05 09:52
 島田荘司選 第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。
 主人公があまり好きになれなかった。但しそれは、相応の筆力できちんと確立されたキャラクターが結果として好きなタイプではない、と言うことであって、寧ろ作品に対する高評価の一部なのである。
 厳しく見るなら手頃なネタを幾つか上手に組み合わせただけ、だが、単なる手捌きの巧みさだけではなく、確固とした核の存在が感じられるので心強い。しかし変人学者キャラってどうしても似たような造形になっちゃうのかねぇ(嫌いではない)。

No.501 5点 λに歯がない- 森博嗣 2018/09/03 11:24
 何を以て復讐の成就と見做すか、は当事者の胸先三寸と言う側面があるわけで、犯人に奇矯な行動を取らせがちな森博嗣作品とは親和性が高いと言える。って勿論皮肉だよ。
 第2章の“そんな駄洒落を言うために、普通四人も殺さないでしょう?”という台詞は大胆な伏線!途中で出て来たコンクリートミキサ云々は結局ダミー?

No.500 5点 猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち- 大山淳子 2018/09/03 11:22
 適度な緩さを孕んだ筆致のぽわーんとした世界観であるから、偶然の出逢いが都合良く繰り返される点は大目に見る。T氏の代表作との類似も、パクり云々と言うものではないと思う。百瀬が天才とはとても思えないけれどまぁ良い(というか、弁護士というフィールドに於ける“天才”とはどういうものか?)。
 しかし、偏見であることは承知の上だが、80%の力で及第点は取れるからそれで充分でしょう?みたいな、書ける人が書けるものを書いた“だけ”との雰囲気が全体的に感じられて、それは別に悪いことではないのだけれど、私はいまひとつ乗れなかった。

No.499 6点 猫の舌に釘をうて- 都筑道夫 2018/08/31 10:56
 昭和30年代の時代風俗を活写しつつ、動物愛護団体VS洋菓子職人VS宮大工という三つ巴の争いにラング・ド・シャ誕生秘話を絡ませた壮大な展開には驚愕させられた。コーヒーの温度を伏線にした密室トリックも見事。
 更に題名が絶妙で、猫の舌に釘を打つとあれがああなって大団円なんて物語は未だかつて読んだことがない。

No.498 7点 ブルーローズは眠らない- 市川憂人 2018/08/29 10:10
 何を以て復讐の成就と見做すか、は当事者の胸三寸次第と言う側面があるわけで、ひとおもいに殺しては復讐にならないと言われればハイそうですかと受け入れるしかないけれど、本書の犯人の行動はあまりにも迂遠に感じる。そのへんの設定をもう少し詰めて欲しかった。

No.497 5点 能面殺人事件- 高木彬光 2018/08/28 11:12
 全体的に大雑把で乱暴な小説、との印象。アイデアや見せ場になる美味しいシーンをドカンドカンと重ねているものの、その間を埋める肉付けが貧弱に感じた。文句は複数あるが、特に納得出来ないのは、某女性の裸体写真をそのまま放置した、という件。犯人の動機を考えるとソレはないだろう。
 ただ、解決編は(意外にも)各々の心情吐露に読み応えがあり楽しめた。

No.496 6点 あなたの人生の物語- テッド・チャン 2018/08/23 12:19
 小林泰三の描く異世界の如き「バビロンの塔」。森博嗣の登場人物のカリカチュアみたいで面白い「理解」。表題作を叙述トリックの亜種だと主張するのは強引だろうか?
 寡作な米SF作家の第一作品集。収録作品全般的に、9割までは文句無しに面白いんだけどラスト1割での着地点がなんだか曖昧で肩透かしに感じる。“天才”とも謳われるが、そうまでは思わなかったなぁ。

No.495 8点 紅のアンデッド- 川瀬七緒 2018/08/23 12:15
 これは大躍進の一冊ではないだろうか。前作までちょいと感じられた砂上の楼閣めいたニュアンスが消えて、どっしりと地に足の着いた力強さを獲得している。ミステリ的には多少のアラも見られるが、それを補って余りあるダイナミズムとカタルシス。毎度宿命的にフィーチュアされるキュートな虫さんネタも絶好調、知らなくてもいい雑学付き。

No.494 8点 ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 2018/08/21 12:33
 この動機はいいね。ミステリには時々、表層的な関係性の種類を基準に心情の動きを決め付けるような描写が見られる。親子や恋人なら復讐をして当然だがただの同僚がそこまでするのは変、とか。しかし心の距離はケース・バイ・ケースであってそんな単純に測れるものではない。本作は短いインタールードで当該人物が行動に至るに充分な説得力を示しているし、それが事件の全体像に関する目隠しとしても機能していてグッジョブ。

No.493 5点 パラレルワールド- 小林泰三 2018/08/14 12:59
 混乱した心理をスラップスティックに描写する冴えた筆致と、特殊なルール設定のもとでの攻防戦、というこの作者の得意なパターンで、そりゃあ面白いに決まっているけど、得意技を投入していること自体がお約束で少々物足りないなぁと読者は贅沢にも思うのである。ラスト前の痛い場面は筒井康隆への挑戦、それとも『無限の住人』か?

No.492 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2018/08/10 10:09
 バーナビー・ロスは本書を読んで、13~14章、架空の殺人計画(戯曲)が他者の手に渡って云々のくだりを、拡大解釈して、換骨奪胎して、あの作品を書いた、のかもしれない。

No.491 5点 ハイパープラジア 脳内寄生者- 望月諒子 2018/08/02 11:45
 タイトルそのままの話。厳しく言うなら前半は想定内の内容を丁寧に説明しただけ。
 思考が混乱して行く様を本人の一人称で書く試みについて、健闘してはいるが踏み込み不足なところも。“忘れた”と記述している時点で忘れていないよね……。
 全体的に、“品の良さ”という枠組みの中に押し込めてしまった感じで、そこが物足りない。

No.490 5点 タイトルはそこにある- 堀内公太郎 2018/08/01 12:00
 まさかの東京創元社ミステリ・フロンティアということでつい手に取った一冊。軽妙さと軽薄さを混同したような作風は健在で苦笑。第一話のトリックは限り無くユメオチに近く褒められたものではないと私は考える。第四話、第五話は比較的軽さが上手く生きている内容か。
 レーベル買いという観点で見ればミスマッチ。四六判で仰々しく刊行したせいで、私のように“期待し過ぎて落差が大きく結果的に必要以上に低評価”という事態が生じる。良くも悪くもB級作家、という事実にもっと開き直るべきでは。
 あとがきの「編集者註」に、他作家に関する緩やかなネタバレ(作家名を挙げて、○○氏の作品にはこういう趣向のものがありますよ、と)が含まれるのは如何なものかと思う。特に重要なことが書かれているわけではないので、あとがきは読まなくてもいいかも。

No.489 5点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2018/07/31 14:06
 最後に出て来る手紙はあまりにもわざとらしく、処分に困るなら食ってしまえと思った。

No.488 4点 ずっとあなたが好きでした- 歌野晶午 2018/07/30 10:37
 どれもこれも中途半端なところでぶった切ったような結末なのはどういうことか。“大きなパズルのピース”としての役割に傾注し過ぎで、個々の短編としての純粋な満足度がいまひとつ。その割に分厚いので読み進めるのがちょっときつかった。
 私の場合は、「匿名で恋をして」“ロレッタ”の由来が推測出来たので、次の「舞姫」を読んだところで全体の仕掛けがなんとなく見えた。収録順に一考の余地あり?

No.487 6点 遠きに目ありて- 天藤真 2018/07/24 12:12
 非常に魅力的なキャラクターを擁する連作なので、心情的にはもっと高く評価したいのだが、ミステリとしては第一話(手掛かりが面白く、またそういう状況が生じてしまった流れに説得力がある)が頂点で、以降は少々ギクシャクしてしまったのが残念。各犯人がそういうトリックを弄した犯行方法を選ぶ理由が乏しい気がする。もっと外連味のあるストーリーならトリックも生きるが、それだとキャラクターに合わない。難しいものだ。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1706件
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