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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1716件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.596 5点 田嶋春にはなりたくない- 白河三兎 2019/09/02 11:50
 小説の書き方として巧みで、田嶋春のキャラクターはいいんだけど、語り手達のありきたりな“本音と建前”には閉口した――それが、話のネタにかかわらず全5章で一貫した感想なので、これはもう作品のコンセプトが私に合っていないと言うことだろうか。

No.595 2点 恐ろしき四月馬鹿- 横溝正史 2019/09/02 11:49
 角川文庫版に収められた14編について。遅咲きの作家だと言う認識はあったので、初期短編集である本書が玉石混交なのは覚悟しつつ、多少は拾い物もあるだろうと期待していたが、石ばかりである。辛うじて「画室の犯罪」と「赤屋敷の記録」に、これはと言う場面が見られた程度。

No.594 7点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2019/08/30 10:06
 “アクロイド”って何だろう? セルロイドやアルカロイドからの連想で普通名詞だと考えたのだ。“~殺し”と言うからには、被害者の何らかの属性を示す語に違いない。モンゴロイドのように人種を表すのか。悪のアンドロイドって意味ではまさかあるまい。えっ、単なる被害者の名前? なーんだ。
 そんなことを思った小学校時代、幸いネタバレ無しで読めたので結末で驚愕、海外のミステリを読む大きなきっかけになった。
 さてそれを今読み返したところ、意外な程に面白い。物語序盤にそんな兆しは欠片もないのに何故あの人があの人を殺すのか? また、言動の不可解な人物が幾人も見受けられる。
 つまり、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧――そんな状況が、本書を優れた倒叙ミステリに変貌させたのだった。

No.593 8点 月光ゲーム- 有栖川有栖 2019/08/30 10:04
 物語に停滞がなく常に進行し続けるので、読み易く面白かった。本格ミステリに対する志の高さが感じられる。

 解決編のダイイング・メッセージ解説で江神が言及した“テントに貼りだされた表札”――そんな記述あった? “十七人か、テントに表札つけなきゃね”という台詞はあり、理代たちのテントの表札は事件の小道具として登場するから、全てのテントに表札があると推測は可能だが……私の見落とし?

No.592 7点 魔偶の如き齎すもの- 三津田信三 2019/08/30 10:02
 “巫死”の教義(?)や六人の女性の詳細はもっと知りたかった。“獣家”の像が結局は虚仮威しなのもがっかり。このシリーズ、長編は冗長になるのに、短編だと結末が急ぎ足だなぁ。

No.591 5点 今だけのあの子- 芦沢央 2019/08/30 10:00
 こういう作風の人が同系統の作品を求められるのはしかたないが、収録短編のムードがどれも似通っていると感じた。個々の短編としては面白いのに、こうして一冊にまとめると良さが相殺されているような。
 ところで、各編が緩くリンクしているけど、これって何か裏設定みたいなものの伏線になっていた? 全然判らない。

No.590 5点 ηなのに夢のよう- 森博嗣 2019/08/30 09:57
 やろうと思えばなにがしかの方法で実行可能なのだから、実際にどうやったのかは問題ではない、と言わんばかりの態度だが、だったらこんな“高い死に場所”なんてギミックを付加する必要は無い。シチュエイションの無駄遣いだ。
 その点を除けば悪くない(除いていいのか?)。

No.589 5点 チムニーズ館の秘密- アガサ・クリスティー 2019/08/26 10:20
 奇妙な偶然の一致や、なんでそうなるのか不思議な言動が満載。ミステリの国と言うスラップスティックな架空世界の物語、と割り切っても、物凄く面白いとまでは思えなかった。其処此処に見受けられる妙なユーモア感覚は評価出来る。

No.588 5点 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 2019/08/19 11:04
 再読だが、以前とは随分違った印象。なにより猫丸先輩の台詞回しが“そういう人物を演じている”感じの不自然さで、いっそ丸ごと本人が意識的に作り込んでいる嘘キャラなんじゃないかと言う気分になって来る。各話の謎解きについてもあまり腑に落ちなかった(「夜の猫丸」は解決してないよね……)。

No.587 7点 ヴェールドマン仮説- 西尾維新 2019/08/14 12:56
 “コンプレックスが一切ない彼を書いてみたかった”とは作者の謂。しかしこの屈託の無い仲良し家族が、西尾維新の世界の中に置かれると怖いのなんの。物語を貫く違和感が探偵する視点の無邪気な邪気を炙り出す。“世界シリーズ”から当事者意識を除去したような味わい。
 尚、“著作100冊目”とのことだが、リストを見ると結構恣意的に省かれているものがあるので、さほど意味のある謳い文句ではない。

No.586 5点 君待秋ラは透きとおる- 詠坂雄二 2019/08/14 12:54
 SF。特殊能力者を束ねる組織があれやこれや。
 超常現象の理屈付け方とか、細かなガジェットは悪くないが、全体としては凡作。前半ののほほんとしたムードと緊迫する後半とどちらも中途半端だし、何よりキャラが立っていない。秋ラと言う命名は徒に読みづらい。
 この作者には、もっと読者に対して挑戦的なものを書いて欲しいなぁ。

No.585 7点 誘拐作戦- 都筑道夫 2019/08/14 12:51
 九歩目まではトリッキーな展開と文体を楽しめたのだが、最後の一歩で明かされる真相がどうもいけない。
 以下ネタバレ気味:犯人Xの目的の為には多少の人手が必要だが、犯人Yの目的についてはそうでもない。手を組んでこんな芝居じみた計画を企む必然性が、犯人Yにとっては乏しいように思う。せいぜい“相手方が計画に気を取られて油断する”と言ったファジィで心理的なメリットしか見当たらない。それならそれでいいので、作中でそういうことを明言して欲しい。

No.584 6点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2019/08/14 12:49
 作者は何故わざわざ婚約者の名前をリチャードにしたのか。おかげで警視は一度もフルネームで呼ばれていない。ありふれた名だから偶然重複するのもリアリティだとか考えたのだろうか。いや待て、そもそもEQシリーズ全体の設定として、リチャード・クイーンと言うのは仮名だっけ?

No.583 5点 不老虫- 石持浅海 2019/07/31 11:46
 せっかくのアイデアを上手く広げられなかった感じで勿体無い。“不老虫”という特質がストーリーにあまり絡んで来ない。日本に密輸されたのが単なる危険生物でも概ね同じような話になりそう。

No.582 8点 宿借りの星- 酉島伝法 2019/07/31 11:44
 日本語を1度融解して固め直しましたという趣の文体はなかなか読みにくく牛の歩みの如き読み方を余儀なくされたが、それが逆に功を奏して拒絶反応を抑えつつゆっくり茹で上げられる蛙よろしく頭が作品世界に侵食される羽目になり、最終的に四つの眼や尻尾を持つずぶずぶぴぎゃくぱぁといった感じの生き物に感情移入して落涙するに至った経験は怪挙と呼んで差し支えないだろう。

No.581 7点 46番目の密室- 有栖川有栖 2019/07/30 11:55
 揚げ足取り。
 煙突の中の暗号は、出鱈目を書いておいても(いや、何も書かなくとも)犯行に於いて問題は無い。それなのにわざわざちゃんとした暗号を作って使っている。作中で突っ込んで“ミステリ好きの矜持です”とか言わせればいいのに。
 火村が小さな声で歌ったザ・ローリング・ストーンズ「Paint It, Black」。実は作中の表記に該当する適切なフレーズは存在しない。

No.580 5点 もういちどベートーヴェン- 中山七里 2019/07/30 11:54
 シリーズ読者なら先刻承知な岬洋介の情報を殊更秘密めかして書く意義はあるのか。刑事事件についても表層的だし、推理の根拠は乏しいし、秘匿したい事情を持つものが日常的にサインを示すのは矛盾している。なんだか色々中途半端だ。寧ろ新聞記事にあった死体遺棄事件が興味深い。

No.579 8点 Ank: a mirroring ape- 佐藤究 2019/07/26 11:37
 前半・何が起きているのか?:9割方見えている正解に向かって、残り1割の疑問だけを餌に読み進め、と言う感じで少々苛々。情報開示の手順にもっとやりようがあったのでは。
 後半・どう収束するのか?:期待したほど主題が広がらず。話の3分の2を過ぎてから偶然、有力な人物が絡んでくるのも御都合主義的だ。ところで、障害のある人は暴徒化しないように思うが、その点については殆ど触れていないね。
 総体としてのネタ/ストーリー/キャラクターは充分面白いが、それらをベストの形で展開し切れてはいないと思う。藤田和日郎の某漫画を髣髴させるのはまぁ偶然かな。

No.578 7点 刑事のはらわた- 首藤瓜於 2019/07/26 11:33
 警察小説の皮をかぶった新本格? 登場人物の気持の推移が緻密な描写ではなく、どんよりした一時期を経ていつの間にか変な方を向いている、と言うのが却ってリアル。サンドイッチのエピソードもその空気感を効果的に表現している。『刑事の墓場』と同系統だと誤認されそうなタイトルはそれ自体がミスディレクション? 変なものを書こうと言う志を買いたい。

No.577 6点 星空の16進数- 逸木裕 2019/07/23 11:21
 作中の“色彩”に関する繊細な美意識は、与太話とまでは言わないが、文学表現によるデフォルメがあってこそ成立する或る種架空のものであって、興味深いものの限界が見える。一方、共感出来ない登場人物の一人称で描き切った力技には、読んでいて居心地の悪さを感じたが、それはそれでアリだと評価したい。最終的に明かされる諸々にはスッキリしない部分もあり、“2010年代の探偵業事情”みたいな要素が一番面白かった。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1716件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(89)
西尾維新(69)
アガサ・クリスティー(65)
有栖川有栖(50)
森博嗣(48)
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