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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.728 8点 山椒魚戦争- カレル・チャペック 2020/06/02 12:11
 昔の風刺SFだが、古さを理由に手加減して読む必要は感じなかったし、発表当時の世界情勢など特に意識しなくとも作品自体が純粋に面白い。グロテスクなイメージの山椒魚が愛らしく感じられ始めた、かと思うと当初とは別のニュアンスでグロテスクに変わり、それはつまり人間の鏡像である。と、ざっくり言ってしまえばありがちなアイロニーだが書き方が巧みなので読まされてしまう。

No.727 6点 砂時計- 泡坂妻夫 2020/06/02 12:09
 職人モノの一編になかなか鮮やかなミステリ的仕掛けが施されていて、そうすると他の作品にも同系統のものを期待してしまうのが人情ではないか。しかし他の職人モノはあくまで職人モノであり肩透かしを食らった。ならば問題の一編を職人モノの末尾に配しミステリ短編との橋渡しにすべきで、途中に割り込む形の芸能モノ2編は最初に置こう(最後に置くと、ミステリ要素の無さがやはり肩透かしだから)。
 と言う感じに収録順にも配慮してくれると印象がまた違うと思う。ミステリも職人モノも泡坂妻夫作品として同じ扱いで読んで欲しい、みたいな編集意図を感じるがなかなかそうもいかないのよ。

No.726 6点 時空旅行者の砂時計- 方丈貴恵 2020/06/02 12:09
 SF設定を組み込んだミステリと言うのはもはや珍しくもないので、その点だけ取り上げて変に騒ぐことはないし、普通のミステリと同列に並べて正当に評価することが出来る。本作は本格ミステリとしては結構王道で、手を抜かずに色々組み立てていると思うが、優等生的であるがゆえの物足りなさ、パターンをこなしている感じ、も否めなかった。内容ではなく書き方の問題が大きいかと。
 あのSF系トリックには、そんな手があったかと感心した。一方、Tさんの死因が日記と異なるのにはどういう意味があるのか。タイム・パラドックスは苦手だ。
 第四章の筆談はもっと筆談っぽい文体にしたほうが演出上良いと思う。

No.725 7点 修羅の家- 我孫子武丸 2020/06/02 12:07
 ああ気持悪い(褒め言葉)。ふーん、実録小説みたいなものを狙ってるんだな、でも最初の章でネタが読めちゃうよ……と舐めていたら予想外のところへ飛んで、成程やっぱりミステリの人だなぁと感心しつつ、やはり気持悪い。最後は雰囲気モノにせずもう少しきちんと締めたほうがいいと思う。

No.724 7点 濱地健三郎の幽たる事件簿- 有栖川有栖 2020/06/02 12:05
 作中の台詞にあるように“幽霊の法則がはっきりしないね”。それは良し悪しであって、話のヴァリエーションの源になっていると同時に、まぁ説明はどうとでも付くものだと言うことでもある。最も推理小説っぽい「姉は何処」が結局一番印象的だった、との感想は、作品の限界なのか読者としての私の限界なのか。

No.723 6点 剥製の島- 山田正紀 2020/05/29 12:06
 一貫してうらぶれた雰囲気のキャラクターばかり登場するが、各編それなりに差別化されていて楽しめる短編集。出来不出来はあって、「湘南戦争」がダントツで面白い。喜劇にせずあくまでハードボイルド的に書き切って潔し。「剥製の島」ストーリーはなんてことないが、描かれた情景のインパクトで勝ち。暗号モノの「閃光」は駄作。「マリーセレスト・2」は設定を作り込み過ぎでは。

No.722 7点 パーマー・エルドリッチの三つの聖痕- フィリップ・K・ディック 2020/05/29 12:03
 ちりばめられた雑多なSF的ガジェットのせいで取り散らかした印象だが、落ち着いて省みればそれなりにフォルムの整った作品。前半は企業サスペンスみたいで面白いし、幻覚の描き方もスリリング。
 ただ、私にはドラッグを試してみたいとの興味は微塵も無いので(酒も飲まない)、登場人物に対する共感の無さは否めず、それがなにがしかの壁になっているかも。植民地の場面は“やれやれ、しょうがない奴等だ”と上から目線で読んでいたな。

No.721 5点 荒野の絞首人- ルース・レンデル 2020/05/29 12:01
 舞台となる“原野”について具体的にイメージしづらい。物理的要素だけでなく、住民の生活との心理的な距離感とか。日本に於ける山林とは違う位置付けだよね?
 良く判らない点が幾つか。第三の犠牲者について、加害者は死体遺棄と髪切りを何故まとめてせずに徒歩で引き返す二度手間をかけたのか(13章)。その行動について警察は何を根拠にそこまで細かく推測出来たのか(17章)。18章の刑事の訪問は何が目的なのか。証拠隠滅を促したとしか思えないのだが。

No.720 5点 言語都市- チャイナ・ミエヴィル 2020/05/29 11:58
 判りにくい作品だ。自分がどこまで的確にこの物語を享受出来たか、自信が無い。アリエカ人をヴィジュアルでイメージしづらい、と言う点が大きな壁だった気がする。まぁその判らなさも面白さのうちではあった。馬鹿馬鹿しくシュールな場面を大真面目に淡々と描くメタ的な可笑しみ、を強く感じたがそれは果たして作者の意図だったのか? エドでーす。ガーでーす。二人合わせてエドガーでーす。そのまんまやないけー! ごめんなさいそこまでふざけた話じゃありません。

No.719 8点 巴里マカロンの謎 - 米澤穂信 2020/05/29 11:56
 このシリーズって春夏秋冬の4部作になるのが暗黙の了解だったんじゃないの~? と誰もが突っ込んだことでしょう。恥じることはない私もだ。
 公約を剥がすだけの意義はあった。「伯林あげぱんの謎」は不可解な状況の作り方が巧みだし(シリーズ中ベストではないか)、「花府シュークリームの謎」は謎そのものよりも打開の為の心意気がナイス。ラスト・シーンでは異様に感動した。
 しかし、こうやって続けてしまったことで、“二人の青春の蹉跌に何らかの決着を付けて完結”と言った感じのバランス良くまとまったシリーズへの道は失われたわけで、ちょっと惜しい。完結させられるシリーズは完結させたほうがいいと思うのだ。

No.718 7点 エスパイ- 小松左京 2020/05/28 11:11
 小松左京のイメージからすると意外な程に通俗的かつ痛快なアクションSFで、その通俗性も含め総体として一つの文明批評に思える。世界各地を股にかける旅程は博覧強記の氏の面目躍如だが少々わざとらしい(語り手がそこまで理知的なキャラクターでもないので、薀蓄を語る部分は作者本人の視線になっているような……)。“エスパイ”と言う造語はかなりダサいと感じる。発表当時はアリだったのか?

No.717 7点 りぽぐら!- 西尾維新 2020/05/28 11:09
 この手の言葉遊び、作者は書くほどにレヴェルアップして楽しめるが、読者はなかなかその楽しみを共有しづらい。思うに本書の場合、禁断ワードがランダムなのが一因で、例えば“ア行禁止”とか“濁音禁止”のようにシンプルならばもう少し親しみ易かったのでは。甘いかな?
 純粋に小説として読めば、「妹は人殺し!」が大好き。

No.716 10点 宝石泥棒- 山田正紀 2020/05/28 11:07
 山田正紀作品は概ね目を通しているが、最高傑作と推したいのは本書。イマジネーション豊かな異界、運命に抗う旅、奇妙な仲間達、友情努力勝利敗北。贅沢に全部載せてしかも隅々までこぼすことなく味わえる。
 『神々の埋葬』のように、まだ広げられる余地を残したままの完結でなく、『ミステリ・オペラ』など大長編の胃もたれ必至の物量戦でもなく。
 やや長めの『宝石泥棒』は、物語が内包するスケール感と具体的なページ数がピッタリ一致して、食い足りなさも読み疲れも感じない。諸々のエピソードがバランスよく盛られ、いや違う、バランスの悪さも滑らかな模様に見える高い視点に読者を導き、不器用な作家であちこちぶつけながら領域を広げてきた山田正紀としては驚くほど綺麗な球体を描いているのである。瑕瑾……はあるのかもしれないが、あまりに鮮やかな作品世界の中に居ては気付く余地が無かった。
 チャクラが小丑から料理で一本取る場面が大好き。

No.715 6点 カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/05/28 11:06
 読了後、冒頭部分を読み返してみると、ファイロ・ヴァンスは事件を伝えられた時点であまりにも鋭い洞察を示していて、単なる勘にしても異常なのである。事件関係者がもともとヴァンスの知人である点も併せて鑑みると、裏で糸を引いていたのは彼自身ではないか、実行犯を巧みに唆して罪を犯さしめたマッチポンプではないか、と思わずにはいられない。ラストがアレだしね……。

No.714 7点 崑崙遊撃隊- 山田正紀 2020/05/27 11:41
 ロスト・ワールドの冒険小説としては快作なのだが、結末で述べられる、崑崙に関するSF要素はどうなんだろう。作者は根っこがSF者だからそうなってしまうんだよ、と考えるのはSFファンとして嬉しい。しかしこれは時代背景と登場人物の思想・言動が密接に絡み合った物語である。現代的視点のSF的解釈を付け加えたのは、浪漫を損なう蛇足であるようにも思える。痛し痒し。

No.713 5点 蚊取湖殺人事件- 泡坂妻夫 2020/05/27 11:38
 実現可能性の低そうなトリックや極端な偶然について、巧みな話術で読者を丸め込んでまぁアリかな~と言う気分にさせる、とはこの作者がよくやる手。しかし本書、ミステリの短編は4作とも、ネタとしては悪くないのだがその話術の効果が弱くて、結果としてなんだかぼやけた話になってしまった。
 奇術・職人モノはオマケってことでまぁいいや。

No.712 8点 復活の日- 小松左京 2020/05/27 11:35
 半世紀前のパンデミックSF。
 “スピードアップされた国際交通を通じて、ほとんど全世界に、種を植えつけていた”
 “たかがかぜぐらいで、非常事態宣言は大げさすぎると思うだろうが”
 “アメリカはじまって以来の、バカげた大統領”
 等々、ニヤリとさせられるエピソードが並ぶ。
 諸々の知見を総動員した説得力に富む展開、であるだけに、プロローグ(→感染拡大後の地球の姿を予め示している)は不要だったと強く感じる。本編が答え合わせみたいになっちゃうんだよね。

No.711 6点 人類最強の sweetheart- 西尾維新 2020/05/27 11:33
 請負人・哀川潤を主人公にした短編集。①音楽×暗号ネタはいまひとつ、だがオチは効いている。②昆虫食には興味があるので楽しかった。③京都府警のミステリ掌編はそれなりに面白い。しかしアレとアレは痕跡が違うのでは。その場での思い付きの偽装工作だからそこまで考えていない、と言うことでいいけれど、作中で一言フォローが欲しかった。
 他の数編は物足りない。とは言え西尾維新の文は齧るだけで楽しいわけで、潤さんの敵でないならすべからく読むべし。誤用じゃないよ。

No.710 7点 僧正の積木唄- 山田正紀 2020/04/07 10:09
 刊行直後に読んだ時はあまり楽しめなかった。原因は明白なので此度再読するにあたっては万全の準備を心掛けた。ヴァン・ダイン『ベンスン殺人事件』から『僧正殺人事件』まで順に読み、平行して横溝正史も何冊かチェックして金田一耕助のキャラクターを再確認しておく。満を持しての本書である。
 トリビュートとは言え徒におもねった物ではない。例えば文体は概ねいつもの山田正紀そのまま。原典の文章が持つ旧時代ゆえの靄に鉋をかけて1930年代のニューヨークをくっきりと甦らせている。ファイロ・ヴァンス等の扱い方も、愛情ゆえに厳しくならざるを得ないと言った感じだ(一方で金田一耕助については愛情だだ漏れ)。
 続けて読むと、『僧正殺人事件』の動機の背後に暗示される広がりは、まさに山田正紀の守備範囲。ヴァン・ダインを補完しているように見せて、それに留まらず自分の場に持って行くあたり強かだ(その割に、明かされる真相はしょぼくて残念)。
 ネタバレ防止で幾らか曖昧な表現のところはあるが、さほど気にならなかった。但しこちらを先に読むと『僧正殺人事件』の犯人も見当が付いてしまうと思う。従ってやはりあちらを読んだ上で臨むほうが良い。問題は、『僧正殺人事件』が“ミステリ読みの基礎教養”の座をもはやキープ出来ないだろう、と言うこと。

No.709 6点 僧正殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/04/07 10:08
 動機については、形而上的だが非常にリアルだと感じた。これで小説的展開がもっと上手ければなぁ……『グリーン家殺人事件』もそうだが、連続殺人なのに現在進行形ゆえのサスペンスがあまり無い。この作風及びファイロ・ヴァンスのキャラクターは連続殺人に向いていないのでは。
 そして、解決編には曖昧に片付けられている部分があり、山田正紀『僧正の積木唄』へと続く。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(99)
西尾維新(72)
アガサ・クリスティー(68)
有栖川有栖(51)
森博嗣(49)
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