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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1706件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.646 6点 気まぐれ指数- 星新一 2019/12/26 11:49
 都筑道夫みたい。星新一はエログロ書かないから、都筑道夫を漂白した感じ、とでも言おうか。謎と論理を重視する為に、過剰なメロドラマ性を排した都筑。無個性なキャラクターを多用し、“人間”を描く方法が必ずしも“人物”を描くことだけとは限らない、と語った星。両者が近いところに着地したのは、考えてみれば納得出来る。
 毒の無い世界観を一旦受け入れてしまえば、このイノセントな騙し合いも楽しめた。矢鱈と繰り出される様々な比喩が、長編で読むととても目立って苦笑。

No.645 7点 ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン 2019/12/26 11:48
 遺産相続を巡るあれこれは、書き方が巧みなので飽きずに読めるが、飽くまで想定の範囲内に終始している気もする。ようやく事態が動くのは物語の半ばあたり、そこを過ぎて俄然面白くなるものの、最後に物凄い偶然による人間関係が発覚して呆然。国名シリーズにも似たようなサプライズがあったね。あと、前作『ハートの4』と同じような“雇用者と使用人の関係性”を連続して使い回すのは如何なものか。

No.644 8点 美少年蜥蜴- 西尾維新 2019/12/26 11:42
 講談社タイガ創刊ラインアップの1冊として始まったこのシリーズは、“薄っぺらい文庫本”というレーベル・コンセプト(?)を体現するかの如く、短編サイズのアイデアを舌先三寸で引き伸ばした作品に終始した観がある。そしてそれは、作者の言葉そのものに対する信頼を裏付けとした、少ない材料でどれだけ膨らませることが出来るか、と言う或る種倒錯的ながらも前向きな挑戦だったように思う。次々広げられる無茶な風呂敷にニヤニヤしつつ楽しませて貰いました。
 本作でもそれを反省するどころかますますエスカレートさせて天晴れ完結。殆どストーリーはありません、良い意味で。尚、【光編】【影編】とあるが要は上下巻。

No.643 7点 七十五羽の烏- 都筑道夫 2019/12/26 11:36
 他者の為に○○した、という真相の話は読んで辛いし、そこまでするキャラクターの心が怖い。
 “走り火”の情景描写は圧巻。縦横に火花が閃く夜の闇の中へトリップしてきた。個人的にはあの場面が本書の主役。

No.642 7点 不動カリンは一切動ぜず- 森田季節 2019/12/19 11:03
 青春小説。性・家族・コミュニケーション等の形が変化した時代が舞台で、発達したITがバックアップする殺し屋の手が迫ったり、変な宗教が神に迫ったりと、SF的ガジェットの面白さもあるが、それら全てを突き抜けて少女達の真摯な思いが光る。
 少女の一人、“言葉(ときは)”と言う名が、文中に混ざると読みづらい割にその命名による効果が無いのは失点。

No.641 7点 カナダ金貨の謎- 有栖川有栖 2019/12/19 10:58
 短編2編の“謎そのものよりも謎の出し方がメタ的なヒントになっている”状態が面白い。表題作中の“キャメルの由来”も同様。
 「船長が死んだ夜」。犯人の肉体的特徴の描写が少なくて読み流していた為、解決編で“アレッ、この人はそういうキャラだっけ?”とキョトンとしてしまった。ええ私の読み方が悪いんです。それを除けば、とても良い。

No.640 8点 レームダックの村- 神林長平 2019/12/19 10:54
 巫女。ムラオサ。穢れたら埋められる。受け入れを拒否されたら生きて出られないよ……ホラー系ミステリのような導入部だが、間違いなく神林長平の長編SF、しかも『オーバーロードの街』に連なる作品である。比較的きちんとまとめて終わっている、と思ったら続きがあった。
 タイトルが内容をそのまま示している。街(都市圏)がああいうことになっている時、田舎の村では何が起きるか。様々な思惑が絡み合い、国家論が右往左往し、ラストは結構な力技に呆然。そして話は全然終わっていない。人類はどうなるのか?

No.639 8点 ×××HOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル- 西尾維新 2019/12/12 10:58
 CLAMP のコミックをネタに西尾維新が書いた小説。そりゃ当然面白い。実はストーリー性は希薄で、御題を右から左へ動かしているだけなのだが、それでこんなに読ませるとは一体どういう仕掛けなんだか。
 しかし短編3本をこのサイズの豪華な書籍に仕立ててこの値段。売れっ子同士の組み合わせなんだからボってやれと言う版元の狙いが透けて見えるような気がする。(ビジネスのことは言うな!)

No.638 7点 ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2019/12/12 10:48
 思うに、最低限の作品なら或る程度スタイルを整えれば成立するミステリと言うジャンルは、気を抜くと堕し易い? あと、読者のマニア度が人それぞれなので、B級品の需要も常に存在する?
 つまりは、論理的なものと通俗的なものを巡る構造は当時も現在も変わっていないと言うことか、本作の批評性の強い書きっぷりが、90年以上過ぎた今読んでもそれなりに面白い。
 饒舌なファイロ・ヴァンスは知的と言うより道化だが、それはそれで楽しめた。なんで最初からあんなに自信満々なの。

No.637 8点 神狩り- 山田正紀 2019/12/05 12:50
 いや~、スッキリした小説である。余計な重複が無いし、多面性に欠ける一本気キャラばかりだし。かと言って貧弱なわけではなく、頑健な骨格に引き締まった筋肉を具えたアスリートの力強さだ。
 一方で、“説明出来ないことは説明出来ないのだ”と言う説明で押し切ろうとしているのは、若書きと言うかまだ手持ちの駒が少なかったんだなぁと感じる。それを形にしようと徐々に饒舌になったのかもしれない。
 まぁ読書に関して一神教である必要など無いのだ。熱いデビュー作と厚い近作と、面白さの質は変わったが山田正紀はどちらも面白い。

No.636 5点 虚空から現れた死- クレイトン・ロースン 2019/12/05 12:48
 スラップスティックな筆致で不可能犯罪が描かれるところまではいいが、トリックは物足りない。チーム・ディアボロやチャーチ警視のキャラクターは好き。
 主人公の名前“ニック”と“ディアボロ”を意味もなく(だよね?)混用するのはやめて欲しい。

No.635 5点 吸血鬼飼育法- 都筑道夫 2019/12/05 12:47
 期待した程ではなかった。トラブルをアッと驚く奇策で解決、するかと思ったら結構な泥縄式対応。キャラクターが違えばもっと楽しめそうな気もするし、基本設定と持ち込まれるネタがマッチしていないのでは。特に、多数の共犯者で事件を演出する話は、それなりに捻ってあっても首肯しがたいな~。

No.634 6点 監禁探偵- 我孫子武丸 2019/12/05 12:45
 あざとい設定、だけどまぁいい。ミステリ要素としては小粒なものをキャラクターで引っ張っている、のは方法論としてアリだろう。しかし最終話でここまで強引にまとめる必要はなかったと強く思う。妙な性癖の謎の少女が理由もなくあちこち渡り歩いている、で押し切った方が良かったのではないか。

No.633 7点 斜光- 泡坂妻夫 2019/12/05 12:40
 泡坂妻夫の描くエロスはあまり好きではない。基本的な趣味の違いでこれはどうしようもない。
 本作は良く出来たプロットだし(しかし姿を消した原因が判らないってことはないだろう)、御都合主義的偶然が運命的な天の配剤のように読めるのは人物造形の確かさ故だろうか。それでも濡れ場になるとフッと冷静になってしまう自分がいる。

No.632 7点 法月綸太郎の冒険- 法月綸太郎 2019/12/05 12:39
 悩みながらも一つ一つ的を定め、的中に至らずとも丁寧に矢を放つような、パズラーに対する誠意が、長編よりも判り易く感じられて好感が持てる。但し悪ふざけめいた「土曜日の本」は余計だな~。ああいうのはエッセイ集とかのオマケにそっと忍ばせるものでしょう。

No.631 7点 戦争獣戦争- 山田正紀 2019/11/30 16:14
 現世と重なり合いつつ微妙に違う世界で戦いに明け暮れる種族、と言った設定は目新しくもないが、山田正紀は巧みなエピソード構築、鮮やかな視覚的イメージ、そして言葉自体の存在感で厚みの付与に成功している。でも腐肉や糞便に関するイメージ喚起力は困るな~。
 惜しむらくは少々贅肉を付け過ぎてリーダビリティが犠牲になっている嫌いがある。3分の2を過ぎて読み疲れた頃にググッと話が収斂して(中原さんのエピソードは泣けた)オオッと来た後がまた長い。もう少し流れが良くなれば結末のカタルシスも増すと思うのだが、この作者の大作主義は良し悪しなので全部込みで付き合うしかないのだろう。

No.630 7点 48億の妄想- 筒井康隆 2019/11/30 16:13
 テレビ文化の爛熟、インターネットの普及、動画サイトやSNSの台頭――おそらくこの作品はことあるごとに“未来を予見していた”と評され続けてきただろう。私も同じことを呟いて溜息を吐くしかない。
 冷静に考えれば、テレビと言うメディアの性質からして、それをデフォルメして現実と虚構の混乱を描く作品が登場するのは時間の問題だったと思うが、最初の矢で正鵠を射抜いた本作はやはり見事だ。
 個人的にツボだったのは某若手スターの喋り方。“欣喜雀躍神社仏閣!”ラッパーかい。

No.629 7点 叙述トリック短編集- 似鳥鶏 2019/11/30 16:12
 私が叙述トリックを好むのは、やはりその一行を境に頭の中のヴィジュアル的イメージが一変する快楽ゆえである。
 細心の注意を払ってアウトにならないギリギリのラインに配置された言葉をドミノ倒しの如く崩さぬよう慎重に読み取るスリル。そこに於いて作者と読者は出題者 vs 回答者と言うよりも緩やかな共犯者になる。真相を見破る悪意ではなく、上手く騙される読者としてのスキルも重要だと思う。
 但し、叙述トリックがあると言う予備知識が無いとその共犯関係は築きにくく、かと言って予備知識があるとネタバレで面白さを殺ぐ、と言うジレンマがあり、解決策として予め『叙述トリック短編集』と名乗ってしまうのはコロンブスの卵だ。しかも個々の短編がハズレ無しでこの身も蓋もない企画に見合ったレヴェルを維持出来ている。拍手。

No.628 7点 悲しみの時計少女- 谷山浩子 2019/11/25 13:31
 作者曰く、綾辻行人『時計館の殺人』と本作は“作者同士のアイディアや趣味が混ざりあった結果、兄妹のような関係の作品になりました”。その綾辻行人は推薦文で“同じ「時計屋敷」をモチーフにしたこの作品を読んで、正直なところ打ちのめされてしまった”と吐露。更に、竹本健治が“自宅をカンヅメ会場として提供”と言う微笑ましいエピソードも添付。話半分と考えても素通りは出来まい。
 『時計館の殺人』と通底しているのはロジックやトリックではなくルナティックなエレメント。となれば『霧越邸殺人事件』や『囁き』シリーズにより強い共振を見るべきか。とは言え中村某を髣髴させる人物も登場し不可解な場所を幾つも巡る構成は、館シリーズを駆け足で一冊に凝縮した野心作と言えなくもない、と言っても過言ではないかもしれない。
 実はこの度読み返して小林泰三みたいだと思った。これは両者とも『不思議の国のアリス』の子供だから。但し“サカナの目の男”が『クトゥルー』ネタだと言うのは考え過ぎだろう。サカナはもともと谷山浩子が多用する言葉なのである。

No.627 7点 ユキのバースデイシアター- 谷山浩子 2019/11/25 13:28
 谷山浩子は、1972年にデビューして以来、40枚を超えるアルバムを発表しているシンガーソングライター。ヒット曲は……あるのかなぁ? 「河のほとりに」のオリコン29位が最高位。知名度を考慮すると、斉藤由貴「MAY」(2位)の作詞者、手嶌葵「テルーの唄」(5位)の作曲者、と言った方がいいか。小説家としてもファンタジーや少女小説を10冊以上上梓している。歌詞の内容とリンクしていたり、そこまでいかずとも世界観が共通だったりで、彼女の歌のファンに向けたもう一つのアウトプット、という側面は否めず、そして私もファンの端くれであるので文芸作品として純粋に評価するのは困難だが、決して馬鹿にしたものではない(と信じたい)。

 さて本作は、綾辻行人との交流によってにわかミステリファンとなった谷山浩子渾身のトリックが炸裂する連作長編。勿論ベースはファンタジーなので、ふわふわりんでパセリパセリなバカミスなのだが、意外とメフィスト賞系作品あたりにこんな話が混ざっていてもおかしくないと思う。“謎々好きの妻”がキュートで不気味。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1706件
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有栖川有栖(50)
森博嗣(48)
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