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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.893 6点 孤独の島- エラリイ・クイーン 2021/02/03 11:54
 おまわりに預けよう、と言い出した時、ハハァ、コレは弱味を握っているか、金で転ぶ悪徳警官か、ともかくなにがしかの事情があるんだな、と思った。人質に取り易い家族がいると言うだけなら選択肢は他にもありそうなのに、何故わざわざ警官を巻き込んだ?
 三者三様キャラの立った強盗団に比べて、マローンの性格はあまり読み取れなかった。と言うか、彼本来の性格なのか、状況によって強いられた無理な行動なのか、区別が付かなかった。
 邦題は考え過ぎで合っていない。後半で舞台がどこかの島に移ると信じていたのに。そのまま『コップ・アウト』でいいんじゃないの。

No.892 8点 皆殺しパーティ- 天藤真 2021/01/29 13:24
 この一人称の書き方は“成功者の自伝”のパロディのよう。早苗の描写が若干ギクシャクして感じられるのは流石に時代か。巻き込まれて死んだ市民は気の毒で、そのエピソードは要らなかったのでは。
 ネタバレするが確認。第一の殺人で被害者が期待通りに動くかは結構な賭け。場合によっては“殺人カップル”の存在は共犯者の証言のみに依拠することになる。どうせそれでいいなら、ちょっと芝居がかった罠を仕込み過ぎ、と言う気もする。でもまぁ証言してくれれば、その後に殺し直してもいいわけで、ホテルではその“芝居”の方を重視すべきか。うーむ。

No.891 5点 バベル‐17- サミュエル・R・ディレイニー 2021/01/29 13:22
 言語学SFと言って他に思い付くのは『言語都市』(チャイナ・ミエヴィル)、『あなたの人生の物語』(テッド・チャン)、『文字渦』(円城塔)等々。いずれも、架空の言語(及びそれに伴う架空の概念)を既成の言語で説明する面白さがそのまま読者にとっての困難さにつながっている。
 ただ本作の場合、“バベル‐17”なる要素は物語の軸ではなく、ちりばめられたキッチュなガジェットのワン・オヴ・ゼムに過ぎないと思う。それがタイトルに掲げられているせいで、思い返せば私は物語全体のバランスを見誤った。言語学ネタにこだわらず活劇をもっと楽しめば良かったのかもしれない。

No.890 6点 強欲な羊- 美輪和音 2021/01/29 13:21
 それぞれの出来は良いが、この手の作風は短編集だと飽きる。もっとありきたりな“事件→捜査→解決”形式にはそんなことないので不公平だが仕方がない。
 粗筋紹介文に“女性ならではの鋭い狂気”、文庫版解説には“女って怖い”。作者もそういう考え方を踏襲して書いていそう。私は“キャラクターにはあくまでその個人の諸要素が反映されているのであって、性別は(ほぼ)無関係”だと思うので、そのへんは深みに欠けるパターン化した造形で大きなマイナス点だと感じた。

No.889 5点 天国は遠すぎる- 土屋隆夫 2021/01/29 13:20
 “死を誘う歌”なんて思わせ振りなガジェット、しかもそれをタイトルに掲げておいて、しかしすぐに全然違う方向へ進んで、結局アレは何だったのか、物語に膨らみを持たせる役にも立っていない余計な遊びにしか思えない。アリバイのトリックよりも結末のソレに驚いたね。

No.888 8点 時をかける少女- 筒井康隆 2021/01/26 13:45
 あっれ~、こんなにシンプルな話だったっけ? 素朴な焼き菓子って感じ。
 この余白の多さが、メディアを越えて繰り返し増幅される要因か。クリームやフルーツを盛って見栄えの良いスウィーツに仕立てることが無意味だとは言わないが、土台だけでも充分美味しいんですよ。 
 昨今のラノベのスピード感とは一線を画した、若干の野暮ったさを孕みつつも丁寧に綴られた文体が意外な程に好感度高し。“でっぷり太ったメガネの小松先生”他数人、作家仲間がカメオ出演していますね。

No.887 6点 天狗の面- 土屋隆夫 2021/01/26 13:44
 泥縄式に書き進めて、不具合が見付かっても修正せずに後から注釈を付けるだけで片付けたような、妙に不揃いな印象を受けた。書き下ろしなんだし、あと一回、推敲して細部を整えるべきだったのでは。
 毒殺トリック論は読み飛ばしても良かった。“毎夜十時にサイレンが鳴る”と言う設定が不思議。当時の農村では普通の習慣だった?
 そしてネタバレしつつ確認。第一の殺人、当初の目論見としては“腹痛は当人の疾病が原因”と言う設定だった筈だよね。だって毒殺未遂を演出してしまうと、その犯人は誰かと言う問題が未解決のままだから。その点に誤解が生じそうなので、作中に書いておいて欲しかった。

No.886 6点 作家小説- 有栖川有栖 2021/01/26 13:43
 もっとしょーもないものかと思っていたが存外ちゃんとした作品集。「締切二日前」で言及される筒井康隆作品は「猫と真珠湾」だが、うろ覚えで書いたか少し違うところがある。「サイン会の憂鬱」の“店頭の貼り紙”は、本名をバラすなウィキペディア! と言う“有栖川有栖”さんの憤りか?

No.885 9点 夜歩く- 横溝正史 2021/01/21 12:06
 おっと凄い。アンフェアな書き方が許される状況をフェアな範囲内で設定する、と言うメタ的なアプローチを横溝正史が試みるとは驚いた。“アンフェア”とはトリックそのものではなく“心理的な虚偽の記述”のことね。この小説の存在自体が、どす黒い悪巧みの証左として、グイッとページの中から立ち上がって来るようだ。読み物として物凄く面白いとまでは言えないが、記述者がへぼ作家なのだから整合性は保たれている。正直なところAC作品よりこっちが上。
 しかし、最初の殺人の凶器の扱いは不自然。そこでおどろおどろの雰囲気作りを優先しちゃうのが横溝か……。

No.884 7点 真鍮の家- エラリイ・クイーン 2021/01/21 12:05
 実はEQの長編を一気読み出来たのは初めてだ。鋭さには欠けるが妙に読み易い面白さがある。殺人事件の調査より遺産探しを優先しているようで、クイーン元警視の態度にイライラ(ニヤニヤ?)。殺人の真相には結構驚いたけど遺産のオチはなんだそりゃ。
 招待状の文面は変。“来着または不参をもって返事と承知”と言っても、日時指定が無いから“不参”の判断が出来ないでしょう。

No.883 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 謡う指先- 太田紫織 2021/01/21 12:05
 第壱骨。ミステリ的な驚きとかは無いが、切迫感と言うか語り手の焦燥を否応無く共有させられる書きっぷり(&ウルフのエピソード)に、こちらの気持も引っ掻き回された。グッジョブ。
 第参骨。“カモフラージュ”についての疑問。人の指を誤魔化す為にクマの手を使った。ならばクマの指が一本余る筈で、それはどう処分したのか。そもそも処分出来るなら最初から人の指をそう処分すれば済む話ではないか――と考えると、そんな回りくどいことをした理由は、その処分方法が、人なら無理だがクマなら可能な類のものだったからでは。つまり、食べたのだ。

No.882 8点 見晴らしのいい密室- 小林泰三 2021/01/15 12:51
 ネタバレしちゃうのだが、「探偵助手」について私はきちんと読み取れているのか自信が無い。
 見た目が似ている二種類の薬がある。取り違えると場合によっては命に関わる。それを防ぐ適切な対策を講じなかったことが“確率の殺人”であると言っている? ――単なる思い込みや怠慢でその程度のリスクが放置されている事例は現実に幾らでもありそうだけどなぁ。まぁ作品のキモはそこじゃないんだけど。
 「囚人の両刀論法」は、会話で示されるロジックよりも、その背後に垣間見える設定の方が面白そう。“委員会”とか“冷凍貨物船で惑星系巡り”とか。

 『目を擦る女』から三編を入れ替えて再構成したもの。変更部分がページ数で言えば半分弱なので、もう別物である。大人の事情なのか。今となってはこんな刊行の仕方は寧ろ贅沢と言うべきか。ザ・ローリング・ストーンズのアルバムの英盤と米盤で内容が違うようなものか(違う)。

No.881 5点 審判- フランツ・カフカ 2021/01/15 12:50
 ボケ担当が一人もいないのに転がり続ける喜劇、を無自覚に書いたような本作は、“意味不明”と言うエンタテインメントであって、展開が整理されていないとか長過ぎるとか言っても無意味なのである。がらくた置き場の笞打ちや画家との対話は面白い。ラストは神話のようだ。そんな読み方をしたものだから、巻末解説なんかについては何を猪口才なと思った。

No.880 5点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 白から始まる秘密- 太田紫織 2021/01/15 12:49
 シリーズを順番通り読み進めた読者にとってはとっくに御馴染みの櫻子さん情報について正太郎がいちいち恟々とするのが白々しい。結果論だが、“最初の事件”を書くならもっと早々に片付けておくべきだった。

 ここに至って作者も認めた通り、ロジックよりも観察・知識・直感で真相に真っすぐ飛ぶ櫻子さんはかなりホームズ直系?

No.879 8点 モロッコ水晶の謎- 有栖川有栖 2021/01/08 14:27
 この機会に書くと、私が有栖川有栖で特に好きなのは、いずれも短編で「ペルシャ猫の謎」「絶叫城殺人事件」そして「モロッコ水晶の謎」。“ロジカルなフーダニットの人”なのは承知の上で、それを上回る飛び道具に痺れる。
 ところが文庫版解説には「モロッコ水晶の謎」の別解釈が示されていて、成程そう考えればグラスを取った順番から推理は可能。但し作品のキモは台無しだ。余計なことしやがって。と言ってはいけない。別解が成立しない設定をきちんと作るのも作者の仕事ってわけだね。

 「ABCキラー」。某がいきなり殺人に走るところが苦しい。説得力が無くても動機めいた言葉を残してくれれば、“そういう人間もいる”と(多分)受け入れられるのに、“まるで判りません”じゃな~。

No.878 7点 マレー鉄道の謎- 有栖川有栖 2021/01/08 14:26
 もう少し短くても良い気がするものの、何処に鋏を入れるかは悩ましい。さほど意味の無いくだりの方が面白かったりするし。
 火村の台詞“(Jに)冠詞がついていたはずだ”は間違い。無しで言ったものを犯人は冠詞つきの内容と誤認した、だよね。

No.877 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 冬の記憶と時の地図- 太田紫織 2021/01/08 14:24
 今更だけど櫻子さんの推理は乱暴だ。ほぼ、心理的な状況証拠を並べているだけ。そうなるとパスワードの件も、出任せで鎌を掛けたのではないかと疑いたくなる。
 相応の覚悟を持たずに過去を掘り返しているが如き悪印象はあって、それは櫻子さんの、そういう心情が言動にあまり反映されないキャラクターのせいもあるけれど、そりゃあ訊かれる側は嫌がるさ。

No.876 6点 黄色い犬- ジョルジュ・シムノン 2021/01/08 14:23
 捜査官の個性を尊重したゆとりある捜査、って感じで不思議。更に、事件関係者や舞台の描写が妙に直線的かつ戯画的な印象で、不条理劇を見ているような感覚だった。いえ、適正な読み方じゃないのは判ってますとも! そしたら結末で不意にミステリっぽくなってびっくり。

No.875 5点 犯罪カレンダー (7月~12月)- エラリイ・クイーン 2021/01/04 11:56
 当時の米国のラジオドラマの位置付けは想像するしかないが、マニア向けだったわけではまぁないだろう。ファンの裾野を広げるようなライト・ユーザー向けのミステリ作品があるのは良いことだし、EQがその一翼を担った心意気も判る気がする。
 但し、“初心者もマニアも満足” な作品作りはなかなか難しいのであって、“雰囲気を楽しむ” 以上の名品は見当たらず。つい “くっだらねぇ~” と叫んでしまった話もある。

No.874 5点 犯罪カレンダー (1月~6月)- エラリイ・クイーン 2021/01/04 11:55
 結末でガッカリの繰り返し。唯一「ゲティスバーグのラッパ」の真相はシンプルながらビシッと決まっている。
 生き残り保険ネタが2編重複しているのは、アンソロジストとしてちと自分に甘いんじゃないのかEQ?

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
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