海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

虫暮部さん
平均点: 6.20点 書評数: 2075件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1035 5点 燃えつきた地図- 安部公房 2021/08/25 11:42
 普遍的な主題なのかもしれないが手法が古い。なので“それはもう判ってるよ”と感じることも多かった。主人公が追い詰められる過程や立場が反転するポイントも、“探偵の苦悩”とか“覗くものは覗き返されるのだ”とかではなく、単なる不運に思えてしまう。私などよりも初々しい魂(“都会人の孤独と不安”なんてフレーズを陳腐だと感じないような)で読むべき作品なのだろうか。
 あの姉弟の組み合わせ(の噛み合わなさ?)や河原の暴動のエピソードはいいね。

No.1034 6点 ヴィンダウス・エンジン- 十三不塔 2021/08/25 11:41
 自意識過剰っぽい、雰囲気作りが多少鼻に付く文章。虚仮威しかもしれないが下手ではなく、幻影のイメージ喚起力はなかなか。読んでいる間は目先の展開が面白かったが、さて振り返ってみると諸々良く判らない。特に主人公が寛解した理屈と、もう1人の回復者マドゥの存在感の薄さ。

No.1033 7点 異邦人- アルベール・カミュ 2021/08/19 11:53
 巻末解説では否定的だったが、私には“フランツ・カフカをポップにしたもの”に思えた。相手にとって“私”はただの通りすがり? ちょっと撃ち抜いてみただけで違法じゃん。
 語り手が自らの母親を固有名詞の如く一貫して“ママン”と呼ぶのがあまりにも強烈。原文を当たったわけではないが(仏語なのでどうせ読めないが)これは日本語訳独特の効果なのだろうか?
 主人公の行動からは母親に対する執着など感じられないが、それにそぐわない“ママン”と言う(“ママ”よりも)甘えたような呼称のせいで、“本人無自覚な依存がありママンの死をきっかけに決壊した”みたいにも読める(と、敢えて曲解)。
 裁判の場面は抑制の効いた諧謔が光る。結末も『審判』みたいだ。純文学的な“解釈”抜きでエンタテインメントとして読んでも面白い。
 ところで、第一部の2まで、記述者の性別が判らなかった(服装は絶対的な基準ではないとして)。叙述トリック?

No.1032 4点 女王蜂- 横溝正史 2021/08/19 11:52
 長い。地味。アイデアがどれも中途半端。
 家庭教師の神尾秀子先生はキャラが立っていて素敵。私には彼女が主役に見えた。
 それに比して、大道寺智子の美貌は全くイメージ出来ないし、東京に出ていきなり弾けてコケティッシュな娘に変貌したのも伝わって来ない。花婿候補があからさまに噛ませ犬なのでつまらない。文彦があれで満十五歳……まぁ年齢で人を測るのは止めておこう。
 今一つな割りに読み易いところは横溝マジック?

No.1031 7点 雲の中の証人- 天藤真 2021/08/12 11:33
 創元推理文庫版で。
 ミステリ的なネタとしては事前に読めてしまうものが散見される。しかし書き方が巧妙なので、その行動は間違いだと判っていても語り手に絆されてしまう。参ったネ。
 表題作の主人公、探偵社から弁護士のところへ出向して自腹で調査させられる、との設定が良く判らない。最後までずっと気になった。

No.1030 7点 正月十一日、鏡殺し- 歌野晶午 2021/08/12 11:32
 前半は“リミッター装着済み”って感じで、特に「盗聴」は物足りない。後半はそれを解除、「美神崩壊」は十年後も夢に見そう。
 “作風のヴァリエーション”ってことではあるが、こんな風に明確に並べてしまうと、後半を引き立たせる為に前半を捨て駒にしたように思えてしまう。と言うか、私に対してはそのように機能した。

No.1029 6点 レッド・ドラゴン- トマス・ハリス 2021/08/05 10:03
 例えばジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムは、ハンディキャップがあっても取替えが利かないんだなあと思わせる能力を具えているが、こちらのウィル・グレアムは? 組織がぼんくらだから相対的に有能、と言う程度に見える。爪を隠しているのか。寧ろ、身軽に動けるポジションを彼に与えたクロフォードの采配の勝利か。
 中だるみ、と言うより全体的にたるんだ感じで、勿体振った書き方がスピード感を損ねていると思った。雑誌の配送スケジュールの件とか、色々と面白いアイデアが盛り込まれてはいる。

No.1028 10点 さよなら妖精- 米澤穂信 2021/08/03 13:05
 大好き。三読目。
 墓地や白河さんの名前についての件は、謎解きとして納得感が無く、物語の中で据わりが悪い気はする。消去法推理の最後の決め手に、調べれば判ることを推理で求めようと言うのも奇妙。
 でもそのへんは本作の本質ではないし、ケチを付けても評価は揺らがない。

 新装版に追加された短編は、無難であまり意味がないと私は思う。

No.1027 7点 さらわれたい女- 歌野晶午 2021/08/03 13:02
 ネタバレしつつ揚げ足取り。
 部屋の借主である会社A。その関係者Bさん。Aと契約している会社C。そこに勤めるDさん。
 しかし、Dさんの本作品に於ける役割は、Cの社員ではなく“Bさんの愛人である”ことだ。
 Dさんが別の仕事をしていれば、便利屋が糸を辿ってもDさんに出会うことはなかった。この出会いで真相に気付いた。
 つまり、結末から逆算して、手掛かりになるように作者が人物を配置しているのである。ちょっと露骨じゃないかなぁ。確かに、手掛かりをきちんと用意するのは大事だけど。

No.1026 6点 幻惑密室- 西澤保彦 2021/08/03 13:01
 再読。神麻さんのキャラクターしか覚えていなかった。
 『幻惑密室』と言っても、いわゆる密室モノじゃないね。寧ろクローズド・サークル?
 超能力に関する、妙にキッチリしたルール。これは“作品世界全体が仮想現実。人類が意識をデジタル・データ化して巨大なサーバーの中へ移住した未来の話”と言うメタ設定があるに違いない。

No.1025 6点 無関係な死・時の崖- 安部公房 2021/08/03 12:59
 この人の短編は言うほど鋭くなくて玉石混交に感じるな。
 ミステリ的なオチでは「誘惑者」「なわ」。SF的展開の「人魚伝」。
 安部公房は戯画的に描かれる諸々の“営み”が肝だと思っていたが、特に面白い前記の作品は、顔のある人物のキャラクター的な深み(褒め過ぎ?)がポイント。自分がそのポイントに惹かれたのも意外だ。

No.1024 6点 極上の罠をあなたに- 深木章子 2021/08/03 12:58
 登場人物が少なくて、捻るならこの人しかいない、って人がやっぱり鍵になっている。そういう意味での遊びの無さが気になった。葬儀社の諸々は面白い。

No.1023 6点 実験的経験- 森博嗣 2021/07/31 13:07
 手抜きのようなミステリよりはこっちのほうがまし。一種のミステリ論・文化論のようなものではある。外来語の語尾にーを付けない問題の答も此処に。

No.1022 8点 三体- 劉慈欣 2021/07/30 10:41
 物語の基盤はさほど珍しくもないファースト・コンタクトのヴァリエーション? しかしその上に盛ったトッピングが美味珍味全部乗せ!
 小林泰三もびっくりの人列コンピュータやら、西尾維新も顔負けの巨船攻略やら、長編数冊分のネタを惜しげもなく投入。“中国”と言う偏見まで味方に付けて、そのくせちょっといい話もそれはそれで泣ける。
 そして、それらの配置が整然としていて、混沌としたイメージになっていないのが、迫力不足どころか、本作に於いてはプラスに作用しているところが面白い。作者がエンジニアだからね(偏見?)。

No.1021 5点 ボーンヤードは語らない- 市川憂人 2021/07/29 10:22
 事件関係者(犯人に限らない)の心情が妙に入り組んでいて、しかしそれが解きほぐされてもさほどスッキリ納得出来るわけではなく、謎を複雑化させる為に心理的裏付けをでっちあげている感じ。良くない意味で都筑道夫みたい。表題作は比較的シンプルで良かった。
 あと、私はこのシリーズをキャラクター小説として楽しんではいないなぁと気付いた。各人にクローズアップした短編集だけど、そのへんはどうでもいいや。

No.1020 7点 ヨハネの剣- 山田正紀 2021/07/27 12:33
 全体的にあっけない結末で、まぁそこが短編である意義でもあるのだろう。ユーモラスなアイデアが光る「アナクロニズム」、曖昧なアイデアを雰囲気で描き出した「優しい町」が良い。表題作のテーマは短編で使い尽くすのはちょっと勿体無いか。登場人物が過激派と言う設定は展開上結構有効?

No.1019 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は聖夜に羽ばたく- 太田紫織 2021/07/27 12:31
 今更ながら、シリーズ・キャラクターのトラウマをこんなにガンガン積み上げて、それを燃料にして走る、しかもジャンルがミステリ、とは一体何なんだろう。
 本書は前後の巻を結ぶツナギに過ぎず、開き直るにも程があるだろとは思うが、蘭香の視点が新鮮で意義はある。

No.1018 7点 砂の女- 安部公房 2021/07/25 10:17
 俯瞰的に見ているうちは、集落が砂に埋もれていくメカニズム等、具体的なヴィジュアルとしてはイメージしづらい設定が,言葉で無理矢理頭の中に捩じ込まれる。
 物語に或る程度以上没入すると、暑さやじゃりじゃりした砂の感触と言った皮膚感覚がやけに鮮明。
 “左肩が、割箸を割るような音をたてた”とか“トンボの羽に火をつけたようなあっけなさ”とか、文芸っぽいくせにエグい表現が散見されて、痛過ぎて笑っちゃう感じが持続する。総じて、瘦せ細った足腰で心許なく踊り続けたような読後感。

No.1017 8点 うらんぼんの夜- 川瀬七緒 2021/07/21 10:13
 ミステリの目眩ましにホラーを用いたとも、ホラーの捻りにミステリを取り込んだとも言えそう。こういうタイプの作品にはあまり耐性が無いので、私はかなり驚いたぞ。そこに謎が在ったことにすら気付かなかった。前半は話がどっち方向に進むか摑めず微調整を繰り返している感があったが、それも広い意味で伏線(主人公の軸が割とぶれやすい点とか)。
 田舎の閉塞感みたいなものは、上手く書くほど却ってパターン通りになってしまって、オリジナリティの観点では不利かな~と言う気がした。
 私はこの結末、或る意味“健気で爽やか”と感じたことも特記しておこう。

No.1016 8点 目を擦る女- 小林泰三 2021/07/20 12:22
 私にとって、小林泰三作品で最も忘れがたいのは「予め決定されている明日」であるようだ。“好き”とはちょっと違う。初読から十数年。世界の向こう側で忙しなく蠢く算盤人たちの朧な影は、私の頭の中にくっきりと刻み込まれたままである。嗚呼イヤだイヤだ。

キーワードから探す
虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 2075件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(112)
アガサ・クリスティー(80)
西尾維新(73)
有栖川有栖(52)
エラリイ・クイーン(51)
森博嗣(50)
泡坂妻夫(43)
歌野晶午(30)
小林泰三(29)
皆川博子(27)