皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1848件 |
No.808 | 6点 | デス・レター- 山田正紀 | 2020/10/05 12:04 |
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実は本作、基本設定が '80年代の旧作の使い回しである。と言うことが最終話で明らかになり、更にもう一捻りある。そのラストの一塊が山田正紀ブシで美味しいところ。そこに至るまでのエピソードは地味で薄味のミステリ風。地味なりに面白いものもあればそうでもないものも。ここはやはり結末の純SF展開にもっと紙幅を割いて欲しかった。
タイトルはサン・ハウスのブルースより。表紙イラストが素敵。 |
No.807 | 7点 | 動機探偵- 喜多喜久 | 2020/10/05 11:57 |
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第三話は現在進行形の案件ゆえ、いわゆる観察者効果に踏み込んでいる。平たく言えば、第三者が口を挿むと却って拗れるのでは、とのリスクであり、主人公も依頼者もあまりに無頓着。そういう状況は初めてだしまぁ仕方ないかな~、と思ったら懲りずに第四話で殺人事件を蒸し返している。前回の教訓をまるで生かせていないじゃないか。
と言う苛立ちも込みで後半戦はなかなか面白かった。 |
No.806 | 7点 | 動く家の殺人- 歌野晶午 | 2020/10/05 11:45 |
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最後に推測される動機にはあまり説得力が感じられない。
詐欺についての諸々は面白い。 でも作中の劇は全然面白そうじゃないな~。オーギュストは Auguste だから、頭文字を並べ替えてもああはならない。 |
No.805 | 4点 | 紫桔梗殺人事件- 小嵐九八郎 | 2020/10/05 11:42 |
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困った。全編にちりばめられたユーモアが悉く不発でメタ的に大爆笑。'88年にはこれがアリだったのだろうか。プロットとして0点とまでは言わないが、書き方が全てを駄目にしている。
“これは、合わないと思った”――結末で犯人が発するこの一行はなかなか印象的。 |
No.804 | 7点 | ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー | 2020/09/30 11:30 |
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大胆な犯行だな~と思ったが、4人中1人だけ動き回れる状況がブリッジのルール上必然的に生ずるわけね。そこは予習してから読みたかった。
終盤の展開――Lが自白、MがLを訪問(この時どのようなやりとりがあったのか全く藪の中)、翌日新たな死が二つ。非常にタイミング良く連続しており、しかしそれらは連鎖反応と言うわけではなく概ね偶然。それでいいのか? なんとも妙な気分だ。 “人を殺して巧みに逃げおおせた者達を集める”という設定は魅力的。3年後に『そして誰もいなくなった』で大々的に再利用しているのは、作者もそう思ったからだろうか。 |
No.803 | 8点 | アメリカン・ブッダ- 柴田勝家 | 2020/09/30 11:28 |
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民俗学SFの雄、柴田勝家の短編集。「邪義の壁」はホラー・テイストのミステリ、と呼んでもいいのか、ギリギリ、SF的解釈無しでも読めそう。「一八九七年:龍動幕の内」はまるで江戸川乱歩のパロディ。ミステリ読みの為のSFって感じ。星雲賞受賞作「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、真面目な顔で与太話を語る、或る種のSFのど真ん中を射抜いており見事。 |
No.802 | 8点 | 二重拘束のアリア- 川瀬七緒 | 2020/09/30 11:24 |
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面白いんだけど、犯人の言動の具体的な描写が少ないので、キャラクターの不気味さを捉えづらかったのが残念。そういう異様な能力を持つ人がいる、と言う単なる設定になってしまっている。
盗聴器を探す場面。電波に反応して探知機が“鳴り響く”けれど、それだと盗聴器を見付けたことが相手に知られてしまう。“見付けたぞ!”との威嚇にはなるが、戦略的にあまり意味が無いのでは。 |
No.801 | 5点 | いたずらの問題- フィリップ・K・ディック | 2020/09/24 11:37 |
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戯画的ディストピアは割とありがち。中盤の唐突な展開には注目だが中途半端。主人公の内面的問題もあやふやなままで終わってしまった。いや、それでこそディックか? 総じて読み易く、判り易いが、物凄く面白いと言う程ではない。
解説は宮部みゆき「サスペンス・ミステリーの側から見たP・K・ディックの世界」。ウィリアム・アイリッシュと絡めて論じている。 |
No.800 | 5点 | 主よ、永遠の休息を- 誉田哲也 | 2020/09/24 11:29 |
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誘拐犯人が類型的。ああいう目的で流出させ、それを辿ってあそこに現れる、と言う行動にそれなりの合理性が伴っている点は(上手く行き過ぎだけど)良かった。
一方、折角のミステリ的な捻りがあまり生かせていない。判り易い伏線を引っ張り過ぎ。 一人称の文体の端々が微妙にイラッと来る。そうやって読者を不安定にさせるのが狙いだったら、なかなか凄いな。 |
No.799 | 6点 | クイーン警視自身の事件- エラリイ・クイーン | 2020/09/19 11:31 |
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枕カバーについて。
ホニトン・レースの枕カバーに手の跡がついていた、それがいつの間にかきれいなアイルランド・クローセ編みのものに取り換えられている、とジェシイは証言した。 その証言が間違いなら、手の跡の無いホニトン・レースの枕カバーも邸の中にあると考えるのが妥当、ある筈の枕カバーが無いなら証言の信憑性は増す。しかし警察はそういう捜し方をしていないようだ。 ホニトン・レースの枕カバーが複数枚あって正確な枚数を誰も把握していないなら仕方ない。そんな記述は無いけど。 退職した警官が“金の楯(記章)”を未だ持っているのはまずいでしょう。 |
No.798 | 6点 | 海のある奈良に死す- 有栖川有栖 | 2020/09/19 11:29 |
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第2の犯行について。
犯人と毒入り酒をつなぐ直接の証拠は無い(よね?)。更に、酒を呑んだこととアレの因果関係は立証出来ない(そもそもアレを見た証拠も無い)。仮に立証出来たとしても、それが毒物の存在を踏まえた殺意に基づく行為だとは立証出来ない。つまり“アレの実験をしたところ、偶然、酒の中に毒が入れられていた”と言い張ることも出来なくはない。 思い返せば、第1の犯行でもポカは失言くらい。“裁判で有罪判決を食らわない”との観点に立てばなかなか健闘したのでは。 旅行案内としては面白かった。きちんと辻褄を合わせ切れなかった“海のある奈良”と言うネタを未完の作中作として投げ出してしまうのは、工夫と言えば工夫だが、やはりずるい。 |
No.797 | 5点 | 死の内幕- 天藤真 | 2020/09/19 11:28 |
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作り物めいた設定に絡め取られて、不自由な動きを強いられている印象。下手な役者ばかりの芝居を観ているよう。死者の人間性の悪い部分が伝聞ばかりで取って付けたよう。
台詞回しなんかは嫌いじゃない。ユーモアのセンス等を含めて都筑道夫っぽい感じも。 |
No.796 | 5点 | 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ | 2020/09/10 12:09 |
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貴族探偵と言ってもこの人は自分で推理をするのである。
ピーター卿「誰の死体?」 サグ警部「さぁ~?」 バンター「御前はロードでございますよ」 |
No.795 | 6点 | 白い家の殺人- 歌野晶午 | 2020/09/10 12:06 |
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エレベーター無し4階建て別荘の最上階の部屋を最年長85歳にあてがうとは。おばあちゃんいじめられてない? 登場人物表&別荘見取り図を見た時から気になって気になって。一応理由はあるが、つまりは神たる作者が都合のいい状況設定をしたトバッチリである。
犯人特定の理屈、“○○が出来そうなのは誰それだけ”は根拠薄弱。爪を隠せる鷹だっているだろ。 |
No.794 | 5点 | 異次元の館の殺人- 芦辺拓 | 2020/09/10 12:04 |
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――本を閉じたままの状態では、面白い話とつまらない話が同時に重なり合っていると考えざるを得ないわけです。本を開いて観察することによって全てが決定するのです。
――その刹那、両方の可能性がともに実現されるとは考えられませんか。この話が面白い世界と、つまらない世界に分岐することによってね。 ――つまり量子力学的に考えれば、本書が傑作である世界も何処かに存在するのではないでしょうか。 |
No.793 | 6点 | 黄色い夜- 宮内悠介 | 2020/09/10 12:02 |
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小国をカジノで乗っ取ろうと言う話。かと言ってアクション系ではなく、ギャンブル場面でエンタテインしつつも総体的には文芸寄りの穏やかな筆致で、その静と動の入り混じった、否、混ぜずに重ね合わせたような空気感は(どっちつかずなニュアンスも含めて)なかなか悪くない。案の定、初出誌は「すばる」だ。 |
No.792 | 6点 | ダリの繭- 有栖川有栖 | 2020/09/10 12:01 |
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ネタバレしつつ揚げ足取り。
凶器に某氏の指紋が付いていたのは偶然なのか、それともそれを承知の上で濡れ衣を着せる意図があったのか、曖昧である。凶器にその商品を選んだ理由は別にあるので、意図の有無にかかわらず計画者の行動は変わらない。この件については“犯人の告白”が無いので宙に浮いたままだ。 そして、どっちにせよ、凶器を投棄する前に“もちろん拭いておいた”との証言があるので、某氏の指紋が残っているのはおかしい。 |
No.791 | 5点 | ケンネル殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2020/09/03 12:56 |
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偶然が重なったこの驚くべき真相を、鋭過ぎる推理力で看破し見てきたように語るには、ハッタリの利くファイロ・ヴァンスが適任ではある。この手掛かりでそこまで判るかと言う疑問は置いといて、事件の表層も真相もなかなか面白い。ただそれを“面白い小説”に仕立てられなかった。
犯人にとっても不可解な展開。これ、倒叙スタイルで書いたら良くない? |
No.790 | 8点 | 緋色の研究- アーサー・コナン・ドイル | 2020/09/03 12:56 |
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ホームズのキャラクター、警部二人の鍔迫り合い、第二部で語られる来歴。知名度のせいでつい逆差別していたが、こんなに面白い作品だったとは。長過ぎないおかげで飽きる前に読み終わる点も有利に働いているし、ミステリとしての面白さとは違う気もするが、面白ければ何でもいい。
2章、“(ホームズが気ままに一人で弾くときは)ヴァイオリンを膝にのせて無造作に弾奏した”――そりゃ不可能ではないけれど……??? 思うにこれは演奏経験の無い人が抱きがちなイメージで、弦を押さえる左手が楽器の保持も兼ねていると言う誤解だ。実際には別の場所で楽器を固定しないと左手は弦の上を自在に動けない。本来は楽器の端を左の下顎と鎖骨で挟み固定する(左手を離しても楽器は落ちない)。それを踏まえてイメージすれば “膝の上” が困難な芸当だと判るだろう。 |
No.789 | 5点 | 暗号のレーニン- 藤本泉 | 2020/09/03 12:55 |
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普段あまり読まない舞台設定ゆえ、'80年代ソビエト連邦と言う排外的社会の有り様は興味深い。過去を背負う諸々の登場人物にも味がある。ミステリ及びサスペンス作品としての冴えはいまひとつ。暗号はヒントを判り易く示し過ぎだが、それ自体がテーマではないのでまぁいいか。 |