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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1053 5点 少女と武者人形- 山田正紀 2021/09/26 14:10
 “奇妙な味”と呼ぶのも躊躇する、曖昧な輪郭の短編集。と感じるのは“山田正紀作品”だとの先入観も大きいのだろうか。
 しかし、鮮やかな色彩を放つSF作品群とは対照的で物足りなさもあるが、これはこれで作者の持ち味(悪癖?)の一つと認めざるを得ない。ミステリ系作品でしばしば見られる、きちんとまとまり切らない、雰囲気に流されるような結末はこれと同根だと思うのだ。

 『夢の中へ』は、『少女と武者人形』全編に単行本初収録作品を追加してほぼ倍に増量したもの。嬉しいボーナス・トラックである反面、追加分だけで独自に刊行するには弱いと言う冷静なビジネス的判断でもあるんだろうなぁと切ない。

No.1052 5点 楽園のアダム- 周木律 2021/09/25 12:23
 舞台となる世界のパーフェクトさがあまりに気持悪い。冒頭で判り易く伏線が示され、その意味はちょっとスレた読者になら明白。
 しかも作者は裏を読まれることも意識している節があり、“ネタは割れてるんだからさっさと話を進めてよ”と言いたくなる直前でちゃんと話を進めている。
 “セジ”の姿形や行為が非常に醜く描かれるのが一種のミスディレクションか。概ね予想通りの真相でも、そこまで言うかって感じの感動が一応ある。
 ってことは、もしやこれはあの難しい命題“初心者もマニアも満足”をそれなりにクリア出来ているんじゃないだろうか。甘いかな?

No.1051 6点 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 2021/09/23 10:31
 フルート曲の秘密は素晴らしい。美禰子と菊江のキャラクターもいい感じ。
 しかし事件の展開は今一つ吸引力に欠ける。全然強調されていないので、トリック解明のシーンに至るまで、密室があったこと自体忘れていたよ。
 何度か登場する“いかの墨のようにどす黒い”と言う表現はどーなの?

No.1050 7点 フェイス・ゼロ- 山田正紀 2021/09/21 11:51
 初読時は地味に感じられたが、読み返すと味わい深くなって来た。一読して過剰な期待感が落ち着いたので、作品本来の良さを素直に享受出来るようになったのか。これって褒めていることになるのか?
 表題作はSFミステリ。「火星のコッペリア」もそれに含めていいだろう(融合度はこちらが上)。一番素直にグッと来たのは「冒険狂時代」で、これだけ矢鱈古く1978年の作品。このことを以てして“山田正紀は初期のほうが面白い”などと決め付けたくはないが……。

No.1049 5点 石の結社- 荒巻義雄 2021/09/20 10:34
 殺人事件が起こるものの、扱いとしてはまるでサイド・ストーリー。それどころか秘密結社も名画贋作事件も主人公の二股も他人事のように淡々と語られる。では中心の軸は、と言うと何も無い。それが狙いと言うわけでもなく、ただ単に構成が下手なだけに思える。
 ロープウエイのトリックは、まぁ面白いけど回りくどい。それを作者も自覚してフォローしているので、ここは納得しておこう。

No.1048 8点 実況中死- 西澤保彦 2021/09/20 10:28
 ネタバレ気味です。
 殺人者を確定する最後の部分、“簡単な引き算の問題です”で、一人を除外するきちんとした根拠が何も示されていない。その人物は、酒を過ごすと記憶が怪しくなると言った記述があり、あまつさえ作中で実際に記憶喪失を起こしている。しかし本人が否認したらあっさり信用されていて、これは依怙贔屓だね。
 もう一点。推理によれば、犯人は最初の殺人のことを忘れている。忘れている犯罪行為に対する刑罰ってどうなるんだろう? しかも記憶喪失が事実かどうか、外側から確認することは困難なので、裁判対策として忘れたフリをしている可能性も否定出来ないのである。

No.1047 6点 薔薇の名前- ウンベルト・エーコ 2021/09/17 10:26
 信仰についてディープなところまで潜った物語を読むと、浮世離れした発想の連続で、どの宗教であれ等しくカルトな面白宗教みたいに見えちゃうんだよね。

No.1046 8点 テスカトリポカ- 佐藤究 2021/09/16 11:56
 小説には進化圧みたいなものがあると思う。特にジャンル性の強いタイプは、シーンが或る程度先へ進むと以前のレヴェルでは作品として成立しなくなる。逆に、優れた先行作品あってこそそれらのエッセンスを煮詰めたような、シーンの落とし子が生まれたりもする。それは必ずしも作家や編集者がその作品を読んでいなくとも一種の集合知のような形で直接間接に不可逆的な合意を形成し、エネルギーが飽和状態に達した時、そこにポテンシャルを持つ書き手がいれば何処からか這い寄って種を植え付けて行くのだろう。つまりその誕生は必然的と言えなくもないが、選ばれた側は大変で、物語を形にするまで解放してもらえず血を流したり胃液を吐いたりする。この作者はよく頑張った。
 小川哲『ゲームの王国』、伊藤計劃『虐殺器官』、首藤瓜於『脳男』、あたりの交点に生じた黒い塊が本作だ。“パクり”みたいなネガティヴな意味合いは全く無いので誤解無きよう。

No.1045 7点 バベル消滅- 飛鳥部勝則 2021/09/05 11:17
 物語がどっち方向に向かうのかさっぱり摑めず手探りさせられる感じが面白い。“殺さざるを得ない状況”にも説得力がある。私もうっかり刺しちゃいそうだ。
 それだけに、叙述トリックやメタ構造を持ち込んだのは蛇足。何のエクスキューズも無しに犯人の独白が挿入されたり視点人物が替わったりする作例は幾らでもあるじゃないか。作者は“それはアンフェアだ”との意見なのだろうか?

No.1044 8点 死物語- 西尾維新 2021/09/04 11:40
 アニメ化出来ない本を書いてやると言う意地が炸裂していますね。『掟上今日子の鑑札票』での“本なんて結局は、映画の原作だろ?”と言う辛辣な皮肉を思い出します。映像化圧力に対する、売れっ子の特権意識に基づいたレジスタンスってところでしょうか? 勿論それにはNG要素をただ突っ込むだけでは駄目で、“面白いのにアニメ化出来ないっ!”と歯嚙みさせるクオリティが無いと絵に描いた餅ですが、その点は撫子の体を張ったパフォーマンスでクリアしていますよ。絵には描けないモチーフですけどね。

No.1043 8点 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 2021/09/01 11:31
 私はコレ、普通に楽しめた。何なら『紅殻駱駝の秘密』に比べて衒学のおかげで読み易くなった感さえある。私の推理――1.某が実は生きている。2.某が生前に仕掛けた精緻な罠による犯行。3.某の遺言に従っての殺し合い。
 フーダニットとしては割と平凡な点と、全員殺し尽くせなかった点が残念。作者は後年、自作品が“衒学的”と評されることを見越して弦楽四重奏団(魅力的な設定を生かし切れていない)を登場させたのか。
 台詞回しやそこから示される心情表現、或る種の整然さに則った人物の出入り、これはまるで舞台劇を見ているようだ。
 法水麟太郎とちゃんと会話している検事も捜査局長も同類。それどころか主要人物全員が事件を成立させる共犯者である。
 “ああ、僕の頭は狂っているのだろうか”――大丈夫だよ法水、君だけじゃない。

No.1042 5点 ペスト- アルベール・カミュ 2021/09/01 11:30
 人がバタバタ死ぬ阿鼻叫喚地獄絵図が繰り広げられると思いきや、非常に冷徹で整然たる物語。死臭が希薄で期待外れ。ペストと言う病をあまりリアルにイメージ出来ず。
 少年の死ぬ場面が一番良かった。新聞記者の試みた場当たり的でテキトーな脱出計画には脱力(あれはボられていただけでは……?)。
 舞台は少し昔のアルジェリア。医療体制がどんなものだったか知らないので、野蛮だと眉をひそめたり案外進んでいると目を瞠ったり。でも無知なのは現在の医療についても同じか……。

No.1041 6点 妖精の墓標- 松本寛大 2021/08/31 10:09
 既成の部品を組み合わせた新作、だけど設計図自体にも既視感あるなぁ、と言う感じ。悪くはないが、同系統作品の中で強くアピール出来る程ではない。登場人物が地味で紛らわしい。桂木のこだわりに共感しづらい。

No.1040 6点 発現- 阿部智里 2021/08/29 10:50
 このように、比較的若い作家が“エンタテインメント+太平洋戦争”をバランス良く描いた作品は幾つか読んだけれど、(ネタが共通なので仕方ないとはいえ)感触的に似通った部分がありそこが物足りない。つまり“真面目に書かねばならない”と言う見えない制約のことである。
 それはそうと、本作はホラーの部分と現世の部分のつなぎ方が自然過ぎて却って違和感。と言うか結末で解説する某氏、自分は何も見ていないくせに理解力あり過ぎじゃない? 拝み屋にでも登場願うほうが良かったのでは。
 あと、この作者はそれほど個性的な文体だとは思っていなかったが、意外なことに何度も“八咫烏シリーズのリズムだ!”と感じた。

No.1039 7点 シンデレラの罠- セバスチアン・ジャプリゾ 2021/08/28 10:52
 前半。こんなのバレバレじゃん。
 と思っていたら後半、思いがけないところへ引っ張り込まれた。但し、こうなっちゃうと真相がどうでも意外性は無くなっちゃうんだよね。実際、最後の最後で“実はこっちでした!”と明かされても、伏線があるわけじゃなし、“ふーん”と思っただけだった。でも、時間が経ってみると、そこが本書の怖いところ。
 安部公房『他人の顔』と併読したらえらいことになる。

No.1038 5点 燃えつきた地図- 安部公房 2021/08/25 11:42
 普遍的な主題なのかもしれないが手法が古い。なので“それはもう判ってるよ”と感じることも多かった。主人公が追い詰められる過程や立場が反転するポイントも、“探偵の苦悩”とか“覗くものは覗き返されるのだ”とかではなく、単なる不運に思えてしまう。私などよりも初々しい魂(“都会人の孤独と不安”なんてフレーズを陳腐だと感じないような)で読むべき作品なのだろうか。
 あの姉弟の組み合わせ(の噛み合わなさ?)や河原の暴動のエピソードはいいね。

No.1037 6点 ヴィンダウス・エンジン- 十三不塔 2021/08/25 11:41
 自意識過剰っぽい、雰囲気作りが多少鼻に付く文章。虚仮威しかもしれないが下手ではなく、幻影のイメージ喚起力はなかなか。読んでいる間は目先の展開が面白かったが、さて振り返ってみると諸々良く判らない。特に主人公が寛解した理屈と、もう1人の回復者マドゥの存在感の薄さ。

No.1036 7点 異邦人- アルベール・カミュ 2021/08/19 11:53
 巻末解説では否定的だったが、私には“フランツ・カフカをポップにしたもの”に思えた。相手にとって“私”はただの通りすがり? ちょっと撃ち抜いてみただけで違法じゃん。
 語り手が自らの母親を固有名詞の如く一貫して“ママン”と呼ぶのがあまりにも強烈。原文を当たったわけではないが(仏語なのでどうせ読めないが)これは日本語訳独特の効果なのだろうか?
 主人公の行動からは母親に対する執着など感じられないが、それにそぐわない“ママン”と言う(“ママ”よりも)甘えたような呼称のせいで、“本人無自覚な依存がありママンの死をきっかけに決壊した”みたいにも読める(と、敢えて曲解)。
 裁判の場面は抑制の効いた諧謔が光る。結末も『審判』みたいだ。純文学的な“解釈”抜きでエンタテインメントとして読んでも面白い。
 ところで、第一部の2まで、記述者の性別が判らなかった(服装は絶対的な基準ではないとして)。叙述トリック?

No.1035 4点 女王蜂- 横溝正史 2021/08/19 11:52
 長い。地味。アイデアがどれも中途半端。
 家庭教師の神尾秀子先生はキャラが立っていて素敵。私には彼女が主役に見えた。
 それに比して、大道寺智子の美貌は全くイメージ出来ないし、東京に出ていきなり弾けてコケティッシュな娘に変貌したのも伝わって来ない。花婿候補があからさまに噛ませ犬なのでつまらない。文彦があれで満十五歳……まぁ年齢で人を測るのは止めておこう。
 今一つな割りに読み易いところは横溝マジック?

No.1034 7点 雲の中の証人- 天藤真 2021/08/12 11:33
 創元推理文庫版で。
 ミステリ的なネタとしては事前に読めてしまうものが散見される。しかし書き方が巧妙なので、その行動は間違いだと判っていても語り手に絆されてしまう。参ったネ。
 表題作の主人公、探偵社から弁護士のところへ出向して自腹で調査させられる、との設定が良く判らない。最後までずっと気になった。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1953件
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