皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1843件 |
No.1383 | 6点 | 擬傷の鳥はつかまらない- 荻堂顕 | 2023/02/03 11:55 |
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特殊設定サスペンス? 読者に対して伏せる部分の匙加減が巧みで上手く引っ張り、冷静な文章でエモーショナルな切迫感を的確に描き出している。第3章まではとても面白かった。
ところが、設定が明確になって来て、さてこれをどう着地させるのかの第4章~終章。観念的な台詞や心象が連なり始め、しかしそれで納得とは行かない。ここは久保寺や語り手の気持に読者を巻き込んで説得してしまうだけの力が欲しいところ。 これだけしっかり “物語” を書けるのだから、ラストをこうするくらいなら特殊設定無しのノワールもので貫徹した方が良かったのではないか。いや、それがあってこその個性だ、と言うなら説明的でない着地点が必要だ。どっちにせよ惜しいと強く思う。 |
No.1382 | 6点 | シミュラクラ- フィリップ・K・ディック | 2023/02/03 11:53 |
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“ディックの長編中、もっともプロットが複雑と評される” とのこと。
複雑と言うか、“プロット” は考えてなかったんじゃないか、頭の中に幾つかの陣営のキャラクターを設定して好き勝手に動き回らせただけじゃないか、と思えて仕方がない。エピソード同士の絡み方がいかにも無計画で、きちんとしたオチは無いままカット・アウト。政界サスペンスと呼んでは誇大広告だろうし、シミュラクラが主要なテーマと言うわけでもない。 しかしその、いわば必然的な支離滅裂さが妙な面白さを生み出してしまった。個人的には、先祖返りのチュッパーについてもっと突っ込んで欲しかったな。 作中に出て来る “ジャグ” とは、酒瓶に息を吹き込んでぶぉ~と鳴らす奴。それでバッハとかを演奏する、と言うのはジョークとして書いてるんだよね、ディック先生? |
No.1381 | 5点 | 首切り島の一夜- 歌野晶午 | 2023/02/03 11:51 |
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話がどっちへ進むか見当が付かない点は良かったが、それをアクロバティックな論理でつなげるでなく、読み終えてみると期待外れ。それは “歌野晶午にこういう方向性を期待しているわけではない” と言うことでもある。この人は過去にも幾つかそういう長編を書いて読者を困らせているな……。 |
No.1380 | 7点 | オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case- 森博嗣 | 2023/01/26 13:08 |
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Last Case とか言って大上段に構える程のものではない。期待半分諦念半分の心持で臨んだのは良かったと思う。事件の雰囲気がいいし上手にまとめた感はあるが、“彼女の友人を容疑者から外した根拠” や “サイカワ先生が招待された理由” は強引で苦しい。
エピローグが書籍化の際の加筆だってのは大胆。「メフィスト」誌上で読んで満足している読者はアレを知らないんだ。実はあの部分、勘で気付いてました。ヒントは、外国人が記述者である効果? “ドクタ・マガタ” と表記されるとぱっと見 “ドグラ・マグラ” のようで、何回間違えたことか。 |
No.1379 | 7点 | ぼくらの時代- 栗本薫 | 2023/01/26 13:07 |
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これはミステリの形をした別の何かだと思うのである。だから、真相は物足りないけれど、それはたいした問題ではない。寧ろ時代を切り取るための必然。
理屈と膏薬は何処にでも付く、と言うとちょっと違うか。誰にでも何がしかの言い分があって、それが正しくはなくとも、これしかない! と成り立つ瞬間がある。栗本薫はそれをほじくり出すのが抜群に上手いので、ついついラストでグッと来てしまう。 本人の言う “美しさということを知っている人が書くのと、そうでないのとで決定的にちがってくる” とはそういうことかな、と思った。 |
No.1378 | 5点 | ウインター殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2023/01/26 13:06 |
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月下のスケーターとか背骨を傷めた少女とか、絵になるキャラクターなのに、その設定が事件には殆ど絡んで来ないなぁ。
鍵を盗んだ時、犯人は鍵束から目当ての一本を見分けられたのか。何故鍵束ごと持ち去らなかったのか。伏線だと思ったんだけどなぁ。 ヴァン・ダインの末期作品は期待値が低いので相対的に意外と楽しめた。 ところで、ジョン・F・X・マーカムの X ってなんだろう。Xavier ? |
No.1377 | 6点 | グレイシー・アレン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2023/01/26 13:04 |
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被害者の身許……ヴァン・ダインがこんな形で読者を引っ掛けに来るとは想定外だ。グレイシーの喋り方は赤毛のアンみたい。ヴァンスもマーカムも少し遠巻きに、背伸びする姪っ子をあしらうように対応しているでしょ。実は彼女が14歳であった、と言う叙述トリックかも? “瀕死の狂人” のキャラクターもかなり美味しいけれど、あまり生かされていないなぁ。 |
No.1376 | 7点 | カシノ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2023/01/26 13:03 |
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毒物が見付からないと言う謎は魅力的。しかし半分を過ぎてからようやくそこへ辿り着くなんて遅い。
毒物や水云々の薀蓄はもっとやって良かったんじゃない? 真相は期待した程ではない。 どこがどうと言うことではないが雰囲気的な面白さは感じた。特に賭博の場面がこんなに楽しく読めたのは自分でも意外。 |
No.1375 | 8点 | 殺人者- 望月諒子 | 2023/01/19 15:09 |
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事件の大枠をプロローグで明かしちゃって、残りの300ページ超は大丈夫なの? 大丈夫なのである。大トリックや大どんでん返しは無いが、それでも大丈夫なのである。とにかく読者の気持を呑み込む度合いが凄い。
“○○は人の姿に見えるが、実際はもう、人ではないのかもしれない” 人を殺した人非人、と言うニュアンスではない。孤独に濾過されて昇華してしまった魂について、この記述がストンと腑に落ちた。しかもそれ故に包容力に富み魅力的な人物であると言う逆説。 そして犯人は逃げ切り、いや、逃げさえせず、その結末に私はまず何よりも “良くやった” と思ってしまった。作者の力業に浸蝕された気分である。 |
No.1374 | 7点 | invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 | 2023/01/19 15:06 |
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“なにもそこまで” と言いたくなる程エスカレートする翡翠のもえもえきゅんな言動。内面的にはゆるふわ感など皆無なまま、その “型” だけが研ぎ澄まされる萌え要素。物凄い作者の悪意を感じるなぁ。
『 medium 』と『 invert 』とでは、同じ描写でも読者の受け取り方は対極でしょ? 外面の菩薩(?)によって内面の夜叉をグイグイ突きつけて、その悪意を無理矢理読者にも共有させてしまう強引さよ。どんなにイラッとしても表層がコレだから嫌いになれないだろへっへっへ、と言う感じ。表紙イラストも写実的だし。 しかし、月刊アフタヌーンのインタヴュー漫画『もう、しませんから。~青雲立志編~』によると、相沢沙呼は “元々、漫画的、アニメ的な表現を目指してキャラ作りや物語作りをしている” とのことで、メディア展開に関してもノリノリなのである。すると単に自分が見たい場面を書いているだけかと言う疑いも浮上する。いや、創作への動機付けとしては充分アリですけど。 |
No.1373 | 6点 | 七人の中にいる- 今邑彩 | 2023/01/19 15:04 |
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友行・一美夫妻の第一子が緑、第二子が一行。なんで弟の名前だけ両親の字を引き継いでるのか。さては緑が養子なんだな。養子を取った後で実子が生まれたんだ。同じパターンの家族がもう一つ登場するけど、それがヒントね。事件関係者が既に死んでいて復讐する立場の者がいない? そら来た! 緑の元の家族が存命でそれが復讐者、と言うのが真相さ。この作者は伏線を判り易く優等生的に張るよね。
結局は全て私の勘繰り過ぎだったわけだが、だったらあのネーミングは何なの。伏線に見えて伏線じゃないダミー伏線? |
No.1372 | 6点 | ロボット文明- ロバート・シェクリイ | 2023/01/19 15:04 |
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“悪を規範にした階級社会” と言うのは、やはり構造的に矛盾を孕んでいるのであって、本書の舞台も “悪党ごっこ” みたいな雰囲気で、但し殺人がシレッと許されているだけ。それを真面目に(見える書き方で)書いている可笑しみが効果的ではある。
後半、失われた記憶の問題に矛先が向くとちょっとサスペンス風味が加わって、事の真相に私は結構驚いた。後年スパイ・スリラーを書いた萌芽が此処に? アイデアを幾つも連発している一方、物語の芯が良く言えば臨機応変、悪く言えばフラフラと頼りない。 |
No.1371 | 8点 | 驚愕の曠野- 筒井康隆 | 2023/01/12 12:09 |
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作者の、ではなく読者の自由な想像力を試すかのような本。一応 “人間” と表記されており “頭部と四肢をそなえて” いるそうだが、果たしてどのような姿形なのか。“猫” とは猫なのか。それこそ単語の一つ一つの内実を疑い吟味しながら読みたくなってしまう。私は塩肉を掘り出す場面がとても好き。
そこまで捻くれた読み方をしなくても、少ない描写で背景の巨きな異界を読者に示す手管は快感。これを省エネ書法などと言ってはいけない。こじつけるなら、叙述トリックで言葉と物体をつなげて世界を折り畳んでしまう作品。 |
No.1370 | 5点 | そして誰もいなくなる- 今邑彩 | 2023/01/12 12:07 |
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虎の威を借る狐、と言っては決め付け過ぎか、私は、こういう形で先行作品を取り込む書き方には批判的な立場である。
しかし、それなりに上手く使っているし、それ以外の部分でミステリとして面白いので、目を瞑ってもいいかなぁと言う気持にはなった。 しかしが続くがしかし、演目がオリジナルの脚本でも同様の効果は上げられるんじゃないかとも思う。すると、本歌取りは作者の遊び心の安易で過剰な発露、と言うことになる。うーむ。 毒の種類は再考すべきだった。身近にあって、イメージ的には吐き出せば済む程度だが、実は死に至る猛毒、みたいなもの。洗剤とか? 作品の雰囲気を考えると、成分を特定せず適当にぼかしてもアンフェアにはならない気がするし。 |
No.1369 | 6点 | 合わせ鏡の迷宮- 愛川晶・美唄清斗 | 2023/01/12 12:06 |
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表題作に当たる「合わせ鏡」。緊迫した展開の日記と比べて、渦中の(?)人物がにこやかに謎解きをする場面が非常に絵空事っぽい。その逆転が批評的だとは言える。他の2つはいずれも好短編。
作品としては及第点ゆえ、合作だからと余計なバイアスをかけないほうが良いと思うのだが、セールス戦略上しかたないのだろうか。 併録のエッセイは無駄。それより往復書簡の形式にして、相互批判がエスカレートして罵倒合戦になり “解散だ!” みたいなオチはどう? 作風を和歌で例えた巻末の解説はなかなか説得力がある。 |
No.1368 | 5点 | 誘拐殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2023/01/12 12:05 |
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木に登って見張り(10章)。
振り子運動が止まるまで一時間、ゴム栓が乾くまで一時間半、と根拠が非常に薄弱な推論(12章)。 等、ヴァンスとマーカムの言動が “趣味の捜査ごっこ” って感じ。かと思えば三人殺しは何か有耶無耶になりそう。これは作者の公権力に対する批判的な反骨精神の表れなのである。多分。 兄の義妹に対する隠れた(隠せてない)恋情を考えると、事件への対応は難しいところ。弟に対する情は当然あり、死んでいれば良いと思う程に非情なキャラクターではないだろうし、そんな態度を彼女に見せるわけには行かないが、チラリと心をかすめて困ったりもしてそう。 読み返すと(ヴァン・ダインにしては)そのへんちゃんと解釈可能な書き方になっていると言えなくもなかったり。 |
No.1367 | 5点 | 僕はいつも巻きこまれる- 水生大海 | 2023/01/12 12:03 |
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能力はある作家がそこそこの気持で書いたような。いや、逆の見方をすべきか → 変な重さを感じさせずにサクッと読めるのが美点。ネット社会に対する切り口はありがちだが、清夏のキャラクターは良い。一人称の地の文が、あくまで “流行の言い回しを後追いしたセンス” って感じだ。まぁ匙加減は難しいよね。 |
No.1366 | 8点 | 幻坂- 有栖川有栖 | 2023/01/06 11:25 |
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読みながら六回泣いた。泣けば良いってもんじゃないけど。作中から引用すれば、ここにあるのはまさしく “道理を抜きにした確信” の嵐。自由な翼を手にした如くハズレ無しの作品集。有栖川有栖がミステリを選んでしまったことで、日本は優秀なホラー作家を一人失っていたんだな~。 |
No.1365 | 7点 | ループ・オブ・ザ・コード- 荻堂顕 | 2023/01/06 11:24 |
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設定と展開は興味深いのだけれど、末尾4分の1が消化試合になってしまった感がある。勿論、判っている終幕へ上手に着地させるのも作家の腕であり、その意味で良く出来てはいるが、ラストにもう一つドカーンと驚きが欲しかったなぁ。原因が判明してもそれで事態が収束するわけではない、と言うのは示唆的。 |
No.1364 | 7点 | 時鐘館の殺人- 今邑彩 | 2023/01/06 11:22 |
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頭から4編は、それぞれ良く出来た作品だと思う。しかしその出来の良さ故に、却って伏線の張り方等の見当が付いてしまう。真相を全て見抜けたわけではないが、“あぁやっぱり……” の連続だった。
「恋人よ」は、あまりにも下らないオチ、だからこそ予測出来なかった。 表題作は楽しいね。私もあんな手紙を出してみたい。何か手頃な作品は無いものか。 |