皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.2266 | 7点 | 蛇は嗤う- スーザン・ギルラス | 2015/05/19 18:30 |
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夫の女性関係に悩むライアンは、北アフリカへ傷心旅行に出るが、モロッコの空港に降り立った早々に嫌な米国人男性に付き纏われたり、ホテルでは怪しげな老嬢に声を掛けられ、彼女の周辺で不穏な雰囲気が漂い出す。やがて、波止場のゴロツキが何者かに殴打される事件につづき、海岸で射殺死体が見つかる----------。
英国女性ライアン・クロフォードと、ヒュー・ゴードン警部のコンビが殺人事件の謎に挑むシリーズ第7作。 本書は、植草甚一『雨降りだからミステリでも勉強しよう』のなかで「蛇はまだ生きている」のタイトルでレビューがあり、「一種独特のひねりかたで、こうも面白くなるのか」と好意的に評価(☆4つ)されていて、シリーズ最終作にも拘らず最初に邦訳された事情も、そういった評判からと推察されます。 中盤までは、異国の地に住み着く西洋人たちの人間関係の説明描写で展開がゆっくり気味と感じるところがあるものの、ゴードン警部が登場してからの、犯行時間の矛盾点を巡る謎解き過程で俄然面白くなります。 ”観光地の海岸に横たわる死体”ということで、英国某有名女流作家二人のアレとアレを想起させ、読者によっては仕掛けに気づてしまうかもしれませんが、数々の伏線の回収具合と終盤の2段階のどんでん返し、構図の反転が実に鮮やかです。ぜひシリーズの残りの作品も邦訳してもらいたいものですね。 |
No.2265 | 5点 | さらば大連- 石沢英太郎 | 2015/05/17 14:42 |
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短編小説の名手といわれた石沢英太郎の急逝に際して刊行された”満州小説集”。
「つるばあ」「男色」「国旗」「競う」「不思議に生命ながらえて」「賃金について」「九連宝燈」の、全て旧満州を舞台背景にした7編が収録されています。 旧満州の大連に育ち、そこで終戦を迎えた作者の体験を物語の背景に活かしているのが各作品に共通する特徴で、連作ではなく独立した短編集ですが、中国人とロシア人たちの中で暮らす日本人の主人公はいずれも作者の分身と言えるかもしれません。 収録作のなかでは、ソ連管理下の電気工事会社で中国人従業員に混じって働く”僕”が、ビル6階の密室からの人間消失という不可解な事件に遭遇する「つるばあ」が良い。ある人物が呟いたひとことの意味が分かるラストが印象的な作品。 ただ残りの作品は、青春と激動の時代を書き残したいという作者の思いは伝わるものの、ミステリ要素がほとんどなく、作者の思い出を綴った私小説に近いものが並んでいて期待していたものと少し違いました。 |
No.2264 | 5点 | 暗闇の鬼ごっこ- ベイナード・ケンドリック | 2015/05/15 22:22 |
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元夫のブレイクから閉鎖された信託基金ビルに呼び出されたジュリアは、最上階まで吹き抜けになっている8階からブレイクが墜落死するのを目撃する。8階にいた息子のセスに容疑がかかるが、さらに不可解な墜落死が連続して発生する---------。
盲目の私立探偵ダンカン・マクレーン登場のシリーズ第4作。 不可能状況下の連続墜死事件という本格ミステリ要素を中核の謎にして、それに6年前の同じビルで発生した射殺事件の真相が絡むという通俗スリラーになっています。 盲導犬と警察犬の2匹を連れて行動するマクレーンはなかなか魅力的なキャラクターとして描かれていてますが、相棒のスパッドとその妻でマクレーンの秘書レナ、ニューヨーク市警の警視と巡査部長など、レギュラー・キャラを万遍なく登場させながら役割は大したことなく、シリーズものの悪い面が出ているように感じました。 また、現場状況やクライマックスの活劇シーンが読んでいてスッと頭に入りずらく、トリックの説明も何となく想像できる程度の書き様なのでモヤモヤ感が残りました。真相説明の場面で、マクレーンが「殺害方法については、もう語る必要がありませんね?今日の朝刊に図解が山と掲載されてますから」と話していますが、その図解を本書に載せてほしかったですねw |
No.2263 | 5点 | あぶない叔父さん- 麻耶雄嵩 | 2015/05/12 18:39 |
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海と山に囲まれた田舎町で次々と発生する奇妙な殺人事件。お寺の息子で高校生の”俺”は、寺の離れに住む”なんでも屋”の叔父さんのもとに相談をもちこむと、叔父さんは事件の意外な真相を語り始める--------。
タイトルはポースト「アブナー伯父」のもじりのようですが、内容に特に関連性は見当たらず、パロディやオマージュ的なものではないようです。むしろ、叔父さんの風貌は金田一耕助のパロディぽいのですが.........。 本書は、ミステリ小説の中の”探偵役”という装置をいじくり回して、真面目な読者を翻弄させた今年の本格ミステリ大賞受賞作「さよなら神様」に連なる作者らしい趣向が施された連作ミステリ。ひとつだけ例外があるけれども、それも一種のフェイントかもしれない。 とはいっても収録作を個別に見ていくと、発想の転換でアリバイと密室の謎が一気に解かれる「旧友」がまずまずの出来栄えと言えるものの、「最後の海」や「あかずの扉」を代表格に、ほとんどの作品で新人作家が書いたなら袋叩きにあいそうなバカトリックが連発されていて、謎解きものとしてはレベル的にはとても高いとは言えない。叔父さんのどこかぬけぬけとした真相説明が仄かな可笑しみを醸し出してはいるんですが、肝心のトリック部分が残念レベルです。 高校生の”俺”のプライベートを中心とした青春学園ものの要素のほうが印象に残るものの、それも何か中途半端に終わっていて消化不良な読後感でした。 |
No.2262 | 6点 | 犬はまだ吠えている- パトリック・クェンティン | 2015/05/10 13:07 |
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狩猟クラブのメンバーとともに早朝のキツネ狩りで馬を走らせていた”わたし”は、キツネの巣穴に不審なものを見つける。農場の使用人が掘り返して出てきたものは、村から姿を消していた女性の胴体部分だった---------。
ウェッブがホイーラーとコンビを組んだ当初の’30年代後半は、”本格ミステリ作家”としてのパトリック・クェンティンの最盛期と言えるかもしれません。この時期は3つのペンネームを使い分け、並行して3つのシリーズをスタートさせています。すなわち------ ①P・クェンティン名義のダルース夫妻シリーズ(1936年~8編、スピンオフ1編) ②Q・パトリック名義のトラント警部シリーズ(1937年~3編、その後’50年代に「女郎蜘蛛」などの脇役で復活) ③ジョナサン・スタッグ名義のウェストレイク医師シリーズ(1936年~9編) 本書は上記③で、10歳の愛娘ドーンと暮らす男やもめの医師、ヒュー・ウェストレイクを探偵役とするシリーズの第1作です。広大な森と農地が広がる田舎という舞台背景や、ウェストレイク医師の一人称による硬質な語り口、猟奇的な事件内容と不気味な雰囲気など、同時期のパズル・シリーズとはずいぶんテイストが異なります。トラント警部補ものと併せて、コンビ作家の役割分担がどうなっていたのか興味深いところです。 シリーズ全9作を解題した巻末解説によれば、戦後の後期作はスリラー、サスペンス寄りになるようですが、本作は限られた集団内の犯人当て本格で、メイントリックは予測しやすいものの、終盤の展開に緊迫感があり読ませます。ウェストレイク親子の交情もいいアクセントになっていて、今後の訳出が楽しみなシリーズです。 |
No.2261 | 6点 | 福家警部補の追及- 大倉崇裕 | 2015/05/08 18:55 |
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女性刑事・福家警部補シリーズの第4弾。今回は中編2作収録。
倒叙形式のミステリといっても色々とタイプが分かれますが、目を付けた人物と直接対峙し、対話形式でじわじわと犯人を追い詰めていくスタイルは、刑事コロンボや古畑任三郎の直系といえます。最近はなんとなく福家の振舞いまでもコロンボに似てきた気がします。 スポンサー契約を解除しようとした会社重役を有名登山家が殺害する「未完の頂上」と、悪徳ブリーザーを他の女性が殺害したように工作するペットショップの女性経営者の「幸福の代償」という2つの中編が収録されていて、山岳モノや動物モノという作者の得意とする分野を事件背景に持ってきている点が目を引きます。また、別シリーズのキャラクターである警視庁動植物係・須藤警部補が特別出演しているのもファンにとっては嬉しい趣向です。 いずれも安定した出来栄えで一定のクオリティは維持していて、小さな矛盾点から犯人を追いつめていく過程はスリリングで面白いです。ただ、両作品とも最終的に犯人を落とす決め手に意外性がないかなと思います。(毎回、同じような感想を書いている気がしますが)。 次作は動物オタクの薄巡査と、犬恐怖症の福家警部補の共演を期待したいw |
No.2260 | 7点 | だれがコマドリを殺したのか?- イーデン・フィルポッツ | 2015/05/06 15:03 |
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若い開業医ノートンは海岸の遊歩道で美貌の姉妹に出会い、”コマドリ”の愛称がある妹・ダイアナに一目で心を奪われる。資産家の伯父の希望に逆らい、ふたりは結婚するが、遺産相続に関するノートンの虚言をきっかけに、夫婦の熱愛は急激に冷め憎悪に変わる状況のなか、ダイアナが原因不明の病に倒れる---------。
過去に「誰が駒鳥を殺したか?」のタイトルで邦訳されるも、長らく絶版だったフィルポッツの代表作の一冊。今回半世紀ぶりに新訳で復刊されました。 正直なところ、いままでフィルポッツ初期の”ダートムア小説”と呼ばれる田園恋愛小説を引きずった形のゆったりした展開が冗長に感じられたのですが、本書は新訳ということもあって、男女の複数の三角関係を中心とした愛憎の物語という前半部も面白く読めました。殺人事件の発覚は物語の半分以上を過ぎてからですが、それまでにキッチリと伏線が敷かれています。 フェアプレイを重視する読み方をすると、客観描写のなかに現代の観点から見て気になる記述がありますが、後のエラリー・クイーンでさえ同様のことをやらかしているので、時代性を考慮すると、この種のトリックでは許容の範囲かなと思います。 探偵ニコル・ハートが再登場してから物語が転調し、急展開、活劇シーンが続く終盤も非常にスリリングです。読み終えて、タイトルの付け方が色々な意味で上手いなと感心させられました。 |
No.2259 | 5点 | プランタンの優雅な退屈- 大森葉音 | 2015/05/06 15:02 |
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豊かな資源のおかげで平和で穏やかな毎日がつづく”退屈王国”で、新エネルギー政策の発表と時を同じくして、お城の”絵画の間”で密室殺人事件が発生。好奇心旺盛でミステリ好きの王女プランタンは、衣装戸棚に閉じ込められていたメイドが怪しいと推理を巡らすが--------。
大西洋に浮かぶ架空の島国を舞台にした、ライトでユーモラスなファンタジー系ミステリ。ミステリ評論家・大森滋樹氏の別名義によるミステリ第2作です。 暇を持て余す自尊心の強い王女プランタンと、彼女のわがままと暴走に振り回される警護役の少年オールシー、親交国の王子で6歳児の天才デンちゃんなど、キャラクター小説としてはそれなりに面白い。 ミステリ的には「衣装戸棚の女」密室殺人の謎を中核にはしているものの、途中から謀略スリラーとなったり、説明不足気味のSFガシェットが出てきて、後半はなにかまとまりのないプロットになってしまったように思える。ピーター・アントニイの密室ミステリに倣った設定の密室トリックも、解明のためにプランタンが試行錯誤する部分はそれなりに面白いのだけど、真相はかなり脱力感を伴うものでした。 |
No.2258 | 6点 | ハーバード同窓会殺人事件- ティモシー・フラー | 2015/05/04 21:40 |
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結婚式を明日に控えたジュピターのもとに、大学の先輩で友人のエドから助けを求める電話がかかってくる。ハーバード大学卒業10周年の同窓会が催されているホテル近くのゴルフ場で参加者の射殺死体が見つかり、エドが重要参考人となったらしい。ジュピターは婚約者のベティとともに現地に赴くが--------。
アマチュア探偵ジュピター・ジョーンズ登場のシリーズ第3作。 デビュー作の事件から8年経ちジュピターは母校ハーバードの講師になっていますが、若さと勢いは相変わらずで、強引に警察捜査に鼻を突っ込みつつ、独自の調査で真相に迫ります。軽いユーモアを交えた癖のない語り口は読みやすく、あまり分量もない長編なので、あっという間に読み終えました。 作者が仕掛けた”犯人像”に関する大胆な趣向が本書の最大の読ませどころで、某有名作品を想起させるアイデアの類似性はあるものの、ゴルフ場近くの小屋に住む老人の証言や、いくつかの矛盾する証拠などの伏線の張り具合はいい感じです。ただ、被害者の人物造形や事件の背景描写が十分でなく、動機を推理する情報が欠けているのが気になります。そのあたりの人間ドラマ部分を書くのが作者の作風に合致しないとも言えますが、大学時代の青春群像のようなエピソードが入っていれば物語に厚みが出たのではと惜しまれます。 いずれにしても、以前から気になっていた作品を読めただけでも満足。刊行リクエストに応えてくれた論創社さんに感謝を込めて採点はプラス1点w |
No.2257 | 4点 | 幻想マーマレード- 小泉喜美子 | 2015/05/04 21:38 |
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サブタイトルに”奇妙な味の12の短編”と銘打たれた作品集。
謎解きものはなく、サスペンス小説もハードボイルドも収録されていない、たしかに作者にとっては異色の短編集なんですが、一般的に言う”奇妙な味”タイプとも違う感じがします。 時代や場所が不明で固有名詞もほとんど出てこない作品が多く、軽い風刺も入った作風は、星新一のショート・ショートを短編にしたような印象を持ちました。 冒頭の「観光客たち」は、そういったあやふやな設定が効果を上げていてオチが決まっていますが、読み進めていくと徐々に慣れてきて、たいていの作品でだいたい結末が予想できてしまいます。なかには軽く書き流しているのではと思える凡作(「木美子の冒険」のような駄作も)見受けられるのが残念です。 そんななかで強いて印象に残った作品を挙げるとすれば、「観光客たち」「太陽ぎらい」「南の国の鸚鵡たち」ぐらいになるかな。 |
No.2256 | 6点 | 推理作家殺人事件- 中町信 | 2015/04/30 18:28 |
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ミステリー小説界の長老で資産家の松山が旅先の男鹿温泉で崖から転落死し、つづいて、事件の裏事情を知るらしい編集者や推理作家が次々と殺害される。担当編集者の和泉百々子は、秋田に住む推理作家の増尾とともに、松山の旅程を辿り事件の真相を探るが--------。
立風書房ノベルズから1991年に出版されたノン・シリーズ長編。 マンネリに陥っていたこの時期の中町ミステリのなかでは、比較的良作の部類に入ると思われる作品です。 はじめに意味深なプロローグが配され、男女の素人探偵による温泉トラベル・ミステリの様相で展開し、真相を知る人物がバッタバッタと殺されていき、凝りすぎのダイイング・メッセージも出てきて......という、プロットは中町ミステリのテンプレート通りなのですが、ラストの二段階のどんでん返しに繋がる小説全体の仕掛けで読者を予想外の着地点に導きます。 動機のミスリードという中町ミステリの定番の手筋に、さらにひとヒネリ加えているところが巧妙で、最終章前に真犯人にたどり着ける読者は少ないのではないでしょうか。 |
No.2255 | 6点 | 運命の八分休符- 連城三紀彦 | 2015/04/28 18:52 |
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主人公の田沢軍平くんのキャラクターだけが記憶に残っていて、ユーモア交じりの軽妙な連作ミステリという憶えがありましたが、今回再読してみるとちょっと印象が違いました。どの作品も、作者のお家芸である”構図の反転”が効いており、まぎれもない連城ミステリです。その一方で、昨年の「小さな異邦人」の表題作に似た軽い語り口なので、粘着質で美文調の文体が苦手な人でも取っ付きやすいと思います。
東京・大阪間のアリバイトリックを扱った表題作は、サブトリックが山村美紗の某作と見事にカブっていますが、ベートーヴェン「運命」の八分休符の趣向をトリックになぞらえるという発想がすごい。 マクベイン「キングの身代金」を思わせる”人違い誘拐”がテーマの「邪悪な羊」は、連城の数ある反転ミステリの中でも上位に入る誘拐ミステリの傑作。後の某長編の原型と言えるかもしれない。 そのほかの「観客はただ一人」「紙の鳥は青ざめて」「濡れた衣装」も、主要人物の立ち位置や事件の構図が見事に逆転する連城マジックを堪能できる。ただ、さすがに連作で読み進めていくと、作者の狙いが透けて見えてしまうという側面もあるのは否めないかな。 軍平は、全5話で5人の運命の女性と関わることになるが、「邪悪な羊」を筆頭に、ラストに漂う哀愁も捨てがたい味わいがある。 |
No.2254 | 6点 | 生きていたおまえ…- フレデリック・ダール | 2015/04/28 18:51 |
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多額の借金を抱える〈私〉ベルナールは、愛情を感じなくなった妻アンドレを小道具にして、金融業者ステファンを殺害する計画をたて実行する。ベルナールの完全犯罪は成功したかに思えたその時、色々な方向から破綻の兆しが訪れて---------。
フランスの人気作家、フレデリック・ダールの初期の傑作サスペンス。スパイ小説やサン・アントニオ名義の軽妙な警察小説も邦訳されていますが、やはりダールの本領はサスペンス小説にあります。 本書は文庫で200ページに満たない小品の作品ということもあって一気読みでした。 ベルナールの殺人計画が倒叙形式で語られる第1部だけでもスリリングで十分に面白いですが、謀殺が発覚以降、やり手の判事ルショワールや女性弁護士シルヴィが登場してからの、物語を二転三転させる第2部が作者の真骨頂でしょう。そのなかで、主人公の心理状況が徐々に変貌していく描写が秀逸で、このあたりはジャン・コクトーが評価するのもわかる文学性を感じます。 フレデリック・ダールといえば、以前は古書店で薄い文春文庫をよく見かけたけれど、最近はほとんど見なくなった。超入手難で知られる「絶体絶命」あたりを文庫で復刊してもらいたいものですね。 |
No.2253 | 5点 | 首なし男と踊る生首- 門前典之 | 2015/04/26 18:14 |
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嵐の夜、建設現場の資材置き場に入った宮村たちは、そこで大斧を振るう首なし男と生首を目撃する。さらに土砂崩れの修羅場の翌日、近くの古井戸の中で折り重なる複数の死体が発見されるに至り、宮村は、建築&探偵事務所の共同経営者・蜘蛛手を呼び出すが-------。
不気味な”首切り侍”の伝説や、大斧を振るう首なし男、消えては現れる生首など、豪快なバカトリックに支えられた、いかにも原書房のミステリー・リーグ双書らしい作品。 密室状況の首なし男の謎に関しては、偶然を多用したトリックで容認できるとは言い難いが、古井戸の中の三死体に施された工作の真相には感心半分、爆笑半分でなかなか面白いものになっている。おそらくこのアイデアが先にあって、被害者などの事件の構成が考えられたのではと思われる。 物語の合間に挿入された”殺人計画書”は、この種のミスディレクションが頻繁に使われている現状を考えれば、かえって作者の狙いが分かりやすくなってしまっているのが残念なところ。また、章ごとに視点人物が変わることで物語が前後し、展開がギクシャクした感じを受けるのも難点です。 |
No.2252 | 6点 | バラの中の死- 日下圭介 | 2015/04/24 18:43 |
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”傑作推理小説集”と銘打たれた短編集。既刊の6冊の短編集(1984年~94年刊)のなかから7編が採られている。(『偶然の女』『瓶詰めの過去』収録の3編は初読)
収録作の中では有名どころの、日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した「木に登る犬」と「鶯を呼ぶ少年」がやはり目を引きます。両作品とも、自然豊かな地方の町を舞台に、小学生の男の子が重要な役割をするという構成が共通し、共にラストでどんでん返しを仕掛けているが、個人的には哀切な幕切れが印象に残る後者をベストに推します 「流れ藻」は、新潟の海での心中事件を発端とした錯綜した人間関係と事件の隠された構図を、退職後に元巡査が謎解いていく、清張ばりに読み応えのある力作。 動植物の特徴や習性を事件に絡ませるのが作者の十八番で、そんななかでは「突然のヒマワリ」や「木の上の眼鏡」が最もそれが効果的に使われているように思えた。 総体的に粒揃いの作品集ながら、まだ「紅皿欠皿」「緋色の記憶」といった名作も残っているので、第2弾が出ることを期待したい。 |
No.2251 | 6点 | 星読島に星は流れた- 久住四季 | 2015/04/22 18:52 |
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女性天文学者サラ・ローウェル博士が住むボストン沖の孤島で、今年も天体観測の集いが催され、6人の招待客の中に家庭訪問医の”俺”も選ばれた。そして、二日目の夜の隕石の落下騒動につづき、翌朝、海岸に浮かんだ招待客の死体が発見される-------。
ランドル・ギャレットのダーシー卿シリーズを思わせるSFファンタジー風のミステリ「トリックスターズ」シリーズが、ラノベ・レーベルにも関わらず一部で注目を浴びた作者による久々の長編ミステリ。 数年に一度、隕石が落ちるという不思議な島を舞台にしているが、ファンタジー要素はなく、かなりオーソドックスな”孤島ミステリ”という印象を受けた。手垢のついた設定に、どんな斬新なアイデアを織り込んでくるのだろうと期待して読んでいましたが、太陽系の惑星や隕石をあるものに見立てたアイデアは面白く、一部で光るロジックも見られるものの、謎解き部分はおおよそ予想できる内容で、真相はややインパクトに欠ける感は否めないかな。登場人物たちは、ラノベ出身作家らしい魅力的な造形で、スラスラと読めるところも良ですが、真犯人が採った犯行方法にはキャラクター的に違和感があった。 |
No.2250 | 5点 | 道化者の死- アラン・グリーン | 2015/04/20 21:29 |
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人気喜劇役者のジュニア・ワトキンスが、密室状況のホテルの部屋で額に銃弾を受けた死体で発見される。折からの猛吹雪で外界から孤立し警察に通報がかなわない状況下、ホテル支配人のアーサー・ハッチは、コメディアン一座の関係者たちを相手に素人探偵に乗り出す--------。
「くたばれ健康法!」のアーサー・ハッチとジョン・ヒューゴーのコンビ?が再登場するシリーズの第2弾。 ドタバタ劇風のユーモア・ミステリだった前作とはやや趣が異なり、警察を辞めホテルの従業員になっているヒューゴーがほとんど活躍せず、ハッチを探偵役にしたオーソドックスなフーダニットになっています。 ハッチが12項目の疑問点を挙げ、真相に迫っていく終盤は盛り上がりますが、演芸関係者に対する聞き取り調査がつづく中盤の展開がちょっと平板に感じました。犯行動機や、事件の裏の構図は上手く隠されていると思いますが、ワトキンスの閉所恐怖症という要素があまり活かされていないですし、”犯人”が現場を密室にした理由がよく分からないなど、細かい疑問点も気になります。 |
No.2249 | 5点 | 異次元の館の殺人- 芦辺拓 | 2015/04/18 22:00 |
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地検の菊園綾子は殺人犯とされた先輩検事の冤罪を晴らすべく、宿敵の弁護士・森江春策とタッグを組み、事件関係者が集まった”悠聖館”で起きた密室殺人の謎解きに挑む。トリックを解明し犯人を指摘したその時、時空が歪み、綾子は並行世界へ飛ばされてしまう-------。
容疑者が集う館での密室殺人というベタな本格ミステリの設定に、パラレルワールドというSF設定をぶち込んだ意欲的な作品。 探偵役が、関係者一堂を前に謎解きを披露すると、登場人物や状況が微妙に異なる平行世界にトリップし、また最初から謎解きをやり直すという、見方によってはギャグのような展開が繰り返される。西澤保彦の「七回死んだ男」の”探偵役ヴァージョン”と言えなくもない。 各世界で微妙に状況が変化しているので、密室殺人のトリック解明も異なり、多重解決となっているが、どれも新味のないものばかりなのが残念だ。それらを収斂させた真相というのが作者の狙いというのは分かるが、凝ったわりにはそう面白いとは思えなかった。 |
No.2248 | 5点 | 濁った航跡- 陳舜臣 | 2015/04/14 18:24 |
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東南アジアの富豪相手に日本人女性を愛人として”輸出”し、貢がせたのちに金品と女性を回収するという”裏稼業”に手を染めていた桃井は、コンビを組む古賀が何者かに殺されたことを知る。やがて高校時代の友人でもある刑事の前島が頻繁に彼の前に現れたかと思うと、第2の殺人が発生する---------。
昭和43年に読売新聞社から”新事件小説全集”という叢書の一冊として出版された長編ミステリ。”女性の海外輸出”やブルーフィルム撮影という裏社会を背景にしていることもあって、全体的に暗いトーンに覆われた作品になっている。 加賀と桃井の裏稼業に関って大金を得た女性たちは、資金を元手にクラブを経営するもの、異国の地で愛人として住み続けるもの、ヒモに大金を絞り取られ堕ちていくものと、その人生模様はさまざまで人間ドラマとしては面白い。ただ謎解きミステリとしては、2番目の被害者が出てきた時点で犯行動機は明らかで、犯人もだいたい見当がついてしまうのが難点-------と思いきや、最後にサプライズが仕掛けられていましたw 伏線らしい伏線が見当たらないサプライズのためだけのドンデン返しという感があるものの、読者を翻弄したいという作者の姿勢はうかがえる気がします。 |
No.2247 | 6点 | 太宰治の辞書- 北村薫 | 2015/04/14 18:23 |
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小出版社に勤める〈私〉は、新潮社のロビーに飾られたある小説の復刻版を目にしたことを契機に、作家の創作の謎に興味を惹かれるようになる。そして、旧友の正ちゃんから聞かされた太宰治「女学生」を巡って、円紫さんに導かれるまま、太宰の創作の秘密を探索する旅に出ることに---------。
〈円紫さんと私〉シリーズの最新作。前作「朝霧」から17年、小説内の〈私〉も同じように年を重ね、結婚し中学生の息子をもつ中年女性になっているが、謎に対する知的探求心は若い頃と変わらない。 作中に「謎は往々にして、それが謎であることを隠している」という印象的なセンテンスもあるけれど、創作の謎といっても非常に些細で、普通の人ならまったく気にもとめないようなこと。芥川龍之介や太宰治によほど興味をもっていて文学的素養がないと、(とくに前半は)置いてきぼりを喰らうこと必至な内容と言えそう。もちろん本書はフィクションではあるものの、ミステリというより、元高校の国語教師・北村薫が、シリーズキャラクターの〈私〉を借りて書いたエッセイ風の文学評論的なところもある。 文学の素養のない身には、途中まではナンダカナ~という感じでしたが、終盤の、太宰の「女学生」に出てくるロココ料理と掌中新辞典に関する謎の探求行はスリリングで、知的冒険の興趣に酔わされた。真相は二の次で、その探求行というプロセスが面白かった。 |