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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2314 6点 ザ・リッパー 切り裂きジャックの秘密           - シェリー・ディクスン・カー 2015/09/04 19:50
ロンドンの祖母のもとで暮らす米国生まれの15歳の少女ケイティは、マダム・タッソー蝋人形館である展示物に触れたことで、切り裂きジャックが跋扈するヴィクトリア朝時代にタイムスリップする。祖先の女性が連続殺人鬼の最後の犠牲者だったことを知るケイティは、ジャックの正体を暴き、歴史の改変に挑むが----------。

巨匠ジョン・ディクスン・カーの孫娘(本名 ミシェル・メアリー・キャロル)のデビュー作。タイムスリップを扱った歴史冒険スリラーということで、「ビロードの悪魔」「火よ燃えろ!」「恐怖は同じ」という3冊のタイムスリップものを書いた祖父のDNAは確かに受け継がれていますねw
"ヤング・アダルト部門”の受賞作だけあって作風はライトで、1888年のロンドンを舞台に、ケイティと二人の少年達が繰り広げる探偵&冒険行が軽快に語られます。
本筋の物語と同じぐらい作者が力を入れて描いているのは、ヴィクトリア朝ロンドンの情景、文化、風俗です。現代と19世紀との違いと併せて、ヒロインがアメリカ生まれのため、英国と米国の文化、風習、言葉の言い回しの違いなどについて彼らの間で頻繁に言及されます。その都度ストーリー展開が停滞するので、文庫の上下巻で800ページを超える分量が、なお一層長く感じましたw
切り裂きジャックというテーマ自体は手垢が付いたものと言えますが、その”正体”は一応意外性があり、歴史改変に関わるタイム・パラドックスの”落としどころ”も上手く考えられており、楽しく読めました。

No.2313 4点 海外ミステリ・ハンドブック- 事典・ガイド 2015/09/04 19:08
「ミステリ・ハンドブック」(1991年)の四半世紀ぶりの新版と謳っていますが、本書はそれとは全くの別物になっていて、残念ながらコンセプトや編集方針に対して疑問と不満を感じる内容でした。

10のカテゴリーを”ジャンル別”ではなく、キャラ立ち、相棒もの、イヤミス、北欧ミステリなど、かなり思い切った区分けにしたのは分からなくはありません。若い読者を中心に”翻訳ミステリ離れ”が叫ばれる昨今、トレンディな項目で目を惹こうということだと思います。しかし、この恣意的な項目の分類では、たとえ入門ガイドだといえども、十年後まで手元に置き参考にしたい読書ガイドになっているとは思えないのです。「ハンドブック」という限りは系統立てたもの想像していました。往年の翻訳ミステリ読者の嗜好とはズレた近年の〈ミステリ・マガジン〉と同種の迷走ぶりを感じます。
また、作品の選定にも疑問があります。ざっと見たところ100作品の内なんと7割が自社のH書房から出版された作品なのです。そのうちアガサ・クリスティが4作品(なにせ、H書房のドル箱作家だからw)、セイヤーズは最も入門に適さないと思われる「忙しい蜜月旅行」(なにせ、他のセイヤーズは創元だからw)、”北欧ミステリ”では、さほど話題にあがらない作家がチラホラ(なにせ、全部HM文庫だから)等々。
作品選定には杉江松恋氏ら外部の4人が関わっているようですが、それは一種のアリバイ作りだったかと勘ぐってしまう。”編集部が討議のうえ新たな作品を加え.....”というのが曲者なのです。
とはいえ、「文句を言うなら買ってから言え」ともいいますから、書店でチラ見しただけではあまり辛い点数は付けられないのですがw(⇐買ってないのかよ!)

No.2312 7点 王とサーカス- 米澤穂信 2015/08/30 20:05
新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から受けた仕事の事前取材のためネパールにいた。現地で知り合った少年のガイドで首都カトマンズの街を取材していた矢先、王宮で国王をはじめ王族の殺害事件が勃発。そして、彼女の前に背中に英文字が刻まれた男の死体が横たわる--------。

あの「さよなら妖精」から十年、当時女子高生だった太刀洗万智が、新米のフリーライターとして再登場しますが、前作と直接の連動はありません。本作は、ネパールで2001年6月に実際に起きた王宮事件を背景に置き、”ジャーナリズムの存り方”をテーマにした骨太の作品になっています。
王宮事件の情報を得るために彼女が接触した相手が殺されたため、ジャーナリストとして、その殺人事件の真相解明に関わらざるを得ないという構成はよく出来ていると思います。ただ、カトマンズの街並みの情景描写や、王宮事件の経過説明など(情報としては非常に興味深いのですが、謎解きミステリとしてみると)その前段の背景説明部分に筆を費やしすぎていて、やや冗長に感じるところもありました。
真相開示の部分では、細かな伏線の回収に妙味はあるものの、”こんな通俗的な”と一瞬は思わせます。しかし、次の「敵の正体」の章で明らかにされる、テーマと結びつく”もうひとつの真相”が重く、心に響きます。
謎解きやトリックの面でそれほど傑出したところはないものの、作者の作風の幅広さを再認識させてくれる佳作という評価。

No.2311 6点 三十三時間- 伴野朗 2015/08/28 18:39
昭和20年8月16日の朝、上海の港から日本軍の特務員4人を乗せたオンボロ機帆船が、終戦を知らない守備隊を全滅から救うため、東シナ海に浮かぶ孤島に向かった。しかし、荒れ狂う海に加え、船内では何者かによる妨害工作で次々と不測の事態が起こる---------。

タイトルにある33時間のデッドラインを設定した戦争冒険サスペンスです。
乗員のなかに紛れ込んだ敵側の工作員はだれか?というフーダニットの興味を持たせつつ、少人数の特務員たちがトラブルに見舞われながらミッションの遂行を目指すという、基本プロットはアリステア・マクリーンの一連の冒険小説を彷彿とさせます。
密室状況での殺人や、被害者の残した謎のダイイングメッセージが出てくるのが、冒険小説にもかかわらず「本格ミステリ・フラッシュバック」に採りあげられた理由だと思いますが、その辺は大したことがありません。本書の構成でユニークなところは、三人称視点だったのが、物語が本格的に動き出す第2部になって、臨時の船員である”俺”の一人称視点に切り替わることです。主人公の”俺”は謎解きをする探偵役でありながら、その正体、目的が不明という重層的に設定された謎が魅力的な作品です。その分、冒険小説としてはちょっと中途半端というか、食い足りない感もあるのですが。

No.2310 7点 新車の中の女- セバスチアン・ジャプリゾ 2015/08/26 22:36
広告代理店に勤めるダニーは、社長夫妻をオルリー空港へ送った帰りに、気まぐれに社長の新車を駆ってパリから南仏へ向かった。しかし、途中で暴漢に襲われたり、なぜか行く先々で会う人が皆、彼女を知っているという悪夢のような事態が彼女を襲う--------。

作者のミステリ作品としては、「寝台車の殺人者」「シンデレラの罠」につづく3作目。先般出版された新訳版で再読しました。
初めての土地で会う人々が彼女のことを知っていたり、ホテルやカフェなどに彼女の痕跡が残っているという不可思議な謎が魅力的ですが、まあ、想像力を働かせればある程度までは解けないこともありません。しかし、まったくの気まぐれで向かった先で、なぜ”それ”が可能だったのかという謎になると、その真相は意想外でした。ある意味では非常に皮肉的でブラックジョークのような真相です。
ヒロインの一人称で内面をきめ細かく描く章の間の第2章だけが、街道の人々の三人称視点になっていて、不可思議事象を客観的(フェア)に読者に伝えるという練られた構成は見事だと思います。
旧版から転載されている連城三紀彦氏の解説も、フランス・ミステリ通の連城らしい内容です。「私はもう一人の私である。だから私は私でない」という(連城ミステリにも通じるような)レトリックと、本書を「シンデレラの罠」の綴りかえだとする切り口の解説は一読に値します。

No.2309 5点 秘画・写楽の謎- 石沢英太郎 2015/08/24 20:04
長崎・平戸に慰安旅行に出かけた新聞社の社会部員・野村は、旅館で葛飾北斎門下の浮世絵師作という秘画を目にするが、同行の友人・栗原の異常な感銘振りに違和感を抱く。やがて、栗原家の兄嫁が所蔵する浮世絵が引き金になって、関係者の間で連続殺人が発生する-----------。

長編「秘画・写楽の謎」のほかに、中編の「沖田総司を研究する女」が併禄されています。
表題作は、旧家に所蔵する浮世絵を巡って悪辣な蒐集家が暗躍する状況下、連続殺人が起きるという本格推理モノの本筋に、写楽=〇〇説という歴史ミステリの要素を絡めた構成になっています。次々と関係者が殺されていくけれど、文庫で160ページ程の短めの長編のため展開が早く、謎解きをじっくり味わうという風にはならないのが勿体ないような。写楽の正体に関しても、複数の説を挙げているのは興味深いが、肝心の豊国説の傍証が作者の創作だという点でテンションが下がってしまう。
併禄の中編は、沖田総司の真の人物像を調べる女子大生の話で、子母沢寛や司馬遼太郎の新撰組関連の小説の知識が前提となっているので、素養のない身には話についていくのがしんどいが、書かれた時代背景を反映した女子大生の”行動原理”は、なるほどなと思わせるところがありました。

No.2308 6点 友だち殺し- ラング・ルイス 2015/08/22 22:34
ロサンジェルスにある母校の医学部で学部長の秘書に採用されたケイトは、かつての恋人で医学部生のジョニーに再会する。彼の案内で校舎を見て回っていたケイトは、死体処置室で若い女性の死体を発見、それは行方不明になっていた前任の秘書ガーネットの遺体だった---------。

数年前に「死のバースデイ」の邦訳があるタック警部補シリーズの第1作。
原題は”Murder among Friends"となっていて、大学の医学生を中心に被害者女性の周辺人物を限られた容疑者とするカレッジ・ミステリになっています。
ヒロインのケイトの視点で友人たちの人物造形を浮き彫りにしつつ、タック警部補を中心とする捜査で、被害者の死に至る状況、動機、アリバイ調べを交互に描写する構成が効果的で、小気味いい展開が読みやすいです。ただ、途中の二度のサスペンス部分は無理やり入れ込んだような感じを受けますが。
部下の女性刑事ブリジットの鋭い仮説や、終盤にはタックによる事実関係と疑問点の整理、一覧分析が挿入されるなど、徐々に真相に迫っていく推理過程に関しては「死のバースデイ」より充実しているように思いました。
最後に明かされる真相は、かなり後味が悪く個人的には若干疑問点もあるのですが、仄かに希望が持てる未来も示唆されているのが救いです。

No.2307 6点 獏鸚(ばくおう) 名探偵帆村荘六の事件簿- 海野十三 2015/08/20 18:52
戦前にSF、奇想、探偵小説を中心に作品を発表した海野十三の短編傑作選。ちくま文庫の海野十三集「三人の双生児」を底本に増補し2巻に分けた創元推理文庫版で、1巻目の本書は作者の創造した名探偵・帆村荘六もの10編が収録されています。

理科学の知識を駆使したミステリというのが帆村荘六シリーズの特徴で、それを密室トリックに活かした「ネオン横丁殺人事件」や、走る列車と弾道軌跡の問題の「省線電車の射撃手」などは、割とまともな使われ方をしているが、そのぶん物足りなさも感じます。やはり、奇想天外なバカトリックや、グロい内容の下記のような作品が印象に残りますねw
「爬虫館事件」は、失踪した動物園の園長の所在を巡る謎で、予想の斜め上を突く真相がグロい。悪魔的な犯罪計画を描いた「振動魔」もグロさでは負けていない。
「赤外線男」は、長編の『蝿男』を思わせる”名探偵VS見えない怪人”という構図のスリラーながら、伏線が効いた謎解きものとしても面白い作品。
初読の表題作「獏鸚」は、いわば”暗号ミステリ”ですが、凝りすぎていて解法にカタルシスを感じなかった。
総体的に収録作は人体(生体、死体を問わず)をアレコレする話が多いので、そういうのが苦手な人にはあまりお薦めできません。

No.2306 7点 髑髏の檻- ジャック・カーリイ 2015/08/18 20:08
長期休暇を取ってケンタッキー山中でひとり大自然を満喫していたカーソン刑事は、携帯電話に女性の声で事件発生の知らせを受ける。訝りながら現場の空き家に向かったカーソンが発見したものは、世にも異様な工作を施された惨殺死体だった----------。

アラバマ州モビール市警察のカーソン・ライダー刑事を主人公とするシリーズの第7作。(ひとつ前の6作目はシリーズ番外編のようで未訳になっています)。
相棒のハリーと離れてカーソンの単独行動となるのは、ニューヨークが舞台だった「ブラッド・ブラザー」と同様ですが、今作ではケンタッキーの渓谷、大自然を背景に猟奇的な連続殺人を描いているのが目を引きます。
地元の保安官や州警察にFBI捜査官が加わり、捜査の主導権争いとなるのはまあ定番と言えますが、そのなかの地元警察の女性刑事チェリーの男前すぎる言動がいい味を出していて萌えますねw  また、カーソンの実兄で天才的殺人鬼ジェレミーの意外な登場と、それに関連するお茶目な仕掛けには驚くより笑ってしまいました。やはりこのシリーズはジェレミーが出てきて捜査を引っ掻き回す展開になると面白さが増すように思います。
本格ミステリというよりスリラー要素が勝っているように思いますが、今作も期待を裏切らない出来栄えという評価。ちなみに、犯行を告知する謎の記号”=(8)=”の意味については、カーソンより先に気付きました。

No.2305 5点 怪盗グリフィン対ラトヴィッジ機関- 法月綸太郎 2015/08/16 00:04
”あるべきものを、あるべき場所に”、を信条とする怪盗グリフィンの今回のターゲットは、伝説的SF作家P・K・トロッターの未発表原稿「多世界の猫」。ところが、持ち主の大学教授に接触をはかるも、猫のぬいぐるみを着た謎のグループに襲われ、原稿を奪われてしまう----------。

怪盗グリフィン・シリーズの第2弾。
回収を依頼された原稿を巡って、謎の集団やCIA、ペンタゴンなどの組織が絡む謀略ものの冒険スリラーというのが基本プロットなんですが、なにせ題材がフィリップ・K・ディックをモデルにしたSF作家による架空の量子理論SF小説なので、有名な思考実験”シュレーディンガーの猫”のパラドックスをはじめ、波動関数の収縮、多世界解釈やら、量子コンピューターなどの難解な最先端科学ネタが満載、かなりハードSF寄りの作品になっています。謀略スリラーとして読んでいても着地点はもろにSFなので、ミステリを期待すると残念な読後感になってしまいます。最後に飛び出す”トンデモ系”のネタは『ノックス・マシン』に通じるテイストを感じました。
ロダンの「考える人」像にあるイタズラ書きが、ブルース・リーの名セりフ”Don't think, Feel!”(©「燃えよドラゴン」)なんてギャグが出てくるように、作者の稚気と遊び心を楽しむべき作品といえそうです。

No.2304 6点 網にかかった男- パトリック・クェンティン 2015/08/14 18:08
都会での仕事を辞めて田舎で絵画の制作にとりくむジョン・ハミルトンだったが、虚栄心が強い妻リンダは、そんなジョンに対し強い不満を抱えていた。やがて、アル中のリンダは、夫による虐待という虚言を周りの人々に吹聴し、突如失踪してしまう--------。

晩年のパトQ(ウィーラー単独)がこだわり続けた”悪女もの”テーマのサスペンスです。
周りの住民のみならず、警察からも妻リンダ殺害の容疑をかけられたジョンは、隠れ場所に身を隠し容疑を晴らそうとするという、前半の展開は新味に乏しく、ありきたりのサスペンスという感は否めません。リンダの病的な悪女ぶりは強烈な印象を残しますが、主人公の心情描写は(ちょっと構図が似てなくもない)フィルポッツの「だれコマ」などと比べても、深みに欠けステロタイプの域に止まっています。
しかし、隠れ場所で身動きが出来ないジョンに代わって、知り合いの近所の子供たち5人を使い調査させるという、中盤以降の展開はちょっとユニークで面白いです。その中のひとりの幼女が、ある事に嫉妬してジョンの居所を密告しそうになるところなど、事情が理解できない子供ならではのサスペンスといえます。
謎解きやどんでん返しの妙味は乏しいものの、サスペンスとしてはまずまずの出来栄えと言えるのでは。

No.2303 6点 柳生十兵衛秘剣考 水月之抄- 高井忍 2015/08/12 22:52
男装の女武芸者・毛利玄達と柳生十兵衛との腐れ縁コンビが、廻国修行の途上で遭遇した”剣客と剣の流派”にまつわる3つの謎を解いていく、本格ミステリと剣豪小説を合体させた連作短編集の第2弾。

「一刀流”夢想剣”」は、柳生新陰流とともに将軍家のもうひとつの御流儀である小野派一刀流の宗家・伊東一刀斎の秘密を題材にしている。”小金ヶ原の戦い”などの背景となる史実に疎いためもあって、この”意外な正体”がいまいちピンとこない。
「新陰流”水月”」は、密室状況の湯場での剣豪の変死事件という不可能犯罪もの。ハウダニット以上に、その時代を反映した凄まじい動機が印象に残る。文句なしに編中の私的ベスト作品。
「二階堂流”心の一方”」は、幻術を思わせる兵法”心の一方”の謎の使い手を巡って、異端信仰もからむ伝奇時代小説風の作品。玄達の女性ならではの推理というところがミソで、この秘密は十兵衛には謎解けない。
収録3編いずれもが実在の武芸者などの史実に基づきストーリーが構成されているので、その知識があればもっと楽しめたと思える。どちらかというと時代小説フアンのほうがフィットするかもしれない。

No.2302 7点 悪魔の羽根- ミネット・ウォルターズ 2015/08/11 00:00
ロイター通信社の女性記者コニーは、取材先のバグダッドで元傭兵の英国人に遭遇し、拉致監禁されてしまう。その男マッケンジーは、2年前にアフリカの地で少女5人を殺害した真犯人だと彼女が疑っていた人物だった。コニーは3日後に無傷で解放されたが、なぜか監禁事件の証言を拒否、英国に帰国しドーセット州の農村に一軒家を借り隠れ住むという行動をとる----------。

小説の主題や物語の本筋が途中まで読んでもなかなか掴み難いミステリです。
あらすじ紹介からは、”サイコパスVSヒロイン”という定型の構図のサスペンスと受け取られかねない(実際、そのような展開にもなります)が、読者の予想を裏切り、コニーの一人称で語られる物語は、バートン・ハウスというコニーが借り住む古屋敷の所有関係者と近隣住民の軋轢、人間模様が中心となります。その中でも、古屋敷の使用人の家系で、農場主の女性ジェスとコニーの一風変わった信頼関係が終盤の急展開の伏線となっているのですが、本筋からずれていくように見える中盤は、別々の2つ小説を一緒に読んている感じで、戸惑ったり退屈を覚えるかもしれません。
しかし、心理サスペンスから本格ミステリ風に変貌し主題が見えてくる終盤はやはり圧巻と言えるでしょう。ネタバレぎみにはなりますが、主人公=被害者=容疑者(真犯人?)=探偵役という趣向はもとより、ある人物の明示されない処理など、読書会などで語り合いたい要素が多い作品です。

No.2301 6点 九十九本の妖刀- 大河内常平 2015/08/08 18:32
日下三蔵編「ミステリ珍本全集」の7巻目(第2期の第1回配本作品)。
「九十九本の妖刀」「餓鬼の館」の長編2本に、密室ミステリの隠れた名作「安房国住広正」ほか7編の短編が併録されています。刀剣の蒐集、鑑定家としても知られる作者らしく、収録作はいずれも刀剣がらみのややマニアックなラインナップになっています。

表題作の「九十九本の妖刀」は、東北の山間で旅芸人一座のストリップ嬢2人が何者かに拉致されるという発端から、エロ・グロ、猟奇的な場面が横溢する伝奇ミステリの怪作。噂にたがわぬ異様な内容ながら、文章、構成とも意外としっかりしていて楽しんで読めました。
「餓鬼の館」は、新しく赴任した水戸の陸軍師団長の一家が、広大な屋敷の中に棲みつく怪異に対峙するといった怪奇ミステリ。刀鍛冶〇〇の末裔とか、女性ばかりを拉致する謎の集団など、基本プロットは「九十九本の妖刀」となんとなく似ている気がする。
「安房国住広正」は、密室状況の刀鍛冶場の控えの間で、刀匠の弟子が不審死するという内容のガチな本格ミステリ。ディクスン・カーを髣髴とさせる雰囲気と、(推理クイズ本にも採られた)密室トリックが印象に残る不可能犯罪ものの傑作短編です。
そのほかの短編は「妖刀記」「刀匠」はじめ、刀鍛冶そのものを素材にした奇譚や犯罪小説で、ちょっとマニアック過ぎる感じがしました。

No.2300 5点 誰かの家- 三津田信三 2015/08/08 00:06
『赫眼』『ついてくるもの』と同系統のホラー短編集の3作目。雑誌「メフィスト」に2012~14年に発表された6編が収録されています。

今回は、すべてミステリ(謎解き)の成分がない純粋な怪奇譚で揃えていますが、率直に言うと前2作ほどは楽しめなかった。とりわけ、「つれていくもの」「あとあとさん」「ドールハウスの怪」などは、これまでの作品の焼き直しのようなネタで、マンネリ感は否めない。ホラー小説の性格上、話の落としどころがある程度透けて見えてしまうのはやむを得ないとはいえ、もう少しヒネリがあっても良かったのではと思えた。また、作者のホラー好きが高じて、本筋に入る前の薀蓄じみた前口上が徒に長くなっているのが気になった。
作者が知り合いから怪異話を聞くという構成のものが多いなかで、三津田自身が怪異に見舞われる「湯治場の客」がまずまずと思える出来栄えで編中の個人的ベスト。総毛立つようなサプライズを味わえる某シーンがなかなか忘れがたい。次点は、丑の刻参りを逆の視点で描いて恐怖を駆り立てる「御塚様参り」あたり。

No.2299 5点 猫入りチョコレート事件- 藤野恵美 2015/08/06 19:44
弱小タウン誌のアルバイト編集員・真島は、取材先の”猫カフェ”で密室から従業ネコが消えた事件に遭遇する。そんな貴島の前に現れたのは、チャイナドレス姿の謎めいた美女。書道家の胡蝶と名乗る彼女は、中国の思想家”老子”の言葉を引用し、たちどころに謎を解いていく--------。

”日常の謎”を扱った軽い語り口の連作ミステリ。
「店でいちばんかわいい猫」では、密室状況から消えた猫の謎、「幻の特製蕎麦」では、地元出身の文豪が愛したソバ屋はどっちか?、「ヒーローの研究」では、強奪された一億円の行方、「猫入りチョコレート事件」では、お菓子のオマケに付いている猫のフィギアを巡る騒動など5編を収録していますが、いずれも伏線が分かりやすいため、謎解きという点では全く歯応えがありません。いわゆる”ユルミス”ですね。また、老子の引用が事件の真相を示唆しているという作者の狙いがいまひとつわかりずらく効果を上げていない感じがします。
胡蝶の周りに出没する敵の正体や、街から猫が消えていく謎など、連作を通した伏線が、本書で回収されないまま終わってしまったのは肩透かしというか........。つまりは、続編の「老子収集狂事件」も読んでください、ということなんでしょうけど。

No.2298 6点 八番目の小人- ロス・トーマス 2015/08/04 00:02
第二次大戦後のドイツ。元OSS大尉ジャクソンは、小人のルーマニア人と組んで、一攫千金を目当てに、戦時中に行方不明になったユダヤ人富豪の息子クルトを捜しだそうとする。しかし、そのクルトは米英ソ三国の情報部が追う凄腕の暗殺者だった--------。

シリーズ・キャラクターが出てこない単発物のクライム・ノヴェル。
主人公は、戦後定職につかずドイツで放蕩の日々を送っていた元OSS(戦略事務局)大尉ジャクソンと、小人のルーマニア人で小悪党のプルスカーリュの二人。
ロス・トーマスの小説の魅力は、なんといっても登場人物のひとクセもふたクセもある個性的なキャラクター造形にあります。本書では、胡散臭い小悪党でありながら、何故か憎めない小人のプルスカーリュが特徴的ですが、それぞれの思惑で殺し屋クルトを追う各国の諜報部員ら、その他の脇役も十分魅力的に描かれています。
物語は終始、嘘と裏切りが飛び交うコンゲーム的な展開ながら、それでもロス・トーマスにしては基本プロットがストレートなので読みやすいほうだと思います。ラストでどんでん返しを仕掛けてきそうなところも、割りとあっさりした終わり方なのは好みの分かれるところかもしれませんが。

No.2297 6点 キングレオの冒険- 円居挽 2015/08/02 11:34
京都の日本探偵公社に所属する超人探偵、”キングレオ”こと天親獅子丸と、従兄弟で推理作家志望の助手・大河のコンビが、”現代の悪”が仕掛けた謎とトリックに挑む連作ミステリ。

コミック雑誌を思わせる紙質と装丁で、手を出すのを躊躇わせるかもしれませんが、(内容的にもそういうノリが感じられなくはないものの)意外とまともなパズラー連作でもあるので、安心してお買い求めくださいw 
「赤髪連盟」「踊る人形」「まだらの紐」など、各編いずれもシャーロック・ホームズ譚をモチーフに、それらを擬える事件になっているのが面白く、”正典”を読んでいればより面白さが増すと思います。
助手・大河のミステリ小説新人賞応募と違法賭博のからくりが繋がる「赤影連盟」、麻薬取引の意外な暗号手法が独創的な「踊る人魚」、正典というよりカーター・ディクスンのある作品の変奏曲のような「なんたらの紐」など、トリックと伏線の妙でそれなりに楽しめました。
個人的ベストは、大河の妹の恋人・城坂論語の殺人容疑を巡って、伝説の老探偵と対決する中編の最終話。
ルヴォワール・シリーズの作者らしい読み応えのある推理バトルがなかなか圧巻です。

No.2296 6点 風花島殺人事件- 下村明 2015/07/30 18:36
大分県の離島・風花島に住む家族を捨てて、別府で若い愛人と暮らしていた元網元の花紋鶴吉が失踪した。愛人の糸代からの依頼を受けた私立探偵・葉山は、調査をするうちに、時を同じくして鶴吉の正妻が風花島沖の海上で殺害死体で発見されたことを知る--------。

「本格ミステリ・フラッシュバック」からのセレクト。というよりも、ほとんど無名だった作品にもかかわらず、ミステリ研究家の山前譲氏が「必読本格推理30編」に選んだことで一部で話題になった昭和36年初出の作品です。今回復刊された日下三蔵編の「ミステリ珍本全集」第8巻で読みました。
同じ大分県沖の離島が舞台ということで、読む人によっては「十角館の殺人」を連想させたり、また複雑な家系の網元一家からか、”地味な「獄門島」”などとも言われたりしているようですが、”孤島での連続殺人”という設定は同じでも、当然ながらプロット、作風ともに全く違います。もともとが大衆小説を多く書いていた人だけあって、文章が手慣れており読みやすいのが良点です。そのぶん全般的に通俗的な感じは否めないのですが。
本格ミステリとして見て、メイントリックはそれほど独創性があるとは言えないものの、台風の襲来という設定を活かしたトリックは悪くはなく、伏線の張り方もまずまずだと思います。ただ、解決編が意外とあっさりしていたのが残念ですね。あと、珍本全集の月報にある山前譲氏の「お詫び、あるいは言い訳」というエッセイが愉しい。(なにも、そこまで卑屈にならなくてもいいのにw)。

No.2295 5点 薫子さんには奇なる解を- 大槻一翔 2015/07/28 18:36
大分の私立大学に通う”僕”こと桐生は、密室状況の付属図書館から消えた本の謎を解くことで、美人司書の薫子さんと知り合う。推理作家を目指す薫子さんにネタを提供するため、”僕”は新たな謎を探し求める--------。

タイトルの女性主人公の名前を見ただけで、大体どういうタイプのミステリか想像が出来ると思いますが、ライトノベルの”日常の謎”をテーマにした連作短編集です。栞子さん、櫻子さん、薫子さん、ヨリ子さん(←だれ?w)...........清楚で純日本風のヒロイン名というのが当世ラノベ界の流行りなのか?
当連作は、謎解きがミステリ小説を書くためのネタ捜しになっている点がポイントで、「真相がつまらなければ、桐生くんの考えた奇なる解を教えて」と薫子さんが言うように、探偵役に求められているのが、真相というより”面白い解答”であるところがユニークです。収録作のなかでは、同じ時刻に2つの離れた場所に現れる男の謎を扱った「Xを求めて」が私的ベストで、多重解決的な謎解き過程が面白いと思えた。
ただ、突如豹変する薫子さんのキャラ設定はいただけない。よほどのマゾ男性でないと、このキャラクターについて行くのは難しいのでは。

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