皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
kanamoriさん |
|
---|---|
平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.1006 | 6点 | 迷蝶の島- 泡坂妻夫 | 2010/08/15 20:09 |
---|---|---|---|
叙述に趣向を凝らしたフランス・ミステリ風のテイストがある作品で、名前でのミスリードの手法は数年前に話題になった叙述トリックものの恋愛ミステリを連想させます。
登場人物が少ないため、仕掛けが分かり易いところが難点ですが、手堅くまとめたまずまずの良作という感じです。 |
No.1005 | 7点 | 煙の殺意- 泡坂妻夫 | 2010/08/15 18:11 |
---|---|---|---|
やはり、著者の神髄は短編にあることが実感できたヴァラエティに富むノンシリーズのミステリ作品集。
好みでいえば、「椛山訪雪図」が個人的ベスト。水墨画に隠された仕掛けと殺人事件の絡みが巧妙。 ほかに、「煙の殺意」「紳士の園」「狐の面」「開橋式次第」などが氏のテイストがよく出た佳作だと思います。無茶なロジックが入った作品もありますが、亜シリーズに準じる奇想が楽しめます。 |
No.1004 | 6点 | 花嫁のさけび- 泡坂妻夫 | 2010/08/15 17:34 |
---|---|---|---|
泡坂氏のミステリということを前提に読むと、物語の隠された構図はなんとなく分かってしまいますが、客観的な評価だと、よく出来たミステリという印象です。
主要人物の内面描写がほとんどありませんが、「レベッカ」の本歌取りのプロットだとか、周りの人物の行為によって、読者をミスディレクションする手法が採られています。 基本となるアイデアはオリジナリティに欠けますが、小技の技巧がたくさん凝らされた佳作だと思います。 |
No.1003 | 6点 | 湖底のまつり- 泡坂妻夫 | 2010/08/15 15:42 |
---|---|---|---|
探偵小説誌・幻影城の連載で読みましたが、連載第2回を読み始めて戸惑った覚えがあります。編集部の印刷手配ミスかと思いました、前号と同じ内容の物語が綴られていたので。
大胆なトリックが使われていて、幻想的雰囲気の物語が不可思議性を助長していますが、ちょっと無理があるトリックだと思いました。余韻のあるエンディング・シーンはなかなかよかったですが。 |
No.1002 | 5点 | 赤と白の賭け- 仁木悦子 | 2010/08/15 15:07 |
---|---|---|---|
ミステリ短編集(講談社文庫版)。
主婦探偵・悦子が雛人形から出てきたメモをもとに推理を展開する「ひなの首」とか、こどもを主役に殺人事件を描いた2編「石段の家」と「悪漢追跡せよ」が好みのテイストでした。 やはり、こども視点の物語になると描写が生き生きしているように思います。 |
No.1001 | 6点 | 暗殺教程- 都筑道夫 | 2010/08/15 14:47 |
---|---|---|---|
ジェームス・ボンドの世界をそのまま持ってきたような娯楽スパイ・アクション小説。
日本の秘密警察員・吹雪俊介が、謎の国際陰謀組織と対峙するチープ感ただようB級アクションものですが、使われる小道具のアイデアやしゃれた会話が満載で楽しめた。 |
No.1000 | 5点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2010/08/15 14:10 |
---|---|---|---|
匿名の素人探偵ファイロ・ヴァンス初登場作品。
事件自体は、「グリーン家」や「僧正」と比べると小粒で地味な内容で、探偵の芸術関係のペダントリー連発もうっとうしい限りです。 再読したのは、ある評論で叙述の特異性に触れていたからです。当シリーズはワトソン役である「私」ヴァン・ダインの一人称視点で語られていますが、彼は現場に居るにも関わらず、いっさい口出しせず、存在感がまったくありません。 これは、一人称視点なのに神視点だと錯覚させる”視点誤認の叙述トリック”の先駆ではないでしょうか(笑)。 |
No.999 | 6点 | 大いなる眠り- レイモンド・チャンドラー | 2010/08/15 12:35 |
---|---|---|---|
私立探偵もののハードボイルド小説を確立させたといわれる著者の長編第1作。
冒頭の、マーロウが依頼人である富豪の屋敷を訪れるシーンから印象に残る場面の連続で、巧みな比喩表現とマーロウの洒落た軽口も併せて読ませます。 一方、不満点もいくつかあり、プロットが整理されていない点と、影の主役である失踪した長女の夫の造形が不足すること。後者は将軍の口からもっと明らかにしたほうがよかったと思う。 また、訳文も不満。感覚が古いのはやむを得ないとしても、特にマーロウの会話文で、自身を「僕」といってみたり、”off course” もしくは”yes”の意味で「もち」を連発させているのは相当違和感がありました。 |
No.998 | 6点 | 名探偵の世紀- 事典・ガイド | 2010/08/14 16:17 |
---|---|---|---|
エラリー・クイーンを中心に、米国の黄金時代の探偵小説作家を多方面から紹介する読書案内。エッセイ&評論&座談会に未訳短編の収録など内容はけっこう充実していると思います。
とくに、法月綸太郎氏のクイーン作品の分析は、独特の切り口で、「災厄の町」が「Yの悲劇」の改良ヴァージョンでプロットに共通点が多いという分析は、眼から鱗という感じでした。 |
No.997 | 7点 | 彼女はたぶん魔法を使う- 樋口有介 | 2010/08/14 16:04 |
---|---|---|---|
せつない探偵・袖木草平シリーズの第1作。
元警視庁の刑事でルポライターの主人公が、元上司の女性警部から仕事を回してもらい私立探偵もどきの活動をするうちに、というのが大筋のストーリー。 主人公の造形にはハードボイルドっぽいところがない。別居中で有名社会評論家の妻には頭があがらず、小学生の娘には同情され、事件で出会う女性(なぜかみんな美女)には、好意を得ること止まり。 大人になりきれない中年探偵の絶妙の軽口と苦笑を誘う内面描写が面白く、読み始めると癖になるシリーズです。 |
No.996 | 8点 | 影丸極道帖- 角田喜久雄 | 2010/08/14 15:38 |
---|---|---|---|
作者の初期の伝奇時代小説はミステリ趣向が施されているものが多いですが、本書は逆に、伝奇時代小説を装った本格ミステリといってもいいほどトリックが秀でています。
物語は、元与力の白亭と町方同心・志賀三平が、極悪怪盗・影丸と白亭の娘の誘拐事件を追う構成で、中盤はフレンチ警部ものを彷彿させる捜査小説の趣で、終盤には探偵役・白亭の推理が延々と語られた上、圧巻のどんでん返しを設定しています。 時代小説を読みなれてないと長大な物語がキツイ部分もありますが、拾いものの逸品ではあります。 |
No.995 | 7点 | 椿姫を見ませんか- 森雅裕 | 2010/08/14 15:15 |
---|---|---|---|
プリマ・ドンナ鮎村尋深シリーズの第1弾。
私立芸大を舞台に、絵画の贋作事件が関わる殺人事件を描いたミステリには違いありませんが、本格ミステリとしては取り立てて眼をひくトリックがあるわけではありません。 それでも面白く読めたのは、ヒロインの鮎村尋深のぶっとびぎみで非常に魅力的な人物造形につきます。昔からの友人・守泉音彦とのコンビでのやり取りなど、ストレートな恋愛ものではない微妙な関係が絶妙です。 このシリーズは徐々にミステリから離れていきますが、絶版で簡単に読めないのがもったいない名品です。 |
No.994 | 5点 | 疑惑の墓標- 藤桂子 | 2010/08/14 14:38 |
---|---|---|---|
「獅子座」の菊地警部シリーズの第3作で、作者の単独名義では第1作となる社会派+本格派ミステリ。
クロフツの「製材所の秘密」に倣ったという第1部「アマチュア」、第2部「プロフェッショナル」と別れたプロットでは、第1部で探偵役の一人となるマンション管理人の生き生きした造形が面白い。 第2部で菊地ら捜査陣視点に変わり、通常の捜査小説になりますが、今作も犯人像の特異な造形が読ませます。 トリック的には、2つの「赤いトランク」の欺瞞は複雑ではあるものの効果はいまいちで、後半のアリバイ・トリックも今では陳腐になってしまいました。 |
No.993 | 6点 | 黄色い風土- 松本清張 | 2010/08/12 18:17 |
---|---|---|---|
「影の地帯」などと同系統の陰謀物サスペンス大作。
雑誌記者が、ふとしたことから連続する殺人事件に巻き込まれ、事件の裏には謎の集団が、というお約束の展開です。 シリアスな社会性とか抒情性とかはどちらかと言うと二の次で、謎を追うサスペンスが一番の読みどころ。ご都合主義でプロットにも細かい破たんがありますが、リーダビリティは抜群でした。 |
No.992 | 6点 | 針の島- 藤本泉 | 2010/08/12 18:17 |
---|---|---|---|
山形沖の日本海に浮かぶ離島を舞台にしたエゾ共和国シリーズの第3作。
当シリーズは東北の閉鎖集落ものの土俗伝奇ミステリですが、本書は、ダイイング・メッセージや意外な殺害手段など、本格色が強い内容でした。 しかし、探偵役で事件を捜査する休暇中の新米刑事の結末での扱いを見ると、一貫して伝奇性が主体であることが分かります。 |
No.991 | 5点 | 死体は二度消えた- 鷹見緋沙子 | 2010/08/12 18:17 |
---|---|---|---|
死体が消えたり現れたりするトリックはがっかりする真相ですが、主人公が調査する過程で次々と発生する不可解な事象が面白く、サスペンス+どんでん返しものとしてまあまあの出来でした。
文庫解説で、中島河太郎が作者の近況について書いている内容は今読むと白々しい(笑)。 |
No.990 | 6点 | 平賀源内捕物帳- 久生十蘭 | 2010/08/12 18:17 |
---|---|---|---|
「顎十郎」と並ぶ作者のもう一つの連作捕物帳。
博識で合理的精神の持ち主・源内先生が不可解な事件を解決する全8編を収録しています。 雪中の足跡のない殺人「萩寺の女」や、同日同時刻同一人物によって江戸、大阪、長崎で殺人が起こる「長崎物語」など、突飛な謎の提示は長けています。連作後半の作品は、なぜか目明しの姪っ娘が主役になって源内が脇役になってしまうのが惜しい。 |
No.989 | 4点 | 宇宙大密室- 都筑道夫 | 2010/08/12 18:16 |
---|---|---|---|
初期のSFミステリ系短編集。
表題作の「宇宙大密室」だけは、囚人用惑星を舞台にしたハウダニット&フーダニット・パズラーの佳作。 しかしながら、残りはSF寄りのコント小説とかお伽話を題材にしたSFパロディが大半で、ちょっと期待外れの内容でした。 |
No.988 | 7点 | 閉塞回路- 海渡英祐 | 2010/08/11 18:50 |
---|---|---|---|
ミステリ短編集。
全てアリバイ・トリックを扱った作品を収めていますが、単純なアリバイ崩しものになっていない点が素晴らしい。アリバイトリック自体をミスリードに使って、読者の予想を裏切る結末を用意している作品があったりでバラエティに富み、作者の最良の短編集だと思います。なかでは、作中作で仕掛けが秀逸な「”わたくし”は犯人」が個人的ベストです。 |
No.987 | 5点 | 青春迷路殺人事件- 梶龍雄 | 2010/08/11 18:34 |
---|---|---|---|
戦前の旧制高校シリーズの系統に入る作品で、旧題は「青春迷路殺人事件」。
前3作と比べると本格パズラー的な趣向は薄めで、当時の旧制高校生たちの青春群像を描くことに力点が置かれているように思います。アリバイトリックと意外な動機がミステリをしていて、一高生と三高生の二人の探偵役が別々に行動した結果、真相に至るというプロットがちょっとユニークでした。 |