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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2354 7点 オータム・タイガー- ボブ・ラングレー 2016/03/15 20:36
CIA退官を数日後に控えた事務部門の幹部タリーのもとに不可解な要請が入る。東ドイツの諜報機関の大物が、亡命時の身柄受入れ要員に部門外のタリーを指名してきたのだ。訝りながら引き渡しに赴いたパリで、その人物から示された古びたライターが、タリーに終戦直前のある秘密工作の記憶を呼び起こす---------。

山岳冒険小説の傑作「北壁の死闘」に続く1981年発表の長編第5作。今年復刊された新装文庫版で読了。
なぜ今、ボブ・ラングレー?という疑問は、文庫巻末の田口俊樹氏による”「解説」に代えて-------東江一紀さんの思い出”という文章で明らか。本書は一昨年に亡くなった東江(あがりえ)氏による翻訳で、いわば追悼の意を込めた復刊なのです。
名翻訳家といわれる人は、それぞれ”お抱えの作家”を持っていて、読者にとって作家と訳者が一心同体のようになっている人が何人かいます。本書の解説を書いた田口俊樹氏ならローレンス・ブロック、菊池光氏ならディック・フランシスという風に。東江氏なら一般的にはドン・ウィンズロウでしょうが、個人的には”ベルリン三部作”のフィリップ・カーの東江訳にも思い入れがあります。
さて本書ですが、タリーによる終戦直前の潜入工作を描いた回想パートが大部分を占める構成になっていますが、敵地潜入ではなく、ドイツ軍人を装った主人公の潜入先がアメリカ本国ルイジアナ州にあるドイツ軍捕虜収容所という設定がユニークです。「北壁の死闘」と比べると、冒険活劇よりスパイ謀略モノとしてよく出来ていて、ミスディレクションを効かせた”どんでん返し”が鮮やか。また、謀略モノには珍しく、感動的で余韻を残すラストシーンも非常に印象的です。

No.2353 7点 人形(ひとがた)- モー・ヘイダー 2016/03/12 18:45
犯罪歴のある精神異常者を収容する医療施設で、”ザ・モード”と呼ばれる亡霊が出没するという噂が職員の間で密かに蔓延していた。上級スタッフのA・Jは、最近連続する患者の不審死が、その亡霊騒ぎと関連するのではと疑い、院長のメラニーに無断で、キャフェリー警部に相談するが---------。

エドガー賞を受賞した「喪失」に続くジャック・キャフェリー警部シリーズの第6作。
精神科の医療施設を舞台にした謎解きミステリという点では、クェンティン「迷走パズル」、タッカー・コウ「蠟のりんご」などを連想させますが、キャフェリーがこの事件に関与してくるのは、小説の半ば200ページを過ぎたあたりから。前半は、施設職員のA・J・ルグランデ視点のメインの物語と、キャフェリーが担当する女性失踪事件が交互に並行して描かれます。キャフェリーと潜水捜索隊の女性隊長フリー・マーリーが絡むそのサブ・ストーリー部分は前作から続くエピソードで、メインの事件との関連性がなく、シリーズで読んでないと事情が分かりずらい面があります。前作からの継続的な要素が強すぎるのは、当シリーズに共通する難点ですね。
とはいっても、直近に療養所を退院した元患者と過去の猟奇的な事件に焦点があてられる後半は、予期せぬ展開の連続で、高いリーダビリティが最後まで持続します。亡霊ネタや呪いの人形というホラー・アイテムが出てきますが、初期作ほどのサイコ色はないので、作者の作品のなかではわりと万人向けかもしれません。

No.2352 6点 ウィルソン警視の休日- G・D・H&M・I・コール 2016/03/10 18:13
ミステリ史における重要な個人短編集をエラリークイーンがリストアップした”クイーンの定員”(Q'Q)にも選定されているウィルソン警視シリーズの第1短編集。ヘンリー・ウィルソンは、長編2作目「百万長者の死」の事件を契機に一旦警察を退職し、探偵事務所を立ち上げた経緯があり、収録作のうち3編(1、2、7話)が警視時代のもの、残りの5編が私立探偵として登場しています。

最初の「電話室にて」は、トリックの実現可能性の問題以前に、スマホ世代の読者には、その装置の形状自体が理解不能ではという難点がありますが、冒頭の伏線が最後に効いていて、その部分が印象に残る作品です。そういう意味では、タイトルは乱歩編『世界短編傑作集2』収録の「窓のふくろう」のほうがよかったのかな。
「ウィルソンの休日」は、現場の海岸に残された多くの痕跡から、ウィルソンが緻密な推理を積み重ね真相に至るオーソドックスな捜査モノ。もう足跡のある現場見取り図が出てきただけでテンションがあがるw
最後の「消えた准男爵」は、複数のトリックとなにげない伏線を活かした緻密なプロットがよく出来ていて、完成度の高い篇中の個人的ベスト作品。なぜ犯人がそのような複雑な工作を行ったのか?という理由が明快で感心してしまった。
ウィルソン警視の実直な造形もあって総体的に地味で、謎解きミステリとしても他の作品は底が浅いものが多いのですが、1920年代という発表時期を考慮すれば十分楽しめる作品集だと思います。

No.2351 6点 からくり探偵・百栗柿三郎 櫻の中の記憶          - 伽古屋圭市 2016/03/07 21:41
大正時代の浅草を舞台に、キテレツ発明家探偵・百栗柿三郎と、女中兼助手・千代のコンビが怪事件に挑む、シリーズの2作目。前作と比べると、謎解きミステリの面では出来がやや落ちる印象があるが、4話ともに古典ミステリ作品の有名なネタを本歌取りした趣向が愉しめる連作ミステリ。

「殺意に満ちた館」は、悪名高い高利貸しが祝賀会の夜、雪の密室で殺されるという、絵にかいたような古典探偵小説な設定。超有名某作のネタをちらつかせて、さらにヒネリをいれている。
「屋根裏の観測者」では、乱歩の有名短編を下敷きにしたような設定の話が、反転を重ねた末に、最終的には別の乱歩作品を想起させるものに変貌する。次の「さる誘拐の話」も、”黄金蟲”の暗号ネタを発端とした事件が、別作品の”バカミス”ネタだったことがわかるが、これは仕掛けがバレバレのような。
最終話「櫻の中の記憶」は、推理の要素が少ない冒険スリラー風になっているが、魔犬の伝承やナポレオン像というホームズ・ネタは無理やり入れ込んだ感じでちょっと苦しい。
しかし、このところの国内ミステリの新刊で、古典ミステリのネタを下敷きにしたオマージュとか、パロディ、本歌取りといった作品がやけに目につく気がしますねえ。

No.2350 6点 死の月- シャーロット・ジェイ 2016/03/05 09:51
オーストラリアで暮らすエマのもとに、ニューギニア・マラパイ島の行政局に単身赴任中の夫で人類学者のデーヴィッドが自殺したという報せが入る。夫が生前に「何者かに殺されそうだ」という手紙を義父に送っていたことを知るエマは、真相を探るため一人で現地へ向かうが---------。

豪州出身の女性作家シャーロット・ジェイによる本書は、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)が主催するエドガー賞・最優秀長編部門の第1回(1954年度)の受賞作ですが、翌年以降のレイモンド・チャンドラー「長いお別れ」、マーガレット・ミラー「狙った獣」、アームストロング「毒薬の小壜」、スタンリィ・エリン「第八の地獄」などの、50年代の錚々たる受賞作のなかにあって、現在ほとんど話題に上がることがなく、忘れ去られた作品といえそうです。アントニイ・バークリーは、ガーディアン紙の書評コーナーでジェイの未訳2作品を取り上げ、”切れ者”、”魅力ある作品”と評価する一方で、やや辛口なコメントもしています。
作者の長編2作目にあたる本作は、当時オーストラリアの統治下にあったニューギニア東部を舞台にしたエキゾチズム溢れる謎解きサスペンスです。あらすじ紹介だと、勇猛果敢な女性の探偵行と受け取られかねないのですが、実際は世間知らずで頼りないヒロインが、原住民(パプア人)と白人が混在して暮らす熱帯の未開の地で、非協力的な人々の妨害に遇いながらも真相を求め、自らも成長していく物語。例によって古いポケミスの訳文が少々読みづらく、事件の核心部分が明白なのに、なかなかそこに近づかないテンポの悪さも感じますが、ジャングル奥地の村で迎える終幕は、ちょっとした衝撃を味わえます。(でも、これがエドガー賞というのはどうかな~。異色の秘境スリラーという目新しさが評価された?)。 

No.2349 6点 岡田鯱彦探偵小説選 Ⅱ- 岡田鯱彦 2016/03/02 21:08
国文学者で、平安朝ミステリ「薫大将と匂の宮」(別題「源氏物語殺人事件」)で知られる作者の作品集。2巻目の本書には、昭和27年初出の長編「幽溟荘の殺人」を目玉に、8つの短編と評論・随筆が収録されています。前巻と比べると、犯人当て、密室トリックなど、本格寄りの作品が多いという印象。

手掛かり索引と”読者への挑戦”付きの長編「幽溟荘の殺人」は、伊豆半島・石廊崎にある別荘を舞台にした連続殺人モノ。犯人当てとしては、”読者への挑戦”の段階で、容疑者二者択一状態なのがアレですが、殺人トリックがユニークで、その伏線もよく考えられている点は評価できます。また、”名探偵の定義”を問われた探偵役が「探偵が登場してから何人も殺されるようでは名探偵とはいえない」(大意)と、金田一耕助やファイロ・ヴァンスをdisるような発言wをしていて、それが最後の演出に効いています。
短編で印象に残ったものをいくつか挙げると、「52番目の密室」と「あざ笑う密室」の2編が、同じ密室がテーマの短編でも、その扱いが対照的なのが面白い。昭和20年代に発表された前者は、トリックのユニークさありきで小説としては面白みに欠ける。一方、30年代の後者は、トリックのオリジナリティに欠けるが、ストーリー運びが格段に上手くなっていて面白く読めました。
探偵作家クラブの前身である土曜会での余興の”犯人当て”として書かれた「夢魔」は、犯人を特定する決め手にキレがないのが物足りないですね。「妖婦の宿」や「達也が嗤う」レベルを期待するのは酷でしょうけど。

No.2348 6点 つきまとう死- アントニー・ギルバート 2016/02/27 20:06
父親と夫が不審な状況で死亡するも、2度とも証拠不十分で無罪放免になった過去をもつ若い女性ルースは、吝嗇で強権的な女主人が支配するディングル家に雇われる。やがて、ルースを気に入ったレディ・ディングルは、巨額の遺産を彼女に譲ると家族の前で宣言するが--------。

お屋敷に家族が集まった状況下、遺産相続が絡む軋轢が原因で殺人が起きるというのは、古典探偵小説の典型的な設定ですが、そこに”死がつきまとう”謎めいた女性が絡むことで、サスペンスを高めています。
ルースの”過去の2つの事件”が語られる序盤は、説明が少しモタツキぎみで物語に入り込みずらいのですが、ディングル家に舞台を据えてからの中盤は、ルースをはじめ登場人物たちの内面描写を最低限に抑えた三人称多視点が効果的で、なかなか事件が起こらないストーリーでも退屈はしません。 
〈私の依頼人はみな無罪〉をモットーとするシリーズ探偵・クルック弁護士の推理が冴えており、関係者を一堂に集めた終盤の謎解き場面も非常にスリリングで、これは、なかなか良質の本格ミステリです。
アントニー・ギルバートといえば、個人的に、ジョン・ロード、ECR・ロラックと並んで、新・3大”作品数はやたらと多いのに邦訳が少なく、ようやく翻訳された作品を読むと大したことなかった英国作家”、の一人なのですが、50作以上あるクルック弁護士シリーズで本書レベルのものが他にあるなら、ぜひ訳出してもらいたいですね。

ちなみに、バークリー書評集Vol.3(英国女性ミステリ作家編)に取り上げられているアントニー・ギルバートは全部で8作品あり、全てクルック弁護士もの(偶然にも「つきまとう死」の次作以降の8作品)でした。バークリーの評には、デビューから30年以上経つベテラン作家に対する敬意が感じられます。
面白いと思ったのはバークリーによる敬称で、当初は”ミス・アントニー・ギルバート”だったのが、途中から”ミスター”に変わっているところ。うっかり未公表情報を書いてしまったのを軌道修正したのか、それとも特に意味はないのか、この辺の裏事情を妄想するのは楽しい。

No.2347 6点 午後の脅迫者- 西村京太郎 2016/02/26 20:01
9編収録のミステリ短編集。巻末の初出誌一覧を見ると、昭和40年から60年のショートショートまで、割と長いスパンの中から選ばれていますが、やはり昭和50年代初めまでの初期作品に良質なものが多いなと感じました。
印象に残った作品を挙げると--------

浮気を脅迫のネタにしようと謀る探偵社の不良調査員を主人公にした表題作「午後の脅迫者」は、練りに練られたプロットが秀逸。サプライズが予想外の方向から飛んで来て、最後のひと言でブラックな味わいが際立つ。
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」も、ツイストを効かせたオチが素晴らしい。巻末解説にヘンリー・スレッサーの名前が出てきますが、編中で最もスレッサーを想起させる作品。
同じ刑事を主人公にした「密告」「二一・00時に殺せ」の2編は、やや粗削りで仕掛けがみえるところがありますが、ともにトリッキィな構図の反転が読みどころ。
特ダネを渇望する新聞記者が交通事故の裏の真相を探る「美談崩れ」と、三人の男を殺した主婦が法廷で明らかにする”意外すぎる動機”の「私は職業婦人」も捨てがたい。とくに、後者はホワイダニットものの”超怪作”といえるかもしれない。

No.2346 6点 失踪- ドン・ウィンズロウ 2016/02/24 20:02
ネブラスカ州の平穏な田舎町で5歳の少女ヘイリーが行方不明になる。前科のある男が捕まるも、少女の所在は依然として不明。地元警察が被害者死亡の結論に向かう状況のなか、当初から捜査を担当していた刑事フランク・デッカーは、少女の生存を信じ、職を辞して単独の捜索行に出る---------。

本国でも出版されていないウィンズロウ作品が角川文庫から2冊同時に刊行されると知ったときは、朗報というより、なにかイヤ~な予感がしたのですが、読んでみると普通に面白かった。
デッカー刑事の一人称の語り口は、他のウィンズロウ作品と比べてクセがなくオーソドックスなため、主人公の個性はさほど際立ちませんが、その分読みやすくリーダビリティもあります。
面識もない少女の失踪事件のために、職と家庭をなげうって、一年かけ米国中を捜索に駆け回るという、主人公の根本の行動原理には「なぜ、そこまでして?」という疑問がありますが、前半の重厚な警察捜査小説から、後半ニューヨークに舞台を移してからは、ハードボイルド風の展開になる構成が面白く、田舎者の元刑事が大都会の華やかなファッション写真業界や、上流階級社会に入り込み、妨害に遇いながらもワイズラックを交えて捜査で掻き回す様は、やはりハードボイルドですよね。
現代のアメリカ社会が抱える闇の部分に踏み込む重いテーマで、デッカー個人にとっても必ずしもハッピーエンドを迎えるわけでありませんが、爽快感があって余韻が残るラストで読後感はそう悪くはありません。

No.2345 7点 ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド     - 事典・ガイド 2016/02/23 18:42
連城三紀彦が2013年秋に亡くなって以降、雑誌掲載のままだった短編をまとめた作品集『小さな異邦人』や2冊の遺作長編の出版、”このミス”での復刊希望アンケート1位獲得、さらには人気作家が選ぶ傑作短編アンソロジーの出版などあり、”ミステリ作家・連城”の再評価、復権の兆しがみられるのは嬉しい。ただ、直木賞を受賞した「恋文」の影響か、いまだに一般には”恋愛小説作家・連城”というイメージも強いらしい。

本書は、連城三紀彦の全長編(含む未刊行作)と、確認できたすべての短編を取り上げ、そのミステリとしての読みどころを、”ミステリ読者のために”徹底紹介した文庫本サイズのガイドブックです。(今回読んだ”増補改訂版”には、雑誌掲載のまま未刊行になっている長編3作のレビューなど、かなりの加筆修正があって、旧版から100ページほど分量が増えています)。
連城作品には、ミステリと謳われていなくても恋愛小説に擬態したミステリだったり、また実際に恋愛小説であってもミステリの技巧を取り入れたものも多いことは、過去に出たガイド本や文庫解説などでも触れられているところですが、本書でその全貌が明らかにされている。
著者・浅木原忍氏による傑作認定の作品を見ていくと、短編では『戻り川心中』『夜よ鼠たちのために』『宵待草夜情』の三大傑作短編集の各収録作は当然として、「白蘭」(『たそがれ色の微笑』収録)や「喜劇女優」(『美女』収録)のように、マニアックながらも読み逃せない隠れた作品が傑作として多く挙げられている。長編でも、有名作とはいえない『美の神たちの叛乱』などはナルホドと思えるし、連作短編集『落日の門』も、いまだに文庫化されないのが不思議な逸品で、個人的にかなり首肯できる部分が多い。
またコラムの章では、『造花の蜜』の(蛇足という意見も多い)最終章の”隠された意図”を考察した論考が非常に興味深かった。連城愛が高じた末の妄想という感もなきにしもあらずですが、構図の反転を得意とする連城マジックさながらの”真相”はインパクトがあります。
とにかく、著者の”連城愛”がすごくて、取り上げた作品をこれだけ熱く激賞しているガイドブックは、他には内藤陳氏の「読まずに死ねるか!」以外に思い浮かばない。どのレビューにも「傑作」というワードがあふれていて、ざっと数えて5万回ぐらい「傑作」という言葉が出てくる。まさに連城三紀彦に宛てた”恋文”のようなガイドブックなのです。
ただ、多くの人に読んでもらいたい労作なのですが、同人誌ゆえに一般書店やAmazonなどで手軽に入手できないのが難。大手出版社から出してもおかしくないぐらいのクオリティなんですけどね。

No.2344 6点 シンデレラとギャング- コーネル・ウールリッチ 2016/02/22 00:08
白亜書房版のウールリッチ=アイリッシュ傑作短編集。3巻目の本書には、長編第1作「黒衣の花嫁」刊行の直前にあたる、1939年から40年に書かれた中短編6編と、最初期の非ミステリ短編1編が収録されています。

「黒い爪痕」は、長編『黒いアリバイ』(未読)の原型となったスリラーで、中盤のサスペンスはそれなりに読ませますが、逃げた黒豹の扱いが見方によってはバカミスのように思えてしまう。
「ガラスの目玉」は、小学生の男の子が手に入れた義眼から隠れた犯罪を突き止めようとする冒険譚。どことなく仁木悦子の子供探偵ものに似た味わいがあって、ハートウォーミングな結末が良い。
表題作の「シンデレラとギャング」では、背伸びした16才の少女がギャングの抗争の渦中に巻き込まれる。ギャングの符丁をめぐる誤解が醸し出すユーモアと、中盤のサスペンス、人情話という三つの要素がバランスよく配され、ラストシーンではニヤリとさせてくれる佳作。「ガラスの目玉」もそうですが、こういうのを読むと、かつてアイリッシュの多くの作品が子供向けにリライトされていた理由がよくわかります。
「アリスが消えた」「送っていくよ、キャスリーン」「階下で待ってて」は、創元版で既読のため今回はパス。いずれもアイリッシュらしさが発揮されたサスペンスですが、(作品の発表順に収めた叢書とはいえ)同じようなプロットの作品を3編並べるのはいかがなものか、という感もあります。

No.2343 5点 下北の殺人者- 中町信 2016/02/20 20:48
中町信の再読マラソン、今年の1冊目。
専業作家になって最初の作品、しかも当時のミステリ出版の舞台としては花形といえるメジャー・レーベル・講談社ノベルズ初登場ということで、気合が入ったであろう力作だと思います。
宝くじのグループ買いで当てた大金が絡む”下北半島温泉バスツアー連続殺人事件”という、基本のプロット自体はこれまで書いてきたものとそう変わらず、中町ミステリのテンプレートどおりの展開。
容疑者候補の県人会メンバーがどんどん減っていくのに、簡単には読者に真犯人を絞り込ませないミスリードのテクニックが読みどころです。
ただ、今作では動機の面から真相に気付かせないよう作者が採った方法が、アンフェアとまでは言えないまでも、あまり好みのものではありませんでした。これだとスッキリと騙されたという感じを受けないので、採点は少し厳しめになりました。

ところで、文庫解説によると、推理作家の津村秀介氏が中町氏と教科書出版会社で同僚だったとのこと。
妄想ですが-------
 津村「猪苗代湖、もらっていいかな?」
 中町「どうぞどうぞ、こっちは温泉シリーズでいくから」
二人の間で、そんなやり取りがあったかもしれないw

No.2342 6点 アントニイ・バークリー書評集Vol.3- 評論・エッセイ 2016/02/19 18:05
本誌は、バークリーがフランシス・アイルズ名義で「ガーディアン」紙上に1956年から70年まで月1回のペースで連載したミステリー時評を、翻訳・編集した同人誌です(編訳者は三門優祐氏)。第1巻はクイーン、カー、クリスティ御三家の後期作品、第2巻がシムノンを中心としたフランス・ミステリでしたが、第3巻の本書は、英国出身(含む豪州ほかの旧統治国)の女性ミステリ作家のものを抽出し、掲載日順に並べた構成になっています。

本巻の特徴は、30作家150作品と、収録された作家と作品数が前2巻と比べて格段に増えていることです。
バークリーがこの書評の連載を開始した後にデビューしたルース・レンデル、PD・ジェイムズら、日本でも人気が高い実力派作家の作品が高く評価されているのは順当としても、ジョイス・ポーターのドーヴァーシリーズを、第1作から順次採りあげているのは個人的に嬉しい。ただ、なぜか一番人気の「ドーヴァー④切断」だけが抜けているのが残念な点で、バークリー的には嗜好が合いそうでも、アイルズ的にはダメ出しもありそうな、この作品の書評は読んでみたかったですね。
その他の有名作家では、エリザベス・フェラーズ、グラディス・ミッチェル、パトリシア・モイーズあたりが多く採られていましたが、「死後」のガイ・カリンフォードや、「蛇は嗤う」のスーザン・ギルラス、「飛ばなかった男」のマーゴット・ベネットといった、邦訳が1作限りで日本ではマイナーな作家の未訳作品が取り上げられているのも個人的にポイントが高いです。この辺はどこかで翻訳出版してもらいたいものです。
ただ、これは総体的に言えることですが、一回に多くの作品を取り上げている関係上、作品内容に深く踏み込んだ書評が意外と少ないという印象があります。”バークリーはこの作家をどう見ていたか”、”バークリーの作品嗜好はどうだろう”というように、紹介作品の内容より、あくまでも書評家バークリー像を楽しむ書評集という感じがします。
バークリー像といえば、とにかく正確な文法に対する拘りがハンパないのですが、文法ミスをネチネチと指摘する姿勢に「推理日記」の佐野洋氏を思い浮かべましたw どちらもご意見番タイプという感じ。

No.2341 6点 リカーシブル- 米澤穂信 2016/02/17 21:00
中学生の少女ハルカは、父の失踪により、母と弟の三人で過疎化が進む母の故郷に引っ越してきた。だが、その町では、高速道路の誘致をめぐる暗闘と、未来予知にまつわる江戸時代からの伝承で不穏な空気が漂い出していた--------。

少年少女を主人公にした青春ミステリは作者の十八番とするところですが、本書は、古典部シリーズや小市民シリーズのようなライト系のテイストは感じられず、ハルカの複雑で貧困な家庭事情や、町に伝わるオカルトじみた伝説が絡むことで、作品全体がうす暗い雰囲気に包まれています。個人的には、設定が三津田信三のノンシリーズのホラー小説風、作風は道尾秀介の文芸路線ものを連想させるところがありました。
ミステリとしてのキモは、町に移り住んだとたんに、弟のサトルが未来予知や過去視が可能になったような奇妙な言動を繰り返すことにつきますが、伏線をふくめ、その真相の部分は非常に面白いと思います。ただ、なかなか核心の事件が起こらないジワジワした展開は、好みが分かれそうではありますね。
あと、作品紹介のなかの”あの名作「ボトルネック」の感動ふたたび!”という一文ははたしてどうなんでしょう。キャッチコピーとしては、逆効果のような気がします。

No.2340 6点 ミステリ・ウィークエンド- パーシヴァル・ワイルド 2016/02/15 21:42
「ミステリ・ウィークエンド」と銘打たれた冬の観光ツアーで集まったホテル客の一人が、納屋の中で死体となって発見される。折りしも猛吹雪で外界と隔離された状況下、ホテルのオーナーや長期滞在客らが調査を進める中、なんと密室内の死体が別人に入れ替わってしまい-------。

パーシヴァル・ワイルドのデビュー長編。
代表作の「検死審問」シリーズなどと比べるとユーモアは抑え目で、200ページ足らずのコンパクトな内容ながらも、4人の主要登場人物によるリレー形式の手記という全体構成がユニークな作品です。
いわゆる”吹雪の山荘”もので、密室からの死体消失(死体の入れ替り)というメインの派手な謎のトリックに関しては、やや拍子抜けの感があるものの、そのほかの細かな多くの謎とその伏線の妙味が楽しめました。とくに、不可解で怪しげな言動を繰り返すドウティ夫妻をめぐる謎の真相には、半笑いのやられた感があります。
デビュー作ゆえの粗削りなプロットという感は否めないですが、身元が確認できない”自称”の登場人物たちが集まるホテルという舞台設定を、最大限に利用したところは一番に評価したいですね。
併録された3つの短・掌編もそれぞれ異なる味わいがあっていいセレクトだと思います。なかでも、通信教育探偵もの「P・モーランの観察術」のとぼけたユーモアが相変わらず楽しいです。

No.2339 7点 図書館の殺人- 青崎有吾 2016/02/13 14:19
風ヶ丘図書館に夜中に侵入した大学生が、翌朝、撲殺死体で発見される。現場には凶器となった山田風太郎の「人間臨終図鑑」と、2つのダイイングメッセージ。神奈川県警のアドバイザーとして駆出された高校生・裏染天馬は、消去法推理で犯人を絞り込もうとするが--------。

特殊設定や叙述トリックものが氾濫する最近の国内本格ミステリ・シーンの中にあって、当シリーズのようなロジック展開の面白さを中心にした王道のフーダニット・パズラーはかえって新鮮に感じられますね。本作も面白かったです。
ダイイングメッセージの扱いに変化を持たせているのは、作中の天馬の台詞がそのまま作者の考えなのでしょう。本家のクイーンがそれに拘り過ぎて変になってしまった、という思いもあるのではと愚推します。
本書の難点は、やはり動機の弱さ(個人的には理解できないレベル)ですが、これは、”真相の意外性”とロジカルな推理との両立を狙った結果かな。両立できれば、それは”傑作”ということになるのでしょうけど。
あと、本筋とはあまり関連しないですが、図書館本のビブリオ・ネタや、学園もののコメディ部分も愉しいです。とくに”黄色の蛍光ペン”のくだりでは爆笑させてもらいました。

No.2338 6点 弁護士の血- スティーヴ・キャヴァナー 2016/02/10 18:16
ニューヨークの弁護士エディー・フリンは、ある日、ロシアン・マフィアに脅迫され、組織のボスの裁判で不利な証言をする重要証人を、法廷内で爆殺するよう強要される。要求をのまなければ、マフィアに拉致された10歳の娘エミリーが殺害される-------。

”ダイ・ハード+ジョン・グリシャム”という謳い文句どおり、リーガル・サスペンスとアクション・スリラーが程よく融合した娯楽作品です。
主人公のフリンは、ある裁判が原因で酒に溺れ、妻にも見放された落ち目の弁護士ですが、スリと詐欺を生業にしてきた過去をもつという変わり種です。その経験を活かして、次から次へと襲ってくる窮地を切り抜けるテクニックが本書の最大の見どころで、まさに”ダイ・ハード”。ただ、凄腕の協力者の存在や、主人公に有利に働く偶然など、かなりご都合主義的な展開が気になるのも事実です。(それも、まさに”ダイ・ハード”的)
また、法廷でのフリンが対峙する相手が、検察や裁判官というより、むしろ弁護する被告側のマフィアであるため、検察との法廷バトルは存在感が薄く、リーガル・サスペンスとして読むと物足りない感もありますね。
とはいえ、テンポのいい派手な展開の連続は読んでいる間は十分に楽しめましたが。

No.2337 5点 春夏秋冬殺人事件- 斎藤栄 2016/02/08 18:26
横浜市郊外の太陽台団地に住む美大の助教授・菊水桂二郎は、素人の名探偵として警察も一目置く有名人。特技の読唇術を活かして、今日も団地周辺で発生した殺人事件を謎解いていく--------。

春、夏、秋、冬の部と、4つの事件から成る連作ミステリ。
ぶっちゃけ3話目までは本格ミステリとして大した出来ではありません。1話目の「団地美女殺人事件」こそ、”なぜ犯人は裸の死体を路上に放置したまま逃走したのか?”というホワイから、意外な犯人に繋がる仕組みに面白みがありますが、第2話の偽装遺書のトリックは(気付きの伏線に工夫があるものの)仕掛けがミエミエですし、3話目に至っては偽装アリバイがトリックにもなっていないありさまです。いずれも、犯人に罠を仕掛けて....という結末の処理も安直な感じを受けます。
しかし最終話がちょっとした問題作です。茶室の密室トリックは山村美紗の某作のヴァリエーションといえますが、最後に明かされる意外な犯人にはキョトン.......なるほど、だから特技が読唇術www
あと、タイトルがベタで損をしていますね。再販することがあるなら、いっそのこと「菊水桂二郎とXYZの悲劇」とかに改題してはどうでしょうか。

No.2336 6点 Zの喜劇- ジャン=マルセル・エール 2016/02/06 12:53
B級映画オタクのフェリックスは、職にも就かず、1歳になる娘の世話をしながら、映画の脚本を書き散らかしていたが、そんなある日、食肉屋のオヤジが彼のシナリオを映画化したいと言ってきた。しかし喜ぶフェリックスのもとに刑事が現れ、意外な事実を告げる--------。

「その女アレックス」が火をつけたのか、昨年は例年になく多くのフランス・ミステリが翻訳出版された印象がありますが、本書はそのなかでも、最も笑撃度が大きかった怪作です。
フェリックスの映画シナリオの登場人物は実在しており、老人ホームに住み込む元端役の映画俳優たちが脚本どおりに次々と失踪していく、というのが本書の謎解きミステリとしての本筋ですが、とにかく、登場人物たちの奇人変人ぶりがハンパない。
妻、娘、姉、母親と周りの強い女性陣に翻弄されっぱなしのダメ男の主人公はもとより、推理小説のデータを参考に確率で犯人候補を次々列挙していく刑事と、そのバカ息子の刑事見習い。100歳を超える元ポルノ俳優の夫婦や、”老い”をネタにしたギャグを応酬する元映画俳優たち等々、まともなキャラクターは一人も登場しないw  とはいえ、メタでハチャメチャなドタバタ展開の終幕には、”どんでん返し”による意外な真相も用意されているので侮れません。

No.2335 6点 アンデッドガール・マーダーファルス1- 青崎有吾 2016/02/04 18:30
19世紀末、怪物が跋扈するパラレル・ヨーロッパを舞台に、怪物専門の少女探偵・鴉夜(あや)と、助手の”鳥籠使い”津軽、メイドの静句のトリオが怪事件に挑む、UGMF(死なない少女の殺人笑劇)シリーズの第1弾。

第1話は、人類親和派の吸血鬼一家が住むフランスの古城で起きた”吸血鬼殺し”というフーダニットもの。古典的トリックを吸血鬼特有の属性に活かしたアイデアが面白い。
後半の第2話では、人造人間の製造に成功した博士が、密室状況の地下研究室で首なし死体で発見される。ベルギー警察時代の”あの名探偵”による「アリバイ」崩しのダミー解決にニヤリとさせられるが、推理の選択肢が少ないので生首消失トリックの難易度はそう高くはないと思います。
謎解き部分以外では、怪奇小説やミステリ作品でお馴染みの名探偵や怪人・怪物の”著名人”の名前が多数出てくるのも愉しい趣向です。”教授”や”ジャック”らが登場するラストの引きで、続編への期待値を高める手際も上手いと感じた。
裏染天馬シリーズほどクイーン流ロジックにこだわっていない分、ギャグあり、アクションありで、キャラの立ったライトノヴェルとしてなかなかの出来映えだと思う。第2弾を楽しみに待ちたい。

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